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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C30B
管理番号 1221220
審判番号 不服2008-8838  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-10 
確定日 2010-08-05 
事件の表示 平成 9年特許願第211704号「単結晶引上げ装置用高温部材」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 5月26日出願公開、特開平10-139581〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 理 由
1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成9年8月6日(優先権主張 平成8年9月10日 日本)の出願であって、平成18年10月24日付けで拒絶理由が起案され、平成19年1月4日付けで2通の意見書と手続補正書が提出され、平成20年3月3日付けで拒絶査定が起案され、同年4月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
そして、本願の請求項1?5に係る発明は、平成19年1月4日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は以下のとおりのものである。

【請求項1】 C/C材からなる単結晶引上げ装置用高温部材であって、該部材の表面の全体又は一部にガラス状炭素を被覆してなり、前記ガラス状炭素を被覆した部分における高温部材の比表面積が4.0m^(2) /g以下であることを特徴とする単結晶引上げ装置用高温部材。

2.引用文献の記載事項
2-1.原査定の拒絶の理由に引用した本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平6-128061号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 ガラス状炭素で含浸被覆された炭素繊維強化炭素からなることを特徴とする炭素繊維強化炭素複合材料。」(特許請求の範囲 請求項1)
(イ)「従来、炭素繊維で補強された炭素をマトリックスとする炭素繊維強化炭素(以下、C/Cコンポという)は、一般的に炭素繊維織物に熱硬化性樹脂を含浸炭化して製造されている(・・・)。
C/Cコンポは、通常の炭素材料や黒鉛材料に比べて、機械的強度、耐摩耗性、熱伝導性、耐食性等に優れていることから、ボルト・ナット・高温プレス用型・発熱体・炉内部材等の各種加熱装置の構造材及び補強材として、またブレーキディスク・バットやロケット・航空機用部材として使用されている。」(段落【0002】、【0003】)
(ウ)「しかしながら、C/Cコンポは、一般の炭素材料や黒鉛材料と同様に、炭素質又は黒鉛質のダストが発生しやすいので、それを使用して製造された製品はそのダストにより汚染されるという問題があった。本発明は、ダスト発生の少ないC/Cコンポを提供することを目的とするものである。」(段落【0004】)
(エ)「本発明によれば、機械的強度、耐摩耗性、熱伝導性、耐食性等の本来の性質を損なわせずにダスト発生量を少なくした炭素繊維強化炭素複合材料を得ることができる。」(段落【0018】)

2-2.原査定の拒絶の理由に引用した本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開昭61-256993号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「本発明は黒鉛るつぼ及びヒーターに関し、更に詳しくは、シリコン単結晶引上げ装置に使用される黒鉛るつぼ及びヒーターに関する。」(第1頁右欄7?9行)
(イ)「而してこの装置に於いて、黒鉛るつぼ及び黒鉛ヒーターは、反覆作用により、亀裂を生じ破損するので分割したり微粒質の高強度等方性黒鉛材を用いたりして種々の対策が試みられているが、未だ充分な効果が得られていない。」(第2頁左上欄10?14行)」
(ウ)「また装置内で発生する珪素や一酸化珪素の蒸気の一部が黒鉛表面層で反応し、炭化珪素層を形成することも、亀裂発生の原因の一つとなっており、これ等亀裂の原因は黒鉛るつぼばかりでなく、黒鉛ヒーターにも同様に生じていることが判明した。」(第2頁右上欄3?8行)
(エ)「また本発明に於ける黒鉛基材としては炭素繊維と炭素との複合材であるるつぼやヒーターも包含される。」(第3頁左下欄10?12行)

