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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1221254
審判番号 不服2009-4734  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-05 
確定日 2010-08-05 
事件の表示 平成10年特許願第344853号「耐フレーキング特性と軸部強度に優れた等速ジョイント用外輪とその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 6月 6日出願公開、特開2000-154828〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年11月19日の出願であって、平成21年1月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年3月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、平成20年11月14日付け手続補正により補正された明細書、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】質量%で、C:0.45?0.59%、Si:0.20?0.4%、Mn:0.15?0.45%、S:0.005?0.15%、Mo:0.1?0.35%、B:0.0005?0.005%、Al:0.015?0.05%、Ti:0.015?0.03%を含有し、N:0.005%以下(0%を含む)、Cr:0.10%以下(0%を含む)、P:0.020%以下(0%を含む)、O:0.0020%以下(0%を含む)に各々制限し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼を素材とし、カップ部のトラック溝部における有効硬化層深さが、有効硬化層深さtとカップ肉厚wの比t/wで0.25?0.45であり、インボリュートセレーション部の端部の有効硬化層深さが、有効硬化層深さtと半径rの比t/rで0.20?0.50であることを特徴とする耐フレーキング特性と軸部強度に優れた等速ジョイント用外輪。
【請求項2】 インボリュートセレーション部の端部における旧オーステナイト結晶粒度がJIS粒度番号で8以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐フレーキング特性と軸部強度に優れた等速ジョイント用外輪。
【請求項3】 質量%で、C:0.45?0.59%、Si:0.20?0.4%、Mn:0.15?0.45%、S:0.005?0.15%、Mo:0.1?0.35%、B:0.0005?0.005%、Al:0.015?0.05%、Ti:0.015?0.03%を含有し、N:0.005%以下(0%を含む)、Cr:0.1%以下(0%を含む)、P:0.02%以下(0%を含む)、O:0.002%以下(0%を含む)に各々制限し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼を、焼鈍、冷間鍛造、切削加工、転造加工により所定の形状に成形加工し、引き続いて、カップ部の内面とインボリュートセレーション部を含む軸部を高周波焼入れ、焼戻しを行い、これによって、カップ部のトラック溝部における有効硬化層深さが、有効硬化層深さtとカップ肉厚wの比t/wで0.25?0.45、インボリュートセレーション部の端部の有効硬化層深さが、有効硬化層深さtと半径rの比t/rで0.20?0.50となる様にすることを特徴とする耐フレーキング特性と軸部強度に優れた等速ジョイント用外輪の製造方法。
【請求項4】 インボリュートセレーション部の端部における旧オーステナイト結晶粒度がJIS粒度番号で8以上となる様にすることを特徴とする請求項3に記載の耐フレーキング特性と軸部強度に優れた等速ジョイント用外輪の製造方法。」

3.本願発明1について
(1)本願発明1
本願発明1は、上記2.に記載したとおりである。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開平9-280262号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。なお、全角半角等の文字の大きさ、促音、拗音、句読点は記載内容を損なわない限りで適宜表記した。以下同様。
