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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01F
管理番号 1220230
審判番号 不服2007-5768  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-22 
確定日 2010-07-15 
事件の表示 特願2001-366105「スイッチトリラクタンスモータ鉄心」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月13日出願公開、特開2003-168603〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成13年11月30日の出願であって,平成19年1月16日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年2月22日に審判請求がなされ,その後,当審において平成21年11月9日付けで拒絶理由が通知され,その指定期間内の平成22年1月8日付けで手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成22年1月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「【請求項1】 C:0.0050mass%以下,Si:0.1?7.0 mass%およびMn:0.1?2.5 mass%を含有する組成になり,1.8Tまで磁化した時の残留磁束密度Br_(1.8)が1.0T以下で,かつ鉄損W_(15/800)(L+C) が150 W/kg以下を満足し,さらに板面に厚み:1.0 μm以上, 20μm以下(両面当たり)の接着コートを有し,該接着コートが,ガラス転移温度:50℃以上の熱可塑性樹脂からなる加熱接着型コートである無方向性電磁鋼板を積層・接着してなることを特徴とするスイッチトリラクタンスモータ鉄心。」

第3 当審の拒絶理由通知に引用された引用文献に記載された発明
1 引用文献1(特開2001-303213号公報:なお,下線は,引用箇所のうち特に強調する部分に付加した。以下同様。)
「【請求項1】C:0.0050mass%以下,
Si:1.0 ?4.5 mass%,
Mn:0.1 ?2.5 mass%および
Al:0.2 ?2.5 mass%
を含有する組成になり,リング状に打ち抜いた板を4枚以上用いて,圧延方向に対する角度を1枚毎に90°ずつ回して積層してから巻線を施したリング試料および圧延方向を揃えて同様に作製したリング試料について測定した,5000 A/mにおける磁束密度B_(50) (90°) とB_(50) (0°) との間に,次式(1)
|1-B_(50) (90°)/B_(50) (0°)|≦ 0.02 --- (1)
の関係が成立し,かつ
50Hz, B (90°) =1.5 Tにおける鉄損W_(15/50) (90 °) が 3.0W/kg以下
400Hz, B (90°) =1.0 Tにおける鉄損W_(10/400)(90 °) が 30 W/kg以下
であることを特徴とする高効率モータ用の無方向性電磁鋼板。」(7頁の平成12年5月18日付け手続補正書による補正後)
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は,モータなどの回転機,特にリラクタンストルクを利用した高効率モータ用として好適な無方向性電磁鋼板に関するものである。」
「【0005】以上の技術はいずれも,電磁鋼板自体の特性改善により,それを使用する電気機器の効率向上につなげるものであった。一方,最近では,半導体の性能向上,価格の低下と共に,その周辺技術の飛躍的な向上によって,小型回転機器の制御技術が高まり,インバータによる回転制御が行われたり,また永久磁石素材の進歩によりDCブラシレスモータのような高効率回転機の製造も可能となった。特に最近では,永久磁石をロータ内部に埋め込むことによって,リラクタンストルクも有効に利用できるようになった。また,永久磁石を用いずにリラクタンストルクのみを利用するシンクロナスリラクタンスモータやスイッチトリラクタンスモータも製造されるようになった。」
「【0033】次に,この発明の製造方法について説明する。熱延条件は特に規定しないが,省エネルギーの面からスラブ加熱は1200℃以下で行うことが望ましい。その後,熱延板焼鈍を行うが,その際の焼鈍温度は 750℃以上とする必要があることが好ましい。というのは,熱延板焼鈍温度が 750℃を下回ると十分な磁束密度の向上が望めないからである。
【0034】また,引き続く冷間圧延工程において,集合組繊を適正化するためには,60℃以上の温度域で少なくとも25%以上の圧下を施すことが好ましい。この理由は,まだ明確に解明されたわけではないが,この発明で求める集合組織形成のためには,このような圧延による変形挙動と,引き続く仕上げ焼鈍による再結晶が必要だと考えられるからである。なお,この圧延は,ゼンジマー圧延でも達成可能であるが,生産高率の観点からタンデム圧延の方が好ましい。
【0035】さらに,仕上げ焼鈍温度が 850℃未満では粒成長が不十分で良好な鉄損が得られないので,仕上げ焼鈍は 850℃以上の温度で行うことが好ましい。
【0036】
【実施例】実施例1
表1に示す成分組成になる鋼スラブを,通常のガス加熱炉により1150℃に加熱したのち,熱間圧延により2.6 mm厚の熱延板とした。ついで,850 ℃,1分間の熱延板焼鈍を施したのち,4スタンドのタンデム圧延機により0.35mm厚に仕上げた。このとき第4番目のスタンドの入側の温度は80℃で,圧下率は30%とした。その後,890 ℃で再結晶焼鈍を施して製品板とした。コーティングの後,素材評価のために,磁路長が 235mmのリング試料(内径:50mm,外径:100 mm)を作製し,またかかるリング試料を用いて,0°,45°,90°回し積み試料をそれぞれ作製し,特性評価を行った。また,300 WのDCブラシレスモータを試作して鉄損を測定した。なお,モータ鉄損劣化率については素材鉄損W15/50 (0°) とモータ鉄損W15/50 で比較した。素材特性およびモータ特性の測定結果を表2に示す。」

