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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16K
管理番号 1219691
審判番号 不服2009-18545  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-01 
確定日 2010-07-08 
事件の表示 特願2007-160234「流体制御用電磁弁」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月25日出願公開、特開2008-309309〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年6月18日の出願であって、平成21年6月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年10月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成21年10月1日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年10月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
流体が流れる配管内部に配置される、電磁吸引力を発生させるソレノイド部と、
このソレノイド部と一体に設けられ、前記電磁吸引力により前記配管の内壁面に形成されたシート部に接離するバルブを有する弁部と、
前記バルブの位置を検出するバルブ位置検出手段とを備え、
前記バルブ位置検出手段は、磁束を発生させる位置検出コイル及びこの位置検出コイルの近傍に設けられ温度変化に応じて抵抗値が変化する温度補正抵抗体を含む信号処理回路部と、前記位置検出コイルと対向して設けられ、前記磁束を遮蔽するとともに前記バルブの移動に連動して位置検出コイルに対して相対移動する遮蔽体とを有し、
前記信号処理回路部は、前記相対移動に伴う前記位置検出コイルと前記遮蔽体とが重なる面積の変化に応じて変化する前記位置検出コイルのインピーダンスからセンサ出力電圧を出力し、このセンサ出力電圧の値から前記バルブの位置が検出される流体制御用電磁弁であって、
前記信号処理回路部は、前記温度補正抵抗体の温度変化に基づく抵抗値の変化を補正電圧として取り出し、この補正電圧を用いて前記センサ出力電圧の温度補正をするようになっており、
前記位置検出コイル及び前記温度補正抵抗体が壁面に設けられた環状部材、及び前記遮蔽体は、前記配管と同心で配置されているとともに、前記環状部材及び前記遮蔽体の一方が前記弁部に設けられ、前記環状部材及び前記遮蔽体の他方が、前記ソレノイド部または前記配管に設けられており、
前記位置検出コイル及び前記温度補正抵抗体は、多層導体プリントパターンで構成されていることを特徴とする流体制御用電磁弁。
【請求項2】
前記バルブと前記ソレノイド部との間には、前記バルブの上流側と下流側との間で連通して圧力差を相殺する容積室を有するベローズが設けられており、前記ベローズの外周側に前記環状部材及び前記遮蔽体が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の流体制御用電磁弁。
【請求項3】
前記位置検出コイル及び前記温度補正抵抗体は、同一物性で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の流体制御用電磁弁。
【請求項4】
前記温度補正抵抗体は、導体の、厚み、幅及び長さにより調整された抵抗体であることを特徴とする請求項1?3の何れか1項に記載の流体制御用電磁弁。
【請求項5】
前記多層導体プリントパターンは、多層フレキシブルプリント基板に設けられていることを特徴とする請求項1?4の何れか1項に記載の流体制御用電磁弁。
【請求項6】
前記配管は、前記流体である空気をエンジンに導く吸気管であることを特徴とする請求項1?5何れか1項に記載の流体制御用電磁弁。」に補正された。
上記補正は、請求項1についてみると、実質的に、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「位置検出コイル」及び「温度補正抵抗体」について「前記位置検出コイル及び前記温度補正抵抗体は、多層導体プリントパターンで構成されている」という限定を付加したものであって、これは、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開2006-275235号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【請求項6】
