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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1220421
審判番号 不服2009-22258  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-16 
確定日 2010-07-21 
事件の表示 特願2004-172364「画像形成装置及び画像形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月22日出願公開、特開2005-352118〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年6月10日の出願であって、平成21年4月1日付けで通知した拒絶の理由に対して、同年6月1日付けで手続補正書が提出されたが、同年8月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月16日付けで審判請求がなされたものである。

本願の請求項1?8に係る発明は、平成21年6月1日付けの手続補正により補正された請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりである。
なお、上記認定に関して、請求項1は、「平滑度40S以下18S以上の転写材上のトナー像を加熱定着する定着部」を有する「画像形成装置」とされるところ、「平滑度40S以下18S以上の転写材」が「定着部」をどのように特定しているかが、必ずしも明確でないが、「平滑度40S以下18S以上の転写材上のトナー像を加熱定着する」ことに適した「定着部」ないしは「画像形成装置」という意味であると一応考えられ、また、発明の詳細な説明を参酌すると、「平滑度40S以下18S以上の転写材」が本願の重要な要素であることが理解されるので、ここでは、請求項1の「平滑度40S以下18S以上の転写材」を含めて一応そのまま認定することにした。

「【請求項1】
表面に弾性体層を有する無端ベルトの内側に複数本の回転体を配置し、これら回転体の少なくともその1つの回転体が加熱ローラーであり、上記無端ベルトの外側に位置する加圧回転体と、上記複数本の回転体のうち上記加圧回転体に上記無端ベルトを介して対向配置する対向回転体とで上記無端ベルトを挾圧し、この無端ベルトと上記加圧回転体により形成されるニップ部によって、平滑度40S以下18S以上の転写材上のトナー像を加熱定着する定着部、前記平滑度を有する転写材を供給する給紙部、及びトナーによる現像部とを有する画像形成装置であって、
前記定着部のニップ時間が35?70ms、上記加圧回転体、又は対向回転体の少なくとも一方はゴム硬度が20?40Hsの弾性層を有しており、かつ上記トナーの重量平均粒径が2?5μmであることを特徴とする画像形成装置。」


2.引用例の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された、
特開2002-351143号公報(原査定の引用文献1。以下、「刊行物1」という。)、
特開2003-280427号公報(原査定の引用文献2。以下、「刊行物2」という。)、
特開平4-316078号公報(原査定の引用文献3。以下、「刊行物3」という。)、
特開平4-121770号公報(原査定の引用文献4。以下、「刊行物4」という。)、
特開平6-11880号公報(原査定の引用文献5。以下、「刊行物5」という。)、及び、
特開2004-109762号公報(原査定の引用文献6。以下、「刊行物6」という。)、
には、図面とともに、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

(1)刊行物1
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】発熱体と、該発熱体により加熱される一つ以上の伝熱媒体、及び、該伝熱媒体の一つに記録媒体を圧接させる加圧部材とにより、記録媒体上のトナー像を加熱定着する定着方法を用いた画像形成方法において、該伝熱媒体の少なくとも一つは、ベルト状伝熱媒体であり、ベルト上に一定量のオイルを塗布させ又は塗布させず使用するバインダー樹脂を含有するトナーの定着方法であって、該トナーが有機溶媒中に少なくとも変性ポリエステル系樹脂からなるプレポリマー、該プレポリマーと伸長及び/又は架橋する化合物、及びトナー組成分を含む材料を溶解又は分散させ、該溶解又は分散物を水系媒体中で架橋反応及び/又は伸長反応させ、得られた分散液から溶媒を除去することにより得られた乾式トナーであること特徴とする画像形成方法。
【請求項2】?【請求項4】(略)
【請求項5】前記トナーの重量平均粒径が3.0?7.0μmであり、粒径分布が1.00≦Dv/Dn≦1.20(Dv:重量平均粒径、Dn:個数平均粒径)であることを特徴とする請求請1?4のいずれかに記載の画像形成方法。」

(1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子写真方式を用いた画像形成方法に関し、特にベルト状伝熱媒体を定着部に使用した画像形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、電子写真方式による画像形成では、光導電性物質等の像担持体上に静電荷による潜像を形成し、この静電潜像に対して、帯電したトナー粒子を付着させ可視像を形成している。トナーにより形成された可視像は、最終的に紙等の転写媒体に転写後、熱、圧力や溶剤気体等によって転写媒体に定着され、出力画像となる。」

(1c)「【0020】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の様な現状の問題点に鑑み、定着部で用いられるベルト状伝熱媒体と該定着部を用いた画像形成方法で使用される電子写真用トナーの相互作用的特性と、その特性の有効範囲を明らかにすることにより、実使用の上で極めて安定した良好な画像品質が、長期に亘って得られる画像形成方法、及びベルト状伝熱媒体を用いる定着方法において省エネルギーのための低温定着、耐ホットオフセット性、耐熱保存性を満足し、カラートナーにおいては光沢性能、OHPでの透明性を満足した画像形成方法を提供することを目的とする。」

