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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
管理番号 1221187
審判番号 不服2006-23768  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-19 
確定日 2010-08-05 
事件の表示 特願2001-143812「クリヤ塗装仕上げ用塗料組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月27日出願公開、特開2002-338884〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、平成13年5月14日に出願された特許出願であり、以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成17年 4月27日付け 拒絶理由通知
平成17年 7月 8日 意見書・手続補正書
平成18年 9月14日付け 拒絶査定
平成18年10月19日 本件審判請求
平成18年12月 8日付け 手続補正指令
平成18年12月14日 手続補正書(審判請求理由補充書)
平成21年11月24日付け 拒絶理由通知
平成22年 1月29日 意見書・手続補正書
平成22年 3月15日付け 審尋
平成22年 5月13日 回答書

第2 本願に係る発明について

本願に係る発明は、平成17年7月8日付け及び平成22年1月29日付けの各手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、それらの内、請求項1に係る発明は下記のものである。
「加水分解性アルコキシシラン化合物、該アルコキシシラン化合物の加水分解物、シラノール基を含有する化合物から選択される1種類以上(但し、ラジカル重合性官能基をもつものを除く)の存在下で、有機酸を有するラジカル重合性モノマーおよび、水酸基含有化合物を含むラジカル重合性モノマーをラジカル重合開始剤をもちいて重合して得られる水酸基含有樹脂組成物に、イソシアネート系化合物が加えられてなる塗料用樹脂組成物であって、前記水酸基含有樹脂組成物中の加水分解性アルコキシシラン化合物、該アルコキシシラン化合物の加水分解物、シラノール基を含有する化合物の含有率が2?70重量%であることを特徴とする塗料用樹脂組成物。」(以下「本願発明」という。)

第3 当審における拒絶理由の概要

当審において、平成21年11月24日付け拒絶理由通知書により、以下の内容を含む拒絶理由が通知された。

「(略)・・
理由2:この出願の下記1?5の各請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記1?4の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



・刊行物
1.特開平9-328649号公報
2.特開2000-327995号公報
3.特開平11-315254号公報
4.特開平8-60081号公報
(以下「引用例1」?「引用例4」という。)

・・(中略)・・
(2)理由2について
上記理由2につき、引用例2記載の発明を主たる引用発明として以下検討する。

ア.本願発明1について
本願発明1と引用例2記載の発明とを対比すると、引用例2記載の発明における「水酸基価が10?150mgKOH/gで酸価が6mgKOH/g程度であるアクリルポリオール樹脂」、「少なくとも1種類以上の加水分解性アルコキシシラン及び/若しくはシラノール基を有する化合物」、「硬化剤としてイソシアネート基/水酸基の比率が0.5?3.0当量に相当するイソシアネート系樹脂」及び「塗料組成物」は、本願発明1における「水酸基含有化合物を含むラジカル重合性モノマーをラジカル重合開始剤をもちいて重合して得られる水酸基含有樹脂」、「加水分解性アルコキシシラン化合物、該アルコキシシラン化合物の加水分解物、シラノール基を含有する化合物から選択される1種類以上(但し、ラジカル重合性官能基をもつものを除く)」、「イソシアネート系化合物」及び「塗料用樹脂組成物」にそれぞれ相当するものであって、また、引用例2記載の発明における「アクリルポリオール樹脂(A)と、当該樹脂固形分100重量部に対して1?20重量部の少なくとも1種類以上の加水分解性アルコキシシラン及び/若しくはシラノール基を有する化合物(B)」は、本願発明1における「前記水酸基含有樹脂組成物中の加水分解性アルコキシシラン化合物、該アルコキシシラン化合物の加水分解物、シラノール基を含有する化合物の含有率が2?70重量%であること」と実質的に重複する含有率を意味することも当業者に自明である。
したがって、本願発明1と引用例2記載の発明とは、下記の点でのみ相違し、その余で一致している。

相違点:「水酸基含有樹脂組成物」について、本願発明1では「加水分解性アルコキシシラン化合物、該アルコキシシラン化合物の加水分解物、シラノール基を含有する化合物から選択される1種類以上(但し、ラジカル重合性官能基をもつものを除く)の存在下で、水酸基含有化合物を含むラジカル重合性モノマーをラジカル重合開始剤をもちいて重合して得られる」ものであるのに対して、引用例2記載の発明では、「水酸基価が10?150mgKOH/gで酸価が6mgKOH/g程度であるアクリルポリオール樹脂(A)と、当該樹脂固形分100重量部に対して1?20重量部の少なくとも1種類以上の加水分解性アルコキシシラン及び/若しくはシラノール基を有する化合物(B)とを含む」ものである点

