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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02P
管理番号 1220296
審判番号 不服2009-696  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-01-08 
確定日 2010-07-15 
事件の表示 特願2005-201552「発電装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月22日出願公開、特開2005-354897〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年7月25日に出願された特願平9-200317号の一部を平成17年7月11日に新たな特許出願としたものであって、平成20年12月5日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年1月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年2月9日に明細書についての補正がなされたものである。
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は平成21年2月9日付手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。

「磁石界磁を有する回転子とn相(nは3以上の整数)の発電コイルを有する固定子とを備えて内燃機関により駆動される磁石発電機を電源として、電圧蓄積手段を有する負荷に直流電流を供給する発電装置において、
前記磁石界磁の回転角度位置を各発電コイルに対して検出する位置検出器と、
ブリッジ接続された2n個のダイオードからなっていて前記磁石発電機の出力を整流して前記負荷に供給するダイオードブリッジ全波整流回路と、前記2n個のダイオードに対してそれぞれ逆並列接続されてブリッジ接続された2n個のスイッチ素子からなるスイッチ回路とを備えた整流・スイッチ回路と、
前記発電コイルの誘起電圧に対して所定の位相角を有するn相の交流制御電圧を前記電圧蓄積手段から前記スイッチ回路を通して前記発電コイルに印加するように、前記スイッチ回路を構成する各スイッチ素子をオンオフ制御するスイッチ制御装置とを具備し、
前記スイッチ制御装置は、前記磁石発電機の出力電流対回転数特性を被制御特性として、該被制御特性を所期の特性とするように、前記位置検出器により検出された磁石界磁の回転角度位置を基準にして前記スイッチ回路の各スイッチ素子の駆動期間及び非駆動期間を定めるスイッチパターン決定手段と、前記スイッチ回路の各スイッチ素子に前記スイッチパターン決定手段により定められた駆動期間の間スイッチ素子をオン状態にするための駆動信号を与えるスイッチ駆動回路とを備え、
前記スイッチパターン決定手段は、前記被制御特性の状態に応じて前記発電コイルの誘起電圧に対する前記制御電圧の位相を遅れ位相から進み位相まで変化させるように構成されていることを特徴とする発電装置。」
なお、上記補正後の請求項1は、補正前の請求項2に対応し、その記載内容は同一であるので、上記補正は平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除に該当する。