前記検出コイルは、多層構造のコイル部で構成されている請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の流体制御用電磁弁。」
(い)「【0002】従来、アクセル操作に連動して機械的に鋼製ワイヤにより牽引されるバタフライ弁を有したスロットルバルブと併用し、スロットルバルブが制御する空気流路とは別に構成されたバイパス流路において、エンジンのアイドル回転数を制御するアイドルスピードコントロールバルブ(以下、ISC-V)が知られている。このISC-Vは、電磁吸引力によりバルブを直動させる電磁弁タイプの流量制御弁であり、アイドル回転を維持するために必要な供給空気量を得るためのバルブリフト量は、電磁弁へ励磁する電流値により制御されている(例えば、特許文献1参照)。」
(う)「【0012】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1の流体制御用電磁弁(以下、電磁弁と略称する)を示す断面図、図2は図1のII-II線に沿った矢視断面図である。
この電磁弁は、電磁吸引力を発生させるソレノイド部1と、この電磁吸引力により駆動される弁部2とを備えている。このソレノイド部1及び弁部2は、ボディ3に内包されている。
【0013】
ボディ3は、電磁弁より上流側の吸気管である、上流側ボディ部3aと、電磁弁より下流側の吸気管である下流側ボディ部3bとから構成されており、上流側ボディ部3a及び下流側ボディ部3bは4個のボルト21によりガスケット17及びプレート15を介して一体化されている。
【0014】
ソレノイド部1では、吸気管の中心軸線と同軸線で円筒状のコア4が設けられている。このコア4の外周には、ボビン22を介してソレノイドコイル5が巻装されている。ソレノイドコイル5はヨーク6により内包されている。コア4の下流側の内部では円筒形状のプランジャ7が軸線方向に摺動可能に設けられている。コア4の上流側では調整ネジ19が螺着された貫通孔が形成されている。この調整ネジ19は、回転によりコア4の軸線に沿って進退することで、調整ネジ19とパイプ9との間に設けられたスプリング20の弾性力が調整され、ソレノイドコイル5に流れる所定の電流の大きさに応じて、バルブ10がシート部18に対して所定のリフト量が得られるように設定される。
ボビン22は、ターミナル23を有するコネクタ24とともに樹脂により一体化されている。
【0015】
ボビン22の貫通孔に挿入されて固定されたコア4の下流側の端部には、径方向に突出したフランジ部8が形成されている。このフランジ部8の外周縁部に、ヨーク6の開口側の端部をかしめることで、ヨーク6とコア4とは一体化されている。
【0016】
弁部2では、プランジャ7の貫通孔に、連通孔11を有するパイプ9が嵌入、固定されている。パイプ9の下流側の端部には、複数個の導通孔13を有するバルブ10が固定されている。
【0017】
バルブ10の上流側外周縁部には、ベローズ12の小径フランジ27bが固定されている。このベローズ12は、低剛性で軸線方向に伸縮自在の樹脂材により形成され、この伸縮により、内部の容積室25の容積が増減する。ベローズ12の上流側端部には大径フランジ27aが形成されている。フランジ部8の下流側の外径側端面には、T形断面のリング26が嵌着されており、このリング26とコア4の下流側の内径側端部との間に、大径側フランジ27aが挟持されている。
【0018】
ベローズ12の容積室25、並びにコア4及びプランジャ7の内部は、バルブ10の導通孔13及びパイプ9の連通孔11により、エンジンの負圧側とそれぞれ導通しており、プランジャ7の上流側端面と下流側端面とはほぼ同じ圧力となり、またバルブ10の上流側表面と下流側表面とはほぼ同じ圧力となり、圧力差によるプランジャ7及びバルブ10の作動が防止される。
【0019】
ドーナツ状のプレート15は、その内径部がコア4のフランジ部8とボビン22との間で挟持され、その外径部が上流側ボディ部3aと下流側ボディ部3bとの間で挟持されている。プレート15には、バルブ10の開口面積よりも総開口面積が十分に大きな3個の通過孔16が形成されている。
【0020】
弁部2の周囲には、バルブ10の位置を検出するバルブ位置検出手段40が設けられている。