そこで、上記相違点につき検討すると、上記引用例1記載の発明及び引用例3ないし引用例4の各記載に見られるとおり、水酸基含有樹脂ないしシリケート等のアルコキシシラン化合物を含有する主剤組成物とメラミン樹脂、エポキシ樹脂ないし多価イソシアネート化合物などの水酸基含有樹脂の硬化剤とからなる耐衝撃性、耐擦傷性、耐汚染性等の硬化塗膜の諸物性に優れた塗料又はコーティング組成物において、主剤組成物をアルコキシシラン化合物の存在下で、水酸基含有モノマー組成物をラジカル重合して水酸基含有樹脂とすることにより構成することは、当業界周知の技術であり、引用例2記載の発明において、塗膜の諸物性の改善を意図し、上記当業界周知の技術に基づき、主剤組成物をアルコキシシラン化合物の存在下で水酸基含有モノマー組成物をラジカル重合して構成することは、当業者ならば適宜なし得ることである。
また、本願発明1の効果につき検討すると、上記引用例2記載の発明においても、(耐水)密着性、耐衝撃性、耐ガソリン性、塗装仕上がり外観のいずれにも優れた塗膜が得られることが記載されている(【表1】参照。)から、本願発明1の効果が格別に顕著なものということができない。
したがって、本願発明1は、引用例2記載の発明及び当業界周知の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。」

第4 各引用例に記載された事項

1.引用例1(特開平9-328649号公報)について
上記引用例1には、以下の事項が記載されている。

(1-a)
「【請求項1】全構成単位の合計量を基準にして、下記(1)式で表されるα-ヒドロキシメチルアクリル酸エステル単位を20?98重量%、下記(2)式で表される水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル単位を2?50重量%およびその他の単量体単位を0?78重量%有し、かつ重量平均分子量が2,000?200,000であるビニル重合体、アルコキシシランおよびそれらの溶剤からなるケイ素含有溶剤型塗料。
・・(中略)・・
【請求項2】ビニル重合体100重量部当たり、アルコキシシランを5?500重量部含む請求項1記載のケイ素含有溶剤型塗料。
【請求項3】アミノ樹脂または多価イソシアネートをビニル重合体100重量部当たり2?50重量部含む請求項2記載のケイ素含有溶剤型塗料。
【請求項4】アルコキシシランの存在下に、α-ヒドロキシメチルアクリル酸エステル、水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルおよび必要に応じてその他の単量体をラジカル重合させることを特徴とする請求項1または同2のいずれかに記載のケイ素含有溶剤型塗料の製造方法。
【請求項5】請求項4に従いラジカル重合させた後、これにアミノ樹脂または多価イソシアネートを配合することを特徴とする請求項3記載のケイ素含有溶剤型塗料の製造方法。」
(【特許請求の範囲】)

(1-b)
「本発明の溶剤型塗料には、硬化塗膜の耐候性および耐汚染性をより一層高度にするために、前記ビニル重合体の硬化剤として、アミノ樹脂または多価イソシアネートを配合することが好ましく、アミノ樹脂または多価イソシアネートの好ましい配合割合は、前記ビニル重合体100重量部当たり、2?50重量部である。アミノ樹脂または多価イソシアネートを上記の割合で使用することにより、塗膜の機械的な強度が大幅に向上する。アミノ樹脂または多価イソシアネートの配合時期としては、塗料を使用する直前が好ましい。」
(【0030】)

(1-c)
「【発明の効果】本発明の塗料組成物は、実施例の結果からも明らかなように、その塗膜が耐候性および耐汚染性に優れる上、保存安定性に優れ、さらにその塗膜が耐衝撃および屈曲性にも優れるのであり、溶剤型塗料として有用である。」
(【0049】)

2.引用例2(特開2000-327995号公報)について
上記引用例2には、以下の事項が記載されている。

(2-a)
「【請求項1】 アクリルポリオール樹脂(A)と、少なくとも1種類以上の加水分解性アルコキシシラン及び/若しくはシラノール基を有する化合物(B)と、分子構造中に少なくとも1単位以上のε-カプロラクトンの開環物を含む1価のアルコール化合物(C)とから構成される樹脂組成物を塗料主剤樹脂成分とし、硬化剤としてイソシアネート系樹脂を加えて硬化させることを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】 アクリルポリオール樹脂(A)と、少なくとも1種類以上の、加水分解性アルコキシシラン及び/若しくはシラノール基を有する化合物(B)と、分子構造中に少なくとも1単位以上のプロピレンオキシドの開環物を含む1価のアルコール化合物(D)とから構成される樹脂組成物を塗料主剤樹脂成分とし、硬化剤としてイソシアネート系樹脂を加えて硬化させることを特徴とする塗料組成物。
・・(中略)・・
【請求項5】 請求項1?請求項4のいずれかにおいて、アクリルポリオール樹脂(A)の水酸基価は、10?150mgKOH/gであることを特徴とする塗料組成物。
・・(中略)・・
【請求項7】 請求項1?請求項6のいずれかにおいて、化合物(B)の固形分は、アクリルポリオール樹脂(A)の固形分100重量部に対して1?20重量部であることを特徴とする塗料組成物。
・・(中略)・・
【請求項9】 請求項1?請求項8のいずれかにおいて、アクリルポリオール樹脂(A)の有する水酸基と1価のアルコール化合物(C)若しくは1価のアルコール化合物(D)の有する水酸基を合計した水酸基に対して、前記イソシアネート基/水酸基の比率が0.5?3.0当量に相当するイソシアネート系樹脂を加えてなることを特徴とする塗料組成物。」
(【特許請求の範囲】)