(あ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、インボリュートセレーション(以下、単に「セレーション」と略記する)を有し、高いねじり強度とねじり疲労強度が要求される高強度等速ジョイント用外輪、およびこうした高強度等速ジョイント用外輪を製造する為の有用な方法に関するものである。」
(い)「【0006】本発明は、こうした状況のもとになされたものであって、ねじり疲労特性を更に向上し、従来鋼では得られなかったτ_(max) :1800MPaレベル以上、τ_(W) :760MPaレベル以上の優れたねじり特性が得られ、近年のニーズに応えることができると共に、加工性にも優れた動力伝達系部品、とりわけセレーション部を有する高強度等速ジョイント用外輪、およびこうした高強度等速ジョイント用外輪を製造する為の有用な方法を提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決し得た本発明の高強度等速ジョイント用外輪とは、インボリュートセレーション部およびねじ部を有する等速ジョイント用外輪であって、C:0.45?0.53%,Si:0.05?0.25%,Mn:0.7?1.0%,Al:0.01?0.05%,Mo:0.2?0.4%,N:0.003?0.012%を夫々含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、且つ不可避不純物中のCrを0.05%以下,Pを0.015%以下,Sを0.01%以下,Oを0.002%以下に夫々抑制してなる鋼を素材とし、前記インボリュートセレーション端部における旧オーステナイト結晶粒がJIS粒度番号で8以上、該端部の表面硬さがHVで720以上であると共に、該端部における硬さがHVで450となる有効硬化層深さCDと軸部半径Rとの比(CD/R)が0.35?0.60である点に要旨を有するものである。」
(う)「【0032】本発明においては、上記の様な化学成分組成を有する鋼を用い、850?950℃の温度範囲で熱間鍛造した後、冷間鍛造、旋削、ドリル加工等の切削加工、および転造加工等により等速ジョイント用外輪としての所定形状に成形加工し、高周波焼入れ-焼戻しにより、セレーション端部の有効硬化層深さCDと軸部半径Rの比CD/Rを0.35?0.60とする必要がある。尚前記有効硬化層深さCDと軸部半径Rは、セレーション端部の軸直角断面が円形部分の軸部表面(即ち、この表面はセレーション部の底部の位置に相当する)を基準にしたものである。即ち、セレーション端部が疲労亀裂が最も発生しやすい部分であること、および該端部の特性を把握すれば、セレーション部全体の特性もほぼ把握できることから、本発明ではセレーション端部の特性に着目したのである。
【0033】等速ジョイント用外輪の成形は、一般に冷間鍛造単独、温間鍛造と冷間鍛造の組み合わせ、或は熱間鍛造と冷間鍛造の組み合わせのいずれかの方法によって素形材を作成し、次いで切削、転造を経て最終所定形状に仕上げられる。
【0034】本発明では、850?950℃の温度範囲で熱間鍛造することによって、整細粒組織を有する素形材加工を行い、次いで冷間鍛造により寸法精度を向上させ、更に旋削加工によりセレーション部とねじ部となる軸部の外形寸法を整え、引き続きドリル加工によってピン穴を成形した後、転造加工によりセレーション部とねじ部の加工を行なう。」
(え)「【0057】このとき、本発明鋼のA2鋼と比較鋼のB1鋼については、高周波焼入れ条件を変動させることにより、有効硬化層深さCDと軸部半径Rの比CD/Rを0.3から0.7の範囲で変化させた。また他の鋼種については、CD/Rが0.50の一定となる高周波焼入れ-焼戻し条件で行った。」
(お)表1(明細書第6ページ)には、本発明鋼の鋼種A5として、「C:0.48%(質量%の意味、以下同じ),Si:0.25%,Mn:0.88%,P:0.009%,S:0.006%,Mo:0.30%,Cr:0.01%,Al:0.029%,N:0.0056%,O:0.0012%」を含有する「鋼」が記載されている。
