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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F22B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F22B
管理番号 1219517
審判番号 不服2007-29598  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-01 
確定日 2010-07-07 
事件の表示 特願2002-250013「ボイラ装置における腐食抑制およびスケール生成抑制装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月18日出願公開、特開2004- 85146〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年 8月29日の出願であって、平成19年 9月 6日付けで拒絶査定がなされ(平成19年10月 2日発送)、平成19年11月 1日に、拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同日付けで、手続補正がなされたものである。

2.平成19年11月 1日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年11月 1日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)本願補正発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、「給水を加熱して蒸気を生成するボイラ2と、このボイラ2へ給水を供給する給水部3と、前記ボイラ2で生成した蒸気を負荷機器4へ供給する蒸気供給部5とを備えたボイラ装置1において、腐食抑制剤またはスケール分散剤を用いて前記ボイラ2における腐食およびスケールの生成を抑制する装置であって、前記ボイラ2のボイラ水のシリカ濃度を透過光強度により測定する測定部24と、この測定部24の測定結果を判定する制御装置26と、この制御装置26の判定結果に基づいて、前記給水部3に対して腐食抑制剤を供給する腐食抑制剤供給装置6またはスケール分散剤を供給するスケール分散剤供給装置7を備えたことを特徴とするボイラ装置における腐食抑制およびスケール生成抑制装置。」とあったものを「給水を加熱して蒸気を生成するボイラ2と、このボイラ2へ給水を供給する給水部3と、前記ボイラ2で生成した蒸気を負荷機器4へ供給する蒸気供給部5とを備えたボイラ装置1において、腐食抑制剤およびスケール分散剤を用いて前記ボイラ2における腐食およびスケールの生成を抑制する装置であって、前記ボイラ2のボイラ水のシリカ濃度を透過光強度により測定する測定部24と、この測定部24の測定結果を判定する制御装置26と、この制御装置26の判定結果に基づいて、前記給水部3に対して腐食抑制剤を供給する腐食抑制剤供給装置6およびスケール分散剤を供給するスケール分散剤供給装置7とを備え、前記腐食抑制剤供給装置6が、前記制御装置26の判定結果に基づいて、前記ボイラ2における腐食を防止するのに必要最低限の供給量を算出して腐食抑制剤の無駄をなくすように、腐食抑制剤の供給量がゼロを含めて調節可能であり、また前記スケール分散剤供給装置7が、前記制御装置26の判定結果に基づいて、前記ボイラ2におけるシリカに由来するスケール付着を防止するのに必要最低限の供給量を算出してスケール分散剤の無駄をなくように、スケール分散剤の供給量がゼロを含めて調節可能となっていることを特徴とするボイラ装置における腐食抑制およびスケール生成抑制装置。」(以下「本願補正発明」という。)と補正することを含むものである。

上記補正は、補正前の請求項1に係る発明において、その発明特定事項である「腐食抑制剤供給装置」に「前記制御装置26の判定結果に基づいて、前記ボイラ2における腐食を防止するのに必要最低限の供給量を算出して腐食抑制剤の無駄をなくすように、腐食抑制剤の供給量がゼロを含めて調節可能であり」との限定を付加し、また、「スケール分散剤供給装置」に「前記制御装置26の判定結果に基づいて、前記ボイラ2におけるシリカに由来するスケール付着を防止するのに必要最低限の供給量を算出してスケール分散剤の無駄をなくように、スケール分散剤の供給量がゼロを含めて調節可能となっている」との限定を付加するとともに、「腐食抑制剤およびスケール剤を用いて」を「腐食抑制剤またはスケール剤を用いて」に、そして、「腐食抑制剤供給装置または・・・スケール分散剤供給装置を備え」を「腐食抑制剤供給装置および・・・スケール分散剤供給装置とを備え」と補正するものであり、実質的に、特許請求の範囲を減縮するものといえる。

そして、本願補正発明は、補正前の請求項1に係る発明と産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法の第17条の2第4項の、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるか否か(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法の第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