(2-b)
「【産業上の利用分野】 この発明は、金属、プラスティックス、繊維強化プラスティックスなどの素材に対する付着性に優れ、かつ塗装乾燥後の優れた仕上がり外観を呈する塗料組成物に関するものであり、特に浴槽や洗面所などに使用されているFRP基材及び製品に対して優れた付着性を有し、かつ良好な塗装仕上がり外観を与える塗料組成物に関する。」
(【0001】)

(2-c)
「本発明のアクリルポリオール樹脂(A)に用いるラジカル重合性単量体としては、アクリル酸またはメタクリル酸のエステル、ビニル芳香族化合物、ポリオレフィン系化合物、その他、カプロラクトン変性アクリル酸エステル化合物、カプロラクトン変性メタクリル酸エステル、・・(中略)・・アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、アリルアルコール、マレイン酸などが例示できる。」
(【0019】)

(2-d)
「前記アクリル酸またはメタクリル酸のエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ラウリル等のアクリル酸またはメタクリル酸の炭素数1?18のアルキルエステル、・・(中略)・・ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸の炭素数2?8のヒドロキシアルキルエステル・・(中略)・・などがある。」
(【0020】)

(2-e)
「本発明の塗料組成物のバインダー成分に必須成分である加水分解性アルコキシシラン及び/若しくはシラノール基を有する化合物(B)としては、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、γ-(アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、・・(中略)・・および少なくとも1種類以上の前記加水分解性アルコキシシラン化合物を多量体化変性した化合物などが例示できる。
・・(中略)・・
前記加水分解性アルコキシシランおよび/もしくはシラノール基を有する化合物は、数種類を組み合わせて使用することも可能である。また、本発明の塗料組成物のバインダー成分中の配合は、前記アクリルポリオール樹脂(A)の固形分100重量部に対して1?20重量部が好ましい。より好ましくは2?10重量部である。1重量部以下では塗装素材との付着性が不十分となるので好ましくない。また、20.0重量%以上ではコスト高となるために好ましくない。」
(【0025】?【0027】)

(2-f)
「実施例1:
(アクリルポリオール樹脂の合成):窒素導入管、温度計、冷却管、滴下ロート、撹拌装置を備えた1リットルの丸底四つ口フラスコにトルエン400gを仕込み、100℃に加熱した。別に調整したメタクリル酸メチル220.0g、スチレン40.0g、アクリル酸ブチル100.0g、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル20.0g、アクリル酸2-ヒドロキシエチル16.0g、メタクリル酸4.0g、ABN-E(日本ヒドラジン工業(株)製アゾ化合物)12.0gから成る混合物を滴下ロートを用いて4時間にわたってフラスコ内に添加した。添加終了後、20分毎に100分間にわたってABN-E1.0gを合計5回添加し、さらに100分に渡ってフラスコ内温度を100℃に保って反応を終了し、実施例1のアクリルポリオール樹脂(A1)を得た。このアクリルポリオール樹脂の固形分は50W%で、その水酸基価は40mgKOH/gであった。
(イソシアネート樹脂系硬化剤の調整):TPA-100(旭化成( 株) 製ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌル環タイプイソシアネート化合物)30重量%、24A-100(旭化成( 株) 製ヘキサメチレンジイソシアネートのビューレット付加タイプイソシアネート化合物)30重量%、トルエン20重量%、酢酸エチル20重量%を混合してイソシアネート系硬化剤を得た。
(塗料希釈用シンナーの調整):酢酸エチル20重量%、メチルイソブチル30重量%、トルエン30重量%、ソルベッソ150(炭化水素系混合溶剤)20重量%を混合してシンナーを得た。
(塗料組成物主剤の調整):アクリルポリオール樹脂(A1)200g、TSL8340(東芝シリコーン(株)社製N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン)5.0g、FM-4(ダイセル化学(株)製ε-カプロラクトン系オリゴマー)6.0g、トルエン100gを分散機を用いて均一になるまで攪拌して実施例1の塗料組成物主剤を得た。
(塗料組成物の調整):実施例1の塗料組成物主剤に、実施例1のイソシアネート樹脂系硬化剤33.2gと、実施例1の塗料希釈用シンナーを加えて攪拌し、20℃における粘度がフォードカップで12秒に調整した。
本実施例の塗料主剤は、水酸基価が40mgKOH/gのアクリルポリオール樹脂(A1)を含むと共に、アクリルポリオール樹脂(A1)の固形分100.0重量部に対して5.0重量部の加水分解性アルコキシシラン及び/若しくはシラノール基を有する化合物(B)を含み、さらに、分子構造中に平均4単位のε-カプロラクトンの開環物を含む1価のアルコール化合物(C)をアクリルポリオール樹脂(A1)の固形分100.0重量部に対して6.0重量部含む。この実施例の塗料組成物は、このような塗料主剤に対して、アクリルポリオール樹脂(A1)の有する水酸基と1価のアルコール化合物(C)の有する水酸基との和に等しい量の水酸基に対して、硬化剤としてイソシアネート基/水酸基の比率が1.2になる当量のイソシアネート系樹脂を加えた塗料組成物である。」
(【0052】?【0057】)

