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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H05B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B |
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管理番号 | 1219511 |
審判番号 | 不服2007-9480 |
総通号数 | 128 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-08-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-04-04 |
確定日 | 2010-07-07 |
事件の表示 | 特願2005-162790「有機電界発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成18年1月12日出願公開、特開2006-13482〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は、平成17年6月2日(パリ条約による優先権主張2004年6月25日、韓国)の出願であって、平成18年8月31日付けで拒絶理由が通知され、同年12月4日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月22日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成19年4月4日に拒絶査定を不服とする審判請求がされるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、平成21年7月15日付けで審尋が通知されたところ、何ら応答はされなかったものである。 第2 平成19年4月4日付けの手続補正の却下の決定 〔補正の却下の決定の結論〕 平成19年4月4日付けの手続補正を却下する。 〔理由〕 1 本件補正 平成19年4月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の請求項1の 「一対の電極間に発光層を有する有機電界発光素子において、 前記発光層は燐光ドーパント及びホストを含み、 前記ホストとして、 (i)電荷輸送化合物と、 (ii)オキサジアゾール化合物、フェナントロリン系化合物、トリアジン系化合物、トリアゾール系化合物のうちから選択された一つ以上と、 を含み、 前記発光層でのオキサジアゾール化合物、フェナントロリン系化合物、トリアジン系化合物、トリアゾール系化合物のうち、選択された一つ以上の含有量は、電荷輸送化合物100重量部を基準として5ないし2,000重量部である ことを特徴とする有機電界発光素子。」を、 「一対の電極間に発光層を有する有機電界発光素子において、 前記発光層は燐光ドーパント及びホストを含み、 前記ホストとして、 (i)電荷輸送化合物と、 (ii)オキサジアゾール化合物、フェナントロリン系化合物、トリアジン系化合物、トリアゾール系化合物のうちから選択された一つ以上と、 を含み、 前記フェナントロリン系化合物は、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-9,10-フェナントロリンであり、 前記トリアジン系化合物は、2,4,6-トリス(ジアリールアミノ)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(ジフェニルアミノ)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリカルバゾロ-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(N-フェニル-2-ナフチルアミノ)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(N-フェニル-1-ナフチルアミノ)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリスビフェニル-1,3,5-トリアジンからなる群から選択された一つ以上であり、 前記トリアゾール系化合物は、化合物が3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾルであり、 さらに、前記発光層でのオキサジアゾール化合物、フェナントロリン系化合物、トリアジン系化合物、トリアゾール系化合物のうち、選択された一つ以上の含有量は、電荷輸送化合物100重量部を基準として5ないし2,000重量部である ことを特徴とする有機電界発光素子。」 とする補正を含むものである。 2 補正の適否 (1)補正の目的の適否 上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「フェナントロリン系化合物」、「トリアジン系化合物」及び「トリアゾール系化合物」を、それぞれ補正前の請求項2?4に記載されていた特定の化合物又は化合物群に限定するものであり、特許請求の範囲を減縮するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (2)独立特許要件について そこで、本件補正後の前記請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて以下に検討する。 ア 刊行物及びその記載事項 この出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-7467号公報(原査定における刊行物A。