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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1220829
審判番号 不服2009-5598  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-13 
確定日 2010-07-29 
事件の表示 特願2003-300131「ガス濃度測定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年3月17日出願公開、特開2005-69874〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 平成21年2月18日付けの補正の却下の決定の適否について
上記補正の却下の決定は、平成20年11月10日付けの手続補正書でした請求項1及び請求項3についての補正(以下、「本件補正」という。)が、新規事項を含むものであることを理由とするものである。
これについて、審判請求人は、上記補正の却下の決定は不適法である旨主張しているので、この決定の妥当性について、以下に検討する。

(1)本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1及び請求項3を
「【請求項1】
分析部と、試料ガスを前記分析部に導入するために除塵、除湿及び流量調節を行なう前処理部を備えた試料ガス導入流路と、ゼロ点又はスパン点を校正する際に前記前処理部を経ないで外部から校正ガスが供給される校正ガス導入口から前記分析部に校正ガスを導入する校正ガス導入流路と、これらの流路の切換えを制御する流路切換制御部と、前記試料ガス導入流路上及び校正ガス導入流路上で前記前処理部よりも下流に配置されて試料ガス又は校正ガスを前記分析部へ送出するための両流路に共通のサンプルポンプとを備え、試料ガス中の対象成分の含有ガス濃度を測定するガス濃度測定装置において、
前記試料ガス導入流路上で前記分析部に至るまでの間で流量調節を行なうのは前記前処理部のみであり、
前記試料ガス導入流路と前記校正ガス導入流路を切り換えて前記分析部に接続するために前記前処理部と前記サンプルポンプとの間に切換えバルブが設けられており、
前記流路切換え制御部は、前記切換えバルブによって流路の切換を行なうものであり、含有ガス濃度測定を停止したときに、分析部への試料ガスの導入を停止し、一定時間前記分析部に校正ガスを導入するものであることを特徴とするガス濃度測定装置。」
「【請求項3】
分析部と、試料ガスを前記分析部に導入するために除塵、除湿及び流量調節を行なう前処理部を備えた試料ガス導入流路と、ゼロ点又はスパン点を校正する際に前記分析部に校正ガスを導入する校正ガス導入流路と、これらの流路の切換えを制御する流路切換制御部と、前記試料ガス導入流路上及び校正ガス導入流路上で前記前処理部よりも下流に配置されて試料ガス又は校正ガスを前記分析部へ送出するための両流路に共通のサンプルポンプとを備え、試料ガス中の対象成分の含有ガス濃度を測定するガス濃度測定装置において、
前記試料ガス導入流路上で前記分析部に至るまでの間で流量調節を行なうのは前記前処理部のみであり、
前記試料ガス導入流路と前記校正ガス導入流路を切り換えて前記分析部に接続するために前記前処理部と前記サンプルポンプとの間に第1の切換えバルブが設けられており、
前記流路切換え制御部は、前記前処理部と前記サンプルポンプとの間に第2の切換えバルブを介して前記試料ガス導入流路及び前記校正ガス導入流路とは別に設けられて前記分析部に大気を導入しうる大気導入流路を備え、
前記流路切換え制御部は、前記第1と第2のバルブによって流路の切換を行なうものであり、含有ガス濃度測定を停止したときに、試料ガスの分析部への導入を停止し、前記大気導入流路から一定時間前記分析部に大気を導入するものであることを特徴とするガス濃度測定装置。」
とする補正を含むものである。下線は、補正箇所を示す。