(2)引用例
a実願昭63-123627号(実開平2-45307号)のマイクロフィルム。
原査定の拒絶の理由に引用された実願昭63-123627号(実開平2-45307号)のマイクロフィルム(以下「引用例a」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア「[産業上の利用分野]
この考案は、ボイラーの缶体腐食や、スケール付着等を防止するための薬液注入装置の改良に関するものである。」(第1頁第17行?第2頁第1行)
イ「[従来の技術]
一般に、ボイラーシステムにおいて、給水管理のための水処理として、軟水器によって硬度分を除去する缶外処理と、薬液の注入によってシリカ分、及び、缶体腐食の原因となる溶存酸素等を除去する缶内処理が採用され、高効率運転と耐久性の向上が図られている。
このうち、缶内処理としては、ボイラーの給水装置と連動して作動する薬液注入装置(以下、薬注装置と略称する)により、給水量に対して一定の割合で薬液を注入する方法が採られている。
[考案が解決しようとする課題]
ところで、ボイラーシステムにおいて、スケールの付着を防止し、しかも缶体の腐食を最小限に抑えるためには、缶水のpH値を11.0?11.8の範囲に調整するのが好ましいとされている。」(第2頁第2?17行)

ウ「特に簡易ボイラーシステム等の小容量のものにおいては、このような薬注装置によるコストアップは重要な比率を占めるため、上述のpH値の問題を解消し得る安価な薬注装置が要求されている。
[課題を解決するための手段]
この考案は、上述の課題を解決するためになされたもので、ボイラーへの給水ラインの途中に薬注ラインを接続し、この薬注ライン中の薬注ポンプが給水ライン中の給水ポンプと連動するように構成した薬液注入装置において、ボイラー内の缶水の水質を検出する水質センサーを設け、この水質センサーの水質検出信号により缶水中のpH値が所定値に達するまでは、薬注ポンプの吐出量を増加させ、この所定値を越えると薬注ポンプの吐出量を減少させるように機能する制御装置を設けたボイラー用薬液注入装置である。」(第4頁第9行?第5頁第4行)

エ「この考案に係るボイラー用薬液注入装置によれば、缶水の濃縮状況を含む水質センサーによって検出し、この結果から制御装置によって、薬液注入ポンプの薬液吐出量を調整し、初期給水時には多量の薬液を注入して早期に缶水内を所望の薬液濃度に移行させ、この後は、少量を薬液を注入して・・・。さらに、この考案に係るボイラー用薬液注入装置によれば、・・・構造簡単で安価である。」(第8頁第15行?第9頁第12行)

以上の記載及び図面の記載によると、引用例aには、
「蒸気を生成するボイラー1と、このボイラー1へ給水を供給する給水タンク2、給水ライン3、給水ポンプ4とを備えたものにおいて、前記ボイラー1の缶体腐食や、スケール付着等を防止するための薬液注入装置であって、前記ボイラー1内の缶水の水質を検出する水質センサー9と、このセンサーの水質検出信号により薬液の吐出量を調整する制御装置を設けた薬液注入装置。」(引用発明a)が記載されている。

b特開2001-336701号公報
本件出願前に頒布された刊行物である特開2001-336701号公報(以下「引用例b」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア「【発明の属する技術分野】この発明は、ボイラ系統,たとえばエコノマイザの水管やボイラの水管等の伝熱面の防食に関するもので、安全性が高く排水処理の問題が生じない防食方法に関する。」(段落【0001】)

イ「【発明の実施の形態】つぎに、この発明の実施の形態について説明する。この発明は、エコノマイザ,ボイラ等の水管の腐食を防止するために好適に実施することができる。この発明は、ボイラ給水へケイ酸塩を注入し、水管に前記ケイ酸塩により被膜を形成させることにより、防食効果を発揮する。」(段落【0013】)

