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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1220590
審判番号 不服2007-27163  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-04 
確定日 2010-07-22 
事件の表示 特願2000-222893「熱電デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月 8日出願公開,特開2002- 43637〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成12年7月24日の出願であって,平成19年5月14日付けで手続補正がなされ,同年8月27日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年10月4日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同年10月26日付けで手続補正がなされ,その後当審において,平成22年3月10日付けで審尋がなされ,平成22年4月16日に回答書が提出されたものである。

第2 平成19年10月26日付けの手続補正について

[補正却下の決定の結論]
平成19年10月26日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容について
本件補正は,特許請求の範囲の請求項1の補正を含むものであり,その補正内容は以下のとおりである。
<補正事項1>
本件補正前の「前記拡散抑制層は,前記半田層の半田成分が前記熱電素子の内部に拡散することを防止する第1層と,前記第1層よりも半田に対する濡れ性が良好な材料で形成された第2層と」を,「前記拡散抑制層は,前記半田層の半田成分が前記熱電素子の内部に拡散することを防止する第1層と,前記第1層と前記半田層との間に介在するとともに前記第1層よりも半田に対する濡れ性が良好な材料で形成された第2層とを備え」とする。
<補正事項2>
本件補正前の「前記第1層の平均厚みは第2層の平均厚みよりも厚く設定されている」を,「前記第1層の平均厚みは第2層の平均厚みより厚く,第1層と第2層の合計の厚みは1μm以上であるように設定され,前記相手材は複数の前記熱電素子と接合されるとともに前記半田が前記相手材における前記熱電素子と前記熱電素子との間の部分にも設けられ,前記相手材における前記熱電素子間の部分に設けられる半田が前記熱電素子間において前記第2層の端部を覆う」とする。

2 補正目的の適否について
上記補正事項1?2は,第1層,第2層,及び半田について,その位置及び厚さをさらに限定するものであるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件について
以上で検討したとおり,上記補正事項1?2は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が,同特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定(独立特許要件)に適合するか否かについて検討する。

3-1 本願補正発明
平成19年10月26日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1の記載によれば,本願補正発明は,次のとおりである。
「熱電材料を主要成分とする熱電素子と,
前記熱電素子に接合される相手材と,
前記熱電素子と前記相手材との間に介在し前記熱電素子と前記相手材とを接合する半田層と,
前記熱電素子と前記半田層との間に介在し,前記半田層を構成する半田成分が前記熱電素子の内部に拡散することを防止する拡散抑制層とを具備する熱電デバイスにおいて,
前記拡散抑制層は,前記半田層の半田成分が前記熱電素子の内部に拡散することを防止する第1層と,前記第1層と前記半田層との間に介在するとともに前記第1層よりも半田に対する濡れ性が良好な材料で形成された第2層とを備え,
前記第1層はニッケル-リン系もしくはニッケル-ボロン系の無電解メッキ層であり,前記第2層は電解もしくは無電解の金メッキ層であり,
前記第1層の平均厚みは第2層の平均厚みより厚く,第1層と第2層の合計の厚みは1μm以上であるように設定され,
前記相手材は複数の前記熱電素子と接合されるとともに前記半田が前記相手材における前記熱電素子と前記熱電素子との間の部分にも設けられ,
前記相手材における前記熱電素子間の部分に設けられる半田が前記熱電素子間において前記第2層の端部を覆う,
ことを特徴とする熱電デバイス。」

