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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M |
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管理番号 | 1220811 |
審判番号 | 不服2008-18915 |
総通号数 | 129 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-09-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-07-24 |
確定日 | 2010-07-29 |
事件の表示 | 平成10年特許願第259898号「非水電解質二次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月31日出願公開、特開2000- 90937〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件は、平成10年9月14日の出願であって、平成17年6月7日付けで手続補正され、平成19年12月13日付けの拒絶理由通知書が送付され、平成20年2月14日付けで手続補正がされ、同年6月20日付けで拒絶査定がされたところ、この査定を不服として、同年7月24日に審判請求がされたものであり、当審において、平成22年3月8日付けの当審拒絶理由通知書が送付され、同年5月6日付けで手続補正がされたものである。 第2 本件発明について I.本件発明 本件発明は、平成22年5月6日付け手続補正で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める(以下、「本件発明」という。)。 「リチウムを吸蔵・放出可能な人造黒鉛と、結着剤としてスチレンブタジエンゴムとを用いた層を金属箔集電体上に形成した負極を備え、前記集電体として厚みが12μm以下で、かつ鉄を0.020質量%以上0.030質量%以下含む銅箔を用いた非水電解質二次電池。」 II.当審拒絶理由の概要 平成22年3月8日付けの当審拒絶理由は、概略以下のとおりである。 「本件発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。 記 ・先願:特願平10-142575号(特開平11-339811号)」 III.先願の出願当初の明細書又は図面の記載事項 特願平10-142575号(特開平11-339811号)の出願当初の明細書又は図面(以下、「先願の当初明細書」と略す。)には、次の記載がある。 (1a) (イ) 「【請求項1】 銅95重量%以上、鉄,ニッケル,クロム,リン,錫及び亜鉛よりなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素0.01?5重量%なる元素組成を持つことを特徴とする二次電池用銅合金箔製集電体。 【請求項2】 厚みが8?25μmで、引張強さが500N/mm^(2)以上である請求項1記載の二次電池用銅合金箔製集電体。 【請求項3】 二次電池が、炭素系材料を負極活物質とするリチウムイオン二次電池である請求項1又は2記載の二次電池用銅合金箔製集電体。」 (ロ) 「【0006】 【発明が解決しようとする課題】 従来のタフピッチ銅等を用いて得られる銅箔は、上記した引張強さの点で未だ十分に満足のゆくものでなかった。このため、本発明者は、銅箔の引張強さを向上させるために、その合金化を検討した。しかしながら、一般的に、合金化した銅合金箔は、引張強さは向上するものの、純銅系ではないため、集電体として第一義的に重要な導電率が大きく低下してしまう。そこで、本発明者は、合金化する際の添加元素を種々変更して検討したところ、特定の元素を得定量添加するのであれば、導電率を大きく低下させずに、引張強さを向上させうることを見出し、本発明に到達した。」 (ハ) 「【0008】 本発明に係る二次電池用銅合金箔製集電体は、銅(Cu)を95重量%以上含有するものである。銅の含有量が95重量%未満であると、銅合金箔よりなる集電体の導電率が大きく低下するので、好ましくない。 【0009】 そして、銅の他に、鉄(Fe),ニッケル(Ni),クロム(Cr),リン(P),錫(Sn)及び亜鉛(Zn)よりなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素が0.01?5重量%添加されている。