(1d)「【0047】本発明に用いるトナーにおいて、その重量平均粒径(Dv)は3.0?7.0μmであり、その個数平均粒径(Dn)との比(Dv/Dn)は1.00≦Dv/Dn≦1.20である。Dv/Dnをこのように規定することにより、高解像度、高画質のトナーを得ることが可能となる。また、より高品質の画像を得るには、着色剤の重量平均粒径(Dv)を3.0?7.0μmにし、個数平均粒径(Dn)との比(Dv/Dn)を1.00≦Dv/Dn≦1.20にし、且つ3μm以下の粒子を個数%で1?10個数%にするのがよく、より好ましくは、重量平均粒径を3?6μmにし、Dv/Dnを1.00≦Dv/Dn≦1.15にするのがよい。このようなトナーは、耐熱保存性、低温定着性、耐ホットオフセット性のいずれにも優れ、とりわけフルカラー複写機などに用いた場合に画像の光沢性に優れ、更に二成分現像剤においては、長期に亘るトナーの収支が行われても、現像剤中のトナーの粒子径の変動が少なくなり、現像装置における長期の攪拌においても、良好で安定した現像性が得られる。」

(1e)「【0113】
【発明の実施の形態】本発明の画像形成方法に使用する定着装置の一例を図1に示す。図1において2は金属製(アルミニウム、鉄等)芯金に弾性体(シリコンゴムなど)を被覆した定着ローラーであり、1は金属性(アルミニウム、鉄、銅、ステンレス等からなるパイプ)中空筒状芯金からなり内部等に加熱源5を有する加熱ローラーである。7は加熱ローラー1部分に接する定着ベルト3の表面温度を測定する為の温度センサーである。定着ローラー2と加熱ローラー1との間に定着ベルト3が張設されている。定着ベルト3は熱容量の小さい構成であり、基体(ニッケルやポリイミドなどの30から150μm程度の厚さ)上に、離型層(シリコンゴムで50から300μmの厚さや、フッ素系樹脂で10から50μm程度の厚さなど)が設けられたものである。また、4は金属製芯金に弾性体を被覆した加圧ローラーであり、定着ベルト3を介して定着ローラー2を下方から押圧することにより、定着ベルト3と加圧ローラー4との間にニップ部を形成している。また、それぞれの部材の寸法は、必要とされる各種の条件により設定される。
【0114】なお、これらは一例であり、例えば定着ローラー2や、加圧ローラー4の内部に加熱源を設けることも可能であり、本発明では、この例以外の構成で定着ベルトを使用した定着装置も適用される。」

図1は、以下のとおり。

ここで、図1と上記【0113】の記載から、次の定着装置を認めることができる。
基体上に離型層が設けられた無端の定着ベルトの内側に、内部に加熱源を有する加熱ローラーと、金属製芯金に弾性体を被覆した定着ローラーとを配置し、定着ローラーは、金属製芯金に弾性体を被覆して形成され定着ベルトの外側に位置する加圧ローラーと、定着ベルトを介して対向配置され、加圧ローラーと定着ローラーとで定着ベルトを挟圧し、定着ベルトと加圧ローラーとで形成されるニップ部によって、転写紙上のトナー像を加熱定着する定着装置。
また、この定着装置は、画像形成装置に配置されるものであることは、明らかである(定着装置が、上記(1a)(1b)で電子写真方式の画像形成方法に用いられること、下記(1f)でカラー複写機に用いられること)から、「上記定着装置を有する、電子写真方式の画像形成装置」を認定することができる。

(1f)「【0116】実施例1
(ポリエステルの製造例)(略)
【0117】(プレポリマーの製造例)(略)
【0118】(ケチミン化合物の製造例)(略)
【0119】(トナーの製造例)(略)
【0120】次に、得られた母体粒子(1)100部、帯電制御剤(オリエント化学社製ボントロン E-84)0.25部をQ型ミキサー(三井鉱山社製)に仕込み、タービン型羽根の周速を50m/secに設定して混合処理した。この場合、その混合操作は、2分間運転、1分間休止を5サイクル行い、合計の処理時間を10分間とした。
【0121】さらに、疎水性シリカ(H2000、クラリアントジャパン社製)を0.5部添加し、混合処理した。この場合、その混合操作は、周速を15m/secとして30秒混合1分間休止を5サイクル行った。得られたトナー(1)の性状及び下記のように評価した結果を表1、2に示す。
【0122】[各種品質特性の測定方法]品質特性測定は以下の通りに行なった。なお、以下?の特性評価は、図1に示すベルト定着を以下の条件にて実施した。
【0123】
ベルト張力 :1.5kg/片
ベルト速度 :170mm/sec
定着ニップ幅:10mm
定着ローラー:ローラー径;Φ38mm、表面材質と硬度;
シリコン発砲体で約30度(アスカーC硬度)
(当審注:発砲は発泡の誤記である。)
加圧ローラー:ローラー径;Φ50mm
表面材質と硬度;PFAチューブ+シリコンゴム厚み
1mmで約75度(アスカーC硬度)
芯金径;Φ48mm(鉄、肉厚1mm)
加熱ローラー:ローラー径;Φ30mm、(アルミ、肉厚2mm)
定着ベルト :ベルト径;Φ60mm
基体;約40μm厚のニッケル
離型層;約150μmのシリコンゴム、ベルト幅
310mm)
【0124】オフセット未発生温度範囲
リコー製カラー複写機プリテール550を用いて、転写紙(リコー製タイプ6000-70W)に、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの単色及び中間色として、レッド、ブルー、グリーンから成るベタ画像を単色で、1.0±0.1mg/cm^(2)のトナーが現像される様に調整を行ない、図1に示したベルト定着装置(前記記載条件のもの)にて、定着ベルトの温度が可変となる様に調整を行なって、オフセットの発生しない温度を測定した。
【0125】光沢度 (略)
【0126】ヘイズ度 (略)
【0127】耐熱保存性 (略)
【0128】定着下限温度
上記ベルト定着器を備えた装置を用い、画像はリコー製カラー複写機プリテール550を用い、これにリコー製のタイプ6200紙をセットし複写テストを行った。定着画像をパットで擦った後の画像濃度の残存率が70%以上となる定着ロール温度をもって定着下限温度とした。
【0129】帯電安定性 (略)
【0130】THF不溶分測定方法 (略)」

