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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1220569
審判番号 不服2007-14839  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-24 
確定日 2010-07-22 
事件の表示 平成 9年特許願第236102号「磁石材料の製造方法とボンド磁石の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 3月30日出願公開、特開平11- 87118〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成9年9月1日の出願であって,平成19年4月18日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年5月24日に審判請求がなされるとともに,同年6月25日付けで手続補正がなされ,その後,当審において平成21年6月17日付けで審尋がなされ,同年8月24日に回答書が提出されたものである。

第2 平成19年6月25日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成19年6月25日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成19年6月25日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の目的
本件補正は,補正前の請求項1を補正後の請求項1として,
「【請求項1】 TbCu_(7)型結晶構造を有する相を主相とする母合金を作製する工程と,前記母合金に窒素および水素を含有せしめる工程とを有する磁石材料の製造方法において,
前記窒素および水素の含有工程を,アンモニアガスと水素ガスとを含み,かつ前記アンモニアガスの分圧をP_(x),前記水素ガスの分圧をP_(y)としたとき,5≦P_(y)/P_(x)の分圧比を満足する混合ガス中で,前記母合金を573?773Kの温度で0.1?100時間の条件下で熱処理することにより実施し,
一般式:R^(1)_(X)R^(2)_(Y)B_(Z)N_(U)H_(V)M_(100-X-Y-Z-U-V)
(式中,R^(1)は希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素を,R^(2)はZr,HfおよびScから選ばれる少なくとも1種の元素を,MはFeおよびCoから選ばれる少なくとも1種の元素を示し,X,Y,Z,UおよびVはそれぞれ2at.%≦X,0.01at.%≦Y,4≦X+Y≦20at.%,0≦Z≦10at.%,0.1≦U≦18at.%,0.01≦V≦10at.%を満足する数である)
で表される組成を有し,TbCu_(7)型結晶構造を有する相を主相とする磁石材料を作製することを特徴とする磁石材料の製造方法。」と補正するものである。
上記補正は,補正前の請求項1の「窒素を含有せしめる工程」を補正後の請求項1の「窒素および水素を含有せしめる工程」と限定するとともに,「573?773Kの温度で0.1?100時間の条件下で熱処理すること」を限定するものであるから,平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,補正後の請求項1を引用する請求項7に記載された事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 独立特許要件について
(1)本願補正発明
「【請求項7】 TbCu_(7)型結晶構造を有する相を主相とする母合金を作製する工程と,前記母合金に窒素および水素を含有せしめる工程とを有する磁石材料の製造方法において,
前記窒素および水素の含有工程を,アンモニアガスと水素ガスとを含み,かつ前記アンモニアガスの分圧をP_(x),前記水素ガスの分圧をP_(y)としたとき,5≦P_(y)/P_(x)の分圧比を満足する混合ガス中で,前記母合金を573?773Kの温度で0.1?100時間の条件下で熱処理することにより実施し,
