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審決分類 |
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 C08L |
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管理番号 | 1221152 |
審判番号 | 不服2007-19782 |
総通号数 | 129 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-09-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-07-17 |
確定日 | 2010-08-04 |
事件の表示 | 特願2002-561550「赤外線(IR)吸収性ポリビニルブチラール組成物、そのシート、およびシートを含む積層板」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月 8日国際公開、WO02/60988、平成16年 6月24日国内公表、特表2004-518785〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成13年11月14日(パリ条約による優先権主張 平成12年11月14日、平成12年11月20日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成15年6月24日に特許協力条約第34条に基づく補正の翻訳文が提出され、平成18年9月21日付けで拒絶理由が通知され、平成19年3月23日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年4月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月17日に審判請求書が提出され、同年8月16日に手続補正書が提出され、同年10月3日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年10月30日付けで前置報告がなされ、当審において、平成21年6月16日付けで審尋がなされ、同年12月21日に回答書が提出されたものである。 第2.本願発明 本願の請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明3」というが、「本願発明1」?「本願発明3」をまとめて「本願発明」ということがある。)は、平成19年8月16日提出の手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、以下のとおりである。 「【請求項1】 溶融加工可能なポリビニルブチラール樹脂、および、ポリビニルブチラール中に分散された、組成物の0.001重量%?0.1重量%の量で存在する六ホウ化ランタンおよび組成物の0.05重量%?2.0重量%の量で存在する酸化スズインジウムおよび酸化スズアンチモンの混合物とを含む、ポリビニルブチラール組成物であって、酸化スズインジウムと酸化スズアンチモンとの重量比が90:10?10:90であるポリビニルブチラール組成物からなるシートがその間に配置されている、2枚のガラスシートを含むガラス積層板であって、前記2枚のガラスシートの少なくとも1枚が、熱線吸収ガラスであるガラス積層板。 【請求項2】 溶融加工可能なポリビニルブチラール樹脂、および、ポリビニルブチラール中に分散された、組成物の0.001重量%?0.1重量%の量で存在する六ホウ化ランタンおよび組成物の0.05重量%?2.0重量%の量で存在する酸化スズインジウムおよび酸化スズアンチモンの混合物とを含む、ポリビニルブチラール組成物であって、酸化スズインジウムと酸化スズアンチモンとの重量比が90:10?10:90であるポリビニルブチラール組成物からなるシートがその間に配置されている、2枚のガラスシートを含むガラス積層板であって、前記2枚のガラスシートの少なくとも1枚が、太陽光反射ガラスであるガラス積層板。 【請求項3】 溶融加工可能なポリビニルブチラール樹脂、および、ポリビニルブチラール中に分散された、組成物の0.001重量%?0.1重量%の量で存在する六ホウ化ランタンおよび組成物の0.05重量%?2.0重量%の量で存在する酸化スズインジウムおよび酸化スズアンチモンの混合物とを含む、ポリビニルブチラール組成物であって、酸化スズインジウムと酸化スズアンチモンとの重量比が90:10?10:90であるポリビニルブチラール組成物からなるシートがその間に配置されている、2枚のガラスシートを含むガラス積層板であって、前記2枚のガラスシートの少なくとも1枚が、低放射ガラスであるガラス積層板。」 