2.引用刊行物
(1)これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-214470号公報(以下「引用刊行物」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、全波整流回路を備えた交流発電装置に関し、例えば車両等に搭載したバッテリ充電用発電装置や、電気自動車用の発電機あるいは電動発電機として使用できるものである。
【0002】
【従来の技術】一例として示す交流発電装置は、図33に示すように、界磁巻線100を有する回転子110と、3相電機子巻線120を有する固定子(図示しない)とを備え、界磁巻線100が励磁回路130により励磁されて回転子(界磁)110が回転することにより、電機子巻線120の各相巻線120a、120b、120cにそれぞれ誘起相電圧が発生する。この誘起相電圧は、6個のダイオード140により構成される全波整流器で直流に変換(整流)されて、バッテリ150および電気負荷160に供給される。」
・「【0005】そこで、本願発明者は、出力向上を図るための技術的手段を発電原理に基づいて考察した。その考察過程を以下に説明する。図37は発電原理を示す1相モデルの回路図である。この1相モデルでは、電機子抵抗r_(a)、電機子インダクタンスL、および負荷抵抗Rが直列に接続されて、これに交流電圧源(誘起相電圧E_(0))が加えられている。従って、負荷抵抗Rの両端に加わる電圧Vは、図38および図39に示すように、誘起相電圧E_(0)に対して位相差δだけ遅れることになる。」
・「【0007】ここで、低回転数域では周波数が低いことから、ωが小さくなる。従って、ωLが小さくなることから、上記の数1よりδは小さくなる。つまり回転数が低い程、誘起相電圧E_(0)に対する電圧Vの遅れが小さくなると言える。このため、回転数が低くなる程、つまりδが小さくなる程、上記の数2におけるcosδが大きくなることから、負荷抵抗Rに流れる相電流Iは小さくなる。その結果、発電出力Pも小さくなる(図40参照)。
【0008】以上の結果より、低速回転時においてもE_(0)とVとの位相差δを大きく取ることができれば、Iが大きくなって全体の出力電流が増大することにより、発電出力Pの向上を図ることができるのではないかと発明者は考えた。そこで、発明者は、電機子に発生する誘起線間電圧(または誘起相電圧)に対して任意の電気角だけ遅れた交流電圧を隣合う相巻線間(または相巻線)に印加して、誘起線間電圧(または誘起相電圧)に対して遅れた位相の合成電圧を作ることにより、E_(0)とVとの位相差δを大きくできることに着眼した。本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的は、まず、新しい制御方法を提供すること、また体格を拡大することなく発電出力(特に低回転数域)の向上を図ることのできる交流発電装置を提供することにある。」
・「【0017】
【作用および発明の効果】本発明の構成とすることにより、誘起相電圧もしくは誘起線間電圧に対して遅れた位相の合成電圧を作成し、電機子巻き線へ向けて電流を流すようにしたので交流発電装置の出力を任意に制御することが可能となる。特に発電機の低回転数時において出力電流を増加させることができるので、発電機の出力を向上させることができる。また、前記出力を下げる方向にも制御できるので、界磁の磁束が一定である場合にも出力制御が可能となる。」
・「【0022】
【実施例】次に、本発明の第1実施例を図1?13に基づいて説明する。図1は車両用発電装置の全体構成図である。本実施例の車両用発電装置1は、界磁巻線2を有する回転子3(界磁)、電機子巻線4を有する固定子5、界磁巻線2を励磁するための励磁回路(下述する)、電機子巻線4に誘起された交流電圧を全波整流する全波整流回路(下述する)、この全波整流回路の出力電圧の一部を固定子5(電機子)に印加する電圧印加回路(下述する)、界磁巻線2の磁束方向と電機子巻線4との相対的な回転位置を検出する磁気センサ6、7、8、磁気センサ6?8の出力を増幅する増幅回路9、増幅回路9の出力に基づいて電圧印加回路を制御する位相制御回路10、および励磁回路を制御する制御回路11より構成されている。
【0023】回転子3は、界磁巻線2が励磁回路より励磁されることで界磁として働き、エンジン(図示しない)の回転動力を受けて回転駆動(図1の反時計方向)される。電機子巻線4は、Y結線された3個の相巻線4a、4b、4cより成り、回転子3の回転に伴って相巻線4a、4b、4cの順に電気角で120°の位相差を持った誘起相電圧が発生する。励磁回路は、励磁電流の断続を行なうトランジスタ12と、このトランジスタ12と直列に接続されたダイオード13とから成る。
【0024】全波整流回路(本発明のスイッチング手段)は、6個のダイオード14a?14f(本発明のスイッチング素子)をブリッジ形に接続して構成されたもので、整流後の出力電圧がバッテリ15および電気負荷16に供給される。電圧印加回路(本発明のスイッチング手段)は、全波整流回路の各ダイオード14a?14fとそれぞれ並列に接続された6個のトランジスタ17a?17f(本発明のスイッチング素子)により構成されている。この各トランジスタ17a?17fは、ダイオード14a?14fに対して導通方向が逆方向となるように接続されている。
【0025】磁気センサ6?8(本発明の位置検出手段)は、例えば、図2に示すように、ホール素子6a?8aを用いたものであり、ホール素子6a?8aに駆動電流を流して、その受感面に加わる磁束の直交成分に応じた電圧を発生するものである。この磁気センサ6?8は、各相巻線4a?4cに対してそれぞれ電気角で90°遅れた位置に3個設置されている。増幅回路9は、各磁気センサ6?8の出力をそれぞれ増幅するために、図3に示すように、3つの作動増幅回路9a、9b、9cより構成されている。
【0026】位相制御回路10(本発明の駆動回路)は、増幅回路9の出力をデジタル変換して作成した制御信号により電圧印加回路の各トランジスタ17a?17fを制御するもので、図4に示すように、ヒステリシス幅を任意に設定することのできる3つのヒステリシス回路10a、10b、10cと、このヒステリシス回路10a?10cの出力信号と反対の信号を出力する3つのNOT回路10d、10e、10fより構成されている。」
・「【0028】この界磁巻線2を有する回転子3がエンジンにより回転駆動されることにより、固定子5の電機子巻線4には、相巻線4a、4b、4cの順に120°の位相差を持った誘起相電圧Eu 、Ev 、Ew が発生する(図5(a)参照)。この時、隣合う相巻線4aと4b、4bと4c、4cと4a間に発生する誘起線間電圧Eu-v 、Ev-w 、Ew-u は、誘起相電圧Eu 、Ev 、Ew に対してそれぞれ電気角で30°進んだ位相となる(図5(b)参照)。なお、Eu-v=Eu-Ev、Ev-w=Ev-Ew、Ew-u=Ew-Euである。
【0029】また、回転子3の回転に伴って、各磁気センサ6?8に電気角で120°の位相差を持ったセンサ出力u、v、wが発生する。各磁気センサ6?8は、それぞれ相巻線4a、4b、4cに対して電気角で90°遅れた位置に設置されていることから、各センサ出力u、v、wは、それぞれ誘起相電圧Eu 、Ev 、Ew と同位相となる(図5(c)参照)。
【0030】この各センサ出力u、v、wは、増幅回路9によってそれぞれ増幅されて、位相制御回路10へ取り込まれる。位相制御回路10では、ヒステリシス回路10a?10cによってセンサ出力u、v、w(増幅回路9の出力)より電気角で60°遅れたデジタル信号U_(0)、U_(1)、V_(0)、V_(1)、W0、W_(1)(図6(a)参照)が作成されて、このデジタル信号U_(0)、U_(1)、V0、V_(1)、W_(0)、W_(1)に基づいて電圧印加回路の各トランジスタ17a?17fが駆動されることにより、隣合う相巻線4aと4b、4bと4c、4cと4a間に交流電圧Vu-v 、Vv-w 、Vw-u が印加される(図6(b)参照)。
【0031】この印加交流電圧(印加線間電圧)Vu-v 、Vv-w 、Vw-u は、それぞれ誘起相電圧Eu 、Ev 、Ew に対して電気角で30°遅れることから、図5(b)に示す誘起線間電圧Eu-v 、Ev-w 、Ew-u に対しては、それぞれ電気角で60°遅れることになる。この時、印加交流電圧Vu-v 、Vv-w 、Vw-u によって得られる印加相電圧Vu 、Vv 、Vw も、また誘起相電圧Eu 、Ev 、Ew (図5(a)参照)に対してそれぞれ電気角で60°遅れている(図6(c)参照)。
【0032】なお、誘起線間電圧Eu-v 、Ev-w 、Ew-u に対する印加交流電圧Vu-v 、Vv-w 、Vw-u の遅れ角は、ヒステリシス回路10a?10cによって設定されるヒステリシス幅により電気角で0?90°まで変更可能であるが、それ以上の遅れ角を設定する場合は、磁気センサ6?8の位置変更によって対応することができる。」
・「【0033】ここで、本実施例の発電方式による効果を、従来の発電方式との比較に基づいて説明する。従来の発電方式では、図25に示したように、電機子抵抗ra 、電機子インダクタンスL、および負荷抵抗Rが直列に接続されて、これに交流電圧源(誘起相電圧E0 )が加えられており、負荷抵抗Rの両端に加わる電圧Vは、誘起相電圧E0 に対して位相差δだけ遅れることになる。
【0034】そして、この位相差δは、従来技術の項で説明したように、Rおよびra とωLとの関係(数1参照)により受動的に決定されるため、回転数が低い時(ωが小さく、このωを無視できる時)は、δ=0°と見做され、相電流Iは以下の式で求められる。」
・「【0065】……。実施例では、回転子3に界磁巻線2を持たせて、外部の励磁回路(トランジスタ12およびダイオード13)により励磁電流を可変制御する例を説明したが、界磁として磁石式回転子を用いても良い。この時、励磁回路は不要となり、また出力は遅れ角δで調整することができる。」