一般式:R^(1)_(X)R^(2)_(Y)B_(Z)N_(U)H_(V)M_(100-X-Y-Z-U-V)
(式中,R^(1)は希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素を,R^(2)はZr,HfおよびScから選ばれる少なくとも1種の元素を,MはFeおよびCoから選ばれる少なくとも1種の元素を示し,X,Y,Z,UおよびVはそれぞれ2at.%≦X,0.01at.%≦Y,4≦X+Y≦20at.%,0≦Z≦10at.%,0.1≦U≦18at.%,0.01≦V≦10at.%を満足する数である)
で表される組成を有し,TbCu_(7)型結晶構造を有する相を主相とする磁石材料を作製することを特徴とする磁石材料の製造方法において,
前記M元素の20at.%以下をTi,V,Cr,Mo,W,Mn,Ga,Al,Sn,Ta,Nb,SiおよびNiから選ばれる少なくとも1種の元素で置換することを特徴とする磁石材料の製造方法。」

(2)刊行物に記載された発明
(ア)刊行物1:特開平9-74006号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物1には,「磁性材料およびボンド磁石」(発明の名称)に関して,以下の事項が記載されている。(なお,下線は,引用箇所のうち特に強調する部分に付加した。以下同様。)
「【請求項9】 一般式
R1_(x) R2_(y) B_(z) A_(u) M_(100-x-y-z-u)
ただし,R1はYを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1つの元素,R2はZr,HfおよびScから選ばれる少なくとも1つの元素,Aは,H,N,CおよびPから選ばれる少なくとも1つの元素,MはFeおよびCoから選ばれる少なくとも1つの元素,x,y,z,uはそれぞれ原子%でx≧2,4≦x+y≦20,0.001≦z≦10,0≦u≦20である,にて表され,主相がTbCu7 型結晶構造を有する磁性材料粉末と,
バインダとを含むことを特徴とするボンド磁石。」
「【0019】(1-4)A元素
A元素は,H,N,C,Pから選ばれる少なくとも1つの元素である。前記A元素は,主として主相の格子間位置に存在し,前記A元素を含まない場合と比較して前記主相のキュリー温度,磁気異方性を向上させる働きを有する。
【0020】前記A元素は,少量の配合でその効果が発揮されるが,20原子%を越えるとα-Fe(Co)の析出が多くなる。より好ましいA元素の含有量uは,2≦u≦20,更に好ましくは5≦u≦10である。」
「【0031】前記窒化処理は,0.001?100気圧の窒素ガス雰囲気中,200?700℃の温度下で行うことが好ましい。このような圧力および温度下での窒化処理は,0.1?300時間行えばよい。」
「【0035】前記窒化処理の雰囲気は,窒素ガスに代えてアンモニア等の窒素化合物ガスを用いてもよい。このアンモニアの使用により,窒化反応速度を高めることが可能になる。
【0036】前記窒化処理の前工程として0.001?100気圧の水素ガス雰囲気中,100?700℃の温度下で熱処理を行うか,または窒素ガスに水素を混合したガスを用いることにより,高効率の窒化を行うことが可能になる。」
「【0076】(実施例12?15)まず,高純度のSm,Nb,Pr,Dy,Zr,Hf,Mn,Ni,Cr,Al,Ga,Mo,W,Si,Nb,Co,Feの各原料をAr雰囲気中でアーク溶解した後,鋳型に注入して4種のインゴットを作製した。これらのインゴットを所定量のBとともに石英製のノズルに装填し,アルゴンガス雰囲気中で高周波誘導加熱により溶融した後,溶湯を周速40m/sで回転する直径300mmの銅製の単ロール上に噴出して合金薄帯を作製した。前記各溶湯を噴出する際の温度は,1320℃とした。ICPによる組成分析の結果,前記各合金薄帯中には1.1原子%,1.6原子%,0.5原子%,1.7原子%のBがそれぞれ含有され,・・・Sm_(7.2) Nd_(0.6) Dy_(2.2) Zr_(2.7) Mn_(1.1) Nb_(1.1) Co_(26.0)B_(1.7) Fe_(bal.)(実施例15)の組成を有するものであった。得られた各合金薄帯の保磁力を振動試験型磁力計(VSM)を用いて測定した。その結果,実施例12?15の合金薄帯の保磁力はそれぞれ20kA/m,33kA/m,29kA/m,22kA/mであった。
