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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1221049
審判番号 不服2007-4156  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-09 
確定日 2010-08-06 
事件の表示 特願2002-268846「乳幼児用便性改善剤」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月18日出願公開、特開2003-113087〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経過・本願発明
本願は、平成7年3月27日に出願した特願平7-67351号の一部を平成14年9月13日に新たな特許出願としたものであって、平成19年1月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年2月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に、平成19年3月9日付けで手続補正がなされた。その後、当審において平成22年1月7日付けの補正却下の決定により、平成19年3月9日付けの手続補正は却下されると同時に拒絶理由が通知された後、平成22年3月2日付けで意見書が提出されると同時に手続補正がなされた。
よって、本願の請求項に係る発明は、平成22年3月2日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載されたとおりのものであって、その請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。

「4’ガラクトシルラクトースを乳幼児便性改善栄養組成物の固形分100g当り0.1mg?5g配合する、4’ガラクトシルラクトースを有効成分とする乳幼児用便性改善剤。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例及び周知技術
当審の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された次の刊行物には、以下の事項が記載されている。

(1)引用例
・月刊フードケミカル、1988-6、第75?80頁(以下、「引用例1」という。)

(A)「ここで紹介するガラクトオリゴ糖の一種である4’-ガラクトシルラクトース(図1)もビフィズス菌増殖作用を持つことが明らかにされており、整腸性オリゴ糖としての機能性が期待される糖質である。」(第75頁左欄下から第9?5行)
(B)「…4’-ガラクトシルラクトース(以下4’-GL)…」(第76頁左欄第20?21行)
(C)「…4’-GLは、Bifidobacteriumの増殖物質として選択性の高いオリゴ糖であり、腸内フローラの改善効果を持つと考えられる。」(第78頁左欄第18?20行)

(2)周知技術を示す文献
・特開平5-238945号公報(以下、「周知技術を示す文献1」という。)

(D)「【従来の技術】近年の、食生活の欧米化により摂取の増加した脂肪類、蛋白質類のうち未消化のものは大腸において腸内有害細菌種により分解・発酵され、有機酸類やアミン類、メルカプタン類などの悪臭成分を生成する。…
従来、腸内腐敗産物の抑制には、(1)抗生物質の投与によって、腸内で腐敗産物を生成している有害菌を死滅させる方法、(2)植物性の食品を中心に摂取したり、補助食品としてオリゴ糖類のようなビフィズスファクターを併用することにより、ビフィズス菌、乳酸桿菌といった有用菌を腸内で最優勢にし、大腸菌やウェルシュ菌といった有害菌の増殖を抑えこみ結果的に腐敗産物の産生を抑止する方法がある。」(【0002】?【0003】)

・特開平1-319421号公報 (以下、「周知技術を示す文献2」という。)

(E)「便の色が黄色になったのは、便のpHが酸性になってきたことを示しており、便の臭い、屁の臭いが弱くなったことは、腸内細菌中の腐敗菌が減少し、ビフィズス菌等の有用な菌が増殖したことを示すものである。」(第12頁右上欄第11?14行)

・本間 道 他編者、「ビフィズス菌-腸内菌叢と健康とのかかわり合い-」、第267?268頁、第286?287頁、第292?293頁、1979年1月15日発行、共立印刷株式会社(以下、「周知技術を示す文献3」という。)

(F)「1)ビフィズス菌の1つの特性
ビフィズス菌が腸管内に優勢に発育した場合、糞便内のアンモニア量は著しく低下する。 たとえば、天然(母乳)栄養児の糞便アンモニア量の平均値は123±5γ/gで、特殊調製粉乳で栄養された人工栄養児の平均値276±144γ/gよりも著明に低い。昭和32年頃より、粉乳の組成を人乳に近づけようとする試みが工業的に行なわれ、特殊調製粉乳はその産物であるが、この場合、牛乳栄養児よりもビフィズス菌の腸内常住細菌に占める比率は大である。それにもかかわらず、天然(母乳)栄養児と格段の相異がみられることは注目に値する。

