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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09J
管理番号 1220229
審判番号 不服2007-2322  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-18 
確定日 2010-07-15 
事件の表示 平成9年特許願第32003号「フィルム状接着剤及び接続方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年8月25日出願公開、特開平10-226769〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成9年2月17日の出願であって、平成18年9月6日付けで拒絶理由が通知された後、平成18年11月13日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月12日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成19年1月18日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに同年2月19日付けで手続補正書が提出され、その後、平成21年5月13日付けで審尋がされ、同年7月21日に回答書が提出され、同年12月8日付けで平成19年2月19日付けの手続補正が却下されるとともに拒絶理由が通知され、平成22年2月15日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成22年2月15日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、以下に記載のとおりのものであると認められる。
「相対向する回路電極間に介在され、相対向する回路電極を加圧し加圧方向の電極間を電気的に接続する回路接続用フィルム状接着剤であって、少なくともエポキシ樹脂、アクリルゴム、フェノキシ樹脂、潜在性硬化剤を含有する接着剤樹脂組成物100重量部に無機質充填材を10?200重量部含有してなる接着剤層1と少なくともエポキシ樹脂、アクリルゴム、フェノキシ樹脂、潜在性硬化剤を含有する接着剤樹脂組成物を主成分としてなり無機質充填材を含まない接着剤層2を備えた多層構成であり、接着剤層2の接着剤樹脂組成物に導電粒子が0.1?30体積%含有されており、且つ、接着剤層2の接着剤樹脂組成物に含有されている導電粒子の平均粒径が無機充填材の平均粒径に比べて大きく、接着剤層1及び/又は接着剤層2の接着剤樹脂組成物の硬化後の40℃での弾性率が30?1500MPaであることを特徴とするフィルム状接着剤。」(以下、「本願発明」という。)

第3 当審で通知した拒絶理由の概要
当審で通知した拒絶理由の概要は、この出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に基いて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
そして、引用された刊行物は、次の刊行物1?4である。
刊行物1 国際公開第96/42107号パンフレット
刊行物2 特開昭62-177082号公報
刊行物3 特開平3-223380号公報
刊行物4 特開平2-206670号公報