【0077】次いで,前記各合金薄帯をそれぞれ不活性雰囲気(Ar;0.9気圧)中,700℃で30分間熱処理を施した。つづいて,これら合金薄帯をボールミルにより平均粒径20μm前後にそれぞれ粉砕した。ひきつづき,実施例12,13,14の合金粉末をそれぞれ1気圧の窒素ガス雰囲気中,450℃で50時間熱処理(窒化処理)を施することにより下記表2に示す組成の3種の磁性材料粉末を合成した。また,実施例15の合金粉末を0.02気圧のアンモニアガスおよび1気圧の窒素ガスの雰囲気中,350℃で10時間熱処理を施することにより下記表2に示す組成の磁性材料粉末を合成した。」
さらに,表2の実施例15に「Sm_(6.5)Nd_(1.0)Dy_(0.5)Zr_(2.3)Mn_(1.0)Nb_(0.5)Co_(23)B_(0.5)H_(1.0)N_(8.5)Fe_(bal.)」の組成が記載されている。

以上から,刊行物1には,「原料から合金薄帯を作製し,粉砕した合金粉末を0.02気圧のアンモニアガス及び1気圧の窒素ガスの雰囲気中,350℃で10時間熱処理を施すことにより,Sm_(6.5)Nd_(1.0)Dy_(0.5)Zr_(2.3)Mn_(1.0)Nb_(0.5)Co_(23)B_(0.5)H_(1.0)N_(8.5)Fe_(bal.)の組成である主相がTbCu_(7)型結晶構造を有するボンド磁石用磁性材料粉末の製造方法。」(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(イ)刊行物2:特表平8-500939号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物2には,「希土類元素,鉄,窒素および炭素を含有する永久磁石材料」(発明の名称)に関して,以下の事項が記載されている。
「iii)窒化
金属間化合物(II)の窒化はさまざまな方法で可能である。
第1の方法は,Nガスを,即ち窒素,または,例えばアンモニアもしくはヒドラジンのような窒素含有ガスを,水素と,Nガス:H_(2)の比率で1:10^(4)から10^(4):1,好ましくは,1:5から5:1の比率で混合し,化合物(II)をガス混合物下,300-800℃,好ましくは400-600℃の温度で,0.1-10bar,好ましくは0.5-2barのガス圧で,0.01-1000時間,好ましくは0.1-50時間アニールする。」(12頁16?23行)

(3)本願補正発明と引用発明との対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(a)引用発明の「合金粉末」,「ボンド磁石用磁性材料粉末の製造方法」は,それぞれ,本願補正発明の「母合金」,「磁石材料の製造方法」に相当する。
(b)引用発明は,「主相がTbCu_(7)型結晶構造を有するボンド磁石用磁性材料粉末」であるから,引用発明の「原料から合金薄帯を作製し,粉砕した合金粉末」とする工程は,本願補正発明の「TbCu_(7)型結晶構造を有する相を主相とする母合金を作製する工程」に相当する。
(c)引用発明では,熱処理により「H_(1.0)N_(8.5)」が含有されているので,引用発明の「合金粉末を0.02気圧のアンモニアガス及び1気圧の窒素ガスの雰囲気中,350℃で10時間熱処理を施す」工程は,本願補正発明の「母合金に窒素および水素を含有せしめる工程」に相当する。
(d)引用発明の「合金粉末を」「350℃で10時間熱処理を施すこと」は,本願補正発明の「前記母合金を573?773Kの温度で0.1?100時間の条件下で熱処理すること」に相当する。