バルブ位置検出手段40は、磁束を発生させる位置検出コイル41と、この位置検出コイル41と対向して設けられ磁束を遮蔽する遮蔽体42と、位置検出コイル41と遮蔽体42とが重なる面積の変化に基づく位置検出コイル41のインピーダンス変化を電圧信号として処理する信号処理回路部43とを備えている。
【0021】
位置検出コイル41は、図3、図4に示すように、樹脂等の非金属材で構成された円筒形状の環状部材44の内壁面に貼り付けられている。
位置検出コイル41は、銅箔によるプリントパターンで、薄いフィルム状に構成されている。位置検出コイル41は、図5及び図6に示すように、周方向に4等分に分離されたコイル部41a?41dを有している。また、各コイル部41a?41bは、図7に示すように2層構造である。
各コイル部41a?41dは、隣接した同士で互いに逆電流が流れるように導線45を一筆書きで巻回して構成され、かつ2層構造であるので、各コイル部41a?41dで発生する磁束の方向は、図5の矢印で示すように半径方向で互いに逆向きとなる。
【0022】
環状部材44の上端部には、溝部が形成されている。この溝部にL形断面の連結リング46の下端部が係止されている。この連結リング46の上端部は、リング26及びフランジ部8の下端部に嵌着されている。
【0023】
環状部材44の内側では、円筒形状の遮蔽体42がボディ3の軸線と同軸線でバルブ10に固定されている。遮蔽体42は、例えば銅系、アルミニウム系またはオーステナイト系ステンレス鋼で構成されている。
【0024】
信号処理回路部43は、下流側ボディ部3bの外周面の凹部33に装着されている。信号処理回路部43は、基板上に、コイル部41a?41dとともに共振回路を構成する検波整流回路、位置検出コイル41のインピーダンス変化による電気信号を増幅出力する増幅回路等が搭載されている。この信号処理回路部43上にはエポキシ系樹脂からなる絶縁樹脂34が設けられ、また絶縁樹脂34は蓋35で覆われている。
信号処理回路部43は、バルブ位置検出用コネクタ47を通じてエンジン制御ユニット(図示せず)と電気的に接続されている。」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「流体が流れる配管内部に配置される、電磁吸引力を発生させるソレノイド部1と、
このソレノイド部1と一体に設けられ、前記電磁吸引力により前記配管の内壁面に形成されたシート部18に接離するバルブ10を有する弁部2と、
前記バルブ10の位置を検出するバルブ位置検出手段40とを備え、
前記バルブ位置検出手段40は、磁束を発生させる位置検出コイル41を含む信号処理回路部43と、前記位置検出コイル41と対向して設けられ、前記磁束を遮蔽するとともに前記バルブ10の移動に連動して位置検出コイル41に対して相対移動する遮蔽体42とを有し、
前記信号処理回路部43は、前記相対移動に伴う前記位置検出コイル41と前記遮蔽体42とが重なる面積の変化に応じて変化する前記位置検出コイル41のインピーダンスからセンサ出力電圧を出力し、このセンサ出力電圧の値から前記バルブ10の位置が検出される流体制御用電磁弁であって、
前記位置検出コイル41が壁面に設けられた環状部材44、及び前記遮蔽体42は、前記配管と同心で配置されているとともに、前記遮蔽体42が前記弁部2に設けられ、前記環状部材44が、前記ソレノイド部1に設けられており、
前記位置検出コイル41は、多層構造の銅箔によるプリントパターンで、薄いフィルム状に構成されていることを特徴とする流体制御用電磁弁。」
(2-2)引用例2
特開2000-337808号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車のトランスミッション等に使用されるATセンサ等のセンサに関するものである。」
(き)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記した従来のセンサにあっては、コイルAAそのものの特性が、温度に応じてばらつくために、シャフトCCの挿通状態に応じて出力される検出信号が、図16に破線で示すように、ばらつくようになり、シャフトCCの位置を正確に検出することができないという問題点があった。
【0004】本発明は、上記の点に着目してなされたもので、その目的とするところは、コイルそのものの特性が温度ばらつきに応じてばらついても、シャフトの位置を正確に検出することができるセンサを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記した課題を解決するために、請求項1記載の発明は、金属製の被検出シャフトが挿通される検出用コイルと、検出用コイルと同一仕様を有した対照用コイルと、検出用コイル及び対照用コイルに高周波磁界を発生させる駆動発振回路と、被検出シャフトの挿通状態に応じて検出用コイルから出力された発振信号と対照用コイルから出力された発振信号との差に基づいて被検出シャフトの検出信号を出力する比較器と、を備えた構成にしている。」