これらの添加元素が0.01重量%未満であると、集電体の引張強力が向上しにくいため、好ましくない。また、これらの添加元素が5重量%を超えると、集電体の引張強力は向上するが、導電率が低下するため、好ましくない。本発明に係る銅合金箔製集電体の好ましい合金組成としては、例えば、Cu-Fe,Cu-Ni,Cu-Cr,Cu-Fe-P,Cu-Cr-Sn-Znというような例を挙げることができる。なお、銅及びこれらの添加元素の他に、不可避の不純物元素が微量混入している場合があることは、言うまでもない。」 (ニ) 「【0011】 二次電池用銅合金箔製集電体の厚みは、8?25μmであるのが好ましい。集電体の厚みが8μm以下になると、単位平方ミリメートル当たりの引張強さが高くても、全体としての引張強さが低くなる傾向が生じる。また、集電体の厚みが25μmを超えると、負極等の極板が厚くなり、二次電池を小型化しにくくなる傾向が生じる。二次電池用銅合金箔製集電体の引張強さは、500N/mm^(2)以上であるのが好ましい。引張強さが500N/mm^(2)未満になると、集電体に活物質を塗布する際、或いは二次電池に組み込むために巻回する際に、集電体が破断する恐れがある。」 (ホ) 「【0013】 このような銅合金箔は、各種二次電池用の集電体として好適に用いられる。即ち、銅合金箔に、種々の活物質を塗布して、リチウムイオン電池,金属リチウム電池,ポリマー電池等のリチウム系二次電池の極板(負極)として好適に用いられるのである。特に、本発明に係る銅合金箔製集電体は、カーボンやグラファイトよりなる炭素系材料の活物質を、集電体表面に塗布し、これをリチウムイオン二次電池の負極として用いるのに、好適である。」 (ヘ) 「【0015】 実施例1?3及び比較例1 電気銅(電解銅)を溶解した上で、表1に記載した添加元素を所定量添加して鋳造を行った。そして、熱間圧延を施した後、冷間圧延と中間焼鈍を繰り返し施して、厚み10μmの二次電池用銅合金箔製集電体を得た。 【0016】 【表1】 なお、表1中の添加元素の%は、重量%を表している。」 (2)先願の当初明細書に記載された発明 摘示(イ)には、「銅95重量%以上、鉄,ニッケル,クロム,リン,錫及び亜鉛よりなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素0.01?5重量%なる元素組成を持つことを特徴とする二次電池用銅合金箔製集電体」であって、当該集電体は「厚みが8?25μmで、引張強さが500N/mm^(2)以上」であり、「炭素系材料を負極活物質とするリチウムイオン二次電池」に用いられることが記載されている。 そして、摘示(ホ)には、「本発明に係る銅合金箔製集電体は、カーボンやグラファイトよりなる炭素系材料の活物質を、集電体表面に塗布し、これをリチウムイオン二次電池の負極として用いる」と種々の炭素系材料の活物質を、集電体表面に塗布して用いることが記載されている。 以上の記載内容を、本件発明に則したかたちでその記載振りを整理すると、先願の当初明細書には次の発明(以下、「先願発明」と略す。)が記載されていると認められる。 『炭素系材料を銅合金箔製集電体表面に塗布して作成した負極を備え、前記集電体として厚みが8?25μmで、かつ鉄を0.01?5重量%含む銅合金箔を用いたリチウムイオン二次電池。』 2.対比・判断 本件発明(前者)と先願発明(後者)とを対比すると、後者の、『炭素系材料を銅合金箔製集電体表面に塗布して作成した負極』、『鉄を・・・含む銅合金箔』、『リチウムイオン二次電池』はそれぞれ、前者の、「リチウムを吸蔵・放出可能な・・・層を金属箔集電体上に形成した負極」、「鉄を・・・含む銅箔」、「非水電解質二次電池」に相当する。 してみると、両者は、 「リチウムを吸蔵・放出可能な層を金属箔集電体上に形成した負極を備え、前記集電体として、鉄を含む銅箔を用いた非水電解質二次電池。」 で一致するものの、次の2点で一応相違がみられる。 a)銅箔の厚み、銅箔の鉄の含有割合について、本件発明では、銅箔が、「厚みが12μm以下で、かつ鉄を0.020質量%以上0.030質量%以下含む」ものであるのに対して、先願発明では、銅合金箔が、「厚みが8?25μmで、かつ鉄を0.01?5重量%含む」ものと、本件発明が先願発明に比べて、厚みや鉄の含有割合の範囲が重複するものの、それぞれ狭い範囲としている点。 b)本件発明では、負極のリチウムを吸蔵・放出可能な層を、「人造黒鉛と、結着剤としてスチレンブタジエンゴムとを用いた層」としているのに対して、先願発明では、「炭素系材料を塗布して作成」した層としている点。 