以上から,刊行物1には,
「C:0.0050mass%以下,
Si:1.0 ?4.5 mass%,
Mn:0.1 ?2.5 mass%および
Al:0.2 ?2.5 mass%
を含有する組成になり,コーティングの後,リング状に打ち抜いた板を4枚以上用いて,圧延方向に対する角度を1枚毎に90°ずつ回して積層してから巻線を施したリング試料および圧延方向を揃えて同様に作製したリング試料について測定した,
50Hz, B (90°) =1.5 Tにおける鉄損W_(15/50) (90 °) が 3.0W/kg以下
400Hz, B (90°) =1.0 Tにおける鉄損W_(10/400)(90 °) が 30 W/kg以下
であることを特徴とする高効率モータ用の無方向性電磁鋼板。」(以下「引用発明」という。)が記載されている。

2 引用文献2(特開平11-307353号公報)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,産業機械,家電,情報,輸送,娯楽,電力などの分野に用いられるリラクタンスモータに関する。
【0002】
【従来の技術】リラクタンスモータは大別してスイッチトリラクタンス(SR)モータ,シンクロナス(同期式)リラクタンスモータ,ホモポーラ(バイポーラ)モータがあり,欧米を中心に実用化が進んでいる。
【0003】これらリラクタンスモータにおいては,種々の改良・開発が行われているが,いずれもその開発は最適スイッチングや安価なセンシング技術,ならびに銅損,機械損,騒音等を抑え効率を最大とするモータ構造設計に労力が注がれ,鉄心材料はモータの大部分の構成部品であるのにもかかわらずほとんど検討されていない。
【0004】すなわち,このようなリラクタンスモータのうち,スイッチトリラクタンモータおよびホモポーラ(バイポーラ)リラクタンスモータにおいては,ステータ,ロータを構成する鉄心材料である電磁鋼板の駆動周波数以上の高調波電流に対する鉄損が損失の大部分をなし,またこのような電磁鋼板の磁気特性がモータの効率に大きな影響を及ぼすと考えられるが,モータ効率の面からリラクタンスモータの鉄心材料である珪素鋼板について検討することは未だほとんど行われていないのが現状である」
「【0007】さらに,スイッチトリラクタンスモータについて検討した結果,ヒステリシス曲線に代表される磁気特性の中で,残留磁束密度が重要な役割を有し,その減少がトルクアップおよび効率向上のために有効であり,そのためには上述のような表層のSi濃度を中心部のSi濃度より0.3wt.%以上高くした珪素鋼板を鉄心として用いればよいことを見出した。」
「【0014】モータ効率を向上させるためには,(1)駆動周波数およびその高調波による鉄損を減少させること,および(2)残留磁束密度を下げて図1に示す鎖交磁束(Ψ)-起磁力(nI)曲線の斜線で示す面積W’(coenergy)を広げることが重要であり,これら(1)および(2)が実質的には同一トルクで電流を減少させる結果となる。すなわち,駆動周波数およびその高調波による鉄損および残留磁束密度の2つの要素のたし合わせで鉄心が受け持つモータ効率が決まり,(1)のように駆動周波数およびその高調波による鉄損を減少させ,かつ(2)のように残留磁束密度を下げて図1に示す鎖交磁束(Ψ)-起磁力(nI)曲線の斜線で示す面積W’を広げることにより,鉄心が受け持つモータ効率を上昇させることができる。
【0015】このようにしてモータの効率を向上させるためには,従来の高級無方向性珪素鋼板では十分でない。6.5wt.%珪素鋼板は高周波鉄損を低減することができるため,リラクタンスモータの鉄心として最適な材料の一つと考えられるが,加工性や飽和磁束密度の点で従来の無方向性珪素鋼板に比べて多少劣る。また,残留磁束密度がかなり高い。
【0016】そこで,このような6.5wt.%珪素鋼板の欠点を改善してリラクタンスモータの鉄心材料に適した高周波鉄損が低く残留磁束密度の小さい材料を検討した結果,板厚方向にSi濃度勾配を形成すること,具体的には表層と中心部のSi濃度差を0.3wt.%以上にすることによって,鉄損特性をあまり損なうことなく残留磁束密度を下げることができ,これがリラクタンスモータの効率を上げることを見出した。」
「【0020】・・・この際の鋼板の板厚は0.3mm,残留磁束密度Brは0.35T,鉄損W_(10/400)は12.5W/kgであった。・・・」
「【0024】
【実施例】ステータが6極,ロータが8極で,ステータの鉄心が表1に示されるような珪素鋼板で構成された回転数1000?7000rpm,容量1kWのスイッチトリアクタンスモータを試作し,同一トルク,回転数での効率およびモータの生産コストを調査した。なお,生産コストの評価基準は,プレス打ち抜き,かしめについて従来の加工コストと同程度を◎,コストアップが5%以下を○,5%以上50%以下を△とした。」
さらに,【0025】の【表1】には,モータ効率(「【0024】・・・スイッチトリラクタンスモータ」)が比較例でも最低86.9%であり,実施例で最大92.2%の珪素鋼板が,記載されている。