(e)引用発明の「Sm_(6.5)Nd_(1.0)Dy_(0.5)Zr_(2.3)Mn_(1.0)Nb_(0.5)Co_(23)B_(0.5)H_(1.0)N_(8.5)Fe_(bal.)の組成」は,本願補正発明の「一般式:R^(1)_(X)R^(2)_(Y)B_(Z)N_(U)H_(V)M_(100-X-Y-Z-U-V)(式中,R^(1)は希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素を,R^(2)はZr,HfおよびScから選ばれる少なくとも1種の元素を,MはFeおよびCoから選ばれる少なくとも1種の元素を示し,X,Y,Z,UおよびVはそれぞれ2at.%≦X,0.01at.%≦Y,4≦X+Y≦20at.%,0≦Z≦10at.%,0.1≦U≦18at.%,0.01≦V≦10at.%を満足する数である)で表される組成を有し,」,「前記M元素の20at.%以下をTi,V,Cr,Mo,W,Mn,Ga,Al,Sn,Ta,Nb,SiおよびNiから選ばれる少なくとも1種の元素で置換」した組成に含まれる。
(f)引用発明の「主相がTbCu_(7)型結晶構造を有するボンド磁石用磁性材料粉末の製造方法」は,本願補正発明の「TbCu_(7)型結晶構造を有する相を主相とする磁石材料を作製することを特徴とする磁石材料の製造方法」に相当する。

よって,両者は,
「TbCu_(7)型結晶構造を有する相を主相とする母合金を作製する工程と,前記母合金に窒素および水素を含有せしめる工程とを有する磁石材料の製造方法において,
前記窒素および水素の含有工程を,前記母合金を573?773Kの温度で0.1?100時間の条件下で熱処理することにより実施し,
一般式:R^(1)_(X)R^(2)_(Y)B_(Z)N_(U)H_(V)M_(100-X-Y-Z-U-V)
(式中,R^(1)は希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素を,R^(2)はZr,HfおよびScから選ばれる少なくとも1種の元素を,MはFeおよびCoから選ばれる少なくとも1種の元素を示し,X,Y,Z,UおよびVはそれぞれ2at.%≦X,0.01at.%≦Y,4≦X+Y≦20at.%,0≦Z≦10at.%,0.1≦U≦18at.%,0.01≦V≦10at.%を満足する数である)
で表される組成を有し,TbCu_(7)型結晶構造を有する相を主相とする磁石材料を作製することを特徴とする磁石材料の製造方法において,
前記M元素の20at.%以下をTi,V,Cr,Mo,W,Mn,Ga,Al,Sn,Ta,Nb,SiおよびNiから選ばれる少なくとも1種の元素で置換することを特徴とする磁石材料の製造方法。」
である点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点1]「前記窒素および水素の含有工程を」,本願発明は,「アンモニアガスと水素ガスとを含み,かつ前記アンモニアガスの分圧をP_(x),前記水素ガスの分圧をP_(y)としたとき,5≦P_(y)/P_(x)の分圧比を満足する混合ガス中で」熱処理するのに対して,引用発明は,「0.02気圧のアンモニアガス及び1気圧の窒素ガスの雰囲気中」で熱処理している点。

そこで,上記[相違点1]について検討する。
(a)刊行物1には,「【0035】前記窒化処理の雰囲気は,窒素ガスに代えてアンモニア等の窒素化合物ガスを用いてもよい。このアンモニアの使用により,窒化反応速度を高めることが可能になる。【0036】前記窒化処理の前工程として0.001?100気圧の水素ガス雰囲気中,100?700℃の温度下で熱処理を行うか,または窒素ガスに水素を混合したガスを用いることにより,高効率の窒化を行うことが可能になる。」と記載され,「アンモニアガスを用いると窒化反応速度を高められること」,「水素ガスとの混合ガス中で行うと高効率の窒化を行えること」が記載されている。
(b)本願明細書中でも従来例として,「【0005】ここで,磁石材料中に窒素を迅速に吸収させるためには,水素を含有するガス例えばアンモニアガスやそれと水素ガスとの混合ガスを用いることが有効であることが知られている。例えば,特開平 2-57663号公報や特開平 3-16102号公報には,Th_(2) Zn_(17)型結晶構造を有する相を主相とする母合金を,アンモニアガス分圧と水素分圧との比が 1:2? 1:3程度の混合ガス中で熱処理し,上記母合金に窒素,さらには水素を含有させて磁石材料を作製する方法が記載されている。」と記載され,窒化処理を「アンモニアガスと水素ガスの混合ガス中」で行うことが従来から行われていたことを認めている。
