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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20056282 審決 特許
不服200625545 審決 特許
不服200523625 審決 特許
不服200611061 審決 特許
不服200627219 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1219697
審判番号 不服2006-25081  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-06 
確定日 2010-07-01 
事件の表示 平成 7年特許願第525910号「肺血管収縮及び喘息を治療する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年10月12日国際公開、WO95/26768、平成 9年12月16日国内公表、特表平 9-512523〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

本願は、平成7年4月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、平成6年4月1日、米国)を国際出願日とする出願であって、拒絶理由に応答して平成18年6月12日付けで手続補正がなされたが、その後、平成18年7月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年11月6日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成18年12月6日付けで手続補正がされたものである。


2.平成18年12月6日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成18年12月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

(1)補正後の本願発明

本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであり、補正前の特許請求の範囲(平成18年6月12日付け手続補正書を参照。):
「【請求項1】
哺乳動物における、気管支収縮もしくは可逆的な肺血管収縮の治療用もしくは予防用の、または、肺におけるガス交換の改善用の薬物を製造するための、ホスホジエステラーゼ阻害剤の使用であって、ホスホジエステラーゼ阻害剤が、吸入されたガス状の一酸化窒素または吸入された一酸化窒素放出化合物の投与の前、最中、又は直後に投与される、使用。
【請求項2】
薬物が、ホスホジエステラーゼ阻害剤および、ガス状の一酸化窒素または一酸化窒素放出化合物を含む、請求項1記載の使用。
【請求項3】
薬物が、吸入による投与に適合化されている、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
阻害剤が、サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼを選択的に阻害する、請求項1?3のいずれか一項記載の使用。
【請求項5】
阻害剤が、2-o-プロポキシフェニル-8-アザプリン-6-オン;1-シクロペンチル-3-メチル-6-(4-ピリジル)-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-(5H)-オン;(+)-6a,7,8,9,9a,10,11,11a-オクタヒドロ-2,5-ジメチル-3Hペンタレン(6a,1,4,5)イミダゾ[2,1-b]プリン-4(5H)-オン;2-フェニル-8-エトキシシクロヘプトイミダゾール;および1-[6-クロロ-4-(3,4-メチレンジオキシベンジル)-アミノキナゾリン-2-y]ピペリジン-4-カルボキシレート セスキハイドレートナトリウムからなる群より選ばれる、請求項1?4のいずれか一項記載の使用。
【請求項6】
哺乳動物が、肺炎、外傷、呼吸又は吸入障害、肺の脂肪塞栓症、アシドーシス、肺の炎症、成人呼吸促進症候群、急性高山病、心臓手術後の急性肺高血圧症、新生児持続性肺高血圧、周産期吸引症候群、ヒアリン膜症、急性肺血栓塞栓症、急性肺水腫、ヘパリン-プロタミン反応、敗血症、低酸素症、喘息、および喘息発作重積状態からなる群から選ばれる臨床状態にあるか、それを発症する危険を有する、請求項1?5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
哺乳動物が、慢性肺高血圧症、気管支肺形成不全、慢性肺血栓塞栓症、特発性肺高血圧症、および慢性低酸素症からなる群より選ばれる臨床状態にあるか、それを発症する危険を有する、請求項1?5のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
ホスホジエステラーゼ阻害剤、ガス状の一酸化窒素または一酸化窒素放出化合物、および噴射剤を含む、薬学的組成物。
【請求項9】
噴射剤が一酸化窒素を含む、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
哺乳動物における、気管支収縮もしくは可逆的な肺血管収縮の治療法もしくは予防法、または、肺におけるガス交換の改善法において使用のために薬物を製造するための、ガス状の一酸化窒素または一酸化窒素放出化合物の使用であって、ガス状の一酸化窒素または一酸化窒素放出化合物が、ホスホジエステラーゼ阻害剤の投与の前、最中、又は直後に吸入される、使用。
【請求項11】
ホスホジエステラーゼ阻害剤が、経口、経粘膜、静脈内、筋肉内、皮下、または腹腔内の経路により哺乳動物に導入される、請求項1、2、4?7、および10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
ホスホジエステラーゼ阻害剤が、ガス状の一酸化窒素または一酸化窒素放出化合物の吸入の前又は直後に投与される、請求項1?7、10、および11のいずれか一項記載の使用。
【請求項13】
ホスホジエステラーゼ阻害剤が、ガス状の一酸化窒素または一酸化窒素放出化合物の吸入の最中に投与される、請求項1?7、10、および11のいずれか一項記載の使用。
【請求項14】
(a)ホスホジエステラーゼ阻害剤を含む小室、および(b)該小室に連結しているルーメンを区切る外枠、ならびに
少なくとも0.1ppmの一酸化窒素を含む圧縮ガスを含む容器であって、該小室に該ガスを制御しつつ放出し、これにより該阻害剤を放出されたガスに懸濁する機構を有する容器
を含む吸入器であって、該ルーメンが、患者の呼吸器系に該放出ガスを導くように形成されている、吸入器。
【請求項15】
阻害剤がサイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ選択的である、請求項14記載の吸入器。
【請求項16】
阻害剤が、2-o-プロポキシフェニル-8-アザプリン-6-オン;1-シクロペンチル-3-メチル-6-(4-ピリジル)-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-(5H)-オン;(+)-6a,7,8,9,9a,10,11,11a-オクタヒドロ-2,5-ジメチル-3Hペンタレン(6a,1,4,5)イミダゾ[2,1-b]プリン-4(5H)-オン;2-フェニル-8-エトキシシクロヘプトイミダゾール;および1-[6-クロロ-4-(3,4-メチレンジオキシベンジル)-アミノキナゾリン-2-y]ピペリジン-4-カルボキシレート セスキハイドレートナトリウムからなる群より選ばれる、請求項15記載の吸入器。