第4 当審の判断
1 刊行物及びその記載事項
(1) 刊行物1(国際公開第96/42107号パンフレット)
本願出願前に頒布された刊行物1である「国際公開第96/42107号パンフレット」(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(1-1)「半導体チップを、チップ表面を下側にして配線基板に接続搭載してなる半導体装置において、前記半導体チップの接続パッド部が、該チップのパッシベーション膜表面より低く凹んでおり、前記配線基板の接続端子部には、少なくとも配線部よりも高い突起状の金属バンプ部が設けられており、前記接続パッド部と前記突起状金属バンプ部との間、および、前記半導体チップの表面の全面あるいは一部と、配線基板の該半導体チップに対向する部位の表面との間が、有機異方性導電接着材料にて接合および接着固定されていることを特徴とする半導体装置。」(請求の範囲の【請求項1】)
(1-2)「請求項1に記載の半導体装置において、前記有機異方性導電接着材料は、前記半導体チップ面に接する面側に配置され、有機マトリクスのみからなる、あるいは有機マトリクスに無機充填材粒子が分散された組成物からなる第1の層と、前記配線基板の前記接続端子側に配置され、有機マトリクスに導電性粒子が分散された組成物からなる第2の層とからなる2層構造の異方性導電接着フィルムであることを特徴とする半導体装置。」(請求の範囲の【請求項3】)
(1-3)「チップのボンディングパッド部(接続パッド部)と突起状の金属バンプを有する配線基板端子部とは有機異方性導電接着材料により接合され、異方性導電接着材料に含有される微細な導電粒子(数?20数個/バンプ)を介して電気的な導通性が確保されるが、隣の端子部への導通は粒子間に存在する絶縁性のマトリックス樹脂により電気導電性はなく、圧着方向のみの異方導電性が確保される。」(8頁20行?9頁2行)
(1-4)「さらに、半導体チップとの熱膨張係数の差による応力を低減するためマトリックス樹脂の線膨張係数ならびに弾性率を下げる目的をもって、異方性導電性に差し支えのない分量だけマトリックス樹脂に石英など無機充填材やエラストマー等の弾性体微粒子を配合・分散させてもよい。常温で液状のものでも差し支えはないが、予めフィルム状に成形された異方性導電フィルムのほうが扱い易く、接着時にボイドが出来にくく、信頼性に優れる。」(9頁11?18行)
(1-5)「有機異方性導電接着材料のマトリックス樹脂は、加圧方向の電極間を電気的に接続する接着(接合)後の40℃での弾性率が100?1500MPaであるものが好ましい。」(9頁19?21行)
(1-6)「フィルム形成は、これら少なくともエポキシ樹脂、アクリルゴム、フェノキシ樹脂、潜在性硬化剤からなる接着組成物と導電粒子を有機溶剤に溶解あるいは分散により液状化して、剥離性基材上に塗布し、硬化剤の活性温度以下で溶剤を除去することにより行われれる。」(11頁5?9行)
(1-7)「以上のように有機異方性導電接着材料のマトリックス樹脂として、接続後の40℃での弾性率が100?1500MPaの樹脂を使用すれば、熱衝撃、PCTやはんだバス浸漬試験などの信頼性試験において生じる内部応力を吸収できるため、チップと基板の熱膨張係数差が大きい場合での接続後のチップ及び基板の反りが小さく、信頼性試験後においても接続部での接続抵抗の増大や接着剤の剥離がなく、接続信頼性が向上する。従って、ICチップとプリント基板とを接続時の加圧方向にのみ電気的に接続する場合に好都合である。」(11頁12?21行)
(1-9)「上記した導電性粒子は異方性導電性を確保するには少なくとも平均粒子径にして0.5?20μm(より望ましくは1?20μm)、有機マトリックスに対して体積比0.1?30vol%(より望ましくは0.2?15vol%)の範囲内で配合・分散することが望ましい。」(12頁5?10行)
(1-10)「ただし、有機異方性導電接着材料が加熱圧着される際に導電粒子がマトリックス樹脂とともにチップ表面を流動するので、チップ表面の損傷を避けるためには、2層構造の異方性導電フィルムを使用するのが望ましい。チップ面側はマトリックス樹脂のみか、あるいは、粒子断面が球形に近い微細石英などの無機充填剤を分散させた層であり、基板側の層は上記した金属粒子、樹脂粒子に金属をめっきした粒子、あるいは金属粒子に極薄の有機絶縁膜を被覆した粒子のいずれかを分散させた層からなる2層構造の異方性導電フィルムを用いるのがよいことを見いだした。
マトリックス樹脂が接続後の40℃での弾性率が100?1500MPaの樹脂を使用した有機異方性導電接着材料としては、マトリックス樹脂に導電性粒子を分散させた単層構造であっても、マトリックス樹脂のみからなるかマトリックス樹脂に無機充填材粒子を分散させた層とマトリックス樹脂に導電性粒子を分散させた層との2層構造のものであっても良い。」(12頁11行?13頁3行)
(1-11)「有機異方性導電接着材料による、基板端子部の微細金属バンプとバンプレスの半導体チップのボンディングパッド部(接続パッド部)との接合部の断面図を図2に示す。
図2において、2-1は半導体チップ(バンプなしICチップ)、2-2はボンディングパッド部、2-3はパッシベーション膜、2-4は異方性導電フィルム1層目(導電粒子無分散層)、2-5は異方性導電フィルム2層目(導電粒子分散層)、2-6は導電性粒子、2-7は金属突起バンプ付き基板端子部、2-8は配線基板、2-9ははんだボール、2-10は封止材である。」(17頁19行?18頁4行)