(く)「【0014】対照用コイル5 は、検出用コイル1 と同一仕様を有しており、内径及び軸方向寸法並びに材質が同一となっている。この対照用コイル5 は、検出用コイル1 と間で磁気的な相互干渉が発生しないように、検出用コイル1 とは十分離れて配設されている。この対照用コイル5 は、その一端に対照用駆動発振回路6 が接続されるとともに、他端が接地されており、対照用駆動発振回路6 によって高周波磁界を発生し、発振信号を出力する。この発振信号は、対照用コイル5 の一端に接続された第2の整流回路7 により整流される。この整流済みの発振信号は、基準電圧Vref に接続された第1のレベルシフト用抵抗8 を一端に接続した第2のレベルシフト用抵抗9 のその他端から一端へと流されることにより、所望の電圧レベルまでシフトされる。
【0015】比較器10は、差動増幅回路であって、検出用コイル1 から出力されて後に整流された発振信号が反転入力端子に入力されるとともに、対照用コイル5 から出力されて後に整流及び電圧レベルのシフトがなされた発振信号が非反転入力端子に入力される。この比較器10は、入力された両発振信号の差を増幅して、被検出シャフト2 の挿通状態を検出する検出信号Vsig を出力端子から出力する。
【0016】また、この比較器10は、検出用駆動発振回路3 、第1の整流回路4 、対照用駆動発振回路6 、第2の整流回路7 、第1のレベルシフト用抵抗8 及び第2のレベルシフト用抵抗9 と共に、センサ回路11を構成している。
【0017】次に、図3(a) 乃至(c) に基づいて、比較器10の動作について、詳しく説明する。比較器10は、同図(a) に実線で示すように、非反転入力端子に検出用コイル1 からの発振信号が入力されるとともに、被検出シャフト2 の移動寸法に応じて、同図(b) に実線で示すように、反転入力端子に対照用コイル5 からの発振信号が入力され、同図(c) に実線で示すように、両発振信号の差を増幅してなる検出信号Vsig を出力端子から出力する。なお、同図(a) 及び(b) の破線は、ばらつきの範囲を示している。
【0018】かかるセンサにあっては、検出用コイル1 そのものの特性が温度に応じてばらつくことがあっても、被検出シャフト2 の挿通状態に応じて検出用コイル1 から出力された発振信号と対照用コイル5 から出力された発振信号との差を求めることによって、コイルそのものの特性の温度ばらつきが相殺されるから、同図(c) に示した検出信号Vsig のばらつきσは、同図(b) に示した発振信号のばらつきσに比較して、小さくなっており、被検出シャフト2 の位置を正確に検出することができる。」
(け)「【0027】次に、本発明の第4実施形態を図9に基づいて以下に説明する。なお、第1実施形態と実質的に同一の機能を有する部分には同一の符号を付し、本実施形態は、基本的には、第1実施形態と同様であるが、第3実施形態と同様に、検出用駆動発振回路3 及び対照用駆動発振回路6 は、対照用コイル5 からの発振信号に基づいて高周波磁界を発生させる構成となっており、さらに、検出用コイル1 と対照用コイル5 との間を磁気的にシールドするシールド部材14が設けられた構成となっている。
【0028】詳しくは、シールド部材14は、有底円筒状に形成され、検出用コイル1 を覆うシールド部材14及び対照用コイルを覆うシールド部材14が、互いの底部を対向させる状態で配置されることにより、検出用コイル1 と対照用コイル5 との間を磁気的にシールドする。
【0029】かかるセンサにあっては、検出用コイル1 と対照用コイル5 との間を磁気的にシールドするシールド部材14によって、検出用コイル1 と対照用コイル5 との間の磁気的な相互干渉を防止されるから、両発振信号が正確に出力されるようになり、ひいては、被検出シャフト2 の位置を正確に検出することができるという第1実施形態の効果を一段と奏することができる。
【0030】また、検出用コイル1 と対照用コイル5 との間で、磁気的な相互干渉が発生しないように、検出用コイル1 と対照用コイル5 とを十分に離して配設しなくてもよくなるので、小型化することができる。」
(3)対比