3 引用文献3(特開平11-323511号公報)
「【発明の名称】残留磁束密度が低く高周波鉄損特性に優れた電磁鋼板」
「【0038】かくして得られた製品の残留磁束密度は,励磁最大磁束密度Bm : 1.4 Tの場合で,0.34Tと極めて低い値を示した。また,本製品の鉄損は,励磁最大磁束密度Bm : 1.2 Tの場合で,W_(12/50) :1.27 W/kg と良好な低鉄損を示した。さらに,本製品の磁歪は,5 kOeで, 0.6×10^(-6)と良好な値を示した。」

4 引用文献4(特開2000-234155号公報)
「【発明の名称】無方向性電磁鋼板とその製造方法」
「【0035】占積率は,JIS C 2550に規定された方法にて評価した。磁気特性として,W_(15/50)は4.5W/kg 未満,W_(15/400) は80W/kg未満,そしてW_(10/800) は90W/kg未満をそれぞれ合格とした。1点当たりかしめ強度は10MPa 以上,占積率は96%以上をそれぞれ合格とした。」

5 引用文献5(特公昭49-33491号公報)
「しかして本発明においては上記の要求を満足する処理液として熱可塑性樹脂又は合成ゴムを主成分とした有機系物質が適していることに着目したものである。
本発明の鋼板ではコアーに打抜き,積層する場合に簡単な熱処理のみを行うことによつてコアーが互いに結合して十分固着するが,鋼板に処理液を塗布し,乾燥後コイル巻取時にはコイル状の鋼板が固着しないように乾燥後,粘着性のないものでなければならず,これに適するものとして本発明では熱可塑性樹脂または合成ゴムを主成分とした有機系物質であるポリアミド樹脂,ポリビニルアセタール樹脂,塩化ビニル-酢酸ビニル共重合物,又は合成ゴム系(ネオプレンゴム,プタジエン-アクリルニトリル共重合ゴム)の1種又は2種以上混合したものよりなる樹脂液を塗布するものである。」(1頁2欄31行?2頁3欄10行)
「実施例 1
電磁鋼帯(Si 0.5%)の表面にポリアミド樹脂(商品名パーサロン1175,軟化点168?175℃)20Kg-n-プタノール.フエノール(1:1)40Kgの処理液をロールにて塗布し,熱風ブロアー(80℃熱風温度)にて15秒乾燥してコイルに捲取つた。乾燥後の皮膜は粘着性がなく表1のような特性を有していた。
この皮膜を有する鋼板と従来のクロム酸-燐酸塩系処理液により得られた皮膜の鋼板を200回/分の連続打抜き機にて打抜き,その時の打抜き枚数とカエリ高さを測定した。この結果を第2図に示す。第2図から本発明の鋼板は著しく打抜き性が優れていることがわかる。次にこの打抜いたコアーを積層し,締付後200℃にて30分加熱した。冷却後の鉄心は強固に固着していた。」(2頁4欄24?39行)

