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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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不服20056282 | 審決 | 特許 |
不服200625545 | 審決 | 特許 |
不服200523625 | 審決 | 特許 |
不服200611061 | 審決 | 特許 |
不服200625081 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1221069 |
審判番号 | 不服2006-7353 |
総通号数 | 129 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-09-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-04-17 |
確定日 | 2010-08-04 |
事件の表示 | 平成 7年特許願第511489号「鎮痛剤およびその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 4月20日国際公開、WO95/10277、平成 9年 4月15日国内公表、特表平 9-503778〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は,平成6年10月13日(パリ条約による優先権主張1993年10月13日及び1994年4月22日、イギリス国)を国際出願日とする出願であって、平成18年1月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年4月17日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年5月17日付けで手続補正がなされたものである。 2.本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明のうち、請求項1に係る発明は、平成18年5月17日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。) 「【請求項1】レボブピバカインまたはその塩から本質的に成る、実質量のデクスブピバカインを含まない、心筋収縮能が低下しているか、または低下する傾向があるヒトの患者のための、麻酔用組成物。」 3.引用文献の記載の概要 これに対して、原審における拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布されたことが明らかな「Br.J.Pharmacol., 1991, Vol.103, p.1275-1281」(以下、「引用例A」という。)には、次の事項が記載されている(原文は英語)。 a-1.「1.ブピバカインのS(-)-及びR(+)-エナンチオマーの直接的な心筋に対する効果を、モルモットの単離された乳頭筋によって比較した。その際、標準微小電極法により、膜透過活動電位を測定した。 2.5.4mMのK+において、1Hzの刺激のもとで、脱分極の最大速度(maximal rate)(Vmax)が、10μMのR(+)-ブピバカインの存在下で対照の59.9+-1.4%(n=10)(mean+-s.c.mean)に低下した。また、同一濃度のS(-)-ブピバカインの存在下で76.7+-1.2%(n=14)に低下した。これは主として、心臓拡張期間中にブロックが消滅する時間定数の差によるものである。R(+)-ブピバカインの存在下のほうが回復が遅い。R(+)-ブピバカインの存在下におけるこのより遅い回復は、また、より明白なVmaxの周波数依存性のブロックをもたらす。 3.使用依存性の遮断(block)から回復する時間定数は、過分極に際して両方のエナンチオマーについて有意に、より速くなるが、脱分極に際しては何の有意の変化も認められなかった。全ての膜電位において、R(+)-ブピバカインの存在下のほうが回復がより遅かった。 4.活動電位期間(APD)はR(+)-ブピバカインの存在下で、刺激周波数(頻度)のより大きな範囲にわたって大幅に短縮された。 5.われわれは、S(-)-ブピバカインがモルモットの乳頭筋におけるVmaxおよびAPDに及ぼす影響は、R(+)-ブピバカインよりも、異なった刺激速度および異なった休息時膜電位において、少ないものと結論した。」(表題「ブピバカインのエナンチオマーの、モルモット乳頭筋の電気生理学的性質に対する立体選択的効果」に続く箇所) a-2.「序論 ブピバカイン(マーカイン)は局所麻酔用の薬剤として常用されている。過去10年の間に、いくつかの報文に、ブピバカインの偶発的と思われる血管内注射投与の後に深刻な,致死性の場合もある、心臓毒性(突然の心臓血管の虚脱(collapse))が記載されている。