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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1220661
審判番号 不服2007-24845  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-10 
確定日 2010-07-06 
事件の表示 平成10年特許願第538818号「組織を結合するための電熱デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 9月11日国際公開、WO98/38935、平成13年 9月11日国内公表、特表2001-514541号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年3月5日(パリ条約による優先権主張1997年3月5日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成18年9月28日付け拒絶理由通知に対し、平成19年4月11日に明細書についての手続補正がなされたが、平成19年6月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年10月10日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

2.本願補正発明
本件出願の各請求項に係る発明は、平成19年10月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至11に記載された事項により特定されるものにあると認められるところ、請求項1には、つぎのとおり記載されている。
「【請求項1】
組織を結合するためのデバイスにおいて、
(a)遠位端および近位端を有する細長い部材(14)、
(b)組織の複数のセクションを保持するための、二つの対向して位置されている上側および下側ジョー部材(10、12)、ここで、各ジョー部材は遠位端および近位端を有しかつ作業表面を有し、該ジョー部材は上記細長い部材の遠位端に位置されかつそれらのそれぞれの近位端において可動的に互いに対し取り付けられている、
(c)少なくとも1のジョー部材の作業表面の内にまたは該表面の上に位置されている加熱要素(26)、および
(d)圧力を発生するための、上記上側および下側ジョー部材と結びついた圧力手段、を含み、ここで、該加熱要素が、その中を電流が通過するところの電気的抵抗ワイヤならびに電気的抵抗物質の薄膜およびコーティングの少なくとも1であり、そして組織のセクションが互いに結合されるところのデバイス。」(以下、この発明を「本願補正発明」という。)

3.引用文献
原査定の拒絶の理由には、特開平7-171163号公報、特開昭62-127040号公報が引用されており、これらは本願優先日前に頒布された刊行物であり、以下の記載がある。

3-1.特開平7-171163号公報
特開平7-171163号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

記載(1)
「【請求項2】 ハンドル、
前記ハンドルに連結する作動手段、
前記作動手段の遠位端に連結する末端効果器、
電気エネルギーを二極エネルギー源から前記末端効果器に伝える伝達手段からなり、
前記末端効果器は、
第一のインターフェイス面、
第二のインターフェイス面、
前記インターフェイス面の少なくとも一つの面にある第一のポール、
前記インターフェイス面の少なくとも一つの面にある第二のポール、及び前記第一のポールを前記第二のポールから電気的に分離させる絶縁体、からなり、
前記作動手段は前記末端効果器を作動させ、組織を前記第一のインターフェイス面と前記第二のインターフェイス面の間に係合させ、
前記第一のポールと前記第二のポールは、前記伝達手段から供給される電気エネルギーを、前記第一のポールと前記第二のポールに隣接する組織を通って伝えることができる電気的に相反する電極である、外科用電気装置。」(【特許請求の範囲】)

記載(2)
「【産業上の利用分野】この発明は、外科処置、特に内視鏡処置において、焼灼,凝固及び/又は組織溶接に用いる外科用電気装置に関するものである。」(【0001】)

記載(3)
「従って、成功の度合いは様々であるが、出血制御のために種々の技術が用いられてきた。例えば、単極,二極電気焼灼器等の発熱技術の他、縫合、血管でのクリップの使用,ステープルがある。組織結合,修復や損傷閉塞においても進歩したためかつては危険で不可能であった外科処置が可能となった。」(【0003】)

記載(4)
「この発明は…、肉質組織,管組織面,高い,低い又はその組合せのインピーダンスを有する組織等の種々の種類と厚さの組織において、効果的に止血できる外科用電気止血装置を提供することを目的とする。ここで「止血」は、凝固,焼灼及び/又は組織結合又は溶接等によって、一般に出血を止めることを、意味する。」(【0011】)

記載(5)
「本発明の他の目的は、従来の装置よりも、比較的広い組織の面積または線を同時に焼灼又は溶接できる二極止血装置を提供することである。本発明の他の目的は、長形又は棒状電極を有する二極電気焼灼器を提供することである。」(【0012】)