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、下記の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「インボリュートセレーション部およびねじ部を有する等速ジョイント用外輪であって、C:0.48%(質量%の意味、以下同じ),Si:0.25%,Mn:0.88%,S:0.006%,Mo:0.30%,Al:0.029%,N:0.0056%を夫々含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、且つ不可避不純物中のCrを0.01%,Pを0.009%,Oを0.0012%に夫々抑制してなる鋼を素材とし、前記インボリュートセレーション端部における旧オーステナイト結晶粒がJIS粒度番号で8以上、該端部の表面硬さがHVで720以上であると共に、該端部における硬さがHVで450となる有効硬化層深さCDと軸部半径Rとの比(CD/R)が0.50である高強度等速ジョイント用外輪。」
(2-2)引用例2
特開平10-195589号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は高捩り疲労強度高周波焼入れ鋼材の発明にかかわり、さらに詳しくは、図1の(A)?(C)に示したスプライン部を有するシャフト、フランジ付シャフト、外筒付シャフト等の自動車の動力伝達系を構成する軸部品として、優れた捩り疲労強度を有し、且つその製造時には冷間加工性のような製造性に優れた高周波焼入れ鋼材の発明に関するものである。」
(き)「【0008】(1)冷間加工性を確保するには、次の方法が有効である。
1)固溶体硬化元素であるSi、Pを低減する。
2)焼入れ性は主としてB添加により確保する。
【0009】(2)さらに、冷間加工性を確保するには、N量の適正化が必須である。上記のBの焼入れ性向上効果を引き出すためには、固溶Nを低減する必要がある。特公平1-38847号公報の第3?4頁の第1表に開示されているような、Nの添加量が最大で0.014%であるような多量添加は、上記に加えて次のような弊害を引き起こす。
1)冷間加工の前の棒鋼圧延の冷却過程、あるいは軟化焼鈍の冷却過程においてTiNが析出し、Nの多量添加鋼では、これによる析出硬化により、却って硬さの増加を引き起こす。
2)TiNの多量析出は、被削性を著しく劣化させるとともに、転造等の冷間加工時の割れの原因になるため、高N鋼では、冷間加工性が著しく悪化する。
【0010】特公平1ー38847号公報の技術の冷間加工性が必ずしも十分ではないのは、このような冷間加工性に対するNの多量添加の弊害によると考えられる。冷間加工性に対するTiNの弊害を抑制して、なお且つBの焼入れ性向上効果を引き出すためには、N:0.0015?0.008%の範囲で制御することが必要である。
【0011】(3)次に、高周波焼入れ鋼材の捩り疲労破壊は、次の過程で起きる。
A.表面または硬化層と芯部の境界でき裂が発生する。
B.軸方向に平行な面又は垂直な面でき裂が初期伝播する。これを以下モードIII破壊と呼ぶ。
C.モードIII破壊の後、軸方向に45度の面で粒界割れを伴って脆性破壊を起こし、最終破壊を起こす。これを以下モードI破壊と呼ぶ。
【0012】(4)上記捩り疲労破壊過程「B.」の欄で述べたモードIII破壊はディンプルパターンをともなう延性破壊であり、TiNのような析出物が多数存在すると、これが延性破壊の核となりモードIII破壊が起きやすくなる。
【0013】特公平1-38847公報に記載のようなTi、Nの添加量が最大でTi:0.04%、N:0.014%を含有するボロン鋼では、TiNを核とする延性破壊を起こしやすい。特公平1ー38847公報の技術が普及していない原因の一つは、これが原因と考えられる。そのため、モードIII破壊強度向上の視点からも、N量を0.0015?0.008%未満の範囲に規制することが必要である。
【0014】(5)上記涙り疲労破壊過程「C.」の欄で述べた、軸方向に45度の面で粒界割れを伴う脆性破壊モードIを抑制するためには、次の方法による粒界強化が有効である。
1)Bの添加。Bは粒界偏析Pを粒界から追い出す効果による。
2)粒界偏析元素であるP、Cu、O量の低減。
3)Ti、N量の適正化によるTiNの粒界析出量の低減。
【0015】(6)上記の粒界割れを伴う脆性破壊モードIを抑制するためには、上記に加えてさらに次の手法を付加することによりさらに大きくなる。
1)Cr、Mo、Ni、Nb、Vの添加による粒界強化。
2)旧オーステナイト粒径の細粒化。
