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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01S
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01S
管理番号 1220271
審判番号 不服2008-11268  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-01 
確定日 2010-07-15 
事件の表示 特願2006- 34288「無線通信端末、関係性推定方法及び記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月29日出願公開、特開2006-171012〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年3月26日(優先日:平成10年10月19日)に出願した特願平11-84622号(以下、「原出願」という。)の一部を、平成18年2月10日(優先日:平成10年10月19日)に新たに特許出願としたものであって、平成18年2月20日、平成19年12月12日、平成20年3月17日付けで、それぞれ特許請求の範囲及び明細書について手続補正がなされ、平成20年3月28日付け(送達日:平成20年4月1日)で拒絶査定がなされたところ、これに対して平成20年5月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成20年6月2日付けで特許請求の範囲及び明細書について手続補正がなされたものである。

第2 平成20年6月2日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年6月2日付け手続補正を却下する。
[理由]独立特許要件違反

1 補正の内容
平成20年6月2日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)により、補正前の特許請求の範囲の請求項1が、
「 【請求項1】
複数の無線基地局と無線通信を行う無線通信端末において、
上記複数の基地局それぞれに固有のIDと上記複数の基地局それぞれから受信した電波の電界強度を取得する取得手段と、
過去に取得した上記IDと上記電界強度との組合せと、現在位置における上記組合せ間の相関を計算した結果を、過去に取得した組合せと現在の上記組合せとの関係性の判断に用いる関係性推定手段と
を有することを特徴とする無線通信端末。」から、

「 【請求項1】
複数の無線基地局と無線通信を行う無線通信端末において、
上記複数の基地局それぞれに固有のIDと上記複数の基地局それぞれから受信した電波の電界強度を取得する取得手段と、
過去に取得した上記IDと上記電界強度との組合せにより特定される過去の組合せ情報と、現在位置における上記組合せにより特定される現在の組合せ情報との間の相関を計算した結果を、過去に取得した組合せ情報と現在の上記組合せ情報との関係性の判断に用いる関係性推定手段と
を有する無線通信端末。」に補正された。(下線は、補正箇所を示す。)

そして、本件補正により、
補正前の「過去に取得した上記IDと上記電界強度との組合せ」が、「過去に取得した上記IDと上記電界強度との組合せにより特定される過去の組合せ情報」に限定されるとともに、補正前の「現在位置における上記組合せ」が、「現在位置における上記組合せにより特定される現在の組合せ情報」に限定された。

したがって、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

2 本件補正後の本願発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面からみて、その請求項1に記載されたとおりのものと認める。

3 引用刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の原出願の優先日前の平成10年2月20日に頒布された刊行物である特開平10-51840号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、「無線移動局の位置検出方式」(発明の名称)に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

<記載事項1>
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、移動体無線通信の分野において、移動体の位置を検出する方式に関するものである。特に、移動局で測定される複数の基地局からの受信電波強度に基づいて、移動局の位置を検出する無線移動局の位置検出方式に関わる。」

<記載事項2>
「【0019】(実施の形態1)図を用いて、本発明の無線移動局の位置検出方式を適用した、実施の形態1における無線通信システムの動作を説明する。
【0020】図1は本発明の位置検出方式を適用した無線通信システム実施の形態1におけるシステム概要構成、図2は本システムのシステムイメージ、図3は図1の位置検出部の構成例を示している。
【0021】図1において、101は移動局、102は基地局からの電波強度を測定する電波強度測定部、103は電波強度測定部102に測定指示を出したり無線通信の制御を行なう制御部、104は無線通信の送受信を行なう移動局の送受信部、105、106、107は基地局、108は複数基地局との通信の制御を行なう通信制御部、109は移動局101と無線通信の送受信を行なう送受信部、110は移動局101と通信制御部108間の通信制御を行なう制御部、111は通信制御部108と通信を行なう入出力部、112はネットワーク、113は位置情報センタ、114はネットワーク112と送受信を行ない位置検出処理を制御する通信制御部、115は通信制御部114から制御された位置を検出する位置検出装置を示している。」

<記載事項3>
「【0025】本実施の形態による無線通信システムの動作は、電波強度データ記憶部202に予めサービスエリア内の複数の測定地点での位置情報と、複数の基地局からの受信電波強度からなる電波強度データを入力する前処理と、記憶された電波強度データを基に移動局の位置を推定する検出処理に分けられる。前処理におけるデータ入力方法については、移動局が測定した複数基地局からの受信電波強度をその位置情報と共にリアルタイムに通信することにより入力する方法、オフラインで測定した基地局からの受信電波強度データを有線接続してまとめて入力する方法などあるが、ここでは電波強度データ記憶部には既に電波強度データが入力されているものとし、入力方法については言及しない。」

