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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03H
管理番号 1220987
審判番号 不服2008-656  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-10 
確定日 2010-07-28 
事件の表示 特願2003- 15007「表面波装置及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月12日出願公開、特開2004-228985〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成15年1月23日の特許出願であって、平成19年12月3日付けで拒絶査定され、これに対して平成20年1月10日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年2月8日付けで手続補正書が提出され、当審において平成22年1月19日付けで拒絶理由が通知されたものである。


2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成20年2月8日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下「本願発明」という)。

「【請求項1】 オイラー角(0±2°,104°以上、124°以下,0±2°)のLiTaO_(3)からなる圧電基板と、
前記圧電基板上に形成されており、膜厚をH、表面波の波長をλとしたときに、規格化膜厚H/λが0.008?0.06の範囲にあり、密度が8700?10300kg/m^(3)、ヤング率が1.8×10^(11)?4×10^(11)N/m^(2)あるいは横波音速が3170?3290m/秒である金属もしくは該金属を主体とする合金からなるIDTと、
前記IDTを覆うように前記圧電基板上に形成されており、膜厚をHsとしたときに、表面波の波長で規格化された膜厚Hs/λが0.10?0.40の範囲にあるSiO_(2)膜とを備えることを特徴とする、表面波装置。」


3.引用例
(1)引用例1について
当審において通知した拒絶の理由に引用された特開平7-15274号公報(以下、「引用例1」という)には、下記の事項が記載されている。

(ア)「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、高結合の圧電性基板表面に逆の温度特性をもつ薄膜を付着させることにより高安定、低挿入損失のフィルタを得ることを目的としている。SiO_(2)/128゜Y-X LiNbO_(3)基板、SiO_(2)/36゜Y-X LiTaO_(3)基板、SiO_(2)/41゜Y-X LiNbO_(3)基板、SiO_(2)/64゜Y-XLiNbO_(3)、SiO_(2)/126゜Y-X LiTaO_(3)において、それらのカット角が128゜、36゜、41゜、64゜、126゜いずれもその値から±20゜の範囲であり、SiO_(2)膜の膜厚として、薄膜の膜厚をH、弾性表面波の動作中心周波数をλ_(0)として、H/λ_(0)の値が0.03から0.5の範囲の弾性表面波基板を用いた超高周波の弾性表面波フィルタ及び弾性表面波機能素子を作製することにより、広い帯域幅をもち、しかも温度の変化に対する周波数の変化の小さい低挿入損失のフィルタを得ることを目的としている。特に、上記のSiO_(2)/LiNbO_(3)、SiO_(3)/LiTaO_(3)基板を多位相型の一方向性の低挿入損失フィルタ及び内部反射型一方向性すだれ状電極弾性表面波変換器を用いたフィルタ及び共振器型のすだれ状電極を用いたフィルタ及び集積型のすだれ状電極を用いた低損失フィルタに応用することにより、低挿入損失のフィルタが得られる。特にGHz帯では、SiO_(2)の膜厚を1μm以下としても良好な温度特性をもつ基板が得られるので、実用上有用である。更に、LiNbO_(3)、LiTaO_(3)基板にH/λ_(0)の値で、0.3以下では電気機械結合係数が大きくなるので、広帯域特性に優れたフィルタが得られる。また、挿入損失を小さくするためには、薄膜による伝搬損失が重要であるが、実験の結果、1GHzの周波数でも、0.01dB/λ以下と非常に小さい。また、薄膜をつけたことによるフィルタの中心周波数の変化も非常に小さい。」

よって、上記(ア)及び関連図面の記載から、引用例1には、
「36゜Y-X LiTaO_(3)基板においてカット角が36゜±20゜の範囲とされた圧電基板と、
前記圧電基板上に形成されたすだれ状電極と、
前記すだれ状電極を覆うように前記圧電基板上に形成されたSiO_(2)膜とを備えた弾性表面波フィルタ。」
の発明(以下、「引用発明1」という)が記載されている。

(2)引用例2について
当審において通知した拒絶の理由に引用された特開2002-152003号公報(以下、「引用例2」という)には、下記の事項が記載されている。

(イ)「【0018】第2の発明の別の特定の局面では、前記圧電性基板が36°回転Y板X伝搬LiTaO_(3)基板からなり、前記IDT及び反射器がAu、Ta、W、Ag、Cr、Cu、Mo、NiまたはZnからなり、表面波の波長をλと、IDT及び反射器の膜厚をHとしたときに、規格化膜厚H/λが、Auの場合に0.006?0.07、Taの場合に0.0085?0.07、Wの場合に0.008?0.07、Agの場合に0.014?0.07、CuもしくはMoの場合に0.017?0.07、並びにNiもしくはCrの場合に0.02?0.07並びにZnの場合に0.023?0.07の範囲とされている。」

