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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60R
管理番号 1220998
審判番号 不服2009-1022  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-01-13 
確定日 2010-07-28 
事件の表示 特願2003-559830号「低靱性糸から製造したエアバッグ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月24日国際公開、WO03/59702、平成17年 5月19日国内公表、特表2005-514267号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、2002年(平成14年)12月18日(パリ条約による優先権主張2002年(平成14年) 1月 8日を国際出願日とする特許出願であって、平成20年10月 6日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成21年 1月13日付けで本件審判請求がなされるとともに、同年 2月10日付けで手続補正(前置補正)がなされたものである。

II.平成21年 2月10日付けの手続補正の却下
[補正却下の決定の結論]
平成21年 2月10日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
50?40cN/texの靱性を有するポリエステルマルチフィラメント糸を含む少なくとも1つの織物ブランクを含んでなるエアバッグクッションであって、その少なくとも1つの表面に0.5?2.0オンス/平方ヤードの量で適用された少なくとも70%のシリコーン樹脂の被覆を含み、少なくとも1つの三ステッチまたは二ステッチ折り畳みシームをさらに含んでなるエアバッグクッション。」
と補正された。
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「約60cN/tex以下の靱性を有するマルチフィラメント糸」を「50?40cN/texの靱性を有するポリエステルマルチフィラメント糸」と、また、「少なくとも1つの三ステッチまたは二ステッチ折り畳みシームをさらに含んでなるエアバッグクッション」を「その少なくとも1つの表面に0.5?2.0オンス/平方ヤードの量で適用された少なくとも70%のシリコーン樹脂の被覆を含み、少なくとも1つの三ステッチまたは二ステッチ折り畳みシームをさらに含んでなるエアバッグクッション」とそれぞれ限定するものであって、この限定した事項は、願書に最初に添付された明細書又は図面に記載されており、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではないから、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例の記載事項
原査定の平成20年 1月 9日付けの拒絶理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-278712号公報(以下「引用例1」という。)には、「エアバッグ及びその製造方法」に関し、図面とともに以下の事項が記載または示されている。

a:「【0001】
【発明の属する技術分野】自動車の衝突時に、乗員と自動車の内装材との間に展開して、乗員が受ける衝撃を緩和するエアバッグ及びその製造方法に関するものである。」

b:「【0021】
【発明の実施の形態】次に、本発明の実施の形態について、以下図1?3に基づいて説明する。図1は、本発明の2ピースによるエアバッグを背面から見た外観図を示す。このエアバッグは、大きくはパネル側布帛1と乗員側布帛2との2つの分割ピースよりなる。そして、パネル側布帛1は、更に分割されて、第1のパネル側布帛1Aと第2のパネル側布帛1Bとの2つの平面状の分割ピースとなる。第1のパネル側布帛1Aと第2のパネル側布帛1Bとは縫合されることにより一体化するが、その縫合は、両者の結合を確実なものとしなければならない。
【0022】そのため、図3に示すような、縫合手法が採用される。(A)は、折り伏せ縫いであり、この縫い代部11は、第1のパネル側布帛1Aを二つに折った状態にし、第2のパネル側布帛1Bを重ねて2箇所で縫うことにより形成される。
【0023】(B)は、合わ縫い片倒しステッチであり、この縫い面は、第1のパネル側布帛1Aと第2のパネル側布帛1Bを重ねて縫っておき、更に、その縫い代部11を第1のパネル側布帛1Aに折り曲げ、その状態で2箇所で縫うことにより形成される。」

c:「【0026】第1のパネル側布帛1Aと第2のパネル側布帛1Bとを縫合して一体となったパネル側布帛1は、全周囲が乗員側布帛2と縫合されている。第1のパネル側布帛1Aと第2のパネル側布帛1Bとの縫い代部11が、比較的硬く強化された状態となる。この場合の縫合は、上記の第1のパネル側布帛1Aと第2のパネル側布帛1Bとの縫合手法が適応される。」