3-2 引用例1の記載内容と引用発明
(1)引用例1の記載内容
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平9-293906号公報(以下「引用例1」という。)には,図1?6とともに,次の記載がある(下線は当審で付加。以下同じ。)。
「 【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は,熱電変換素子に関し,特にゼーベック効果によって熱起電力を発生するための熱電変換素子に関する。」
「 【0007】本発明に従えば,P形またはN形の導電形式を有する半導体の一端部を電極と接続するにあたり,半導体に接する介在層が設けられ,介在層は,Al,TiおよびMgから成るグループから選ばれる1またはそれらの合金である。半導体は,Bi-Te系またはPb-Te系である。これらの介在層を構成する金属は,半導体への拡散係数が極めて小さい。したがって半導体が接合される介在層および電極側である半導体の一端部を,それらの半導体の熱電変換性能が劣化しない高温度に加熱しても,介在層の成分が半導体内に拡散することが全く,またはほとんど,ない。しかもこのような成分を有する介在層によれば,電極,接合層および中間層の成分が半導体へ拡散しやすい物質であったとしても,その拡散を介在層によって防ぐことができる。これによって半導体の他端部との間の温度差を大きくして,発電効率の向上を図ることができ,価格性能比を向上することができるようになるとともに,経時的な熱電変換効率の低下が抑制される。」
「 【0008】
【発明の実施の形態】図1は本発明の実施の一形態の熱電変換素子1を示す断面図であり,図2は図1に示される熱電変換素子1を数個直列接続して構成されたユニット2の簡略化した側面図である。これらの図面を参照して,熱電変換素子1は,P形導電形式を有する半導体4とN形導電形式を有するもう1つの半導体3との各一端部3a,4aと電極5との間に,Al,TiおよびMgのうちの1またはそれらの合金から成る介在層6,7が介在される。この介在層6,7は,半導体3,4への拡散が零またはほとんど無く,しかも介在層6,7に接する電極5の成分との親和性が弱く,したがってその介在層6,7に接するCuなどの電極5の成分が介在層6,7を経て半導体3,4に拡散することを防ぐ。」
「【0010】電極5は,電気絶縁性基板8上にパターニングされて構成される。基板8は,たとえばベリリア系またはアルミナ系セラミックである。電極5は,たとえばCu,Al,Ni,Ag,Au,Ptなどおよびそれらの合金から成ってもよい。半導体3,4は両者ともBi-Te系またはPb-Te系であってもよく,または半導体3,4のいずれか一方がBi-Te系であり,いずれか他方がPb-Te系であってもよい。P形不純物はたとえばInであり,N形不純物はたとえばアンチモンであってもよい。」
「 【0014】図4は,本発明の実施のさらに他の形態の一部の断面図である。この実施の形態は,前述の図3の構成に類似し,対応する部分には同一の参照符を付す。注目すべきはこの実施の形態では,介在層14,15と接合層16,17との濡れ性を向上するために,中間層18,19を薄膜技術によってまたは厚膜技術によって設ける。この濡れ性のよい中間層18,19は,たとえばCu,Ag,AuおよびMgのうちの1つまたはそれらの合金であってもよい。こうして半導体3,4の一端部3a,4aの端面に薄膜技術または厚膜技術によって形成された介在層14,15上に,濡れ性のよい中間層18,19が形成された後,高温半田または硬ロウから成る接合層16,17を用いて電極5に接合する。これによって強度を向上することができる。たとえば半導体3,4には,AlまたはTiから成る介在層14,15が形成され,その上にAuから成る中間層18,19が形成され,高温半田から成る接合層16,17によってCu製電極5に接合される。介在層14,15は,たとえばAlであってもよいけれども,TiまたはMgから成ってもよく,またはそれらの合金であってもよい。その他の構成は,前述の図3の構成ならびに図1および図2の構成に類似する。」
「 【0019】図5(1)では,図1の構成において,介在層6,7はアルミニウムロウである。図5(2)は図1の介在層6,7としてマグネシウムロウを用いた。図5(3)では,図3の構成において,介在層14,15は,アルミニウムのスパッタ膜であり,介在層16,17としてアルミニウムロウを用いた。図5(4)では,図4の構成において,介在層14,15はチタンのスパッタ膜であり,濡れ性のよい中間層18,19として金の蒸着膜を用い,接合層16,17として高温半田を用いた。電極5はいずれもCuである。」
「 【0024】薄膜技術によって形成する介在層6,7;14,15の厚みは,1000Å?1mmが好ましく,厚みは1mm以上でもよいが素子が厚くなり,使いにくい。」