6 引用文献6(特開平2-208034号公報)
「(1)( I )電磁鋼板表面に,
(A)ガラス転移温度60℃以上の熱可塑性アクリル樹脂エマルジョン,
(B)エポキシ樹脂エマルジョン,
(C)加熱により前記(B)成分と反応するアミン系エポキシ樹脂硬化剤,及び
(D)水への溶解度(20℃における)が20g/100cc以下であり,かつ水の溶解度(20℃における)が0.5g/100cc以上である成膜助剤とを主成分とし,
前記(A)成分と前記(B)成分の樹脂固形分重量比が(70/30?95/5)である
ような水系熱接着型絶縁性被覆組成物を,
塗布する工程,
(II)塗膜を乾燥させる工程,
(III)得られた被覆鋼板より,所望の形状の単位鉄芯を作る工程,
(IV)該単位鉄芯を積重ねる工程,及び
(V)積重ねたものを加熱,加圧する工程,とからなる積層鉄芯の製造方法。」(特許請求の範囲)
「以下,本発明を,更に詳細に説明する。
まず本発明で使用する前記水系熱接着型絶縁性被覆組成物(以下単に被覆組成物と略称する)につき説明する。
(A)成分である熱可塑性アクリル樹脂エマルジョンは,アクリル酸の炭素数1?8のアルキルエステルモノマー,メタクリル酸の炭素数1?8のアルキルエステルモノマー,スチレンモノマーもしくはこれらモノマーの混合物からなり,さらに必要に応じアクリル酸,メタクリル酸,ヒドロキジエチルメタクリレート等の官能基含有モノマーを約10モル%以下含有せしめたモノマー混合物を,得られるアクリル樹脂のガラス転移温度(以下Tgという)が60℃以上になるように適宜組合せて,通常の乳化重合法により得られるものである。
なお,Tgが前記特定範囲より低いと,得られる塗膜に粘着性が残り,例えば被覆鋼板を積み重ねた時などにブロッキング現象が起きやすくなり,かつそれが原因で塗膜が損傷することがあるので避けるべきである。なお,Tgの上限は,成膜助剤の種類,量などにより異なるが,通常150℃以下が好ましい。」(2頁右下欄11行?3頁左上欄13行)

7 引用文献7(特開昭62-151526号公報)
「(1)電磁鋼板材料の基板と,
前記基板の表面に設けられた10μm以下の焼付電着ワニス層とを有する電磁鋼板。
(2)電磁鋼板材料の基板の表面に1?10μmの厚さにワニス層を電着する工程と,
前記電着したワニス層を焼付して硬化被膜とする工程を有する電磁鋼板の製造方法。」(特許請求の範囲)
「絶縁性に関してJIS C2550に記載された層間抵抗測定法により測定を行なったところ,規定の30Ω/枚以上の抵抗を得るには1μm前後の被膜で十分であった。また被膜が10μmを越えると占積率が低下するので,被膜厚としては1?10μm程度が好ましい。」(2頁左下欄12?17行)

8 引用文献8(特開2000-134885号公報)
「【0051】なお,一般にかご形誘導電動機に使用される回転子鉄心要素板(電磁鋼板)は,具体的な数値として,板厚0.5mm(USAでは0.65mmの場合もある)の両面に0.5?1μm程度の電気絶縁被膜がコーティングされおり,これを積層すると積層方向には若干の空隙が存在する。この空隙に占める割合は回転子鉄心要素板108に対して2?3%である。」

9 引用文献9(特開2000-173815号公報)
「【発明の名称】積層鉄心用接着鋼板」
「【0029】接着層の厚さは,安定して十分な接着強度を得るために1μm以上とするのがよい。厚さが100μmを超えると接着力が飽和するうえ,打ち抜き加工時にダレが大きくなり,鉄心に積層した後の占積率が低下し,鉄損などの電磁特性が低下するので好ましくない。従って接着層の厚さは100μm以下とするのがよい。より好ましくは20μm以下,さらに望ましくは10μm以下がよい。」