<記載事項4>
「【0027】移動局101の制御部103は、位置検出要求を待つ(ステップ401)。位置検出要求は、任意地点におけるユーザの入力指示に従ったタイミング、あるいはシステム動作上のタイミング、あるいは一定の時間間隔で発生するなど任意であるが、位置検出要求を受け付けると制御部103は、電波強度測定指示を出し、電波強度測定部102は複数基地局からの電波強度を測定する(ステップ402)。 ここで、マルチパスによるフェージングや環境変化などの外的要因により不安定な無線電波強度の測定方法については、ある時間間隔内でまたは複数回測定してその平均を取る、あるいは加重平均を取る、最大値を取るなど統計的な処理を施す方法もいろいろ考えられるが、測定方法についてはここでは言及しない。
【0028】複数基地局からの電波強度を測定すると、制御部103は、この受信電波強度データを移動局送受信部104から、例えば最大の電波強度である基地局105を選び、これに対し送信する。基地局105では、基地局送受信部107で移動局101からの受信電波強度データを受信すると、データの種別を基地局制御部110が判断し、これを入出力部111、通信制御部108、ネットワーク112を介して位置情報センタ113に送信する(ステップ403)。
【0029】ここで送信される受信電波強度データは、移動局で受信できる全ての基地局の電波強度、あるいはある電波レベルを越える全ての基地局の電波強度、あるいは電波強度の高いものから順に指定個の基地局数の電波強度を報告するなどあるが、ここでは簡単のため、上位4個の基地局の電波強度を報告する場合を例にとって説明する。
【0030】受信電波強度データを受けとると、位置情報センタ113は受信電波強度データを通信制御部114に渡し、通信制御部114はこれを位置検出装置115に渡し、位置を推定し推定結果を得る(ステップ404)。位置検出装置115から得られた推定結果はネットワーク112、通信制御部108、基地局105を介して移動局101に返される(ステップ405)。」

<記載事項5>
「【0032】図1における位置検出装置115を示す図2における位置検出装置201で、基地局B1、B2、B3、B4からそれぞれE1、E2、E3、E4の電波強度を受信したデータ((B1、E1)、(B2、E2)、(B3、E3)、(B4、E4))を受け付ける(ステップ411)。
【0033】電波強度データ記憶部202は、複数の測定地点での、位置情報と複数の基地局からの受信電波強度からなる電波強度データを持っており、位置検出部203は受信電波強度を電波強度データ記憶部202が持つ各位置での基地局と電波強度との関係と比較する(ステップ412)。
【0034】電波強度の比較は数学的距離即ち以下を満たす任意の距離関数ρにより算出し、その誤差δにより近さを判定する。
【0035】集合Xの任意の2元x、yに対して負でない実数ρ(x、y)が一意に対応して、
1)ρ(x、x)=0、逆にρ(x、y)=0ならばx=y
2)ρ(x、y)=ρ(y、x)
3)任意の3点x、y、zに対して、
ρ(x、z)≦ρ(x、y)+ρ(y、z)
を満たす。
【0036】例えば一般的な距離の概念であるユークリッド距離を用いた場合について距離の計算方法を説明する。位置検出装置201は電波強度の強い基地局から上位4つの基地局であるB1、B2、B3、B4からそれぞれE1、E2、E3、E4の電波強度を受信し、その電波強度データ((B1、E1)、(B2、E2)、(B3、E3)、(B4、E4))と電波強度データ記憶部で保持するj番目の電波強度データ((BSj1、Ej1)、(BSj2、Ej2)、(BSj3、Ej3)、(BSj4、Ej4))(ただしBSj1、BSj2、BSj3、BSj4はj番目の電波強度データの測定地点(Xi、Yi)で受信した電波強度の強い基地局から上位4つの基地局であり、Ej1、Ej2、Ej3、Ej4はそれぞれこれら基地局から受信した電波強度を示す)との距離は、比較する基地局が全て一致している場合、即ちB1=BSj1、B2=BSj2、B3=BSj3、B4=BSj4の場合、
【0037】
【数1】

【0038】を使って計算できる。また、比較する基地局が全て一致していない場合も、一致していない基地局の電波強度を0として追加し、容易に距離すなわち誤差を計算することができる。」