ウ「つぎに、前記ケイ酸塩の注入量について説明する。ボイラ給水には、前記ケイ酸塩も含まれており、ボイラ給水に含まれている前記ケイ酸塩と注入する前記ケイ酸塩を合わせた総濃度が15?80mgSiO_(2)/リットル、好ましくは25?60mgSiO_(2)/リットルに維持するように制御されている。すなわち、ボイラ給水の前記ケイ酸塩の総濃度が15?80mgSiO_(2)/リットル、好ましくは25?60mgSiO_(2)/リットルに維持するように制御することにより、ボイラの缶水として濃縮されたときに、孔食およびシリカスケールを引き起こす要因を低減することができる。ここにおいて、前記孔食は、前記ケイ酸塩量が少なければ、前記ケイ酸塩が防食皮膜として形成しきれないことにより発生する。また、前記シリカスケールは、硬度成分がごく少量でも残留していれば、缶水が濃縮されると濃度が高くなり、前記ケイ酸塩と反応して前記シリカスケールを形成し、硬度成分が缶水において、ごく少量であっても、前記ケイ酸塩が多量に存在すると、前記シリカスケールを形成するという性質を持っている。そこで、前記ケイ酸塩の総濃度を特定範囲内で維持することにより、前記孔食や前記シリカスケールを効果的に防止することができる。さらに、ボイラ給水に前記ケイ酸塩を注入することにより、水管内の前記ケイ酸塩濃度を均一に供給することができ、前記ケイ酸塩の濃度差を無くすることができる。すなわち、全ての水管に対して、均一な濃度の前記ケイ酸塩を供給することができる。
また、缶水において、前記ケイ酸塩の濃度が150?800mgSiO_(2)/リットルに維持するように制御することが好ましく、さらに好ましくは250?600mgSiO_(2)/リットルである。ここにおいても、前記孔食は、前記ケイ酸塩量が少なければ、前記ケイ酸塩が防食皮膜として形成しきれないことにより発生する。また、前記シリカスケールは、硬度成分がごく少量でも残留していれば、缶水が濃縮されると濃度が高くなり、前記ケイ酸塩と反応して前記シリカスケールを形成し、硬度成分が缶水において、ごく少量であっても、前記ケイ酸塩が多量に存在すると、前記シリカスケールを形成するという性質を持っている。そこで、前記ケイ酸塩の総濃度を特定範囲内で維持することにより、前記孔食や前記シリカスケールを効果的に防止することができる。
さらに、前記ケイ酸塩の総濃度を特定範囲内で維持する方法としては、ボイラ給水における前記ケイ酸塩の薬注量を増減させる方法やブロー率を増減させて濃縮度を増減させる方法等がある。
以上のように、この発明によれば、防食皮膜として効果的に作用して前記孔食を防止し、かつ前記シリカスケールを生成しないように、前記ケイ酸塩の濃度を維持することにより、水管の伝熱面を守ることができる。」(段落【0018】?【0021】)

エ「この発明は、ボイラへの給水ラインの途中に、硬度成分をイオン交換して硬度成分を取り除く軟水装置と薬剤を注入する薬注装置とを備えたボイラに好適に実施することができる。この薬注装置の薬液タンクにはケイ酸塩,たとえばケイ酸ナトリウムを含んだ薬剤が貯留され、さらに防食性能を高めるために、pH調整剤,たとえば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等が添加されている。ボイラの運転が開始されると、前記給水ライン中に備えた給水ポンプが作動して薬剤の注入を行う。」(段落【0023】)

オ「以上のように、腐食性能とシリカスケールの生成状況から、ボイラ給水中の前記ケイ酸塩濃度としては、15?80mgSiO_(2)/リットルが好ましく、さらに好ましくは25?60mgSiO_(2)/リットルである。また、缶水中の前記ケイ酸塩濃度としては、150?800mgSiO_(2)/リットルが好ましく、さらに好ましくは250?600mgSiO_(2)/リットルである。つまり、この範囲内で前記ケイ酸塩濃度を維持させることにより、水管の腐食防止だけでなく、シリカスケールの発生も防止することができる。」(段落【0030】)

以上の記載によると、引用例bには、
「給水ラインの途中に、ケイ酸ナトリウムを含むケイ酸塩、さらに、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を添加したpH調整剤などの薬剤を注入する薬注装置を備えたボイラにおいて、ボイラの水管等の伝熱面の防食を図るとともに、シリカスケールの生成を効果的に防止するように、缶水のケイ酸塩の濃度を150?800mgSiO_(2)/リットル、好ましくは250?600mgSiO_(2)/リットルに維持するように制御すること。」(以下「引用発明b」という。)が記載されている。

(3)対比・判断
本願補正発明と引用発明aとを対比する。
引用発明aの「蒸気を生成するボイラー1」は、本願補正発明の「給水を加熱して蒸気を生成するボイラ」に相当し、以下同様に、「給水タンク2、給水ライン3、給水ポンプ4」は「給水部」に、「ボイラー1の缶体腐食や、スケール付着等を防止するための薬液注入装置」は「腐食およびスケールの生成を抑制する装置」及び「腐食抑制およびスケール生成抑制装置」に、「ボイラー1の缶水」は「ボイラのボイラ水」に、「水質センサー9」は「測定部」に、それぞれ相当する。