(1g)「【0131】実施例2 (略)
【0135】実施例3(プレポリマーの製造例)冷却管、攪拌機および窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物755部、イソフタル酸195部、テレフタル酸15部、およびジブチルチンオキサイド4部を入れ、常圧で220℃で8時間反応し、さらに50?100mmHgの減圧で脱水しながら5時間反応した後、160℃まで冷却して、これに10部の無水フタル酸を加えて2時間反応した。次いで、80℃まで冷却し、酢酸エチル中にてイソホロンジイソシアネート170部と2時間反応を行いイソシアネート基含有プレポリマー(3)を得た。
【0136】(トナーの製造例)ビーカー内に前記のプレポリマー(3)15.4部、ポリエステル(a)50部、酢酸エチル95.2部を入れ、攪拌し溶解した。次いで、ライスワックスを10部、実施例2のマスターバッチ粒子15部を入れ、85℃にてTK式ホモミキサーで14000rpmで攪拌し、均一に分散させた後、ビーズミルにて15℃にて60分湿式粉砕処理した。これをトナー材料油性分散液(3)とする。ビーカー内にイオン交換水465部、炭酸ナトリウム10%懸濁液245部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部を入れ、攪拌して水分散液(3)を得た。次いでこの水分散液(3)を40℃に昇温し、TK式ホモミキサーで12000rpmに攪拌しながら、上記トナー材料油性分散液(3)を投入し10分間攪拌した後、ケチミン化合物(1)2.7部を加え反応させた。その後40℃1時間以内で溶剤を除去し、次いで実施例2と同様にして、濾別、洗浄、乾燥した後、球形状のトナー母体粒子を(3)を得た。
【0137】次に、この母体トナー粒子を用いた以外は実施例1同様にして、トナー(3)を得た。そのトナーの性状及び実施例1と同様に評価した結果を表1、2に示す。」

(1h)下記の表2をみると、実施例1,実施例3について、重量平均粒径(Dv)は、それぞれ、5.5μm、4.9μmであり、また、定着下限温度は、それぞれ、150℃、160℃、ホットオフセット温度は、それぞれ、220℃、230℃である。


これら記載事項によれば、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる(実施例3を中心に認定した)。

「基体上にシリコンゴムの離型層が設けられた無端の定着ベルトの内側に、内部に加熱源を有する加熱ローラーと、金属製芯金に弾性体を被覆した定着ローラーとを配置し、定着ローラーは、金属製芯金に弾性体を被覆して形成され定着ベルトの外側に位置する加圧ローラーと、定着ベルトを介して対向配置され、加圧ローラーと定着ローラーとで定着ベルトを挟圧し、定着ベルトと加圧ローラーとで形成されるニップ部によって、転写紙上のトナー像を加熱定着する定着装置、を有する電子写真方式の画像形成装置であって、
定着装置が以下の条件を有しており、
ベルト速度 :170mm/sec
定着ニップ幅:10mm
定着ローラー:表面材質と硬度が、シリコン発泡体で約30度
(アスカーC硬度)
加圧ローラー:表面材質と硬度が、PFAチューブ+シリコンゴム
で、約75度(アスカーC硬度)
トナーは、重量平均粒径(Dv)が4.9μmであり、有機溶媒中に少なくとも変性ポリエステル系樹脂からなるプレポリマー、該プレポリマーと伸長及び/又は架橋する化合物、及びトナー組成分を含む材料を溶解又は分散させ、該溶解又は分散物を水系媒体中で架橋反応及び/又は伸長反応させ、得られた分散液から溶媒を除去することにより得られた乾式トナーであり、
転写紙(リコー製タイプ6000)にトナー像を転写した後、上記定着装置を用いて定着すると、定着下限温度が160℃、ホットオフセット温度が230℃であった、
電子写真方式の画像形成装置。」

(2)刊行物2
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 加熱源を有する回転体と、該回転体を圧接部を形成する加圧部材とを有し、前記圧接部に記録材を狭持搬送させ、該記録材表面に静電的に付着形成されたトナー像を該記録材上に熱定着させる定着装置において、
前記回転体又は前記加圧部材に対して電圧を印加し、その印加電圧の値を前記記録材の表面状態に応じて変化させることを特徴とする定着装置。
【請求項2】 前記記録材の表面粗さが大きいときに前記印加電圧の値を大きくし、前記記録材の表面粗さが小さいときに前記印加電圧の値を小さくすることを特徴とする請求項1記載の定着装置。
【請求項3】 前記記録材の表面平滑性がベック平滑度で10秒以下の場合に、前記印加電圧を上げることを特徴とする請求項1又は2記載の定着装置。
【請求項4】 前記記録材の表面平滑性がベック平滑度で52秒以上の場合に、前記印加電圧を下げることを特徴とする請求項1?3の何れかに記載の定着装置。
【請求項5】 前記記録材が前記圧接部に進入する以前に前記記録材の表面性検知部材を設け、前記表面性検知部材の出力に応じて前記印加電圧の値を変化させることを特徴とする請求項1?4の何れかに記載の定着装置。」

