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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1220762
審判番号 不服2009-10416  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-05-29 
確定日 2010-07-07 
事件の表示 平成10年特許願第507941号「テキスト・プロセッサ」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 2月12日国際公開、WO98/06082、平成12年11月28日国内公表、特表2000-516002〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

本願は、平成9年7月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1996年8月7日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成21年2月18日付けで補正の却下の決定と共に拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年5月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。



2.本願の特許請求の範囲の記載

本願の特許請求の範囲の記載は、平成19年12月25日付けの手続補正書に記載された、次のとおりのものである。

「1.機械が読取り可能な自然言語テキストを用いて少なくともビューイング・フィールド寸法を含む読者特定パラメータに基づいてテキスト提示をエンハンストするための方法であって、
前記テキストを句読点及び品詞に構文解析してテキスト特定属性を抽出するステップと、
前記品詞に関連して前記テキスト特定属性を格納してエンハンスト・テキストを生成するステップと、
一次折り返しルール、該一次折り返しルールに続いて二次折り返しルールを前記エンハンスト・テキストに適用して、前記テキストをテキスト・セグメントに分割するステップであって、前記二次折り返しルールは折り返しルールのランクの順序で適用され、前記一次及び二次折り返しルールは、句読点属性及び品詞属性を少なくとも入力として、視覚的属性を出力として有し、前記視覚的属性が前記テキスト・セグメントを新たな行で表示することを含む、前記分割ステップと、
最少行長さである限界に達するまで前記二次折り返しルールを適用するステップと、
前記テキスト・セグメントに水平方向変位ルールを適用して各テキスト・セグメントに対する水平方向変位を決定してエンハンスト・テキストを生成するステップであって、前記水平方向変位ルールは、品詞を入力として、水平方向の変位の視覚的属性を出力として有する、前記生成ステップと、
行が下方に下がるように前記テキスト・セグメントを表示装置の表示画面全体に亘ってカスケード表示することにより前記エンハンスト・テキストを表示するステップと
を備える方法。

2.請求項1に記載の方法において、前記テキスト特定属性は、テキスト本体内のテキスト位置を含み、前記テキスト提示は背景色を含み、前記テキスト処理は前記テキスト位置に従って背景色を変更することを含む、方法。

3.請求項1に記載の方法において、前記テキスト特定属性は、テキストの難易度測定を含み、前記テキスト提示は、自動テキスト前進レートを含み、前記テキスト処理は前記テキストの難易度測定に従って提示レートを変更することを含む、方法。」

4.請求項3に記載の方法において、前記テキストの難易度判定は、前記テキストの推定発音時間、前記テキストの推定教育レベル、及び前記テキストの音節数の少なくとも一つを含む方法。

5.請求項1に記載の方法において、前記視覚的属性は、前記品詞に応じて前記テキスト・セグメントを色で表示すること、及び/又は前記テキスト・セグメントを新たな行に表示することを含む、方法。

6.請求項1に記載の方法において、前記一時折り返しルールは、句読点を入力として含み、前記二次折り返しルールは品詞を入力として含む、方法。

7.請求項6に記載の方法において、前記一次及び二次折り返しルールは、前記品詞の曖昧さを取り除くためのマイクログラマを含む、方法。

8.請求項1に記載の方法は更に、前記構文解析ステップから可能性の高い品詞の単語を決定するステップを備える方法。

9.請求項8に記載の方法は更に、可能性の高い品詞を入力とし、テキストの色を出力として含む色表示ルールを提供するステップと、
前記テキストの色出力に従って前記テキストを表示するステップとを備える方法。

10.請求項1又は6に記載の方法において、前記分割ステップは、
最小テキスト・セグメント長さを与えるステップと、
最大テキスト・セグメント長さを与えるステップと、
前記一時折り返しルールを適用することによって前記テキスト内の一次折り返し点の位置を決定して、前記テキストをスーパーフレーズ内に分割するステップと、
前記二次折り返しルールを適用することによって前記スーパーフレーズ内の二次折り返し点の位置を決定して、前記スーパーフレーズをテキスト・セグメントに分割するステップと、
全テキスト・セグメントが前記最大テキスト・セグメント長さ以下になると共に前記最小テキスト長さ以上になるまで前記前記スーパーフレーズをテキスト・セグメントに分割するステップを繰り返すステップとを含む、方法。