以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。 (a)「【請求項1】陽極層及び陰極層の両電極層間に形成され、ホスト剤と燐光を放射するドープ剤とを有する発光層を具備する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記ホスト剤がバイポーラ性を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。 【請求項2】前記バイポーラ性を有するホスト剤が、正孔輸送性物質と電子輸送性物質とから成ることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。」(特許請求の範囲請求項1?2) (b)「【請求項3】前記ホスト剤に用いる電子輸送性物質は、 【化1】 構造式[化1]で表されるオキサジアゾール基を有する化合物から成ることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。 【請求項4】前記オキサジアゾール基を有する化合物は、 【化2】 ・・・ 構造式[化2]乃至[化8](審決注;[化2]以外の式は省略)で表される化合物のうち一種類以上から成ることを特徴とする請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。」(特許請求の範囲請求項3?4) (c)「【請求項5】前記ホスト剤に用いる電子輸送性物質は、 【化9】 構造式[化9]で表されるトリアゾール基を有する化合物から成ることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。 【請求項6】前記トリアゾール基を有する化合物は、 ・・・ 【化13】 ・・・ 構造式[化10]乃至[化15]、または、一般式[化16]乃至[化18](審決注;[化13]以外の式は省略)で表される化合物のうち一種類以上から成ることを特徴とする請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。」(特許請求の範囲請求項5?6) (d)「【請求項7】前記ホスト剤に用いる正孔輸送性物質は、 【化19】 構造式[化19]で表されるカルバゾリル基を有する化合物から成ることを特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。 【請求項8】前記カルバゾリル基を有する化合物は、 ・・・ 【化24】 ・・・ 構造式[化20]乃至[化25]、または、一般式[化26](審決注;[化24]以外の式は省略)で表される化合物のうち一種類以上から成ることを特徴とする請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。」(特許請求の範囲請求項7?8) (e)「本発明は、上記問題点に鑑み、高輝度の発光を可能にして、高い発光効率を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを課題としている。」(段落【0008】) (f)「上記課題を解決するため、本発明は、陽極層及び陰極層の両電極層間に形成され、ホスト剤と燐光を放射するドープ剤とを有する発光層を具備する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記ホスト剤が、バイポーラ性、即ち、ラジカルカチオン化及びラジカルアニオン化の複極性を有するように構成する。このものは、正孔移動性と電子移動性との両方を有するため、発光層中の特定界面側に集中せず、発光輝度を向上することができる。 また、この場合、前記ホスト剤として、正孔輸送性物質と電子輸送性物質とを用いれば、バイポーラ性、即ち、ラジカルカチオン化及びラジカルアニオン化し易い複極性をホスト剤に確実に具備できる。」(段落【0009】?【0010】) (g)「さらに、この場合、ホスト剤に用いる電子輸送性物質は、構造式[化1]で表されるオキサジアゾール基を有する化合物から成ることが好適である。 そして、上記[化1]で表されるオキサジアゾール基を有する化合物としては、 [化2] に示す2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、(以下PBDともいう。)、・・・[化5]に示す1,3,5-トリ(5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール)フェニル(以下OXD-1ともいう。)、・・・のうち一種類以上を用いることが可能である。」(段落【0011】?【0012】) (h)「また、ホスト剤に用いる電子輸送性物質として、構造式[化9]で表されるトリアゾール基を有する化合物を用いることも好適である。 そして、上記[化9]で表されるトリアゾール基を有する化合物としては、・・・[化13]に示す4-(1-ナフチル)?3,5?ジフェニル-1,2,4?トリアゾール、・・・のうち一種類以上を用いることが可能である。」(段落【0013】?【0014】) (i)「また、これらの電子輸送性物質に対して、ホスト剤に用いる正孔輸送性物質として、構造式[化19]で表されるカルバゾリル基を有する化合物を用いることが好適である。 そして、上記カルバゾリル基を有する化合物として、・・・[化24]で示すCBP、[化25]で示すポリ(N-ビニルカルバゾール)(以下PVKともいう。)、・・・のうち一種類以上を用いることが可能である。」(段落【0015】?