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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02D
管理番号 1220629
審判番号 不服2008-25330  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-02 
確定日 2010-07-22 
事件の表示 特願2005-243113「燃料供給装置の異常判定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月 8日出願公開、特開2007- 56767〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本願は、平成17年8月24日の出願であって、平成20年5月27日付けで拒絶理由が通知され、平成20年7月15日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成20年8月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年10月2日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成20年10月3日付けで明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において平成21年9月24日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成21年11月26日付けで回答書が提出され、平成22年2月2日付けの補正の却下の決定により平成20年10月3日付けの手続補正書による明細書及び特許請求の範囲の手続補正が却下され、平成22年2月17日付けで拒絶理由が通知され、平成22年4月22日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成22年4月22日付けの手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに願書に最初に添付された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。

「【請求項1】
内燃機関の気筒内に燃料を供給する燃料供給装置の異常判定装置であって、
前記内燃機関のクランクシャフトの角速度を検出する角速度検出手段と、
当該検出された角速度に応じて、前記燃料供給装置から前記気筒内に供給された燃料の燃焼が実際に発生した時期を実燃焼時期として算出する実燃焼時期算出手段と、
前記内燃機関の回転数を検出する回転数検出手段と、
前記内燃機関の要求トルクを検出する要求トルク検出手段と、
前記検出された内燃機関の回転数および要求トルクに応じて、前記燃料供給装置から前記気筒内に供給された燃料の燃焼が発生すると推定される時期を、推定燃焼時期として算出する推定燃焼時期算出手段と、
前記算出された実燃焼時期と推定燃焼時期の比較結果に基づいて、当該燃料供給装置の異常を判定する異常判定手段と、
を備えることを特徴とする燃料供給装置の異常判定装置。」(以下、「本願発明」という。)


2.引用文献記載の発明
2.-1 引用文献1記載の発明
平成22年4月22日付けで当審において通知した拒絶理由で引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開平11-82121号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

a.「【0010】
【発明の実施の形態】図1において4気筒のディーゼル機関を概略的に示しており、燃料タンク1の燃料は燃料ポンプ2によって吸い上げられ、高圧ポンプ3によりコモンレール4、に高圧燃料を送り、各気筒の燃料通路5を介して各気筒のインジェクタ20に供給される。」(段落【0010】)

b.「【0011】…(中略)…グロープラグ22はその本来の機能はディーゼル機関の始動時の着火促進のため設けられるものであるが、この発明では機関の作動中において燃焼により生ずるイオン電流より着火時期及び燃焼期間を検出するための電極としても機能させている。…(中略)…
【0012】次にグロープラグの電極によりイオン電流を検出し着火時期・燃焼期間を検出する方式について説明する。着火時期及び燃焼期間の計測のためのセンサとして、燃焼室に設置された電極より構成され、この電極に電圧を印加することにより、燃焼により発生したイオンに流れる電流を電極より取り出し、この電流値より着火時期及び燃焼期間等を検出するもの自体は公知である。図3によってこの方式による計測を説明すると、(イ) はクランク角度に対するイオン電流の変化を示しており、通常はイオン電流は流れないが燃焼室へ噴射された燃料の着火によってイオン電流は立ち上がり、燃焼の完了によってイオン電流は低下する。そして、イオン電流が閾値I_(TH)に達したときをもって燃料が着火されたと判断し、このときのクランク角度T_(r) を着火時期とすることができる。」(段落【0011】及び【0012】)

