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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1221211
審判番号 不服2008-1310  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-17 
確定日 2010-08-05 
事件の表示 特願2002-370710「合成樹脂製成形体」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月15日出願公開、特開2004-195938〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成14年12月20日の出願であって、平成18年12月12日付けで拒絶理由が通知され、平成19年2月13日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成20年1月14日に拒絶査定不服審判が請求され、同年2月5日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2.本願発明の認定
本願の請求項1?2に係る発明は、平成19年2月13日付け手続補正書により補正された明細書及び図面(以下、図面の記載を併せて「本願明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」ともいう。)は、以下のとおりのものである。
「溶融樹脂を金型のキャビティ内に射出して所望の形状に形成した傾斜面や湾曲面を有する成形体であって、
前記成形体の傾斜面や湾曲面に、該成形体の肉厚分布に変化を与えることのない大きさ、高さを有し、該成形体を金型より突き出すエジェクターピンの先端に係合して該ピンの成形体に対するスリップを防止する凸部を設けたことを特徴とする合成樹脂製成形体。」

第3.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の理由とされた、平成18年12月12日付け拒絶理由通知書に記載した理由2は、以下のとおりである。
「2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
<理由1、2について>
・請求項 1、2
・引用文献等 1
・備考
引用文献1に記載された「凸部14」は本願発明における「凸部」(リブ)に相当している(図3参照)。
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開平06-210683号公報 」

第4.当審の判断
1.引用文献の記載事項
(1)平成18年12月12日付け拒絶理由通知で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平06-210683号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「請求項2記載の発明の射出成形用金型においては、成形品を金型から突出す断面形状円形の突出しピンの突出し面が凹凸状に形成されているので、傾斜面に突出しピンを設けて成形品を突出す場合でも、突出しピンが成形品の表面を滑らず、このため成形品が確実に突出される。また成形品の表面が削られないので削りカス等が発生しない。又、突出しが必要な箇所に突出しピンを設けて成形品を突出すことができ、突出し時の成形品の変形が防止される。又、突出し面が凹凸状に形成されているので、成形時にこの凹凸状部分に樹脂が充填され、この充填樹脂により成形品突出し時の成形品の横ずれが防止され、成形品の離型不良が防止される。」(【0011】)
(イ)「次にこの射出成形用金型の作動を説明する。射出成形金型1を型締めして固定側金型2と可動側金型3とで形成されたキャビティに樹脂を射出し冷却して成形品7を成形する。」(【0014】)
(ウ)「図4?図6は請求項2記載の発明の射出成形用金型の例を示した図で、図4はその一例を示した断面図、図5は他の例を示した断面図、図6は突出し面の一例を示した断面図である。・・・この場合には、突出し面16に形成された波形形状部分に樹脂が充填され、これにより成形品7突出し時の横ずれが防止され、成形品7が離型不良を生じることなく離型される。・・・図5及び図6において、20は射出成形用金型、21は固定側金型、22は可動側金型、23は成形品、24、25は断面形状円形の突出しピンである。26、27はそれぞれ突出しピン24、25の先端に形成された波形形状の突出し面で、成形品23の傾斜面に沿って斜めに形成されている。突出し面26、27は、図6に示すように、その角の部分30は面取りされているのが望ましく、立上がり面31は成形品23の離型される方向と平行又は斜めに離型されるように形成されているのが望ましい。
この場合には、波形形状に形成された突出し面26、27により、成形品23突出し時に突出しピン4が成形品23の表面を滑らず、このため確実に成形品23を突出すことができ、また削りカスも発生しない。このため離型不良を生じ易い傾斜面等、突出しピンの必要な箇所に突出しピンを設けることができ、変形等を生じることなく成形品を離型させることができる。」(【0016】?【0018】)
(エ)実施例を示す図面として下記図5,6が示されている。




2.引用文献に記載された発明の認定
摘示(ア)?(エ)の記載からみて、引用文献には、
「樹脂を射出成形金型で形成されたキャビティに射出して成形された傾斜面を有する成形品であって、成形品の傾斜面に成形品を金型から突出する突出しピンを設け、突出しピンの突出し面が波形形状に形成されている射出成形用金型によって成形され、成形時に突出し面の波形形状部分に樹脂が充填されることで、突出し時に突出しピンが成形品の表面を滑らない成形品。」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