(ウ)上記(イ)に記載された「36°回転Y板X伝搬LiTaO_(3)基板」は、「36゜Y-X LiTaO_(3)基板」に対応することは明らかである。

よって、上記(イ)乃至(ウ)及び関連図面の記載から、引用例2には、
「36゜Y-X LiTaO_(3)基板と、
前記基板上に形成されされており、IDTの膜厚をH、表面波の波長をλとしたときに、規格化膜厚H/λが、Moの場合に0.017?0.07、Niの場合に0.02?0.07の範囲とされたIDTとを備えた弾性表面波フィルタ。」
の発明(以下、「引用発明2」という)が記載されている。


4.対比
(1)本願発明と引用発明1との対応関係について
引用発明1の「すだれ状電極」は、本願発明の「IDT」に相当している。

引用発明1は、弾性表面波フィルタに関するものであり、LiTaO_(3)からなる圧電基板上にすだれ状電極とSiO_(2)膜を備える構成になっている。これに対して、本願明細書の段落番号0001には、本願発明の表面波装置が表面波フィルタなどに用いられることが記載され、また、本願発明がLiTaO_(3)からなる圧電基板上にIDTとSiO_(2)膜を備えた構成であることから、引用発明1の「弾性表面波フィルタ」は、本願発明の「表面波装置」に相当している。

(2)本願発明と引用発明1の一致点について
上記の対応関係から、本願発明と引用発明1は、
「LiTaO_(3)からなる圧電基板と、
前記圧電基板上に形成されたIDTと、
前記IDTを覆うように前記圧電基板上に形成されたSiO_(2)膜とを備えることを特徴とする、表面波装置。」
の点で一致している。

(3)本願発明と引用発明1の相違点について
本願発明と引用発明1とは、下記の点で相違する。
(相違点A)
本願発明の圧電基板は、「オイラー角(0±2°,104°以上、124°以下,0±2°)のLiTaO_(3)からなる」ものであるのに対し、引用発明1は36゜Y-X LiTaO_(3)基板においてカット角が36゜±20゜の範囲とされた圧電基板である点。

(相違点B)
本願発明のIDTは、「膜厚をH、表面波の波長をλとしたときに、規格化膜厚H/λが0.008?0.06の範囲にあり、密度が8700?10300kg/m^(3)、ヤング率が1.8×10^(11)?4×10^(11)N/m^(2)あるいは横波音速が3170?3290m/秒である金属もしくは該金属を主体とする合金からなる」ものであるのに対し、引用発明1はそのような構成とはなっていない点。

(相違点C)
本願発明のSiO_(2)膜は、「膜厚をHsとしたときに、表面波の波長で規格化された膜厚Hs/λが0.10?0.40の範囲にある」ものであるのに対し、引用発明1はそのような構成とはなっていない点。


5.当審の判断
(1)相違点Aについて
36゜Y-X LiTaO_(3)基板として、オイラー角表示で(0°,126°,0°)となるものが一般に利用されることを考慮すると、引用発明1の「36゜Y-X LiTaO_(3)基板においてカット角が36゜±20゜の範囲とされた圧電基板」は、オイラー角表示で(0°,106°以上、146°以下,0°)のLiTaO_(3)からなる圧電基板であるということができる。
平成20年2月8日付けで請求の理由について提出された手続補正書には、本願発明のオイラー角θを124°以下に数値限定した根拠が出願当初の図3の記載に基づくものであることが、請求理由の(3)に記載されている。しかしながら、図3にはオイラー角のθに対して電気機械結合係数K^(2)の大きさが連続的に変化することが記載されており、例えばθが124°の場合の電気機械結合係数K^(2)の大きさが、θが125°以上の場合の電気機械結合係数K^(2)の大きさに比べて、際だって大きな値になっているとはいえないので、本願発明のオイラー角の数値限定に臨界的意義があるとは認められない。
また、弾性表面波フィルタ素子を形成する場合に、電気機械結合係数等の重要な特性が良好な値となるようにカット角を探索することは、例えば特開昭61-6919号公報に、「ここで使用した共振子は、基板1が40°rotY LiTaO_(3)で、該基板1の表面にすだれ状電極体2が形成され、・・・(中略)・・・第6図から理解される通り、伝搬方向ψが1°±5°が使用可能で、1°?3°が良好であり、特に1°の時が最も高いQ値600が得られた。この際の基板特性を表2に示す。表1に示す従来の圧電基板に比較して結合係数が大きく、温度係数も良好である。また、本発明者らはφ,θについてもLiTaO_(3)圧電結晶を種々カットして調べた結果、φ=0°±5°、θ=130°±5°が良好で、それ以外のカット角度は結合係数が小さく、温度係数も良好なものではなかった」(公報第3頁右下欄第4行?第4頁左上欄第5行)と記載されているように周知技術である。
してみると、引用発明1の圧電基板を、オイラー角表示で(0°±2°,104°以上、124°以下,0°±2°)であるようにすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(2)相違点Bについて
ニッケルは、密度が8900kg/m^(3)、ヤング率が2.07×10^(11)N/m^(2)の金属であり、モリブデンは、密度が10220kg/m^(3)、ヤング率が3.24×10^(11)N/m^(2)の金属であることは明らかであり、上記3.(2)に記載したように、引用例2には、
「36゜Y-X LiTaO_(3)基板と、
前記基板上に形成されされており、IDTの膜厚をH、表面波の波長をλとしたときに、規格化膜厚H/λが、Moの場合に0.017?0.07、Niの場合に0.02?0.07の範囲とされたIDTとを備えた弾性表面波フィルタ。」
の引用発明2が記載されていることから、本願発明のIDTを形成する金属は、引用発明2のIDTを形成する金属を含み、本願発明の規格化膜厚H/λの範囲は、引用発明2の規格化膜厚H/λの範囲と、その大部分が重複した値になっている。
また、本願明細書及び図面の記載では、本願発明の規格化膜厚H/λを相違点Bの範囲に限定したことに臨界的意義があるとは認められない。
引用発明2には、カット角が35°未満のLiTaO3基板を用いた場合にMoまたはNiからなる金属で形成されたIDTを採用することは記載されていない。しかしながら、上記5.(1)に記載したように、弾性表面波フィルタ素子を形成する場合、電気機械結合係数等の重要な特性が良好な値となるようにカット角を探索することは周知技術にすぎないことから、IDTをMoまたはNiからなる金属で形成した場合に、35°未満となるカット角においても特性が良好となるカット角を探索することは、当業者に普通に期待できることである。
してみると、引用発明1のIDTとして、相違点Bの規格化膜厚H/λである0.008?0.06の範囲の大部分と重複した範囲になっている引用発明2のIDT構成を採用して、相違点Bの構成とすることは、当業者にとって容易に想到し得たものである。