(2b)「【0023】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の構成においても尚、オフセット現象が発生する場合があった。特に、転写材Pの表面性及び画像パターンにより、オフセットの発生する条件に違いがあることが本発明者の検討によって明らかになった。
【0024】即ち、表面の粗い転写材Pにあっては、転写材の凹凸の中にトナーが入り込む形となり、且つ、転写材の凹凸のため、定着ローラとトナー層の間に空隙(空気層)が生じることとなる。この空気層が断熱層として働くことから、トナーの溶融が不十分な状態となってしまい、オフセット現象を防止するためには、より大きな値のバイアスが必要になる。この場合は、前記の通り、ベタ画像や、2色以上のトナー像を重ねてカラー画像を形成した場合において顕著となる。これは、トナーが厚く積層することにより、トナー溶融により多くのエネルギーを要するため、定着が不十分な状態で定着ローラ10に引き付けられるトナー量が増加するためである。
【0025】逆に、表面の滑らかな転写材Pにあっては、例えば1色のみのトナーが隙間を空けて転写材P上に乗っている場合(例えば、単色のハーフトーン画像がこれに当たる)、過剰なバイアスを印加することにより、定着ローラ10とトナー粒子の接触部分が多くなるため、トナー粒子が非常に強くマイナスに帯電してしまい、却ってトナー粒子間の反発力を増し、オフセット現象を生じ易くしてしまう。
【0026】更に、表面の滑らかな転写材P上の単色ハーフトーン画像では、転写材Pと定着ローラの接触面積も大きく、定着ニップ部内において、転写材Pを突き抜ける方向に電流が生じ易くなるため、転写材P裏面に保持されているプラス電荷と定着バイアスによるマイナス電荷が相殺され、トナー像が定着ニップ部に突入する前に、転写材P裏面の電荷が失われ易くなる。
【0027】このことにより、転写材P裏面のプラス電荷により保持されていた、マイナスに帯電したトナーは、転写材Pに保持される力を失い、定着ローラ10側に引き寄せられ、オフセット現象が生じてしまうという問題があった。
【0028】本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、転写材の表面状態に拘らず、ベタ画像等のトナーが厚く堆積した画像や単色ハーフトーン等のトナーが隙間を空けて転写材上に乗っている場合を問わず、オフセットのない良質な画像を得ることができる定着装置及び画像形成装置を提供することにある。
【0029】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明は、加熱源を有する回転体と、該回転体を圧接部を形成する加圧部材とを有し、前記圧接部に記録材を狭持搬送させ、該記録材表面に静電的に付着形成されたトナー像を該記録材上に熱定着させる定着装置において、前記回転体又は前記加圧部材に対して電圧を印加し、その印加電圧の値を前記記録材の表面状態に応じて変化させることを特徴とする。」

(3)刊行物3
(3a)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】さて、この様な熱定着方式では、種々の要因により定着性やオフセット量が左右される。中でも転写材の影響は大きい。例えば、一般的に転写材(紙)の厚さが厚いと、熱容量が大きい分だけ定着しずらく、薄いと定着し易い。このため転写材の厚さや重さを検知して定着条件を変えるということが提案されている。しかし実際に検討してみると、同じ厚さや重さの紙であっても、定着性やオフセットが異なる場合があることが判明した。また、同じ紙であっても、その紙の表裏で定着性やオフセットが異なるという事実もわかった。さらにこの様な、紙の表裏での定着性を同一にしてみても、オフセットには依然として差がある場合があることも確認された。
【0008】すなわち、単に紙の厚さや、重さだけを検知するだけでは、仮に定着性を維持できたとしても、オフセット現象を防止するには十分でないという結論を得た。
【0009】本発明は、さらに転写材の表面形状を考慮して定着条件を変更して、十分なる定着性そしてオフセット現象の防止を図ることを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記の現像について検討した結果、転写材の表面形状、特にその粗さが定着性や、オフセット量に大きく関わっているという事を発見した。
【0011】本発明によれば、上記目的は、第一の発明にしたがい、未定着現像剤像を有する転写材をローラもしくは無端状のベルトで加熱・挟圧搬送して、上記転写紙上の未定着現像剤像を定着させる熱定着装置において、上記転写紙の表面形状を検知する検知手段を有し、該検知手段の出力値に応じて、定着温度が可変であるとすることにより達成され、定着性の向上が図れる。
【0012】さらに本発明によれば、第二の発明にしたがい、未定着現像剤像を有する転写材をローラもしくは無端状のベルトで加熱・挟圧搬送して、上記転写紙上の未定着現像剤像を定着させる熱定着装置において、該ローラもしくはベルトをクリーニングする手段及びこれらに離型剤を塗布する手段の少なくとも一方と、上記転写紙の表面形状を検知する検知手段とを有し、該検知手段の出力値に応じて、上記クリーニング手段のクリーニング能力及び上記離型剤塗布手段による塗布量の少なくとも一方が可変であるとすることによってオフセットの防止がなされる。
【0013】
【作用】第一の発明にあっては、検知手段の出力値により、転写材の表面粗度が大きいときには定着温度が上昇せられて定着性が確保される。また、表面が滑らかな場合には、定着温度は高くする必要がないので、降温される。
【0014】また、第二の発明にあっては、検知手段の出力値にしたがい、表面の荒れた転写材が使われた場合は、クリーニング力を強くすることでオフセットトナーが多くても確実に除去でき、さらに(または)離型剤の塗布量を多くしてオフセットの発生を抑えることができる。また、表面が平滑な転写材が使われた場合は、その逆にクリーニング力を落としても十分にオフセットトナーを除去でき、さらに(または)離型剤の塗布量が少なくても、オフセットの発生を抑えることができる。」