(2)請求項1の補正についての検討
ア 請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「校正ガス導入流路」について、校正ガス導入口についての限定を付加し「ゼロ点又はスパン点を校正する際に前記前処理部を経ないで外部から校正ガスが供給される校正ガス導入口から前記分析部に校正ガスを導入する校正ガス導入流路」とする補正、同じく「サンプルポンプ」について、前処理部よりも下流に位置し両流路に共通するという限定を付加し、「前記試料ガス導入流路上及び校正ガス導入流路上で前記前処理部よりも下流に配置されて試料ガス又は校正ガスを前記分析部へ送出するための両流路に共通のサンプルポンプ」とする補正、同じく「バルブ」について限定を付加し、「前記試料ガス導入流路と前記校正ガス導入流路を切り換えて前記分析部に接続するために前記前処理部と前記サンプルポンプとの間に切換えバルブが設けられており」とする補正は、明細書段落【0009】に「流路Aは試料ガス導入口6から分析部2まで試料ガスを送る流路であり、流路A上には試料ガス導入口6側から、除塵、除湿、流量調節などを行なう前処理部8、バルブ10、サンプルポンプ12が順に設置されている。流路Bは校正ガス(ゼロガス、スパンガス)を校正ガス導入口7a、7bから分析部2まで送るための流路である。この流路B上には校正ガス導入口7a、7bからバルブ10を経てサンプルポンプ12により校正ガスが分析部2へ導入される。」と記載され、図1もあわせてみると、前処理部8がバルブ10より上流に設置された流路Aと、校正ガス導入口7a、7bと分析部2をつなぐ流路Bは、バルブ10で接続していることから、校正ガスは、前処理部を経ないで分析部へ供給されるといえ、サンプルポンプ12は、バルブ10の下流に配置されていることが記載されているから、これらの記載に基づく補正である。
イ 請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、前処理部が行う「流量調節」について限定を付加し規定し「前記試料ガス導入流路上で前記分析部に至るまでの間で流量調節を行なうのは前記前処理部のみであり」とする補正について検討すると、明細書段落【0009】に「流路Aは試料ガス導入口6から分析部2まで試料ガスを送る流路であり、流路A上には試料ガス導入口6側から、除塵、除湿、流量調節などを行なう前処理部8」と記載され、前処理部が流量調節も行うものであることが記載されているが、流路A上に配置された前処理部以外の、試料ガス導入口6、バルブ10及びサンプルポンプ12、及び分析部2で、流量調節を行うことは、明細書にも図面にも記載されていない。そして、分析部に至るまでの間のどこかで試料ガスの流量調節が行われれば足りることは技術常識であり、本願明細書の記載からみて、本願発明が、特に、前処理部以外でも流量調節する必要であるというものでもない。
そうすると、流量調節を行うのが前処理部のみであるとする上記補正は、明細書の上記記載及び技術常識から自明な事項を限定したものといえる。

(3)請求項3の補正についての検討
ア 請求項3に記載した発明を特定するために必要な事項である「サンプルポンプ」について、前処理部よりも下流に位置し、両流路に共通するという限定を付加し、「前記試料ガス導入流路上及び校正ガス導入流路上で前記前処理部よりも下流に配置されて試料ガス又は校正ガスを前記分析部へ送出するための両流路に共通のサンプルポンプ」とする補正、同じく「バルブ」について、「第1の切換バルブ」及び「第2の切換バルブ」と限定し、「前記試料ガス導入流路と前記校正ガス導入流路を切り換えて前記分析部に接続するために前記前処理部と前記サンプルポンプとの間に第1の切換えバルブが設けられており」、「前記前処理部と前記サンプルポンプとの間に第2の切換えバルブを介して前記試料ガス導入流路及び前記校正ガス導入流路とは別に設けられて前記分析部に大気を導入しうる大気導入流路」とする補正は、上記明細書段落【0009】及び「【0014】本実施例のガス濃度測定装置は、実施例1のガス濃度測定装置の流路A上の前処理部8とバルブ10との間にさらにバルブ11を設け、このバルブ11に大気導入口9を接続して、大気を分析部2に導入するか又は試料ガスを導入するかを切り換えることができるようになっている。判断・制御部20は、バルブ10、14、16、サンプルポンプ12の制御に加えて、バルブ11の制御も行なう。 同実施例では、測定時、ゼロ点・スパン点校正時には、バルブ11は試料ガスを導入する側に設定しておく。そして、測定を停止したときにはバルブ11は大気側に切り換えられて、大気が分析部2に導入される。」及び図3の記載に基づく補正である。
イ 請求項3に記載した発明を特定するために必要な事項である、前処理部が行う「流量調節」について限定を付加し、「前記試料ガス導入流路上で前記分析部に至るまでの間で流量調節を行なうのは前記前処理部のみであり」とする補正については、上記「(1)イ」に記載したとおりであり、明細書の記載及び技術常識から自明な事項を限定したものといえる。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許請求の範囲を減縮するものであり、かつ願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、本件補正が、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により却下するとした補正の却下の決定は妥当なものでない。
よって、上記補正の却下の決定は、取り消されるべきものである。