【請求項17】
容器が、小室を迂回しながら、ガスをルーメンに制御しつつ放出する機構をも有する、
請求項14記載の吸入器。」
を、以下の補正後の特許請求の範囲(平成18年12月6日付け手続補正書を参照。):
「【請求項1】
哺乳動物における、気管支収縮もしくは可逆的な肺血管収縮の治療用もしくは予防用の、または、肺におけるガス交換の改善用の薬物を製造するための、サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ阻害剤の使用であって、サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ阻害剤が、ガス状の一酸化窒素または一酸化窒素放出化合物の吸入と組み合わせて投与される、使用。
【請求項2】
薬物が、サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ阻害剤および、ガス状の一酸化窒素または一酸化窒素放出化合物を含む、請求項1記載の使用。
【請求項3】
薬物が、吸入による投与に適合化されている、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
阻害剤が、2-o-プロポキシフェニル-8-アザプリン-6-オン;1-シクロペンチル-3-メチル-6-(4-ピリジル)-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-(5H)-オン;(+)-6a,7,8,9,9a,10,11,11a-オクタヒドロ-2,5-ジメチル-3Hペンタレン(6a,1,4,5)イミダゾ[2,1-b]プリン-4(5H)-オン;2-フェニル-8-エトキシシクロヘプトイミダゾール;および1-[6-クロロ-4-(3,4-メチレンジオキシベンジル)-アミノキナゾリン-2-y]ピペリジン-4-カルボキシレート セスキハイドレートナトリウムからなる群より選ばれる、請求項1?3のいずれか一項記載の使用。
【請求項5】
哺乳動物が、肺炎、外傷、呼吸又は吸入障害、肺の脂肪塞栓症、アシドーシス、肺の炎症、成人呼吸促進症候群、急性高山病、心臓手術後の急性肺高血圧症、新生児持続性肺高血圧、周産期吸引症候群、ヒアリン膜症、急性肺血栓塞栓症、急性肺水腫、ヘパリン-プロタミン反応、敗血症、低酸素症、喘息、および喘息発作重積状態からなる群から選ばれる臨床状態にある、請求項1?4のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
哺乳動物が、慢性肺高血圧症、気管支肺形成不全、慢性肺血栓塞栓症、特発性肺高血圧症、および慢性低酸素症からなる群より選ばれる臨床状態にある、請求項1?4のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
哺乳動物における、気管支収縮もしくは可逆的な肺血管収縮の治療もしくは予防における使用、または、肺におけるガス交換の改善における使用のための、サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ阻害剤、ガス状の一酸化窒素または一酸化窒素放出化合物、および噴射剤を含む、薬学的組成物。
【請求項8】
噴射剤が一酸化窒素を含む、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
哺乳動物における、気管支収縮もしくは可逆的な肺血管収縮の治療用もしくは予防用、または、肺におけるガス交換の改善用の薬物を製造するための、ガス状の一酸化窒素または一酸化窒素放出化合物の使用であって、ガス状の一酸化窒素または一酸化窒素放出化合物が、サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ阻害剤の投与と組み合わせて吸入される、使用。
【請求項10】
サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ阻害剤が、経口、経粘膜、静脈内、筋肉内、皮下、または腹腔内の経路により哺乳動物に導入される、請求項1、2、4?6、および9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ阻害剤が、ガス状の一酸化窒素または一酸化窒素放出化合物の吸入の最中に投与される、請求項1?6、9、および10のいずれか一項記載の使用。
【請求項12】
(a)サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ阻害剤を含む小室、および(b)該小室に連結しているルーメンを区切る外枠、ならびに少なくとも0.1 ppmの一酸化窒素を含む圧縮ガスを含む容器であって、該小室に該ガスを制御しつつ放出し、これにより該阻害剤を放出されたガスに懸濁する機構を有する容器を含む吸入器であって、該ルーメンが、患者の呼吸器系に該放出ガスを導くように形成されている、吸入器。
【請求項13】
阻害剤が、2-o-プロポキシフェニル-8-アザプリン-6-オン;1-シクロペンチル-3-メチル-6-(4-ピリジル)-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-(5H)-オン;(+)-6a,7,8,9,9a,10,11,11a-オクタヒドロ-2,5-ジメチル-3Hペンタレン(6a,1,4,5)イミダゾ[2,1-b]プリン-4(5H)-オン;2-フェニル-8-エトキシシクロヘプトイミダゾール;および1-[6-クロロ-4-(3,4-メチレンジオキシベンジル)-アミノキナゾリン-2-y]ピペリジン-4-カルボキシレート セスキハイドレートナトリウムからなる群より選ばれる、請求項12記載の吸入器。
【請求項14】
容器が、小室を迂回しながら、ガスをルーメンに制御しつつ放出する機構をも有する、
請求項12記載の吸入器。」
に補正するものである。(下線部分が変更箇所である。)
上記補正は、補正前の請求項1の「ホスホジエステラーゼ阻害剤」を「サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ阻害剤」に、補正前の請求項6、7の、「臨床状態にあるか、それを発症する危険を有する」のうち、「それを発症する危険を有する」を削除し、「臨床状態にある」に、補正前の請求項8の薬学的組成物の用途を「哺乳動物における、気管支収縮もしくは可逆的な肺血管収縮の治療もしくは予防における使用、または、肺におけるガス交換の改善における使用のための、」と限定したもの、補正前の請求項1の「吸入されたガス状の一酸化窒素又は吸入された一酸化窒素放出化合物の投与の前、最中、又は直後に投与される」を、「ガス状の一酸化窒素または一酸化窒素放出化合物の吸入と組み合わせて投与される」と補正したもの、並びに、補正前の請求項12の削除であり、それぞれ、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮、明瞭でない記載の釈明、請求項の削除を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(2)引用例