c.「【0015】…(中略)…従って、カウンタの値C1より基準クランク角度位置からイオン電流検出回路28が検出する電流値が設定値I_(TH)に達したときの時間を知ることができ、これより燃料の着火が発生したときのタイミングを把握することができる。
【0016】…(中略)…ステップ106で電流値が設定値I_(TH)まで下がったと判断されるときは、燃焼室18での噴射燃料の燃焼が完了したと判断され、ステップ108に進み、そのときのカウンタの値がC2に格納される。カウンタは前述の通り基準のクランク角度位置からのクロックパルスによって表わされ、カウンタの値がC2より基準クランク角度位置からイオン電流検出回路28が検出する電流値が設定値I_(TH)に降下する(燃焼終了)までの時間を知ることができる。
【0017】ステップ110ではカウンタ値C2-C1が演算される。C2-C1は着火から燃焼の完了までの時間、即ち、燃焼期間に相当する。…(中略)…
【0018】ステップ114で所定の回数の積算が行なわれたと判定されたときはステップ116に進み噴射時期、噴射期間の補正が実行される。噴射時期及び噴射期間の補正の方法としては着火時期及び燃焼期間が設定値となるようにフィードバック制御が行われる。即ち、計測値C1及びC2-C1より把握される着火時期及び燃焼期間がその運転状態(アイドル運転)のための設定着火時期及び燃焼期間と比較され、計測値が設定値に一致するようにフィードバック制御が行なわれることになる。」(段落【0015】ないし【0018】)

d.「【0022】次に、この発明を内燃機関の異常動作の検出に応用する場合について説明する。即ち、燃料インジェクタのスティック等により内燃機関の複数の気筒のうち1気筒又は複数気筒の燃料噴射が行われなかったり、逆に燃料インジェクタが開き放しとなり、出力不足や振動あるいはオーバーランを起こす場合がある。このような場合においてもイオン電流を検出することで異常の判別を行うことができる。即ち、スティックによってインジェクタからの噴射が行われなくなるとイオン電流が全く発生せず、またインジェクタが開き放しとなると着火時期あるいは燃焼期間がインジェクタへの噴射指令値に対して大きく異なった値となるためイオン電流によってこれらの異常の判別を行うことができる。
【0023】図8,9はこのような異常動作の検出のためのフローチャートを示している。ステップ200では設定した時間内(例えば、上死点からクランク角度で30°相当の時間内)にイオン電流値が所定値より大きいか否か即ちイオン電流の立上がりがあったか否か判定される。即ち、通常は上死点付近で燃焼が起こることから、設定時間内にイオン電流の立ち上がりがなければ無噴射の可能性が高いとみなすことができる。ステップ200で所定のクランク角度期間においてイオン電流値が所定値より小さいとの判断のときはステップ202に進み、イオン電流値が所定値より小さい状態が設定回数nにおいて継続したか否か判定する。イオン電流値が所定値より小さい状態がn回継続した場合はステップ204において無噴射との判定結果を書き込み、ステップ206では無噴射時における必要な診断処理、例えば、警報の発生や機関の強制停止等の処理を実行する。
【0024】ステップ200で所定クランク角度範囲においてイオン電流値が設定値を超えたとの判定(即ちイオン電流の立ち上がりがあったとの判定)のときはステップ208に進み、そのときのカウンタ値(着火時期)をC1に格納する。ステップ210ではカウンタ値C1が正規の着火時期に相当するカウンタ値である設定値より小さいか否か、即ち、イオン信号の立ち上がりが通常より相当前に起こったか否か判定する。ステップ210でカウンタ値C1<設定値との判定のときはステップ212に進み、カウンタ値C1<設定値の判断がn回継続したか否か判定する。ステップ212でC1<設定値のときはインジェクタ開き放しとなり燃料噴射が続いているとみなすことができ、ステップ214ではこの判定結果の書き込みを行い、ステップ216ではインジェクタが噴射し放しの状態時における必要な診断処理、例えば、警報の発生や機関の強制停止等の処理を実行する。」(段落【0022】ないし【0024】)