2 本願発明について
(1)手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年8月25日の出願であって、平成21年2月18日付けの補正の却下の決定は、上記のとおり取り消されることとなったので、その請求項1ないし3に係る発明は、平成20年11月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
これに対して、平成22年2月16日付けで拒絶理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、請求人からは何らの応答もない。

(2)平成22年2月16日付けの拒絶理由の内容は以下のとおりである。

「本件出願の請求項1ないし3に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(1)引用刊行物とその記載事項 なお、下線は当審で付加した。
刊行物1:実願昭62-38652号(実開昭63-145147号)のマイクロフィルム
刊行物2:特開2000-171358号公報
刊行物3:特開平9-297102号公報
刊行物4:特開平10-132710号公報
刊行物5:実願平5-25249号(実開平6-78845号)のCD-ROM

(刊行物1の記載事項)
(1a)「試料ガスを装置内に吸引導入するサンプリング用ポンプの前段に、その導入試料ガスに対して水分除去などの前処理を施す前処理部を設け、かつ、前記サンプリング用ポンプの後段に、前記導入試料ガスを分析するガス分析部を設けて成るガス分析装置において、
前記サンプリング用ポンプにより清浄空気を吸引導入可能に構成すると共に、その吸引導入された清浄空気を、同サンプリング用ポンプの動力を利用して、前記ガス分析部に対してパージ用空気として順方向に圧送供給し、かつ、前記前処理部に対してバックフラッシュ用空気として逆方向に圧送供給可能に構成してあることを特徴とするガス分析装置におけるパージ/バックフラッシュ用回路。」(実用新案登録請求の範囲)
(1b)「[実施例]
以下、本考案に係るガス分析装置におけるパージ/バックフラッシュ用回路の具体的な一実施例を図面(第1図)に基いて説明する。
第1図は本考案を適用して構成されたガス分析装置の全体概略構成を示している。
この図において、Iは、試料ガスを装置内に吸引導入するために必須構成要素としてガス分析装置内に本来的に装備されているサンプリング用ポンプであるが、このサンプリング用ポンプIは後述するようにパージ/バックフラッシュ用ポンプとしても兼用されるものである。IIは、そのサンプリング用ポンプIの前段に設けられた導入試料ガスに対する前処理部であって、オイルを除去するためのオイルキャッチャー1、定温化兼水分除去用の熱交換器2、その熱交換器2に連結された開閉電磁弁3付きのドレンポット4、フィルター5等から構成されている。IIIは、前記サンプリング用ポンプIの後段に設けられた導入試料ガスに対するガス分析部であって、試料ガス、ゼロガス、スパンガスを選択的に切り換え流通させるための多方電磁弁6、ガス分析計7、流量計8等から成る分析ユニット9・・・と、それら分析ユニット9・・・へ導入されるガスの圧力を所定の値に維持するためのバックプレッシャレギュレータ10とを備えている。なお、このバックプレッシャレギュレータ10の設定圧力は、ガス分析操作状態においては比較的低く(例えば0.2kg/cm^(2))、一方、パージ/バックフラッシュ操作状態においては比較的高く(例えば0.3kg/cm^(2))、夫々自動的に設定されるようになっている。
そして、前記前処理部IIとサンプリング用ポンプIとの間には、ガス分析操作時に開成されパージ/バックフラッシュ操作時に閉成される開閉電磁弁IVが介装され、その開閉電磁弁と前記サンプリングポンプIとの間の流路に対して、定温化用の熱交換機11、エアフィルター12、ガス分析操作時に開成される開閉電磁弁13等を備えた清浄空気吸引導入路Vが導入接続されている。
また、前記サンプリング用ポンプIとガス分析部IIIとの間における流路から分岐導出されて、前記前処理部IIと開閉電磁弁IVとの間における流路へ至る清浄空気バイパス流路VIが設けられ、この清浄空気バイパス流路VIには、ガス分析操作時に閉成されパージ/バックフラッシュ操作時に開成される開閉電磁弁14と、流路内圧力を前記バックプレッシャレギュレータ10による高い方の設定圧力よりも低い圧力(例えば0.2?0.25kg/cm^(2))に設定する圧力調整弁15とが介装されている。」(第9頁14行?第12頁4行)
(1c)第1図には、前処理部IIとガス分析部IIIの間に、清浄空気吸引導入流路VとポンプIを順次配置したガス分析装置が図示されている。