・・・ 臨床的に用いられているブピバカインはS(-)ブピバカインとR(+)ブピバカインの混合物である。従前の研究(・・・)によれば、インビボでの麻酔の能力と持続期間は等しいか、場合によっては、S(-)ブピバカインの方がR(+)ブピバカインよりも優れていることが実証された。さらには、S(-)ブピバカインはR(+)ブピバカインよりも毒性が低かった。・・・。このような、ブピバカインのエナンチオマー間のインビボでの毒性の差についてのメカニズムについては従来まったく調べられることがなかった。・・・。ブピバカインの心毒性は主に電気化学的理由に起因するため、我々は様々な膜電位および刺激頻度におけるモルモット単離乳頭筋の電気生理学的特性に対するエナンチオマーの効果を研究した。」(1頁左下欄1行?同頁右下欄26行) a-3.「「R(+)-ブピバカインがVmax及びAPDに対してより大きく影響するのはおそらくインビボで観察されたより高い毒性に対する説明になるだろう。・・・。S(-)-ブピバカインが心臓に対してインビトロで(現在の結果)、より影響が少なく、しかもより高いLD50を有しながら、インビボで同等の(comparable)麻酔能力を示すので、ロピバカインからの類推で、S(-)-ブピバカインのみの臨床における使用により、この広く使用されている薬剤の安全性の許容限界(margin)が改善されるだろう。もちろん、他のパラメーター類、例えば薬物速度論及び全体的な薬力学的活性も同様に考慮すべきである。蛋白結合、組織結合、排泄、心臓及び脳における摂取、痙攣性毒性、負の変力性の(inotropic)効果のすべてを、両エナンチオマーに対して考慮すべきである。」(1280頁右欄23頁?同欄38頁) 4.対比・判断 上記a-2.からみて、引用例Aには、「ブピバカイン(ラセミ体)からなる局所麻酔剤。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 本願発明と引用発明とを対比すると、前者の「麻酔用組成物」とは、「レボブピバカイン・・・から本質的に成る・・・麻酔用組成物」であり、麻酔作用を有する有効成分としてレボブピバカインを使用し、その他の成分は製剤化に伴う慣用の成分を使用してなる組成物であるのに対し、後者の「麻酔剤」は製剤化に伴う慣用の成分を使用し得るものであり、前者の「麻酔用組成物」と後者の「麻酔剤」は、表現は異なるが実質は同じである。そして、レボブピバカイン、デクスブピバカインは、ブピバカインのエナンチオマーであり、後者がヒトのための局所麻酔剤であることは明らかであるから、両者は、「ブピバカインからなるヒトの患者のための、麻酔用組成物」である点で一致し、 (相違点1)有効成分が、前者がブピバカインのエナンチオマーである「レボブピバカインから本質的に成る、実質量のデクスブピバカインを含まないもの」であるのに対し、後者は、「ブビバカイン(ラセミ体)」である点 (相違点2)麻酔の対象となる患者を、前者は「心筋収縮能が低下しているか、または低下する傾向があるヒトの患者」と限定しているのに対して、後者は限定していない点(相違点2)で相違する。 そこで、これらの相違点について検討する。 (相違点1について) 引用例Aには、ブピバカイン(ラセミ体)は従来から局所麻酔用の薬剤として常用されていたこと、偶発的な血管内注射によって深刻な心臓に対する毒性が示されていたことが記載(上記a-2.)され、さらに、ブピバカインの2つのエナンチオマーのうち、S(-)ブピバカインすなわちレボブピバカインが麻酔の能力と持続時間はもうひとつのエナンチオマーであるR(+)ブピバカインすなわちデクスブピバカインと等しいか、場合によってはそれよりも優れていることが従前の研究で示されていたこと、さらに、心臓に対する毒性についてはS(-)ブピバカインの方が低いことが知られていたことがそれぞれ記載(上記a-2.)されている。 さらに、引用例Aには、上記の2つのエナンチオマー間の毒性の差異のメカニズムについて、その心毒性を、主に電気化学的側面から調べた結果、Vmax及びAPD等のパラメーターについて、S(-)ブピバカインの方がR(+)ブピバカインよりもその及ぼす影響が少ないことを確認し(上記a-1.)、この結果からS(-)ブピバカインのほうがR(+)ブピバカインよりも毒性が少ないことが説明できる(上記a-3.)としたうえで、ロピバカインについて経験されたように、S(-)ブピバカインのみの臨床における使用によりこの広く使用されている薬剤の安全性の許容限界が改善されるであろう(上記a-3.)と記載されている。 ところで、多くの合成医薬品はラセミ体としてして市販されているが、光学異性体間で薬理効果や代謝等に差があることがあるので、有効な光学異性体のみを投与することが好ましいことは技術常識である。 一方、上記のとおり引用例Aには、ブピバカイン(ラセミ体)は心臓に対する毒性があり、誤って血管内に投与され、血液に混入し心臓に至ると、心臓に対する悪影響を及ぼすことが知られていること、麻酔の能力と持続時間において、レボブピバカインはデクスブピバカインと同等か場合によってはより優れていること、心臓に対する毒性については、レボブピバカインはデクスブピバカインより低いことが知られていること、レボブピバカインのみの臨床における使用が安全性の面から好ましいことが記載されている。 