(2-g)
「(塗膜評価方法)
(イ)塗装処理と塗装乾燥;
FRP成型素材に、前記実施例及び比較例で得た塗料組成物をエアースプレー塗装により乾燥膜厚が30μmになるように均一に塗装を行った。スプレー終了後7日間常温放置することにより乾燥過程を終了し各種試験を行った。試験結果は表1である。
(ロ)塗膜試験項目と評価方法;
密着性試験 :1mm×1mm×100個碁盤目カット、セロハンテープ剥離試験後の残存碁盤目数から評価。
耐水密着性試験:40℃温水中に240時間浸漬後、1mm×1mm×100個碁盤目カット、セロハンテープ剥離試験後の残存碁盤目数から評価。
耐衝撃性試験 :JISK5400に準拠して試験を行った。500g荷重で30cmでの衝撃性試験結果を相対的に評価。
耐ガソリン性試験:30℃の日石レギュラーガソリン中に20分間浸漬後の塗膜変化を相対的に評価
塗装仕上がり外観:目視により仕上がり状態の平滑性を相対的に評価。
(ハ)試験評価判定基準
◎:極めて良好
○:良好
△:やや劣るが使用可能範囲
×:不良」
(【0124】?【0126】)

(2-h)【表1】(第12頁下段)




3.引用例3(特開平11-315254号公報)について
上記引用例3には、以下の事項が記載されている。

(3-a)
「下記一般式(1)
【化1】(式は省略)
(式中、Rは同一もしくは異なって水素原子又は炭素数1?10の1価の炭化水素基を示す。)で表わされるオルガノシリケート及び/又はその縮合物であるシリケート化合物(A)の存在下でラジカル重合性不飽和モノマーをラジカル重合反応させてなる酸価が15?150mgKOH/g及び水酸基価が30?200mgKOH/gのアルコキシシリル基を有する水分散性ビニル系共重合体(B)、該ビニル系共重合体(B)に対し完全には相溶性を有さないメラミン樹脂(C)を水中に分散してなる水性分散液(I)を含有することを特徴とする水性つや消し塗料組成物。」
(【請求項1】)

(3-b)
「本発明は、従来からの公知の塗装手段でつや消し塗膜を得ることが可能であり、かつ安定性に優れた塗料及び耐擦傷性、耐久性に優れた塗膜を形成することができる水性(耐擦傷性)つや消し塗料組成物を提供することを目的とするものである。」
(【0007】)

4.引用例4(特開平8-60081号公報)について
上記引用例4には、以下の事項が記載されている。

(4-a)
「【請求項1】有機溶媒中で下記一般式[I]で示されるシリケートオリゴマーの存在下に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル及びカルボキシル基、(亜)リン酸基、エポキシ基、アミノ基、アミド基から選ばれる少なくとも一種の官能基を含有する官能基含有不飽和単量体とを共重合して得られる組成物と、エポキシ樹脂を混合することを特徴とするコーティング用組成物。
・・(中略)・・
【請求項2】(メタ)アクリル酸アルキルエステルとヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル及び官能基含有不飽和単量体の合計量100重量部に対して、シリケートオリゴマーを5?500重量部の割合で使用することを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】(メタ)アクリル酸アルキルエステルとヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル及び官能基含有不飽和単量体の合計量100重量部中における(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合が40?99.49重量%、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステルの割合が0.5?50重量%、官能基含有不飽和単量体の割合が0.01?15重量%であることを特徴とする請求項1?2のいずれか記載の組成物。
・・(中略)・・
【請求項5】シリケートオリゴマーとしてテトラメトキシシラン部分加水分解物を使用することを特徴とする請求項1?4のいずれか記載の組成物。
・・(後略)」
(【特許請求の範囲】、丸数字は省略。)

(4-b)
「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の混合物よりなるコーティング用組成物では、得られる塗膜の透明性や耐沸水性に改善の余地があるので、本出願人は先に有機溶媒中でシリケートオリゴマーの存在下に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステルとを共重合して得られる組成物が、鉄等の金属、プラスチック、木材、コンクリート等の表面に透明性や耐沸水性の良好な塗膜を形成させることが出来、更に該組成物が本来有している耐擦傷性、耐熱性、耐候性、密着性も兼ね備えたことを見出し特許出願を行った。本出願人はこの組成物の新規用途を更に開拓すべく鋭意検討を行った。
【課題を解決するための手段】
その結果、アクリル系共重合体の共重合時に特定のシリケートオリゴマーを共存させて得られる組成物を、エポキシ樹脂に混合することによりエポキシ樹脂塗膜の物性を改良できることを見出し、本発明に到達した。即ち・・(後略)」
(【0003】?【0004】)