【0016】(7)冷間加工性を重視して素材硬さを小さくすると、通常は素材硬さが芯部硬さになるため、芯部硬さが低くなる。芯部硬さが低い場合、および硬化層深さが浅い場合には、内部起点になる。内部起点の場合、硬化層深さが深い程、また芯部硬さが高いほど捩り疲労強度は向上する。」
(き)「【0032】Mn:0.20?1.60%、
Mnは(1)焼入れ性の向上、および鋼中でMnSを形成することによる(2)高周波焼入れ加熱時のオーステナイト粒の微細化と(3)被削性の向上を目的として添加する。しかしながら、0.20%未満ではこの効果は不十分である。一方、Mnを過剰添加すると、高周波焼入れ前の素材のパーライト分率を増加させて素材強度を増加させ、冷間加工性を劣化させる。特にこの傾向は1.60%超の添加で顕著になる。以上の理由から、Mnの含有量を0.20?1.60%とした。なお、冷間加工性をより重視した鋼材では、望ましくはMn:0.20?1.00%の範囲に制限することが望ましい。」
(く)「【0035】Ti:0.005?0.050%、
Tiは鋼中でNと結合してTiNとなるが、これによる固溶Nの完全固定によるBN析出防止、つまり固溶Bの確保を目的として添加する。さらに、Ti添加は表面硬化層の細粒化にも寄与する。しかしながら、0.005%未満ではその効果は不十分であり、一方、0.05%を超えると多量のTiN、TiCによる冷間加工時の割れおよび最終部品でのモードIII破壊強度の劣化を引き起こすので、その含有量を0.005?0.050%とした。なお、冷間加工性及び高捩り疲労強度特性をより一層改善するためには、望ましくは、Ti:0.005?0.030%の範囲に限定することが望ましい。
【0036】B:0.0005?0.005%、
Bは固溶状態でオーステナイト粒界に粒界偏析し、焼入れ性を増加させることを狙いとして添加する。同時に、P、Cu等の粒界不純物を粒界から追い出すことにより粒界強度を増加させる作用も存在する。粒界強化により捩り強度、捩り疲労強度が増加する。しかしながら、0.0005%未満ではその効果は不十分であり、一方、0.005%を超える過剰添加は、むしろ粒界脆化を招くので、その含有量を0.0005?0.005%とした。
【0037】N:0.0015?0.008%
NはAlN等の炭窒化物析出による高周波加熱時のオーステナイト粒の微細化を目的として添加するが、0.0015%未満ではその効果は不十分である、ー方、0.008%を超えると、BNを析出して固溶Bの低減を引き起こすとともに、多量のTiN析出による冷間加工割れおよび最終部品でのモードIII破壊強度の劣化を引き起こすので、その含有量を0.0015?0.008%とした。なお、冷間加工性及び高捩り疲労強度特性をより?層改善するためには、望ましくは、N:0.0015?0.005%の範囲に限定することが望ましい。」
(け)表3(明細書第11ページ)には、第2及び第7発明鋼材の鋼No2として、wt%で、「Mn:0.41%、Ti:0.022%、B:0.0009%、N:0.0024%」を含有する「鋼」が記載されている。
(2-3)引用例3
特開平3-292418号公報(以下、「引用例3」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(さ)「しかし、従来のトリボード型等速自在継手の外方部材1においては、内方部材に取付けられたローラ(図示せず)が転動する外方部材1側のローラ溝2の両側壁3、3およびこの側壁3、3を連結する底部(図示せず)を焼入れし、ローラ溝2の内面に硬化層3aを形成して、転動するローラとの接触面の耐摩耗性や耐フレーキング性を向上させることが一般的に行なわれている。」(第1ページ右下欄第19行?第2ページ左上欄第6行)
(し)「また、ローラを取付けた内方部材を外方部材のローラ溝内に組付けた際には、ローラと係合する機会が多い通常使用域であるローラ溝の中央付近においては、ローラ径D_(1)とローラ溝径Dとの差、ぬなわち組付け状態におけるローラのあそび量G_(1)が大きくなり、耐フレーキング性が低下する。そのため、従来においてはローラ溝径を拡げるなどして、必要強度が得られるようにしている。」(第2ページ右上欄第17行?左下欄第4行)
(3)対比
