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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1220615
審判番号 不服2008-12534  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-15 
確定日 2010-07-22 
事件の表示 特願2004-266008「分散型シミュレーションシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月23日出願公開、特開2006- 75529〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、平成16年9月13日の出願であって、平成20年4月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年6月16日付けで手続補正がなされたものである。
その後、平成21年5月8日付けで、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、同年7月10日付けで回答書が提出された。

【2】平成20年6月16日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成20年6月16日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりに補正された。
「ネットワークを介して互いに接続される複数のコンピュータを用い、HLA(High Level Architecture)インタフェース仕様に規定された各サービスを実行するためのRTI(Run-Time Infrastructure)のもとでシミュレーションを実現する分散型シミュレーションシステムであって、
前記コンピュータは、
シミュレーションに参加するシミュレーションモデルのそれぞれにおいて内部的に管理され当該シミュレーションモデルのふるまいを既定するシナリオデータを記憶する記憶手段と、
前記シミュレーションモデルごとにそのふるまいを前記シナリオデータの内容に基づいて自律的に判断させて前記シミュレーションを進行させるシミュレーション進行制御手段と、
前記シミュレーションの進行中に当該シミュレーションに参加を要請するシミュレーションモデルが生じた場合に、このシミュレーションモデルに前記シナリオデータの内容を更新するための情報をインタラクションを用いて通知する通知手段と、
前記シミュレーションの進行中に当該シミュレーションからの離脱を要請するシミュレーションモデルが生じた場合に、このシミュレーションモデルに係わる情報を前記シナリオデータの内容から削除する削除手段とを具備することを特徴とする分散型シミュレーションシステム。」

上記補正は、本件補正前の請求項1に係る発明の「シミュレーションモデルのふるまいを既定する管理テーブル」を「シミュレーションモデルのそれぞれにおいて内部的に管理され当該シミュレーションモデルのふるまいを既定するシナリオデータ」と限定する補正を含むものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下検討する。