記載(6)
「【実施例】以下、本発明を添付の図面と共に詳細に説明する。図1?9に本発明の好ましい一実施例を示す。図1及び図2に示すように、内視鏡電気焼灼線状切開ステープル器具10は、軸30に結合した本体16及び軸30の遠位端21から延びる効果器50を有する。軸30は中に延びている管を有する。軸30は絶縁物質から形成され、管に延びている導電性鞘38を有する。…」(【0030】)

記載(7)
「末端効果器50は2つの顎32,34からなる。末端効果器50は顎34によって溝39に固定される。顎32は顎34に運動可能に取り付けられる。本体16は、顎32,34を閉じるための掴み引金12を有し、引金12は鞘38の近位端に連結している閉じ台45を長手方向に進める。閉じ台45は鞘38を軸30内で同軸的に進める。鞘38は顎32のカム面27の上を進み、顎32,34は顎間にある組織上で閉じる。以下に詳細に述べるように、閉じ台45はまたスイッチとして作用し、電気エネルギーを末端効果器50に伝える回路を閉じる。」(【0031】)

記載(8)
「図3?9に拡大された末端効果器50を示す。…図6に示すように、顎32は、アンビル18,顎32に対して長手方向に延びるU形第一のポール52(図7,9)及び第一のポール52の外側を囲むU形絶縁物質55からなる。顎32の内面33は、顎34の内面35に面する。内面33は、2つの電気的に繋がる電極バー53,54からなり、大体内面33の長さに添って延びている第一のポール52を含み、電極バー53,54はアルミニウムから形成される。電極バー53,54は第一のポールの中央を長手方向に延びているナイフ溝42により離され、U形を形成する。バーの表面は平らな片状であり組織に接する表面の面積を増やしている。ステープル端を受けるアンビル18上の2組のポケット36,37は、内面33に添って、バー53,54の外側の横に延びている。電極バー53,54と絶縁物質55は、内面33のアンビル部33aに対して外へ延びている隆起56を形成する。アンビル18は導電性物質で形成され第一のポールと電気的に反対の第二のポールとして機能する。アンビル18は第一のポール52とU形絶縁物質55によって分離されている。」(【0032】)

記載(9)
「操作では、末端効果器50を組織の切られる部位に配置する。解放ボタン70を押すと、ボタンスプリング71が解放され閉じ台45が近位方向に動き、顎32,34が開く。その後、組織を顎32,34の夫々のインターフェイス内面33,35の間に置く(図3)。掴み引金12を握り締め、鞘38をカム面27上に動かし、顎32,34が閉じ(図4)、同時に上記の電気回路が閉じる。…その後、使用者は、足踏スイッチ65等のスイッチによって、発電機60から無線周波エネルギーをかける。電流が、圧縮された組織を通って、第一のポール52即ちバー53,54と第二のポール51即ちアンビル18の間に流れる。」(【0040】)

記載(4)より、引用文献1に記載されたものは、止血のための外科用電気止血装置であって、「『止血』は、凝固,焼灼及び/又は組織結合又は溶接等によって、一般に出血を止めること」(記載事項A)である。

記載(6)、図1より、外科用電気装置は、遠位端21および近位端を有する軸30により、軸30の遠位端21から延びる効果器50を有している。

記載(7)、図3?図6より、効果器50は2つの顎32,34を有し、それらは対向して位置している2つの上側の顎32、下側の顎34といえる。上側の顎32、下側の顎34の各顎は遠位端および近位端を有し、組織の複数の箇所を保持し、結合する作業表面を有しており、上側の顎32、下側の顎34はそれらの近位端において可動的に互いに対し取り付けられている。また、2つの顎32,34は軸30の遠位端に位置しているともいえる。

記載(8)、(9)、図6より、上側の顎32の下面平面には、電極バー53,54からなる第一のポール52とアンビル18からなる第二のポールとがあり、その第一のポール52と第二のポールとの間に電流が流れて、組織が止血されることが記載されている。よって、上側の顎32の下面平面には、2つの電極を有していることが記載されている。

