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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1220626 |
審判番号 | 不服2008-23389 |
総通号数 | 129 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-09-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-09-11 |
確定日 | 2010-07-22 |
事件の表示 | 特願2002-102169「マイクロレンズシートおよびそれを用いた映写スクリーン並びにディスプレイ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月15日出願公開、特開2003-294913〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成14年(2002年)年4月4日の出願(特願2002-102169号)であって、平成20年6月6日付けで手続補正がなされ、同年8月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成20年9月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年10月10日付けで手続補正がなされたものである。 第2 平成20年10月10日付けの手続補正についての補正の却下の決定について [補正の却下の決定の結論] 平成20年10月10日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成20年6月6日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項2に記載の、 「基板の片面に、単位レンズが2次元的に略マトリクス配列してなるマイクロレンズアレイ部を有するマイクロレンズシートにおいて、 個々の単位レンズによる光線射出角度の範囲が、マイクロレンズシート主平面への法線に対して±30°以上であり、 かつ、個々の単位レンズにより生じる横球面収差の範囲を、レンズ径に対して、0%<横球面収差≦50%となるように設計してなり、 反マイクロレンズアレイ部側となる基板の他面には、個々の単位レンズによる集光部にあたる箇所が開口部となる遮光層が形成された構成であることを特徴とするマイクロレンズシート。」が 「基板の少なくとも片面に、単位レンズが2次元的に配列してなるマイクロレンズアレイ部を有するマイクロレンズシートにおいて、 個々の単位レンズ径およびその配列ピッチは200μm以下であり、 個々の単位レンズによる光線射出角度の範囲が、マイクロレンズシート主平面への法線に対して±30°以上であり、 かつ、個々の単位レンズにより生じる横球面収差の範囲を、レンズ径に対して、0%<横球面収差/レンズ径≦50%となるように設計されてなり、 前記横球面収差の変動範囲を単位レンズ径の31%以下であり、 反マイクロレンズアレイ部側となる基板の他面には、個々の単位レンズによる集光部にあたる箇所が開口部となる遮光層が形成された構成であり、 前記遮光層が、マイクロレンズアレイ部の全面積に対して90%以上の面積で形成されてなることを特徴とするマイクロレンズシート。」と補正された。 そして、この補正は、本件補正前の請求項2において、 (1)「基板の片面」を「基板の少なくとも片面」とする補正事項、 (2)「マイクロレンズアレイ」について「個々の単位レンズ径およびその配列ピッチは200μm以下」であると限定して特定する補正事項、 (3)「個々の単位レンズにより生じる横球面収差」について「前記横球面収差の変動範囲を単位レンズ径の31%以下」とすると限定して特定する補正事項、 (4)「遮光層」について「前記遮光層が、マイクロレンズアレイ部の全面積に対して90%以上の面積で形成されてなる」と限定して特定する補正事項、 を含むものである。 上記(1)の補正事項については、本件補正後の請求項1に係る発明において、基板の他面には遮光層が形成されていることから、上記の「基板の少なくとも片面」は「基板の片面」を意味していることは明らかであり、上記(1)の補正事項は実質的な補正事項ということはできない(誤補正といえる)。 上記(2)ないし(4)の補正事項は、いずれも、特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮を目的とする補正事項であるといえる。 すなわち、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものを含む。 2 独立特許要件違反についての検討 そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反しないか)について検討する。 (1)本願補正発明 本願補正発明は、平成20年10月10日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるものである。(上記「第2 平成20年10月10日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」の記載参照。) ただし、上記「第2 平成20年10月10日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」において述べたように、本願補正発明の「基板の少なくとも片面」は、実質的に「基板の片面」の意味である。 (2)引用例 ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-111708号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(後述の「イ 引用例1に記載された発明の認定」において発明の認定に直接関係する記載に下線を付した。) 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、背面光投射型(光透過型)のディスプレイや投影(映写)スクリーンに用いるレンズアレイシートに関する。 【0002】 【従来の技術】透過型の投影用スクリーンとしては、古くは擦りガラスに始まり、最近では、その明るさや観察領域を適切に保つ目的で、フレネルレンズやレンチキュラーレンズ(レンチキュラースクリーン)などの光学シートを単独あるいは組み合わせて使用したものがある。またレンチキュラーレンズの出射面などスクリーン本体の適切な位置に遮光部を配置することにより、S/N比などの光学特性を向上させる技術も公知である。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】透過型スクリーンにおいては、その光学特性を向上させるために、様々な機能を持つ光学シートを組み合わせる必要がある。ところが組み合わせる光学シートなどが増えることで、 1)海面反射増加に伴う全光線透過率の減少 2)乱反射の増加に伴うシンチレーションなどの光学ノイズの増加 が起こり、その結果としてスクリーンゲインの低下、S/N比の低下が生じ、スクリーンの性能を向上させるための工夫が、結果としてスクリーン性能の低下を招く要因となる場合があった。 【0004】本発明は、背面光投射型(光透過型)のディスプレイや投影(映写)スクリーンに用いるレンズシートにおいて、様々な機能を持つ光学シートを組み合わせることなく、その光学特性を向上させることができるようにすることにある。 【0005】 【課題を解決するための手段】本発明の請求項1に係る発明は、独立単体の集光レンズを互いに密接するように隣接させて多数配列して構成されたレンズアレイシート本体に、前記各々レンズの主なる光軸に対応する位置に透光部を有する遮光部を設けたことを特徴とするレンズアレイシートである。」 「【0012】 【発明の実施の形態】本発明のレンズアレイシートを、実施の形態にしたがって以下に詳細に説明する。 【0013】図1は、本発明のレンズアレイシートの実施の形態を示す斜視図であり、1は独立単体の集光レンズであり、個々の集光レンズ1は、互いに密接するように隣接させて多数配列することによりレンズアレイシートAが構成されている。 【0014】2はレンズアレイシートAの各集光レンズ1表面に入射する入射光(例えば、投影光)、3は各集光レンズ1の裏面から出射する出射光(例えば、観察光)、4はレンズアレイシートA(各集光レンズ1の集合体)の裏面側に相当するアレイシート裏面、10はそのアレイシート裏面4に形成された非金属製若しくは金属製、又は無機物質系若しくは有機物質系、又は非着色系若しくは着色系、又は非光吸収性乃至光吸収性の遮光部(遮光層)、11はそのアレイシート裏面4に各々集光レンズ1の主なる光軸に対応する位置に形成された透光部(透明層、非遮光層、穿設した透光孔)である。 【0015】レンズアレイシートAの表面(各集光レンズ1の凸状表面)に入射した入射光2は、各集光レンズ1表面の入射領域1aに入射した後、集光レンズ1によって屈折して、その光軸に基づいて集光し、アレイシート裏面4に形成された透光部11より出射光3として出射する。なお、各集光レンズ1とアレイシート裏面4とは、互いに一体のものでもよいし、別体であってもよい。 【0016】このように、個々の集光レンズ1から出射する位置に透光部11を持つ遮光部10(遮光層)を設けることにより、本来出射すべき光線のみを選択的に出射させ、且つノイズの原因となる外光を遮断することが可能となる。 【0017】図2(a)?(c)は、本発明のレンズアレイシートAの各種レンズ形状を説明する部分平面図であり、レンズアレイシートとして構成する各集光レンズ1のレンズ形状及びその配列を示すものである。 【0018】例えば、図2(a)に示すように、平面視で正三角形状の各集光レンズ1を配列したものでもよいし、図2(b)に示すように、平面視で矩形状(長方形状、正方形状)の各集光レンズ1を配列したものでもよいし、図2(c)に示すように、平面視で六角形状の各集光レンズ1を配列したものでもよい。 【0019】なお、本発明のレンズアレイシートAにおける各集光レンズ1の平面形状が、正三角形、正方形又はその他の四角形、六角形のいずれの場合であっても、その各集光レンズ1の側断面形状は、少なくともその表面の頂部及びその近傍において、集光性のある円若しくは楕円(球面若しくは非球面)の形状となっているものである。 