(c)刊行物2には,「希土類元素,鉄,窒素および炭素を含有する永久磁石材料」(発明の名称)の窒化処理において,「iii)窒化 金属間化合物(II)の窒化はさまざまな方法で可能である。 第1の方法は,Nガスを,即ち窒素,または,例えばアンモニアもしくはヒドラジンのような窒素含有ガスを,水素と,Nガス:H_(2)の比率で1:10^(4)から10^(4):1,好ましくは,1:5から5:1の比率で混合し,化合物(II)をガス混合物下,300-800℃,好ましくは400-600℃の温度で,0.1-10bar,好ましくは0.5-2barのガス圧で,0.01-1000時間,好ましくは0.1-50時間アニールする。」(12頁16?23行)ことが記載されており,さらに,以下の周知例1?4にも示されるように,窒化処理を「アンモニアガスと水素ガスの混合ガス中」で行うことは,周知技術である。
・周知例1:特開平2-57663号公報(本願明細書中の従来例)
「(3)合金中への窒素および水素の導入:
希土類-鉄原料合金中に窒素および水素を侵入させる方法としては,原料合金をアンモニアガスあるいはアンモニアを含む還元性の混合ガス(例えばアンモニアと水素の混合ガス,アンモニアと窒素の混合ガスあるいはアンモニアとアルゴンの混合ガスなど)と接触させる方法が挙げられる。原料合金の粒径が500μm以下だと,窒素および水素の侵入が効率的に行われる。500μm以上の場合,例えばインゴットの場合でも長時間処理を行うことにより,窒素および水素の侵入は可能である。侵入させる窒素および水素の量はアンモニアガス分圧や温度等を変化させることにより,調節することが可能である。混合ガスの場合は,水素,ヘリウム,ネオン,窒素やアルゴン等の少くとも一種類とアンモニアガスとの混合物を用いれば良く,例えばSm_(2)Fe_(17)の組成の原料合金中に窒素および水素を侵入させるときに,アンモニア-水素混合ガスを使用する場合は,アンモニアの分圧は0.02?0.75atmにすることが優れた材料を得るために好ましいものとなる。
また窒素および水素を侵入させるときの温度は 100?1000℃が好ましく,200?700℃がさらに好ましい。」(5頁左上欄16行?同頁右上欄20行)
・周知例2:特開平3-16102号公報(本願明細書中の従来例)
「(3)窒化,水素化
粉砕された原料母合金中に窒素及び水素を化合もしくは含浸させる方法としては原料合金粉末をアンモニアガス或いはアンモニアガスを含む還元性の混合ガス中で加圧あるいは加熱処理する方法が有効である。合金中に含まれる窒素及び水素量はアンモニアガス含有混合ガスの混合成分比,及び加熱温度,加圧力,処理時間によって制御し得る。
混合ガスとしては水素,ヘリウム,ネオン,窒素及びアルゴンのいずれか,もしくは2種以上とアンモニアガスを混合したガスが有効である。混合比は処理条件との関連で変化させ得るが,アンモニアガス分圧としては,とくに0.02?0.75atmが有効であり,処理温度は200?650℃の範囲が好ましい。」(7頁右上欄14行?同頁左下欄9行)
・周知例3:特開平8-45718号公報
「【0034】・・・
(3)窒化・焼鈍
窒化はアンモニアガス,窒素ガスなどの窒素源を含むガスを,上記(1)または,(1)及び(2)で得たR-Fe-M成分合金粉体またはインゴットに接触させて,結晶構造内に窒素を導入する工程である。
【0035】このとき,窒化雰囲気ガス中に水素を共存させると,窒化効率が高いうえに,結晶構造が安定なまま窒化できる点で好ましい。また反応を制御するために,アルゴン,ヘリウム,ネオンなどの不活性ガスなどを共存させる場合もある。最も好ましい窒化雰囲気としては,アンモニアと水素の混合ガスであり,特にアンモニア分圧を0.1?0.7の範囲に制御すれば,窒化効率が高い上に本発明の窒素量範囲全域の磁性材料を作製することができる。
【0036】窒化反応は,ガス組成,加熱温度,加熱処理時間,加圧力で制御し得る。このうち加熱温度は,母合金組成,窒化雰囲気によって異なるが,200?650℃の範囲で選ばれるのが望ましい。200℃未満であると窒化が進まず,650℃を越えると主原料相が分解して,菱面体晶または六方晶の結晶構造を保ったまま窒化することができない。窒化効率と主相の含有率を高くするために,さらに好ましい温度範囲は250?600℃である。」