11.請求項1又は10に記載の方法は更に、
前記表示されたテキストの折り返し点のユーザ編集を受け入れ、該ユーザ編集を機械が読み取り可能な形態で格納するステップと、
前記表示されたテキストの品詞のユーザ編集を受け入れ、該ユーザ編集を機械が読み取り可能な形態で格納するステップと、
前記表示されたテキストの品詞に対するユーザ注釈を受け入れ、該ユーザ注釈を機械が読み取り可能な形態で格納するステップとの少なくとも1つを備える方法。

12.機械が読み取り可能な自然言語テキストを用いて少なくともビューイング・フィールド寸法を含む読者特定パラメータに基づいてテキスト提示をエンハンストするための装置であって
前記テキストを句読点及び品詞に構文解析してテキスト特定属性を抽出する手段と、
前記品詞に関連して前記テキスト特定属性を格納してエンハンスト・テキストを生成する手段と、
一次折り返しルール、該一次折り返しルールに続いて二次折り返しルールを前記エンハンスト・テキストに適用して、前記テキストをテキスト・セグメントに分割する手段であって、前記二次折り返しルールは折り返しルールのランクの順序で適用され、前記一次及び二次折り返しルールは、句読点属性及び品詞属性を少なくとも入力として、視覚的属性を出力として有し、前記視覚的属性が前記テキスト・セグメントを新たな行で表示することを含む、前記分割手段と、
最少行長さである限界に達するまで前記二次折り返しルールを適用する手段と、
前記テキスト・セグメントに水平方向変位ルールを適用して各テキスト・セグメントに対する水平方向変位を決定してエンハンスト・テキストを生成する手段であって、前記水平方向変位ルールは、品詞を入力として、水平方向の変位を視覚的属性を出力として有する、前記生成手段と、
行が下方に下がるように前記テキスト・セグメントを表示装置の表示画面全体に亘ってカスケード表示することにより前記エンハンスト・テキストを表示する手段とを備える装置。

13.請求項12に記載の装置において、前記分割手段は、
最小テキスト・セグメント長さを入力する最小テキスト・セグメント長さ入力手段と、
最大テキスト・セグメント長さを入力する最大テキスト・セグメント長さ入力手段と、
前記一時折り返しルールを適用することによって前記テキスト内の一次折り返し点の位置を決定して、前記テキストをスーパーフレーズ内に分散する第一の分割手段と、
前記二次折り返しルールを適用することによって前記スーパーフレーズ内の二次折り返し点の位置を決定して、前記スーパーフレーズをテキスト・セグメントに分割する第二の分割手段と、
全テキスト・セグメントが前記最大テキスト・セグメント長さ以下になると共に前記最小テキスト長さ以上になるまで前記第二の分割手段における前記スーパーフレーズ内の二次折り返し点の位置を決定することを繰り返す手段とを含む、装置。

14.請求項13に記載の装置において、前記エンハンスト・テキストは単語及び句を含み、かつリンクされたノードのリストとして表され、各ノードは単語及び句の属性を有する、装置。

15.請求項12に記載の装置において、前記一時折り返しルールは、句読点を入力として含み、前記二次折り返しルールは品詞を入力として含み、装置は更に、二次折り返し点の階層を確立する単語の組を含むテーブルを備える、装置。」


なお、平成20年12月24日付けの手続補正書した手続補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反することを理由として、平成21年2月18日付けの補正の却下の決定により却下がなされたが、
審判請求人は、「4.審判請求の理由」で後述する審判請求書の請求の理由にあるように、当該補正の却下の決定に対して不服の申し立てていないので、
上記の如く、当該補正の却下の決定を前提として、本願の特許請求の範囲を認定した。

〔参考〕平成19年(行ケ)第10408号
(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080930160537.pdf)
「(2)判断
上記の手続経緯を前提として,判断する。
補正却下決定に対しては,不服を申し立てることはできず,拒絶査定不服審判(不服2007-3224号事件)を請求した場合における審判においてのみ,その不服を申し立てることができる旨規定されている(特許法53条3項)。前記(1)のとおり,原告は,拒絶査定不服審判において補正却下決定に対し不服を申し立てて,これを争うことはなかった。なお,平成19年7月31日付け意見書(甲17),同年10月10日付け上申書(乙2)を提出しているが,それらにおいても,補正却下決定に対する不服申立てと実質的に解されるような記載はない。
そうすると,原告は,拒絶査定不服審判において,平成19年6月15日付け補正却下決定について不服を申し立てることがなかったのであるから,審決が,同補正却下決定の当否を判断することなく,同補正却下決定を前提として本願発明を認定したことに,誤りはない。」
(第22頁第13乃至26行)