d:「【0033】この縫合に際しては、既に述べたような、伏せ縫い、折り伏せ縫い、袋縫い等による縫合が行われることにより、縫い代部11の強度が向上する。両布帛の境界が強度と腰のある縫い代部ラインに形成される。最後に第1のパネル側布帛1Aと第2のパネル側布帛1Bとの縫合によりできたパネル側布帛1と乗員側布帛2とを縫合する。この縫合に際しても、既に述べたような、伏せ縫い、折り伏せ縫い、袋縫い等による縫合が行われる。
【0034】ところで、本発明に用いられる布帛の繊維材料は、例えばナイロン6、66、46等のポリアミド繊維;パラフェニレンテレフタルアミド、及び芳香族エ-テルとの共重合体等に代表される芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維);ポリアルキレンテレフタレ-トに代表されるポリエステル繊維;全芳香族ポリエステル繊維;ビニロン繊維;レ-ヨン繊維;超高分子量ポリエチレン等のポリオレフィン繊維;ポリオキシメチレン繊維;パラフェニレンサルフォン、ポリサルフォン等のファルフォン系繊維;ポリエ-テルエ-テルケトン繊維;ポリエ-テルミイド繊維;炭素繊維;ポリミイド繊維等がある。場合によっては、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維等の無機繊維を単独又は併用使用しても良い。
【0035】本発明に用いられる布帛の組織は、織物、編物、不織布等の何れであってもよく、例えば、織物の場合は平織、朱子織、綾織、パナマ織、袋織等があり、編物の場合は径編み、丸編み等がある。
【0036】布帛はコ-ティングしてあっても、ノンコ-トでも良い。コ-ティングに使用する樹脂としては、例えばクロロプレンゴム、ハイパロンゴム、フッ素ゴム等の含ハロゲンゴム、シリコ-ンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレン3元共重合ゴム、ニトリルブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、イソブチレンイソプレンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム等のゴム類、又は塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂等の含ハロゲン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エスレル樹脂、アミド樹脂、オレフィン樹脂、シリコ-ン樹脂等の樹脂類であり、単独又は併用使用される。」

e:上記摘記事項bの段落【0022】の記載からみて、図3(A)には、「二ステッチ折り畳みシームにより縫合されたもの」が看て取れる。
また、上記摘記事項bの段落【0023】の記載からみて、図3(B)には、「三ステッチ折り畳みシームにより縫合されたもの」が看て取れる。

これらの記載事項からみて、上記引用例1には、
「布帛の繊維材料としてポリエステル繊維が開示されるとともに、少なくと1つの織物の布帛を含むエアバッグであって、シリコーン樹脂のコーティングも開示されるとともに、少なくとも1つの三ステッチまたは二ステッチ折り畳みシームを含んでなるエアバッグ」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

また、今回新たに提示する本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-164988号公報(以下「引用例2」という。)には、「エアバッグ用基布」に関し、図面とともに以下の事項が記載または示されている。

f:「【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、エアバッグにしたとき、そのバッグの破裂強さが優れ、しかも柔軟性にも優れるエアバッグ用コーティング基布を提供しようとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するための手段、即ち本発明は、500デニール以下の合成繊維マルチフィラメントを織成した織物の少なくとも片面に、樹脂膜がコーティングされてなる基布であり、該基布の滑脱抵抗力が8?20mmであることを特徴とするエアバッグ用基布である。
【0006】500デニール以下の合成繊維マルチフィラメントとは、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ポリエステル、アラミド、全芳香族ポリエステルなどが挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0007】これらのマルチフィラメント糸の強度は、5g/d以上、好ましくは、6g/d以上がエアバッグの特性上良い。また、これらのフィラメント糸の繊度はエアバッグとしての破裂強度に耐えるものを選定する必要があるが、500デニールが上限である。これを越えると柔軟性に欠いたものとなり、好ましくない。また、繊度が200デニール以下になるとエアバッグの破裂強度が低くなり、乗務員の安全の確保が保証できなくなる。」