上記a.ないしd.から、次のことが分かる。

e.上記a.から、内燃機関の気筒内に燃料を供給する燃料供給装置があることが分かる。

上記a.ないしe.から、引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる。
「内燃機関の気筒内に燃料を供給する燃料供給装置の異常判定装置であって、
燃焼により生ずるイオン電流を検出する手段と、
当該検出されたイオン電流に応じて、燃料供給装置から気筒内に供給された燃料の着火が実際に発生した時期を着火時期として算出する着火時期算出手段と、
正規の着火時期を、設定値として求める手段と、
算出された着火時期と求められた設定値との比較結果に基づいて、燃料供給装置の異常を判定する異常判定手段と、
を備える、燃料供給装置の異常判定装置。」(以下、「引用文献1記載の発明」という。)

2.-2 引用文献2記載の発明
平成22年4月22日付けで当審において通知した拒絶理由で引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2005-163633号公報(平成17年6月23日公開、以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

a.「【請求項1】…(中略)…前記燃料噴射量算出手段は、
前記機関の運転状態に応じて基本燃料噴射量を算出する基本燃料噴射量算出手段と、
前記運転モード毎に前記筒内圧検出手段により検出された筒内圧に基づいて、最適燃料噴射量を算出する最適燃料噴射量算出手段と、
前記基本燃料噴射量と最適燃料噴射量の偏差を、前記運転モード毎に学習する学習手段と、
前記基本燃料噴射量を前記学習手段による学習値に応じて補正する補正手段とを有することを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

b.「【0021】
図3は、図2のTIFE演算部22の構成を示すブロック図であり、TIFE演算部22は、実着火時期算出部41と、TMGFE演算部42と、減算部43と、TIFE算出部44とを備えている。
実着火時期算出部41は、検出筒内圧PCYLに基づいて、実着火時期、すなわち燃焼室内に噴射した燃料が実際に着火した時期TMGACTを算出する。TMGFE演算部42は、エンジン回転数NE及び要求トルクTRQに応じて、TMGFEマップを検索し、燃費最適化着火時期TMGFEを算出する。TMGFEマップは、エンジン回転数NE及び要求トルクTRQに応じて、平均的なエンジン特性や燃料性状に対応する、燃費を最適化する燃費最適化着火時期TMGFEが設定されている。
【0022】
減算部43は、燃費最適化着火時期TMGFEから実着火時期TMGACTを減算することにより、着火時期偏差DTMGFEを算出する。TIFE算出部44は、着火時期偏差DTMGFEに応じて、TIFEテーブルを検索し、燃費最適化燃料噴射量TIFEを算出する。」(段落【0021】及び【0022】)

上記a.及びb.から、引用文献2には、次の発明が記載されていると認められる。
「エンジン回転数及び要求トルクに基づいて燃費最適化着火時期を算出する燃料噴射制御装置。」(以下、「引用文献2記載の発明」という。)

2.-3 引用文献3記載の発明
平成22年4月22日付けで当審において通知した拒絶理由で引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2001-289092号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

a.「【0105】実着火時期の検出手段の例としては、点火プラグのイオン電流の増加する時期や、筒内圧力検知手段による筒内圧力の上昇開始する時期、あるいは、クランク角度の角速度の微分値が増加する時期により実着火時期を検出する手段がある。」(段落【0105】)

上記a.から、次のことが分かる。

b.クランク角度の角速度の微分値が増加する時期により実着火時期を検出することから、内燃機関のクランクシャフトの角速度を検出するための手段が備えられていることは明らかである。

c.実着火時期検出手段として、イオン電流を用いるものとクランク角度の角速度を用いるものとがあることが分かる。

上記a.ないしc.から、引用文献3には、次の発明が記載されていると認められる。
「内燃機関のクランクシャフトの角速度を検出するための手段と、クランク角度の角速度の微分値が増加する時期により実着火時期を検出する実着火時期検出手段とを備えた内燃機関。」(以下、「引用文献3記載の発明」という。)