本願発明1と引用例1発明とを比較すると、後者の「C:0.48%(質量%の意味、以下同じ),Si:0.25%,」「S:0.006%,Mo:0.30%,Al:0.029%,」を「夫々含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、且つ不可避不純物中のCrを0.01%,Pを0.009%,Oを0.0012%に夫々抑制してなる鋼」は前者の「質量%で、C:0.45?0.59%、Si:0.20?0.4%、」「S:0.005?0.15%、Mo:0.1?0.35%、」「Al:0.015?0.05%、」を「含有し」、「Cr:0.10%以下(0%を含む)、P:0.020%以下(0%を含む)、O:0.0020%以下(0%を含む)に各々制限し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼」に相当する。また、本願明細書には「【0018】…一方、有効硬化層深さがt/rで0.50を越えると、その効果は飽和し、逆に、表面の圧縮残留応力が減少して、焼き割れが懸念される。以上の理由から、インボリュートセレーション部の端部の有効硬化層深さが、有効硬化層深さtと半径rの比t/rで0.20?0.50とする。」と記載されており、これを参酌すると、後者の「インボリュートセレーション端部」「における硬さがHVで450となる有効硬化層深さCDと軸部半径Rとの比(CD/R)が0.50である」という事項は前者の「インボリュートセレーション部の端部の有効硬化層深さが、有効硬化層深さtと半径rの比t/rで0.20?0.50である」という事項を充足している。
以上から、本願発明1の用語に倣って整理すると、両者は、
「質量%で、C:0.45?0.59%、Si:0.20?0.4%、S:0.005?0.15%、Mo:0.1?0.35%、Al:0.015?0.05%を含有し、Cr:0.10%以下(0%を含む)、P:0.020%以下(0%を含む)、O:0.0020%以下(0%を含む)に各々制限し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼を素材とし、インボリュートセレーション部の端部の有効硬化層深さが、有効硬化層深さtと半径rの比t/rで0.20?0.50である等速ジョイント用外輪。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願発明1の「鋼」は「質量%」で「Mn:0.15?0.45%」、「N:0.005%以下(0%を含む)」、「B:0.0005?0.005%」、「Ti:0.015?0.03%」を含有しているのに対し、引用例1発明は、「質量%」で「Mn:0.88%」、「N:0.0056%」を含有しており、「B」、「Ti」については含有しているかどうか、不明である点。
[相違点2]
本願発明1は「カップ部のトラック溝部における有効硬化層深さが、有効硬化層深さtとカップ肉厚wの比t/wで0.25?0.45であり、」という事項を具備し、「耐フレーキング特性と軸部強度に優れた等速ジョイント用外輪」であるのに対し、引用例1発明は、そのような事項を具備しておらず、また、単に「高強度等速ジョイント用外輪」である点。
(4)判断
[相違点1]について
一般に、鋼の組成成分としてどのようなものを含有させるか、また、その含有割合をどの程度とするかは、その組成の含有及び含有割合に応じて鋼の性状が相応に改変・向上されるという周知の事項を前提として、鋼としての所要物性や、それを用いた物品の所要性能、製造工程上の所要特性等を勘案して適宜設計する事項にすぎない。
ここで、引用例1発明が「Mn:0.88%」としたのは、「850?950℃の温度範囲で熱間鍛造することによって、整細粒組織を有する素形材加工を行」うこと(引用例1の【0034】)に関連している。一方、引用例1には、「N:0.003?0.012%」(【0007】)と記載されているとともに、「等速ジョイント用外輪の成形は、一般に冷間鍛造単独、温間鍛造と冷間鍛造の組み合わせ、或は熱間鍛造と冷間鍛造の組み合わせのいずれかの方法によって素形材を作成し、次いで切削、転造を経て最終所定形状に仕上げられる。」(【0033】)と記載されている。これらの事項を勘案すると、引用例1発明において例えば「冷間鍛造単独」等の「素形材を作成」する方法を採用し、その場合に、冷間加工性等を考慮して、引用例1発明の「Mn:0.88%」、及び「N:0.0056%」という事項に替えて引用例2の「wt%」で「Mn:0.41%」、及び「N:0.0024%」という事項を採用すること、及び、引用例1発明に、引用例2の「Ti:0.022%、B:0.0009%」という事項を採用することは、上記の適宜の設計として当業者が容易に想到し得たものと認められる。
[相違点2]について