【0016】) (j)「また、上記のようにバイポーラ性を有するホスト剤に対して、燐光を放射するドープ剤として一般式[化27]または[化28]に示される化合物を用いると、このようなドープ剤は、発光層中に拡散・分散されているホスト剤に励起されて燐光を放射するので、これらのホスト剤とドープ剤とを有する発光層を備える有機エレクトロルミネッセンス素子では、発光領域が偏在せずに高輝度の発光が得られる。」(段落【0017】) (k)「一方、発光層40のドープ剤41は、励起子たるホスト剤42の励起エネルギーにより燐光を放射する物質であり、 【化42】 [化42]に示すトリ(2フェニルピリジン)イリジウム錯体(以下Ir(ppy)_(3)とも言う。)、 ・・・ 【化48】(式は省略) (化学式[化48]中、acacは、 【化49】 [化49]で示される官能基を示す。下記[化50]乃至[化54]に示す化学式において同じ。) ・・・ 【化54】 [化43]乃至[化48]、[化50]乃至[化54]で示されるイリジウム錯体化合物、[化29]に示すPtOEP、などを挙げることができる。」(段落【0049】?【0066】) (l)「図2で示される有機エレクトロルミネッセンス素子の素子構造は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の第1の実施形態を示す。図1の電子ブロック層30と正孔ブロック層50とが省略されているが、図2において、正孔輸送層20に電子ブロック効果を、電子輸送層60に正孔ブロック効果をそれぞれ持たせて、発光効率を維持させることができる。」(段落【0086】) (m)「[実施例1]酸素プラズマ処理を行なったITO基板上(市販ITO、旭硝子社製:20Ω/□以下)に真空蒸着装置により真空度10^(-3)Paで、正孔輸送層として[化33]に示すNPDを蒸着速度1nm/secで60nmの膜厚で成膜し、発光層として[化5]に示すOXD-1(イオン化ポテンシャル6.1eV、電子親和力2.4eV)と[化24]に示すCBP(イオン化ポテンシャル6.15eV、電子親和力2.33eV)と[化42]に示すIr(ppy)_(3)(イオン化ポテンシャル5.3eV、電子親和力3.04eV)とを、それぞれの重量比が1:1:0.03になるように蒸着速度1nm/secで共蒸着し、20nmの膜厚で成膜し、電子輸送層として[化56]に示すAlq_(3)を蒸着速度1nm/secで50nmの膜厚で成膜し、最後に、アルミニウムとリチウムとを、リチウムが1%となるように蒸着速度1nm/secで共蒸着して陰極を形成して、図2に示す素子構造を作成した。」(段落【0105】) (n)「[実施例2]?[実施例5]OXD-1の替わりに下記[表1]に示す化合物を使用した以外は、[実施例1]と同様に図2に示す素子構造を作成したところ、[表1]に示す発光効率の発光が得られた。 【表1】 」(段落【0106】?【0107】) (o)「[実施例6]?[実施例11]OXD-1の替わりに下記[表2]に示す化合物を使用した以外は、[実施例1]と同様に図2に示す素子構造を作成したところ、[表2]に示す発光効率の発光が得られた。 【表2】 」(段落【0108】?【0109】) (p)「[実施例16]?[実施例27][実施例1]で発光層ドープ剤のIr(ppy)_(3)に替え下記[表4]に化合物として示すドープ剤を使用した以外は[実施例1]と同様に図2に示す素子構造を作成したところ、[表4]に示す発光効率の発光が得られた。 【表4】 」(段落【0112】?【0113】) イ 刊行物1に記載された発明 刊行物1は、「有機エレクトロルミネッセンス素子」(摘示(e))に関し記載するものであり、それには、「陽極層及び陰極層の両電極層間に形成され、ホスト剤と燐光を放射するドープ剤とを有する発光層を具備する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記ホスト剤がバイポーラ性を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」(摘示(a))であって、該バイポーラ性を有する「ホスト剤」が、「正孔輸送性物質と電子輸送性物質とから成る」ことが記載されている(摘示(a))。 そして、上記発光層に有される各剤についてみると、該ホスト剤に用いる「電子輸送性物質」は、「構造式[化1]で表されるオキサジアゾール基を有する化合物」からなるか(摘示(b))、「構造式[化9]で表されるトリアゾール基を有する化合物」からなり、「[化13]に示す4-(1-ナフチル)?3,5?ジフェニル-1,2,4?トリアゾール」がその一例であることが記載されている(摘示(c)、(h))。 次に、該ホスト剤に用いる「正孔輸送性物質」は、「構造式[化19]で表されるカルバゾリル基を有する化合物」からなることが記載されている。 そうすると、刊行物1には、 「陽極層及び陰極層の両電極層間に形成され、発光層を具備する有機エレクトロルミネッセンス素子において、 前記発光層はホスト剤と燐光を放射するドープ剤とを有し、 前記ホスト剤として、 (I)カルバゾリル基を有する化合物からなる正孔輸送性物質(以下、「物質(I)」ともいう。)と (II)オキサジアゾール基を有する化合物又はトリアゾール基を有する化合物からなる電子輸送性物質(以下、「物質(II)」ともいう。) とからなり、 前記トリアゾール基を有する化合物は、4-(1-ナフチル)?3,5?ジフェニル-1,2,4?