3.対比
(1)「燃焼時期」と「着火時期」について
最初に、本願発明において「実燃焼時期」及び「推定燃焼時期」として記載される「燃焼時期」と、引用文献1ないし3記載の発明における「着火時期」とについて検討する。
本願の発明の詳細な説明には、段落【0025】において「…(前略)…クランクシャフト3dの角速度ωを算出する(ステップ22)とともに、角速度ωを記憶する(ステップ23)。次いで、記憶した複数の角速度ωの推移から、実燃焼時期TICOMACTを算出する(ステップ24)。具体的には、角速度ωが一時的に大きく上昇した時期を実燃焼時期TICOMACTとして算出する。これは、前述したように、燃料が燃焼すると、気筒3a内の圧力が急激に上昇し、それに伴って、クランクシャフト3dの角速度ωは一時的に大きく上昇した後、下降するためである。」と記載されている。
一方、引用文献3には、上記2.-3で示したように、クランク角度の角速度の微分値が増加する時期により実着火時期を検出することが記載されている。
ここで、燃焼によるクランクシャフトの動きからみて、本願の「角速度ωが一時的に大きく上昇した時期」と、引用文献3の「角速度の微分値が増加する時期」とは実質的に同じ時期であると判断できるので、本件補正発明における「実燃焼時期算出手段」は引用文献3記載の発明における「実着火時期検出手段」と同じである。
また、引用文献1には、上記2.-1のa.において、内燃機関としてディーゼル機関が例示されており、b.において、イオン電流検出回路28が検出する電流値が設定値に達した時点C1を燃料の着火が発生したときと判断し、電流値が設定値に降下した時点C2を燃焼が終了したときと判断し、C2-C1を「着火から燃焼の完了までの時間、即ち、燃焼期間」と判断することが記載されている。ディーゼル機関では、シリンダ内部が高温高圧となって燃料の着火が発生した瞬間から燃焼が開始すること、及び、着火から燃焼の完了までの時間を燃焼期間と判断していることを考慮すると、引用文献1記載の発明では、「着火時期」を燃焼が開始する時期(すなわち、本願発明の「燃焼時期」)として扱っていると認められる。
そして、引用文献1ないし3記載の発明では、それぞれ「着火時期」の用語が用いられているところ、これらの技術意義は同じであると考えられることから、引用文献1ないし3記載の発明における「着火時期」は、本願発明における「燃焼時期」に相当すると言える。

(2)本願発明と引用文献1記載の発明
次に、本願発明と引用文献1記載の発明とを対比する。
引用文献1記載の発明における「着火時期」は、上記(1)を踏まえると、本願発明における「実燃焼時期」に相当する。また、引用文献1記載の発明における「燃料の着火」は本願発明における「燃料の燃焼」に相当し、以下同様に、「着火時期算出手段」は「実燃焼時期算出手段」に、「正規の着火時期」は「前記燃料供給装置から前記気筒内に供給された燃料の燃焼が発生すると推定される時期」に、「設定値」は「推定燃焼時期」に、それぞれ相当する。
さらに、引用文献1記載の発明における「正規の着火時期を、設定値として求める手段」は、本願発明における「前記検出された内燃機関の回転数および要求トルクに応じて、前記燃料供給装置から前記気筒内に供給された燃料の燃焼が発生すると推定される時期を、推定燃焼時期として算出する推定燃焼時期算出手段」に、「前記燃料供給装置から前記気筒内に供給された燃料の燃焼が発生すると推定される時期を、推定燃焼時期として求める手段」という限りにおいて相当する。

よって、本願発明と引用文献1記載の発明とは、
「内燃機関の気筒内に燃料を供給する燃料供給装置の異常判定装置であって、
燃料供給装置から気筒内に供給された燃料の燃焼が実際に発生した時期を実燃焼時期として算出する実燃焼時期算出手段と、
燃料供給装置から気筒内に供給された燃料の燃焼が発生すると推定される時期を、推定燃焼時期として求める手段と、
算出された実燃焼時期と求められた推定燃焼時期の比較結果に基づいて、燃料供給装置の異常を判定する異常判定手段と、
を備える、燃料供給装置の異常判定装置。」
の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1
本願発明では、「前記内燃機関のクランクシャフトの角速度を検出する角速度検出手段」を備え、「当該検出された角速度に応じて」「実燃焼時期」を算出するのに対し、引用文献1記載の発明では、「燃焼により生ずるイオン電流」に基づいて本願発明の「実燃焼時期」に相当する「着火時期」を算出する点(以下、「相違点1」という。)。