記載(7)、(9)より、掴み引金12は上側の顎32,下側の顎34と連繋しており、掴み引金12を握り締めることにより、鞘38を動かし、上側の顎32、下側の顎34が閉じて、止血させる組織を圧縮することができるといえる。

上記のことから、引用文献1には
「組織を止血するための外科用電気装置において
遠位端および近位端を有する軸30、
組織の複数の箇所を保持するための、2つの対向して位置している上側の顎32および下側の顎34、各顎は遠位端および近位端を有しかつ作業表面を有し、顎は軸30の遠位端に位置しかつ顎のそれぞれの近位端において可動的に互いに対し取り付けられている、
上側の顎32の下面平面に位置している2つの電極、および
圧縮するための、上側の顎32および下側の顎34と連繋している掴み引金12を有し、
そして、組織の箇所が互いに止血される外科用電気装置」
が記載されている。(以下、「引用発明」という。)

3-2.特開昭62-127040号公報
特開昭62-127040号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

記載(10)
「(1)先端に複数の鉗子部材が開閉自在に設けられ、該鉗子部材の開閉を操作する操作部が設けられた把持鉗子において、前記鉗子部材の少なくとも一部が電気的手段により発熱する定温発熱素子としての正特性サーミスタにて形成されたことを特徴とする把持鉗子。」
(【特許請求の範囲】)

記載(11)
「[産業上の利用分野]
本発明は、生体組織の出血部あるいは卵管、輸精管等を把持しながら凝固し、止血あるいは結紮等の処置を行うことのできる把持鉗子に関する。」(1頁左下欄15?18行)

記載(12)
「把持鉗子1は、先端部である鉗子部2において、2つの鉗子部材3.4が設けられており、この鉗子部材3.4はピン5によりスリーブ6に軸支され、先端が開閉可能になっている。鉗子部材3.4の他端はピン7.8によりリンク板9.10の一端に取り付けられ、リンク板9.10の他端はピン11により連結部材12に取り付けられている。連結部材12は手元側の操作ハンドル13と操作軸14により連結されている。」(2頁右上欄19行?左下欄7行)

記載(13)
「前記鉗子部材3,4の一方の鉗子部材3は、その先端部が内側に屈曲した板状に形成され、他の鉗子部材4は鰐口状に形成されている。前記鉗子部材3の内部には、第3図に示すように、板状の正特性サーミスタ(Positive temperature coeffi-cient thermistor:以下PTC素子と略記する。)21が埋設されている。該PTC素子21の内側と外側の端面にはそれぞれ電極22.23が付着されている。
前記PTC素子21は正の抵抗温度特性を持つサーミスタで、PTC素子自身が自動温度調節機能を有するものであり、本発明においては定温発熱素子として使用される。また、PTC素子21の材料組成を変えることにより、止血あるいは卵管、輸精管等の結紮に適した温度に発熱させることができる。」(2頁左下欄10行?右下欄5行)

記載(14)
「以上のように硬性された把持鉗子1の作用を説明する。
まず、把持鉗子1を図示しない内視鏡の鉗子チャンネルに挿通し、この内視鏡の挿入部を体腔内に挿入する。次にリード線24を電源制御部25に接続し、PTC素子21に通電する。通電されることによりPTC素子21は発熱し、PTC素子自身の自動温度調節機能により組織を凝固止血あるいは卵管、輸精管等を凝固結紮するのに適した温度に一定に保たれる。
この状態で、内視鏡により体腔内を観察しながら、操作ハンドル13を開閉操作し、把持鉗子1の鉗子部材3.4により止血する部分あるいは卵管、輸精管等を把持する。鉗子部材3,4により把持された部分の組織は、PTC素子21により加熱され凝固し、止血あるいは結紮される。」(2頁右下欄15行?3頁左上欄10行)

記載(10)?(14)より、引用文献2には、
「組織を止血するための把持鉗子であって、
先端に複数の鉗子部材3,4が開閉自在に設けられ、該鉗子部材3,4の開閉を操作する操作部が設けられた把持鉗子1において、前記鉗子部材3,4の少なくとも一部が電気的手段により発熱する定温発熱素子としてのPTC素子21にて形成された把持鉗子。」(記載事項B)
が記載されている。