・周知例4:特開平8-55712号公報
「【0035】・・・
(3)窒化・焼鈍
窒化はアンモニアガス,窒素ガスなどの窒素源を含むガスを,上記(1)または,(1)及び(2)で得たR-Fe成分-Mn成分合金粉体またはインゴットに接触させて,結晶構造内に窒素を導入する工程である。
【0036】このとき,窒化雰囲気ガス中に水素を共存させると,窒化効率が高いうえに,結晶構造が安定なまま窒化できる点で好ましい。また反応を制御するために,アルゴン,ヘリウム,ネオンなどの不活性ガスなどを共存させる場合もある。最も好ましい窒化雰囲気としては,アンモニアと水素の混合ガスであり,特にアンモニア分圧を0.1?0.7の範囲に制御すれば,窒化効率が高い上に本発明の窒素量範囲全域の磁性材料を作製することができる。
【0037】窒化反応は,ガス組成,加熱温度,加熱処理時間,加圧力で制御し得る。このうち加熱温度は,母合金組成,窒化雰囲気によって異なるが,200?650℃の範囲で選ばれるのが望ましい。200℃未満であると窒化が進まず,650℃を越えると主原料相が分解して,菱面体晶または六方晶の結晶構造を保ったまま窒化することができない。窒化効率と主相の含有率を高くするために,さらに好ましい温度範囲は250?600℃である。」
(d)以上の点を考慮すれば,引用発明における,「アンモニアガス及び窒素ガスの雰囲気中」を,「アンモニアガスと水素ガスの混合ガス中」とすることは,当業者が適宜なし得たことである。
(e)また,「合金中に含まれる窒素及び水素量はアンモニアガス含有混合ガスの混合成分比(分圧比),及び加熱温度,加圧力,処理時間によって制御し得る」ことも,上記の周知例1?4に示されるように,周知技術(技術常識)である。
(f)さらに,分圧比については,本願明細書中の従来例では,「1:2?1:3(分圧比2?3)」,刊行物2では,「1:10^(4)?10^(4):1,好ましくは,1:5?5:1(分圧比1/10^(4)?10^(4),好ましくは,0.2?5)」,周知例1,2では,「アンモニアの分圧は0.02?0.75atm(分圧比0.33?49)」,周知例3,4では,「アンモニア分圧を0.1?0.7(分圧比0.43?9)」であり,従来から分圧比5程度を含め水素ガスリッチでも行われていた。
また,分圧比を大きく,すなわちアンモニアガス濃度を薄くすれば,それだけ窒化がゆっくりと進み,所定濃度への調整がしやすいことは,当業者が容易に想像し得たことでもある。
(g)本願補正発明の実施例1?10及び比較例1?3は,いずれも圧力の特定がなく,703K(430℃)×2時間の熱処理の場合であり,温度と時間を所定値に固定した場合には分圧比が5以上であれば,Nの含有量を18at%以下にできて好ましいと言うだけであり,熱処理において,温度を703K(430℃)より低く,時間を2時間より短くすれば,分圧比はもっと小さくてもNの含有量を18at%以下にできると認められ,圧力に関係なく,573?773Kの温度,0.1?100時間のすべての条件の場合も分圧比が5以上に格別意義があるとは認められない。
また,本願明細書には,Nの含有量を所定以下にすればアモルファス化が防げる(【0024】)と記載されており,さらに,実施例においても,単にNの含有量を18at%以下にしたに過ぎず,引用発明においてもNの含有量は8.5at%で18at%以下であり,この点からも分圧比が5以上に格別意義があるとは認められない。
(h)要は,Nの含有量を所定以下にすればアモルファス化が防げるのであり,刊行物1にも,「【0019】(1-4)A元素 A元素は,H,N,C,Pから選ばれる少なくとも1つの元素である。前記A元素は,主として主相の格子間位置に存在し,前記A元素を含まない場合と比較して前記主相のキュリー温度,磁気異方性を向上させる働きを有する。【0020】前記A元素は,少量の配合でその効果が発揮されるが,20原子%を越えるとα-Fe(Co)の析出が多くなる。より好ましいA元素の含有量uは,2≦u≦20,更に好ましくは5≦u≦10である。」と記載されており,α-Fe(Co)の析出が多くならないように,引用発明においてもNの含有量が8.5at%程度となるように,分圧比は当業者が実験などにより適宜決定し得たことである。