<記載事項6>
「【0039】こうして算出された誤差を判定の結果、誤差電波強度データ記憶部204にその時の座標位置と算出された誤差δを記憶するが、誤差電波強度記憶部204で保持するデータ数が特定数のk(kは2以上の整数)に満たない間は(ステップ413)、位置検出部203はその地点の位置座標(x、y)と算出された誤差δを誤差電波強度記憶部204に保存する(ステップ414)。
【0040】誤差電波強度データ記憶部204で保持する電波強度データ数がkに達した場合(ステップ413)、位置検出部203は算出された誤差δと誤差電波強度データ記憶部204内で保持するk個の電波強度データと比較し、δが小さければ誤差電波強度データ記憶部204で保持する最大の誤差を持つ電波強度データをその時の座標(x、y)及び誤差δに置き換える(ステップ415)。これを全てのデータを比較するまで繰り返す(ステップ416)。
【0041】こうして電波強度データ記憶部202で保持するデータ全てについて比較判定すると、位置検出部203は誤差電波強度データ記憶部204で保持するk個の電波強度データを基に位置を推定する。推定方法は、k個の平均を取る、誤差δの値や基地局からの電波強度により加重平均を取るなど統計的な処理を施す方法がいろいろ考えられる。
【0042】ここでは簡単のため電波強度データ記憶部202で保持するデータ全てについて比較判定する方法について説明したが、基地局IDなどにより比較データを絞り込み、処理を高速化するなどの手法は容易に考えられる。」

<記載事項7>
「【0049】位置検出要求は、自分の位置を知りたい場合は移動局から要求を出し、位置管理センタなどでユーザの位置管理をしている場合は位置管理センタから、またネットワーク112を介して有線または無線ユーザから要求を出す場合などいろいろな構成が考えられる。また今回は位置検出装置を位置情報センタに置き、位置を検出する方法について説明したが、位置検出装置についても移動局または基地局に設置する、またはネットワーク112を介した有線または無線ユーザの側に設置するなどいろいろな構成が考えられるが、本実施の形態同様これらは容易に実現可能であることがわかる。」

上記記載事項1、2及び第1の実施の形態による位置検出方式を適用した無線通信システムの構成例図である図1からみて、複数基地局と無線通信の送受信を行う移動局が、基地局からの電波強度を測定する電波強度測定部を有していることが読み取れる。

上記記載事項4、5及び第1の実施の形態による位置検出方式を適用した無線通信システムにおける位置検出装置の構成例図である図2からみて、電波強度測定部で測定された複数基地局からの電波強度データは、基地局B1?B4とその基地局からの電波強度E1?E4とをそれぞれ組にして位置検出装置に渡されていることから、電波強度測定部は、複数基地局からの電波強度を、どの基地局からの電波強度なのか区別して測定していることが読み取れる。

上記記載事項5及び図2からみて、位置検出部は、電波強度測定部が測定した電波強度データと、電波強度データ記憶部で保持する電波強度データとのユークリッド距離を算出していることが読み取れる。また、上記両電波強度データは、いずれも基地局を示す情報Bと電波強度Eとの複数組から構成されていることが読み取れる。

上記記載事項6からみて、電波強度データ記憶部で保持する複数の電波強度データを1つずつ、電波強度測定部が測定した電波強度データと比較することによって、電波強度データ記憶部で保持する複数の電波強度データのうち、電波強度測定部が測定した電波強度データとのユークリッド距離が小さい上位k(kは2以上の整数)個の電波強度データを抽出していることから、位置検出部は、両電波強度データを比較し算出したユークリッド距離により、両電波強度データのユークリッド距離の大小を判定していることが読み取れる。

上記記載事項3からみて、電波強度データ記憶部で保持する電波強度データは、前処理において、予め入力されていたものであることが読み取れる。

上記記載事項7からみて、位置検出部を有する位置検出装置については、移動局に設置してもよいことが読み取れる。

よって、上記記載事項1乃至7及び図1、2の記載からみて、引用刊行物1には、以下の発明が記載されているものと認められる。(以下、「引用発明1」という。)

「複数基地局と無線通信の送受信を行う移動局において、
上記複数基地局からの電波強度を、どの基地局からの電波強度なのか区別して測定する電波強度測定部と、
電波強度データ記憶部に予め入力されていた、基地局を示す情報Bと電波強度Eとの複数組からなる電波強度データと、前記電波強度測定部で測定した、基地局を示す情報Bと電波強度Eとの複数組からなる電波強度データとのユークリッド距離を算出して、そのユークリッド距離の大小を判定する位置検出部と、
を有する移動局。」