4.対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、引用発明の「組織を止血するための外科用電気装置」は本願補正発明の「組織を結合するためのデバイス」に相当し、同様に「軸30」は「細長い部材(14)」に、「組織の複数の箇所」及び「組織の箇所」は「組織の複数のセクション」及び「組織のセクション」に、「2つの対向して位置している」は「二つの対向して位置されている」に、「上側の顎32および下側の顎34」は「上側および下側ジョー部材(10、12)」に、「各顎」は「各ジョー部材」に、「顎のそれぞれの近位端」は「それらのそれぞれの近位端」に、「顎は軸30の遠位端に位置し」は「ジョー部材は上記細長い部材の遠位端に位置され」に、「圧縮する」は「圧力を発生する」に、「上側の顎32および下側の顎34と連繋している掴み引金12」は「上側および下側ジョー部材と結びついた圧力手段」に、「を有し、」は「を含み、」にそれぞれ相当する。

また、引用発明の、「2つの電極」と、本願補正発明の「加熱要素(26)」とは、いずれも組織を結合するための「結合要素」として、共通する。
さらに、引用発明の「組織の箇所が互いに止血される」と、本願補正発明の「組織のセクションが互いに結合される」とは、「組織のセクションが互いに結合される」として、共通する。
その上、引用発明の「上側の顎32の下面平面に」「結合要素」が位置していることは、「少なくとも1のジョー部材の作業表面の上に位置されている」「結合要素」であるといえる。

そこで、本願補正発明の用語を用いて表現すると、両者は
「組織を結合するためのデバイスにおいて、
遠位端および近位端を有する細長い部材、
組織の複数のセクションを保持するための、二つの対向して位置されている上側および下側ジョー部材、ここで、各ジョー部材は遠位端および近位端を有しかつ作業表面を有し、該ジョー部材は上記細長い部材の遠位端に位置されかつそれらのそれぞれの近位端において可動的に互いに対し取り付けられている、
少なくとも1のジョー部材の作業表面の内にまたは作業表面の上に位置されている結合要素、および
圧力を発生するための、上記上側および下側ジョー部材と結びついた圧力手段、を含み、
そして組織のセクションが互いに結合されるところのデバイス。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
結合要素について、本願補正発明では、加熱要素であって、その加熱要素が、その中を電流が通過するところの電気的抵抗ワイヤならびに電気的抵抗物質の薄膜およびコーティングの少なくとも1であるのに対し、引用発明では、ジョー部材(上側の顎32)の作業表面の上に位置している2つの電極である点。

5.判断
上記相違点について判断する。

<相違点1について>
引用文献2に記載されたものは、引用発明と同様に組織を凝固して止血するものである。
そして、引用文献2には、「組織を止血するための把持鉗子であって、
先端に複数の鉗子部材3,4が開閉自在に設けられ、該鉗子部材3,4の開閉を操作する操作部が設けられた把持鉗子1において、前記鉗子部材3,4の少なくとも一部が電気的手段により発熱する定温発熱素子としてのPTC素子21にて形成された把持鉗子。」(上記、記載事項Bを参照)、すなわち、組織を止血するために鉗子部材に加熱要素としての電気的抵抗物質を設ける技術が記載されている。
したがって、引用発明に引用文献2に記載された技術を適用し、組織を凝固し止血するための手段としての、引用発明の上側ジョー部材(上側の顎32)に設けられた結合要素(2つの電極)を、加熱要素としての電気的抵抗物質とすることは当業者が容易になし得る程度の事項にすぎない。
また、その際に前記電気的抵抗物質を薄膜により形成することは当業者が適宜なし得る程度の事項にすぎない。

そして、本願補正発明による効果も、引用発明及び引用文献2に記載された技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明すなわち特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、引用発明および引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-05 
結審通知日 2010-02-10 
審決日 2010-02-23 
出願番号 特願平10-538818
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神山 茂樹  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 増沢 誠一
黒石 孝志
発明の名称 組織を結合するための電熱デバイス  
代理人 松井 光夫  

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