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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F17C
管理番号 1220297
審判番号 不服2009-4716  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-04 
確定日 2010-07-15 
事件の表示 特願2001-89439「マグネシウム系水素吸蔵合金充填容器への水素ガス充填方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月3日出願公開、特開2002-286200〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 本願発明
本願は、平成13年3月27日の出願であって、その請求項1ないし6に係る発明は、平成20年7月16日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1は次のとおり記載されている。
「【請求項1】容器に充填されたマグネシウム系水素吸蔵合金に水素ガスを充填する際、水素ガスの導入開始と共に、水素吸蔵合金の加熱を中止し、その後は水素吸蔵反応による発熱を利用することにより水素吸蔵を行うことを特徴とする水素ガス充填方法。」
(以下、請求項1に係る発明を、「本願発明1」という。)

2 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平5-163001号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に次の記載がある。
「【請求項1】2種類の水素吸蔵合金を密閉二重容器内にそれぞれ充填した容器のうち、一方の低温で反応する水素吸蔵合金を収納した容器に水素を導入して、他方の容器内の高温で反応する水素吸蔵合金の温度が、少なくとも迅速な水素化反応に必要な温度に上昇した後に、その容器内に収納した高温で反応する水素吸蔵合金に水素を導入し、あらかじめ定めた温度まで水素化反応を行わせることを特徴とする容器の急速加熱方法。」
「【0006】【発明が解決しようとする課題】水素化時に300℃以上の高温まで達する合金は、100℃以下の低温で水素化反応を行わせた場合は反応速度が遅く、一度に300℃以上の高温に達することができない。水素化反応を急激に行わせるためには、あらかじめ合金をリボンヒーター等で200℃程度に加熱しておく必要があり、そのために加熱装置が必要で、コストの問題があった。」
「【0012】【作用】100℃以下の低温より300℃以上の高温まで急速加熱を行うための方法を種々検討した結果、低温で反応する水素吸蔵合金を用いて、その反応熱を利用して目的とする水素吸蔵合金の温度を上昇させることにより、目的の合金を反応に導き、その反応熱により合金を高温に到達せしめる方法が有効である。水素吸蔵合金を選択する際に重要なことは、低温で水素と反応して到達する水素吸蔵合金の最高温度が、高温で迅速に反応する水素吸蔵合金の反応温度域にあることが必要である。」
「【0014】本発明において、高温で反応する水素吸蔵合金について説明する。300℃以上の高温に昇温させるための合金は、水素化反応熱の大きな合金を選択する必要がある。Mg_(2)Niは水素化反応熱の大きな代表的な合金であるが、この合金に限らず、Mg系…等の合金も使用することができる。」
「【0017】…実施例1
本発明の請求項1記載の方法を図1に基づいて、密閉容器内の内側に低温で反応する水素吸蔵合金を充填し、外側に高温で反応する水素吸蔵合金を充填した例について説明する。室温近辺で反応する水素吸蔵合金11を水素吸蔵合金充填容器1a(以下容器1a)に、反応熱の大きな水素吸蔵合金、例えばMg_(2)Ni合金12を水素吸蔵合金充填容器2a(以下容器2a)に充填する。まず水素吸蔵合金11、12を使用可能な状態にするために活性化操作を行う。……水素吸蔵合金は容易に水素を吸蔵放出できるようになる。」
「【0018】以下、急速加熱方法を説明する。準備段階として、熱により容器1a、2aを加熱し、バルブ31、32、51を開けて、水素吸蔵合金11、12中の水素を放出させる。水素吸蔵合金11、12より十分に水素が放出された後、バルブを全て閉め、容器1a、2aの加熱を終了して放置する。急速加熱が必要なときにバルブ52を開け、水素ボンベ54より水素を導入し、バルブ31を開けて水素を容器1aに導き、室温から100℃程度で反応する水素吸蔵合金11と反応させて容器1aを急速に加熱する。この熱は容器2a中の水素吸蔵合金12に伝わる。水素吸蔵合金12の温度を水素吸蔵合金12中に差し込まれた熱電対22によって測定し、容器2aの中の水素吸蔵合金12が水素と速やかに反応する温度に達した時にバルブ32を開けて水素を容器2aに導いて水素吸蔵合金12と反応させ、容器2aを300℃以上の高温に導く。…