トリアゾールである、 ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」 の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 ウ 対比 本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「陽極層及び陰極層の両電極」は、本願補正発明の「一対の電極」に相当することは明らかであり、引用発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」は、エレクトロルミネッセンスが、電界発光を意味するから、本願補正発明の「有機電解発光素子」に相当し、引用発明の「ホスト剤」は、本願補正発明「ホスト」に相当する。 また、本願補正発明の「燐光ドーパント」は、「ホスト物質・・・からエネルギーを転移されて発光する」(この出願の願書に添付された明細書(以下、「本願明細書」という。)の段落【0004】)もので、例えば「ビス(ベンゾチエニルピリジン)アセチルアセトネートイリジウム」等(本願明細書の段落【0040】)が挙げられるところ、引用発明の「燐光を放射するドープ剤」も、「励起子たるホスト剤42の励起エネルギーにより燐光を放射する物質」(摘示(j)、(k))であり、「[化42]に示すトリ(2フェニルピリジン)イリジウム錯体(以下Ir(ppy)_(3)と言う。)」や、「[化54]で示されるイリジウム錯体化合物」(摘示(k)。「ビス(ベンゾチエニルピリジン)アセチルアセトネートイリジウム」と同一化合物である。)等の本願補正発明の「燐光ドーパント」に包含される化合物が例示されているから、引用発明の「燐光を放射するドープ剤」は、本願補正発明の「燐光ドーパント」に相当する。 次に、ホストを構成する各化合物についてみると、引用発明の「(I)カルバゾリル基を有する化合物からなる正孔輸送性物質」は、例えば、構造式[化24]で表される化合物(摘示(d))であり、他方、本願補正発明の「(i)電荷輸送化合物」については、本願明細書の段落【0011】及び【0036】に、「正孔輸送特性を有する電荷輸送化合物(好ましくはカルバゾール系化合物)」と記載され、「4,4’-ビスカルバゾリルビフェニル」が例示されているところ、上記「構造式[化24]で表される化合物」と上記「4,4’-ビスカルバゾリルビフェニル」とは、同一化合物である。そうすると、引用発明の「(I)カルバゾリル基を有する化合物からなる正孔輸送性物質」と本願補正発明の「(i)電荷輸送化合物」は、共に4,4’-ビスカルバゾリルビフェニル等のカルバゾール系化合物を包含し、正孔輸送特性を有する化合物である点で共通するから、引用発明の「(I)カルバゾリル基を有する化合物からなる正孔輸送性物質」は、本願補正発明の「(i)電荷輸送化合物」に相当する。 さらに、引用発明の「オキサジアゾール基を有する化合物」は、例えば、「[化2]に示す2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、(以下PBDともいう。)」(摘示(g))であり、これは、本願補正発明の「オキサジアゾール化合物」に包含される化合物(本願明細書の段落【0036】の「(4-ビフェニリル)-5-(4-t-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール」と同一。)であるから、引用発明の「オキサジアゾール基を有する化合物」は、オキサジアゾール化合物であるといえる。 また、引用発明の「トリアゾール基を有する化合物」としての「4-(1-ナフチル)?3,5?ジフェニル-1,2,4?トリアゾール」は、本願補正発明の「トリアゾール系化合物」としての「3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾル」と同一の化合物である。 そして、本願補正発明の「オキサジアゾール化合物、フェナントロリン系化合物、トリアジン系化合物、トリアゾール系化合物のうちから選択された一つ以上」とは、これらの化合物のうちのいずれか一つ又は一つ以上を含めばよいから、「2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-9,10-フェナントロリン」である「フェナントロリン系化合物」、「2,4,6-トリス(ジアリールアミノ)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(ジフェニルアミノ)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリカルバゾロ-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(N-フェニル-2-ナフチルアミノ)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(N-フェニル-1-ナフチルアミノ)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリスビフェニル-1,3,5-トリアジンからなる群から選択された一つ以上」である「トリアジン系化合物」はなくてもよく、また、本願明細書の段落【0011】によると、これらの化合物が、「電子輸送特性を有する」ことも鑑みれば、引用発明の「(II)オキサジアゾール基を有する化合物又はトリアゾール基を有する化合物からなる電子輸送性物質とからなり、 前記トリアゾール基を有する化合物は、4-(1-ナフチル)?3,5?ジフェニル-1,2,4?トリアゾールである」は、本願補正発明の「(ii)オキサジアゾール化合物、トリアゾール系化合物のうちから選択された一つ以上であり、 前記トリアゾール系化合物は、化合物が3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾルであり」に相当するといえる。 