4 対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。

引用発明1の「複数基地局と無線通信の送受信を行う移動局」は、本願補正発明の「複数の無線基地局と無線通信を行う無線通信端末」に相当する。

引用発明1の「電波強度」、「測定する」、「電波強度測定部」は、それぞれ本願補正発明の「電波の電界強度」、「取得する」、「取得手段」に相当する。
したがって、引用発明1の「複数基地局からの電波強度を、どの基地局からの電波強度なのか区別して測定する電波強度測定部」と本願補正発明の「複数の基地局それぞれに固有のIDと上記複数の基地局それぞれから受信した電波の電界強度を取得する取得手段」とは、「複数の基地局それぞれから受信した電波の電界強度を、どの基地局からの電波強度なのか区別して取得する取得手段」という点で共通する。

引用発明1の「電波強度データ記憶部に予め入力されていた」は、本願補正発明の「過去に取得した」に相当するから、引用発明1の「電波強度データ記憶部に予め入力されていた、基地局を示す情報Bと電波強度Eとの複数組からなる電波強度データ」と本願補正発明の「過去に取得した上記IDと上記電界強度との組合せにより特定される過去の組合せ情報」とは、「過去に取得した基地局を示す情報と上記電界強度との組合せにより特定される過去の組合せ情報」という点で共通する。
引用発明1において、電波強度測定部で測定した電波強度データは、電波強度測定部で測定した時点すなわち現在における移動局の位置に応じて一意に決まるものであるから、引用発明1の「電波強度測定部で測定した、基地局を示す情報Bと電波強度Eとの複数組からなる電波強度データ」と本願補正発明の「現在位置における上記組合せにより特定される現在の組合せ情報」とは、「現在位置における基地局を示す情報と上記電界強度との組合せにより特定される現在の組合せ情報」という点で共通する。
上記記載事項5の【数1】からみて、引用発明1の位置検出部において算出される両電波強度データのユークリッド距離は、基地局を示す情報Bと電界強度Eとの複数組からなる両電波強度データが類似するほど小さくなるものであり、両電波強度データの類似度とみなせるものであるから、引用発明1の「ユークリッド距離を算出」と本願補正発明の「相関を計算」とは、「類似度を計算」という点で共通する。
また、上記記載事項5の【数1】からみて、引用発明1において、ユークリッド距離の大小を判定するということは、両電波強度データの類似度を判断しているといえることから、引用発明1の「位置検出部」は、本願補正発明の「関係性推定手段」に相当する。
したがって、引用発明1の「電波強度データ記憶部に予め入力されていた、基地局を示す情報Bと電波強度Eとの複数組からなる電波強度データと、前記電波強度測定部で測定した、基地局を示す情報Bと電波強度Eとの複数組からなる電波強度データとのユークリッド距離を算出して、そのユークリッド距離の大小を判定する位置検出部」と本願補正発明の「過去に取得した上記IDと上記電界強度との組合せにより特定される過去の組合せ情報と、現在位置における上記組合せにより特定される現在の組合せ情報との間の相関を計算した結果を、過去に取得した組合せ情報と現在の上記組合せ情報との関係性の判断に用いる関係性推定手段」とは、「過去に取得した基地局を示す情報と上記電界強度との組合せにより特定される過去の組合せ情報と、現在位置における基地局を示す情報と上記電界強度との組合せにより特定される現在の組合せ情報との類似度を計算した結果を、過去に取得した組合せ情報と現在の上記組合せ情報との関係性の判断に用いる関係性推定手段」という点で共通する。

したがって、本願補正発明と引用発明1の両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。

<一致点>
「複数の無線基地局と無線通信を行う無線通信端末において、
上記複数の基地局それぞれから受信した電波の電界強度を、どの基地局からの電波強度なのか区別して取得する取得手段と、
過去に取得した基地局を示す情報と上記電界強度との組合せにより特定される過去の組合せ情報と、現在位置における基地局を示す情報と上記電界強度との組合せにより特定される現在の組合せ情報との類似度を計算した結果を、過去に取得した組合せ情報と現在の上記組合せ情報との関係性の判断に用いる関係性推定手段と
を有する無線通信端末。」

<相違点1>
複数の基地局を互いに区別するものとして、本願補正発明では、複数の基地局それぞれに固有のIDを用いているのに対して、引用発明1では、複数の基地局それぞれに固有のIDを用いているのかが不明である点。