(刊行物2の記載事項)
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】サンプリングプローブから採取したサンプルガスを分析計に導入する導入路に、前記分析計の校正を行うための校正用ガスを前記分析計に導入する校正用ガス導入路を接続させるとともに、この接続部に前記サンプルガスと校正用ガスのいずれかを分析計に切り替え導入させる切替用弁機構を設けたガス分析計において、前記切替用弁機構のサンプリングプローブ側導入路に、サンプルガスを流通させるか大気と開通させて大気を分析計側に導通させるかの切替を行う大気導入用弁機構を設けたことを特徴とするガス分析計。」
(2b)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】このような従来の分析システムにおける校正は、サンプルガス中の被測定ガスが流路系中から完全に排気されてから行うが、このサンプルガスの流路系中からの完全なるパージには相当な時間がかかり、校正ラインの配管内のガスが完全に校正ガスに置換される迄に多大な時間が必要となる。その結果、この間高価な校正ガスを消費せざるを得なかった。また、校正を完了して校正ガスを完全にパージするにも相当の時間を要する。従って、分析作業が長時間化するという問題がある。本発明は、このような課題を解決するガス分析計を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明のガス分析計は、上記目的を達成するために、サンプリングプローブから採取したガスを分析計に導入する導入路に、前記分析計の校正を行うための校正用ガスを前記分析計に導入する校正用ガス導入路を接続させるとともに、この接続部に前記サンプルガスと校正用ガスのいずれかを分析計に切り替え導入させる切替用弁機構を設けたガス分析計において、前記切替用弁機構のサンプリングプローブ側導入路に、サンプルガスを流通をさせるか大気と開通させて大気を分析計側に導通させるかの切替を行う大気導入用弁機構を設けたものである。すなわち、校正時、校正ガスを分析計に導入する前に大気を導入して、配管内から被測定ガスを迅速且つ確実に排出し、その後校正ガスを導入する。」
(2c)図1には、サンプルガス導入路に、大気吸入フィルタ(18)及び三方コック(17)を介して接続された大気導入路と、ゼロガス(5)及びスパンガス(7)を導入する導入路が、前後して配置されたガス分析計が図示されている。(第4頁【図1】)