(2) 刊行物2(特開昭62-177082号公報)
本願出願前に頒布された刊行物である「特開昭62-177082号公報」(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。
(2-1)「マトリックス樹脂を接着成分として、該マトリックス樹脂中に、表面が金属で被覆された有機ポリマの粒子が1重量%から30重量%とシリカ微粒子が1重量%から30重量%含有することを特徴とする異方導電性接着剤。」(特許請求の範囲の第1項)
(2-2)「シリカ微粒子の一次粒子平均径が4ミリミクロンから200ミリミクロンであることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項記載の異方導電性接着剤。」(特許請求の範囲の第3項)
(2-3)「本発明は、電気部品の組立て、特に電気部品と回路基板との接続、あるいは、回路基板相互間の接続に関するものである。さらに詳しくは、液晶ディスプレーとFPC、PCB、あるいは、フラットケーブルとの接続、液晶ディスプレーを構成するガラス基板への裸のICチップの直接搭載をはじめとする表面装置型部品の回路基板への搭載、フラットケーブル、FPC、およびPCBの同種あるいは異種相互間接続などに適した異方導電性接着剤に関するものである。」(1頁左下欄19行?右下欄8行)
(2-4)「本発明に用いられるシリカ微粒子は、透明性に優れていること、電気絶縁性が良いことが必要である。これらのシリカ微粒子としては、市販のオルガノゾル、水性シリカゾル等のコロイド状シリカ微粒子や、コロイド状シリカ微粒子が、凝集したアエロジルなど、あるいは、これらの混合物等が用いられるが、勿論ここに挙げたものに限定されるものではない。シリカ微粒子の一次微粒子平均径は、4ミリミクロンから200ミリミクロン、より好ましくは、4ミリミクロンから70ミリミクロンのものが好適である。シリカ粒子の量は、1重量%から30重量%、より好ましくは、2重量%から10重量%が好適である。使用量が上記より以下では、接続体の温度上昇時に電気接続がとだえやすい。また、上記より以上では、異方導電性接着剤と接着する被着部品間の接着力が弱くなるという問題がある。」(2頁右下欄16行?3頁左上欄14行)

(3)刊行物3の記載事項
本願出願前に頒布された刊行物である「特開平3-223380号公報」(以下、「刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。
(3-1)「接着樹脂と、電気伝導性を有するとともに略均一な粒子型を有する導電フィラーと、電気絶縁性を有するとともに熱伝導率が前記接着樹脂より高いものであって、前記導電フィラーの粒子径より小さい粒子径を有する熱伝導フィラーとを混合して成ることを特徴とする異方性導電接着剤。」(特許請求の範囲の請求項1)
(3-2)「前記異方性導電接着剤の熱膨張率と被接着体の熱膨張率とが略一致する量の前記熱伝導フィラーを前記異方性導電接着剤に混合したことを特徴とする請求項1記載の異方性導電接着剤。」(特許請求の範囲の請求項2)
(3-3)「〈作用〉上記構成の異方性導電接着剤は、電気絶縁性を有するとともに、熱伝導率が接着樹脂よりも高くかつ導電フィラーの粒子径より小さい粒子径を有する熱伝導フィラーを混合したことにより、異方性導電接着剤を用いて接着した半導体素子より発生した熱を伝導して、半導体素子の温度上昇を防止する。又熱伝導フィラーの混合量を調節して異方性導電接着剤の熱膨張率を被接着体の熱膨張率に略-致させたことにより、異方性導電接着剤と被接着体との熱膨張差により異方性導電接着剤と被接着体との剥離を防止する。更に接着樹脂が被接着体どうしを接着するとともに導電フィラーが電極どうしを電気的に接続する。」(2頁右上欄19行?左下欄14行)
(3-4)「前記熱伝導フィラーは、電気絶縁性を有するとともに、前記接着樹脂よりも熱伝導性に優れていてかつ前記導電フィラーの粒子径より小さい粒子径を有する粒子が用いられる。この粒子には酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))や窒化アルミニウム(AlN)等が用いられる。」(2頁右下欄6?11行)
(3-5)「以上、説明したように本発明によれば、異方性導電接着剤に熱伝導フィラーを混入したので、異方性導電接着剤の熱伝導率を高めることができる。よって発熱量が大きい半導体素子を接着によって回路基板に接続することができるとともに、発熱による半導体素子の動作不良を防止できる。又熱伝導フィラーの混合率をかえて異方性導電接着剤の熱伝導率を半導体素子等の被接着体の熱伝導率に近づけたので、被接着体の温度が上昇して熱膨張を起こした場合の電極接続部の応力を小さくできる。よって電気的接続不良が防止できる。」(3頁左下欄6?18行)