<相違点2>
過去の組合せ情報と現在の組合せ情報との類似度を求める手法に関し、本願補正発明では、両組合せ情報の相関を計算することにより求めているのに対して、引用発明1では、ユークリッド距離を算出することにより求めている点。

5 当審の判断
(1)相違点1
一般に、複数の対象を互いに区別するために、それぞれに固有のIDを用いることは、引用例を示すまでもなく周知技術である。しかも、上記記載事項6の段落【0042】には、基地局IDを用いることが示されている。
してみると、引用発明1において、複数の基地局を互いに区別するものとして、IDを用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。

したがって、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項は、引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。

(2)相違点2
一般に、2種類の情報の類似度を定量的に求めるために、それらの相関を計算することは、統計的手法として周知技術であるから、引用発明1において、電波強度測定部が測定した電波強度データと、電波強度データ記憶部で保持する電波強度データとの類似度を、両データの相関を計算することにより求めることは、格別なことでない。

したがって、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項は、引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。

そして、本願補正発明によって奏される効果は、引用発明1及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものに過ぎない。

したがって、本願補正発明は、引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

6 請求人の主張について
請求の理由において、請求人は、「引用文献1、2に記載されていない構成を有する本願発明によれば、データベース構築の際には位置情報を用いる必要がなく、利用者は現在位置情報を入力する必要が一切なく、1つまたは複数の基地局のIDと電界強度との組合せにより特定される組合せ情報を用いるのみで、過去の組合せ情報に対する現在の組合せ情報の関係性の推定を容易に行うことができるという、上記引用文献1、2に記載の技術からは予測し得ない優れた効果を奏するものであり、本願発明は、これらの引用文献1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。」(当審注:請求の理由における引用文献1は、引用刊行物1のことである。)と主張しているので、当該主張について以下検討する。

まず、請求人は、本願発明によれば、データベース構築の際には位置情報を用いる必要がなく、利用者は現在位置情報を入力する必要が一切ないと主張しているが、そもそも請求項1には、「データベース」に対応する記載はなく、データベースの構築の際に位置情報を用いるか用いないかについて特定されていないのであるから、当該主張は請求項の記載に基づかないものである。
また、本願発明は、1つまたは複数の基地局のIDと電界強度との組合せにより特定される組合せ情報を用いるのみで、過去の組合せ情報に対する現在の組合せ情報の関係性の推定を容易に行うことができる旨主張しているが、引用発明1における両電波強度データの類似度の判定は、両電波強度データのユークリッド距離を算出することにより行われており、両電波強度データのみを用いている点で本願発明と同様であるから、本願発明が引用発明1にない優れた効果を奏するものとはいえない。

したがって、請求人の上記主張は採用することができない。

7 まとめ
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年3月17日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「 【請求項1】
複数の無線基地局と無線通信を行う無線通信端末において、
上記複数の基地局それぞれに固有のIDと上記複数の基地局それぞれから受信した電波の電界強度を取得する取得手段と、
過去に取得した上記IDと上記電界強度との組合せと、現在位置における上記組合せ間の相関を計算した結果を、過去に取得した組合せと現在の上記組合せとの関係性の判断に用いる関係性推定手段と
を有することを特徴とする無線通信端末。」

第4 引用刊行物に記載された発明
引用刊行物1に記載された発明は、前記「第2 3 引用刊行物に記載された発明」に記載したとおりである。

第5 対比・判断
本願発明は、前記「第2 5 当審の判断」で検討した本願補正発明の「過去に取得した上記IDと上記電界強度との組合せにより特定される過去の組合せ情報」及び「現在位置における上記組合せにより特定される現在の組合せ情報」を、「過去に取得した上記IDと上記電界強度との組合せ」及び「現在位置における上記組合せ」にそれぞれ上位概念化したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに当該発明特定事項の一部を限定したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 5 当審の判断」において記載したとおり、引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-12 
結審通知日 2010-05-18 
審決日 2010-05-31 
出願番号 特願2006-34288(P2006-34288)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01S)
P 1 8・ 121- Z (G01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 哲有家 秀郎  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 濱本 禎広
下中 義之
発明の名称 無線通信端末、関係性推定方法及び記録媒体  
代理人 野口 信博  
代理人 藤井 稔也  
代理人 小池 晃  
代理人 伊賀 誠司  
代理人 祐成 篤哉  

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