そして、引用発明aの「ボイラー1」、「給水タンク2」、「給水ライン3」、「給水ポンプ4」を備えたものは、本願補正発明の「ボイラ装置」に相当する。
また、一般に、ボイラは、生成した蒸気を負荷機器へ供給する蒸気供給部を具備するものである。
さらに、引用発明aにおける「水質」は、本願補正発明における「シリカ濃度」の上位概念といえ、「薬液」は、本願補正発明の「腐食抑制剤およびスケール分散剤」の上位概念といえる。
そして、引用発明aの「制御装置」は、検出信号により吐出量を調整していることからみて、「判定する」機能を備えるものと理解できる。

そうすると、両者は、
「給水を加熱して蒸気を生成するボイラと、このボイラへ給水を供給する給水部と、前記ボイラで生成した蒸気を負荷機器へ供給する蒸気供給部とを備えたボイラ装置において、薬液を用いて前記ボイラにおける腐食及びスケールの生成を抑制する装置であって、前記ボイラのボイラ水の水質を測定する測定部と、この測定部の測定結果を判定する制御装置と、この制御装置の判定結果に基づいて、前記給水部に対して薬液の供給量を調整するボイラ装置における腐食抑制およびスケール生成抑制装置。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点ア
測定する「水質」と供給する「薬液」について、本願補正発明では、「シリカ濃度」を測定し、「腐食抑制剤およびスケール分散剤」を供給するのに対し、引用発明aでは、水質および供給薬液の明記がない点。

相違点イ
測定手段について、本願補正発明では、透過光強度により測定するものであるのに対し、引用発明aでは、これについて明らかでない点。

相違点ウ
供給量の調整態様について、本願補正発明では、薬液供給装置が、制御装置の判定結果に基づいて、ボイラにおける腐食を防止するのに必要最低限の供給量を算出して腐食抑制剤の無駄をなくすように、腐食抑制剤の供給量がゼロを含めて調節可能であり、またスケール分散剤供給装置が、制御装置の判定結果に基づいて、前記ボイラにおけるシリカに由来するスケール付着を防止するのに必要最低限の供給量を算出してスケール分散剤の無駄をなくように、スケール分散剤の供給量がゼロを含めて調節可能となっているのに対し、引用発明aでは、当該事項は、明らかでない点。

まず、相違点アについて検討する。
引用発明bについてみると、「ケイ酸塩の濃度」は、「シリカ濃度」と同義といえるから、引用発明bは、ボイラ水管等の腐食防止と、スケールの付着を防止するために、シリカ濃度を測定し、その濃度を所定範囲に維持しようとする発明といえる。

また、引用発明bの「水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ケイ酸塩」は、本願補正発明における「腐食抑制剤」(本願明細書段落【0013】参照。)に相当する。
そして、引用発明bは、シリカ濃度を所定の値(上限として「600mgSiO_(2)/リットル」と、本願補正発明の明細書段落【0045】において示されたものが示されている。)とするものであって、ボイラー水をこのような値に維持するために、薬液を投入することは、当該技術分野において、本件出願前周知の技術である(例えば、特開昭63-166982号公報参照。)。

そうすると、引用発明aにおいて、測定する「水質」と供給する「薬液」について、本願補正発明のように、「シリカ濃度」を測定し、「腐食抑制剤およびスケール分散剤」を供給するようにした点は、引用発明b及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。

次に、相違点イについて検討する。
当該分野において、測定手段について、透過光強度により測定するものは、本件出願前周知の技術である(例えば、特開平10-325801号公報、特開2000-283974号公報参照。)。
そうすると、引用発明aにおいて、測定手段として、本願補正発明のように、透過光強度により測定するものとした点は、周知技術に基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。

さらに、相違点ウについて検討する。
薬液による水処理を行うに際し、無駄な薬注を避け、最適なものとすることは、従来良く知られた課題であり(例えば、前審で引用した特開平8-105605号公報の段落【0008】、特開平6-277695号公報の段落【0004】参照。)、引用発明aにおいても、コスト低減という広義の課題は、示唆されている(「(2)aウ、エ」参照。)。