2.刊行物及びその記載内容

刊行物:特開2000-132081号公報
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された上記刊行物には、図面とともに、次の事項が記載されている。
(1a)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、複数台の計算機上に互いに異なるシミュレーションモデルを構築し、上記構築されたシミュレーションモデル間のデータの送受信等の制御を行うシミュレーションプラットフォームに上記複数台の計算機を接続した分散シミュレーション装置に関するものである。」
(1b)「【0012】この発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、シナリオマネージャ装置にシミュレーションプラットフォームが管理しているシミュレーション時刻とは別に、実行するシミュレーション独自の仮想時刻を設定し、シミュレーションの実行開始時の時刻を自由に設定可能とすることを目的としている。また、シミュレーションモデルの途中参加や途中脱退通知を受け付けることによって、シミュレーション構成の動的な変更への対処を可能とすることを目的としている。」
(1c)「【0019】図2はこの発明の実施の形態1を示す各シミュレーションモデルの処理フロー図、図3はシナリオマネージャ装置の処理フロー図である。図2において、上記各シミュレーションモデルが起動後(ステップ11)、上記シミュレーションプラットフォーム10aに接続を行い(ステップ12)、接続完了後にシミュレーションへの参加通知を示すメッセージを上記シナリオマネージャ装置に対して上記シミュレーションプラットフォーム10aを通して送信する(ステップ13)。次に上記シミュレーションプラットフォーム10aからの初期値設定実行指示を示すメッセージの受信を待つ(ステップ14)。
【0020】上記各シミュレーションモデルが上記初期値設定実行指示を示すメッセージを受信後(ステップ14)、初期設定ファイル読み込みに先立って上記各シミュレーションモデルは自シミュレーションモデルの仮想時刻を0に設定し(ステップ32)、上記シナリオマネージャ装置からシミュレーション実行を開始するために必要である情報を保持しているシミュレーション初期値設定ファイルの読み込みを行う(ステップ15)。上記初期値ファイル読み込み及び初期値設定が完了した時点で、上記初期値設定完了を示すメッセージをシミュレーションプラットフォーム10aに送信した後(ステップ16)、上記シミュレーションプラットフォーム10aからのシミュレーション実行開始指示を示すメッセージ及び仮想時刻値の受信を待つ(ステップ33)。
【0021】上記各シミュレーションモデルは上記シミュレーション実行開始指示を示すメッセージ及び仮想時刻値を受信後(ステップ33)、シミュレーション実行に先立って自シミュレーションモデルの仮想時刻を上記受信した仮想時刻値に設定し(ステップ34)、以後上記仮想時刻に従ってシミュレーション実行を開始する(ステップ18)。1時刻分のシミュレーション処理終了後、上記シミュレーションプラットフォーム10aからのメッセージ受信を行う(ステップ19)。上記ステップ19において、上記シミュレーションプラットフォーム10aからシミュレーション終了指示を示すメッセージも初期値設定実行指示を示すメッセージも受信しなかった場合は(ステップ20)、引き続き次の時刻のシミュレーションを実行する(ステップ18)。同様に、上記シミュレーションプラットフォーム10aからシミュレーション終了指示を示すメッセージを受信した場合は(ステップ20)、シミュレーションを完全に終了する(ステップ21)。同様に上記ステップ19において、上記シミュレーションプラットフォーム10aから初期値設定実行指示を示すメッセージを受信した場合は(ステップ20)、上記シナリオマネージャ装置から再度シミュレーション初期値設定ファイルの読み込みを行い、シミュレーションを再実行する(ステップ32?34)。」
(1d)「【0025】実施の形態2.図4はこの発明の実施の形態1を示す分散シミュレーション装置のシステムブロック図であり、5b?9bは、シミュレーションプラットフォーム10bに接続する計算機であり、計算機5b?7bにはそれぞれ図7に示された上記航空機1?3を模擬するシミュレーションモデルが構築され、計算機8には上記地上監視センサ4を模擬するシミュレーションモデルが構築され、計算機9にはシナリオマネージャ装置が構築されている。ここで、上記航空機1?3を模擬するシミュレーションモデルは計算機による自動操縦およびユーザーによる手動操縦が可能であり、ユーザーはシミュレーションの実行前・実行中に関わらず任意に上記シミュレーションプラットフォーム10bに接続、シミュレーションに途中参加することが可能であり、実行中任意にシミュレーションからの脱退が可能である。