(i)以上の点を考慮すれば,引用発明において,「前記アンモニアガスの分圧をP_(x),前記水素ガスの分圧をP_(y)としたとき,5≦P_(y)/P_(x)の分圧比を満足する混合ガス中で」熱処理することは,当業者が適宜なし得たことである。

したがって,本願補正発明は,刊行物1,2に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
以上のとおり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成19年6月25日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項7に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成18年7月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1と請求項7に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「【請求項7】 TbCu_(7)型結晶構造を有する相を主相とする母合金を作製する工程と,前記母合金に窒素を含有せしめる工程とを有する磁石材料の製造方法において,
前記窒素の含有工程を,アンモニアガスと水素ガスとを含み,かつ前記アンモニアガスの分圧をP_(x),前記水素ガスの分圧をP_(y)としたとき,5≦P_(y)/P_(x)の分圧比を満足する混合ガス中で,前記母合金を熱処理することにより実施し,
一般式:R^(1)_(X)R^(2)_(Y)B_(Z)N_(U)H_(V)M_(100-X-Y-Z-U-V)
(式中,R^(1)は希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素を,R^(2)はZr,HfおよびScから選ばれる少なくとも1種の元素を,MはFeおよびCoから選ばれる少なくとも1種の元素を示し,X,Y,Z,UおよびVはそれぞれ2at.%≦X,0.01at.%≦Y,4≦X+Y≦20at.%,0≦Z≦10at.%,0.1≦U≦18at.%,0.01≦V≦10at.%を満足する数である)
で表される組成を有し,TbCu_(7)型結晶構造を有する相を主相とする磁石材料を作製することを特徴とする磁石材料の製造方法において,
前記M元素の20at.%以下をTi,V,Cr,Mo,W,Mn,Ga,Al,Sn,Ta,Nb,SiおよびNiから選ばれる少なくとも1種の元素で置換することを特徴とする磁石材料の製造方法。」

第4 刊行物に記載された発明
刊行物1,2の記載事項及び刊行物1に記載された発明は,上記「第2 2(2)」で認定したとおりである。

第5 本願発明と引用発明との対比・判断
本願発明は,前記第2で検討した本願補正発明の「窒素および水素を含有せしめる工程」を「窒素を含有せしめる工程」とし,「573?773Kの温度で0.1?100時間の条件下で熱処理すること」との構成を省いたものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が,前記「第2 2(3)」で検討したとおり,刊行物1,2に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,刊行物1,2に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1,2に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-20 
結審通知日 2010-05-25 
審決日 2010-06-07 
出願番号 特願平9-236102
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01F)
P 1 8・ 575- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 純一  
特許庁審判長 橋本 武
特許庁審判官 西脇 博志
高橋 宣博
発明の名称 磁石材料の製造方法とボンド磁石の製造方法  
代理人 須山 佐一  
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