原査定の拒絶の理由に引用されたTIMOTHY J. McMAHON et al., J Appl Physiol, 1993, Vol.74, No.4, p.1704-1711(以下、引用例Aという。)には、次の事項が記載されている。(英文のため翻訳文で示す。)

(a-1)cGMP特異的ホスホジエステラーゼ阻害剤であるザプリナストの影響を、ネコの肺血管床において、血流を制御し、一定の左心房圧下で詳細に調べた。ザプリナストを還流した肺動脈に投与すると、全身血圧と左心房圧を変えることなく、肺動脈圧を少し減少させた。U-46119で圧を上昇させておくと、ザプリナストは、左心房圧を変えることなく、肺動脈圧を容量依存的により大きく減少させた。肺動脈圧の減少は、NO合成酵素酵素阻害薬L-NAMEやグアニルシクラーゼ阻害薬のメチレンブルーで減少した。昇圧条件下において、…NO溶液、S-ニトロソチオール[S-ニトロソ-N-アセチルペニシラミン(SNAP)とS-ニトロソ-L-システイン(CysNO)]を肺動脈に注射すると、容量依存的に肺動脈圧を下げた。ザプリナスト処理の後に、遠心性迷走神経刺激、内皮細胞由来血管拡張剤、ニトロ系血管拡張剤による肺動脈圧の減少は変化しなかったが、半減期で測定した血管拡張反応の持続時間は有意に増加した。…。このことから、肺におけるcGMPの加水分解は早く、内皮由来のNOは、基礎のcGMP産生の刺激において、そして、血管緊張において重要であることを示唆する。これらのデータは、内皮細胞由来血管拡張剤やニトロ系血管拡張剤に対する反応は、cGMPレベルの増加に依存するという概念を支持するものである。(p.1704左欄第4行?第35行)