(刊行物3の記載事項)
(3a)「【0008】
【実施例】図4は一実施例のSO_(2)測定装置の全体構成を表わしたものである。図1と同一の部材には同一の符号を用いる。吸引ポンプ2によりサンプルガスを吸引して分析計4aに導入するサンプルガス導入流路6には、ポンプ2の上流に流量調整弁8が設けられ、ポンプ2と分析計4aの間にはサンプルガス中の水分濃度を一定に保つ定湿装置としての除湿器10が設けられている。
【0009】標準ガス導入流路14とサンプルガス導入流路6との接続部である三方コック12の位置は、図1では除湿器10よりも上流側であるが、実施例では除湿器10よりも下流側、すなわち除湿器10と分析計4aの間に変更されている。標準ガス導入流路14にはSO_(2)を含まないゼロガスのボンベ16とSO_(2)を一定濃度で含むスパンガスのボンベ18とがそれぞれ開閉弁20,22を介して接続されており、さらに乾燥ガスを供給できる乾燥ガス流路40が接続されている。サンプルガス導入流路6で、流量調整弁8よりも上流側には三方コック42を介して、大気を導入できる大気導入口44が接続されている。」
(3b)図4には、サンプルガス流路に、流量調整弁(8)、ポンプ(2)、除湿器(10)、ゼロガス(16)及びスパンガス(18)を導入する三方コック(12)、分析計(4a)を順次配置したガス分析装置が図示されている。(第4頁【図4】)

(刊行物4の記載事項)
(4a)「【0002】
【従来の技術】例えば、大気中のNO_(x) 、CO、CO_(2) 、O_(2) 等を連続して測定するのに連続ガス分析計が使用される。この連続ガス分析計の一般的な構成の概略を図2に示す。
【0003】サンプリングプローブ等で大気中の試料ガスが採取され、試料ガス入口から前処理部21を通って、試料ガスからほこりや水分が除去され、三方切換弁22から分析計24へ導かれてガス分析が行われる。
【0004】分析計24では測定対象のガス成分に応じて、成分測定セルが設けられており、直列に接続された成分測定セルA、B、Cに試料ガスを順番に通過させて各測定セルで目的成分を検出器で測定することによって、連続的にガス成分が検出される。
【0005】ところで、各目的成分の測定を正確に行うために、各測定セルに設けられている各検出器の校正が行われ、この校正にゼロガスとスパンガスが使用される。
【0006】ゼロガスは測定対象となるガス成分を全く含まない例えば、N_(2) 等が用いられ、このゼロガスは三方切換弁22が切り換えられ、二方弁23が開けられたときに成分測定セルA、B、Cに順番に供給されて各検出器のゼロ点が校正される。一方、感度を校正するために、スパンガスを各測定セルに導入するわけであるが、各成分測定セルA、B、Cで測定しようとしているガス成分が例えば、各々NO、CO、CO_(2) であるならば、スパンガスAに所定濃度のNOを、スパンガスBに所定濃度のCOを、スパンガスCに所定濃度のCO_(2) を用いる。
【0007】そして、スパン校正を行う場合には、三方切換弁22をスパンガスの供給流路側に切り換えておき、二方弁Aを開けてスパンガスAを流してまず測定セルAの検出器を校正し、このガスをガス出口から排出してから、二方弁Bを開けてスパンガスBを流して測定セルBの検出器を校正し、このガスをガス出口から排出してから、二方弁Cを開けてスパンガスCを流して測定セルCの検出器を校正していた。」
(4b)図2には、前処理部(21)と分析計(24)との間に、三方切換弁を介して、ゼロガス及びスパンガス流路が接続された従来のガス分析装置が示されている。(第4頁【図2】)

(刊行物5の記載事項)
(5a)「【0019】
ステップ1:測定準備として、ゼロガスおよびスパンガスによりNO分析計Cのゼロ点調整およびスパン調整を行う。」
(5b)図2には、ガスサンプリング管1、コンバータ3、ニードルバルブ4、ガスサンプリングポンプ5、流量計6、NO分析計Cを順次備えたラインと、ポンプの下流でバルブを介してラインに接続したゼロガスとスパンガスのラインを備えたガスサンプリング装置が示されている。(第2頁【図2】)