【0019】以下、実施例1の方法についてさらに具体的に説明する。Mg_(2)Ni合金粉末100gを図1の容器2aに、LaNi_(4.3)Al_(0.7)合金粉末200gを容器1aにそれぞれ充填する。この水素吸蔵合金を使用可能な状態にするために、容器1a、2aをリボンヒーターにより加熱することで合金を加熱し、同時に真空排気操作と水素加圧操作を交互に行い、加圧時の水素圧20kg/cm^(2)、300℃において数回で活性化操作を終了した。急速加熱の準備段階として、リボンヒーターにより容器1a、2aを加熱し、バルブ51を開けて真空ポンプ53で水素吸蔵合金より十分に水素を放出させ、次いでバルブ31、32、51を閉め、容器1a、2aの加熱をやめて放置する。準備完了後、バルブ52を開け、次いでバルブ31を開け、25℃において20kg/cm^(2)の水素を容器1a中に導入し、LaNi_(4.3)Al_(0.7)合金粉末と反応させ、容器2a中のMg_(2)Ni合金粉末中にある熱電対22が示す温度が188℃に達した時点でバルブ32を開け、20kg/cm^(2)の水素を容器2aに導入する。この時のMg_(2)Ni合金粉末の温度変化を図9の曲線aに示す。このように常温より300℃以上まで急速に容器を昇温でき、事前加熱をする必要もなく経済的に高温を得ることができる。」
以上の記載及び図面によれば、引用例には、次の発明が記載されていると認められる。
「室温近辺で反応する水素吸蔵合金11を容器1aに、Mg_(2)Ni合金12からなる反応熱の大きな水素吸蔵合金12を容器2aにそれぞれ充填し、水素を容器1a中に導入し、室温近辺で反応する水素吸蔵合金11と反応させて容器1aを加熱し、その熱が容器2aに充填した反応熱の大きな水素吸蔵合金12に伝わり該水素吸蔵合金12の温度が188℃に達した時点で、容器2aに充填した反応熱の大きな水素吸蔵合金12に水素を導入して、反応熱の大きな水素吸蔵合金12が高温に到達するまで水素化反応を行わせる容器の急速加熱方法。」

3 対比
本願発明1と引用例記載の発明とを対比すると、引用例記載の発明の「Mg_(2)Ni合金12からなる反応熱の大きな水素吸蔵合金12」及び「水素化反応」は、それぞれ本願発明1の「マグネシウム系水素吸蔵合金」及び「水素吸蔵反応」に相当する。
さらに、引用例記載の発明の「水素を容器1a中に導入し、室温近辺で反応する水素吸蔵合金11と反応させて容器1aを加熱」は、その熱が容器2aに充填した反応熱の大きな水素吸蔵合金12に伝わることから、本願発明1の「水素吸蔵合金の加熱」に相当する。
本願発明1の「水素ガスの導入開始と共に、水素吸蔵合金の加熱を中止し、その後は水素吸蔵反応による発熱を利用することにより水素吸蔵を行う」との事項に関して、本願明細書の段落【0007】に「外部からの加熱は中止されても、合金への水素化反応の発熱により周囲の水素吸蔵合金が加熱され、その反応熱で更に周囲の合金も加熱されて水素ガスの吸蔵量は増大していく。このようにして、連続的に水素ガス吸蔵反応が進行する。そして、その後は、外部からの熱エネルギーを与えなくとも約250?350℃に達し、その結果、水素吸蔵合金に所定条件における有効水素吸蔵量として飽和するまで水素ガスが吸蔵される」との記載がある。
上記記載によると、本願発明1の「その後は水素吸蔵反応による発熱を利用することにより水素吸蔵を行う」との事項は、合金への水素化反応の発熱により周囲の水素吸蔵合金が加熱され、その反応熱で更に周囲の合金も加熱されて連続的に水素ガス吸蔵反応が進行して水素ガスを吸蔵することを意味していると解されるところ、引用例記載の発明も、「該水素吸蔵合金12の温度が188℃に達した時点で、容器2aに充填した反応熱の大きな水素吸蔵合金12に水素を導入して、反応熱の大きな水素吸蔵合金12が高温に到達するまで水素化反応を行わせる」ものであり、段落【0012】の「目的とする水素吸蔵合金の温度を上昇させることにより、目的の合金を反応に導き、その反応熱により合金を高温に到達せしめる」との記載を参酌すると、反応熱の大きな水素吸蔵合金12の温度が188℃に達した時点で、反応熱の大きな水素吸蔵合金12に水素を導入して水素化反応を行わせ、その反応熱により水素化反応が連続的に、反応熱の大きな水素吸蔵合金12が高温に到達するまで進行し、水素吸蔵を行うものであるということができ、引用例記載の発明は、本願発明1の「水素ガスの導入開始と共に、その後は水素吸蔵反応による発熱を利用することにより水素吸蔵を行う」との事項を備えている。
そして、引用例記載の発明の「容器の急速加熱方法」は、上記のように反応熱の大きな水素吸蔵合金12が水素吸蔵を行っており、本願発明1の「水素ガス充填方法」に相当する。
そうすると、両者は、
「容器に充填されたマグネシウム系水素吸蔵合金に水素ガスを充填する際、水素ガスの導入開始の後は水素吸蔵反応による発熱を利用することにより水素吸蔵を行う水素ガス充填方法」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点
本願発明1では、水素ガスの導入開始と共に、水素吸蔵合金の加熱を中止するのに対して、引用例記載の発明では、水素ガスの導入開始と共に、水素吸蔵合金の加熱を中止すると特定されていない点。

4 相違点の検討
そこで、上記相違点について検討する。
引用例には、水素ガスの導入開始と共に、水素吸蔵合金の加熱を中止する、すなわち、水素を容器1a中に導入し、室温近辺で反応する水素吸蔵合金11と反応させることによる容器1aの加熱を、水素ガスの導入開始と共に、中止することについては記載されていない。