(4)刊行物4の記載事項
本願出願前に頒布された刊行物である「特開平2-206670号公報」(以下、「刊行物4」という。)には、次の事項が記載されている。
(4-1)「絶縁性の接着剤成分、導電性フィラー及び絶縁性のある熱伝導性フィラーからなる回路接続用の接着剤組成物において、該熱伝導性フィラーが下記の(イ)?(ハ)の条件を満足するものであり、かつ該熱伝導性フィラーを3?50体積%含有することを特徴とする回路接続用接着剤組成物。
(イ)平均粒径が1mμm?50μmであり、かつ、導電性フィラーの平均粒径に対する比が0.02?0.95の範囲であること、(ロ)熱伝導率が0.001cal/cm・sec・℃以上であること、及び(ハ)体積固有抵抗が1×10^(8)Ω・cm以上であること。」(特許請求の範囲の請求項1)
(4-2)「本発明において用いられる熱伝導性フィラーの物質名を、限定ではなく単に例示の目的で示すと、例えば、窒化ケイ素(Si_(3)N_(4))・・・アルミナ(Al_(2)O_(3))等の無機質系フィラー等を挙げることができる。」(3頁左下欄5?14行)
(4-3)「この接着剤組成物中の各構成成分の作用関係を下記に示す。すなわち接着剤成分は、回路との接着性を付与し、また導電性フィラー及び熱伝導性フィラーの保持体として作用するものと考えられる。導電性フィラーは、加圧により接続回路間での導電性を付与し、その添加量及び粒径の管理により隣接回路間での絶縁性を付与するものと考えられる。熱伝導性フィラーは、回路接続間の熱伝導性を向上させる働きをし、電気部品として実装し、通電した際、接続部に発生した熱をフレキシブル配線板、配線基板等の電極例えば銅回路、そのめっき回路等を介して放熱させ、その結果接続部への蓄熱の防止効果が増進するものと考えられる。上記の作用により蓄熱量が低下するため、接着剤成分の軟化、変形等を防止することができ、接続信頼性向上を図ることが可能となった。更に、相対峙する電極の接続時においては、熱伝導性フィラーが接着剤成分の熱伝導性を向上するため、厚み方向の熱伝達が急速に進み効率的な接続が可能となった。」(4頁右上欄4行?左下欄5行)
(4-4)「実施例4?9及び比較例2
導電性フィラー〔B〕及び熱伝導性フィラー〔C〕として第1表に示したものを用いた以外は実施例1?3と同様にして組成物を作製し、特性を評価した。
すなわち第1表において〔B〕のAuコートPstとは、平均粒径6μmの架橋ポリスチレン粒子の表面にNiを無電解めっきにより構成し、更にAuの置換めっきを行い約0.2μmの金属層を形成したものである。〔C〕としては、キョーワマグ150B(酸化マグネシウム、協和化学工業株式会社製商品名)(平均粒径:0.05μm、熱伝導率:0.17cal/cm・sec/℃、体積固有抵抗:l×l0^(15)Ω・cm)を 使用した。
実施例10?12
接着剤成分〔A〕を下記の熱硬化型に代え、導電性フィラー〔B〕をAuコートPstに代え、熱伝導性フィラー〔C〕をアルミナ(昭和アルミ株式会社製AL43PC)(平均粒径:0.7μm、熱伝導率0.086cal/cm・sec/℃、体積固有抵抗:l×10^(15)Ω・cm)に代えた以外は、実施例1?3と同様に接着剤組成物を作製した。」(5頁左上欄7行?右上欄9行)