本願補正発明と引用例1発明とを比較すると、後者の「多層構造の銅箔によるプリントパターンで、薄いフィルム状に構成されている」は前者の「多層導体プリントパターンで構成されている」に相当し、また、後者の「前記遮蔽体42が前記弁部2に設けられ、前記環状部材44が、前記ソレノイド部1に設けられており、」という事項は「前記環状部材及び前記遮蔽体の一方が前記弁部に設けられ、前記環状部材及び前記遮蔽体の他方が、前記ソレノイド部または前記配管に設けられており、」という事項を充足している。
したがって、本願補正発明の用語に倣って整理すると、両者は、
「流体が流れる配管内部に配置される、電磁吸引力を発生させるソレノイド部と、
このソレノイド部と一体に設けられ、前記電磁吸引力により前記配管の内壁面に形成されたシート部に接離するバルブを有する弁部と、
前記バルブの位置を検出するバルブ位置検出手段とを備え、
前記バルブ位置検出手段は、磁束を発生させる位置検出コイルを含む信号処理回路部と、前記位置検出コイルと対向して設けられ、前記磁束を遮蔽するとともに前記バルブの移動に連動して位置検出コイルに対して相対移動する遮蔽体とを有し、
前記信号処理回路部は、前記相対移動に伴う前記位置検出コイルと前記遮蔽体とが重なる面積の変化に応じて変化する前記位置検出コイルのインピーダンスからセンサ出力電圧を出力し、このセンサ出力電圧の値から前記バルブの位置が検出される流体制御用電磁弁であって、
前記位置検出コイル及び前記温度補正抵抗体が壁面に設けられた環状部材、及び前記遮蔽体は、前記配管と同心で配置されているとともに、前記環状部材及び前記遮蔽体の一方が前記弁部に設けられ、前記環状部材及び前記遮蔽体の他方が、前記ソレノイド部または前記配管に設けられており、
前記位置検出コイルは、多層導体プリントパターンで構成されている流体制御用電磁弁。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願補正発明の「信号処理回路部」は、「磁束を発生させる位置検出コイル及びこの位置検出コイルの近傍に設けられ温度変化に応じて抵抗値が変化する温度補正抵抗体を含む信号処理回路部」であり、「前記温度補正抵抗体の温度変化に基づく抵抗値の変化を補正電圧として取り出し、この補正電圧を用いて前記センサ出力電圧の温度補正をするようになって」おり、さらに、「前記温度補正抵抗体は、多層導体プリントパターンで構成されている」のに対して、引用例1発明の「信号処理回路部43」は、「磁束を発生させる位置検出コイル41を含む信号処理回路部43」にすぎない点。
(4)判断
[相違点1]について
引用例1発明の「流体制御用電磁弁」の用途や使用環境は多様であり、上記に摘記したように、引用例1には「【0002】…エンジンのアイドル回転数を制御するアイドルスピードコントロールバルブ(以下、ISC-V)が知られている。このISC-Vは、電磁吸引力によりバルブを直動させる電磁弁タイプの流量制御弁…」の例が記載されている。また、引用例2には、上記に摘記したとおり、位置センサの検出用コイルの特性が温度に応じてばらつくこと、そのため、検出用コイルから出力された発振信号と検出用コイルと同一仕様の対照用コイルから出力された発振信号との差を求めることによって、コイルそのものの特性の温度ばらつきが相殺されるようにして、位置を正確に検出するという事項が示されている。このように、引用例1発明においても、その「位置検出コイル41」が温度変化の影響を受け得ること、その場合に「センサ出力電圧」が温度変化の影響を受けないように補償することが好適であることは、当業者に明らかである。そして、どのような温度補償手段を設けるかは、補償精度等の所要性能のほか装置の簡素化・小型化等を勘案して適宜設計する事項にすぎない。
ここで、温度変化に応じて抵抗値が変化する抵抗体を設け、該抵抗体の温度変化に基づく抵抗値の変化を用いてセンサ出力の温度補正を行なうものは、例えば、特開平8-86677号公報(特に【0019】?【0020】、【0033】?【0037】)、特開平3-105208号公報(特に第2ページ右下欄第10行?第3ページ左上欄末行)に示されているように周知である。引用例1発明の「位置検出コイル41」に対する温度変化の影響を補償する手段として上記の周知事項を適用することは、上記の適宜の設計として当業者が容易に想到し得たものと認められる。その場合、(a)温度補償という目的からすれば、「位置検出コイル41」と該抵抗体の温度環境が可及的に等しくなるようにするのは当然ないし合理的であること、また、(b)例えば、引用例2の上記【0030】に記載されているように、近接して配置すれば小型化できることからみて、抵抗体を「位置検出コイル41」の近傍に設けることが望ましいことは当業者に明らかであり、該抵抗体を、引用例1発明の「位置検出コイル41」と同じように「多層構造の銅箔によるプリントパターンで、薄いフィルム状に」構成して、「環状部材44」の壁面に設けるようにすることは、引用例1発明に上記の周知事項を適用するにあたって適宜採用する程度の設計的事項にすぎない。このようにしたものは、実質的にみて、相違点1に係る本願補正発明の上記事項を具備しているということができる。