相違点2
「前記燃料供給装置から前記気筒内に供給された燃料の燃焼が発生すると推定される時期を、推定燃焼時期として求める手段」が、本願発明では、「前記内燃機関の回転数を検出する回転数検出手段」及び「前記内燃機関の要求トルクを検出する要求トルク検出手段」を備え、「前記検出された内燃機関の回転数および要求トルクに応じて」「推定燃焼時期」を算出するものであるのに対し、引用文献1記載の発明では、本願発明における「推定燃焼時期」に相当する「正規の着火時期」である設定値をどのようにして求めるのかが不明である点(以下、「相違点2」という。)。

4.判断
(1)相違点1について検討する。
引用文献3記載の発明における「実着火時期」は、上記3.(1)を踏まえると、本願発明における「実燃焼時期」に相当することから、引用文献3記載の発明における「内燃機関のクランクシャフトの角速度を検出するための手段と、クランク角度の角速度の微分値が増加する時期により実着火時期を検出する実着火時期検出手段」は、本願発明における「前記内燃機関のクランクシャフトの角速度を検出する角速度検出手段と、当該検出された角速度に応じて、前記燃料供給装置から前記気筒内に供給された燃料の燃焼が実際に発生した時期を実燃焼時期として算出する実燃焼時期算出手段」に相当する。
また、上記2.-3のc.のとおり、実着火時期検出手段として、イオン電流を用いるものとクランク角度の角速度を用いるものとが同等に例示されていることから、引用文献1記載の発明において、引用文献3記載の発明を適用し、「燃焼により生ずるイオン電流」に基づいて実燃焼時期を算出する構成に代えて、「クランク角度の角速度の微分値が増加する時期により実燃焼時期を検出する」構成を採用し、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである。

(2)相違点2について検討する。
引用文献2において、上記2.-2のb.に記載された「実着火時期」や「燃費最適化着火時期」等の「着火時期」は、上記3.(1)を踏まえると、本願発明における「燃焼時期」に相当する概念である。
また、引用文献2記載の発明における「燃費最適化着火時期」は、上記2.-2のb.に記載されているように、平均的なエンジン特性や燃料性状に対応した、燃費を最適化するために理想的な着火時期である。着火時期は、燃料の供給タイミングや供給量にも依存するが、これらが適切に制御されているときには、エンジン回転数及び要求トルク等のエンジンの運転状態によって定まることが知られている(必要ならば、本願の段落【0009】の「ディーゼルエンジンなどの圧縮着火式内燃機関では、燃焼時期は、燃料供給装置による燃料の供給タイミングや供給量などに依存するとともに、内燃機関の運転状態に応じておおよそ定まるので、内燃機関の運転状態から高い精度で推定することができる。このため、燃料供給装置による燃料の供給タイミングや供給量に異常がなければ、クランクシャフトの角速度に応じて算出された実燃焼時期は、内燃機関の運転状態に応じて算出された推定燃焼時期とほぼ一致するはずである。」を参照。)ので、引用文献2記載の発明でも、燃料噴射量が理想的な噴射量であれば、算出された燃費最適化着火時期に着火すると言える。よって、引用文献2記載の発明における「燃費最適化着火時期」は、本願発明における「前記燃料供給装置から前記気筒内に供給された燃料の燃焼が発生すると推定される時期」である「推定燃焼時期」や、引用文献1記載の発明における「正規の着火時期」と類似した概念である。
ここで、着火時期はエンジン回転数や要求トルク等の条件に応じて変化するので、これらの条件を考慮して正確な着火時期を算出した方が、異常判定を正確に行うことができることは、当業者にとって明らかである。
したがって、引用文献1記載の発明において、異常判定を正確に行うために、正規の着火時期である設定値を、「エンジン回転数及び要求トルクに基づいて燃費最適化着火時期を算出する」という引用文献2記載の発明を用いて算出することとし、「前記検出された内燃機関の回転数および要求トルクに応じて、前記燃料供給装置から前記気筒内に供給された燃料の燃焼が発生すると推定される時期を、推定燃焼時期として算出する推定燃焼時期算出手段」を設けることによって相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである。