10 引用文献10(特開2001-279397号公報)
「【0010】
【発明が解決しようとする課題】かように電磁鋼板に必要とされる基本的な性能の向上が実現したが,無方向性電磁鋼板にはさらに様々な性能が必要とされ,とりわけ高周波磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板においては使用時の騒音の低減が大きな課題となっている。すなわち,無方向性電磁鋼板における騒音は,該鋼板を電気機器の鉄心に用いた際などに,主に磁歪振動に起因して生じるものであり,特に使用周波数が高い場合には,騒音の抑制は必須である。」
「【0032】この絶縁被膜は,鋼板表面に目付量:0.1 ?10g/m^(2) で形成する。すなわち,目付量が0.1 g/m^(2) 未満では,均一塗布が困難となるため,一定の騒音吸収能力を確保するのが困難になる。一方10g/m^(2) をこえると,被膜密着性が低下する傾向があり,また占積率も低下して実用的でなくなる。
【0033】また,絶縁被膜に含ませる樹脂には,該樹脂のガラス転移点X(℃)と絶縁被膜における樹脂の目付量Y(g/m^(2) )とが,上記した式(イ)を満足するものを適用することが好ましい。ここに,C:5ppm ,Si:3.8 mass%,Mn:0.006mass%,Cr:4.9 mass%,Al:0.006 mass%,N:12ppm およびO:14ppm の成分組成に成り,かつ比抵抗が83μΩcmである無方向性電磁鋼板の表面に,樹脂目付量およびガラス転移点を種々に変化させた,絶縁被膜を形成し,得られた鋼板について鉄心積層時の騒音を調査した。なお,騒音の調査は,DCブラシレス型のモデルモータ(外径:108mm φ,内径:56mmφおよび積層:70mm)を作製して騒音を調査した。
【0034】その結果を図1に示すように,ln(Y)=0.04X-5.5 を境に,騒音の低減効果に差があり,上記した式(イ)を満足する範囲において,騒音が著しく低減されることがわかる。従って,絶縁被膜には,上記した式(イ)を満足する樹脂を適用することが有利である。
【0035】とりわけ,樹脂のガラス転移点が140 ℃以下であることが,推奨される。なぜなら,ガラス転移点が低くなるほど,無方向性電磁鋼板の使用温度域で軟らかくなって,衝撃吸収能力が高くなるからである。」
「【0042】さらに,上記の薄鋼板の表面に,ロールコータ塗布にて,表3および4に示す種々の絶縁被膜を形成し,該被膜付き鋼板を外径:108mm φおよび内径:56mmφに打ち抜き,それを70mm厚さに積層してボルト締めし,DCブラシレス型モデルモータを作製して騒音を測定した。その結果を,表3および4に併記する。」

第4 本願発明と引用発明との対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
(a)引用発明の「Si:1.0 ?4.5 mass%」は,本願発明の「Si:0.1?7.0 mass%」に含まれる。

よって,両者は,
「C:0.0050mass%以下,Si:0.1?7.0 mass%およびMn:0.1?2.5 mass%を含有する組成になる無方向性電磁鋼板。」である点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点1]本願発明の無方向性電磁鋼板は,「1.8Tまで磁化した時の残留磁束密度Br_(1.8)が1.0T以下で,かつ鉄損W_(15/800)(L+C) が150 W/kg以下を満足し」ているのに対して,引用発明の無方向性電磁鋼板は,「50Hz, B (90°) =1.5 Tにおける鉄損W_(15/50) (90 °) が 3.0W/kg以下,400Hz, B (90°) =1.0 Tにおける鉄損W_(10/400)(90 °) が 30 W/kg以下」である点。
[相違点2]本願発明は,「板面に厚み:1.0 μm以上, 20μm以下(両面当たり)の接着コートを有し,該接着コートが,ガラス転移温度:50℃以上の熱可塑性樹脂からなる加熱接着型コートである無方向性電磁鋼板を積層・接着して」いるのに対して,引用発明の無方向性電磁鋼板は,コーティングして積層している点。
[相違点3]本願発明は,「スイッチトリラクタンスモータ鉄心」であるのに対して,引用発明は,「高効率モータ用の無方向性電磁鋼板」である点。

