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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23C
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 C23C
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 C23C
管理番号 1220699
審判番号 不服2007-25641  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-19 
確定日 2010-07-26 
事件の表示 特願2001-342218「炭素膜の成膜方法および炭素膜被覆部材」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月21日出願公開、特開2003-147508〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成13年11月7日の出願であって、平成19年5月22日付けで拒絶理由の通知がなされ、その願書に添付した明細書について同年7月25日付けで手続補正がなされたが、同年8月14日付けで拒絶の査定がなされたものである。
そして、本件審判は、この査定を不服として、同年9月19日に請求がなされたものであって、前記明細書について同年10月18日付けで再度手続補正がなされ、平成22年2月1日付けで前置報告書に基づく審尋がなされ、同年4月1日付けで回答書の提出がなされている。

2.補正の却下の決定

2-1.結論

平成19年10月18日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

2-2.理由

2-2-1.補正の内容

本件補正は、特許請求の範囲について以下の補正事項を含む。

[補正前]
【請求項1】
密度が2.8g/cm^(3)以上3.3g/cm^(3)以下、スピン密度が1×10^(18)spins/cm^(3)以上1×10^(21)spins/cm^(3)以下、ヌープ硬度が2000以上6000以下であることを特徴とする炭素膜。
【請求項2】
炭素濃度が99.5原子%以上、水素濃度が0.5原子%以下、希ガス元素濃度が0.5原子%以下であることを特徴とする請求項1に記載の炭素膜。
【請求項3】
炭素濃度が99.9原子%以上で水素および希ガス濃度がHFS/RBSの検出限界以下であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の炭素膜。
【請求項4】
カソードアークイオンプレーティング法またはレーザーアブレーション法で、固体炭素を原料とし、真空度0.05Pa以下の雰囲気下で、水素および希ガス元素を含むガスを雰囲気に導入せずに、合成温度100?300℃で成膜を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の炭素膜の成膜方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の炭素膜が被覆されていることを特徴とする炭素膜被覆部材。
【請求項6】
請求項4の製造方法で製造された炭素膜が被覆されていることを特徴とする炭素膜被覆部材。

[補正後]
【請求項1】
カソードアークイオンプレーティング法で、等方性グラファイトを原料とし、真空度0.05Pa以下の雰囲気下で、合成温度100?300℃で成膜し、密度が2.8g/cm^(3)以上3.3g/cm^(3)以下、スピン密度が1×10^(18)spins/cm^(3)以上1×10^(21)spins/cm^(3)以下、ヌープ硬度が1500以上6000以下である炭素膜を成膜することを特徴とする炭素膜の成膜方法。
【請求項2】
水素および希ガス元素を含むガスを雰囲気に導入せずに成膜することを特徴とする請求項1に記載の炭素膜の成膜方法。
【請求項3】
炭素濃度が99.5原子%以上、水素濃度が0.5原子%以下、希ガス元素濃度が0.5原子%以下の炭素膜を成膜することを特徴とする請求項1または2に記載の炭素膜の成膜方法。
【請求項4】
炭素濃度が99.9原子%以上で水素および希ガス濃度がHFS/RBSの検出限界以下の炭素膜を成膜することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の炭素膜の成膜方法。
【請求項5】
ヌープ硬度が2000以上6000以下の炭素膜を成膜することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の炭素膜の成膜方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の成膜方法で成膜された炭素膜が被覆されていることを特徴とする炭素膜被覆部材。

2-2-2.補正の適否

上記補正事項のうち、補正後の請求項1は、補正前の請求項4について次の四点を補正するものと認められる。
補正点1:「またはレーザーアブレーション法」を削除。
補正点2:「固体炭素」を「等方性グラファイト」に変更。
補正点3:「水素および希ガス元素を含むガスを雰囲気に導入せずに」を 削除。
補正点4:「ヌープ硬度が2000以上」を「ヌープ硬度が1500以上 」に変更。
これらの補正のうち、補正点1,2は、特許請求の範囲の減縮を目的とした適法なものといえるが、補正点3,4は、特許請求の範囲の拡張を目的としたものである。
これに対し、審判請求人は回答書で、補正点3,4は、誤記の訂正もしくは明りようでない記載の釈明を目的としたものであると主張している。
しかしながら、前記主張は、補正後の請求項2,5の記載と矛盾する。さらに、審判請求人が、補正点4の根拠とする実施例12や実施例15の本発明炭素膜のヌープ硬度値は、当該実施例の成膜条件や対照炭素膜のヌープ硬度値からみて、誤記であると認められる。
してみると、前記主張は採用できない。
したがって、上記補正事項を含む本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明の認定

上述のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1?6に係る発明(以下、「本願発明1?6」という。)は、平成19年7月25日付けで手続補正された明細書において、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる(2-2-1の[補正前]参照)。

4.原査定の理由

原審でなされた拒絶査定の理由の一つは、
「本願発明1?6は、その出願前に日本国内において、頒布された刊行物、
特開2001-192864号公報(以下、「引用例」という。)
に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
というものである。