そして、原査定の平成20年 1月 9日付けの拒絶理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である国際公開第01-98115号(以下「引用例3」という。)には、「LOW PERMEABILITY AIRBAG CUSHIONS HAVING EXTREMELY LOW SILICONE-BASED COATING LEVELS」{「極めて低いシリコーンに基づく被覆レベルを有する低通気性エアバッグクッション」}に関し、図面とともに以下の事項が記載または示されている。

g:「The inventive coating composition must comprise at least 50% by weight of at least one silicone-based elastomer and such a composition may only be present on the target airbag surface in an amount of at most 3.0 ounces per square yard of fabric. Preferably, this amount ranges from about 0.5 to about 2.5 ounces per square more preferably from about 1.0 to about 2.0; and most preferably from about 1.5 to about 2.0. Furthermore, the silicone-based elastomer preferably comprises at least 60% by weight of the entire composition, more preferably at least about 75%, yet more preferably at least 90%, and most preferably, at least 95 up to 100%.」(第11ページ第12行?第19行)
{「本発明の被覆組成物は、少なくとも50重量%の少なくとも1種類のシリコーンに基づくエラストマーを含まなければならず、この組成物は多くとも3.0オンス/平方ヤード布の量でエアバッグ表面に存在するにすぎない。この量は、好ましくは約0.5?約2.5オンス/平方ヤード、より好ましくは約1.0?約2.0オンス/平方ヤード、最も好ましくは約1.5?約2.0オンス/平方ヤードである。さらに、シリコーンに基づくエラストマーは、全組成物の重量の、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも約75%、さらに好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95?100%を構成する。」}(翻訳は、対応特許である特表2003-535767号公報の段落【0016】を参照のこと。)