また、上記記載及び図4によれば、電圧印加回路の各トランジスタ17a?17fにオンオフ制御信号を出力する位相制御回路10は、各磁気センサ6?8の出力をそれぞれ増幅する増幅回路9の出力をデジタル変換して作成した制御信号により、発電装置の回転数に対する出力電流を任意に制御するためにヒステリシス幅を任意に設定する、すなわちスイッチングの位相角を所定の位相角に制御して所定の位相角を有する3相の交流制御電圧をバッテリからスイッチング手段を通して電機子巻線4に印加することのできる3つのヒステリシス回路10a、10b、10cと、このヒステリシス回路10a?10cの出力信号と反対の信号を出力する3つのNOT回路10d、10e、10fより構成される、トランジスタ制御装置を有するということができる。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用刊行物には、次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
・「磁石式回転子と3相の電機子巻線4を有する固定子5とを備えてエンジンにより駆動されるバッテリ充電用発電装置を電源として、バッテリに直流電流を供給する車両用発電装置において、
前記磁石の磁束方向と電機子巻線4との相対的な回転位置を検出する磁気センサ6、7、8と、
ブリッジ形に接続して構成された6個のダイオード14a?14fからなっていて前記バッテリ充電用発電装置の出力を整流して前記バッテリに供給する全波整流回路と、前記6個のダイオード14a?14fに対してそれぞれ並列に接続された6個のトランジスタ17a?17fからなるスイッチング手段とを備えた電圧印加回路と、
前記電機子巻線4の誘起電圧に対して所定の位相角を有する3相の交流制御電圧を前記バッテリから前記スイッチング手段を通して前記電機子巻線4に印加するように、前記スイッチング手段を構成する各トランジスタ17a?17fをオンオフ制御する位相制御回路10とを具備し、
前記位相制御回路10は、バッテリ充電用発電装置の出力を任意に制御するために、前記磁気センサ6、7、8により検出された磁石の回転角度位置を基準にして増幅回路9の出力をデジタル変換して作成した制御信号により電圧印加回路の各トランジスタ17a?17fを制御するヒステリシス幅を任意に設定することのできる3つのヒステリシス回路10a、10b、10cを備え、
前記ヒステリシス回路10a、10b、10cは、前記出力の状態に応じて前記電機子巻線の誘起電圧に対する前記制御電圧の位相を変化させるように構成されている発電装置。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「磁石式回転子」はその機能・作用からみて、前者の「磁石界磁を有する回転子」に相当し、以下同様に「3相」は「n相(nは3以上の整数)」に、「電機子巻線4」は「発電コイル」に、「エンジン」は「内燃機関」に、「バッテリ充電用発電装置」は「磁石発電機」に、「バッテリ」は「電圧蓄積手段を有する負荷」,及び「電圧蓄積手段」に、「車両用発電装置」は「発電装置」に、「磁石」は「磁石界磁」に、「磁石の磁束方向と電機子巻線4との相対的な回転位置を検出する磁気センサ6、7、8、」は「回転角度位置を各発電コイルに対して検出する位置検出器」に、「ブリッジ形に接続して構成された6個のダイオード14a?14f」は「ブリッジ接続された2n個のダイオード」に、「全波整流回路」は「ダイオードブリッジ全波整流回路」に、それぞれ相当する。
また、引用刊行物の図1を見れば、ブリッジ回路を構成するトランジスタとダイオードは逆並列に接続されていることが認められるので後者の「それぞれ並列に接続された6個のトランジスタ17a?17f」は、前者の「それぞれ逆並列接続されてブリッジ接続された2n個のスイッチ素子」に相当し、以下同様に「スイッチング手段」は「スイッチ回路」に、「電圧印加回路」は「整流・スイッチ回路」に、「位相制御回路10」は「スイッチ制御装置」に、それぞれ相当する。
そして、後者の「出力を任意に制御する」態様と前者の、「磁石発電機の出力電流対回転数特性を被制御特性として、該被制御特性を所期の特性とする」態様とは、「出力電流を被制御特性として、該被制御特性を所期の特性とする」との概念で共通する。
さらに、後者の「磁気センサ6、7、8により検出された磁石の回転角度位置」は、前者の「位置検出器により検出された磁石界磁の回転角度位置」に相当し、後者の「増幅回路9の出力をデジタル変換して作成した制御信号により電圧印加回路の各トランジスタ17a?17fを制御するヒステリシス幅を任意に設定することのできる3つのヒステリシス回路10a、10b、10c」は、前者の「スイッチ回路の各スイッチ素子の駆動期間及び非駆動期間を定めるスイッチパターン決定手段」及び、「スイッチ回路の各スイッチ素子にスイッチパターン決定手段により定められた駆動期間の間スイッチ素子をオン状態にするための駆動信号を与えるスイッチ駆動回路」に相当する。