上記相違点について順次検討する。 ・上記相違点a)について 先願の当初明細書には、先願発明の実施例として、摘示(ト)にある、銅合金箔の厚みが10μm、鉄の添加量が0.1重量%で引張強度が550N/mm^(2)の例が記載されており、厚みについては実質的に同一の開示があると云える。しかしながら、当該実施例は鉄の添加量が、本件発明1の条件を満たさない。 そこで、鉄の添加割合の範囲について、さらに検討を進める。 摘示(ロ)にあるように、先願発明は、銅合金箔の添加元素と添加量を調整することにより、「導電率を大きく低下させずに、引張り強さを向上させうることを見出し」たものであり、その添加元素として鉄についても、添加割合として0.01?5重量%の範囲を取り得ることが、摘示(イ)、(ハ)に記載されており、添加割合の限定理由についても、摘示(ハ)に、「添加元素が0.01重量%未満であると、集電体の引張強力が向上しにくいため、好ましくない。また、これらの添加元素が5重量%を超えると、集電体の引張強力は向上するが、導電率が低下するため、好ましくない。」と、引張強度と導電率のバランスから決定されていること、添加元素の添加量の増大に伴って導電率が低下することが記載されている。そして、「集電体」となる銅合金箔の導電率が低下しないようにすべきことは集電体として当然求められる事項である。 してみると、摘示(ト)の実施例の具体的記載だけでなく、先願発明について、摘示(ロ)、(ハ)に記載されているように、引張強度と導電率の所望のバランスをとり得る範囲で、鉄の添加割合を0.020?0.030質量%にすることについても、先願の当初明細書に実質的に開示されているといえる。 してみると、当該相違点a)は実質的な差異ではない。 ・上記相違点b)について 先願の当初明細書の摘示(ホ)には、「本発明に係る銅合金箔製集電体は、カーボンやグラファイトよりなる炭素系材料の活物質を、集電体表面に塗布し、これをリチウムイオン二次電池の負極として用いる」と記載されており、負極活物質として、「グラファイト」、つまり、黒鉛系炭素材を塗布することが記載されている。そして、「人造黒鉛」及びこれを塗布するための結着剤として「スチレンブタジエンゴム」を含む負極活物質層は、例えば、特開平9-237631号公報【0025】、特開平8-78010号公報【0025】、特開平8-83608号公報【0027】,【0029】,【0033】?【0052】、特開平7-183027号公報【0035】,【0040】にそれぞれ記載されているように、先願の出願前において、当該技術分野において周知の負極材料にすぎない。 そして、先願発明は、集電体の導電率を大きく低下させずに、引張強さを向上させることを目的とするものであって(摘示ロ)、負極活物質層の炭素系活物質の具体的材料を特定するものではなく(摘示ホ)、一方、本件発明もまた、「銅箔の厚みを極端に薄くした場合も実使用上問題のない機械的強度を有する銅箔を用いることにより重量あたりのエネルギー密度が優れた非水電解質二次電池を提供するもの」(【0012】)であって、本件明細書には、負極活物質層の材料によりその効果が異なる、あるいは、何らかの新たな効果が奏されることを伺わせる記載もない。してみると、結局のところ、当該相違点b)は、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術の付加であって、新たの効果を奏するものではないもの)であり、実質的な差異とはならない。 IV.まとめ 上記検討より、本件発明は、先願発明と同一である。 そして、本件出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。 したがって、本件は当審拒絶の理由により拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-05-31 |
結審通知日 | 2010-06-01 |
審決日 | 2010-06-14 |
出願番号 | 特願平10-259898 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01M)
P 1 8・ 161- WZ (H01M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 浅井 雅弘 |
特許庁審判長 |
長者 義久 |
特許庁審判官 |
大橋 賢一 植前 充司 |
発明の名称 | 非水電解質二次電池 |
代理人 | 永野 大介 |
代理人 | 藤井 兼太郎 |
代理人 | 内藤 浩樹 |