【0020】このようにレンズアレイシートAの形状を用途に応じて適切に選択することによって、レンズアレイシートAに入射する入射光2である画像光(投影光)の画素密度、画素ピッチ、画像線数と、レンズアレイシートAの各集光レンズ1の形状や全体の配列密度に対応して、レンズアレイシートAの出射光3である画像光(観察光)のモアレの発生を低減化させることができる。 【0021】また本発明のレンズアレイシートAにおける各集光レンズ1の光線透過面は、例えばトーリック面など回転対称でない形状である非回転対称曲面であってもよいし、あるいはその他の任意曲面であってもよい。 【0022】図3は、シート状(フィルム状)のアレイシート裏面4上に多数の卵状(楕円面状)の集光レンズ1を密に隣接して配列したものであり、アレイシート裏面4には遮光部10と集光レンズ1の光軸に対応して透光部11とを設けたものである。このような形状としても、レンズの機能を損なわない様に遮光部10と透光部11とを配置することで、ノイズの少ないレンズアレイシートAが得られる。 【0023】本発明のレンズアレイシートA、又は集光レンズ1及びシート状アレイシート裏面4は、光学用透明樹脂で構成することにより、レンズあるいはプリズムとして機能する。この光学用透明樹脂には光学生産上、各種成形技術の応用し易い透明な合成樹脂シートが望ましい。 【0024】透明な合成樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル(ポリメチルメタアクリレート)等のアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル-スチレン共重合体樹脂、スチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等を挙げることができる。 【0025】本発明では、個々の集光レンズ1の形状を自在に決定することにより、光線の集光、発散、それらの方向の制御を行いつつ、適切に遮光部10(遮光層)を配置することにより、入射光2又は出射光3の中からノイズ光を遮光部により遮断して、信号光のみを選択的に取り出して透光部11を通過させて出射することが可能となる。 【0026】 【発明の効果】本発明のレンズアレイシートは、光学形状の自由度が高く、各集光レンズ形状を適切に選定することにより出射側の光画像に発生するモアレの低減が容易にできる効果がある。 【0027】また、本発明のレンズアレイシートは、その遮光部の面積比を、従来のレンチキュラーレンズ(レンチキュラースクリーン)を用いたレンズアレイシート等と比較して、より大きく取ることができ、特に、入射光以外の外部からの光線(外光)によるノイズ光を遮光部により確実に減らすノイズフィルター効果があり、また、レンズアレイシートの遮光部面積比を大きく取ることにより、特にレンズアレイシートの内部で発生する不規則な反射光線によるノイズ光を極力遮断したり吸収して、レンズアレイシートのS/N比を向上させる効果がある。 【0028】また、本発明のレンズアレイシートは、配列する集光レンズの形状として光学面形状にトーリック面など回転対称でない形状を適切に採用することにより、フレネルレンズのような機能を持たせることも可能となり、例えば背面投写型プロジェクター用のスクリーン等において必要であった従来のフレネルレンズシートとの組み合わせを省略できるなどの効果がある。」 【図1】及び【図3】には、本発明のレンズアレイシートの一実施の形態を説明する全体斜視図が記載されており、【図1】及び【図3】から、レンズアレイシートの集光レンズ1が2次元的に略マトリクス状に配列してなることが見て取れる。 イ 引用例1に記載された発明の認定 引用例1には、レンズアレイシートに関し、 「個々の集光レンズ1を、互いに密接するように隣接させて、2次元的に略マトリクス状に多数配列することによりレンズアレイシートAが構成され、 レンズアレイシートAの裏面4には、非金属製若しくは金属製、又は無機物質系若しくは有機物質系、又は非着色系若しくは着色系、又は非光吸収性乃至光吸収性の遮光部(遮光層)10が形成され、レンズアレイシートAの裏面4の各集光レンズ1の主なる光軸に対応する位置には透光部(透明層、非遮光層、穿設した透光孔)11が形成され、 各集光レンズ1の側断面形状は、少なくともその表面の頂部及びその近傍において、集光性のある楕円(非球面)の形状となっているものであり、 レンズアレイシートAの表面(各集光レンズ1の凸状表面)に入射した入射光2は、各集光レンズ1表面の入射領域1aに入射した後、集光レンズ1によって屈折して、その光軸に基づいて集光し、アレイシート裏面4に形成された透光部11より出射光3として出射し、 各集光レンズ1と、遮光部10が形成されたアレイシート裏面4とは、互いに別体であるレンズアレイシート。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 (3)本願補正発明と引用発明との対比 ア 対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「個々の集光レンズ1」が本願補正発明の「単位レンズ」に相当し、引用発明の「個々の集光レンズ1を、互いに密接するように隣接させて、2次元的に略マトリクス状に多数配列する」ものが本願補正発明の「単位レンズが2次元的に配列してなるマイクロレンズアレイ部」に相当し、引用発明の「個々の集光レンズ1を、互いに密接するように隣接させて、2次元的に略マトリクス状に多数配列する」ことにより構成された「レンズアレイシートA」が、本願補正発明の「単位レンズが2次元的に配列してなるマイクロレンズアレイ部を有するマイクロレンズシート」に相当する。 