第5 当審の判断

1.引用例2に記載された発明
上記引用例2には、「アクリルポリオール樹脂(A)と、少なくとも1種類以上の加水分解性アルコキシシラン及び/若しくはシラノール基を有する化合物(B)・・とから構成される樹脂組成物を塗料主剤樹脂成分とし、硬化剤としてイソシアネート系樹脂を加えて硬化させることを特徴とする塗料組成物」が記載され(摘示(2-a))、当該「化合物(B)」の使用量につき、「アクリルポリオール樹脂(A)の固形分100重量部に対して1?20重量部が好ましい」ことも記載されている(摘示(2-e))。
また、上記引用例2には、当該「アクリルポリオール樹脂(A)」を構成するラジカル重合性単量体として、「アクリル酸またはメタクリル酸の炭素数1?18のアルキルエステル」及び「アクリル酸またはメタクリル酸の炭素数2?8のヒドロキシアルキルエステル」がいずれも例示されるとともに(摘示(2-d))、さらに「アクリル酸、メタクリル酸」などの不飽和カルボン酸単量体を共重合単量体とすることもが記載されている(摘示(2-c))。
そして、引用例2の具体例における「アクリルポリオール樹脂の合成」において「メタクリル酸メチル」、「アクリル酸ブチル」などの(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び「メタクリル酸2-ヒドロキシエチル」、「アクリル酸2-ヒドロキシエチル」などの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとともに「メタクリル酸」なる不飽和カルボン酸単量体を共重合単量体としたことが記載され、さらに「ABN-E」なるアゾ化合物のラジカル重合開始剤を用いて重合する点も記載されている(摘示(2-f))。
したがって、上記引用例2には、上記(2-a)ないし(2-h)の摘示事項からみて、
「(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル及び不飽和カルボン酸単量体を含有する単量体組成物をラジカル重合開始剤を用いて重合させたアクリルポリオール樹脂と、当該樹脂固形分100重量部に対して1?20重量部の少なくとも1種類以上の加水分解性アルコキシシラン及び/若しくはシラノール基を有する化合物とを含む樹脂組成物を塗料主剤樹脂成分とし、硬化剤としてイソシアネート系樹脂を加えて硬化させることを特徴とする塗料組成物」
に係る発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

2.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル」、「不飽和カルボン酸単量体」、「(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル及び不飽和カルボン酸単量体を含有する単量体組成物」、「イソシアネート系樹脂」及び「塗料組成物」は、それぞれ、本願発明における「水酸基含有化合物」、「有機酸を有するラジカル重合性モノマー」、「有機酸を有するラジカル重合性モノマーおよび、水酸基含有化合物を含むラジカル重合性モノマー」、「イソシアネート系化合物」及び「塗料用樹脂組成物」に相当することが明らかである。
また、引用発明における「少なくとも1種類以上の加水分解性アルコキシシラン及び/若しくはシラノール基を有する化合物」は、ラジカル重合性官能基を有さない化合物が具体的に例示されている(上記摘示(2-e)参照。)ことからみて、本願発明における「加水分解性アルコキシシラン化合物、該アルコキシシラン化合物の加水分解物、シラノール基を含有する化合物から選択される1種類以上(但し、ラジカル重合性官能基をもつものを除く)」に相当するものといえる。
さらに、引用発明における「樹脂組成物を塗料主剤樹脂成分と」することは、当該「樹脂組成物」が「アクリルポリオール樹脂」と「加水分解性アルコキシシラン及び/若しくはシラノール基を有する化合物」と併せて含有するものである点で軌を一にするものであるから、本願発明における「水酸基含有樹脂組成物」に相当するものといえる。
そして、引用発明における当該「樹脂組成物」の上記「アクリルポリオール樹脂」と「化合物」との量比に係る「当該樹脂固形分100重量部に対して1?20重量部」は、重量百分率で表すと、実質的に「1?17重量%」となり、本願発明における「化合物の含有率が2?70重量%」と「2?17重量%」の範囲で重複することが明らかである。
してみると、本願発明と上記引用発明とは、
「加水分解性アルコキシシラン化合物、該アルコキシシラン化合物の加水分解物、シラノール基を含有する化合物から選択される1種類以上(但し、ラジカル重合性官能基をもつものを除く)と有機酸を有するラジカル重合性モノマーおよび水酸基含有化合物を含むラジカル重合性モノマーをラジカル重合開始剤をもちいて重合して得られる樹脂とを含有する水酸基含有樹脂組成物に、イソシアネート系化合物が加えられてなる塗料用樹脂組成物であって、前記水酸基含有樹脂組成物中の加水分解性アルコキシシラン化合物、該アルコキシシラン化合物の加水分解物、シラノール基を含有する化合物の含有率が2?17重量%であることを特徴とする塗料用樹脂組成物」
に係る点で一致し、下記の点でのみ相違している。

相違点:「水酸基含有樹脂組成物」について、本願発明では「加水分解性アルコキシシラン化合物、該アルコキシシラン化合物の加水分解物、シラノール基を含有する化合物から選択される1種類以上(但し、ラジカル重合性官能基をもつものを除く)の存在下で、水酸基含有化合物を含むラジカル重合性モノマーをラジカル重合開始剤をもちいて重合して得られる」ものであるのに対して、引用発明では、「(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル及び不飽和カルボン酸単量体を含有する単量体組成物をラジカル重合開始剤を用いて重合させたアクリルポリオール樹脂と、当該樹脂固形分100重量部に対して1?20重量部の少なくとも1種類以上の加水分解性アルコキシシラン及び/若しくはシラノール基を有する化合物とを含む」ものである点