3.原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由となった、平成20年6月16日付けの拒絶理由通知書によって通知された、特許法第36条第6項第2号違反に関する拒絶理由は以下のとおりのものである。

「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



・請求項 1?15
請求項1及び12に記載されている「ビューイング・フィールド寸法」について、この用語が具体的に何を示すものであるのかが明細書の該当する箇所(8頁)を参酌しても不明であると共に、請求項1及び12に記載されている発明において前記ビューイング・フィールド寸法はどのような処理を行う際にどのようにして用いられるものであるのかが不明である。

請求項1及び12に記載されている「エンハンストする」という用語の指す内容が不明である(「エンハンスする」であっても同様)。

請求項1及び12に記載されている「前記品詞に関連して前記テキスト特定属性を格納してエンハンスト・テキストを生成する」について、前記「エンハンスト・テキスト」が何から構成されているものであるのかが不明である。例えば、元のテキストを含むのか、テキスト特定属性のみからなるものであるのかが不明である。

請求項1及び12に記載されている「句読点属性及び品詞属性を少なくとも入力として、視覚的属性を出力として有し、前記視覚的属性が前記テキスト・セグメントを新たな行で表示する」について、前記「句読点属性」及び「品詞属性」がそれ以前に記載されている「前記テキストを句読点及び品詞に構文解析してテキスト特定属性を抽出する」におけるテキスト特定属性を指しているのか、それ以外のものを指しているのかが不明である。また、「前記視覚的属性が・・・表示する」と記載され、視覚的属性が動作を行う主体(物)として記載されており、この「視覚的属性」が具体的に何から構成されているものであるのかが不明である。請求項5に記載されている「視覚的属性」についても同様である。

請求項1及び12に記載されている「前記テキスト・セグメントに水平方向変位ルールを適用して各テキスト・セグメントに対する水平方向変位を決定してエンハンスト・テキストを生成する」について、前記「エンハンスト・テキスト」が何から構成されているものを指しているのかが不明であり、またそれ以前に記載されている「エンハンスト・テキスト」とおなじものを指しているのか、別のものを指しているのかについても不明である。

請求項1及び12に記載されている「品詞を入力として、水平方向の変位の視覚的属性を出力として有する」について、前記「品詞」がそれ以前に記載されている「前記テキストを句読点及び品詞に構文解析してテキスト特定属性を抽出する」におけるテキスト特定属性を指しているのか、それ以外のものを指しているのかが不明である。

請求項2及び3に記載されている「前記テキスト処理」について、請求項2が引用する請求項1に「テキスト処理」という用語は記載されておらず、前記テキスト処理という用語が何を表しているのかが不明である。

請求項8に記載されている「前記構文解析ステップから可能性の高い品詞の単語を決定する」について、前記構文解析ステップとは、請求項1のどのステップを指しているのかが不明であると共に、可能性の高いというのは何の可能性が高いということを指しているのかが不明である。

よって、請求項1から15に係る発明は明確でない。」



4.審判請求の理由

審判請求人は、審判請求書において、以下のように主張している。

「1.手続の経緯
出願 平成9年7月24日
(優先日1996年8月7日)
拒絶理由の通知 平成19年6月21日(平成19年7月3日発送)
意見書 平成19年12月25日
手続補正書 平成19年12月25日
拒絶理由の通知 平成20年6月16日(平成20年6月24日発送)
意見書 平成20年12月24日
手続補正書 平成20年12月24日
拒絶査定(起案) 平成21年2月18日
同謄本送達日 平成21年3月3日
補正却下の決定 平成21年2月18日(平成21年3月3日発送)
審判請求 平成21年5月29日
補正指令 平成21年8月3日(平成21年8月4日発送)
2.拒絶査定の要点
1.原査定の拒絶理由は、「この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」というものである。
2.その具体的理由は、要するに拒絶査定謄本の備考欄に記載された次のとおりである。
「意見書の主張は平成20年12月24日付の手続補正について補正された事項についてのみであり、補正前の請求項1から15について平成20年6月16日付け拒絶理由通知に記載した理由が不当であるとの主張もなされておらず、本願発明は上記理由の通り不明確であると認められるから、依然として拒絶理由を解消していない。」
3. 記載不備の指摘事項について
平成19年12月25日付けの手続補正書における特許請求の範囲の記載に対する平成20年6月16日付け拒絶理由通知に記載した各指摘事項については不当であり、請求項1乃至15に係る発明は明確であるものと思料する。
請求項1-15に記載の発明は、概略的には、機械が読取り可能な自然言語テキストを用いて少なくともビューイング・フィールド寸法を含む読者特定パラメータに基づいてテキスト提示をエンハンストするための方法及び装置であり、一次折り返しルール、該一次折り返しルールに続いて二次折り返しルールをエンハンスト・テキストに適用して、テキストをテキスト・セグメントに分割し、テキスト・セグメントに水平方向変位ルールを適用して各テキスト・セグメントに対する水平方向変位を決定してエンハンスト・テキストを生成し、行が下方に下がるようにテキスト・セグメントを表示装置の表示画面全体に亘ってカスケード表示することによりエンハンスト・テキストを表示するものである。
4.むすび
以上詳述したように、本願明細書の特許請求の範囲の記載に不備な点はない。よって、原査定を取り消す、この出願の発明はこれを特許すべきものとする、との審決を求める。」