第3.原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由とされた平成18年9月21日付け拒絶理由通知書に記載した理由2の概要は以下のとおりである。 「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開された下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲または図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人とも同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項; 1-15 ・引用文献等;4 ・備考(略) 引用文献等一覧 4.特願平11-221280号(特開2001-089202号公報参照。)」 第4.原査定の拒絶の理由の妥当性についての検討 1.先願明細書の記載事項 原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先権主張の日前の平成11年8月4日を出願日とする特許出願であって、本願の国際出願後に公開された特願平11-221280号(以下、「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書及び図面(以下、「先願明細書」という。)には、以下の事項が記載されている。 なお、先願明細書の記載内容及び個所は、先願の公開公報である特開2001-89202号公報で示すこととする。 (摘示1) 「【請求項2】 日射遮蔽機能を有する中間層を2枚の板ガラス間に介在せしめてなる日射遮蔽合わせガラスであって、前記中間層は、LaB_(6)、CeB_(6)、PrB_(6)、NdB_(6)、GdB_(6)、TbB_(6)、DyB_(6)、HoB_(6)、YB_(6)、SmB_(6)、EuB_(6)、ErB_(6)、TmB_(6)、YbB_(6)、LuB_(6)、(La、Ce)B_(6)、SrB_(6)およびCaB_(6)からなる群から選択された少なくとも1種の6ホウ化物微粒子、ならびにITO微粒子および/またはATO微粒子とを可塑剤に分散させた添加液と、ビニル系樹脂とからなる中間膜により形成されることを特徴とする日射遮蔽用合わせガラス。」(特許請求の範囲の請求項2) (摘示2) 「【発明の属する技術分野】 本発明は、自動車などの車両用の安全ガラス、建物の窓ガラスなどとして用いられる日射遮蔽用合わせガラスに関するものである。」(段落【0001】) (摘示3) 「【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、これら公報に記載された従来の技術に係る合わせガラスは日遮機能や可視光透過性能が十分ではなく、その改善が求められていた。 本発明は、日射遮蔽機能を高め、かつ可視光領域の高い透過性能を有する日射遮蔽合わせガラスを提供することを目的とするものである。」(段落【0004】) (摘示4) 「【課題を解決するための手段】 上記目的を達成するために本発明者らは、2枚の板ガラスの間に介在する中間膜または該中間膜と日射遮蔽膜からなる中間層について種々検討した結果、自由電子を多量に保有する6ホウ化物微粒子に着目し、これを超微粒子化し、所望に応じてITOやATO微粒子とともに可塑剤に分散してなる添加液を作製し、この添加液をビニル系樹脂に添加したビニル系樹脂組成物をシート状に成形して中間膜を形成するとともに、2枚の板ガラス間に前記シート状に形成した中間膜を挟み込むか、または・・・、あるい1枚の板ガラスと他の通常の1枚の板ガラスの間に前記のように形成した中間膜、もしくはビニル系樹脂に可塑剤を加えてシート状に成形した従来の中間膜を挟み込んで中間層とする方法で日射遮蔽用合わせガラスを作製することにより、該日射遮蔽用合わせガラスが可視光領域に透過率の極大を持つとともに、近赤外領域に強い吸収を発現して透過率の極小を持つことを見出して本発明を完成するに至った。」(段落【0005】) (摘示5) 「つぎに本発明の日射遮蔽合わせガラスに用いる添加液は、日射遮蔽成分としての6ホウ化物微粒子、6ホウ化物微粒子とITO(錫含有酸化インジウム)微粒子、6ホウ化物微粒子とATO(アンチモン含有酸化錫)微粒子、あるいは6ホウ化物微粒子とITO微粒子とATO微粒子を可塑剤と溶媒の混合液に均一に分散して作製されるものである。」