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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E21D
管理番号 1221058
審判番号 不服2008-25363  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-02 
確定日 2010-08-06 
事件の表示 特願2003-125775「地山補強用鋼管」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月25日出願公開、特開2004-332242〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、平成15年4月30日の出願であって、平成20年8月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月2日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年11月4日に手続補正がなされたものである。その後、当審において、平成22年3月12日付けで拒絶理由の通知がなされ、同年5月17日付けで意見書及び手続補正書が提出された。

【2】本願発明
本願の請求項2に係る発明は、平成22年5月17日付けの手続補正によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。
「地山補強用に該地山に打設される鋼管において、
肉厚が一定の鋼管本体を備え、
中間部には該鋼管本体の内外に連通する複数の透孔が穿設され、一方の端部には雄ねじ部が設けられるとともに、他方の端部には拡径部が設けられて、当該拡径部に雌ねじ部が設けられ、
前記雄ねじ部の山の外径が前記鋼管本体の外径と等しく、
前記雌ねじ部の谷の径が前記鋼管本体の外径と等しく、
しかも、鋼管の打設時に用いられる先端ビットの外径が、拡径部の外径よりも大きく、
前記拡径部の外径が、前記鋼管本体の外径の100%を越え125%未満である、地山補強用鋼管。」(以下「本願発明」という。)

【3】引用刊行物及びそれに記載された発明

刊行物1:実公平7-45676号公報
当審の拒絶理由通知に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、上記刊行物1には、図面とともに、以下の記載がある。
(a)「【0001】
【産業上の利用分野】本考案は、トンネル工事等において、軟弱な地盤の強化用に使用されるパイプに関するものである。」
(b)「【0007】
【実施例】以下、図面にあらわされた実施例について説明する。図1は本考案の一例をあらわすもので、このパイプ1は、最も奥側に埋設される最先端のパイプであって、例えば長さLが3100mmの鋼管で、一方の端部にのみ長さSが50mmのおねじ部2が形成されている。パイプの長さLは、さく孔ロッドの継ぎ足しと同時に継ぎ足せるように、さく孔ロッドの長さとほぼ等しくしておくのが実用上便利である。他の部分の寸法例を挙げると、パイプ1の外径Dは101.6mm、内径dは93.2mm、ねじ部の外径Aは98.15mmである。
【0008】パイプ1の中間部には、先端部からa=200mm、後端部からb=240mmの間に等間隔で4箇所の小孔穿孔位置が設けられ、これらの位置に、パイプの互いに交叉する直径方向(図7参照)4個ずつ計32個の小孔4,…が穿設されている。小孔の径は、例えば13mmである。この小孔4は、パイプ内に注入された地盤強化用の薬液をパイプの外周部に流出させるためのもので、該薬液がパイプの外周部に効果的に分散するようなものであれば良い。」
(c)「【0010】図2は、上記と異なる実施例を表すもので、このパイプ10は、上記図1のパイプ1の後ろに接続される中間パイプであり、一方の端部に上記おねじ部2と螺合するめねじ部11が設けられ、他方の端部にはおねじ部12が設けられている。おねじ部12の形状は、図1のパイプ1のおねじ部2と同じであり、めねじ部11のねじ形状は、図5に示す如く、上記おねじと螺合するよう該おねじと対称形状となっている。このめねじのピッチPとねじ山の高さhは、上記おねじの場合と同じである。このパイプ10にも上記パイプ1と同様な小孔15,…が設けられている。この場合、パイプの両端からそれぞれc=200mmの位置を起点として等間隔で10箇所に各4個ずつ計40個の小孔15が穿孔されている。」
(d)「【0013】次に、このパイプの使用法について説明する。まず、図9に示す如く、後端部にのみねじの切られた最先端のパイプ1を、削岩機50に取りつけたさく孔ロッド53に外嵌し、パイプホルダ52に螺着する。パイプホルダ52は、ホルダキャップ54を介してカップリングスリ-ブ55と当接しており、削岩機50の打撃力と推力がシャンクロッド56、カップリングスリ-ブ55、ホルダキャップ54、パイプホルダ52を介してパイプ1に伝達される。さく孔ロッド53の先端部には、先行のロックビット59と拡縮可能なロックビット60を取りつける。さく孔時には、先行ビット59と拡径状態のロックビットに削岩機の打撃と回転が伝えられ、該ビットによって地盤にパイプの外径よりも大きな径の穴62が開けられる。また、さく孔と同時にパイプが埋設される。」
(e)各図面からは、鋼管(パイプ1)の肉厚が一定であることが見て取れる。

上記各記載事項及び図面の記載並びに当業者の技術常識を総合すれは、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる。
「トンネル工事等において、軟弱な地盤の強化用に使用される鋼管において、鋼管は肉厚が一定のパイプであり、中間部には32個の小孔が設けられて、一方の端部には雄ねじ部が設けられるとともに、他方の端部には雌ねじ部が設けられ、鋼管の打設時に先端のロックビットによって地盤に鋼管の外径よりも大きな径の穴が開けられる地盤強化用鋼管。」(以下「刊行物1記載の発明」という。)