しかし、in vitroで大腸菌、フェーカリス菌、アシドフィルス菌およびビフィズス菌をそれぞれ別々に培養してアンモニアの産生をみると、前二者ではそれぞれ70γ/ml、90γ/mlといずれも高値を示し、アシドフィルス菌では30γ/mlと低値であったが、ビフィズス菌ではアンモニアの産生は全くみられなかったという。 また、大腸菌とフェーカリス菌、アシドフィルス菌およびビフィズス菌をそれぞれ混合培養すると、前二者の組み合わせでは、アンモニアの産生量はやや減少する程度であったが、ビフィズス菌を組み合わせた場合は明らかに減少を示したという。 乳児にアシドフィルス菌やフェーカリス菌などの乳酸菌を経口投与すると、糞便アンモニア量は減少の傾向を示すが、ビフィズス菌を投与した場合には明らかに減少し、しかも日差の変動が少ないという。 以上のことから、ビフィズス菌はそれ自体アンモニアも産生しないし、また他菌種のアンモニア産生を抑制するように働くといえよう。…」(第267頁下から第11行?第268頁15行)
(G)「(iii)アンモニア含量:便中のアンモニア含量は、菌投与により3例は有意の増加を示した。
一般に母乳栄養児の便中のアンモニア量は人工栄養児より少なく、また、ビフィズス菌投与により人工栄養児の便中アンモニア量は低下し、硫化水素が減少し、腸内腐敗が抑制されるともいわれている。上記の結果は腸管内でアンモニア産生量が増加したためではなく、アンモニアの吸収阻害による結果ではないかと考察している。

図5は上述の実験例のビフィズス菌投与による便の菌叢、ならびに便の理化学的性状の影響をまとめたものであるが、要するに投与前に正常値域をはずれていた対象は、投与前より正常値領域に入る傾向があったことを示している。すなわち総菌数やBifidobacteriumが増加して大腸菌群が減少し、また便中水分が増加し有機酸、酢酸含量が増加し、投与前の便の異常を正常化する方向に作用するようである。また人工栄養児の便性状を母乳栄養児のそれに近づけるともいえよう。…」(第286頁第7行?第287頁第13行)
(H)「4 むすび
ビフィズス菌を健康人に投与した場合の糞便性状への影響について最近の成績を紹介したが、人工栄養児では腸内菌叢に乱れがある場合は、菌投与により正常化の方向に変化し、また、母乳栄養児の糞便性状に近づくものと考えられる。それ以降の幼児期や成人でも、腸内腐敗の主力菌とみなされているBacteroidaceae、Clostridia、Enterobacteriaceaeなどが菌投与により減少するもののようである。 ビフィズス菌は生体に有用に作用すると考えられているが、実際にこれを健康人に投与した場合の成績もこれを裏付けている。乳児栄養の研究はかつてビフィズス菌を軸として展開されたが、上述した最近の研究をみてもその重要性は依然として変わっていない。…」
(第292頁下から第6行?第293頁第5行)
(下線は当審による。)

3.対比
引用例1には、4’-ガラクトシルラクトースにビフィズス菌増殖作用があることが記載されていることから(摘記事項(A)?(C))、「4’-ガラクトシルラクトースを有効成分とするビフィズス菌増殖剤。」(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は「4’-ガラクトシルラクトースを有効成分とする剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)本願発明は「乳幼児用便性改善剤。」であるのに対し、引用発明は「ビフィズス菌増殖剤。」である点。
(相違点2)4’-ガラクトシルラクトースの配合量について、本願発明は「4’ガラクトシルラクトースを乳幼児用便性改善栄養組成物の固形分100g当り0.1mg?5g配合する」と特定しているのに対し、引用発明はそのような特定をしていない点。

4.判断
(相違点1について)
本願発明に係る「乳幼児用便性改善剤。」における「乳幼児用便性改善」とは、本願明細書の段落【0011】?【0013】の【試験例】の記載によれば「便の匂い」が「大人様の匂い」ではなく「すっぱい匂い」あるいは「あまずっぱい匂い」ものであって、「母乳を与えた群に近」い匂いに改善されるという、便の悪臭の減少を含むものである。
ところで、本願の出願時の当該分野における技術常識を参酌すると、便の匂いとビフィズス菌との関連性について、腸内でビフィズス菌を増殖させると、有害細菌種により分解・発酵され生成し且つ悪臭の原因となる腐敗産物の産生を抑制できることは広く知られており(摘記事項(D)、(E))、対象が乳児である場合についても、ビフィズス菌が投与された乳児では糞便中のアンモニア量は低下し、すなわち、糞便の匂いが改善されることは周知である(摘記事項(F)?(H))。
してみると、かかる周知技術に鑑みれば、引用発明に係るビフィズス菌増殖剤が、腸内における悪臭の原因となる腐敗産物の産生を抑制し、便の匂いを改善する作用を有することを確認することは当業者がごく自然になし得ることであり、その適用対象を乳児とした場合についても便の匂いが改善することは当業者が容易に想到し得ることである。