(3b)「【0027】既述のようにコピーボタン(図示せず)が押されると感光体上ではトナー像の形成プロセスが進行するが、これに同期して紙Pが給紙される。紙が搬送ガイド13,13’間を搬送される際に上記のように、検知手段10により紙の粗さが検知される。紙上には転写帯電器5により感光体上のトナー像が未定着像として転写され、その後搬送されて定着装置9に至り、定着される。この定着工程においては、紙の粗さが事前に検知されているので、その粗さに応じて定着温度を選択する。一例を上げると、紙の表面粗さR_(Z)値が15μm未満の場合には、定着温度を180℃に設定し、紙の表面粗さR_(Z)値が15μm以上の場合には、定着温度を10℃高い190℃に設定して定着能力を高める。以上のように紙の粗さに応じて定着温度を設定するため、定着不良が防止される。」

(4)刊行物4
(4a)「[発明が解決しようとする課題]
一般に、上記の方式の熱定着装置では、十分な定着度を得るには、トナー表層部だけでなく、用紙との界面部のトナーをある粘度(ふつう、10^(4)ないし10^(5)poise)以下にし、加熱と同時に加えられる加圧ローラによる圧力により、トナーを用紙繊維中に浸透させる必要がある。
しかしながら、従来における熱定着装置では、熱定着装置の設定温度と温度センサによる検出温度の比較のみて、ヒータの点灯を制御していた。
このため、用紙の紙質や、印字装置の周辺の相対湿度によって影響される用紙の含水率や、印字装置の周囲温度によって影響される用紙の温度が、変わっても同じ設定温度によって定着していたため、これらの条件が変わることで定着度がばらつくという不具合があった。
例えば、同じ加熱ローラの設定値でも、用紙の紙質のうち、特に用紙の表面粗さが粗いほど定着性が劣る。これは、表面粗さの粗い用紙はど前記の粘度以下に軟化したトナーが、用紙の繊維に対する濡れが悪ため、トナーが十分に用紙繊維中に浸透しないことによる。また、用紙表面粗さが大きいと、定着後のトナーに剪弾力あるいは、剥離力が作用したときに用紙の繊維が剥離し易く、用紙繊維ごとトナーが剥離されてしまい、定着度が劣る。
また、用紙の含水率が高いほど定着性が劣る。これは、高含水率の用紙の場合、加熱に使われる熱エネルギーの内、用紙中の水分の蒸発に費やされる比率が大きいため、トナー及び用紙を十分に加熱できず、用紙とトナーの界面温度が定着に必要な温度にまで上がらず、この界面部のトナー粘度が定着に必要な粘度まで下がらないないためである。
さらに、周囲温度が低いほど用紙の温度が低いため、上記と同様に用紙とトナーの界面温度が定着に必要な温度にまで上がらず、定着性が劣るという傾向があった。
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、用紙の表面粗さ等の紙質や、用紙または周囲環境の状態の変化に対して、定着度の変化の少ない熱定着装置を提供することにある。
[課題を解決するための手段]
この目的を達成するために本発明の熱定着装置では、
定着に用いる用紙の紙質、及び用紙または周囲環境の状態を検出する検出手段と、
上記検出手段による検出結果に対する定着パラメータ(例えば、前記熱定着装置の温度設定値)を求めるための制御規則を記憶する記憶手段と、
上記検出手段による検出結果と上記記憶手段から取り出された制御規則に基づいて、ファジィ論理演算によって上記定着パラメータを決定するための演算手段とを備える。
[作用]
上記の構成を有する本発明によれば、定着に用いる用紙の紙質と及び用紙または周囲環境の状態を検出する前記検出手段によって検出された検出結果から、前記の記憶手段に記憶されている制御規則に基づいて、前記の演算手段によってファジィ論理演算が実行され、前記の定着パラメータとして熱定着装置の設定温度が決定される。」(第2頁左上欄?右下欄)

(4b)「まず、第1のセンサとして、用紙の紙質のうち用紙の表面粗さを検出する代わりに、用紙表面の光の反射率を検出する反射率センサ21を備える。」(第3頁左上欄第5?7行)