引用発明の「レンズアレイシートAの表面(各集光レンズ1の凸状表面)に入射した入射光2は、各集光レンズ1表面の入射領域1aに入射した後、集光レンズ1によって屈折して、その光軸に基づいて集光し、アレイシート裏面4に形成された透光部11より出射光3として出射」することと、本願補正発明の「個々の単位レンズによる光線射出角度の範囲が、マイクロレンズシート主平面への法線に対して±30°以上」であることとは、「個々の単位レンズによる光線射出角度の範囲が、マイクロレンズシート主平面への法線に対して特定の角度以上」となる点で一致する。 引用発明の「各集光レンズ1の側断面形状は、少なくともその表面の頂部及びその近傍において、集光性のある楕円(非球面)の形状となっているものである」ことと、本願補正発明の「個々の単位レンズにより生じる横球面収差の範囲を、レンズ径に対して、0%<横球面収差/レンズ径≦50%となるように設計されてなり、前記横球面収差の変動範囲を単位レンズ径の31%以下」であることとは、「個々の単位レンズは特定の構造を有する」ものである点で一致する。 引用発明の「レンズアレイシートAの裏面4」と本願補正発明の「反マイクロレンズアレイ部側となる基板の他面」は、ともに、「光が出射する側の面」である点で一致していることは明らかである。 また、引用発明の「各集光レンズ1と、遮光部10が形成されたアレイシート裏面4とは、互いに別体」であることと、本願補正発明の「反マイクロレンズアレイ部となる基板の他面に」遮光層が形成されることとは、「マイクロレンズアレイ部と遮光層とが別体に形成される」点で一致しているといえる。 よって、引用発明の「レンズアレイシートAの裏面4には、非金属製若しくは金属製、又は無機物質系若しくは有機物質系、又は非着色系若しくは着色系、又は非光吸収性乃至光吸収性の遮光部(遮光層)10が形成され、レンズアレイシートAの裏面4の各集光レンズ1の主なる光軸に対応する位置には透光部(透明層、非遮光層、穿設した透光孔)11が形成され」、「各集光レンズ1と、遮光部10が形成されたアレイシート裏面4とは、互いに別体で」あることと、本願補正発明の「反マイクロレンズアレイ部側となる基板の他面には、個々の単位レンズによる集光部にあたる箇所が開口部となる遮光層が形成された構成」であることとは、「光が出射する側の面には、個々の単位レンズによる集光部にあたる箇所が開口部となる遮光層が、マイクロレンズアレイ部とは別体に形成された構成」である点で一致する。 イ 一致点 よって、本願補正発明と引用発明は、 「単位レンズが2次元的に配列してなるマイクロレンズアレイ部を有するマイクロレンズシートにおいて、 個々の単位レンズによる光線射出角度の範囲が、マイクロレンズシート主平面への法線に対して特定の角度以上であり、 かつ、個々の単位レンズは特定の構造を有し、 光が出射する側の面には、個々の単位レンズによる集光部にあたる箇所が開口部となる遮光層が、マイクロレンズアレイ部とは別体に形成された構成であるマイクロレンズシート。」の発明である点で一致し、次の各点で相違する。 ウ 相違点 (ア)相違点1 本願補正発明においては、マイクロレンズアレイ部は基板の片面に、遮光層は反マイクロレンズ側となる基板の他面に形成されているのに対し、引用発明においては、そのような限定がなされていない点。 (イ)相違点2 個々の単位レンズ径およびその配列ピッチが、本願補正発明においては「200μm以下」であるのに対し、引用発明においては、そのような限定がなされていない点。 (ウ)相違点3 マイクロレンズシート主平面への法線に対する個々の単位レンズによる光線射出角度の範囲が、本願補正発明においては「±30°以上」であるのに対し、引用発明においては、そのような限定がなされていない点。 (エ)相違点4 個々の単位レンズは構造が、本願補正発明においては「個々の単位レンズにより生じる横球面収差の範囲を、レンズ径に対して、0%<横球面収差/レンズ径≦50%となるように設計されてなり、前記横球面収差の変動範囲を単位レンズ径の31%以下」となるような構造であるのに対して、引用発明においては「卵状(楕円面状)」の形状を有する構造である点。 (オ)相違点5 遮光層について、本願補正発明は「遮光層が、マイクロレンズアレイ部の全面積に対して90%以上の面積で形成されて」なるのに対して、引用発明においては、そのような限定がなされていない点。 (4)当審の判断 ア 上記各相違点について検討する。 (ア)相違点1について マイクロレンズアレイ部と遮光層を有するマイクレンズシートにおいて、マイクロレンズアレイ部は基板の片面に、遮光層は反マイクロレンズ側となる基板の他面に形成されるものとすることは、周知の技術である。(例えば、特開2001-201611号公報(光透過性部材1a、1b、1cが「基板」に相当)参照。) 引用発明においても、上記周知技術を適用し、マイクロレンズアレイ部は基板の片面に、遮光層は反マイクロレンズ側となる基板の他面に形成されるものとして上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。 (イ)相違点2について 高画質とする観点から、マイクロレンズアレイ部の単位レンズのレンズ径及び配列ピッチを適宜選択することは当業者の当然の配慮事項である。したがって、引用発明において、「個々の単位レンズ径およびその配列ピッチは200μm以下」であるとして、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者が適宜なし得たことである。 (ウ)相違点3について マイクロレンズシートにおいて視野角を拡げて(拡大して)表示することは周知の課題である。 したがって、引用発明においても、マイクロレンズシート(レンズアレイシート)により視野角を拡げるために、マイクロレンズシート主平面への法線に対する個々の単位レンズによる光線射出角度の範囲について、「±30°以上」として、上記相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。 (エ)相違点4及び5について 引用例1の【0027】段落に「レンズアレイシートの遮光部面積比を大きく取ることにより、特にレンズアレイシートの内部で発生する不規則な反射光線によるノイズ光を極力遮断したり吸収して、レンズアレイシートのS/N比を向上させる効果がある。」と記載されていることから、引用発明において、遮光層の遮光部面積比を大きくすることは、引用発明において、想定されていた技術課題であるといえる。 そして、遮光層の遮光部面積比を、具体的にどの程度に大きくするかは、当業者が必要に応じて適宜設定し得ることであり、「遮光層が、マイクロレンズアレイ部の全面積に対して90%以上の面積で形成されて」なるとすることは当業者が容易に想到し得たことである。 また、開口部を狭くすると、透過光を小さなスポットに集光する必要があるから、収差をできる限り小さくすべきことは当業者には自明である。そして、レンズの形状に関して、回転楕円面を用いて(特定の条件を満たすようにして)無収差レンズを形成することができることは周知の技術事項である。 したがって、引用発明の集光レンズにおいても、S/N比向上のため遮光部の面積比を大きくすることに合わせてレンズの収差を低減するために、上記の周知の技術的事項を適用し、その構造(形状及び屈折率)を無収差レンズとなる構造とすることは当業者が容易に想到し得たことである。 イ 本願補正発明の奏する作用効果 そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明上記の周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。 ウ まとめ 以上のとおり、本願補正発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 3 むすび したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成20年10月10日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年6月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成20年10月10日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」の記載参照。) 2 引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成20年10月10日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(2)引用例」に記載したとおりである。 3 対比・判断 上記「第2 平成20年10月10日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」に記載したように、本願発明に対して、(2)ないし(4)の補正事項によって限定して特定したものが本願補正発明である。 そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、本願発明をさらに限定して特定したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 平成20年10月10日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(3)本願補正発明と引用発明との対比」及び「(4)当審の判断」において記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 むすび 以上のとおり、本願の請求項2に係る発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-05-19 |
結審通知日 | 2010-05-25 |
審決日 | 2010-06-08 |
出願番号 | 特願2002-102169(P2002-102169) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 森口 良子、後藤 慎平 |
特許庁審判長 |
北川 清伸 |
特許庁審判官 |
森林 克郎 岡田 吉美 |
発明の名称 | マイクロレンズシートおよびそれを用いた映写スクリーン並びにディスプレイ |