そうすると、両者は、 「一対の電極間に発光層を有する有機電界発光素子において、 前記発光層は燐光ドーパント及びホストを含み、 前記ホストとして、 (i)電荷輸送化合物と、 (ii)オキサジアゾール化合物、トリアゾール系化合物のうちから選択された一つ以上と、 を含み、 前記トリアゾール系化合物は、化合物が3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾルである、 ことを特徴とする有機電界発光素子。」 である点で一致し、以下の点で一応相違する。 A 上記(i)の化合物及び(ii)の化合物の含有量について、本願補正発明においては、「前記発光層でのオキサジアゾール化合物、フェナントロリン系化合物、トリアジン系化合物、トリアゾール系化合物のうち、選択された一つ以上の含有量は、電荷輸送化合物100重量部を基準として5ないし2,000重量部である」のに対し、引用発明においては、そのような特定がない点 (以下、「相違点A」という。) エ 判断 上記相違点Aについて検討する。 刊行物1には、「ホスト剤として、正孔輸送性物質と電子輸送性物質とを用いれば、バイポーラ性、即ち、ラジカルカチオン化及びラジカルアニオン化し易い複極性をホスト剤に確実に具備できる」(摘示(f))と記載されているように、物質(I)及び物質(II)を併用することの意義について記載されている。 そして、引用発明を具現化した実施例1には、 「電子ブロック層30と正孔ブロック層50とが省略」(摘示(l))された「図2に示す素子構造」を作成することが記載され(摘示(m))、その発光層として「[化5]に示すOXD-1・・・と[化24]に示すCBP・・・と[化42]に示すIr(ppy)_(3)・・・とを、それぞれの重量比が1:1:0.03になるように・・・共蒸着し、・・・成膜」することが記載されている。 ここで、上記「[化5]に示すOXD-1」は、引用発明の物質(II)に包含されるオキサジアゾール基を有する化合物であり(摘示(b)、(g))、上記「[化24]に示すCBP」は、引用発明の物質(I)に包含されるカルバゾリル基を有する化合物であるから(摘示(d)、(i))、物質(I)と物質(II)の含有量が重量比で1:1であること、つまり、物質(II)の含有量が、物質(I)100重量部を基準として100重量部であることが記載されているといえる。 同様に、実施例2?実施例11には、実施例1において「OXD-1の替わりに」、「[表1]に示す化合物」、例えば、[化2]で表される化合物、または、「[表2]に示す化合物」、例えば、[化13]で表される化合物を使用することが記載され(摘示(n)、(o))、実施例16?27には、実施例1において、「発光層ドープ剤のIr(ppy)_(3)に替え」、「[表4]に化合物として示すドープ剤」、例えば、[化54]で表される化合物を用いることが記載されているが、いずれの場合も、各成分の含有量については、実施例1と同様であると認められるから、物質(II)の含有量が、物質(I)100重量部を基準として100重量部であるものが記載されているといえる。 そうすると、刊行物1には、物質(I)を基準とする物質(II)の含有量について、本願補正発明のような数値範囲自体は記載されていないものの、両物質を併用し、その具体的に示された含有量が、本願発明の数値範囲に包含されることが記載されているから、相違点Aについては、実質的な相違点であるとはいえない。 オ まとめ 以上のとおり、本願補正発明は、その出願前(優先日前)に頒布された刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 よって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 3 請求人の主張について (1)主張の概要 ア 請求人は、意見書の「(3)本願発明と刊行物に記載の内容との対比」において、「 しかしながら、本願の新請求項1に係る発明の「発光層でのオキサジアゾール化合物、フェナントロリン系化合物、トリアジン系化合物、トリアゾール系化合物のうち、選択された一つ以上の含有量は、電荷輸送化合物100重量部を基準として5ないし2,000重量部である」という特徴に関しては、技術的な意義があると思量いたします。本願発明と同様の構成であると指摘された刊行物Aでは、発光層でのオキサジアゾール化合物と電荷輸送化合物の含有量を適当に選定していますが、それらの重量比を選定する技術的根拠が一切開示されていません。・・・ このように、本願発明では、「発光層でのオキサジアゾール化合物、フェナントロリン系化合物、トリアジン系化合物、トリアゾール系化合物のうち、選択された一つ以上の含有量」を「電荷輸送化合物100重量部を基準として5ないし2,000重量部」とすることを必須要件とし、その根拠及び技術的意義についても明細書中に明確に記載されており、明らかに刊行物A?Cとは構成上の相違点を有します。」と主張している。 イ また、審判請求書の「(3)本願発明と刊行物に記載の内容との対比」において、「本願発明のフェナントロリン系化合物、トリアジン系化合物、及びトリアゾール系化合物を、それぞれ具体的な化合物に限定したことにより、本願発明は刊行物A?Dのいずれとも構成上の相違点を有するようになりました。」と主張している。 (2)検討 ア しかし、上記(1)アの主張については、前記「第2 2(2)エ」で述べたように、たとえ、刊行物1に、含有量に関する技術思想や具体的な範囲が記載されていなくても、物質(I)及び物質(II)を併用することの意義が記載され、「・・・電荷輸送化合物100重量部を基準として5ないし2,000重量部」の範囲に包含される具体的な例が記載されているのであるから、「・・・電荷輸送化合物100重量部を基準として5ないし2,000重量部」とする点は、実質的な相違点であるとはいえない。 