(段落【0013】) (摘示6) 「つぎに本発明で6ホウ化物微粒子と併せて使用されるITO微粒子およびATO微粒子は、可視光領域で光の反射・吸収が殆どなく、1000nm以上の領域でプラズマ共鳴に由来する反射・吸収が大きい。これらの透過プロファイルは近赤外領域で長波長側に向かうにしたがって右下がりとなる。 一方、6ホウ化物の透過プロファイルは1000nm付近にボトムをもち、それより長波長側では徐々に右上がりを示す。このため6ホウ化物とITOやATOとを併用することによって可視光透過率は減少させずに、近赤外領域の太陽光線を遮蔽することが可能となり、ITO微粒子やATO微粒子をそれぞれ単独あるいは組合わせて使用するよりも日射遮蔽特性を向上させることができる。」(段落【0018】?【0019】) (摘示7) 「さらに前記のようにして調製された添加液を用いてビニル系樹脂組成物を調製する場合に使用されるビニル系樹脂としては、例えばポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、塩化ビニル-エチレン-グリシジルアクリレート共重合体、塩化ビニル-グリシジルメタクリレート共重合体、塩化ビニル-グリシジルアクリレート共重合体、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、ポリ酢酸ビニルエチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアセタール-ポリビニルブチラール混合物などが挙げられる。特にポリビニルブチラールが好ましい。」(段落【0029】) (摘示8) 「つぎに本発明に係る中間膜の形成方法には公知の方法が用いられ、例えばカレンダーロール法、押出法、キャスティング法、インフレーション法などを用いることができる。特に本発明の日射遮蔽合わせガラス用中間層としてビニル系樹脂組成物からなる中間膜を用いる場合、該ビニル系樹脂組成物はビニル系樹脂に前記添加液を添加して、混練して微粒子が均一に分散してなるものであり、このように調製されたビニル系樹脂組成物をシート状に成形することができる。ビニル系樹脂組成物をシート状に成形する際には、必要に応じて熱安定剤、酸化防止剤などを配合し、またシートの貫通性を高めるために接着力調整剤(例えば金属塩)を配合してもよい。」(段落【0030】) (摘示9) 「また日射遮蔽成分として、近赤外領域に強い吸収を持つ6ホウ化物微粒子と、ATO微粒子および/またはITO微粒子とを併用して調製された添加液をビニル系樹脂に添加しさらに可塑剤を加えて均一に分散させて調製されたビニル系樹脂組成物をシート状に成形した中間膜を用いて合わせガラスを作製したり、または前記添加液にバインダーを添加してなる塗布液を2枚の板ガラスの少なくとも一方の内側に位置する面に塗布して日射遮蔽膜を形成し、前記ビニル系樹脂組成物からなる中間膜あるいは従来の中間膜を用いて合わせガラスを作製することでATOやITOそれぞれの微粒子を単独あるいは組合わせて使用するよりも日射遮蔽特性を向上させ、中間膜や日射遮蔽膜の作製時のATO微粒子やITO微粒子の使用量を減少させ、材料コストを低減させることも可能となる。」(段落【0033】) (摘示10) 「(実施例1)平均粒径67nmのLaB_(6)微粒子20g、ジアセトンアルコール(DAA)50g、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート20g、水および分散剤を適量混合し、直径4mmのジルコニアボールを用いて100時間ボールミル混合して、LaB_(6)微粒子が分散した中間膜用添加液100gを作製した(A液)。 一方平均粒径80nmのITO微粒子20g、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート70g、水および分散剤を適量混合し、直径4mmのジルコニアボールを用いて100時間ボールミル混合して、ITO微粒子が分散した中間膜用添加液100gを作製した(B液)。 A液とB液を混合して調製した中間膜用添加液をポリビニルブチラールに添加し、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレートを加え、ITO濃度が0.61重量%、LaB_(6)濃度が0.0038重量%、ポリビニルブチラール濃度が70重量%となるようにビニル系樹脂組成物を調製した。 このビニル系樹脂組成物をロールで混練して0.76mm厚のシート状に成形して中間膜を作製した。