なお、平成22年4月22日付け意見書において請求人は、本願発明の「推定燃焼時期」と引用文献2記載の発明の「燃費最適化着火時期」とは異なると主張し、その根拠として、本願発明の「推定燃焼時期」は、「内燃機関の回転数および要求トルクに応じて燃焼時期がほぼ一義的に定まるという技術的観点」に基づいたものであり、「そのときの内燃機関の回転数および要求トルクに応じて実際に得られるであろう燃焼時期」であるのに対し、引用文献2記載の発明の「燃費最適化着火時期」は「ある望ましい結果を実現するために得ようとする着火時期、すなわち着火時期の目標値」であり「推定値」ではなく、「燃費最適化着火時期が目標値であるため、燃料供給装置が正常であっても、実着火時期が燃費最適化着火時期に一致するとは限らず、むしろ一致しない場合も多く、一致しない場合の両者の乖離度合いもまちまちである。このことは、引用文献2において、両者の差に応じて燃料噴射量を制御することからも明らかである。」、及び「引用文献2の燃費最適化着火時期は、燃料供給装置が正常である場合に、そのときの内燃機関の回転数と要求トルクに応じて実際に得られるであろう着火時期を示すものではなく、本願発明の推定燃焼時期に相当しないことは明らかである」等の主張を行っている。
しかしながら、本願発明も、燃料噴射量を含むパラメータが適切な制御量であることを前提に、内燃機関の回転数及び要求トルクから求めた「推定燃焼時期」に燃焼することが期待できるもの(本願の上記段落【0009】を参照。)であり、燃料噴射量等が適切でない場合には、回転数及び要求トルクから求められた「推定燃焼時期」は実際の燃焼時期とずれる(本願の段落【0004】及び【0032】を参照。)ことから、請求人が引用文献2について主張する「実着火時期が燃費最適化着火時期に一致するとは限らず、むしろ一致しない場合も多く、一致しない場合の両者の乖離度合いもまちまちである」という性質は、本願発明の「推定燃焼時期」についても該当するものであると言える。このように、引用文献2記載の発明の「燃料最適化着火時期」は、本願発明における「推定燃焼時期」と共通した性質を備える。
また、エンジン回転数及び要求トルクに基づいて目標着火時期を算出し、実着火時期が目標着火時期となるように制御を行うことは周知技術(必要ならば、特開昭58-192935号公報、特開平10-252542号公報の段落【0063】を参照。)であり、引用文献2記載の発明もこの周知技術の一種であるところ、本願の上記段落【0009】等の記載からみて、本願発明の「推定燃焼時期」と該周知の「目標着火時期」とは、同等の性質を備えたものであると言える。
以上の事項からみて、本願発明の「推定燃焼時期」と引用文献2記載の発明の「燃費最適化着火時期」とに格別の差異はないものであって、請求人の主張は失当であると言うこともでき、そして、その場合にも、引用文献1記載の発明において、引用文献2記載の発明を適用することにより、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである。

(3)そして、本願発明を全体としてみても、本願発明の奏する効果は、引用文献1ないし3記載の発明から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。
よって、本願発明は、引用文献1ないし3記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


5.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-24 
結審通知日 2010-05-25 
審決日 2010-06-07 
出願番号 特願2005-243113(P2005-243113)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 寺川 ゆりか畔津 圭介  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 加藤 友也
西山 真二
発明の名称 燃料供給装置の異常判定装置  
代理人 高橋 友雄  

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