(5)刊行物5
(5a)「【0008】又、トナー粒子は、高画質化及びトナー消費量の低減の上からも、例えば、平均粒径12μmから8μm、5μm及び3μmと云う様に小粒径化の方向にある。この様な構成及び設定の中で、本発明者はオフセットや定着性についてトナー粒径と転写紙の表面粗さの観点から検討した結果を、転写紙の表面粗さとトナーとの層間関係は図4に示す如くである。転写紙の表面粗さは、(万能表面形状測定器MODEL SE-3C (KK)小坂研究所製にて)図1に示す様に10点平均粗さRz=18.5μm、凸凸間、例えば、a=140μmである。トナーは、転写紙凹間に埋もれる様に存在し、定着器の上下ローラから加わる圧力によって、ある程度転写紙の凸部とトナーを潰しながらトナーを転写紙に定着せる。
【0009】即ち、転写紙の凸部にトナーは定着するが、凹部に入ったトナー9は、熱によって表層は溶かされるものの粒子状を保持している。溶けたトナー8は、転写紙のパルプ繊維内に入り込み定着する。転写紙の凹内に埋包されたトナー9は完全に溶けない為、転写紙と静電的状態で保持されている。このトナーは、上記に示した上ローラの離形性とから吸着力Fと上ローラとの静電力F´の和が、転写紙との静電気力F´pと吸着力Fpの和より大きくなった場合にオフセットする。通常は、F´はF´pに比べて遥かに大きく、オフセットし易い状態といえる。
【0010】
【発明が解決しようとしている問題点】従って本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、低コスト及び小定着器でオフセットのない高画質なコピーを得ることが出来る電子写真用転写紙及び電子写真方法を提供することである。
【0011】
【問題点を解決する為の手段】上記目的は以下の本発明によって達成される。即ち、正極性及び負極性トナーを用いた電子写真方式に使用する転写紙において、現像剤の平均粒径をt(μm)とし且つ転写紙表面粗さをRz(μm)とした時にRz<2tとなることを特徴とする電子写真用転写紙、及び、正極性及び負極性トナーを用いた電子写真方式により画像を形成する方法において、電子写真方式に用いられる現像剤の平均粒径がt(μm)の場合、転写紙として、その表面粗さRz(μm)が2t未満である転写紙を使用することを特徴とする電子写真方法である。
【0012】
【作用】本発明者は、トナーの粒径と転写紙の表面粗さとに着目し、オフセット防止の観点から検討した結果、オフセットはトナー粒径と転写紙の表面粗さに大きく関係することを発見し、転写紙の表面の粗さRz(μm)とトナーの平均粒径t(μm)とがRz<2tとなる様に構成すること、即ち、高画質及び低トナー消費量を達成する上で、トナーの小粒径化(t)を進めた場合、転写紙の表面粗さRzを2tとする転写紙を用いることによって、本体構成、特に定着器の設計ラチチュードをアップさせることが可能となった」

図4は、以下のとおり。


(6)刊行物6
(6a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
潜像担持体上でトナーを用いて可視像化された画像を転写される1次転写体と、該1次転写体と対向当接可能に設けられ、該1次転写体に担持されている画像を熱転写される2次転写体とを備え、上記2次転写体への画像転写後に再度上記1次転写体に転写される画像と上記2次転写体に担持されている画像とを記録媒体の両面に対して加熱・加圧により一括転写した後、記録媒体の両面に転写された画像を加熱・加圧により定着する行程を備えた画像形成方法において、
上記可視像処理に用いられるナー粒径が上記記録媒体の表面粗さ(Rz)よりも小さいものを用いることを特徴とする画像形成方法。」

(6b)「【0046】
【発明の効果】
請求項1,2および5記載の発明によれば、記録媒体の両面への一括転写を行う部材の一つを構成する2次転写体への画像転写時には静電気力ではなく熱転写によりトナーが転写され、熱転写に用いられる温度がトナーのガラス転移点温度から軟化温度の範囲で記録媒体への溶融・浸透温度以下とされることによりトナーの粘弾性を利用するだけで電気的な影響によりトナーチリ現象や画像の滲み現象を防止しながら転写することができる。特に、トナーの粘弾性はトナーの溶融・浸透温度と違って低温で済むので、冷却手段などの大規模な設備を要することなくトナーの転写が可能となる。しかも、トナー粒径が記録媒体の表面粗さ(Rz)よりも小さくされているので、記録媒体表面に付着した場合でも記録媒体の表面粗さよりも大きいトナーの場合と違って地肌汚れとして認知しにくくすることができる。これにより、複数の色のトナを用いた場合にトナーチリ現象や画像の滲み現象を防止しながら仮に飛散あるいは画像中から抜け出たトナーが存在した場合でも地肌汚れ、特に目立つ混色の地肌汚れがないと同じ状態とすることが可能となる。」


3.対比・判断
本願発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、
刊行物1記載の発明の「基体上にシリコンゴムの離型層が設けられた無端の定着ベルト」「内部に加熱源を有する加熱ローラー」「定着ローラー」「」「加圧ローラー」「転写紙」「定着装置」「電子写真方式の画像形成装置」は、
それぞれ、本願発明1の「表面に弾性体層を有する無端ベルト」「加熱ローラー」「対向回転体」「加圧回転体」「転写材」「定着部」「画像形成装置」に相当する。

刊行物1記載の発明の「ベルト速度 :170mm/sec」「定着ニップ幅:10mm」は、ニップ時間を計算すると、10/170=約0.059sec、すなわち、約59ms(ミリ秒)となり、本願発明1の「ニップ時間が35?70ms」の範囲に含まれる。