(2)対比・判断
刊行物1の上記記載事項(上記(1a)(1b)(1c))から、刊行物1には、
「試料ガスを装置内に吸引導入するサンプリング用ポンプ(I)の前段に、その導入試料ガスに対して水分除去などの前処理を施す前処理部(II)を設け、かつ、サンプリング用ポンプの後段に、試料ガスを分析するガス分析部(III)を設けてなるガス分析装置において、
前処理部(II)は、オイルを除去するためのオイルキャッチャー(1)、定温化兼水分除去用の熱交換器(2)、フィルター(5)等から構成され、
ガス分析部(III)は、試料ガス、ゼロガス、スパンガスを選択的に切り換え流通させるための多方電磁弁(6)、ガス分析計(7)、流量計(8)からなる分析ユニット(9)と、分析ユニット(9)へ導入されるガスの圧力を所定の値に維持するためのバックプレッシャレギュレータ(10)とを備え、
サンプリング用ポンプ(I)により清浄空気を吸引導入可能に、前処理部(II)とサンプリング用ポンプ(I)との間に開閉電磁弁(IV)が介装され、その開閉電磁弁(IV)とサンプリングポンプ(I)との間の流路に対して、定温化用の熱交換器(11)、エアーフィルター(12)、開閉電磁弁(13)を備えた清浄空気吸引導入流路(V)を設けると共に、その吸引導入された清浄空気を、サンプリング用ポンプ(I)の動力を利用して、ガス分析部(III)に対してパージ用空気として順方向に圧送供給し、かつ、前処理部(II)に対してバックフラッシュ用空気として逆方向に圧送供給可能に構成したガス分析装置」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。
そこで、本願請求項1ないし3に係る発明(以下「請求項1発明」ないし「請求項3発明」という。)と刊行物1発明とを比較し検討する。

ア 請求項1発明について
(ア)刊行物1発明の「ガス分析部」は、請求項1発明の「分析部」に相当し、刊行物1発明の「ゼロガス」及び「スパンガス」は、ともに請求項1発明の「校正ガス」に相当する。
(イ)刊行物1発明の「清浄空気」は、「ガス分析部(III)に対してパージ用空気として順方向に圧送供給」されるものである。そして、パージガスは、ガス流路や分析部等を清浄化するために流すものであり、ガス分析が停止され、試料ガスが分析部に導入されていないときに、一定時間ガス分析部へ導入されるガスであるから、刊行物1発明の「清浄空気」と、請求項1発明の「校正ガス」とは、ガス濃度測定を停止し、分析部への試料ガスの導入を停止したときに、一定時間分析部に導入する清浄化ガスである点で共通している。
また、刊行物1発明の「清浄空気吸引導入流路」と請求項1発明の「校正ガス導入路」とは、清浄化ガス導入路である点で共通している。
(ウ)刊行物1発明の「試料ガスを装置内に吸引導入するサンプリング用ポンプ」は、その前段に前処理部、後段にガス分析部が設けられており、「サンプリング用ポンプ(I)により清浄空気を吸引導入可能に、前処理部(II)とサンプリング用ポンプ(I)との間に開閉電磁弁(IV)が介装され」「その開閉電磁弁(IV)とサンプリングポンプ(I)との間の流路に対して」、「清浄空気吸引導入流路(V)を設けると共に、その吸引導入された清浄空気を、サンプリング用ポンプ(I)の動力を利用して、ガス分析部(III)に対してパージ用空気として順方向に圧送供給」するものであるから、刊行物1発明の「試料ガスを装置内に吸引導入するサンプリング用ポンプ」と、請求項1発明の「前記試料ガス導入流路上及び校正ガス導入流路上で前記前処理部よりも下流に配置されて試料ガス又は校正ガスを前記分析部へ送出するための両流路に共通のサンプルポンプ」とは、試料ガス導入流路上及び清浄化ガス導入流路上で前処理部よりも下流に配置されて試料ガス又は清浄化ガスを分析部へ送出するための両流路に共通のサンプルポンプである点で共通している。
(エ)刊行物1発明の「試料ガスに対して水分除去などの前処理を施す前処理部」は、「オイルを除去するためのオイルキャッチャー(1)、定温化兼水分除去用の熱交換器(2)、フィルター(5)等から構成され」ており、フィルターは除塵、水分除去は除湿であるから、請求項1発明の「試料ガスを前記分析部に導入するために除塵、除湿及び流量調節を行なう前処理部」とは、試料ガスを分析部に導入するために除塵、除湿を行なう前処理部である点で共通している。
(オ)刊行物1発明の、「前処理部(II)とサンプリング用ポンプ(I)との間」に介装された「開閉電磁弁(IV)」は、請求項1発明の「前記試料ガス導入流路と前記校正ガス導入流路を切り換えて前記分析部に接続するために前記前処理部と前記サンプルポンプとの間に」設けられた「切換えバルブ」に相当する。
(カ)刊行物1発明の、「サンプリング用ポンプ(I)」、「前処理部(II)」「ガス分析部(III)」は、試料ガス導入路に備えられているといえる。
(キ)刊行物1発明の「ガス分析装置」は、例えば、自動車の排気ガス分析を行うものであり、試料ガス中の対象成分の濃度を測定するものといえるから、請求項1発明の「試料ガス中の対象成分の含有ガス濃度を測定するガス濃度測定装置」に相当する。