5.原査定の拒絶の理由に対する判断

(1)はじめに

特許法第36条第5項及び第6項に、
「5 第三項第四号の特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において、一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。
6 第三項第四号の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
二 特許を受けようとする発明が明確であること。
三 請求項ごとの記載が簡潔であること。
四 その他通商産業省令で定めるところにより記載されていること。」
と規定されているように、特許法は、発明の詳細な説明に多面的に記載されている発明のうち、どの発明について特許を受けようとしているのかを、出願人の意思により、特許請求の範囲に明示すべきことを要求しているものであり、これにより、一つの請求項に基づいて、特許を受けようとする発明が、まとまりのある一つの技術的思想として明確に把握できることになるのである。

そのためには、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定された「特許を受けようとする発明が明確であること。」を満たす必要があるのであり、特許請求の範囲を明確に記載することが容易にできるにもかかわらず、殊更に不明確あるいは不明りょうな用語を使用して特許請求の範囲を記載し、請求項に記載された構成を不明確なものとするようなことが許されないのは、当然のことである。

このことは、特許法第70条第1項が、「特許発明の技術的範囲は、願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載に基いて定めなければならない。」と規定し,特許請求の範囲の記載に基づいて特許発明の技術的範囲を定めることを規定していることからも当然のことである。すなわち、特許請求の範囲を明確に記載することが容易にできるにもかかわらず、殊更に不明確あるいは不明りょうな用語を使用して記載することが許されるとすれば、特許発明の技術的範囲を明確に確定することができなくなるおそれが生じ、特許権が行使される対象となる範囲が不明確となって、社会一般に対しあるいは競業者に対し、特許権が行使される範囲の外延を明示するとの、特許請求の範囲が果たすべき、本来の機能を果たすことができなくなる結果を招来するのである。
なお、特許法第70条第2項が、「前項の場合においては、願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と規定しているからといって、特許法第36条第6項第2号の規定を蔑ろにすることは許されないことは上述したように明らかであり、そもそも、特許法第70条は「特許発明」(すなわち、特許法第2条第2項で定義された「特許を受けている発明」であって「特許を受けようとする発明」ではない。)を対象とした条文であるから、特許を受けていない本願について適用されることはない。

更に、念のために付言すると、最高裁昭和62年(行ツ)第3号(所謂「リパーゼ判決」。http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/75CB63A39AC99F3449256A8500311EAF.pdf)は、特許出願に係る発明の新規性あるいは進歩性を判断する場合における、特許出願に係る発明の請求項の要旨の認定について述べた判例であるから、特許請求の範囲の記載不備に対する判断が問題となっている本願について適用されることはない。
このことは,上記判例が,「特許法第29条1項及び2項所定の特許要件、すなわち、特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たっては、この発明を同条1項各号所定の発明と対比する前提として、特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ、この要旨認定は、特段の事情のない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるに過ぎない。」(下線は当審にて付加)
と判示していることから明らかである。

〔参考〕平成13年(行ケ)第346号
(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/2462A9ACD430027949256D4400110B02.pdf。
特に、第4頁第40頁から第6頁第25行の判示を参照されたい。)


そこで、上述した事項を考慮しつつ、本願の特許請求の範囲の記載を、原査定の拒絶の理由に沿って検討を行う。


(2)「請求項1及び12に記載されている「ビューイング・フィールド寸法」について、この用語が具体的に何を示すものであるのかが明細書の該当する箇所(8頁)を参酌しても不明であると共に、請求項1及び12に記載されている発明において前記ビューイング・フィールド寸法はどのような処理を行う際にどのようにして用いられるものであるのかが不明である。」(以下、「拒絶理由1」という)について