2 刊行物に記載された発明
刊行物1には「半導体チップを、チップ表面を下側にして配線基板に接続搭載してなる半導体装置・・・」(摘示(1-1))及び「請求項1に記載の半導体装置において、前記有機異方性導電接着材料は、前記半導体チップ面に接する面側に配置され、・・・有機マトリクスに無機充填材粒子が分散された組成物からなる第1の層と、前記配線基板の前記接続端子側に配置され、有機マトリクスに導電性粒子が分散された組成物からなる第2の層とからなる2層構造の異方性導電接着フィルム・・・」(摘示(1-2))に関する発明が記載されている。
してみると、刊行物1には、
「半導体チップを、チップ表面を下側にして配線基板に接続搭載してなる半導体装置において、有機異方性導電接着材料は、前記半導体チップ面に接する面側に配置され、有機マトリクスに無機充填材粒子が分散された組成物からなる第1の層と、前記配線基板の前記接続端子側に配置され、有機マトリクスに導電性粒子が分散された組成物からなる第2の層とからなる2層構造の異方性導電接着フィルム。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3 本願発明と引用発明との対比
まず、引用発明における半導体チップと配線基板は、本願発明における「相対向する回路電極」に対応することは明らかである。また、引用発明における電極間の接続の態様は、「ICチップ(審決注.「半導体チップ」と同義)とプリント基板(審決注.「配線基板」と同義)とを接続時の加圧方向にのみ電気的に接続する」(摘示(1-7))ことを考慮すると、「相対向する回路電極を加圧し加圧方向の電極間を電気的に接続する」に対応する。そして、引用発明における「異方性導電接着フィルム」は、本願発明における「回路接続用フィルム状接着剤」及び「フィルム状接着剤」に対応することは明らかである。
また、「有機異方性導電接着材料のマトリックス樹脂は、加圧方向の電極間を電気的に接続する接着(接合)後の40℃での弾性率が100?1500MPaであるものが好ましい。」(摘示(1-5))のであるから、引用発明における「有機異方性導電接着材料」及び「有機マトリクス」は、本願発明における「接着剤」に対応する。そして、引用発明における「無機充填材粒子」及び「導電性粒子」は、本願発明における「無機質充填材」及び「導電粒子」に対応する。
してみると、本願発明と引用発明とは、本願発明の記載ぶりに合わせると、
「相対向する回路電極間に介在され、相対向する回路電極を加圧し加圧方向の電極間を電気的に接続する回路接続用フィルム状接着剤であって、接着剤樹脂組成物に無機質充填材を含有してなる接着剤層1と接着剤樹脂組成物を主成分としてなり無機質充填材を含まない接着剤層2を備えた多層構成であり、接着剤層2の接着剤樹脂組成物に導電粒子が含有されているフィルム状接着剤。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(1) 接着剤層1における接着剤樹脂組成物と無機質充填材の量比について、本願発明が、「接着剤樹脂組成物100重量部に無機質充填材を10?200重量部含有してなる」と規定するのに対し、引用発明においてはかかる規定は特になされていない点
(2) 接着剤層2における導電粒子の量について、本願発明が「接着剤層2の接着剤樹脂組成物に導電粒子が0.1?30体積%含有されており」と規定するのに対し、引用発明においてはかかる規定は特になされていない点
(3) 本願発明が「接着剤層2の接着剤樹脂組成物に含有されている導電粒子の平均粒径が無機充填材の平均粒径に比べて大きく」と規定するのに対し、引用発明においてはかかる規定は特になされていない点
(4) 本願発明が「接着剤層1及び/又は接着剤層2の接着剤樹脂組成物の硬化後の40℃での弾性率が30?1500MPaである」と規定するのに対し、引用発明においてはかかる規定は特になされていない点
(5) 接着剤層1と接着剤層2の接着剤樹脂組成物について、本願発明が「少なくともエポキシ樹脂、アクリルゴム、フェノキシ樹脂、潜在性硬化剤を含有する」と規定するのに対し、引用発明においてはかかる規定は特になされていない点
(以下、これらの相違点を、それぞれ「相違点(1)」ないし「相違点(5)」という。)

4 相違点についての判断
(1) 相違点(1)について
引用発明1の摘示(1-4)には、「半導体チップとの熱膨張係数の差による応力を低減するためマトリックス樹脂の線膨張係数ならびに弾性率を下げる目的をもって、異方性導電性に差し支えのない分量だけマトリックス樹脂に石英など無機充填材やエラストマー等の弾性体微粒子を配合・分散させてもよい。」と記載されており、半導体チップとの熱膨張係数の差による応力を低減するため、マトリックス樹脂の線膨張係数を下げる目的をもって、異方性導電性に差し支えのない分量だけマトリックス樹脂に石英など無機充填材やエラストマー等の弾性体微粒子を配合・分散させてもよいことが記載されている。
また、刊行物2において、異方導電接着剤において、接続体の温度の上昇時に電気接続がとだえやすい、異方導電接着剤と接着する被着部品間の接着力が弱くなるという問題を回避し、安定な接続を得るために、マトリックス樹脂である接着剤の1?30重量%のシリカ(当審注.無機充填材の一種)を含有させることが記載されている(摘示(2-1)、(2-4))。
してみると、引用発明においても、刊行物2を参酌することにより、接着剤層1における接着剤樹脂組成物と無機質充填材の量比について、半導体チップとの熱膨張係数の差による応力を低減するため、マトリックス樹脂の線膨張係数を下げる目的をもって、マトリックス樹脂、即ち、接着剤の10?30重量%のシリカを含有させる、すなわち、「接着剤樹脂組成物100重量部に無機質充填材を10?30重量部含有してなる」と規定することは当業者が容易になし得ることである。