2-3.原査定の拒絶の理由に引用した本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平5-294781号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】シリコンおよびドーピング剤の溶融浴からシリコン単結晶成長物を製造する際に使用するためのグラファイト部品であって、前記グラファイト部品が、熱硬化性有機樹脂から形成されたガラス質炭素の外層を有することを特徴とする、グラファイト部品。」(特許請求の範囲 請求項1)
(イ)「【請求項4】部品がグラファイトるつぼであることを特徴とする、請求項1に記載のグラファイト部品。」(特許請求の範囲 請求項4)
(ウ)「シリコン結晶を製造するためのチョクラルスキー法では、多結晶質ケイ素棒およびドーピング剤を、シリカライニングしたグラファイトるつぼ中で融解させる。必要な電気特性を得るためにケイ素浴にドーピング剤を加え、シリコン構造を単結晶の形に変換する。・・・。長さ4フィート以上、直径6インチ以上の結晶を製造するこの方法では、シリコン結晶成長物の形成に使用される装置の構成部品がシリコン製品を絶対に汚染しないことが重要である。チョクラルスキー法では、るつぼ、支柱(軸)およびヒーターを含むグラファイト部品が一般的に使用されている。したがって、これらのグラファイト部品から来る炭素の汚染からシリコン結晶を保護する必要がある。グラファイト部品が溶融シリコンと直接接触していなくても、シリコン結晶が炭素で汚染される可能性がある。例えば、グラファイトから出た炭素がシリカライナー中に拡散し、さらにシリコン浴中に拡散することがある。工程中に形成されたケイ素含有蒸気もグラファイト部品と反応し、炭素汚染物を発生することがある。」(段落【0008】)
(エ)「ここで使用する様に、ガラス質炭素は、一体化した非グラファイト化性炭素で、構造および物理特性の等方性が非常に高く、気体および液体に対する透過性が非常に低い。」(段落【0013】)
(オ)「グラファイト部品の外表面に施されたガラス質炭素被覆は、シリコン結晶成長工程の反応生成物または副生成物のグラファイト部品中への拡散を防ぎ、装置の部品からシリコン製品中への炭素の混入を本質的に防止する。ガラス質炭素は、グラファイトよりも硬いので、ガラス質炭素被覆はグラファイト部品中の剥がれ、傷、その他の欠陥から保護する。」(段落【0015】)

3.対比・判断
引用文献1には、記載事項(ア)に「ガラス状炭素で含浸被覆された炭素繊維強化炭素からなることを特徴とする炭素繊維強化炭素複合材料」が記載されている。そして、記載事項(イ)には、「炭素繊維強化炭素」が、「機械的強度、耐摩耗性、熱伝導性、耐食性等に優れていることから」、「炉内部材」として使用されることが、また、記載事項(エ)には、記載事項(ア)に記載された「炭素繊維強化炭素複合材料」が、「機械的強度、耐摩耗性、熱伝導性、耐食性等の本来の性質を損なわせずにダスト発生量を少なくした」ものであることが記載されていることからみて、引用文献1には、記載事項(ア)に記載された「炭素繊維強化炭素複合材料」が「炉内部材」として使用されることが実質上記載されていることは明らかである。
してみると、引用文献1には、
「ガラス状炭素で含浸被覆された炭素繊維強化炭素からなる炭素繊維強化炭素複合材料を使用した炉内部材。」
の発明(以下、「引用1発明」という。)が記載されているものと認められる。