一般に、等速自在継手の外方部材のローラ溝に硬化層を形成して、ローラとの接触面の耐摩耗性及び耐フレーキング性の向上を図ることは、上記に摘記したとおり、引用例3に示されている。
技術分野の共通性ないし関連性からみて、引用例1発明に引用例3の上記事項を適用することは当業者が容易に想到し得たものと認められる。数値範囲については、本願明細書の段落【0018】等をみても、その上下限値に格別顕著な技術的意義があるとは認められず、このような数値範囲を充足する値とすることは適宜の設計にすぎないといわざるを得ない。以上のようにしたものは、実質的にみて、相違点2に係る本願発明1の上記事項を備えているということができる。
そして、本願発明1の奏する作用効果も、引用例1?3に記載された発明、及び周知事項に基づいて当業者が予測できる程度のものである。

なお、審判請求の理由において、「刊行物1、2の開示技術と本願発明とを比較しますと、刊行物1、2の開示技術は、等速ジョイント用外輪のインボリュートセレーション部等についての捩り疲労特性の向上のために、鋼成分やそのインボリュートセレーション部等についての硬化層深さを特定範囲に限定した点が開示されているところ、本願発明のように、トラック溝部での耐フレーキング特性向上のために鋼成分やトラック溝部での硬化層深さを特定範囲に限定する点が何ら開示されていないものと思料致します。」、及び「これに対して、本願発明は、このようなカップ部の形状変化を必須の構成要件として焼入れ層の厚みを特定範囲に限定しているのではなく、あくまで、高周波焼入れによってカップ部の硬さを向上させることにより耐フレーキング強度を向上させることを目的として焼入れ層の厚みを特定範囲に限定するものであります。この点については、刊行物3の開示技術において、焼入れ時の焼入れ層の厚みを特定範囲にすることによる耐フレーキング特性を向上させるとの効果が、ローラを取り付けた内方部材を外方部材のローラ溝内に組み付けた際のあそび量から評価されるものとなっているのに対して、本願発明において、高周波焼入れによるトラック溝部における有効硬化層深さtを有効硬化層深さtとカップ肉厚wとの比t/wで0.25?0.45と限定することにより得られる耐フレーキング強度を向上させるとの効果が、上述の3.2)(3)に記載したように、フレーキング発生面圧から評価されるものである点からも明らかになっております。これらの事項は、刊行物3において開示されている焼入れ層の厚みを特定範囲にするという技術的手段が、本願発明における焼入れ層の厚みを所定範囲にするという技術的手段とは全く相違するものであることを意味しております。」と主張する(なお、ここでの刊行物1?3は本審決の引用例1?3にそれぞれ相当する)。確かに、引用例1、2に耐フレーキング性等について明記されていないこと、及び、引用例3にそのような技術が開示されていることはそのとおりであるが、しかし、一般に、等速自在継手の外方部材のローラ溝に硬化層を形成して、ローラとの接触面の耐摩耗性及び耐フレーキング性の向上を図ることが引用例3に示されていること、及び、引用例1発明に引用例3の上記事項を適用することは当業者が容易に想到し得たものと認められることは、上述のとおりである。

(5)むすび
したがって、本願発明1は、引用例1?3に記載された発明、及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.結語
以上のとおり、本願発明1が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願発明2?4について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-02 
結審通知日 2010-06-08 
審決日 2010-06-23 
出願番号 特願平10-344853
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中野 宏和  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 藤村 聖子
川上 溢喜
発明の名称 耐フレーキング特性と軸部強度に優れた等速ジョイント用外輪とその製造方法  
代理人 安彦 元  
代理人 林 信之  
代理人 安彦 元  
代理人 林 信之  
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