そうすると、引用発明aにおいて、本願補正発明のように、薬液供給装置が、制御装置の判定結果に基づいて、ボイラにおける腐食を防止するのに必要最低限の供給量を算出して腐食抑制剤の無駄をなくすように、腐食抑制剤の供給量がゼロを含めて調節可能であり、またスケール分散剤供給装置が、制御装置26の判定結果に基づいて、前記ボイラ2におけるシリカに由来するスケール付着を防止するのに必要最低限の供給量を算出してスケール分散剤の無駄をなくように、スケール分散剤の供給量がゼロを含めて調節可能とした点は、周知技術に基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。

また、本願補正発明の奏する作用効果を全体としてみても、引用発明a、引用発明b及び周知技術から、当業者であれば、予測することができたものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明a、引用発明b及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法の第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1高において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成19年11月 1日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成19年 7月 4日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるものである。

「給水を加熱して蒸気を生成するボイラ2と、このボイラ2へ給水を供給する給水部3と、前記ボイラ2で生成した蒸気を負荷機器4へ供給する蒸気供給部5とを備えたボイラ装置1において、腐食抑制剤またはスケール分散剤を用いて前記ボイラ2における腐食およびスケールの生成を抑制する装置であって、前記ボイラ2のボイラ水のシリカ濃度を透過光強度により測定する測定部24と、この測定部24の測定結果を判定する制御装置26と、この制御装置26の判定結果に基づいて、前記給水部3に対して腐食抑制剤を供給する腐食抑制剤供給装置6またはスケール分散剤を供給するスケール分散剤供給装置7を備えたことを特徴とするボイラ装置における腐食抑制およびスケール生成抑制装置。」

(2)引用例
1)引用例a
引用例aの記載事項及び記載された発明は、前記のとおりである(「2.(2)a」参照。)。

2)引用例c
原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-277695号(以下「引用例c」という。)には、次の事項が記載されている。

ア「発明の分野
本発明はシリカを可溶化する方法に関する。より詳しくは、本発明はシリカを含有する水性系中のコロイドシリカを可溶化する方法に関する。」(段落【0001】)

イ「これら3つの方法のいずれを利用する場合でも、系の中に存在するシリカの濃度を正確に知ることが望ましい。系の中に存在するシリカの濃度を制限することに依る場合、シリカ濃度が未だ低いときに系を補給水によって溢れ流すか又は補充することになると、エネルギーおよび時間の無駄である。シリカ濃度が高くなり過ぎた後に系を補給水によって溢れ流すか又は補充するとなると、スケールが既に形成されてしまっている。同様に、シリカ濃度を知ってスケール防止剤を経済的に使用できるようにすることは望ましい。 たとえば、冷却水、ボイラー水、・・・のような、水性系においては、シリカ濃度を正確に測定することが望ましい。これらプロセスのいずれにおいても、熱は水から又は水へ伝達される。これら系のうち、3例(冷却水、ボイラー水および砂糖加工)においては、水は加熱され、そして若干の水が蒸発する。水が蒸発すると、シリカ(または珪酸塩)は濃くなる。シリカ濃度がその溶解度を越えると、シリカは析出してガラス質被覆または付着性スケールどちらかを形成し、そうなると、労力を有する機械的または化学的清掃によってしか通常除去できない。地熱処理においては、シリカまたは珪酸塩を帯びた熱水が、家庭や工場での加熱のために使用されるか、またはタービンを駆動し電気を発生させるための蒸気に転換される。上記4例のプロセスはいずれも、或る時点においては、水から熱が奪われ、そうなると、溶解していた珪酸塩はより溶解し難くなり、従って、表面に析出するようになる。」(段落【0004】、【0005】)

ウ「同様に、ボイラー水においては、アメリカ機械技師協会(American Society of Mechanical Engineers)は、シリカをボイラーの操作圧力に依存する特定濃度に制限することを推奨している。たとえば、(300psig未満の) 低圧ボイラーにおいては、シリカの量は、SiO_(2) として、150ppm 未満に維持されるべきである。圧力が上昇するにつれて、再循環ボイラー水中の許容できるシリカ濃度は漸次低くなる。ボイラー(特に、シリカ揮発が大問題にはならない低圧操作ボイラー)を、より高い濃縮サイクルで操作することを可能にさせる重合体は、加熱水を、よりエネルギー効率良く使用することを可能にする。
従って、存在するシリカ量を制限することによるか又はスケール制御剤を添加することによるか、どちらにしても、制御方法を効率に使用させるためには、そしてシリカ濃度の推奨限度を越える危険性を最小にするためには、これら系の中のシリカ濃度を測定できることが望ましい。」(段落【0007】、【0008】)