例えば、上記航空機モデル1及び2と、上記地上監視センサモデル4、シナリオマネージャ装置9を上記シミュレーションプラットフォーム10bに接続してシミュレーションを開始した後、上記航空機モデル3を新規に上記シミュレーションプラットフォーム10bに接続してシミュレーションに途中参加し、上記航空機モデル1と上記航空機モデル3で交戦を行い、撃墜された上記航空機モデル1をシミュレーションから途中脱退させる、といったシミュレーション運用が可能である。また、上記地上監視センサ4を模擬するシミュレーションモデルは、上記シミュレーションプラットフォーム10bが送信する全ての航空機モデルのデータを受信して、探知追尾を行う。すなわち、上記地上監視センサモデルのデータ通信相手はシミュレーションの構成に寄らず常に上記シミュレーションプラットフォーム10bのみであり、シミュレーションに参加している航空機モデルにあわせて通信経路の変更を行う必要がないため、参加しているシミュレーションモデルに変更があった場合でも上記地上センサモデルは影響無くシミュレーション処理を続行することが可能である。」
(1e)「【0028】上記各シミュレーションモデルが上記シミュレーション実行開始指示を示すメッセージ及び仮想時刻値を受信後(ステップ33)、シミュレーション実行に先立って自シミュレーションモデルの仮想時刻を上記受信した仮想時刻値に設定する(ステップ34)。次に、各シミュレーションモデルはシミュレーションの進行状況によって、シミュレーションを続行するか、シミュレーションを終了してシミュレーションから脱退するか、今回のシミュレーションを終了して次回のシミュレーションまで待機するかを決定する(ステップ36)。シミュレーションから脱退する場合は(ステップ36)、シナリオマネージャ装置に対してシミュレーション脱退通知を示すメッセージをシミュレーションプラットフォーム10b経由で送信し(ステップ37)、シミュレーションを完全に終了する(ステップ21)。・・・」
(1f)「【0031】上記シナリオマネージャ装置が上記シミュレーション実行開始指示を示すメッセージを送信後(ステップ35)、シナリオマネージャ装置は上記シミュレーションプラットフォーム10bから送信されるメッセージの受信を行う(ステップ38)。ステップ38において、新規シミュレーションモデルからの参加通知を示すメッセージを受信した場合、シナリオマネージャ装置はシミュレーションに参加しているシミュレーションモデルを管理しているシミュレーションモデル管理情報を更新して上記参加通知を行ったシミュレーションモデルを追加登録し(ステップ39)、シミュレーション構成の実行中の動的な変更に対処する。次にシナリオマネージャ装置は、上記参加通知を行ったシミュレーションモデルに対して初期設定実行指示を送信し(ステップ40)、再びメッセージの受信を行う(ステップ38)。同様に、ステップ38において、シミュレーションモデルからの初期設定完了を示すメッセージを受信した場合、シナリオマネージャ装置は上記初期設定完了通知を行ったシミュレーションモデルに対して、シミュレーション実行開始指示を示すメッセージ及び現在の仮想時刻値を上記シミュレーションプラットフォーム10b経由で送信する(ステップ41)。上記ステップ41により、上記シミュレーション実行開始後に初期設定を完了したシミュレーションモデルが、上記シミュレーションに参加している他のシミュレーションモデルと仮想時刻上で時間同期を取ることが可能となる。上記ステップ41の後、シナリオマネージャ装置は再びメッセージの受信を行う(ステップ38)。同様に、ステップ38において、シミュレーションモデルからの脱退通知を示すメッセージを受信した場合、シナリオマネージャ装置は上記シミュレーションモデル管理情報を更新して上記脱退通知を行ったシミュレーションモデルの登録を削除し(ステップ42)、シミュレーション構成の実行中の動的な変更に対処する。上記ステップ42の後、シナリオマネージャ装置は再びメッセージの受信を行う(ステップ38)。同様に、ステップ38において、メッセージの送信が何もなかった場合は、シナリオマネージャ装置は管理しているシミュレーション初期値設定ファイルの確認を行ってシミュレーションの終了条件が満たされているかの判定を行う(ステップ43)。上記ステップ43において、シミュレーション終了条件を満たさなかった場合は、再びメッセージの受信を行う(ステップ38)。同様に、ステップ43において、シミュレーションを完全に終了する条件を満たした場合は、シミュレーション終了指示を示すメッセージを送信することにより(ステップ31)、シミュレーションの実行を完全に終了する(ステップ21)。同様に、ステップ43において、初期値を変更してシミュレーションを再実行する条件を満たした場合には、初期値設定実行指示を示すメッセージを再送信することにより(ステップ31)、上記各シミュレーションモデルが、シミュレーションを再実行する(ステップ26?31)。」