そこで,上記相違点について検討する。
[相違点1について]
(a)引用発明の高効率モータ用の無方向性電磁鋼板も,スイッチトリラクタンスモータなどに用いた場合に,鉄損の小さい(鉄損W_(15/50) (90 °) が 3.0W/kg以下,鉄損W_(10/400)(90 °) が 30 W/kg以下)高効率化を目的とするものであり,引用発明の組成は,本願発明の組成範囲に含まれるものであり,さらに,引用文献1の【0033】?【0036】に記載された製造条件,
「【0033】次に,この発明の製造方法について説明する。熱延条件は特に規定しないが,省エネルギーの面からスラブ加熱は1200℃以下で行うことが望ましい。その後,熱延板焼鈍を行うが,その際の焼鈍温度は 750℃以上とする必要があることが好ましい。というのは,熱延板焼鈍温度が 750℃を下回ると十分な磁束密度の向上が望めないからである。【0034】また,引き続く冷間圧延工程において,集合組繊を適正化するためには,60℃以上の温度域で少なくとも25%以上の圧下を施すことが好ましい。この理由は,まだ明確に解明されたわけではないが,この発明で求める集合組織形成のためには,このような圧延による変形挙動と,引き続く仕上げ焼鈍による再結晶が必要だと考えられるからである。なお,この圧延は,ゼンジマー圧延でも達成可能であるが,生産高率の観点からタンデム圧延の方が好ましい。【0035】さらに,仕上げ焼鈍温度が 850℃未満では粒成長が不十分で良好な鉄損が得られないので,仕上げ焼鈍は 850℃以上の温度で行うことが好ましい。【0036】【実施例】実施例1 表1に示す成分組成になる鋼スラブを,通常のガス加熱炉により1150℃に加熱したのち,熱間圧延により2.6 mm厚の熱延板とした。ついで,850 ℃,1分間の熱延板焼鈍を施したのち,4スタンドのタンデム圧延機により0.35mm厚に仕上げた。このとき第4番目のスタンドの入側の温度は80℃で,圧下率は30%とした。その後,890 ℃で再結晶焼鈍を施して製品板とした。」
は,本願明細書【0032】?【0034】及び【0039】に記載された製造条件,
「【0032】次に,この発明の好適製造条件について説明する。熱延条件は特に規定しないが,省エネルギーのため,スラブ加熱温度は1200℃以下とすることが望ましい。また,熱延板焼鈍を行う場合には,焼鈍温度が 800℃以上でないと磁束密度を向上させるのが難しいので,800 ℃以上の温度域で行うことが好ましい。【0033】ついで,1回または中間焼鈍を含む2回の圧延を施すが,この冷間圧延において,好適な集合組織を形成するためには,60℃以上の温度域で少なくとも25%以上の圧下を施すことが好ましい。・・・【0034】上記の冷間圧延後,仕上げ焼鈍を施すが,この際の焼鈍温度が 800℃に満たないと粒成長が不十分で,良好な鉄損および低い磁気異方性が得られないので,仕上げ焼鈍温度は 800℃以上とすることが好ましい。」,「【0039】【実施例】実施例1 表1に示す種々の成分組成になるスラブを,通常のガス加熱炉により1150℃に加熱したのち,熱間圧延により2.5 mm厚の熱延板とし,さらに 820℃で15秒の熱延板焼鈍後,4スタンドのタンデム圧延機により0.35mm厚に仕上げた。この時,第4スタンドの入側の温度は85℃,圧下率は35%とした。ついで,980 ℃で再結晶焼鈍をして無方向性電磁鋼板とした。」
とほぼ同様であるから,引用発明の高効率モータ用の無方向性電磁鋼板においても,同様の特性,すなわち,「1.8Tまで磁化した時の残留磁束密度Br_(1.8)が1.0T以下で,かつ鉄損W_(15/800)(L+C) が150 W/kg以下を満足し」ていると認められる。
よって,相違点1については,本願発明と引用発明は,実質的には相違していない。
(b)仮に,相違しているとしても,以下のとおりである。
(c)引用発明の高効率モータ用の無方向性電磁鋼板も,スイッチトリラクタンスモータなどに用いた場合に,鉄損の小さい(鉄損W_(15/50) (90 °) が 3.0W/kg以下,鉄損W_(10/400)(90 °) が 30 W/kg以下)高効率化を目的とするものであり,引用発明の組成は,本願発明の組成範囲に含まれるものであり,さらに,上記(a)のごとく引用文献1の【0033】?【0036】に記載された製造条件は,本願明細書【0032】?【0034】及び【0039】に記載された製造条件とほぼ同様であり,この引用発明の高効率モータ用の無方向性電磁鋼板においても,モータ効率が,高いものである。
(d)引用文献2には,スイッチトリラクタンスモータ用電磁鋼板において,「【0004】・・・スイッチトリラクタンモータ・・・においては,ステータ,ロータを構成する鉄心材料である電磁鋼板の駆動周波数以上の高調波電流に対する鉄損が損失の大部分をなし,またこのような電磁鋼板の磁気特性がモータの効率に大きな影響を及ぼすと考えられる」,「【0007】さらに,スイッチトリラクタンスモータについて検討した結果,ヒステリシス曲線に代表される磁気特性の中で,残留磁束密度が重要な役割を有し,その減少がトルクアップおよび効率向上のために有効であり」,「【0014】モータ効率を向上させるためには,(1)駆動周波数及びその高調波による鉄損を減少させること,および(2)残留磁束密度を下げ」る必要のあることが記載されており,駆動周波数及び高調波による鉄損や残留磁束密度は小さいほど好ましく,それらをどの程度下げるかは,当業者が必要なモータ効率に応じて適宜決定し得たことである。
また,引用文献2に,「【0003】これらリラクタンスモータにおいては,・・・銅損,機械損,騒音等を抑え効率を最大とする」と記載されているように,騒音が大きければ効率も悪くなるのは当然であるから,騒音を小さく押さえることも,当業者が当然に考慮することである。
(e)引用文献1に「鉄損W_(15/50) (90 °) が 3.0W/kg以下,鉄損W_(10/400)(90 °) が 30 W/kg以下」,引用文献2に「【0020】・・・鉄損W_(10/400)は12.5W/kgであった。」,引用文献3に「【0038】かくして得られた製品の残留磁束密度は,励磁最大磁束密度Bm : 1.4 Tの場合で,0.34Tと極めて低い値を示した。また,本製品の鉄損は,励磁最大磁束密度Bm : 1.2 Tの場合で,W_(12/50) :1.27 W/kg と良好な低鉄損を示した。」,引用文献4に「【0035】・・・磁気特性として,W_(15/50)は4.5W/kg 未満,W_(15/400) は80W/kg未満,そしてW_(10/800) は90W/kg未満をそれぞれ合格とした。」と記載されているように,従来から,残留磁束密度については,励磁最大磁束密度Bm : 1.4 T程度で評価されており,鉄損については,励磁磁束密度1.0T,1.2T,1.5T程度で励磁周波数50,400,800Hz程度において評価されており,本願発明のように「1.8Tまで磁化した時の残留磁束密度Br_(1.8)」及び「鉄損W_(15/800)(L+C)」で評価することに,格別の困難性は認められない。
(f)本願明細書の【0015】,【0016】及び図1によれば,本願発明は,「1.8Tまで磁化した時の残留磁束密度Br_(1.8)が1.0T以下で,かつ鉄損W_(15/800)(L+C) が150 W/kg以下を満足し」たことにより,モータの最大効率80%以上の性能を有するということであるが,モータの最大効率は,高いほど好ましいのは当然のことである。
また,引用文献2において,スイッチトリラクタンスモータのモータ効率が,最低の比較例でも86.9%であり,最大92.2%となっており,本願発明の特性の限定理由になっている効率の下限80%を大きく上回っており,効率80%以上の電磁鋼板は,通常の効率のものである。
さらに,本願明細書の表2,3のデータから,「1.8Tまで磁化した時の残留磁束密度Br_(1.8)が1.0T以下で,かつ鉄損W_(15/800)(L+C) が150 W/kg以下を満足し」たものは,モータ効率が82.1%?87.5%であり,「1.8Tまで磁化した時の残留磁束密度Br_(1.8)が1.0Tを超え,かつ鉄損W_(15/800)(L+C) が150 W/kgを超え」たものは,モータ効率が72.5%?77.8%であるから,引用文献2のモータ効率86.9%?92.2%のものは,「1.8Tまで磁化した時の残留磁束密度Br_(1.8)が1.0T以下で,かつ鉄損W_(15/800)(L+C) が150 W/kg以下を満足し」たものであると認められる。
(g)以上のように,電磁鋼板の残留磁束密度及び鉄損特性の騒音への影響を考慮するしないにかかわらず,高効率モータ用の無方向性電磁鋼板は,効率が高いほど好ましく,そのために,鉄損はW_(15/800)(L+C)を含めあらゆる励磁磁束密度及び励磁周波数において小さい方が好ましく,残留磁束密度はBr_(1.8)を含むあらゆる磁束密度で磁化した場合において小さい方が好ましいことは,明らかであり,モータ効率80%以上は,引用文献2の電磁鋼板が十分満足するものである。
そして,本願発明は,引用文献2のモータ効率が,86.9%?92.2%の高効率の電磁鋼板を単に用いたにすぎないとも言える。
(h)よって,引用発明の高効率モータ用の無方向性電磁鋼板において,本願発明のように「1.8Tまで磁化した時の残留磁束密度Br_(1.8)が1.0T以下で,かつ鉄損W_(15/800)(L+C) が150 W/kg以下を満足し」たものとすることは,当業者が適宜なし得たことである。
(i)また,上記(c)?(g)の記載から,引用発明の高効率モータ用の無方向性電磁鋼板において,駆動周波数及び高調波による鉄損や残留磁束密度をできるだけ小さくし,モータの最大効率をできるだけ高くした電磁鋼板とすることは,当業者が当然に求める特性であり,その求める特性となるように,上記(a)のごとく引用文献1に記載された製造方法(本願発明とほぼ同様)における製造条件を実験等により適宜調整して実現することは,当業者が適宜なし得たことであり,そのようにして製造された電磁鋼板が,本願発明のように「1.8Tまで磁化した時の残留磁束密度Br_(1.8)が1.0T以下で,かつ鉄損W_(15/800)(L+C) が150 W/kg以下を満足」することは,明らかであるとも言える。