この中間膜を厚さ2.5mmの透明なフロートガラス2枚の間に挟み込み、80℃に加熱して仮接着した後、140℃、14kg/cm^(2)のオートクレーブにより本接着を行い、合わせガラスを作製した。」(段落【0035】?【0038】) (摘示11) 「(実施例2?5)A液、B液、ポリビニルブチラール、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレートを表1の組成になるようにビニル系樹脂組成物を調製した。これを実施例1と同様の方法で中間膜を作製して目的とする合わせガラスを作製した。この合わせガラスの光学特性を表1に併せて示す。」(段落【0041】) (摘示12) 「(比較例2)平均粒径55nmのATO微粒子20g、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート70g、水および分散剤を適量を混合して直径4mmのジルコニアボールを用いて100時間ボールミル混合して、ATO微粒子が分散した中間膜用添加液100gを作製した(C液)。」(段落【0045】) (摘示13) 「(実施例7?10)A液、C液、ポリビニルブチラール、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレートを表1の組成になるようにビニル系樹脂組成物を調製した。これを実施例1と同様の方法で中間膜を作製して目的とする合わせガラスを作製した。この合わせガラスの光学特性を表1に併せて示す。」(段落【0047】) (摘示14) 「【表1】 」(段落【0063】) 2.先願明細書に記載された発明 先願明細書の特許請求の範囲の請求項2には、摘示1のとおり、 「日射遮蔽機能を有する中間層を2枚の板ガラス間に介在せしめてなる日射遮蔽合わせガラスであって、前記中間層は、LaB_(6)、CeB_(6)、PrB_(6)、NdB_(6)、GdB_(6)、TbB_(6)、DyB_(6)、HoB_(6)、YB_(6)、SmB_(6)、EuB_(6)、ErB_(6)、TmB_(6)、YbB_(6)、LuB_(6)、(La、Ce)B_(6)、SrB_(6)およびCaB_(6)からなる群から選択された少なくとも1種の6ホウ化物微粒子、ならびにITO微粒子および/またはATO微粒子とを可塑剤に分散させた添加液と、ビニル系樹脂とからなる中間膜により形成されることを特徴とする日射遮蔽用合わせガラス。」 と記載されている。 先願明細書には、摘示10、11、13及び14からみて、6ホウ化物として6ホウ化ランタン(LaB_(6))を用いることが記載されている。さらに、摘示10、11、13及び14の実施例1乃至5並びに7乃至10からみて、ATO(摘示5には「アンチモン含有酸化錫」と記載されており、本願発明における「酸化スズアンチモン」と同一のものと認められる。以下、「ATO」という。)やITO(摘示5には「錫含有酸化インジウム」と記載されており、本願発明における「酸化スズインジウム」と同一のものと認められる。以下、「ITO」という。)と共に用いられる場合の、6ホウ化物としての6ホウ化ランタンの濃度はビニル系樹脂組成物の0.0038?0.016重量%であることが記載されている。 また、先願明細書には、摘示7からみて、ビニル系樹脂組成物を調製する場合に使用されるビニル系樹脂としては、ポリビニルブチラールが好ましいことが理解でき、摘示10、11、13及び14には、実施例における具体的態様として、ポリビニルブチラールが使用されていることが記載されている。 さらに、先願明細書の特許請求の範囲の請求項2における「6ホウ化物微粒子、ならびにITO微粒子および/またはATO微粒子とを可塑剤に分散させた添加液」の記載に関して、摘示5には、本発明の日射遮蔽合わせガラスに用いる添加液として、4の態様が記載されており、4番目の態様として「6ホウ化物微粒子とITO微粒子とATO微粒子を可塑剤と溶媒の混合液に均一に分散して作製されるものである」と記載されている。また、摘示10には、「6ホウ化物微粒子が分散した中間膜用添加液(A液)」と「ITO微粒子が分散した中間膜用添加液(B液)」とを作製し、両液を混合して中間膜用添加液を調製することが記載され、摘示10、12、13及び14には、「ATO微粒子が分散した中間膜用添加液(C液)」を作製し、上記(A液)と混合して中間膜用添加液を調製することが記載されている。してみれば、先願明細書には、「6ホウ化物微粒子、ならびにITO微粒子およびATO微粒子とを可塑剤に分散させた添加液」が実施例において具体的に記載されていないとしても、 先願明細書においては、(A液)、(B液)及び(C液)をそれぞれ作製しており、これら3液を混合することに関する困難性も認められないことから、上記摘示5における第4の態様が明記されている以上、「6ホウ化物微粒子、ならびにITO微粒子およびATO微粒子とを可塑剤に分散させた添加液」が実質的に記載されているものと認められる。 