(3)相違点Cについて
上記3.(1)(ア)には、引用例1に良好な温度特性を有するSiO_(2)膜の膜厚として、「SiO_(2)膜の膜厚として、薄膜の膜厚をH、弾性表面波の動作中心周波数をλ_(0)として、H/λ_(0)の値が0.03から0.5の範囲」とすることが記載されている。該記載では、「λ_(0)」を弾性表面波の動作中心周波数と定義しているが、弾性表面波フィルタの分野では、膜厚を特定する規格化膜厚は、薄膜の膜厚をH、弾性表面波の動作中心周波数の波長をλとすると一般にH/λと定義され、また、数値を規定する記号として周波数はf、波長はλが用いられることは技術常識であることから、上記「λ_(0)」は弾性表面波の動作中心周波数ではなく、弾性表面波の動作中心周波数の波長の誤記であると解される。よって、引用例1には、SiO_(2)膜の膜厚として、薄膜の膜厚をH、弾性表面波の動作中心周波数における波長をλ_(0)として、H/λ_(0)の値が0.03から0.5の範囲にすることが記載されているといえ、該範囲は相違点Cである本願発明の「膜厚をHsとしたときに、表面波の波長で規格化された膜厚Hs/λが0.10?0.40の範囲」を含んだものとなっている。
また、弾性表面波フィルタの分野では、良好な温度特性を得るため、IDTを覆うように圧電基板上にSiO_(2)膜を形成することは周知技術であり、例えば、SiO_(2)膜の膜厚をH、表面波の波長をλとしたときのH/λの値として、特開平8-265088号公報には、22%≦H/λ≦38%とすることが記載され、特開平2-37815号公報には、18%≦H/λ≦24%とすることが記載され、これらの範囲は相違点Cである本願発明の「膜厚をHsとしたときに、表面波の波長で規格化された膜厚Hs/λが0.10?0.40の範囲」内に含まれたものとなっている。
そして、本願明細書及び図面の記載では、本願発明の規格化された膜厚Hs/λを相違点Cの範囲に限定したことに臨界的意義があるとは認められない。
してみると、引用発明1のSiO_(2)膜として、SiO_(2)膜の膜厚をHとし表面波の波長λ_(0)で規格化された膜厚H/λ_(0)を0.10?0.40の範囲とすることは、当業者にとって容易に想到し得たものである。

(4)本願発明の作用効果について
本願発明の作用効果も、引用発明1乃至2及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。


6.むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明1乃至2及び周知技術に基いて容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について、検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-28 
結審通知日 2010-05-11 
審決日 2010-05-24 
出願番号 特願2003-15007(P2003-15007)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 弘亘佐藤 聡史  
特許庁審判長 小曳 満昭
特許庁審判官 飯田 清司
長島 孝志
発明の名称 表面波装置及びその製造方法  
代理人 宮▲崎▼ 主税  

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