上記各記載を含む刊行物の全記載及び当業者の技術常識を総合的に勘案すると、刊行物には、以下の発明が記載されていると認められる。
「複数台の計算機上に互いに異なるシミュレーションモデルを構築し、上記構築されたシミュレーションモデル間のデータの送受信等の制御を行うシミュレーションプラットフォームに上記複数台の計算機を接続した分散シミュレーション装置であって、
シミュレーションに参加するシミュレーションモデルのシミュレーションを実行するために必要な情報を記憶するシナリオマネージャ装置と、
各シミュレーションモデルは、前記シナリオマネージャ装置の保持するシミュレーション実行を開始するために必要な初期値設定ファイルの読み込みを行い、シミュレーションを実行する手段を有し、
シナリオマネージャ装置は、新規シミュレーションモデルからの参加通知を示すメッセージを受信した場合、上記参加通知を行ったシミュレーションモデルに対して初期値設定ファイルの読み込みを行うよう初期設定実行指示を送信する手段と、
シミュレーションモデルからの脱退通知を示すメッセージを受信した場合、上記シミュレーションモデル管理情報を更新して上記脱退通知を行ったシミュレーションモデルの登録を削除する手段とを有する分散シミュレーション装置。」(以下「刊行物記載の発明」という。)

3.対比
そこで、本願補正発明と刊行物記載の発明とを対比すると、刊行物記載の発明の「データの送受信等の制御を行うシミュレーションプラットフォーム」、「計算機」及び「分散シミュレーション装置」は、それぞれ、本願補正発明の「ネットワーク」、「コンピュータ」及び「分散型シミュレーションシステム」に相当し、同「シナリオマネージャ装置の保持するシミュレーション実行を開始するために必要な初期値設定ファイル」は、各シミュレーションモデルがシミュレーションを実行するために必要なデータであることは明らかであるから、同「シミュレーションモデルのふるまいを既定するシナリオデータ」に相当する。そして、刊行物記載の発明において、各シミュレーションモデルは、各自が上記「シナリオマネージャ装置の保持するシミュレーション実行を開始するために必要な初期値設定ファイル」を読み込んで、自律的にシミュレーションを進行させていることも明らかである。してみると、刊行物記載の発明の各計算機(本願補正発明の「コンピュータ」に相当)は、その計算機上に構築されたシミュレーションモデルごとに、内部的に管理され当該シミュレーションモデルのふるまいを既定するシナリオデータを記憶する記憶手段を有するものと認められる。
また、刊行物記載の発明の「初期設定実行指示を送信する手段」は新規シミュレーションモデルが初期値設定ファイルの読み込みを行うためのものであるから、本願補正発明の「通知手段」に相当する。同様に「登録を削除する手段」は「シナリオデータの内容から削除する削除手段」に相当する。
したがって両者は、
「ネットワークを介して互いに接続される複数のコンピュータを用い、シミュレーションを実現する分散型シミュレーションシステムであって、
シミュレーションに参加するシミュレーションモデルのそれぞれにおいて当該シミュレーションモデルのふるまいを既定するシナリオデータを記憶する記憶手段と、
前記シミュレーションモデルごとにそのふるまいを前記シナリオデータの内容に基づいて自律的に判断させて前記シミュレーションを進行させるシミュレーション進行制御手段と、
前記シミュレーションの進行中に当該シミュレーションに参加を要請するシミュレーションモデルが生じた場合に、このシミュレーションモデルに前記シナリオデータの内容を更新するための情報を通知する通知手段と、
前記シミュレーションの進行中に当該シミュレーションからの離脱を要請するシミュレーションモデルが生じた場合に、このシミュレーションモデルに係わる情報を前記シナリオデータの内容から削除する削除手段とを具備する分散型シミュレーションシステム。」の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
本願補正発明では、HLA(High Level Architecture)インタフェース仕様に規定された各サービスを実行するためのRTI(Run-Time Infrastructure)のもとでシミュレーションを実現しているのに対し、刊行物記載の発明ではどのような環境でシミュレーションを実現しているのか不明な点。
(相違点2)
本願補正発明では各コンピュータが、通知手段及び削除手段を有しているのに対して、刊行物記載の発明では、これらの手段をシナリオマネージャ装置が有している点。
(相違点3)
本願補正発明では、通知をインタラクションを用いて行っているのに対し、刊行物記載の発明では、どのようにして行っているのか不明な点。