したがって、先願明細書には、 「日射遮蔽機能を有する中間層を2枚の板ガラス間に介在せしめてなる日射遮蔽合わせガラスであって、前記中間層は、ポリビニルブチラール樹脂組成物の0.0038?0.016重量%のLaB_(6)微粒子、ならびにITO微粒子およびATO微粒子とを可塑剤に分散させた添加液と、ポリビニルブチラール樹脂とからなる中間膜により形成されることを特徴とする日射遮蔽用合わせガラス。」 なる発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているものと認められる。 3.対比・検討 3-1.本願発明1について 3-1-1.対比 本願発明1と先願発明とを対比する。 先願発明におけるポリビニルブチラール樹脂が溶融加工可能であることは、摘示8及び10に「ビニル系樹脂組成物を混練して、シート状に成形すること」が記載されていることから、明らかである。 また、先願発明における「添加液とポリビニルブチラール樹脂とからなる中間膜により形成される中間層」が本願発明1における「ポリビニルブチラール組成物からなるシート」に相当するものであり、先願発明における「中間層を2枚の板ガラス間に介在せしめてなる合わせガラス」が本願発明1における「シートがその間に配置されている、2枚のガラスシートを含むガラス積層板」に相当することも明らかである。 さらに、先願発明におけるLaB_(6)、ITO及びATOはいずれも微粒子の形態であるところ、本願発明1における六ホウ化ランタン、酸化スズインジウム及び酸化スズアンチモンについても、本願明細書の段落【0016】の「したがって、存在する六ホウ化ランタン、および任意の酸化スズインジウムおよび酸化スズアンチモンは、シートを介した可視光線透過を害することがない、微細粒子でなければならない。」なる記載からみて、微細粒子の形態であることから、先願発明と本願発明1とは、六ホウ化ランタン、酸化スズインジウム及び酸化スズアンチモンの形態において異なるものとはいえない。 そして、摘示8及び9には、ビニル系樹脂組成物が添加液をビニル系樹脂に添加して微粒子が均一に分散してなる組成物であることが記載されていることから、先願発明においてはLaB_(6)微粒子、ITO微粒子及びATO微粒子がビニル系樹脂に分散しているものと解される。 したがって、両発明は、 「溶融加工可能なポリビニルブチラール樹脂、および、ポリビニルブチラール中に分散された、組成物の0.0038重量%?0.016重量%の量で存在する六ホウ化ランタンおよび酸化スズインジウムおよび酸化スズアンチモンの混合物とを含む、ポリビニルブチラール組成物からなるシートがその間に配置されている、2枚のガラスシートを含むガラス積層板」 の点で一致し、以下の(1)?(3)で一応相違するものと認められる。 (1)本願発明1は「酸化スズインジウム及び酸化スズアンチモンの混合物の存在する量を組成物の0.05重量%?2.0重量%」なる事項を備えるのに対して、先願発明においてはかかる事項について規定していない点 (2)本願発明1は「酸化スズインジウムと酸化スズアンチモンとの重量比が90:10?10:90である」なる事項を備えるのに対して、先願発明においてはかかる事項について規定していない点 (3)本願発明1は「前記2枚のガラスシートの少なくとも1枚が、熱線吸収ガラスである」なる事項を備えるのに対して、先願発明においてはかかる事項について規定していない点 3-1-2.相違点についての検討 3-1-2-1.相違点(1)について 先願明細書には、摘示14のとおり、ITOをビニル系樹脂組成物の0.12?0.61重量%を存在させる実施例1?5、及びATOをビニル系樹脂組成物の0.099?0.34重量%存在させる実施例7?10が記載されており、両者を併用して用いる態様の場合には、酸化スズインジウム及び酸化スズアンチモンの混合物の存在する量としては、上記の個別に用いた量乃至個別に用いた量を足し合わせた量の範囲内程度であると理解するのが自然であり、かかる量は相違点(1)における量と重複することは明らかであるから、相違点(1)は実質的な相違点ではない。 3-1-2-2.相違点(2)について 相違点(2)に関して、上記「相違点(1)について」で述べたとおり、ITOとATOとは同程度の量が用いられており、摘示6からも、両者は同程度の機能を奏するものであると解することが自然である。そして、「2.