(a-2) ニトロ系血管拡張剤の反応に及ぼすザプリナストの影響
NO、CysNO、そしてSNAPの血管拡張反応に及ぼすザプリナストの作用を、血管床において詳細に調べ、データを図3に要約した。NO溶液、S-ニトロソチオールCysNO、そしてSNAPの注射は、肺動脈圧を用量依存的に下げた。ザプリナストの注射(3mg/kg iv)により、左心房圧を変えることなく、肺動脈圧と全身動脈圧は有意に下がった。…。ザプリナスト(3mg/kg iv)投与後、NO、CysNO、そしてSNAPによる肺動脈圧の減少は有意な変化を受けなかった。しかしながら、半減期で測定したNO、CysNO、そしてSNAPによる血管拡張反応の持続時間はザプリナスト処理により有意に増加した。(p.1706右欄第39行?p.1707右欄第10行、図3)

(a-3)ザプリナストを3mg/kg ivの用量で投与すると、…ニトロ系血管拡張剤であるNO、CysNO、そしてSNAPの作用持続時間を有意に延長した一方、これらの薬物による肺動脈圧の減少ピークは有意な変化を受けなかった。(p.1709右欄第22行?第27行)

(a-4)ザプリナストは、血管拡張作用を有する上に、血管内皮依存性血管拡張剤とニトロ系血管拡張剤に対する反応持続時間を延長する作用も有する。これらの結果は、NO刺激によるグアニレートシクラーゼの活性化とcGMPの産生は、肺における基礎の血管緊張の維持において重要であるかもしれないことを示唆する。これらのデータは、cGMPの加水分解が、血管内皮依存性血管拡張剤とニトロ系血管拡張剤のネコ肺血管床における作用の制限において重要であることを示唆する。(p.1710右欄第3行?第12行)

(3)対比・判断

引用例Aには、サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ阻害剤であるザプリナストが肺動脈圧の減少作用を有すること、また、ザプリナスト(3mg/kg iv)を肺動脈に注射すると、ニトロ系血管拡張剤である一酸化窒素、S-ニトロソチオール[S-ニトロソ-N-アセチルペニシラミン(SNAP)とS-ニトロソ-L-システイン(CysNO)]の肺動脈注射時における肺血管拡張作用の持続時間を有意に延長したことが記載されている(上記摘記事項(a-1)?(a-4))。
そうすると、引用例Aには、「ザプリナストの使用であって、ザプリナストが、一酸化窒素、SNAPまたはCysNOの肺動脈注射と組み合わせて投与される、使用。」が記載されているものと認められる。(これを以下、「引用発明」という。)

そこで、本件補正発明と引用発明とを対比する。

(i)ザプリナストは、2-o-プロポキシフェニル-8-アザプリン-6-オンの慣用名である。

(ii)SNAPまたはCysNOは、一酸化窒素放出化合物である。

よって、両者は、
「サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ阻害剤の使用であって、サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ阻害剤が、一酸化窒素または一酸化窒素放出化合物と組み合わせて投与される、使用。」である点で一致し、(イ)本願発明は、哺乳動物における、可逆的な肺血管収縮の治療用もしくは予防用の薬物を製造するためのものであるのに対して、引用発明は、そのような特定をしていない点、(ロ)本願発明は、サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ阻害剤が、ガス状の一酸化窒素または一酸化窒素放出化合物の吸入と組み合わせて投与されるのに対して、引用発明は、一酸化窒素溶液または一酸化窒素放出化合物の肺動脈注射と組み合わせて投与される点で相違する。

そこで、上記相違点(イ)について検討する。
肺動脈圧の減少作用や肺血管拡張作用を有する薬物は、肺血管収縮の治療用もしくは予防用に一般的に用いられており、サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ阻害剤を、哺乳動物における、可逆的な肺血管収縮の治療用もしくは予防用の薬物を製造するためのものとすることは、当業者が容易になし得ることである。