したがって両者は、
[一致点]
「磁石界磁を有する回転子とn相(nは3以上の整数)の発電コイルを有する固定子とを備えて内燃機関により駆動される磁石発電機を電源として、電圧蓄積手段を有する負荷に直流電流を供給する発電装置において、
前記磁石界磁の回転角度位置を各発電コイルに対して検出する位置検出器と、
ブリッジ接続された2n個のダイオードからなっていて前記磁石発電機の出力を整流して前記負荷に供給するダイオードブリッジ全波整流回路と、前記2n個のダイオードに対してそれぞれ逆並列接続されてブリッジ接続された2n個のスイッチ素子からなるスイッチ回路とを備えた整流・スイッチ回路と、
前記発電コイルの誘起電圧に対して所定の位相角を有するn相の交流制御電圧を前記電圧蓄積手段から前記スイッチ回路を通して前記発電コイルに印加するように、前記スイッチ回路を構成する各スイッチ素子をオンオフ制御するスイッチ制御装置とを具備し、
前記スイッチ制御装置は、前記磁石発電機の出力電流を被制御特性として、該被制御特性を所期の特性とするように、前記位置検出器により検出された磁石界磁の回転角度位置を基準にして前記スイッチ回路の各スイッチ素子の駆動期間及び非駆動期間を定めるスイッチパターン決定手段と、前記スイッチ回路の各スイッチ素子に前記スイッチパターン決定手段により定められた駆動期間の間スイッチ素子をオン状態にするための駆動信号を与えるスイッチ駆動回路とを備え、
前記スイッチパターン決定手段は、前記被制御特性の状態に応じて前記発電コイルの誘起電圧に対する前記制御電圧の位相を変化させるように構成されている発電装置。」である点で一致し、次の点で相違している。