(2)引用例1の記載事項の整理
以上を整理すると,引用例1には次のことが記載されているものと認められる。
ア 引用例1の段落【0010】には,「半導体3,4」がBi-Te系またはPb-Te系材料であることが記載されているから,「熱電材料を主要成分とする」「半導体3,4」が記載されているといえる。
イ 引用例1の段落【0010】の「電極5は,電気絶縁性基板8上にパターニングされて構成される」との記載,段落【0014】の「半導体3,4には,AlまたはTiから成る介在層14,15が形成され,その上にAuから成る中間層18,19が形成され,高温半田から成る接合層16,17によってCu製電極5に接合される」との記載及び図4からみて,引用例1には,「電気絶縁性基板8」が「半導体3,4に接合されること」,及び,「接合層16,17」が「半導体3,4と電気絶縁性基板8との間に介在し半導体3,4と基板8とを接合する」ものであることが記載されているといえる。
ウ 引用例1の段落【0007】の「介在層は,Al,TiおよびMgから成るグループから選ばれる1またはそれらの合金である。(中略)しかもこのような成分を有する介在層によれば,電極,接合層および中間層の成分が半導体へ拡散しやすい物質であったとしても,その拡散を介在層によって防ぐことができる」,段落【0014】の「半導体3,4には,AlまたはTiから成る介在層14,15が形成され,その上にAuから成る中間層18,19が形成され,高温半田から成る接合層16,17によってCu製電極5に接合される」との記載及び図4からみて,引用例1には,「介在層14,15」が「半導体3,4と接合層16,17との間に介在し」「接合層16,17の成分が前記半導体3,4の内部に拡散することを防止する」ものであることが記載されているといえる。
エ 引用例1の段落【0014】の「介在層14,15と接合層16,17との濡れ性を向上するために,中間層18,19を薄膜技術によってまたは厚膜技術によって設ける。(中略)半導体3,4には,AlまたはTiから成る介在層14,15が形成され,その上にAuから成る中間層18,19が形成され,高温半田から成る接合層16,17によってCu製電極5に接合される」,段落【0019】の「図4の構成において,介在層14,15はチタンのスパッタ膜であり,濡れ性のよい中間層18,19として金の蒸着膜を用い,接合層16,17として高温半田を用いた」との記載及び図4からみて,引用例1には,「中間層18,19」が,「介在層14,15と前記接合層16,17との間に介在するとともに前記介在層よりも接合層16,17に対する濡れ性が良好な材料で形成され」,また,「金の蒸着膜」であることが記載されているといえる。
オ 引用例1の段落【0008】の「図1は本発明の実施の一形態の熱電変換素子1を示す断面図であり,図2は図1に示される熱電変換素子1を数個直列接続して構成されたユニット2の簡略化した側面図である。」との記載及び図2からみて,引用例1には,「電気絶縁性基板8」に複数の「半導体3,4」が接合されることが記載されているといえる。

(3)引用発明
上記(2)ア?オによれば,引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「熱電材料を主要成分とする半導体3,4と,
前記半導体3,4に接合される電気絶縁性基板8と,
前記半導体3,4と前記基板8との間に介在し前記半導体3,4と前記基板8とを接合する接合層16,17と,
前記半導体3,4と前記接合層16,17との間に介在し,前記接合層16,17の成分が前記半導体3,4の内部に拡散することを防止する介在層14,15と,前記介在層14,15と前記接合層16,17との間に介在するとともに前記介在層よりも接合層16,17に対する濡れ性が良好な材料で形成された中間層18,19とを備え,
前記介在層14,15は,Al,TiおよびMgから成るグループから選ばれる1またはそれらの合金であり,
前記中間層18,19は金の蒸着膜であり,
前記電気絶縁性基板8は,複数の前記半導体3,4と接合される,
ことを特徴とする熱電変換素子。」