したがって、両者との間には、以下の一致点及び相違点がある。
(一致点)
分析部と、試料ガスを前記分析部に導入するために除塵、除湿を行なう前処理部を備えた試料ガス導入流路と、清浄化ガス導入流路と、試料ガス導入流路上及び清浄化ガス導入流路上で前処理部よりも下流に配置されて試料ガス又は清浄化ガスを前記分析部へ送出するための両流路に共通のサンプルポンプとを備え、試料ガス中の対象成分の含有ガス濃度を測定するガス濃度測定装置において、
前記試料ガス導入流路と前記清浄化ガス導入流路を切り換えて前記分析部に接続するために前記前処理部と前記サンプルポンプとの間に切換えバルブが設けられており、
含有ガス濃度測定を停止したときに、分析部への試料ガスの導入を停止し、一定時間前記分析部に清浄化ガスを導入するものであるガス濃度測定装置である点。

(相違点1)
清浄化ガスが、請求項1発明では、ゼロ点又はスパン点を校正する際に前処理部を経ないで外部から供給される校正ガスであのに対して、刊行物1発明では、清浄空気であり、空気を定温化用の熱交換器(11)、エアーフィルター(12)を通して清浄化したものである点。

(相違点2)
請求項1発明では流量調節を前処理部で行い、試料ガス導入流路上で分析部に至るまでの間で流量調節を行なうのは前処理部のみであるのに対して、刊行物1発明は、流量調節は、ガス分析部(III)に設けられた、導入されるガスの圧力を所定の値に維持するためのバックプレッシャレギュレータ(10)で行うものである点。

(相違点3)
請求項1発明では、試料ガス導入流路と校正ガス導入流路を、切換えバルブを切換えて制御する流路切換制御部を有するのに対して、刊行物1発明が、開閉電磁弁を切換える制御部を有することを規定していない点。

そこで、上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
刊行物2には、従来技術として、ゼロガス、スパンガスといった校正ガスをパージに用いることが記載され、従来技術の問題点を解決し迅速で安価にパージを行うために、フィルターを通した大気を用いてパージを行うことが記載されていることから、校正ガスまたは清浄空気を用いてパージすることは、本願出願前の周知技術であったといえる。そして、校正ガスを前処理部を介さずに用いることも、刊行物1、刊行物3ないし5にも記載されるように本願出願前の周知技術であるところ、刊行物1発明において、前処理部を介さずにガス分析部に直接導入されている校正ガスを、清浄空気が導入される流路から、清浄空気に代えて導入するようにすることは、当業者が容易になし得たものといえる。