[相違点2について]
(a)電磁鋼板に熱可塑性樹脂からなる加熱接着型コートを用い,積層・接着することは,引用文献5(軟化点168?175℃),引用文献6(ガラス転移温度60℃以上の熱可塑性アクリル樹脂)にも示されており,従来からガラス転移温度が50℃以上の熱可塑性樹脂が用いられており,接着が目的の一つであるから,使用中に軟化してしまっては接着の目的を果たせないことは明らかであるから,ガラス転移温度が50℃以上の樹脂を用いる程度のことは,当然のことである。
(b)引用文献7(1?10μmの厚さにワニス層),引用文献8(両面に0.5?1μm程度の電気絶縁被膜),引用文献9(「【0029】接着層の厚さは,安定して十分な接着強度を得るために1μm以上とするのがよい。・・・より好ましくは20μm以下」)に記載されているように,電磁鋼板の絶縁被膜や接着層の厚さを1?20μm程度とすることは,通常用いられている厚さである。
また,引用文献10は,ボルト締めではあるが,引用文献10の記載も参酌すれば,絶縁被膜の厚さが騒音に影響することは容易に理解できることであるから,厚さは当業者が実験等により適宜決定し得たことでもある。
(c)よって,引用発明において,本願発明のように「板面に厚み:1.0 μm以上, 20μm以下(両面当たり)の接着コートを有し,該接着コートが,ガラス転移温度:50℃以上の熱可塑性樹脂からなる加熱接着型コートである無方向性電磁鋼板を積層・接着」することは,当業者が適宜なし得たことである。