(2) 相違点(2)について
引用発明においては、導電性粒子の異方性導電性を確保するために、有機マトリックスに対して体積比0.1?30vol%、即ち、0.1?30体積%の範囲内で配合・分散することが望ましいと記載されている(摘示(1-9))。
したがって、接着剤層2における導電粒子の量について、本願発明が「接着剤層2の接着剤樹脂組成物に導電粒子が0.1?30体積%含有されており」と規定する点は実質的な相違点とはならないし、しかも、導電性粒子の異方性導電性を確保するために適当な数的範囲を、導電粒子の量が、接着剤樹脂組成物の0.1?30体積%含有されていると規定することは当業者が容易になし得ることである。

(3) 相違点(3)について
導電粒子の平均粒径と無機充填材の平均粒径は当業者が好ましい物性値を得るために適宜設定し得る技術事項である。しかも、二層構造の異方導電接着剤は接続時においては、バンプによる加圧により導電性粒子が導電粒子分散層側から、無機充填材分散層側に移動することにより両電極(半導体チップの接続パッド部、基板の金属バンプ部)に接触して両電極が導通するのであり、無機充填材の平均粒径が導電粒子の平均粒径よりも小さくなければ、両電極に導電性粒子が十分に接触できないことは明らかである(注.刊行物1の図2において、ボンディングパッド部(2-2)と金属突起バンプ付き基板端子部(2-7)が導電性粒子(2-6)を介して電気的に接続している図も参照されたい。仮に、接着剤層2の接着剤樹脂組成物に含有されている導電粒子の平均粒径が無機充填材の平均粒径に比べて小さければ、ボンディングパッド部(2-2)と金属突起バンプ付き基板端子部(2-7)が導電性粒子(2-6)を介して電気的に接続できないことは明らかである。)から、そもそも、導電粒子の平均粒径の方が無機充填材の粒径よりも大きいものを用いることは当然のことである。
実際、異方導電性接着剤において、導電性粒子の平均粒径が無機充填材の平均粒子径よりも大きいものを用いることは、例えば、刊行物3及び4(摘示(3-1)、(4-1)参照。なお、(3-1)における熱伝導フィラー及び(4-1)における熱伝導性フィラーが無機充填材であることは、それぞれ、摘示(3-4)及び(4-2)から明らかである。)にも示されているように当業者に周知である。
したがって、「接着剤層2の接着剤樹脂組成物に含有されている導電粒子の平均粒径が無機充填材の平均粒径に比べて大きく」と規定することは当業者が容易になし得ることである。

(4) 相違点(4)について
刊行物1には「有機異方性導電接着材料のマトリックス樹脂は、加圧方向の電極間を電気的に接続する接着(接合)後の40℃での弾性率が100?1500MPaであるものが好ましい。」(摘示(1-5))及び「有機異方性導電接着材料のマトリックス樹脂として、接続後の40℃での弾性率が100?1500MPaの樹脂を使用すれば、熱衝撃、PCTやはんだバス浸漬試験などの信頼性試験において生じる内部応力を吸収できるため、チップと基板の熱膨張係数差が大きい場合での接続後のチップ及び基板の反りが小さく、信頼性試験後においても接続部での接続抵抗の増大や接着剤の剥離がなく、接続信頼性が向上する。」(摘示(1-7))と記載されている。 そして、刊行物1では、本願発明における接着剤樹脂組成物に相当するマトリックス樹脂の接着(接合)後の40℃での弾性率は100?1500MPaであり、接着フィルム硬化物の弾性率を測定していることから、引用発明における「接着(接合)後の40℃での弾性率」は、本願発明における「「硬化後の40℃での弾性率」に対応する。
また、刊行物1には「マトリックス樹脂が接続後の40℃での弾性率が100?1500MPaの樹脂を使用した有機異方性導電接着材料としては、マトリックス樹脂に導電性粒子を分散させた単層構造であっても、マトリックス樹脂のみからなるかマトリックス樹脂に無機充填材粒子を分散させた層とマトリックス樹脂に導電性粒子を分散させた層との2層構造のものであっても良い。」(摘示(1-10))と記載されていることからみて、マトリックス樹脂が接続後の40℃での弾性率が100?1500MPaの樹脂を使用した有機異方性導電接着材料としては、「マトリックス樹脂に導電性粒子を分散させた単層構造」、すなわち「接着剤層2」、又は「マトリックス樹脂に無機充填材粒子を分散させた層とマトリックス樹脂に導電性粒子を分散させた層との2層構造」、すなわち「接着剤層1及び接着剤層2」、のいずれであっても良いことが記載されている。
してみると、「接着剤層1及び/又は接着剤層2の接着剤樹脂組成物の硬化後の40℃での弾性率が100?1500MPaである」点において本願発明と引用発明とは重複しており、この点は相違点とはならないし、また、「接着剤層1及び/又は接着剤層2の接着剤樹脂組成物の硬化後の40℃での弾性率が100?1500MPaである」と規定することは当業者が容易になし得ることである。