請求項1及び12に記載された「ビューイング・フィールド寸法」という用語は、技術用語又は外来語という日本語として一般的に認められた用語ではなく、そのため、当該用語に接しただけでは、如何なる意味を有しているのか把握できない。
その上、該「ビューイング・フィールド寸法」が不明確であるため、これを構成要素とする「読者特定パラメータ」も不明確となり、請求項1及び12に記載された発明全体が不明確となっている。

また、我が国の母国語である「日本語」で特許請求の範囲を記載することが当然に求められていることを鑑みれば、
「ビューイング・フィールド寸法」の英訳に相当する「viewing field dimensions」という「英語」に立ち戻って意味を解釈することまでは求められていないから、
(「ビューイング・フィールド」は、「viewing field」という音を片仮名を借りて表現した英語である。このことは、「This is a pen.」という音を片仮名を借りて「ディス イズ ア ペン.」と表現しても、日本語ではなく英語として認識されることと同様である。)
仮に「ビューイング・フィールド寸法」の英訳に相当する「viewing field dimensions」という英語の意味が明確であるとしても、「viewing field dimensions」の意味が明確であることをもって、「ビューイング・フィールド寸法」という片仮名交じりの語の意味が明確であると判断することはできない。

したがって、請求項1及び12に記載されている「ビューイング・フィールド寸法」について、この用語が具体的に何を示すものであるのかが不明であると共に、請求項1及び12に記載されている発明において前記ビューイング・フィールド寸法はどのような処理を行う際にどのようにして用いられるものであるのかが不明である。


(3)「請求項1及び12に記載されている「エンハンストする」という用語の指す内容が不明である(「エンハンスする」であっても同様)。」(以下、「拒絶理由2」という)について

明細書第1頁第4乃至5行には「エンハンス(強化)」と記載されている一方、
平成20年12月24日付けの手続補正書によって、請求項1の「エンハンストする」を「拡張する」と補正しているように、
「エンハンス(ト)」という用語は、審判請求人(出願人)においてすら、「エンハンス(ト)」の意味を特定できないような、不明確な用語である。

したがって、請求項1及び12に記載されている「エンハンストする」という用語の指す内容が不明である。


(4)「請求項1及び12に記載されている「前記品詞に関連して前記テキスト特定属性を格納してエンハンスト・テキストを生成する」について、前記「エンハンスト・テキスト」が何から構成されているものであるのかが不明である。例えば、元のテキストを含むのか、テキスト特定属性のみからなるものであるのかが不明である。」(以下、「拒絶理由3」という)について

上記(3)の拒絶理由2において検討したように、「エンハンスト」という用語の指す内容が不明である上に、
「エンハンスト・テキスト」が、例えば、元のテキストを含むのか、テキスト属性のみからなるものなのか、といった事項についても何ら説明されていないから、
前記「エンハンスト・テキスト」が何から構成されているものであるのかは依然として不明である。


(5)「請求項1及び12に記載されている「句読点属性及び品詞属性を少なくとも入力として、視覚的属性を出力として有し、前記視覚的属性が前記テキスト・セグメントを新たな行で表示する」について、前記「句読点属性」及び「品詞属性」がそれ以前に記載されている「前記テキストを句読点及び品詞に構文解析してテキスト特定属性を抽出する」におけるテキスト特定属性を指しているのか、それ以外のものを指しているのかが不明である。また、「前記視覚的属性が・・・表示する」と記載され、視覚的属性が動作を行う主体(物)として記載されており、この「視覚的属性」が具体的に何から構成されているものであるのかが不明である。請求項5に記載されている「視覚的属性」についても同様である。」(以下、「拒絶理由4」という)について

請求項1及び12の「前記視覚的属性が前記テキスト・セグメントを新たな行で表示する」という記載、
及び、請求項5の「前記視覚的属性は、前記品詞に応じて前記テキスト・セグメントを色で表示すること、及び/又は前記テキスト・セグメントを新たな行に表示する」という記載によれば、
「視覚的属性」に基づいてテキスト・セグメントが表示されるのではなく、「視覚的属性」それ自体がテキスト・セグメントを表示している。

しかしながら、通常、「視覚的属性」という(表示装置を当然に有しない)「情報」それ自体で、テキスト・セグメントのような情報を表示することができないことは、情報処理分野における技術常識である。

それにも関わらず、請求項1,5,12では、視覚的属性が動作を行う主体として記載されているため、この「視覚的属性」が具体的に何から構成されているものであるのかが不明である。