そうすると、有効成分として、ブピバカイン(ラセミ体)に代えて、ブピバカインの2つのエナンチオマーのうち、麻酔薬としての薬理効果が同等かより優れ、心臓に対する毒性が低いレボブピバカインを採用し、有効成分を「レボブピバカインから本質的に成る、実質量のデクスブピバカインを含まないもの」とすることは当業者が容易に想到し得ることである。 (相違点2について) 本願発明の構成に欠くことのできない事項である「心筋収縮能が低下しているか、または低下する傾向があるヒトの患者」について、本願明細書の発明の詳細な説明には「「低下した心筋収縮」とは患者がニューヨーク・ハート・アソシエーション・スケールのレベル2,3または4で心機能不全を患っているか、またはその傾向があることを示す。」(本願明細書2頁下から9行?6行)と記載されているが、ここで除外されているニューヨーク・ハート・アソシエーション・スケールのレベル1とは、「肉体の激しい活動(exertion)のいかなるレベルにおいても何の徴候もなく、通常の身体活動において何の制限もない状態」(No symptoms at any level of exertion and no limitation in ordinary physical activity.)であるから、「心筋収縮能が低下しているか、または低下する傾向があるヒトの患者」とは、心臓病患者だけでなく、多少なりとも心臓に機能不全もしくはその傾向があるすべての患者である。 一方、ブピバカイン(ラセミ体)は従来から局所麻酔用の薬剤として常用されているが、心臓に対する毒性があることが知られているのであるから、ブピバカイン(ラセミ体)に代えて、心臓に対する毒性が低いレボブピバカインを採用するに際して、その投与対象として、「心筋収縮能が低下しているか、または低下する傾向があるヒトの患者」を特定することになんら困難性はない。 この点に関して、請求人は、平成21年5月18日付けで提出した回答書において、本願発明の「麻酔用組成物」の投与対象である患者について、「心臓の機械的作用に対する効果のみが関係します。というのは、心筋収縮能が低下することは、おそらくは虚血イベントの結果である筋肉量の低下に起因するからであります。」(回答書3頁、(3))と主張し、投与対象となる患者は、心筋の筋肉量が低下した患者である、というが、本願発明の「麻酔用組成物」の投与対象は、「心筋収縮能が低下しているか、または低下する傾向があるヒトの患者」であり、上述のとおり多少なりとも心臓に機能不全もしくはその傾向があるすべての患者を対象とするものであり、心筋の筋肉量の低下した患者に限られない。なお、本願明細書には、心筋の筋肉量が低下した患者を投与対象とする旨の記載は見当たらないし、心筋収縮能が低下する原因は、筋肉量が低下することに限定されるわけでもない。したがって、請求人の上記主張は上記合議体の判断を左右するものではない。 また、請求人は、平成18年6月29日付けで提出した、審判の請求理由を補充する補正書及び上記回答書において、引用例Aは、心臓の電気的作用を害することに関する毒性について記載しているにすぎず、機械的作用についてはまったく記載するところがないとも主張しているが、ブピバカインに比べて心臓に対する毒性の低いレボブピバカインは、心筋収縮能が電気的作用の面から低下しているのか、機械的作用の面から低下しているかにかかわらず、心筋収縮能が低下しているか、又は低下する傾向のある患者にとって好ましいことは当業者にとって明らかなことであり、上記請求人の主張は理由がない。 しかも、引用例Aには、「もちろん、他のパラメーター類、例えば・・・も同様に考慮すべきである。蛋白結合、組織結合、排泄、心臓及び脳における摂取、痙攣性毒性、負の変力性の効果(inotropic effect)のすべてを、両エナンチオマーに対して考慮すべきである。」として、さらに検討すべきパラメーターのひとつとして、変力性の効果を具体的にあげている。変力性の効果とは、心筋収縮力を増減させる効果のことであるから、機械的作用についても検討すべきことは引用例Aに示唆されている。 そして、本願明細書の記載からは、本願発明の奏する効果は当業者が予測できない顕著なものであるとは認められない。 5.むすび したがって、本願発明は、引用例Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-03-08 |
結審通知日 | 2010-03-09 |
審決日 | 2010-03-23 |
出願番号 | 特願平7-511489 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中木 亜希 |
特許庁審判長 |
塚中 哲雄 |
特許庁審判官 |
弘實 謙二 穴吹 智子 |
発明の名称 | 鎮痛剤およびその使用 |
代理人 | 松谷 道子 |
代理人 | 田中 光雄 |
代理人 | 青山 葆 |