3.相違点に係る検討
上記相違点につき検討すると、上記第4の1.、3.及び4.でそれぞれ指摘した引用例1、引用例3及び引用例4の各記載に見られるとおり、水酸基含有樹脂ないしシリケート等のアルコキシシラン化合物を含有する主剤組成物とメラミン樹脂、エポキシ樹脂ないし多価イソシアネート化合物などの水酸基含有樹脂の硬化剤とからなる耐衝撃性、耐擦傷性、耐汚染性等の硬化塗膜の諸物性に優れた塗料又はコーティング組成物において、主剤組成物をアルコキシシラン化合物の存在下で、水酸基含有モノマー組成物をラジカル重合して水酸基含有樹脂とすることにより構成することは、当業界周知の技術であり、引用発明において、塗膜の諸物性の改善を意図し、上記当業界周知の技術に基づき、主剤組成物をアルコキシシラン化合物の存在下で水酸基含有モノマー組成物をラジカル重合して構成することは、当業者ならば適宜なし得ることである。

4.本願発明の効果について
本願発明の効果について本願明細書の記載に基づき検討する。

(1)前提

ア.本願発明の解決すべき課題に対応する効果について
本願明細書の記載(【0003】及び【0004】)からみて、従来の「ニ液ウレタン系の塗料組成物の場合では、架橋密度を高く設定することにより、耐磨耗性、耐薬品性、耐候性の良好な塗料組成物が得られるものの、耐久性を満足させるために架橋密度を高く設定することから、補修が必要となった場合の上塗り適性が悪いという問題があった」という課題を解決するために「低温焼付けもしくは常温乾燥で硬化可能な塗料用樹脂組成物で、耐磨耗性、耐薬品性、耐候性等の耐久性能に優れ且つ補修性にも優れた塗料用樹脂組成物を提供」することを、本願発明の解決課題とするものである。
してみると、本願発明は、
(a)低温焼付けもしくは常温乾燥で硬化可能である。
(b)耐磨耗性、耐薬品性、耐候性等の耐久性能に優れる。
(c)補修性に優れる。
という3点の効果を有すべきものといえる。

イ.「補修性」について
当審は、上記「補修性」(又は「リコート性」)につき、本願明細書の記載を参酌しても、その定義及び発現機構につき不明であったので、平成22年3月15日付けで審尋を行い、同年5月13日付けで審判請求人から回答を得た。
当該回答によると、「補修性」は、「「塗料を塗装して未乾燥塗膜を形成した後、すべての塗膜形成硬化反応が完全に終了するのに十分な時間が経過し安定な硬化塗膜を形成してなる塗装物品について、さらに当該物品の使用による経時後に補修が必要となった場合における当該塗膜に係る物性」ではなく、補修前に元々存在する完全硬化前の塗膜の物性である」としており、同一の塗料による「再塗装」時の物性であるとしている(回答書[2](1)「「補修性」(「リコート性」)の定義について」の欄)。
(なお、「補修性(リコート性)」の発現機構については、下記「第6 審判請求人の主張について」の説示を参照のこと。)

(2)本願発明の効果に係る検討
そこで、本願発明の効果につき検討すると、上記(1)ア.で示した(a)及び(b)の効果については、上記引用発明においても、実施例において塗膜の評価を行うにあたり常温乾燥した塗膜につき評価試験を行っており(上記摘示(2-g)参照。)、また、(耐水)密着性、耐衝撃性、耐ガソリン性、塗装仕上がり外観のいずれにも優れた塗膜が得られることも記載されている(上記摘示(2-h)参照。)から、引用発明に基づき、当業者が予期し得ない程度の格別顕著なものということができない。
また、上記(1)ア.で示した(c)の効果、すなわち「補修性に優れる」につき検討すると、引用発明の塗料組成物においても、完全硬化前でアクリルポリオール樹脂の水酸基及び硬化剤のイソシアネート系樹脂のイソシアネート基が有意に残存する最初に塗装した塗膜(以下「旧塗膜」という。)に対して、新たに塗装を行い塗膜(以下「新塗膜」という。)を形成した場合、旧塗膜の水酸基と新塗膜のイソシアネート基又は旧塗膜のイソシアネート基と新塗膜の水酸基との間で化学的な結合が生起し、旧塗膜と新塗膜との間で化学的な結合力が発生するであろうことは、技術的常識からみて、当業者が予期し得る範囲のことといえる。
(なお、当該「(c)の効果」については、後述する「補修性(リコート性)」の発現機構に係る説示も参照のこと。)
してみると、上記(1)ア.で示した(c)の効果についても、引用発明に基づき、当業者が予期し得ない程度の格別顕著なものということができない。

(3)本願発明の効果に係るまとめ
したがって、本願発明の効果は、引用発明のものから、当業者が予期し得ない程度の格別顕著なものということができない。

5.小括
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び当業界周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 審判請求人の主張について