(5) 相違点(5)について
刊行物1に「フィルム形成は、これら少なくともエポキシ樹脂、アクリルゴム、フェノキシ樹脂、潜在性硬化剤からなる接着組成物と導電粒子を有機溶剤に溶解あるいは分散により液状化して、剥離性基材上に塗布し、硬化剤の活性温度以下で溶剤を除去することにより行われれる。」(摘示(1-6))と記載されていることからみて、刊行物1には、フィルムを形成する接着組成物(接着剤樹脂組成物)は、「少なくともエポキシ樹脂、アクリルゴム、フェノキシ樹脂、潜在性硬化剤」を含有することが示されている。
また、刊行物1には「マトリックス樹脂が接続後の40℃での弾性率が100?1500MPaの樹脂を使用した有機異方性導電接着材料としては、マトリックス樹脂に導電性粒子を分散させた単層構造であっても、マトリックス樹脂のみからなるかマトリックス樹脂に無機充填材粒子を分散させた層とマトリックス樹脂に導電性粒子を分散させた層との2層構造のものであっても良い。」(摘示(1-10))と記載されていることからみて、刊行物1には、接着組成物(接着剤樹脂組成物)が接着剤層1及び接着剤層2との2層構造である態様が包含されている。しかも、刊行物1には、2層構造からなる接着組成物(接着剤樹脂組成物)の各組成を異なるものとする旨の記載はなされていない。
してみると、接着剤層1と接着剤層2の接着剤樹脂組成物について、「少なくともエポキシ樹脂、アクリルゴム、フェノキシ樹脂、潜在性硬化剤を含有する」と規定することは当業者が容易になし得ることである。

(6) 本願発明の効果について
しかも、本願発明が、上記各相違点により格別顕著な技術的効果を奏し得たものであるとも認められない。

4 小括
以上のとおり、上記相違点は当業者が容易に想到し得るものであり、また、本願明細書を検討しても、本願発明が格別顕著な効果を奏するものとは認められないから、本願発明は、刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

5 請求人の主張について
請求人は、平成22年2月15日付け意見書において、「刊行物1には、一見すると本願発明1に対応する導電粒子の配合量や接着剤樹脂組成物の弾性率などが記載されているものの、これは、決して『多層構成』における『接着剤層1』や『接着剤層2』に適用される条件として示されたものではありません。」と主張している。
しかしながら、刊行物1には「マトリックス樹脂が接続後の40℃での弾性率が100?1500MPaの樹脂を使用した有機異方性導電接着材料としては、マトリックス樹脂に導電性粒子を分散させた単層構造であっても、マトリックス樹脂のみからなるかマトリックス樹脂に無機充填材粒子を分散させた層とマトリックス樹脂に導電性粒子を分散させた層との2層構造のものであっても良い。」(摘示(1-10))と記載されていることからみて、刊行物1に記載されている技術事項には、接着組成物(接着剤樹脂組成物)が接着剤層1及び接着剤層2との2層構造である態様が包含されていることが明らかである。しかも、刊行物1には2層構造からなる接着組成物(接着剤樹脂組成物)について、導電粒子の配合量や接着剤樹脂組成物の弾性率などを、各層において異なるものとする旨の記載はなされていない。
してみると、刊行物1に記載された導電粒子の配合量や接着剤樹脂組成物の弾性率などは、接着剤層が2層構造からなる場合を包含していることが明らかであるから、「接着剤層1」及び「接着剤層2」のそれぞれについて刊行物1に記載された導電粒子の配合量や接着剤樹脂組成物の弾性率などを採用することは当業者が当然に行うことである。
したがって、請求人の主張は上記4の判断を左右するものではない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないので、本願は、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-28 
結審通知日 2010-05-11 
審決日 2010-06-03 
出願番号 特願平9-32003
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 泰之  
特許庁審判長 唐木 以知良
特許庁審判官 原 健司
細井 龍史
発明の名称 フィルム状接着剤及び接続方法  
代理人 赤堀 龍吾  
代理人 寺崎 史朗  
代理人 長谷川 芳樹  

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