そして、本願補正発明の作用効果は、引用例1、2に記載された発明、及び周知事項に基づいて当業者が予測し得た程度のものである。

なお、請求人は審判請求の理由、及び平成22年1月29日付け回答書において、概ね、「一方、上記引用文献1-3には、環状部材44の壁面に温度補正抵抗体を設けることに関しては何等示唆する記載もなく、ましてや位置検出コイル及び温度補正抵抗体は、多層導体プリントパターンで構成されているという構成も開示されていません。」、「そもそも、請求項1に係る発明の「温度補正抵抗体」は、引用文献2の「対照用コイル」に相当するとご認定されるに際して、本願の請求項3に記載された内容を挙げてご認定されたことに対して承服できません。請求項1に係る発明では、当然のことですが、位置検出コイルと温度補正抵抗体との物性が異なる場合も想定しております。」、「また、上記引用文献2に記載の対照用コイルは、検出用コイルとの間で磁気的は相互干渉が発生しないように、検出用コイルとは十分離れて配置されているのに対して(段落[0014]をご参照願います。)、本願発明では、上記(A)の下線に示しましたように、温度補正抵抗体は位置検出コイルの近傍に設けられており、温度補正抵抗体を位置検出コイルの近傍に設けることで、温度補正抵抗体を位置検出コイルとほぼ同じ温度環境下に存在することになり、両者の温度差が少なくなり、温度補正の精度を向上させるものであります。このことからも、請求項1に係る発明の「温度補正抵抗体」は、引用文献2の「対照用コイル」に相当するとした、審査官殿のご認定に対して到底承服できません。」と主張している。
しかし、「請求項1に係る発明」が「位置検出コイルと温度補正抵抗体との物性が異なる場合も想定して」いることはそのとおりであろうが、請求項1に係る発明は物性が同じか異なるかについては無限定であって、物性が同じである発明も包含している。本審決はこの点については特に関与するものではないが、念のため付記すれば、物性が同じである該発明について容易想到を説明しようとしたことについて特に不都合な点があるとは考えられない。そして、引用例1発明に温度補償手段として上記の周知事項を適用することは当業者が容易に想到し得たものと認められること、その場合、抵抗体を「位置検出コイル41」の近傍に設けることが望ましいことは当業者に明らかであり、該抵抗体を、引用例1発明の「位置検出コイル41」と同じように「多層構造の銅箔によるプリントパターンで、薄いフィルム状に」構成して、「環状部材44」の壁面に設けるようにすることが適宜採用する程度の設計的事項にすぎないことは、上記のとおりである。

したがって、本願補正発明は、引用例1、2に記載された発明、及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)むすび
本願補正発明について以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、本件補正における他の補正事項を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成21年10月1日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明7」という。)は、平成21年3月27日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
流体が流れる配管内部に配置される、電磁吸引力を発生させるソレノイド部と、
このソレノイド部と一体に設けられ、前記電磁吸引力により前記配管の内壁面に形成されたシート部に接離するバルブを有する弁部と、
前記バルブの位置を検出するバルブ位置検出手段とを備え、
前記バルブ位置検出手段は、磁束を発生させる位置検出コイル及びこの位置検出コイルの近傍に設けられ温度変化に応じて抵抗値が変化する温度補正抵抗体を含む信号処理回路部と、前記位置検出コイルと対向して設けられ、前記磁束を遮蔽するとともに前記バルブの移動に連動して位置検出コイルに対して相対移動する遮蔽体とを有し、