しかし、引用例記載の発明において、容器1aの加熱は、容器2aに充填したMg_(2)Ni合金12からなる反応熱の大きな水素吸蔵合金12(以下、「マグネシウム系水素吸蔵合金」という。)の温度を迅速な水素化反応に必要な温度に昇温させることが目的であり(上記段落【請求項1】、【0012】参照。)、マグネシウム系水素吸蔵合金の温度が、迅速な水素化反応に必要な188℃に達した時点で、マグネシウム系水素吸蔵合金に水素を導入して水素化反応を行わせると、その反応熱により水素化反応が連続的に進行するのであるから、マグネシウム系水素吸蔵合金の温度が、その迅速な水素化反応に必要な温度に達したあとは、容器1aを加熱する必要がないことは、当業者にとって明らかである。
そして、水素吸蔵合金の温度が高くなりすぎると、反応速度が低下したり吸蔵ではなく放出したりするなど、水素吸蔵には望ましくないことは技術常識であるから(例えば、引用例の段落【0004】【0005】参照)、引用例記載の発明において、マグネシウム系水素吸蔵合金の温度が迅速な水素化反応に必要な温度に達した時点で発熱を終える程度に、容器1aの発熱を調節して、容器1aの加熱を中止するようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
上記マグネシウム系水素吸蔵合金の温度が迅速な水素化反応に必要な温度に達した時点は、水素ガスの導入開始のときでもあることは明らかである。
そうすると、引用例1記載の発明において、水素ガスの導入開始と共に、水素吸蔵合金の加熱を中止し、本願発明1とすることは、当業者が格別の困難性を伴うことなく容易になし得たことといえる。
しかも、本願発明1が奏する効果も、引用例記載の発明から当業者が予測できたものであり、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願発明1は、引用例記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、平成21年5月26日に補正された審判請求書の【請求の理由】の(2)ないし(3)において、引用例の段落【0034】には、「マグネシウム系水素吸蔵合金をヒーターを用いて、ある一定の温度にまで加熱し、ある一定の温度に達したら水素ガスの導入開始と共に加熱を中止して、その後は水素吸蔵反応による発熱を利用することにより水素吸蔵を行う本願発明を好ましくないとして否定する記載があります」と主張している。
しかしながら、引用例の段落【0034】は、Mg_(2)Ni合金粉末を水素吸蔵反応を生じる温度まで加熱する方法としての電気加熱は、低温で反応する水素吸蔵合金の発熱を利用して加熱する方法より経済性に劣ると述べているものであって、「マグネシウム系水素吸蔵合金をヒーターを用いて、ある一定の温度にまで加熱し、ある一定の温度に達したら水素ガスの導入開始と共に加熱を中止して、その後は水素吸蔵反応による発熱を利用することにより水素吸蔵を行う」ことが好ましくないと述べているのではないことは明らかである。請求人の上記主張は、引用例の記載を曲解又は誤解したことに基づく主張であり、失当であるから採用することができないものである。
また、請求人は、同【請求の理由】の(3)において、「引用文献1の加熱方法では、容器1aの水素吸蔵合金の発熱を利用して容器2aを加熱し、その後、容器2aの反応が始まると個々の容器温度は300℃程度の高温になり、容器1aの低温で反応する水素吸蔵合金からは吸蔵されていた水素が逆に放出されることとなり、そのまま放置すると容器1aは非常に高い圧力になり、これに耐えうる肉厚の耐圧容器にするか、または水素吸蔵合金から放出された水素を容器1aから系外に逃がすなどの制御が必要となり装置が大型になり、複雑になります。一方、本願発明のヒーターによる加熱は、引用文献1のように、水素吸蔵合金を使い分ける必要がなく、引用文献1の装置に比べて装置の構造がシンプルであり、かつ、上記のような不具合を発生することもないという利点を有しているのであります。」と主張している。
しかしながら、本願発明1は、上記「1」で指摘したとおりのものであり、水素吸蔵合金を加熱する手段をどのようなものとするかは、何も特定していないものである。請求人の上記主張は、本願請求項に記載した発明特定事項に基づかない主張であり、失当であるから採用することができないものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-06 
結審通知日 2010-05-11 
審決日 2010-06-01 
出願番号 特願2001-89439(P2001-89439)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F17C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柳本 幸雄  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 村上 聡
熊倉 強
発明の名称 マグネシウム系水素吸蔵合金充填容器への水素ガス充填方法  
代理人 大谷 保  
代理人 大谷 保  

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