イ また、上記(1)イの主張についても、前記「第2 2(2)ウ」で述べたように、平成19年4月4日付けでした請求項1についての上記補正によってもなお、本願補正発明の(ii)の化合物が、刊行物Aに記載されたものであるといえるから、上記補正により相違点を有するようになったとはいえない。 よって、請求人の上記いずれの主張も採用することはできない。 4 補正の却下の決定のむすび したがって、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、その余のことを検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成19年4月4日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、この出願の請求項1?10に係る発明は、平成18年12月4日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「一対の電極間に発光層を有する有機電界発光素子において、 前記発光層は燐光ドーパント及びホストを含み、 前記ホストとして、 (i)電荷輸送化合物と、 (ii)オキサジアゾール化合物、フェナントロリン系化合物、トリアジン系化合物、トリアゾール系化合物のうちから選択された一つ以上と、 を含み、 前記発光層でのオキサジアゾール化合物、フェナントロリン系化合物、トリアジン系化合物、トリアゾール系化合物のうち、選択された一つ以上の含有量は、電荷輸送化合物100重量部を基準として5ないし2,000重量部である ことを特徴とする有機電界発光素子。」 2 原査定の拒絶の理由の概要 本願発明についての原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、という理由を含むものである。 記 特開2003-7467号公報(前記刊行物1に同じ。以下、同様に「刊行物1」という。) 3 刊行物1の記載事項 刊行物1の記載事項は、前記「第2 2(2)ア」に記載したとおりである。 4 刊行物1に記載された発明 刊行物1には、先に「第2 2(2)イ」で述べたとおりの「引用発明」が記載されているが、該引用発明における「4-(1-ナフチル)?3,5?ジフェニル-1,2,4?トリアゾール」は、摘示(c)及び(h)からみて、前記トリアゾール基を有する化合物の一つの例に過ぎないから、刊行物1には、「4-(1-ナフチル)?3,5?ジフェニル-1,2,4?トリアゾール」に特定されない「トリアゾール基を有する化合物」を有する発明も記載されていると認められる。 よって、刊行物1には、 「陽極層及び陰極層の両電極層間に形成され、発光層を具備する有機エレクトロルミネッセンス素子において、 前記発光層はホスト剤と燐光を放射するドープ剤とを有し、 前記ホスト剤として、 (I)カルバゾリル基を有する化合物からなる正孔輸送性物質と (II)オキサジアゾール基を有する化合物又はトリアゾール基を有する化合物からなる電子輸送性物質 とからなる、 ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」 の発明(以下、同様に「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。 5 対比 本願発明は、本願補正発明において、「フェナントロリン系化合物」、「トリアジン系化合物」及び「トリアゾール系化合物」の化合物の特定がされていないものに相当するから、 先に「第2 2(2)ウ」で述べた点を踏まえて本願発明と引用発明Aを対比すると、両者は、 「一対の電極間に発光層を有する有機電界発光素子において、 前記発光層は燐光ドーパント及びホストを含み、 前記ホストとして、 (i)電荷輸送化合物と、 (ii)オキサジアゾール化合物、トリアゾール系化合物のうちから選択された一つ以上と、 を含む ことを特徴とする有機電界発光素子。」 である点で一致し、以下の点で一応相違する。 A’ 上記(i)の化合物及び(ii)の化合物の含有量について、本願発明においては、「前記発光層でのオキサジアゾール化合物、フェナントロリン系化合物、トリアジン系化合物、トリアゾール系化合物のうち、選択された一つ以上の含有量は、電荷輸送化合物100重量部を基準として5ないし2,000重量部である」のに対し、引用発明Aにおいては、そのような特定がない点 (以下、「相違点A’」という。)」 6 判断 相違点A’は、前記「第2 2(2)ウ」の相違点Aと同じである。 よって、「第2 2(2)エ」で述べたのと同様の理由により、相違点A’は、実質的な相違点であるとはいえない。 7 まとめ したがって、本願発明は、この出願の出願前(優先日前)に頒布された刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その余の点を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-02-03 |
結審通知日 | 2010-02-09 |
審決日 | 2010-02-23 |
出願番号 | 特願2005-162790(P2005-162790) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(H05B)
P 1 8・ 575- Z (H05B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 井上 千弥子 |
特許庁審判長 |
西川 和子 |
特許庁審判官 |
原 健司 松本 直子 |
発明の名称 | 有機電界発光素子 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 佐伯 義文 |