3-3 本願補正発明と引用発明との対比
本願補正発明と,上記引用発明とを対比する。
ア 引用発明における「半導体3,4」,「電気絶縁性基板」及び「熱電変換素子」は,本願補正発明における「熱電素子」,「相手材」及び「熱電デバイス」に,それぞれ相当する。
イ 引用例1の段落【0019】には,「接合層16,17として高温半田を用いた」と記載されているから,引用発明における「接合層16,17」は,本願補正発明における「半田層」に相当する。
ウ 引用発明における「介在層14,15」は,熱電素子と半田層との間に介在し,半田層を構成する半田成分が熱電素子の内部に拡散することを防止する機能を有するものであるから,本願補正発明における「第1層」に相当する。
エ 引用発明における「中間層18,19」は,第1層と半田層との間に介在するとともに,第1層よりも半田に対する濡れ性が良好な材料で形成されているから,本願補正発明における「第2層」に相当する。
オ 引用発明は,「前記熱電素子と前記半田層との間に介在し,前記半田層を構成する半田成分が前記熱電素子の内部に拡散することを防止する」層として「半田層の半田成分が前記熱電素子の内部に拡散することを防止する第1層と,前記第1層と前記半田層との間に介在するとともに前記第1層よりも半田に対する濡れ性が良好な材料で形成された第2層」とを備えているから,引用発明も「拡散抑制層」を具備するものと認められる。

そうすると,本願補正発明と引用発明の一致点及び相違点は,次のとおりである。

<一致点>
「熱電材料を主要成分とする熱電素子と,
前記熱電素子に接合される相手材と,
前記熱電素子と前記相手材との間に介在し前記熱電素子と前記相手材とを接合する半田層と,
前記熱電素子と前記半田層との間に介在し,前記半田層を構成する半田成分が前記熱電素子の内部に拡散することを防止する拡散抑制層とを具備する熱電デバイスにおいて,
前記拡散抑制層は,前記半田層の半田成分が前記熱電素子の内部に拡散することを防止する第1層と,前記第1層と前記半田層との間に介在するとともに前記第1層よりも半田に対する濡れ性が良好な材料で形成された第2層とを備えた,
ことを特徴とする熱電デバイス。」

<相違点1>
本願補正発明は,第1層は「ニッケル-リン系もしくはニッケル-ボロン系の無電解メッキ層」であるのに対し,引用発明では「Al,TiおよびMgから成るグループから選ばれる1またはそれらの合金」である点。

<相違点2>
本願補正発明は,第2層は「電解もしくは無電解の金メッキ層」であるのに対し,引用発明では「金の蒸着膜」である点。

<相違点3>
本願補正発明は,「第1層の平均厚みは第2層の平均厚みより厚く,第1層と第2層の合計の厚みは1μm以上であるように設定され」ているのに対し,引用発明では第1層と第2層の厚みの関係について教示がない点。

<相違点4>
本願補正発明は,「前記半田が前記相手材における前記熱電素子と前記熱電素子との間の部分にも設けられ,
前記相手材における前記熱電素子間の部分に設けられる半田が前記熱電素子間において前記第2層の端部を覆う」のに対し,引用発明では,上記のように半田が設けられていない点。