刊行物1記載の発明の「(トナーの)重量平均粒径(Dv)が4.9μm」は、本願発明1の「トナーの重量平均粒径が2?5μm」の範囲に含まれる。

また、刊行物1記載の発明の「定着ローラー:表面材質と硬度が、シリコン発泡体で約30度(アスカーC硬度)」及び「加圧ローラー:表面材質と硬度が、PFAチューブ+シリコンゴムで、約75度(アスカーC硬度)」と、
本願発明1の「上記加圧回転体、又は対向回転体の少なくとも一方はゴム硬度が20?40Hsの弾性層を有しており」とは、
「加圧回転体、又は対向回転体の少なくとも一方は、所定の硬度の弾性層又は被覆された弾性体を有しており」の点で共通する。

そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりと認められる。

[一致点]
「表面に弾性体層を有する無端ベルトの内側に複数本の回転体を配置し、これら回転体の少なくともその1つの回転体が加熱ローラーであり、上記無端ベルトの外側に位置する加圧回転体と、上記複数本の回転体のうち上記加圧回転体に上記無端ベルトを介して対向配置する対向回転体とで上記無端ベルトを挾圧し、この無端ベルトと上記加圧回転体により形成されるニップ部によって、転写材上のトナー像を加熱定着する定着部、を有する画像形成装置であって、
前記定着部のニップ時間が35?70ms、加圧回転体、又は対向回転体の少なくとも一方は、所定の硬度の弾性層又は被覆された弾性体を有しており、かつ上記トナーの重量平均粒径が2?5μmである、
画像形成装置。」

[相違点]
本願発明1は、定着部は、平滑度40S以下18S以上の転写材上のトナー像を加熱定着するものであって、また、前記平滑度を有する転写材を供給する給紙部、及びトナーによる現像部とを有し、
加圧回転体、又は対向回転体の少なくとも一方はゴム硬度が20?40Hsの弾性層を有しているのに対して、
刊行物1記載の発明は、転写材の平滑度の特定がなく、また、給紙部、現像部の明記がなく、
「定着ローラー:表面材質と硬度が、シリコン発泡体で約30度(アスカーC硬度)」「加圧ローラー:表面材質と硬度が、PFAチューブ+シリコンゴムで、約75度(アスカーC硬度)」であって、「加圧回転体(加圧ローラー)、又は対向回転体(定着ローラー)の弾性層の少なくとも一方はゴム硬度が20?40Hsの弾性層を有している」とはされていない点。

そこで、相違点について検討する。

(1)まず、一般に、平滑度40S以下18S以上程度の転写材は、周知であって、刊行物1記載の発明の「電子写真方式の画像形成装置」において、普通紙よりも平滑度が落ちるとはいえ、平滑度40S以下18S以上である表面凹凸の大きい転写材を使用することは、当業者が適宜なし得ることである。
また、刊行物1記載の発明は、「電子写真方式の画像形成装置」であるから、転写材を供給する給紙部、トナーによる現像部を備えていることは、当然である。

(2)次に、表面凹凸の大きい転写材を使用した際の定着性の課題と対策、及びその対策の刊行物1記載の発明への適用について、検討する。

(a)一般に、表面凹凸の大きい転写材(記録紙)は、定着性が良くなく、特に、粒径の小さいトナーと表面凹凸の大きい転写材(記録材)とを併用した場合には、定着が不十分になりやすいことは、刊行物2?5に記載されているように、周知のことである。
そして、刊行物2、3では、表面凹凸の大きい転写材(記録材)を使用した場合、定着性を向上させるために、定着バイアス電圧を高める(刊行物2)、定着温度を高くする(刊行物3)という手段を採用している。

(b)また、原審の平成21年4月1日付けの拒絶理由通知で審査官が「良好な定着を行うための定着条件として、ニップ時間、ローラのゴム硬度、定着温度、定着圧力、トナー種類等の各種パラメータがあることは、当業者の技術常識であり」と指摘したが、そのとおり技術常識又は周知の事項である。
すなわち、定着性向上の対策としては、まず、供給する熱量を増大させることがよく知られており、技術常識といえる。具体的には、定着温度を上げる手法(刊行物3)、また、ニップ時間を長くする(定着ローラまたは加圧ローラの弾性層の硬度を低めにしてニップ幅を広くしたり、あるいは、定着速度を下げるなど)手法がある。
また、別の対策として、定着圧力を確保することも、技術常識であり、そのためには、積極的にニップ圧を高める手法があるが、定着ローラまたは加圧ローラの弾性層の硬度をあまり低くすると、ニップ圧が低下するので、あまり硬度を低くしないことも考慮される。
これらの手法につき、必要であれば、特開平11-184184号公報の【0005】等、特開平3-125173号公報の第1頁右下欄、特開昭61-18982号公報の第3頁左下欄?右下欄、特開平10-307501号公報の【0021】、特開2004-109241号公報の【0004】?【0006】等、図6等、特開2003-208055号公報の【0066】?【0068】等、特開平10-171281号公報の【0007】等、を参照。