h:「The substrate to which the inventive high solids content silicone-based elastomeric coatings are applied to form the airbag base fabric in accordance with the present invention is preferably a woven fabric formed from yarns comprising synthetic fibers, such as polyamides or polyesters. Such yarn preferably has a linear density of about 105 denier to about 840 denier, more preferably from about 210 to about 630 denier, and most preferably from about 315 to about 420 denier. Such yarns are preferably formed from multiple filaments wherein the filaments have linear densities of about 6 denier per filaments or less and most preferably about 4 denier per filament or less. In the more preferred embodiment such substrate fabric will be formed from fibers of nylon, and most preferred is nylon 6,6. It has been found that such polyamide materials exhibit particularly good adhesion and maintenance of resistance to hydrolysis when used in combination with the coating according to the present invention. Such substrate fabrics are preferably woven using fluid jet weaving machines as disclosed in U.S. Patents 5,503,197 and 5,421,378 to Bower et al. (incorporated herein by reference). Such woven fabric will be hereinafter referred to as an airbag base fabric. As noted above, the inventive airbag must exhibit extremely low permeability and thus must be what is termed a “side curtain”airbag. As noted previously and extensively, such side curtain airbags (a.k.a., cushions) must retain a large amount of inflation gas during a collision in order to accord proper long-duration cushioning protection to passengers during rollover accidents. Any standard side curtain airbag may be utilized in combination with the low add-on coating to provide a product which exhibits the desired leak-down times as noted above. Most side curtain airbags are produced through labor-intensive sewing or stitching (or other manner) together two separate woven fabric blanks to form an inflatable structure. Furthermore, as is well understood by the ordinarily skilled artisan, such sewing, etc., is performed in strategic locations to form seams (connection points between fabric layers) which in turn produce discrete open areas into which inflation gasses may flow during inflation. Such open areas thus produce pillowed structures within the final inflated airbag cushion to provide more surface area during a collision, as well as provide strength to the bag itself in order to withstand the very high initial inflation pressures (and thus not explode during such an inflation event). Other side curtain airbag cushions exist which are of the one-piece woven variety. Basically, some inflatable airbags are produced through the simultaneous weaving of two separate layers of fabric which are joined together at certain strategic locations (again, to form the desired pillowed structures). Such cushions thus present seams of connection between the two layers. It is the presence of so many seams (in both multiple-piece and one-piece woven bags) which create the aforementioned problems of gas loss during and after inflation. The possibility of yarn shifting, particularly where the yarns shift in and at many different ways and amounts, thus creates the quick deflation of the bag through quick escaping of inflation gasses. Thus, the base airbag fabrics do not provide much help in reducing permeability (and correlated leak-down times, particularly at relatively high pressures). It is this seam problem which has primarily created the need for the utilization of very thick, and thus expensive, coatings to provide necessarily low permeability in the past.」(第17ページ第10行?第19ページ第6行)
{「本発明のエアバッグ基布を形成するために本発明の高固形分のシリコーンに基づくエラストマー被覆剤が適用される基材は、好ましくは、ポリアミドまたはポリエステルのような合成繊維で構成される糸から形成される織布である。この糸は、好ましくは約105デニール?約840デニール、より好ましくは約210?約630デニール、最も好ましくは約315?約420デニールの線密度を有する。この糸は好ましくは複数のフィラメントから形成され、該フィラメントは、約6デニール/フィラメントまたはそれ以下、最も好ましくは約4デニール/フィラメントまたはそれ以下の線密度を有する。より好ましい態様において、この基布は、ナイロン、最も好ましくはナイロン6,6の繊維から形成される。このようなポリアミド材料は、本発明の被覆剤と共に使用したときに、特に良好な付着性および耐加水分解性の維持を示すことが見い出された。この基布は、Bowerらの米国特許第5503197号および第5421378号(本明細書の一部を構成する)に開示されている流体噴射織機(fluid jet weaving machine)を使用して織るのが好ましい。このような織布を、以下においてはエアバッグ基布と称する。前記のように、本発明のエアバッグは、極めて低い通気性を示さなければならず、従って、「サイドカーテン」エアバッグと称されるものでなければならない。前記に詳しく記載したように、このサイドカーテンエアバッグ(クッションとしても既知)は、転覆事故の際に搭乗者に適切な長期クッション保護を与えるために、衝突の際に多量の膨張ガスを保持しなければならない。いずれかの一般的なサイドカーテンエアバッグを低付加の被覆剤と共に使用して、前記のような所望の漏出時間を示す製品を得ることができる。大部分のサイドカーテンエアバッグは、2つの独立した織布ブランクの労働集約的な縫製または縫合(または他の方法)によって、膨張可能な構造を形成するように製造される。さらに、当業者には充分に理解されるように、このような縫製などを計画位置において行って、継目(布層の間の結合点)を形成させ、次いでこれら継目が独立した開放領域を与え、この中に膨張ガスが膨張中に流入することができる。即ち、この開放領域が、最終的な膨張エアバッグクッションにおいて枕状構造を生じて、衝突の際により多くの表面積を与え、さらに、エアバッグそれ自体に強度を与えて、極めて高い初期膨張圧力に耐えるようにする(即ち、このような膨張の際に破裂しないようにする)。一体織り(one-piece woven)態様の他のサイドカーテンエアバッグクッションも存在する。基本的に、ある種の膨張性エアバッグが、ある計画位置で共に結合される2つの独立した布層の同時織りによって製造される(ここでも、所望の枕状構造を形成させる)。従って、このようなクッションは、2つの層の間に結合継目を与える。膨張中および膨張後に、前記のガス損失の問題を生じるのは、このような多くの継目の存在である[多ピース(multiple-piece)エアバッグおよび一体織りエアバッグの両方において]。糸移動の可能性は、特に多くの異なる方法および量で糸が移動する場合には、膨張ガスの急速漏出によってエアバッグの急速なしぼみを生じる。即ち、このエアバッグ基布は、それほど通気性の減少(および、特に比較的高い圧力における関連の漏出時間)の助けにはならない。これまで、必要な低通気性を与えるために、極めて厚い、従って高価につく被覆の使用を必要とさせたのは、主にこの継目の問題である。」}(翻訳は、対応特許である特表2003-535767号公報の段落【0028】を参照した。)