[相違点1]
所期の特性とする「被制御特性」に関して、本願発明では、「出力電流対回転数特性」であるのに対して、引用発明では、そのような特定のない「出力」の状態である点、。
[相違点2]
発電コイルの誘起電圧に対して変化させる制御電圧の位相に関し、本願発明では、「遅れ位相から進み位相まで」と特定しているのに対して、引用発明では、そのような特定がされていない点。

4.相違点に対する判断
相違点1について
引用刊行物の【0007】,【0008】に記載されるように、引用発明は、特に低速回転時において出力電流を増大することを目的とし、任意の出力電流を得るためのものであり、出力電流は、図7に示されるように回転速度に応じて変化するものである。そして、自動車用の発電機においては、バッテリを含む負荷の状態に応じて出力電流を制御すべきことが技術常識であるから、引用発明においても、発電機の「被制御特性」である出力の状態として、出力電流対回転数特性を「被制御特性」として制御する構成とすることで相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者が必要に応じて適宜設計し得る事項と認められる。

相違点2について
引用刊行物の【0017】には、「出力を下げる方向にも制御できるので、界磁の磁束が一定である場合にも出力制御が可能となる。」と記載されている。
【0008】の記載を参照すれば、回転子に永久磁石を用いた場合において、出力電流を増大させる場合は「図38に示す状態から位相差δを大きくする方向に、すなわち、誘起相電圧に対して遅れた交流電圧を印加してE_(0)とVとの位相差δを大きくすることで全体の出力電流を大きくする」ものであるから、上記「出力を下げる方向」の制御とは、回転子に永久磁石を用いた場合において図38に示す状態から位相差δを小さくする方向に、すなわち、誘起相電圧に対して進んだ交流電圧を印加してE_(0)とVとの位相差δを小さくすることで全体の出力電流を小さくすることを意味するものといえる。
したがって、引用刊行物には実施例としては低速回転時の出力電流を増大させ、また効率を向上させるために遅れた位相の電圧を印加することが記載されているとしても、上記【0017】の記載を参照すれば、進相方向の電圧を印加して出力電流を減少させる発明も開示されているということができる。
そして、トランジスタとダイオードが逆並列接続されたブリッジ回路を用いた場合には、誘起電圧に対して、遅れ位相から進み位相までスイッチングのタイミングにより任意の位相で相電圧を印加できることは技術常識であるから、引用発明において、出力電流を増大させる制御に加え、出力を下げる方向の制御も考慮して、発電コイルの誘起電圧に対して変化させるる制御電圧の位相を、遅れ位相から進み位相まで変化させることで相違点2に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たことと認められる。

また、本願発明の全体構成により奏される効果は、引用発明及び上記技術常識から予測し得る程度のものと認められる。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び上記技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-18 
結審通知日 2010-05-19 
審決日 2010-06-01 
出願番号 特願2005-201552(P2005-201552)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 牧 初  
特許庁審判長 田良島 潔
特許庁審判官 仁木 浩
片岡 弘之
発明の名称 発電装置  
代理人 松本 英俊  

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