(6)「請求項1及び12に記載されている「前記テキスト・セグメントに水平方向変位ルールを適用して各テキスト・セグメントに対する水平方向変位を決定してエンハンスト・テキストを生成する」について、前記「エンハンスト・テキスト」が何から構成されているものを指しているのかが不明であり、またそれ以前に記載されている「エンハンスト・テキスト」とおなじものを指しているのか、別のものを指しているのかについても不明である。」(以下、「拒絶理由5」という)について

上記(3)の拒絶理由2において検討したように、「エンハンスト」という用語の指す内容が不明なのであるから、
前記「エンハンスト・テキスト」が何から構成されているものを指しているのか不明であるし、
ここでの「エンハンスト・テキスト」がそれ以前に記載されている「エンハンスト・テキスト」と同じものを指しているのか否かについても不明なままである。


(7)「請求項2及び3に記載されている「前記テキスト処理」について、請求項2が引用する請求項1に「テキスト処理」という用語は記載されておらず、前記テキスト処理という用語が何を表しているのかが不明である。」(以下、「拒絶理由6」という)について
(なお、請求項2及び3に記載されている「前記テキスト処理」という記載を問題としているのであるから、「請求項2が引用する請求項1に」という記載は「請求項2及び3が引用する請求項1に」の誤記であることは明らかである。)

請求項2の「請求項1に記載の方法において、前記テキスト特定属性は、テキスト本体内のテキスト位置を含み、前記テキスト提示は背景色を含み、前記テキスト処理は前記テキスト位置に従って背景色を変更することを含む、方法。」という記載には、
「前記テキスト処理」という記載の前には「テキスト処理」という記載はなく、
請求項2が引用する請求項1にも「テキスト処理」という記載はない。

また、請求項3の「請求項1に記載の方法において、前記テキスト特定属性は、テキストの難易度測定を含み、前記テキスト提示は、自動テキスト前進レートを含み、前記テキスト処理は前記テキストの難易度測定に従って提示レートを変更することを含む、方法、」という記載には、
「前記テキスト処理」という記載の前には「テキスト処理」という記載はなく、
請求項3が引用する請求項1にも「テキスト処理」という記載はない。

したがって、請求項2及び3に記載されている「前記テキスト処理」について、請求項2及び3が引用する請求項1に「テキスト処理」という用語は記載されておらず、前記テキスト処理という用語が何を表しているのかが不明である。


(8)「請求項8に記載されている「前記構文解析ステップから可能性の高い品詞の単語を決定する」について、前記構文解析ステップとは、請求項1のどのステップを指しているのかが不明であると共に、可能性の高いというのは何の可能性が高いということを指しているのかが不明である。」(以下、「拒絶理由7」という)について

請求項8の「請求項1に記載の方法は更に、前記構文解析ステップから可能性の高い品詞の単語を決定するステップを備える方法。」は、
構文解析では、ある単語の品詞をひとつに絞り込むことができず、品詞の曖昧さが生じてしまうことがある、ということを想定した請求項7、すなわち「請求項6に記載の方法において、前記一次及び二次折り返しルールは、前記品詞の曖昧さを取り除くためのマイクログラマを含む、方法。」を引用せず、
そのような想定が示唆されていない請求項1を引用しているため、
何に対する「可能性」なのか、何が「高い」のか、どの程度をもって「高い」とするのか、不明確になっている。

したがって、請求項8の記載では、可能性の高いというのは何の可能性が高いということを指しているのかが不明である。


(9)
なお、上記「3.原査定の拒絶の理由」に転記したような、不明な点を具体的に指摘した拒絶理由通知を受けた出願人(審判請求人)には、各指摘した事項を解消する補正をしたり、意見書や審判請求書において、拒絶理由通知で指摘した事項が誤解に基づくものであることを具体的に説明したりするなどの釈明の責任があるというべきであるが、審判請求人は、上記「4.審判請求の理由」のように、単に指摘が不当であることを述べるのみで具体的釈明を何ら行っていない。



6.まとめ

本願は、上記拒絶理由1乃至7により、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、その余の拒絶理由について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-04 
結審通知日 2010-02-09 
審決日 2010-02-22 
出願番号 特願平10-507941
審決分類 P 1 8・ 537- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 聡史  
特許庁審判長 田口 英雄
特許庁審判官 小曳 満昭
和田 財太
発明の名称 テキスト・プロセッサ  
代理人 本田 淳  
代理人 池上 美穂  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  

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