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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1221265
審判番号 不服2008-15854  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-23 
確定日 2010-07-28 
事件の表示 平成10年特許願第512687号「小さな入射ビームスポットを生成するための原子間力顕微鏡」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 3月12日国際公開、WO98/10458、平成12年12月26日国内公表、特表2000-517433〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1997年8月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1996年9月6日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成20年3月13日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年6月23日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同年7月14日付けで手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。


第2 本件補正の補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年7月14日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正後の本願発明
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであって、平成19年11月15日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1を以下のとおり、補正するものである。(下線部は補正箇所を示す。)
「 少なくとも1つのカンチレバーが取り付けられており光学検出器を含む、高速走査を可能とするための改良された原子間力顕微鏡であって、
長さが30μm未満である、前記カンチレバーと、
小さな入射ビームスポットを生成するための、光源、及び焦点合わせされた入射ビームを生成する手段を含む光学系と、
前記焦点合わせされた入射ビームを前記カンチレバー上に向かわせ、前記カンチレバーから前記検出器へ前記焦点合わせされた入射ビームを干渉無しに反射させる手段と、
を含み、
前記光学系は前記光源からの光の波長に対して十分な開口数を有し、これにより、前記焦点合わせされたビームは少なくとも一次元で8μm又は8μm未満のサイズを有するスポットを前記カンチレバー上に形成する、
原子間力顕微鏡。」(以下、「本願補正発明」という。)

上記本件補正は、発明特定事項である「反射させる手段」について「前記焦点合わせされた入射ビームを干渉無しに反射させる」ことを限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平5-79834号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の記載がある。
[a]「【特許請求の範囲】
【請求項1】 被測定物表面に極近傍まで接近させ前記被測定物表面との間に原子間力を発生させるための探針と、上記探針と被測定物表面との間に原子間力が発生可能な距離内に接近させて支持する片持ちばりと、上記被測定物を走査させる走査手段とを備え、原子間力により生じる上記片持ちばりのたわみを光学的に検出する原子間力顕微鏡において、
互いに偏波面が直交し、周波数が僅かに異なる2種類の直線偏光を含むレーザ光を出力するレーザ光源装置と、
前記レーザ光源装置によって出力された2種類の直線偏光のうちの一方を平行光、他方を収束光とさせる二重焦点レンズを含み、一方の直線偏光を前記片持ちばりの背面上に集光させるとともに、他方の直線偏光を平行光とし、かつ前記被測定物の表面上に該一方の直線偏光の照射径よりも十分大きい照射径にて照射する光学系と、
前記2種類の直線偏光の反射光を前記光学系によって干渉させ、その干渉のビート周波数から前記片持ちばりのたわみ量を検出する検出手段と、を備えることを特徴とする原子間力顕微鏡。」