(相違点2について)
刊行物1(上記(1b))には、分析計の後段のバックプレッシャレギュレータ(10)を調節して、パージガスである清浄空気を流す場合は、バックプレッシャレギュレータの圧力を、試料ガスを流す場合に比べて高くして、分析計により多くのガスが通過するようにすることが記載されている。
そして、ガス分析装置において、流量調節をガス流路のどこで行うかは、ガス分析計に適切な圧力でガスが供給されるように、流路の構成に応じて決定されるものといえるところ、刊行物3には、前処理部といえる除湿器(10)の前に流量調整弁(8)が配置され、ゼロガス及びスパンガスがこの弁を通過しない流路構成となったものが記載され、刊行物5には、前処理部といえるコンバーター(3)の後ろに、通常流量調節機能を有するバルブである、ニードルバルブ(4)が配置され、ゼロガス及びスパンガスがこのバルブを通過しない流路構成となったものが記載されており、流量調節手段が、前処理部といえる位置にのみ配置され、ゼロガスやスパンガスについては、流量調節なしに供給されるガス分析装置も本願出願前に周知であるから、刊行物1発明において、清浄空気を流す場合により多くのガスがガス分析部を通過するように調節可能に配置したバックプレッシャレギュレータに代えて、より多くの清浄空気がガス分析部を通過するように、前処理部にのみ流量調節手段を設け、清浄空気がこれを通過しないようにすることは当業者が容易になし得たものといえる。
なお、刊行物1発明は、前処理部に対してバックフラッシュ用空気を逆方向に圧送供給可能に構成され、具体的には、清浄空気バイパス流路(VI)を形成し、その流路内に圧力調整弁(15)を有するものであるが、このバイパス流路は、請求項1発明の試料ガス導入流路及び校正ガス導入流路のいずれにも該当するものではなく、刊行物1発明は、試料ガス導入流路及び校正ガス導入流路に相当する流路に存在する圧力調整手段は、バックプレッシャレギュレータのみである。また、前処理部にパージが不要であれば、バックフラッシュのためのバイパス流路を省くことは、当業者が適宜になし得ることである。

(相違点3について)
切換バルブの切換えを手動で行うか制御装置により自動で行うかについては、刊行物1には特段の記載がないが、分析装置の自動化は広く行われていることであり、制御部で切換えるようにすることは、本願出願前の周知慣用手段であるから、これを採用することに格別の困難性はない。

そして、請求項1発明の効果は、刊行物1ないし5の記載事項から予測し得たものであり、格別顕著なものとはいえない。

イ 請求項2発明について
ゼロガスでパージすることは、刊行物2の従来技術として記載されるように周知技術である。

ウ 請求項3発明について
刊行物2には、ゼロガス及びスパンガスの導入路と大気の導入路の両方を、試料ガス導入路に前後して、それぞれ切換えバルブを介して配置したガス分析装置が記載されており、刊行物1発明において、ゼロガス及びスパンガスの導入路を、ガス分析部に配置することに代えて、清浄空気導入路に前後して配置し、必要な切換えバルブを設けることは、当業者が容易になし得たものといえる。
そして、請求項3発明の効果は、刊行物1ないし5の記載事項から予測し得るものであり、格別顕著なものとはいえない。」

(3)むすび
そして、上記拒絶理由は妥当なものと認められ、その理由のとおり、本願請求項1ないし3に係る発明は、刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-26 
結審通知日 2010-06-01 
審決日 2010-06-14 
出願番号 特願2003-300131(P2003-300131)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷 潮  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 岡田 孝博
後藤 時男
発明の名称 ガス濃度測定装置  
代理人 阿久津 好二  
代理人 喜多 俊文  
代理人 江口 裕之  

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