以上の記載によると、引用例cには、
「ボイラー水のシリカ濃度を正確に測定し、シリカ濃度の推奨限度を越える危険性を最小にするため、スケール防止剤を経済的に使用すること。」(以下「引用発明c」という。)

(3)対比・判断
本願発明と引用発明aとを対比する。
引用発明aの「蒸気を生成するボイラー1」は、本願発明の「給水を加熱して蒸気を生成するボイラ」に相当し、以下同様に、「給水タンク2、給水ライン3、給水ポンプ4」は「給水部」に、「ボイラー1の缶体腐食や、スケール付着等を防止するための薬液注入装置」は「腐食およびスケールの生成を抑制する装置」及び「腐食抑制およびスケール生成抑制装置」に、「ボイラー1の缶水」は「ボイラのボイラ水」に、「水質センサー9」は「測定部」に、それぞれ相当する。

そして、引用発明aの「ボイラー1」、「給水タンク2」、「給水ライン3」、「給水ポンプ4」を備えたものは、本願発明の「ボイラ装置」に相当する。

また、一般に、ボイラは、生成した蒸気を負荷機器へ供給する蒸気供給部を具備するものである。
さらに、引用発明aにおける「水質」は、本願補正発明における「シリカ濃度」の上位概念といえ、「薬液」は、本願補正発明の「腐食抑制剤およびスケール分散剤」の上位概念といえる。
そして、引用発明aの「制御装置」は、検出信号により吐出量を調整していることからみて、「判定する」機能を備えるものと理解できる。

そうすると、両者は、
「給水を加熱して蒸気を生成するボイラと、このボイラへ給水を供給する給水部と、前記ボイラで生成した蒸気を負荷機器へ供給する蒸気供給部とを備えたボイラ装置において、薬液を用いて前記ボイラにおける腐食及びスケールの生成を抑制する装置であって、前記ボイラのボイラ水の水質を測定する測定部と、この測定部の測定結果を判定する制御装置と、この制御装置の判定結果に基づいて、前記給水部に対して薬液を供給する薬液供給装置を備えたボイラ装置における腐食抑制およびスケール生成抑制装置。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点a
測定する「水質」と供給する「薬液」について、本願発明では、「シリカ濃度」を測定し、「腐食抑制剤またはスケール分散剤」を供給するのに対し、引用発明aでは、水質及び供給薬液の明記がない点。

相違点b
測定する手段について、本願発明では、透過光強度により測定するのに対し、引用発明aでは、これについて明らかではない点。

まず、相違点aについて検討する。
引用発明cは、ボイラー水のシリカ濃度を正確に測定し、シリカ濃度の推奨限度を越える危険性を最小にするため、スケール防止剤を経済的に使用するものである。

また、ボイラーの水処理の分野において、シリカ濃度が腐食防止やスケール付着に影響を有することは、本件出願前周知の技術である(例えば、特開2001-336701号公報、特開昭63-166982号公報参照。)。

したがって、引用発明aにおいて、測定する「水質」と供給する「薬液」について、本願発明のように、シリカ濃度を測定し、腐食抑制剤またはスケール分散剤を供給するようにした点は、引用発明c及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。

次に、相違点bについて検討する。
当該分野において、測定手段について、透過光強度により測定するものは、本件出願前周知の技術である(例えば、特開平10-325801号公報、特開2000-283974号公報参照。)。

そうすると、引用発明aにおいて、測定手段として、本願発明のように、透過光強度により測定するものとした点は、周知技術に基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。

また、本願発明の奏する作用効果を全体としてみても、引用発明a、引用発明c及び周知技術から、当業者であれば、予測することができたものである。

したがって、本願発明は、引用発明a、引用発明b及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。から、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明a、引用発明c及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-26 
結審通知日 2010-05-10 
審決日 2010-05-21 
出願番号 特願2002-250013(P2002-250013)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F22B)
P 1 8・ 575- Z (F22B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大屋 静男  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 豊島 唯
長崎 洋一
発明の名称 ボイラ装置における腐食抑制およびスケール生成抑制装置  

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