次に、上記相違点(ロ)について検討する。
一酸化窒素は一酸化窒素合成酵素により血管内皮細胞において合成されるが、一酸化窒素は脂溶性であるため隣接する血管平滑筋細胞内にすぐに拡散し、そこで可溶性グアニレートシクラーゼを活性化し、サイクリックGMPを産生すること、そしてこのサイクリックGMPが血管拡張を仲介すること、また、一酸化窒素の吸入によって肺血管を拡張させることができることは、本願出願前より当業者に周知の事実である(必要があれば、引用例Aの第1704頁左欄下から第6行目?右欄第1行目,参考文献1:Geggel RL, J. Pediatr., 1993, 123, 1, p.76-79,参考文献2:Warren M. Zapol et al, CHEST, March 1994, 105, 3, Supplement, p.87S-91S参照のこと。)ことからすれば、一酸化窒素の吸入によって得られる肺血管拡張作用は、一酸化窒素が肺血管の平滑筋細胞内においてグアニレートシクラーゼを活性化し、産生されたサイクリックGMPを介して奏されたものであることは、技術常識から明らかである。
そして、引用例Aに記載される肺動脈注射された一酸化窒素、SNAPまたはCysNOは、血管壁から血管平滑筋細胞内に吸収され、血管平滑筋細胞内においてサイクリックGMPを産生したことによって血管拡張作用を奏し、同様に、ザプリナストも血管平滑筋細胞内においてサイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼを阻害したことにより、一酸化窒素、SNAPまたはCysNOによる肺血管拡張作用の持続時間を有意に延長したものであると認められる。そうすると、ザプリナストは、一酸化窒素、SNAPまたはCysNOの投与経路が肺動脈注射であるか否かによらず、吸入した場合と同様に血管平滑筋細胞に作用し、これらの薬物による肺血管拡張作用の持続時間を有意に延長し得るものであると認められる。
そうしてみると、当該技術分野において、肺への吸入が、全身的な副作用をさけ、肺における局所的な作用効果を得るために有利な投与方法であることは周知であるから、引用発明において、肺動脈注射に代えて投与方法として吸入を選択し、サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ阻害剤が、ガス状の一酸化窒素または一酸化窒素放出化合物の吸入と組み合わせて投与されるものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

また、本願発明の効果についてみても、一酸化窒素吸入とザプリナスト注射を組み合わせたことでcGMP濃度の増加に加えて、PVR減少の大きさ及びPVR変化の平均の増加という効果が奏されたとしても、本願明細書の記載から、平均PAPの降圧の程度は一酸化窒素吸入とザプリナストとの併用によって影響されなかったものとが認められ、本願発明が、肺血管収縮の治療剤という医薬用途において、引用例Aから予測し得ない格別顕著な効果を奏するものとは認められない。

したがって、本件補正発明は、引用例Aに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび

したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.本願発明について

平成18年12月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成18年6月12日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの以下のものである。
「【請求項1】
哺乳動物における、気管支収縮もしくは可逆的な肺血管収縮の治療用もしくは予防用の、または、肺におけるガス交換の改善用の薬物を製造するための、ホスホジエステラーゼ阻害剤の使用であって、ホスホジエステラーゼ阻害剤が、吸入されたガス状の一酸化窒素または吸入された一酸化窒素放出化合物の投与の前、最中、又は直後に投与される、使用。」

(1)引用例

原査定の拒絶の理由に引用された引用例A及びそれらの記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断

本願発明は、前記2.で検討した本件補正発明である「サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ阻害剤の使用」を包含する「ホスホジエステラーゼ阻害剤の使用」であるから、前記「2.(3)」に記載した理由と同じ理由で、引用例Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび

以上のとおりであるから、本願の請求項1に記載された発明は、本願出願前国内において頒布されたことが明らかな引用例Aに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論究するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-04 
結審通知日 2010-02-08 
審決日 2010-02-19 
出願番号 特願平7-525910
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松浦 安紀子榎本 佳予子  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 弘實 謙二
上條 のぶよ
発明の名称 肺血管収縮及び喘息を治療する方法  
代理人 清水 初志  

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