[相違点3について]
引用発明は,「高効率モータ用の無方向性電磁鋼板」であり,引用文献1には,「【0001】【発明の属する技術分野】この発明は,モータなどの回転機,特にリラクタンストルクを利用した高効率モータ用として好適な無方向性電磁鋼板に関するものである。」,「【0005】・・・スイッチトリラクタンスモータも製造されるようになった。」と記載され,さらに,引用文献2にも,「【0004】すなわち,このようなリラクタンスモータのうち,スイッチトリラクタンモータ・・・においては,ステータ,ロータを構成する鉄心材料である電磁鋼板」と記載され,電磁鋼板をスイッチトリラクタンスモータの鉄心に用いることが記載されているので,引用発明の「高効率モータ用の無方向性電磁鋼板」をスイッチトリラクタンスモータの鉄心に用いることは,当業者が適宜なし得たことである。

以上要するに,本願発明は,通常の効率の電磁鋼板を,周知の接合方法及び通常の厚さの接着コートで接合したものであるとも言える。

したがって,本願発明は,引用文献1?10に記載された発明から,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用文献1?10に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-11 
結審通知日 2010-05-18 
審決日 2010-05-31 
出願番号 特願2001-366105(P2001-366105)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 正文  
特許庁審判長 橋本 武
特許庁審判官 小野田 誠
加藤 俊哉
発明の名称 スイッチトリラクタンスモータ鉄心  
代理人 杉村 憲司  
代理人 来間 清志  
代理人 杉村 興作  
代理人 澤田 達也  

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