1.審判請求人の主張の内容

(1)平成22年1月29日付け意見書
審判請求人は、上記意見書において、
「なお、本願発明の塗料用樹脂組成物は、以下の理由からリコート性が優れているものと推測されます。
すなわち、加水分解性アルコキシシラン化合物、該アルコキシシラン化合物の加水分解物、シラノール基を含有する化合物から選択される1種類以上(以下、本意見書では「アルコキシシラン化合物等」という。)の存在下で、有機酸を有するラジカル重合性モノマーと水酸基含有化合物を含むラジカル重合性モノマーとを重合すると、得られた水酸基含有樹脂組成物において、有機酸および水酸基にアルコキシシラン化合物等が結合します。
従いまして、有機酸または水酸基はマスクされた状態になるため、イソシアネート系化合物を添加し、加熱乾燥しても、架橋密度が高くなるのに時間を要します。そのため、乾燥後、暫くの間は高い密着性を確保できるため、高いリコート性を維持できます。なお、乾燥後、ある程度の時間が経過すると、大気中の水分によって、イソシアネート系化合物による水酸基含有樹脂組成物の硬化は進行します。また、ポリマーに結合したアルコキシシラン化合物等が脱水縮合することにより、水酸基含有樹脂組成物はシラノール結合を形成して架橋構造を形成します。従いまして、得られた塗膜は耐磨耗性、耐候性および耐薬品性に優れたものになります。」
と主張し(意見書「(3)本願発明の説明」の欄)、さらに
「すなわち、引用例2に記載の水酸基含有樹脂組成物は、アルコキシシラン化合物等と、水酸基および酸基を有するアクリルポリオール樹脂とは別個のものになっています。この場合、アクリルポリオール樹脂の水酸基および酸基にアルコキシシラン化合物が結合していませんから、水酸基および酸基はマスクされていません。そのため、イソシアネート系化合物を添加し、加熱乾燥すると、速やかに架橋密度が高くなるので、リコート性が得られません。従いまして、引用発明2では、リコート性を向上させる発想は全くありません。」と主張している(意見書「(5)理由2について」の「(i)本願発明1」の欄」)。

(2)平成22年5月13日付け回答書
審判請求人は、上記回答書において、
「本願発明では、加水分解性アルコキシシラン化合物、該アルコキシシラン化合物の加水分解物、シラノール基を含有する化合物(以下、これらを「アルコキシシラン化合物等」という。)から選択される1種類以上の存在下で、有機酸を有するラジカル重合性モノマーと水酸基含有化合物を含むラジカル重合性モノマーとを重合する際に、有機酸および水酸基をアルコキシシラン化合物等によってマスクすることができます。そのため、架橋点を多くした場合でも、イソシアネート系化合物を添加した状態で加熱乾燥した際には架橋反応が起こりにくくなります。架橋が進んでいない塗膜においては、その上に再塗装した塗膜内の分子と化学的に結合しやすくなるため、密着性が高くなります。密着性が高くなれば、剥離しにくくなり、高いリコート性を得ることができ、リコート性が高くなれば、補修性も高くなります。
・・(中略)・・
なお、本願発明において、アクリルポリオール樹脂の水酸基および酸基にアルコキシシラン化合物等が結合して水酸基および酸基が一時的にマスクされるのは、重合の際に加熱すると共に、有機酸の酸基の存在によって、アルコキシシラン化合物等のシランと水酸基含有化合物を含むラジカル重合性モノマーの水酸基とが容易に反応するためです。
一方、引用例2に記載の発明では、あらかじめ重合して得た、水酸基および酸基を有するアクリルポリオール樹脂と、アルコキシシラン化合物等とを単に混合するだけであり、加熱することはないため、アクリルポリオール樹脂の水酸基および酸基にアルコキシシラン化合物が反応しません。そのため、引用例2に記載の発明では、水酸基および酸基がマスクされません。
上記のことから、本願発明では水酸基又は酸基がマスクされるのに対し、引用例2に記載の発明ではマスクされないことについての技術的な根拠は明確です。
また、水酸基含有樹脂組成物の水酸基又は酸基へのアルコキシシラン化合物等の結合は、大気中の水分によって容易に加水分解されるため、シラノール基が生成されます。そのため、水酸基含有樹脂組成物は、単に大気中に放置しているだけで、イソシアネート基と反応可能になります。従いまして、マスクされた部分を分解・解離するための特段の手段はありませんので、明細書に記載がなくても、マスクされた部分を分解・解離する事項は明確です。」
と主張している(回答書「(2)本願発明における「補修性(リコート性)」の発現機構について」の欄)。