3-4 相違点についての判断
(1)相違点1について
ア 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平11-186618号公報(以下「引用例2」という。)には,次の記載がある。
・「【0003】熱電変換装置に使用する熱電半導体は,表面平滑化,接合強度向上,品質性能劣化抑止等の各種目的のために,その表面にメッキ膜を形成する場合がある。例えば,熱電半導体を基板上に形成された銅等からなる電極にはんだ付けにより接続する際に,はんだのすず成分が熱電半導体内に拡散して品質性能を劣化させるのを防止するため,及び,はんだの濡れ性を確保するために,はんだ接合用のメッキ膜を形成する必要がある。」
・「【0033】上記酸処理を行った後,中和,水洗を行い,その後,熱電半導体5をメッキ浴槽中に入れ,無電解Ni-Pメッキを行った。尚,このメッキ工程は,無電解メッキとしてNi-B,Au,Pdメッキ等,電解としてNi,Auメッキ等が可能であるが,安価な無電解Ni-P,電解Niメッキが望ましい。」
上記によれば,引用例2には,半田成分が熱電半導体内部に拡散することを防止する層として,ニッケル-リン系の無電解メッキ層を設ける技術が開示されている。
イ 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平11-186619号公報(以下「引用例3」という。)には,次の記載がある。
・「【0004】例えば,熱電半導体チップを基板上に形成された銅などからなる電極にはんだ付けにより接続する際に,はんだのすず成分が熱電半導体内に拡散して品質性能を劣化させるのを防止するため,及び,はんだ濡れ性を確保するために,はんだ接合用のメッキ膜を形成する必要がある。」
・「【0013】メッキ膜としては,Snバリヤ性を有し,はんだ濡れ性及び電気伝導性に優れた金属や合金であることが好ましい。」
・「【0042】その後,無電解メッキ工程において,熱電半導体にメッキを施す。この無電解メッキ工程は,本例においては,無電解メッキ浴として還元剤成分がジメチルアミノボランを主体とするNiメッキ浴を使用した。このため熱電半導体に被覆されるメッキは,Ni-Bメッキとなる。」
上記によれば,引用例3には,半田成分が熱電半導体内部に拡散することを防止する層として,ニッケル-ボロン系の無電解メッキ層を設ける技術が開示されている
ウ したがって,半田層の半田成分が前記熱電素子の内部に拡散することを防止する第1層の材料として,引用発明の「Al,TiおよびMgから成るグループから選ばれる1またはそれらの合金」に代えて,引用例2?3に開示された,「ニッケル-リン系の無電解メッキ層」,又は,「ニッケル-ボロン系の無電解メッキ層」を採用することは,当業者が容易になし得た材料選択である。

(2)相違点2について
「電解もしくは無電解の金メッキ層」は,当業者にとって周知の金薄膜であり(必要ならば,引用例2の段落【0033】,特開平4-23368号公報の第7頁右上欄第6行?第8行を参照。),引用発明の「金の蒸着膜」を「電解もしくは無電解の金メッキ層」に変更することは,当業者が適宜なし得た設計変更である。

(3)相違点3について
第1層は半田成分の拡散を防止する層であり,拡散防止層をより厚くすれば拡散防止の効果が高まることは,当業者の技術常識である。一方,第2層は半田との濡れ性を確保するための層であり,濡れ性の効果の高さと第2層の厚みは直接には関係しないこともまた,当業者の技術常識であるといえる。よって,第2層は必要な濡れ性を確保するのに必要な限度の膜厚とし,第1層は拡散防止効果をより高めるためより厚い膜とすることは,上記の技術常識を有する当業者が容易に想到し得たことであり,その際に,第2層の厚みを基準として「第1層の平均厚みは第2層の平均厚みより厚く」設定することは,適宜なし得たことである。
また,引用例1の段落【0024】には,「薄膜技術によって形成する介在層6,7;14,15の厚みは,1000Å?1mmが好ましく」と記載されているから,第1層として1μm以上の膜厚は普通に用いられている膜厚であり,よって,第1層と第2層の合計の厚みが1μm以上のものも,当業者が普通に選択し得る範囲のものである。
さらに,本願の明細書の表1には,第1層と第2層の合計の厚みが1μm未満の例も含めて記載されているところ,本願の明細書段落【0044】には,「実施例1,実施例2に係わる試験片では,拡散抑制効果が高いニッケル-リン系もしくはニッケル-ボロン系の無電解メッキ層からなる第1層71の上に,半田濡れ性が良好な無電解の金メッキ層72が形成されている。このため,半田成分が熱電素子1の内部に拡散することを抑える拡散効果が高く,しかも電極35と熱電素子1とを半田付けする際の半田付け性も向上しており,各試験後における劣化が抑えられていた。したがって表1,表2からも理解できるように,実施例1,実施例2に係わる試験片では,各試験後における不良品の発生率は0であるか,極めて少なかった。」と記載されていること,及び,本願の明細書段落【0045】には,「なお,熱電デバイスの使用条件を緩和すれば,第1層71の厚みは1.0μm以下でも足りる。」と記載されていることからみて,本願の明細書において,第1層と第2層の合計の厚みが1.0μm以上のものと,1.0μm未満のものとで,効果に格別の差異があることは示されていない。すなわち,「第1層と第2層の合計の厚みは1μm以上であるように設定」することに,臨界的意義は認められない。