(c)そうすると、当業者が、刊行物1記載の発明の画像形成装置において、表面凹凸の大きい「平滑度40S以下18S以上の転写材」を使用する際に、上記(a)の定着性不十分の課題への対策を講じることとし、定着性を向上させる手法として、上記(b)の手法のうちの1つないしは複数を適宜採用することは、当業者にとって容易である。
具体的には、刊行物1記載の発明で採用するようなベルト定着方式では、一般に、ローラー定着方式に比べて、定着圧力を小さく設定することが普通であるので、これを考慮して定着圧力を増大する手法は採用せずに、ニップ時間を長くしたり、定着ローラーまたは加圧ローラーの弾性層の硬度を調整する手法を採用し、トナー粒径の程度、耐オフセット性や定着性、定着ベルト等の耐久性を考慮しつつ、刊行物1記載の発明のニップ時間約59msに好適なローラーの弾性体の硬度を調整して、本願発明1のごとく「加圧回転体、又は対向回転体の少なくとも一方はゴム硬度が20?40Hsの弾性層」とすることは、当業者が、その通常の創作能力を発揮すれば、容易になし得ることである。

ここで、ローラーの弾性体のゴム硬度について検討を加えておくと、
刊行物1記載の発明において、定着ローラーの弾性体は、シリコン発泡体で、アスカーC硬度で約30度であり、加圧ローラーは、PFAチューブ+シリコンゴムで、アスカーC硬度で約75度である。
これに対して、本願発明1のゴム硬度は、「スプリング式の硬度計であるデュロメーター(タイプA)を用い、JIS K-6253に従って測定した」ものであり(本願明細書【0013】を参照。以下、本願のゴム硬度を、「タイプA硬度」という。)、アスカーC硬度とは値が異なるものであって、アスカーC硬度の値より、タイプA硬度は小さい値を示すことが一般に知られている。
刊行物1記載の発明は、アスカーC硬度が約30度、約75度であり、アスカーC硬度約30度は、タイプA硬度でみると、本願発明1のタイプA硬度「20?40Hs」の範囲を確実に下回るものであり、アスカーC硬度約75度は、本願発明1のタイプA硬度「20?40Hs」の範囲に入るかあるいは、若干超える程度と思われる。
しかし、一般に、定着ローラー又は加圧ローラーの弾性体として、本願発明1のタイプA硬度「20?40Hs」の範囲に入る程度のものは、周知慣用されており、この範囲の硬さが当業者にとって特別なものではないから、この程度の範囲を含めて、ローラーの弾性体の硬度を調整することに、特に困難はないものである。

また、定着ベルトを傷める要因としては種々知られているところ、定着ベルトを傷めない程度に、定着ローラー又は加圧ローラーの硬度上限を設計することは、当業者が適宜なし得ることである。

(3)さらに、本願発明1の臨界的意義を検討するに、本願発明1は、ニップ圧、定着温度、トナーの熱的特性について何も限定していないから、通常に使用する程度のニップ圧、定着温度、通常の熱的特性のトナーと考えられる。
しかし、ニップ圧、定着温度、トナーの熱的特性が、通常のものだとしても、当然ある程度の幅があるから、その幅の範囲内において、耐オフセット性及び定着性からみた、ローラー硬度の最適範囲、ニップ時間の最適範囲は変動し得るものである。
また、定着ローラーまたは加圧ローラーの弾性層の硬度の数値範囲について、片方のローラーの弾性層の硬度の下限は、柔らかすぎると、両ローラ間に圧力がかかり難く、十分に定着せず、また、機械的強度が弱く、寿命が短くなると説明されるが(本願明細書【0013】)、相手側のローラーの硬度やニップ圧等も関係するはずである。また、片方のローラーの弾性層の硬度の上限は、ベルトを傷めることを防止するためというが、ベルトの材質や物性によっては、適当な上限はかなり変動するものであるし、相手側のローラーの弾性層の硬度や定着速度等も関係するはずである。

したがって、上記の諸点を特定しない限りは、本願発明1の数値範囲に臨界的意義を認めることができない。

(4)以上のことを勘案すると、刊行物1記載の発明において、相違点1に係る本願発明1の構成を採用することは、当業者が容易になし得ることと言わざるを得ない。

(全体構成について)
刊行物1記載の発明は、ニップ時間が約59msと計算され、また、トナーの重量平均粒径が4.9μmであるものに留まるが、本願発明1の「定着部のニップ時間が35?70ms」「トナーの重量平均粒径が2?5μm」の範囲は、刊行物1記載の発明の上記数値を含みつつ、さらに広い範囲を規定している。
しかし、本願発明1の上記範囲が、従来になかったような特別な数値範囲ではない。例えば、刊行物1では、トナーの重量平均粒径が3?7μmという数値も示されている。
そして、刊行物1記載の発明において、「定着部のニップ時間が35?70ms」及び「トナーの重量平均粒径が2?5μm」の数値範囲とするとともに、他の要素について好適化を図り、相違点1に係る本願発明1の構成を採用することにも、特に困難性はないというべきである。

(本願発明1の効果について)
そして、全体としてみても、本願発明1によってもたらされる効果も、刊行物1?6に記載された事項、及び、技術常識または周知技術から当業者であれば予測し得る程度のものであって、格別なものとはいえない。

(まとめ)
したがって、本願発明1は、刊行物1記載の発明、刊行物2?6に記載された技術事項、及び、技術常識または周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-25 
結審通知日 2010-05-28 
審決日 2010-06-09 
出願番号 特願2004-172364(P2004-172364)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村上 勝見  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 伊藤 裕美
柏崎 康司
発明の名称 画像形成装置及び画像形成方法  
代理人 加々美 紀雄  
代理人 酒井 正己  

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