2.検討
そこで、上記審判請求人の各主張につき検討する。

(1)水酸基等のアルコキシシラン化合物等によるマスクについて
a.審判請求人は、上記各主張において、アルコキシシラン化合物等の存在下で有機酸を有するラジカル重合性モノマーと水酸基含有化合物を含むラジカル重合性モノマーとを重合することによって、生成した重合体の水酸基等がアルコキシシラン化合物等によりマスクされることを前提として、本願発明における「補修性(リコート性)」の発現機構に係る説明をしている。

b.しかるに、本願明細書の記載を検討しても、当該「マスク」につき記載又は示唆されておらず、また、有機化合物における脂肪族炭素に結合する水酸基又はカルボキシル基に対してアルコキシシラン化合物等が「マスク」剤として作用することが、本願出願時の当業界の技術的常識又は周知技術であったとまでいうことができない。

c.また、仮に、当該「マスク」が生起するとして検討すると、審判請求人の「水酸基含有樹脂組成物の水酸基又は酸基へのアルコキシシラン化合物等の結合は、大気中の水分によって容易に加水分解されるため、シラノール基が生成されます。」なる主張に基づき、技術的常識に照らして、当該「マスク」は、有機化合物の水酸基に対してアルコキシシラン化合物等が脱水又は脱アルコールによる縮合によって結合することでなされていると解するほかはない。
しかるに、当該縮合の結果発生した水又はアルコールは特に重合反応系から除去されていないのであるから、重合反応系に残存することは当業者に自明であり、当該重合反応系を水酸基含有樹脂組成物としイソシアネート系化合物と組み合わせて塗料用樹脂組成物とするまでの間に、縮合によりいったん発生した水又はアルコールが容易に付加し、当該「マスク」された部分を分解する(いわゆる「加水分解」)ものと解するのが自然である。
してみると、イソシアネート系化合物と組み合わせて塗料用樹脂組成物とする時点で当該「マスク」された部分は、概して分解しているものと解するのが自然であり、当該「マスク」の生成が、上記「補修性(リコート性)」の発現機構に係る主張の技術的根拠となるとはいえない。

d.したがって、審判請求人の上記意見書及び回答書における、生成した重合体の水酸基等がアルコキシシラン化合物等によりマスクされることを前提とした本願発明における「補修性(リコート性)」の発現機構に係る主張は、本願明細書の記載に基づかないものであるか、技術的根拠を欠くものであり、いずれにしても当を得ないものである。

(2)「補修性(リコート性)」と従来技術との関係について
a.本願明細書には、従来技術の問題点として「ニ液ウレタン系の塗料組成物の場合では、架橋密度を高く設定することにより、耐磨耗性、耐薬品性、耐候性の良好な塗料組成物が得られるものの、耐久性を満足させるために架橋密度を高く設定することから、補修が必要となった場合の上塗り適性が悪いという問題があった。」と記載されている(【0003】)。
そして、技術的常識からみて「架橋密度を高く設定する」ということは、「主剤となる樹脂の架橋点となる官能基の数を増加させ、増加させた架橋点官能基の数に見合う量の官能基を有する架橋剤を使用し完全に反応架橋させて、塗膜中に架橋部が多量に存在する状態とする」ことを意味するものと解される。

b.してみると、「補修性(リコート性)」は、審判請求人が定義するところの「完全硬化前の塗膜の物性」なのであり、上記明細書の記載でいう「補修が必要となった場合の上塗り適性」なのであるから、完全に反応架橋させてなる完全硬化後の塗膜の物性である「架橋密度を高く設定する」こととの間で直接的な因果関係が存するものとはいえない。

c.また、従来技術である二液ウレタン系塗料組成物の「補修性(リコート性)」につき検討すると、当該塗料組成物からなる旧塗膜が完全硬化前のものであるならば、技術的常識からみて、未架橋反応の「架橋点となる官能基」(水酸基等)及び架橋剤が有する官能基(イソシアネート基等)が旧塗膜中に有意量残存しており、当該旧塗膜上に新たに同一の塗料組成物を塗装して新塗膜を形成すると、新塗膜中には上記「架橋点となる官能基」(水酸基等)及び架橋剤が有する官能基(イソシアネート基等)の各官能基が存在するのであるから、旧塗膜と新塗膜との間に上記「架橋」と同様の反応により、化学的な結合が生成すると解するのが自然である。
してみると、従来技術である二液ウレタン系塗料組成物であっても、本願発明でいう「完全硬化前の塗膜の物性」としての「補修性(リコート性)」を有する蓋然性が極めて高いというほかはない。

d.したがって、本願発明でいう「完全硬化前の塗膜の物性」としての「補修性(リコート性)」が、従来技術に対して何らかの技術的貢献を示す効果であるということができないから、審判請求人の上記意見書及び回答書における「補修性(リコート性)」に係る当該物性の存否などの技術事項に基づく主張は、その論拠を欠くものであり、当を得ないものである。

3.まとめ
以上のとおりであるから、審判請求人の上記意見書及び回答書における主張は、いずれも当を得ないものであり、採用する余地がなく、上記第5の当審の判断の結果を左右するものではない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び当業界周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明につき検討するまでもなく、特許法第49条第2号の規定に該当するから、拒絶すべきものである。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-07 
結審通知日 2010-06-08 
審決日 2010-06-21 
出願番号 特願2001-143812(P2001-143812)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 守安 智寺坂 真貴子  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 松本 直子
橋本 栄和
発明の名称 クリヤ塗装仕上げ用塗料組成物  
代理人 西 和哉  
代理人 青山 正和  
代理人 志賀 正武  
代理人 渡邊 隆  
代理人 鈴木 三義  
代理人 村山 靖彦  
代理人 高橋 詔男  

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