[b]「【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、原子間力による片持ちばりのたわみ量は極微小であるため、上記従来方法では探針と被測定物表面との間に外部振動の影響を受け易く、測定結果に外部振動の成分が含まれてしまうという欠点があった。
【0007】本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、外部振動の影響のない測定ができる原子間力顕微鏡の実現にある。」
[c]「【0012】図1、図2は本発明の一実施例を説明する構成図である。レーザ光源装置10には、偏波面が互いに直交し、かつ周波数が僅かに異なる2種類の直線偏光、たとえばP偏光LPとS偏光LSとを含むレーザ光Lを出力するゼーマンレーザが用いられる。このレーザ光源10と無偏光ビームスプリッタ12と検光子14と基準用光センサ16とはZ軸と平行な直線上に配置されている。前記レーザ光源装置10から出力されたレーザ光Lは、無偏光ビームスプリッタ12により2本に分割され、そのうちの無偏光ビームスプリッタ12を透過したレーザ光は基準用光センサ16により検出され、基準ビート信号FBが出力される。上記P偏光LP、S偏光LSの周波数をそれぞれfP、fSとすると、基準ビート信号FBの周波数fBは、|fP-fS|となる。」
[d]「【0018】ミラー20からのレーザ光Lは二重焦点レンズ22に入射する。二重焦点レンズ22は、光学ガラスと複屈折性材料とから構成されており、入射する光線の偏波面の方向によって屈折率が異なるという性質を持っている。そのため、二重焦点レンズ22に入射したレーザ光LのうちP偏光LPは平行光、S偏光LSは収束光となって対物レンズ24に入射する。また前述の通り対物レンズ24はその前焦点が二重焦点レンズ22の後焦点に位置するように構成されている。このため、収束光として入射したS偏光LSは平行光とされて被測定物30の表面の比較的広い範囲に照射される。一方、平行光として対物レンズ24に入射したP偏光LPは収束光として片持ちばり26の背面上であってかつ、探針28の真上の位置の一点に集光される。
【0019】レーザ光LがHeNeレーザであって対物レンズの倍率が150倍の場合、片持ちばり26の背面上に集光されるP偏光LPの直径は約0.8μm、被測定物30の表面上に照射されるS偏光LSの直径は約60μmである。」
[e]「【0021】片持ちばり26の背面上に集光させられたP偏光LPの反射光は、片持ちばり26の上下動に伴ってその光路長が変化させられるので、これによる周波数シフトΔfsを受けている。また、測定の際のXYステージ44の振動その他の外乱による周波数シフトΔfdも受けるため、P偏光LPの反射光の周波数はfP+Δfd+Δfsとなる。これに対し、円形平行ビームの状態で被測定物30の表面の比較的広い範囲に照射されるS偏光LSは、被測定物30の表面の微小凹凸による影響が平均化されて全体として相殺されるため、外乱による周波数シフトΔfdの影響を受けるだけで、その反射光の周波数はfS+Δfdとなる。上記P偏光LPは計測光であり、S偏光LSは参照光である。
【0022】片持ちばり26の背面で反射されたP偏光LPと、被測定物30の表面で反射されたS偏光LSは、それぞれ入射経路と逆の光路を辿って無偏光ビームスプリッタ12に入射させられ、これを透過し計測用光センサ36で受光されて、計測ビート信号FDが出力される。この計測ビート信号FDはP偏光LPとS偏光LSとの干渉によるうなりに対応するもので、その周波数fDは、|(fP+Δfd+Δfs)-(fS+Δfd)|=|fP-fS+Δfs|であり、前記外乱による周波数シフトΔfdは相殺される。」
上記[a]?[e]の記載によれば、引用例には、
「被測定物表面に極近傍まで接近させ前記被測定物表面との間に原子間力を発生させるための探針と、上記探針と被測定物表面との間に原子間力が発生可能な距離内に接近させて支持する片持ちばりと、上記被測定物を走査させる走査手段とを備え、原子間力により生じる上記片持ちばりのたわみを光学的に検出する原子間力顕微鏡において、互いに偏波面が直交し、周波数が僅かに異なるP偏光LPとS偏光LSとを含むレーザ光Lを出力するレーザ光源装置と、二重焦点レンズを含み、P偏光LPを前記片持ちばりの背面上であってかつ、探針28の真上の位置の一点に直径約0.8μmで集光させるとともに、S偏光LSを平行光とし、かつ前記被測定物の表面上に該一方の直線偏光の照射径よりも十分大きい照射直径約60μmにて照射する光学系と、片持ちばりの背面で反射されたP偏光LPと被測定物の表面で反射されたS偏光LSを受光する計測用光センサと、上記P偏光LPは計測光であり、S偏光LSは参照光であり、上記P偏光LP、S偏光LSの周波数をそれぞれfP、fSとすると、P偏光LPの反射光の周波数は、片持ちばりの上下動に伴ってその光路長が変化させられるので、これによる周波数シフトΔfsを受けて、fP+Δfd+Δfsとなるのに対し、円形平行ビームの状態で被測定物の表面の比較的広い範囲に照射されるS偏光LSは、被測定物の表面の微小凹凸による影響が平均化されて全体として相殺されるため、外乱による周波数シフトΔfdの影響を受けるだけで、その反射光の周波数はfS+Δfdとなり、前記外乱による周波数シフトΔfdは相殺されることとなり、前記2種類の直線偏光の反射光を前記光学系によって干渉させ、その干渉のビート周波数から前記片持ちばりのたわみ量を検出する検出手段と、を備える、測定結果に外部振動の成分が含まれてしまうという欠点を解決するための原子間力顕微鏡。」の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されていると認められる。

3 対比
本願補正発明と引用例発明とを対比する。
(ア)引用例発明の「上記探針と被測定物表面との間に原子間力が発生可能な距離内に接近させて支持する片持ちばり」は、本願補正発明の「少なくとも1つのカンチレバー」に相当する。
(イ)引用例発明の「片持ちばりの背面で反射されたP偏光LPと被測定物の表面で反射されたS偏光LSを受光する計測用光センサ」は、本願補正発明の「光学検出器」に相当する。
(ウ)引用例発明の「互いに偏波面が直交し、周波数が僅かに異なるP偏光LPとS偏光LSとを含むレーザ光Lを出力するレーザ光源装置」は、本願補正発明の「光源」に相当する。また、引用例発明の「二重焦点レンズを含み、P偏光LPを前記片持ちばりの背面上であってかつ、探針28の真上の位置の一点に直径約0.8μmで集光させるとともに、S偏光LSを平行光とし、かつ前記被測定物の表面上に該一方の直線偏光の照射径よりも十分大きい照射直径約60μmにて照射する光学系」は、計測光であるP偏光LPを集光させるものであるから、本願補正発明の「焦点合わせされた入射ビームを生成する手段」に包含されるものである。
そして、引用例発明の上記「レーザ光源装置」と「光学系」は、計測光であるP偏光LPを前記片持ちばりの背面上に直径約0.8μmで集光させるものであるから、本願補正発明の「小さな入射ビームスポットを生成するための、光源、及び焦点合わせされた入射ビームを生成する手段を含む光学系」に相当するものといえる。
また、引用例発明の上記「光学系」が「P偏光LPを前記片持ちばりの背面上であってかつ、探針28の真上の位置の一点に直径約0.8μmで集光させる」ことと本願補正発明の「前記光学系は前記光源からの光の波長に対して十分な開口数を有し、これにより、前記焦点合わせされたビームは少なくとも一次元で8μm又は8μm未満のサイズを有するスポットを前記カンチレバー上に形成する」こととは、「前記光学系により、前記焦点合わせされたビームは少なくとも一次元で8μm又は8μm未満のサイズを有するスポットを前記カンチレバー上に形成する」点で共通する。
(エ)引用例発明のレーザ光源装置からのP偏光LPを計測用光センサへ反射させる「片持ちばりの背面」と本願補正発明の「前記焦点合わせされた入射ビームを前記カンチレバー上に向かわせ、前記カンチレバーから前記検出器へ前記焦点合わせされた入射ビームを干渉無しに反射させる手段」とは、「前記焦点合わせされた入射ビームを前記カンチレバー上に向かわせ、前記カンチレバーから前記検出器へ前記焦点合わせされた入射ビームを反射させる手段」である点で共通する。
したがって、両者は、
「少なくとも1つのカンチレバーが取り付けられており光学検出器を含む原子間力顕微鏡であって、小さな入射ビームスポットを生成するための、光源、及び焦点合わせされた入射ビームを生成する手段を含む光学系と、前記焦点合わせされた入射ビームを前記カンチレバー上に向かわせ、前記カンチレバーから前記検出器へ前記焦点合わせされた入射ビームを反射させる手段と、を含み、前記光学系により、前記焦点合わせされたビームは少なくとも一次元で8μm又は8μm未満のサイズを有するスポットを前記カンチレバー上に形成する、原子間力顕微鏡。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]本願補正発明では、原子間力顕微鏡が「高速走査を可能とするための改良された」ものであって、カンチレバーの「長さが30μm未満である」のに対し、引用例発明では、高速走査を可能とするための改良がされたものではなく、片持ちばりの長さを特定していない点。