さらに、原査定の平成20年 1月 9日付けの拒絶理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開平6-128836号公報(以下「引用例4」という。)には、「エアバッグ用基布およびエアバッグ」に関し、図面とともに以下の事項が記載または示されている。

i:「【0042】
【実施例】
実施例1
特公昭57-49653号公報記載と同等の3成分複合紡糸口金を用い、島成分1として、IV=1.20のポリエチレンテレフタレート、島成分2としてη=3.2のナイロン66を、海成分としてテレフタル酸/イソフタル酸87.5モル%(70/30)、5-ソジュウムスルホイソフタル酸を12.5%モル%共重合した共重合ポリエステルの各ポリマーで複合紡糸を行い、紡糸速度1000m/minで巻き取った。このとき、島1の孔数34、島2の孔数36、フィラメント数10の口金を用い、島/海=90/10とした。このとき、ポリエステル糸とポリアミド糸の比は49:51と計算される。
【0043】次いで、該糸条を熱板を用い、4.4倍に延伸し、50D-10f(70L)の延伸糸を得た。該糸の物性は、強度7.2g/d、伸度20.0%であった。
【0044】前記の延伸糸を3本合糸し、150Dとした後、該糸をタテ糸、およびヨコ糸に用い、織密度タテ90本/吋、ヨコ86本/吋の平織物を織成した。このとき、該布帛のカバーファクタは1078と計算される。」

j:「【0073】比較例5
実施例1と同様の紡糸を行うにあたり、IV=0.60のポリエチレンテレフタレート、島成分2としてη=2.5のナイロン66を用いた。
【0074】得られた繊維を実施例1と同様に、布帛にした後脱海し海成分を除去し、次いで乾燥した。
【0075】上記布帛の特性ならびに該布帛を用いて作製したエアバッグの特性は表1に示すとおりであった。」

k:「【0079】・・・比較例5においては、原糸強度が低いために機械的強度が著しく低いという特性が認められる。」

l:段落【0077】の表1には、比較例5として、ポリエステルの単糸繊度0.06d、ポリアミドの単糸繊度0.06d、総繊度135D、ポリエステル/ポリアミド比49/51、混合糸条強度4.4g/dが記載されている。

そして、混合糸条強度4.4g/dは、約39cN/texに対応しており、総繊度が単糸繊度と異なることからマルチフィラメント糸で形成されているものと認められるから、これらの記載からみて、上記引用例4の比較例5には、
「約39cN/texの混合糸条強度を有するマルチフィラメント糸を含む少なくとも1つの織物の布帛を含んでなるエアバッグ」の発明(以下[引用発明4」という。)が記載されているものと認められる。

3.発明の対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「織物の布帛」は、本願補正発明の「織物ブランク」に、以下同様に、「エアバッグ」が「エアバッグクッション」に、「コーティング」が「表面への被覆」に相当し、そうすると、両者は、
「少なくとも1つの織物ブランクを含んでなるエアバッグクッションであって、少なくとも1つの三ステッチまたは二ステッチ折り畳みシームを含んでなるエアバッグクッション」
の点で一致し、以下の各点で相違するものと認められる。

<相違点1>
エアバッグクッションの織物ブランクが、本願補正発明では、「50?40cN/texの靱性を有するポリエステルマルチフィラメント糸を含む」のに対して、引用発明では、布帛の繊維材料としてポリエステル繊維が開示されているものの、それ以上のものでない点。

<相違点2>
エアバッグクッションが、本願補正発明では、さらに「その少なくとも1つの表面に0.5?2.0オンス/平方ヤードの量で適用された少なくとも70%のシリコーン樹脂の被覆を含」んでいるのに対して、引用発明では、「表面へのシリコーン樹脂の被覆」が開示されているものの、それ以上のものでない点。

4.相違点の検討
<相違点1>について
上記引用例2には、「ポリエステル等の合成繊維のマルチフィラメントを織った織物であって、マルチフィラメント糸の強度を5g/d以上とした、コーティングされるエアバッグ用基布」が開示されている。
上記引用例1の摘記事項d等からみて、引用発明のエアバッグも、糸の強度によらずに縫合方法によってエアバッグの強度を上げているものであることから、上記引用例2において、マルチフィラメント糸の強度を最低限の5g/dとすることに何ら問題はなく、そして、5g/dは、約44cN/texに対応することから、課題を有する引用発明に上記引用例2に開示された事項を適用して、エアバッグクッションの織物が「50?40cN/texの靱性を有するポリエステルマルチフィラメント糸を含む」とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