本願発明1と引用1発明を対比すると、引用1発明の「炭素繊維強化炭素」は、本願発明1の「C/C材」に相当し、引用1発明の「炉内部材」と、本願発明1の「単結晶引上げ装置用高温部材」は、共に「高温部材」である点において共通するから、両者は、
「C/C材からなる高温部材であって、該部材の表面の全体又は一部にガラス状炭素を被覆してなることを特徴とする高温部材」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点a:本願発明1は、「高温部材」が、「単結晶引上げ装置用」であるのに対し、引用1発明はかかる特定がない「炉内部材」である点
相違点b:本願発明1は、「前記ガラス状炭素を被覆した部分における高温部材の比表面積が4.0m^(2) /g以下である」のに対し、引用1発明はかかる特定がない点
そこでまず、相違点aについて検討する。
まず、引用文献2は、記載事項(ア)に記載されているとおり、「シリコン単結晶引上げ装置に使用される黒鉛るつぼ及びヒーター」に関するものであり、その記載事項(エ)には、「本発明に於ける黒鉛基材としては炭素繊維と炭素との複合材であるるつぼやヒーターも包含される」こと、即ち、「るつぼ」の黒鉛基材が「炭素繊維と炭素との複合材」であることが記載されている。また、引用文献3には、記載事項(ア)に「シリコンおよびドーピング剤の溶融浴からシリコン単結晶成長物を製造する際に使用するためのグラファイト部品であって、前記グラファイト部品が、熱硬化性有機樹脂から形成されたガラス質炭素の外層を有することを特徴とする、グラファイト部品」が記載され、記載事項(イ)は、記載事項(ア)に記載されたグラファイト部品が「グラファイトるつぼ」であることが記載されている。そして、引用文献3に記載された「ガラス質炭素」は、引用1発明の「ガラス状炭素」と同じものを意味していることは明らかである。
してみると、引用1発明の「炉内部材」は、「ガラス状炭素で含浸被覆された炭素繊維強化炭素」からなるものであるところ、その基材である「炭素繊維強化炭素」、即ち「C/C材」は単結晶引上げ装置用の高温部材であるルツボの基材として本願の優先権主張日前公知のものであり、この基材を被覆する「ガラス状炭素」の被覆層もかかるルツボの外層として本願の優先権主張日前公知のものである。
加えて、引用文献3の記載事項(ウ)には、「シリコン結晶を製造するためのチョクラルスキー法では」、「シリコン結晶成長物の形成に使用される装置の構成部品がシリコン製品を絶対に汚染しないことが重要である」こと、「グラファイト部品から来る炭素の汚染からシリコン結晶を保護する必要がある」ことが記載されているところ、引用1発明の「炉内部材」は、引用文献1の記載事項(ウ)及び(エ)に記載されているとおり、炭素質又は黒鉛質のダストが発生しやすいC/Cコンポをガラス状炭素で含浸被覆してダスト発生量を少なくしたものである。
してみれば、引用1発明の「炉内部材」を、炭素の汚染からシリコン結晶を保護する必要がある単結晶引上げ装置用の高温部材として用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。