前記信号処理回路部は、前記相対移動に伴う前記位置検出コイルと前記遮蔽体とが重なる面積の変化に応じて変化する前記位置検出コイルのインピーダンスからセンサ出力電圧を出力し、このセンサ出力電圧の値から前記バルブの位置が検出される流体制御用電磁弁であって、
前記信号処理回路部は、前記温度補正抵抗体の温度変化に基づく抵抗値の変化を補正電圧として取り出し、この補正電圧を用いて前記センサ出力電圧の温度補正をするようになっており、
前記位置検出コイル及び前記温度補正抵抗体が壁面に設けられた環状部材、及び前記遮蔽体は、前記配管と同心で配置されているとともに、前記環状部材及び前記遮蔽体の一方が前記弁部に設けられ、前記環状部材及び前記遮蔽体の他方が、前記ソレノイド部または前記配管に設けられていることを特徴とする流体制御用電磁弁。
【請求項2】
前記バルブと前記ソレノイド部との間には、前記バルブの上流側と下流側との間で連通して圧力差を相殺する容積室を有するベローズが設けられており、前記ベローズの外周側に前記環状部材及び前記遮蔽体が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の流体制御用電磁弁。
【請求項3】
前記位置検出コイル及び前記温度補正抵抗体は、同一物性で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の流体制御用電磁弁。
【請求項4】
前記温度補正抵抗体は、導体の、厚み、幅及び長さにより調整された抵抗体であることを特徴とする請求項1?3の何れか1項に記載の流体制御用電磁弁。
【請求項5】
前記位置検出コイル及び前記温度補正抵抗体は、多層導体プリントパターンで構成されていることを特徴とする請求項1?4の何れか1項に記載の流体制御用電磁弁。
【請求項6】
前記多層導体プリントパターンは、多層フレキシブルプリント基板に設けられていることを特徴とする請求項5に記載の流体制御用電磁弁。
【請求項7】
前記配管は、前記流体である空気をエンジンに導く吸気管であることを特徴とする請求項1?6の何れか1項に記載の流体制御用電磁弁。」

3-1.本願発明1について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
引用例1、2、その記載事項、及び周知事項は上記2.に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明1は実質的に、上記2.で検討した本願補正発明の「前記位置検出コイル及び前記温度補正抵抗体は、多層導体プリントパターンで構成されている」という事項を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記2.に記載したとおり、引用例1、2に記載された発明、及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、実質的に同様の理由により、引用例1、2に記載された発明、及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
したがって、本願発明1は引用例1、2に記載された発明、及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.結論
以上のとおり、本願発明1が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願発明2?7について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-10 
結審通知日 2010-05-11 
審決日 2010-05-25 
出願番号 特願2007-160234(P2007-160234)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16K)
P 1 8・ 121- Z (F16K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐伯 憲一  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 藤村 聖子
川上 溢喜
発明の名称 流体制御用電磁弁  
代理人 大宅 一宏  
代理人 曾我 道治  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 上田 俊一  
代理人 梶並 順  
代理人 吉田 潤一郎  
代理人 古川 秀利  

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