(相違点2について)
有効成分の配合量を最適な範囲に設定することは当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。また、本願明細書の記載を参酌しても、4’ガラクトシルラクトースの配合量を「4’ガラクトシルラクトースを乳幼児用便性改善栄養組成物の固形分100g当り0.1mg?5g」と特定することにより、格別な効果を奏するものとも認められない。よって、周知技術に鑑み、引用発明に係るビフィズス菌増殖剤を便の匂いが改善された乳幼児用便性改善剤とする際に、有効成分である4’-ガラクトシルラクトースの配合量を最適な範囲に設定することは当業者が適宜なし得ることである。

そして、本願発明の効果が、引用例1の記載及び周知技術から当業者にとって予測できない格別顕著なものであるとも認められない。

なお、平成22年3月2日付けの意見書において、請求人は、(i)乳幼児と成人の腸内細菌の状態を全く同一視することはできず、便の匂いとビフィズス菌の増殖との関連性は年齢を問わずいえるとすることはできないこと、及び(ii)本願発明は便の悪臭の減少ではなく母乳で育った乳幼児の便と同じ匂いにするものであって、また、腐敗産物を抑えたとしても母乳児に近い便性になるとは限らないのであるから、本願発明と周知技術とは便に対する作用が異なることは明らかであって、ビフィズス菌が増えることにより腸内フローラが改善されたとしても、母乳児に近い便性になることを容易に想到できるとはいえないことを主張する。

しかし、(i)について、周知技術を示す文献3には、「ビフィズス菌を健康人に投与した場合の糞便性状への影響について最近の成績を紹介したが、人工栄養児では腸内菌叢に乱れがある場合は、菌投与により正常化の方向に変化し、また、母乳栄養児の糞便性状に近づくものと考えられる。それ以降の幼児期や成人でも、腸内腐敗の主力菌とみなされているBacteroidaceae、Clostridia、Enterobacteriaceaeなどが菌投与により減少するもののようである。」(摘記事項(H))と記載されていることを考慮すると、乳幼児と成人の腸内細菌の状態は全く同一視できるとまではいえなくとも、乳児、幼児、成人と年齢にかかわらずビフィズス菌の増殖と腸内細菌の状態には密接な関連があるという技術常識が本願出願時において存在していたものとするのが妥当である。さらに、かかる文献3には、ビフィズス菌を投与した乳児の糞便内のアンモニア量は人工栄養児に比べ低下し、腸内腐敗が抑制されたことも記載されているのであるから(摘記事項(F)、(G))、成人のみならず乳児についてもビフィズス菌の増殖とアンモニア等に由来する便の匂いとに関連性が見られることはやはり出願時に広く知られていたことであるといえる。よって、請求人の主張は失当である。
次に、(ii)について、一般に、「乳児」とは生後1年ぐらいまでの母乳又は粉乳などで養育される時期の子供を意味し、児童福祉法では1年未満児のことをいうのに対し、「幼児」とは幼い子を意味し、児童福祉法では1歳から小学校に就学するまでの者をいうものであるが、本願発明の「乳幼児用便性改善剤。」は、「乳幼児」を対象とするものであるから、「乳児」及び「幼児」の両者を対象として包含するものであると認められる。しかし、母乳栄養か人工栄養かが問題となるのは、乳児期のみであり、大人と同様の食事を摂取している幼児期についてまで請求人の主張する「母乳で育った乳幼児の便と同じ匂い」に改善されるという効果が奏されるのか疑問である。現に、本願明細書において具体的な裏付けがなされているのは、段落【0011】?【0013】にある「生後3ヶ月以内のカニクイザル」を被験動物として用いた場合に過ぎず、これは、ヒトでいえば「乳幼児」のうち「乳児」に相当する場合に過ぎないといえ、本願発明の「母乳で育った乳幼児の便と同じ匂い」に改善されるという効果が「乳児」、「幼児」を含めた「乳幼児」全体においても奏されることについては確認することはできない。そして、本願明細書の前記段落にある「乳児」を対象とした便性改善効果については、周知技術を示す文献3に記載されているように(摘記事項(G)、(H))、ビフィズス菌を投与された人工栄養児の便性状が母乳栄養児のそれに近づくことは本願出願時において周知であるから、本願発明の「乳幼児用便性改善」のうち「乳児用便性改善」という構成は引用発明及び周知技術から当業者が容易に想到し得るものといわざるを得ず、その効果も当業者に予測困難な格別顕著なものであるとすることはできない。よって、請求人の主張は妥当性を欠くものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
その故、他の請求項に論及するまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-04 
結審通知日 2010-06-09 
審決日 2010-06-23 
出願番号 特願2002-268846(P2002-268846)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内藤 伸一  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 穴吹 智子
伊藤 幸司
発明の名称 乳幼児用便性改善剤  
代理人 石井 良夫  

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