次に、相違点bについて検討する。
まず、相違点bに係る本願発明1の比表面積の値のもつ技術的意義についてみておくと、本願明細書に「ガラス状炭素の被覆効果が出やすくするためには、被覆後のC/C材の比表面積が4.0m^(2 )/g以下となるように被覆されたものであることが望ましい。」(段落【0021】)と記載されていることからみて、比表面積の値は被覆の程度と関連づけられるといえる。
ところで、目的をもって部材を被覆する際に、その目的に応じて被覆の程度を限定することは各種の技術分野において通常行われていることであるから、引用1発明の「炉内部材」をルツボなどの単結晶引上げ装置用の高温部材として用いるに際し、炭素の汚染からシリコン結晶を確実に保護するために、炭素質又は黒鉛質のダストの発生を防止するガラス状炭素の被覆の程度を限定することは当然に考慮することである。
そして、部材表面に微小な窪み(孔、気孔)が存在するものを被覆すれば、この微小な窪み(孔、気孔)が埋められたり、塞がれたりすることは技術常識に照らし明らかであるから、当該部材の比表面積が小さくなることは自明であり、その被覆の程度を部材の比表面積を用いて示すことは当業者であれば適宜なし得るといえ、上記引用1発明の「炉内部材」ガラス状炭素の被覆の程度を限定する際に、その程度を比表面積で表し、「前記ガラス状炭素を被覆した部分における高温部材の比表面積が4.0m^(2)/g以下である」と定めることは、当業者であれば困難なくなし得ることである。
また、本願発明1の効果について検討すると、本願明細書の段落【0055】には、高温部材のSiC化の進行を阻止することができるという効果、及び、シリコンの付着を抑制して高温部材の冷却後の変形、反りを防止することができるという効果が記載されている。
しかし、引用文献2の記載事項(イ)には、シリコン単結晶引上げ装置において黒鉛ルツボには亀裂を生じ破損するという問題があったことが、記載事項(ウ)には「装置内で発生する珪素や一酸化珪素の蒸気の一部が黒鉛表面層で反応し、炭化珪素層を形成すること」がルツボなどの亀裂発生の原因の一つであることが記載されており、引用文献3の記載事項(ウ)には「工程中に形成されたケイ素含有蒸気もグラファイト部品と反応し、炭素汚染物を発生することがある」ことが記載されている。よって、単結晶引上げ装置用の高温部材において、表面のCと装置内で発生したSiOなどのケイ素含有蒸気が反応してSiCを形成すること、そして、このSiCが炭素汚染物となるばかりでなくこのSiCの形成がルツボなどの高温部材の寿命を短くするものであることが本願の優先権主張日前に広く知られていたことは明らかである。さらに、引用文献3の記載事項(エ)には「ガラス質炭素」が「気体および液体に対する透過性が非常に低い」ものであることが、記載事項(オ)には「グラファイト部品の外表面に施されたガラス質炭素被覆は、シリコン結晶成長工程の反応生成物または副生成物のグラファイト部品中への拡散を防ぎ、装置の部品からシリコン製品中への炭素の混入を本質的に防止する」ことが記載されている。してみると、引用1発明の「炉内部材」を単結晶引上げ装置用の高温部材としたとき、気体に対する透過性が非常に低いガラス状炭素の被覆により、装置内で発生したSiOとC/C材表面のCとの接触が防止され、SiCの形成が抑制されて、炭素質又は黒鉛質のダストのみならずSiCによるシリコン製品の汚染が防止されると共に、ルツボを構成するCのSiC化の進行が阻止され、ルツボの寿命の長期化を図ることができることは、当業者が予測し得たことである。
よって、上記の高温部材のSiC化の進行を阻止することができるという効果は、引用1発明の「炉内部材」を単結晶引上げ装置用の高温部材とすることにより奏される効果として当業者が予測し得るものである。
また、前述のとおり、表面に多くの微小な窪み(孔、気孔)が存在するC/C材の表面に被覆を施すことにより表面の微小な窪み(孔、気孔)が少なくなることは技術常識からみて明らかであるから、表面の微小な窪み(孔、気孔)においてシリコン蒸気の凝縮が少なくなり、冷却後の変形、反りが少なくなるという効果も、同じく当業者が当然予測し得るものである。
さらに、ガラス状炭素を被覆した部分における高温部材の比表面積が4.0m^(2) /g以下と限定することにより格別顕著な効果を奏するか否かを検討すると、本願明細書には、かかる限定の根拠として、段落【0041】?【0046】に、試験片の比表面積が4.0m^(2) /g以下である実施例1?4のSiC化率(%)の値が、試験片の比表面積が4.0m^(2) /gより大きい比較例1、2のSiC化率(%)の値と比較して小さいことが記載されている。
しかし、比較例1、2は、いずれもガラス状炭素を被覆していない試験片を用いた例であって、比較例1、2で示された比表面積(m^(2) /g)の値は、ガラス状炭素を被覆した部分における比表面積(m^(2) /g)の値ではない。よって、ガラス状炭素を被覆した部分における高温部材の比表面積とSiC化率との関係において、実施例1?4で示されたSiC化率(%)の値と比較例1、2のSiC化率(%)の値を比較することは意味がない。してみると、実施例1?4の結果から、同じC/C材にガラス状炭素を被覆した場合、ガラス状炭素を被覆した部分における比表面積(m^(2) /g)の値が小さい程SiC化率(%)の値が小さいことは確認できるものの、実施例1?4の結果に比較例1、2の結果を加えて検討しても、ガラス状炭素を被覆した部分における比表面積が4.0m^(2) /gを境にして、これ以下の比表面積の範囲において当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されることを示す記載は見当たらない。
よって、本願明細書及び図面の記載を検討しても、引用1発明の「炉内部材」を単結晶引上げ装置用の高温部材としたこと、さらに、ガラス状炭素を被覆した部分における高温部材の比表面積を4.0m^(2) /g以下と限定したことにより、当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたものとはいえない。なお、平成19年1月4日付けの意見書に記載の参考例は、「高純度化処理」をされたものであるが、ガラス状炭素を被覆したものとはいえず、この判断を左右させるものではない。
したがって、本願発明1は、引用文献1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-03 
結審通知日 2010-06-08 
審決日 2010-06-21 
出願番号 特願平9-211704
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C30B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五十棲 毅横山 敏志  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 深草 祐一
斉藤 信人
発明の名称 単結晶引上げ装置用高温部材  
代理人 須原 誠  
代理人 梶 良之  

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