3.対比
(1)本願発明と引用発明との対比
引用発明の「樹脂」、「射出成形金型で形成されたキャビティ」、「成形品」、「突出しピン」及び「突出し面」は、それぞれ、本願発明の「溶融樹脂」、「金型のキャビティ内」、「成形体」、「エジェクターピン」及び「エジェクターピンの先端」に相当する。ここで、「成形品」は、本願発明の「合成樹脂製成形体」にも相当している。
また、引用発明における「成形品の傾斜面」が、本願発明の「所望の形状に形成された傾斜面や湾曲面」に相当することも明らかである。
さらに、引用発明の成形品が、傾斜面に設けられた突出しピンの突出し面が波形形状に形成されていて、この波形形状部分に樹脂が充填されることで、突出し時に突出しピンが成形品の表面を滑らないようにされているものであることから、成形品からみれば、突出しピンの突出し面の波形形状に対応した波形形状部分が、成形品の傾斜面に形成されているということができる。
いいかえれば、成形品の傾斜面に形成された波形形状部分は、突出しピンの突出し面に係合するものである。
そして、引用発明の「波形形状部分」も本願発明の「突出部」もともにエジェクターピンの先端に係合する「突出部」といえる。

したがって、本願発明と引用発明とは、
「溶融樹脂を金型のキャビティ内に射出して所望の形状に形成した傾斜面や湾曲面を有する成形体であって、前記成形体の傾斜面や湾曲面に、該成形体を金型より突き出すエジェクターピンの先端に係合する突出部が設けられた合成樹脂製成形体」の点で一致し、次の相違点で相違する。

<相違点1>
成形体の傾斜面に設けられた、エジェクターピンの先端に係合する突出部に関して、本願発明においては、「ピンの成形体に対するスリップを防止する凸部」と規定するのに対して、引用発明においては、「突出し時に突出しピンが成形品の表面を滑らない波形形状部分」と規定している点。
<相違点2>
成形体の傾斜面に設けられた突出部の大きさ、高さに関して、本願発明においては「該成形体の肉厚分布に変化を与えることのない大きさ、高さを有し」と規定しているのに対して、引用発明においては、特に規定されてない点。

(2)判断
相違点1について
まず、突出部の作用については、引用発明の「突出し時に突出しピンが成形品の表面を滑らない」との規定も、本願発明の「ピンの成形体に対するスリップを防止する」との規定も、ともに、成形体のエジェクターピンによる突出し時において、成形体とエジェクターピンとの間に滑りが生じないことを表しているものであるので、両者の間に突出部の作用において差異はない。
次に、突出部の形状については、引用発明の「波形形状部分」は、摘示(エ)の図5から明らかなように、成形体表面を波形とすることにより凸部が形成されるものであるので、両者の間に突出部の形状において差異はない。
したがって、相違点1は、実質的な相違点ではない。

相違点2について
まず、本願発明における「該成形体の肉厚分布に変化を与えることのない大きさ、高さを有し」の技術的な意味について、検討する。
本願明細書等には、上記「該成形体の肉厚分布に変化を与えることのない大きさ、高さを有し」に関係する記載として以下の事項が記載されている。
(ア)「【従来の技術】・・・ピンによる突出力はピンの先端に集中するため成形品には凹部が生じやすく、ピンを当接させる位置は、製品の外観品質に影響を与えない背面や裏面とするのが普通になっている。・・エジェクターピンが成形体の傾斜面や湾曲面に接触させて突き出すような場合に、ピンの可動中に該ピンが成形体の接触面でスリップすることがあり・・このため、従来は成形体の傾斜面、湾曲面に成形体の成形と同時に図1に示すような平坦面を有する段差tを設ける一方、エジェクターピンPには該段差tに垂直に接触、適合する段差t′を設けるようにして突き出しの際のピンのスリップを防止するようにしていた。」(【0002】?【0006】)
(イ)図1として