<相違点2>について
上記引用例3には、上記摘記事項g、hからみて
「好ましくはポリエステル等の複数のフィラメントから形成される糸から形成される織布ブランクが、縫製により製造されるエアバッグの基材であって、該基材の表面に被覆組成物が存在し、該被覆組成物の量は、好ましくは約0.5?約2.5オンス/平方ヤード、より好ましくは約1.0?約2.0オンス/平方ヤードであり、さらにシリコーンに基づくエラストマーが、全被覆組成物の重量の好ましくは少なくとも約75%を構成するもの」が開示されている。
してみれば、引用発明における「エアバッグクッションの表面へのシリコーン樹脂の被覆」を、上記引用例3に開示された事項に基づいて、さらに「その少なくとも1つの表面に0.5?2.0オンス/平方ヤードの量で適用された少なくとも70%のシリコーン樹脂の被覆を含」むものとすることについては、引用発明も上記引用例3に開示された事項もコーティングされるエアバッグの製造方法に関するものであることで共通することから、当業者が容易に想到し得たものである。

そして、上記相違点1、2を併せ備える本願補正発明の奏する作用効果について検討してみても、引用発明、上記引用例2、3に開示された事項から当業者が予測し得たものであって、格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明、上記引用例2、3に開示された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。

III.本願発明について
1.本願発明の記載事項
平成21年 2月10日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成20年 7月11日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1は次のとおり記載されている。
「【請求項1】
約60cN/tex以下の靱性を有するマルチフィラメント糸を含む少なくとも1つの織物ブランクを含んでなるエアバッグクッションであって、少なくとも1つの三ステッチまたは二ステッチ折り畳みシームをさらに含んでなるエアバッグクッション。」(以下「本願発明」という。)

2.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1、引用例4及びその記載事項は前記II.2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明と引用発明4とを対比すると、引用発明4の「約39cN/texの混合糸条強度」は、本願発明の「約60cN/tex以下の靱性」に相当し、以下同様に「織物の布帛」は「織物ブランク」に、「エアバッグ」は「エアバッグクッション」に相当する。
そうすると、両者は、
「約60cN/tex以下の靱性を有するマルチフィラメント糸を含む少なくとも1つの織物ブランクを含んでなるエアバッグクッション」で一致し、以下の点で相違するものと認められる。

<相違点>
エアバッグクッションが、本願発明では、「少なくとも1つの三ステッチまたは二ステッチ折り畳みシームをさらに含んでなる」のに対して、引用発明4では、そのような言及がない点。

上記<相違点>について検討する。
上記引用例1には、上述したように、「布帛の繊維材料としてポリエステル繊維が開示されると共に、少なくと1つの織物の布帛を含むエアバッグであって、シリコーン樹脂のコーティングも開示されるとともに、少なくとも1つの三ステッチまたは二ステッチ折り畳みシームを含んでなるエアバッグ」の発明が記載されており、該引用例1に記載された「織物の布帛」、「エアバッグ」が、それぞれ本願発明の「織物ブランク」、「エアバッグクッション」に相当するから、上記引用例1には、「少なくとも1つの織物ブランクを含むエアバッグクッションであって、少なくとも1つの三ステッチまたは二ステッチ折り畳みシームを含んでなるエアバッグクッション」が開示されているものと認められる。
そうすると、上記<相違点>にかかる本願発明の構成については、上記引用例1に開示された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明4、上記引用例1に開示された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-26 
結審通知日 2010-03-02 
審決日 2010-03-17 
出願番号 特願2003-559830(P2003-559830)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60R)
P 1 8・ 575- Z (B60R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 本庄 亮太郎近藤 利充  
特許庁審判長 川向 和実
特許庁審判官 藤井 昇
植前 津子
発明の名称 低靱性糸から製造したエアバッグ  
代理人 山田 卓二  
代理人 柴田 康夫  
代理人 田中 光雄  
代理人 森住 憲一  

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