4.判断
(相違点1について)
異なる機種のシミュレーションシステムを接続する分散型シミュレーションシステムにおいて、HLAインタフェース仕様に規定された各サービスを実行するためのRTIのもとでシミュレーションを実現することは、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(「電子情報通信学会論文誌 (J84-D-I) 第12号 情報・システムI-情報処理(HLAをベースとした並列分散シミュレーション開発実行支援環境の実現と評価)」社団法人電子情報通信学会 2001年12月01日 第J84-D-I巻 第12号 p.1610?1622 )又は3(「情報処理 第41巻 第12号(分散シミュレーションのための統合基盤アーキテクチャHLAの紹介)」社団法人情報処理学会 2000年12月15日 第41巻 第12号 p.1382?1386 )に見られるとおり、広く知られた技術である。刊行物記載の発明の分散型シミュレーションシステムに、当該公知の技術を用いることにより、相違点1に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得る事項である。

(相違点2について)
ネットワークを介して互いに接続される複数のコンピュータを用いたシステムにおいて、コンピュータ相互のデータのやりとりや管理を、いわゆる分散型のシステム形態として、各コンピュータどうしがネットワークを介して直接行うように構成することも、集中型のシステム形態として、ホストコンピュータのような特定の機器を介して行うように構成することも、ともに、ごく普通に用いられている周知技術である。そして、そのどちらの形態を採用するかは、システムの規模やシミュレーションの内容、コストや汎用性等の種々の要素を総合的に勘案して、当業者が適宜決定しうるものである。また、RTIを用いたHLAインタフェース仕様において、シミュレータどうしが互いのデータを参照したり、イベントを交換したりできることはよく知られた事実である(上記引用文献2,3参照)。しかも、刊行物記載の発明が分散型シミュレーションシステムであることを考慮すれば、刊行物記載の発明に、相違点2に係る構成を採用することに、格別の困難性はない。

(相違点3について)
刊行物記載の発明においても、各シミュレーションモデルがインタラクションを行っていることは明らかであり、インタラクションに際してデータを送受信することはごく普通に行われていることである(本願明細書の段落【0021】参照)から、刊行物記載の発明の通知をインタラクションを用いて行うことは、当業者が適宜採用し得る事項である。

そして、本願補正発明の効果も、刊行物記載の発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。

よって、本願補正発明は、刊行物記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について
平成20年6月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成20年3月24日付け手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「ネットワークを介して互いに接続される複数のコンピュータを用い、HLA(High Level Architecture)インタフェース仕様に規定された各サービスを実行するためのRTI(Run-Time Infrastructure)のもとでシミュレーションを実現する分散型シミュレーションシステムであって、
前記コンピュータは、
シミュレーションに参加するシミュレーションモデルのふるまいを既定するための管理テーブルを記憶する記憶手段と、
前記シミュレーションモデルごとにそのふるまいを前記管理テーブルの内容に基づいて自律的に判断させて前記シミュレーションを進行させるシミュレーション進行制御手段と、
前記シミュレーションの進行中に当該シミュレーションに参加を要請するシミュレーションモデルが生じた場合に、このシミュレーションモデルに前記管理テーブルの内容を更新するための情報をインタラクションを用いて通知する通知手段と、
前記シミュレーションの進行中に当該シミュレーションからの離脱を要請するシミュレーションモデルが生じた場合に、このシミュレーションモデルに係わる情報を前記管理テーブルの内容から削除する削除手段とを具備することを特徴とする分散型シミュレーションシステム。」

1.刊行物の記載内容
原査定に引用され本願出願前に頒布された刊行物及びその記載内容は、前記「【2】2.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、前記【2】で検討した本願補正発明の「シミュレーションモデルのそれぞれにおいて内部的に管理され当該シミュレーションモデルのふるまいを既定するシナリオデータ」を「シミュレーションモデルのふるまいを既定する管理テーブル」と拡張したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに限定したものに相当する本願補正発明が、前記「【2】4.」に記載したとおり、刊行物記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-20 
結審通知日 2010-05-25 
審決日 2010-06-07 
出願番号 特願2004-266008(P2004-266008)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63F)
P 1 8・ 575- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松川 直樹  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 村田 尚英
岡田 吉美
発明の名称 分散型シミュレーションシステム  
代理人 中村 誠  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 峰 隆司  
代理人 河野 哲  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 村松 貞男  
代理人 橋本 良郎  
代理人 福原 淑弘  

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