先願明細書に記載された発明」で認定したとおり、先願発明は、「ITO微粒子およびATO微粒子とを可塑剤に分散させた添加液」を用いるもの、すなわち、ITO微粒子とATO微粒子とを共に使用するものである。そうであれば、このように同程度の機能を奏する2成分を使用するということは、通常、両者を同量程度あるいは同量から同程度の幅をもって使用することを意味するものと解され、先願発明においてもかかる意味に解することを妨げる事情は認められないことから、先願明細書には、ITOとATOとを同量程度あるいは同量から同程度の幅をもって使用することが記載されているに等しいものと認められる。そして、「ITOとATOとを同量程度あるいは同量から同程度の幅をもって使用すること」が、相違点(2)に係る「酸化スズインジウムと酸化スズアンチモンとの重量比が90:10?10:90である」なる事項と重複することは明らかである。 したがって、相違点(2)は実質的な相違点ではない。 なお、本願明細書には、「酸化スズインジウムと酸化スズアンチモンの混合物を使用するとき、酸化スズインジウムと酸化スズアンチモンの重量比は一般に約90:10?約10:90、好ましくは約70:30?約30:70である。」(段落【0015】)と記載されているだけであって、酸化スズインジウムと酸化スズアンチモンの混合物を使用する唯一の実施例である実施例5においても「酸化スズインジウムと酸化スズアンチモンの50:50混合物」を用いた具体的記載があるだけであり、本願明細書全般の記載を考慮しても、「酸化スズインジウムと酸化スズアンチモンとの重量比が90:10?10:90である」ことに格別の技術的意味を見出すことはできない。 3-1-2-3.相違点(3)について 先願明細書には、摘示2乃至4からみて、先願発明が、車両用の安全ガラスや建物の窓ガラスに用いられる、日射遮蔽機能を高め、かつ可視光領域の高い透過性能を有する日射遮蔽用合わせガラスに係るものであることが記載されているが、特定の種類のガラスを用いることについての具体的な記載はない。しかしながら、近赤外領域を吸収する熱線遮蔽用合わせガラスとして熱線吸収ガラスを用いることは周知技術である(例えば、特開平8-217500号公報の段落【0023】、特開平6-40741号公報の段落【0002】参照)から、先願発明の板ガラスとして熱線吸収ガラスを用いることは、周知技術の付加にすぎず、新たな効果を奏するものとはいえない。 したがって、相違点(3)は、課題解決のための具体的手段における微差であると認められる。 3-1-3.小括 以上のとおりであるから、本願発明1と先願発明とは同一である。 3-2.本願発明2について 3-2-1.対比 本願発明2と先願発明とを対比する。 本願発明2と本願発明1とは、本願発明1における「熱線吸収ガラス」が本願発明2においては「太陽光反射ガラス」である点でのみ異なるものであるから、本願発明2と先願発明との対比においては、本願発明1と先願発明に係る一致点並びに相違点(1)及び(2)についてはそのまま妥当する。 そして、本願発明2と先願発明とは、かかる(1)及び(2)に加え、以下の(4)で一応相違するものと認められる。 (4)本願発明2は「前記2枚のガラスシートの少なくとも1枚が、太陽光反射ガラスである」なる事項を備えるのに対して、先願発明においてはかかる事項について規定していない点 3-2-2.相違点についての検討 相違点(1)及び(2)については、上記3-1-2-1.及び3-1-2-2.において述べたとおりである。 相違点(4)について検討するに、太陽光などの外部光源から熱成分を除去・減少する方法として熱線反射ガラスを用いることも周知技術であり(例えば、特開2000-72484号公報の段落【0002】、特開平6-305774号公報の段落【0002】参照)、ここにおける熱線反射ガラスが太陽光反射ガラスと同義であることは明らかであるから、先願発明の板ガラスとして太陽光反射ガラスを用いることは、周知技術の付加にすぎず、新たな効果を奏するものとはいえない。 したがって、相違点(4)は、課題解決のための具体的手段における微差であると認められる。 3-2-3.小括 以上のとおりであるから、本願発明2は先願発明と同一である。 3-3.本願発明3について 3-3-1.対比 本願発明3と先願発明とを対比する。 本願発明3と本願発明1とは、本願発明1における「熱線吸収ガラス」が本願発明3においては「低放射ガラス」である点でのみ異なるものであるから、本願発明3と先願発明との対比においては、本願発明1と先願発明に係る一致点並びに相違点(1)及び(2)についてはそのまま妥当する。 そして、本願発明3と先願発明とは、かかる(1)及び(2)に加え、以下の(5)で一応相違するものと認められる。 (5)本願発明3は「前記2枚のガラスシートの少なくとも1枚が、低放射ガラスである」なる事項を備えるのに対して、先願発明においてはかかる事項について規定していない点 3-3-2.相違点についての検討 相違点(1)及び(2)については、上記3-1-2-1.及び3-1-2-2.において述べたとおりである。 相違点(5)について検討するに、断熱性に優れた低放射ガラスが可視光は透過するが赤外線を反射することも良く知られたことであるから(例えば、特開平11-20081号公報の段落【0002】、特開平11-157881号公報の段落【0002】参照)、先願発明の板ガラスとして低放射ガラスを用いることは、周知技術の付加にすぎず、新たな効果を奏するものとはいえない。 したがって、相違点(5)は、課題解決のための具体的手段における微差であると認められる。 3-3-3.小括 以上のとおりであるから、本願発明3は先願発明と同一である。 4.請求人の主張についての検討 平成19年10月3日提出の審判請求書の手続補正書(方式)における請求人の主張の概要は、以下のとおりである。 「本願発明は、特定の量及び重量比の酸化スズインジウムおよび酸化スズアンチモンの混合物を含む点に特徴の1つがある。 しかるに、引用文献4をみてみると、確かに請求項2や3には、「ITO微粒子および/またはATO微粒子」との記載はみられるものの、当該発明を最も具体的に示す実施例が25もあるにも関わらず、1例たりとも両者を併用した例は記載されていない。ましてや両者の重量比を特定範囲に規定することについては、実施例はもちろん、引用文献4のいずれを精査してみても何らの具体的な記載も見当たらない。本願発明は、上記特徴を有することにより、「優れた赤外線吸収能力を有する」(本願明細書【0029】段落)という本願特有の格別の効果を奏し得たものである。 さらに、本願発明では、2枚のガラスシートの少なくとも1枚が、「熱線吸収ガラス」、「太陽光反射ガラス」あるいは、「低放射ガラス」であることを特徴の1つとしている。これに対して、引用文献4には、用いられる板ガラスがこれら特定のガラスであることに関して何らの具体的記載もなされていないものと思料する。 してみれば、本願発明が引用文献4に記載された発明と同一でないものと思料する。」 しかしながら、上記主張に関して、「特定の量及び重量比の酸化スズインジウムおよび酸化スズアンチモンの混合物を含む点」については「2.先願明細書に記載された発明」及び「3-1-2-1.相違点(1)について、及び3-1-2-2.相違点(2)について」で検討したとおりであるし、「2枚のガラスシートの少なくとも1枚が、『熱線吸収ガラス』、『太陽光反射ガラス』あるいは、『低放射ガラス』であること」については、「3-1-2-3.相違点(3)について、3-2-2.相違点についての検討、及び3-3-2.相違点についての検討」で述べたとおりである。 したがって、請求人の主張は採用できない。 5.まとめ よって、本願発明は、本願の優先権主張日前に出願された特許出願であって、本願の出願後に出願公開された特許出願(先願)の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本願の発明者が先願に係る上記発明をした者と同一ではなく、また、本願の国際出願の時において、その出願人が先願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。 第5.むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項1?3に係る発明についての原査定の拒絶の理由は妥当なものであり、本願は、この理由により拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-03-04 |
結審通知日 | 2010-03-09 |
審決日 | 2010-03-23 |
出願番号 | 特願2002-561550(P2002-561550) |
審決分類 |
P
1
8・
161-
Z
(C08L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 川上 智昭、三谷 祥子 |
特許庁審判長 |
渡辺 仁 |
特許庁審判官 |
松浦 新司 前田 孝泰 |
発明の名称 | 赤外線(IR)吸収性ポリビニルブチラール組成物、そのシート、およびシートを含む積層板 |
代理人 | 金山 賢教 |
代理人 | 川口 義雄 |
代理人 | 小野 誠 |
代理人 | 坪倉 道明 |
代理人 | 大崎 勝真 |
代理人 | 渡邉 千尋 |