5.引用例の記載

引用例には次の記載がある。

摘記1(段落0019?0046)
【0019】
【課題を解決するための手段】本発明の硬質被膜は、上記の目的を達成するためになされたもので、潤滑剤の存在下で使用され、炭素を主成分とする層を具えることを特徴とする。以下、各構成要件を詳しく説明する。
・・・(中略)・・・
【0022】(硬質被膜の組成と構造)炭素を主成分とする層の典型例としてはDLCが挙げられる。ここに言うDLCには、実質的に炭素のみからなるもの及び実質的に炭素と水素のみからなるものの双方を含む。「実質的に炭素のみからなる」とは、作製上避けることのできない不純物としての他元素を除くいかなる元素も被膜中に含有されていないということである。硬質被膜の場合、特に成膜時の反応雰囲気に存在する水素を含有している例が多い。ただし、本発明における実質的に炭素のみからなる硬質被膜の水素含有率は5at%以下、より好ましくは1at%以下である。
・・・(中略)・・・
【0029】(被膜の硬度)硬質被膜のヌープ硬度(Hk)を1800kg/mm^(2)以上、8000kg/mm^(2)以下とすることが望ましい。特に、ヌープ硬度は2000kg/mm^(2)以上、6000kg/mm^(2)以下であることが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0046】(被膜の密度)被膜密度は、低摩擦係数化と耐摩耗性向上の観点から2.6?3.6g/cm^(3)とすることが好適である。特に、この密度範囲で実質的に炭素のみからなることが望ましい。この密度の測定は、成膜前後の基板の重量変化を析出体積で割ったものを用いた。その他、EELS(電子エネルギー損失分光)やXPS(X線光電子分光)におけるプラズモンエネルギーから求める方法も有効である。

摘記2(段落0124?0137)
【0124】(試験例12)成膜は、RFマグネトロンスパッタリング(SP)法、アンバランストマグネトロンスパッタリング(UBM)法、真空アーク放電蒸着法(VAD)法、熱フィラメントCVD(HCVD)法により形成した。基材は、高速度鋼、ステンレス鋼、SKD等の鉄系合金、アルミニウム合金、鉄系焼結体を用いた。基材の表面を清浄にするために、アセトン中で超音波洗浄を10分以上行う。
・・・(中略)・・・
【0127】真空アーク放電蒸着法においても、固体炭素ターゲットを使用して、成膜を行った。真空またはArなどの不活性ガス雰囲気中で炭素ターゲット表面に陰極アーク放電を発生、炭素を気化させる。そして、気化した炭素はアークプラズマによりイオン化、活性化し、負に印加された基材上に到達し硬質カーボン膜が堆積する。実施例は、雰囲気圧力4Pa以下、基材温度873K以下、基材電圧300V以下にて各条件を変化させることで任意のラマンスペクトル形状を有する硬質カーボン被膜を作製することができた。
・・・(中略)・・・
【0136】(試験例16)試験例12と同様の成膜法で基材上に硬質被膜を作製し、同様の試験で摩擦係数および摩耗量の測定を行った。摩耗量は比較例16-1の摩耗量を1として規格化している。また、得られた硬質被膜について密度も求めた。密度は、成膜前後の基板の重量変化を析出体積で割って求めた。各試験条件と結果を表29に示す。
【0137】
【表29】


6.引用発明の認定

引用例には、潤滑剤の存在下で使用され、炭素を主成分とする層を具える硬質被膜について、ヌープ硬度は2000kg/mm^(2)以上、6000kg/mm^(2)以下、被膜密度は2.6?3.6g/cm^(3)で、実質的に炭素のみからなることが望ましいことが記載されている(摘記1参照)。
したがって、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「密度が2.6?3.6g/cm^(3)、ヌープ硬度が2000kg/mm^(2)以上、6000kg/mm^(2)以下である実質的に炭素のみからなる硬質被膜。」

7.発明の対比

本願発明1と引用発明を対比すると、本願発明1のうち、
「ヌープ硬度が2000以上6000以下であることを特徴とする炭素膜。」
の点は引用発明と一致し、次の点で両者は相違する。

相違点1:本願発明1の「密度が2.8g/cm^(3)以上3.3g/cm^(3)以下」であるのに対し、引用発明の密度は2.6?3.6g/cm^(3)である点。

相違点2:本願発明1の「スピン密度が1×10^(18)spins/cm^(3)以上1×10^(21)spins/cm^(3)以下」であるのに対し、引用発明のスピン密度が明らかでない点。

8.容易性の判断

相違点について検討する。

相違点1について:
引用例には、引用発明の実施例として、例えば真空アーク放電蒸着法(VAD)法により、密度が3.0g/cm^(3)の硬質カーボン膜を得たことが記載されている(摘記2参照)。
してみると、引用発明において、密度を2.8g/cm^(3)以上3.3g/cm^(3)以下とすること、すなわち、相違点1を解消することは、例えば真空アーク放電蒸着法(VAD)法により、当業者が容易になし得たことである。

相違点2について:
引用例には、引用発明の硬質被膜について、その組成と構造の典型例がDLC(=ダイアモンド状炭素)であることが記載されている。一方、低欠陥のダイアモンド状炭素膜のスピン密度が1×10^(19)spins/cm^(3)程度であることは周知である(要すれば、特開平3-54527号公報第33図参照)。
してみると、硬質被膜を低欠陥とすることは自明であるから、引用発明において、スピン密度を1×10^(18)spins/cm^(3)以上1×10^(21)spins/cm^(3)以下とすること、すなわち、相違点2を解消することは当業者が容易になし得たことである。

そして、引用発明において、相違点1,2を共に解消することにも格別の困難性はなく、本願発明1が、相違点1,2により、引用発明から予期しない効果を奏するともいえない。

9.むすび

以上のとおり、本願発明1は、引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願発明2?6について検討するまでもなく、本願は、原査定の理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-24 
結審通知日 2010-05-27 
審決日 2010-06-08 
出願番号 特願2001-342218(P2001-342218)
審決分類 P 1 8・ 573- Z (C23C)
P 1 8・ 121- Z (C23C)
P 1 8・ 574- Z (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 直裕  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 志水 裕司
大橋 賢一
発明の名称 炭素膜の成膜方法および炭素膜被覆部材  
代理人 稲岡 耕作  
代理人 川崎 実夫  

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