(4)相違点4について
半田が相手材における熱電素子と熱電素子との間の部分にも設けられ,前記半田が前記熱電素子間において端部を覆う構成は,拒絶査定に引用された特開平4-23368号公報(以下,「周知例1」という。)の第3図(g)や特開平7-321379号公報(以下「周知例2」という。)の図1?2,5?6に照らして,周知の構成であり,引用発明において熱電素子と相手材との接合を具体化するに当たり,半田(接合層)を当該周知の構成のようにすることは当業者が適宜なし得たことである。そして,その際,半田が覆う範囲を第2層までとすることは,自然な選択である。
審判請求人は,平成19年10月26日に提出された手続補正書(方式)により補正された審判請求書の(3)(c)において,「本願発明は,半田が半田に対する濡れ性が良好な第2層の端部までも覆うことにより,より接合性を向上させた発明である。」と主張している。しかしながら,上記のとおり,半田が覆う範囲を第2層までとすることは,自然な選択である。また,「より接合性を向上させた」との作用効果は,願書に添付された明細書には具体的に記載されておらず,願書に添付された図面のみから直ちに理解できる程度の自明な効果であるといえるから,上記周知の構成からも当然に期待される効果であり,当業者の予測を超える格別なものとはいえない。よって,審判請求人の主張は採用できない。

3-5 独立特許要件についての結論
以上のとおり,本願補正発明は,引用発明及び引用例2?3に記載された事項並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって,本件補正は,独立特許要件を満たさない。

4 本件補正についての結論
以上検討したとおり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する第126条第5項の規定に適合しないものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,本件補正前の請求項1(平成19年5月14日提出の手続補正書により補正された請求項1)に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
「熱電材料を主要成分とする熱電素子と,前記熱電素子に接合される相手材と,前記熱電素子と前記相手材との間に介在し前記熱電素子と前記相手材とを接合する半田層と,前記熱電素子と前記半田層との間に介在し,前記半田層を構成する半田成分が前記熱電素子の内部に拡散することを防止する拡散抑制層とを具備する熱電デバイスにおいて,
前記拡散抑制層は,前記半田層の半田成分が前記熱電素子の内部に拡散することを防止する第1層と,前記第1層よりも半田に対する濡れ性が良好な材料で形成された第2層とを備えていることを特徴とする熱電デバイスであり,
前記第1層はニッケル-リン系もしくはニッケル-ボロン系の無電解メッキ層であり,前記第2層は電解もしくは無電解の金メッキ層であり,
前記第1層の平均厚みは第2層の平均厚みよりも厚く設定されている
ことを特徴とする熱電デバイス。」

2 引用発明
引用発明は,上記第2,3-2(3)で認定したとおりのものである。

3 対比・判断
上記第2,2で検討したように,本願補正発明は,本件補正前の請求項1の第1層,第2層,及び半田について,その位置及び厚さをさらに限定するものである。
そうすると,本願発明の構成要素をすべて含み,これをより限定したものである本願補正発明が,上記第2,3で検討したとおり,引用発明及び引用例2?3の記載並びに周知例1?2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものということができる。

4 本願発明についての結論
以上検討したとおり,本願発明は,引用発明及び引用例2?3の記載並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 結言
以上のとおりであるから,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-20 
結審通知日 2010-05-25 
審決日 2010-06-07 
出願番号 特願2000-222893(P2000-222893)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 浩一  
特許庁審判長 相田 義明
特許庁審判官 橋本 武
小川 将之
発明の名称 熱電デバイス  

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