【4】対比・判断
本願発明と刊行物1記載の発明とを比較すると、刊行物1記載の発明の「トンネル工事等において、軟弱な地盤の強化用に使用される鋼管」は、本願発明の「地山補強用に該地山に打設される鋼管」に相当し、以下同様に、
「肉厚が一定のパイプ」が「肉厚が一定の鋼管本体」に、
「32個の小孔」が「複数の透孔」に、
「先端のロックビット」が「先端ビット」に、
「地盤強化用鋼管」が「地山補強用鋼管」にそれぞれ相当する。
また、刊行物1記載の発明では「先端のロックビットによって地盤に鋼管の外径よりも大きな径の穴が開けられる」から、「先端ビットの外径が、鋼管の外径よりも大きい」ことは明らかである。
したがって両者は、
「地山補強用に該地山に打設される鋼管において、
肉厚が一定の鋼管本体を備え、
中間部には該鋼管本体の内外に連通する複数の透孔が穿設され、一方の端部には雄ねじ部が設けられるとともに、他方の端部には雌ねじ部が設けられ、
しかも、鋼管の打設時に用いられる先端ビットの外径が、鋼管の外径よりも大きい、地山補強用鋼管。」
の点で一致し、次の各点で相違している。
(相違点1)
本願発明では、鋼管の他方の端部には拡径部が設けられて、該拡径部に雌ねじ部が設けられており、雄ねじ部の山の外径が鋼管本体の外径と等しく、雌ねじ部の谷の径が前記鋼管本体の外径と等しいのに対し、刊行物1記載の発明では、鋼管の他方の端部には拡径部が設けられておらず、雄ねじ部の山の外径が鋼管本体の外径と等しくはなく、雌ねじ部の谷の径が鋼管本体の外径と等くはない点。
(相違点2)
本願発明では、鋼管に拡径部が設けられていることに伴い、鋼管の打設時に用いられる先端ビットの外径が、拡径部の外径よりも大きいのに対して、刊行物1記載の発明では、鋼管に拡径部が設けられていないため、鋼管の打設時に用いられる先端ビットの外径が、鋼管の拡径部ではなく、外径よりも大きい点。
(相違点3)
本願発明では、拡径部の外径が、鋼管本体の外径の100%を越え125%未満であるのに対して、刊行物1記載の発明では、そのような構成を有していない点。

そこで、上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
管状の部材を継ぎ合わせる構造において、継ぎ合わせ部の強度を確保するために、継ぎ合わせ部の肉厚を保つように一端を拡径させ、そこに他端を継ぎ合わせることは、ごく普通に行われている周知技術である(例えば、当審の拒絶理由で例示した実願平2-60132号(実開平4-18784号)のマイクロフィルムを参照)。当該周知技術を刊行物1記載の発明に適用する点に格別の困難性はなく、その際に、雄ねじ部の山の外径が前記鋼管本体の外径と等しく、雌ねじ部の谷の径が前記鋼管本体の外径と等しくすることは、切削量や切りくずの量などの加工の容易性や確保すべき肉厚(必要強度)等を考慮して、当業者が適宜決定し得る事項である。
(相違点2について)
補強地盤に鋼管を打設する際に、先端ビットの外径を鋼管の外径よりも大きくするのは、鋼管と地盤との接触による抵抗を排除するためであるから、刊行物1記載の発明の鋼管に拡径部を採用する際に、先端ビットの外径を、拡径部の外径よりも大きいものとすることは、当業者が、それに伴って採用しうる事項である。
(相違点3について)
拡径部の外径を、鋼管本体の外径と比べてどの程度にするかについても、ねじ部の寸法と同様に、加工の容易性や必要強度等を考慮して、当業者が、適宜決定し得る事項である。

付言すれば、当審の拒絶理由通知において、「請求項2に記載された事項(上記相違点3に係る事項)と対応する事項が、発明の詳細な説明に記載も示唆もされていない。」と指摘した拒絶理由1に対して、請求人は、上記意見書において「補正後の請求項1,2は、「拡径部の外径が、鋼管本体の外径の100%を越え125%未満である」旨の構成を有しておりますが、この点は、例えば、本願明細書の段落0010に記載されています。したがいまして、拒絶理由通知書でご指摘いただいている特許法第36条第6項第1号違反は、解消されたと思料いたします。」と主張している。しかしながら、上記箇所の上記記載は、単に、請求項に記載された事項を繰り返して記載しているに過ぎず、例えば、その目的や効果、従来例との構成の比較やその優位性等、当該事項に関する実質的な説明がなんら記載されていない。(もし、それらが当業者にとって自明な事項であるとすれば、当該事項自体が、当業者が適宜採用しうる、設計的事項と言うことになる。)一方、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとの対比・検討にあたっては、その表現上の整合性にとらわれることなく、実質的な対応関係について判断すべきものである。してみると、本願の発明の詳細な説明には、上記相違点3に係る事項を有する発明について、実質的には、なんら記載されていないことになる。したがって、請求人の上記主張には理由がない。

また、本願発明全体の効果も刊行物1記載の発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものということができない。

【5】結論
したがって、本願発明は、刊行物1記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

【6】むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-02 
結審通知日 2010-06-09 
審決日 2010-06-23 
出願番号 特願2003-125775(P2003-125775)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 須永 聡  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 山本 忠博
山口 由木
発明の名称 地山補強用鋼管  
代理人 立花 顕治  
代理人 三枝 英二  
代理人 眞下 晋一  
代理人 眞下 晋一  
代理人 立花 顕治  
代理人 松本 公雄  
代理人 三枝 英二  
代理人 松本 公雄  

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