」(第3頁)
(ウ)「・・このような段差tの形成は、成形体の肉厚分布に変化をもたらすためにその表面部分にヒケが生じ易くなり成形体の品質劣化の原因になっていた。」(【0007】)
(エ)「なお、この凸部1の大きさや高さはレバーの表面にヒケを発生させないためにも可能な限り小さく、低くするのが好ましい。」(【0012】)
(オ)「成形体の傾斜面や湾曲面に平坦面を有する段差を設けたものでは、エジェクターピンをスリップさせることなしに成形体を突き出すことができるものの、成形体の本体部分における肉厚分布が変化するため、溶融樹脂の凝固、収縮時に成形体の表面でヒケが生じ製品品質に悪影響を及ぼす不利があったが、本発明のようにリブの如き凸部1を設けることで成形体の肉厚分布にほとんど変化を与えることがないので製品品質に影響するヒケも生じない。」(【0014】)
上記摘示事項(ア)?(オ)から、本願発明の「該成形体の肉厚分布に変化を与えることのない大きさ、高さを有し」とは、エジェクターピンのスリップを防止するために成形体の裏面に凸部を設けるとその部分が肉厚となり、その表面部分にヒケが生じることとなるため、製品品質に影響するヒケを生じない程度の大きさ、高さの凸部とすることを意味すると解される。
一方、引用発明の波形形状部分も、本願発明と同じく、成形体の一側が平面形状の他側に設けられた凸部である。そして、一定の厚さの成形体にリブ部、ボス部のような凸部を設けるとその反対面にヒケが生じること、及び該ヒケを防止するために凸部の大きさを小さくすることは周知であり(特開平6-210659号公報の【0005】、特開平8-132484号公報の【0002】【0004】)、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)であれば、できるだけ反対面へのヒケが小さい凸部の大きさ、高さに設定しようとすることは当然の事項である。
してみれば、引用発明の「波形形状部分」の大きさを、「表面部分にヒケが生じない程度の大きさ、高さとすること」すなわち、「該成形体の肉厚分布に変化を与えることのない大きさ、高さを有」するものとすることは、当業者が適宜なし得たことと認められる。

そして、その効果も、当業者が引用発明及び周知技術から予測しうる範囲内と言える。

4.請求人の主張について
(1)請求人の主張
審判請求人は、平成20年1月17日付け審判請求書(平成20年2月5日付け手続補正書(方式)により補正)において、
「引用文献1は成形品を金型から突出す際の成形品の横ずれを防止することを目的とするもので、成形品の成形時に凸部14が形成される場合がありますが(引用文献1の段落番号(0015)ご参照)、この凸部14は突出しピンの先端に設けられた突出し部の隙間に樹脂が充填されることによって形成される(引用文献1の段落番号0014ご参照)もので、この凸部14は成形品7に対する横ずれの力を抑えて離型不良の発生を回避するものであるから、該凸部14は一定程度以上の高さが必要(凸部14に対応する成形品7部分は相当程度の厚さを有さざるを得ない)であり、その表面部分にヒケが生じるおそれがあって本願発明で規定する凸部とはその有する機能は全く異なるものです。
傾斜面や湾曲面を有する成形体を成形するに当たっては、単に凸部を形成するだけでは成形体の肉厚分布が変化し溶融樹脂の凝固、収縮時にヒケが生じ製品品質に悪影響を及ぼす不利があるので、本願発明では、成形体の肉厚分布に変化を与えることのない大きさや高さに設定された凸部を設けて、エジェクターピンの成形体に対するスリップを防止するようにしたものであるところ、この点に関して引用文献1には本願発明を示唆するところは一切ありません。・・・
本願発明で規定する凸部は、成形体の形状にかかわりなくスリップを伴うことなしにエジェクターピンで突き出すものであり、凸部はエジェクターピンと必ず係合することになります。これに対して引用文献1の凸部14は横ずれに対抗する高さを有していること、すなわち、一定程度以上の高さ(厚さ)を有していることを必須条件とするものであり、該凸部14を形成する場合について成形品の肉厚分布における影響に関しては何も考慮されていないことから、溶融樹脂の凝固、収縮時にヒケが生じることも懸念され、本願発明とは効果の面でも大差があるのは明らかです。」と主張している。

(2)請求人の主張についての検討
上記3.(2)の項で述べたように、本願発明の成形体に設けられた凸部の作用、形状、大きさ、高さにおいて、本願発明と引用発明との間に差異があるとは言えない。
そして、本願発明においては、成形体に設けられた凸部の形状、大きさ、高さが具体的に規定されておらず、この凸部を設けたことによるメリット(スリップ防止など)、デメリット(ヒケの発生など)の評価も具体的になされていないことから、本願発明が格段の効果を奏するものとも認められない。
したがって、上記審判請求人の主張は採用できない。

5.まとめ
よって、本願発明は、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-07 
結審通知日 2010-06-08 
審決日 2010-06-21 
出願番号 特願2002-370710(P2002-370710)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 健史井上 能宏  
特許庁審判長 小林 均
特許庁審判官 大島 祥吾
小野寺 務
発明の名称 合成樹脂製成形体  
代理人 澤田 達也  
代理人 杉村 憲司  
代理人 来間 清志  
代理人 杉村 興作  

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