[相違点2]反射させる手段が、本願補正発明は、「干渉無しに」反射させているのに対し、引用例発明は、測定結果に外部振動の成分が含まれてしまうという欠点を解決するために、計測光であるP偏光と参照光であるS偏光の2種類の直線偏光の反射光を前記光学系によって干渉させている点。
[相違点3]光学系が、本願補正発明では、「前記光源からの光の波長に対して十分な開口数を有」するのに対し、引用例発明では、開口数を特定していない点。

4 判断
上記相違点について検討する。
[相違点1]について
原子間力顕微鏡において、高速走査を可能とすることは周知の課題であり、カンチレバーの共振周波数を高くすることにより高速走査を可能とすることも周知技術である。例えば、特開平8-211078号公報の段落【0018】には、「したがってより高速な測定をするためには厚さtを厚くするか、長さLを短くして基本共振周波数の高いカンチレバーを製作する必要があった。」と記載されている。また、実願平3-104954号(実開平5-52711号)のCD-ROMの段落【0003】には、「カンチレバーは作り易さや、原子間力の大きさを検知できる程度の小さいばね定数をもち、また高速走査が可能なように固有共振周波数を高くする点からSi_(3) N_(4) で構成される場合が多い。」と記載されている。
そして、カンチレバーの長さを短くすることにより共振周波数が高くなることは、上記特開平8-211078号公報の段落【0018】にも記載されているように、当業者にとって自明であり、カンチレバーの長さとして、数十μm程度のものも、例えば実願平3-104954号(実開平5-52711号)のCD-ROMの段落【0007】、特開平4-337403号公報の段落【0024】や特開平6-18257号公報の段落【0005】に記載されているように周知であるから、カンチレバーの長さをどの程度とするかは、必要とする共振周波数に応じて当業者が適宜設定しうる事項である。
したがって、引用例発明において、高速走査を可能とするという原子間力顕微鏡において周知の課題を解決するために、片持ちばりの長さを30μm未満とし、本願補正発明の上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到しうることである。

[相違点2]について
本願明細書には、発明の背景として、以下の記載がある。
「光梃子検出を最適に行うためには、スポットはカンチレバーを実質上満たすべきである。満たし方が不十分であると、反射ビームが必要以上に多く発するため、光梃子検出の効率が失われてしまう。挺子の満たし方が大きすぎると、試料から反射される光により、光が失われ不都合な干渉縞ができてしまう。」(公表公報第8頁第8?12行)
「例えば、タンパク質の挙動を非常に低いノイズで測定するには、ショットノイズの制限を受けない、即ち検出信号誤差を許容限度内にするのに十分な光強度があると想定して、カンチレバーの満たし方を大きくし、最もよい低ノイズ操作を行うことが望まれる。反射性の試料を大規模に測定するには、カンチレバーの満たし方を小さくし、試料により反射される光からの干渉効果を最小化することが望まれる。」(公表公報第8頁第13?18行)
上記記載箇所には、検出信号を得るためのカンチレバーを満たすスポットが試料により反射されてしまうと不都合な干渉縞ができてしまうことが記載されているといえ、本願補正発明の「入射ビームを干渉無しに反射させる」とは、検出信号を得るためのスポットが試料により反射されることによる不都合な干渉縞ができないことを規定しているものと理解できる。
一方、引用例発明は、S偏光を参照光として円形平行ビームの状態で被測定物の表面の比較的広い範囲に照射させ、測定光であるP偏光と干渉させることにより、前記外乱による周波数シフトΔfdを相殺するものであるが、引用例発明における測定光であるP偏光は、前記片持ちばりの背面上であってかつ、探針28の真上の位置の一点に直径約0.8μmで集光され、反射されるものであるから、引用例発明の測定光自体では、試料により反射されることによる不都合な干渉縞ができないよう、つまり干渉無しに反射されているものである。
そして、引用例発明において、測定光を参照光と干渉させているのは、測定結果に外部振動の成分が含まれてしまうという欠点を解決するという課題を解決するためであるといえるが、原子間力顕微鏡においては、外部振動の影響を除くために様々な手段が知られており、例えば、特開平6-241775号公報の段落【0008】や、特開平4-83138号公報の第1頁右下欄第18行?第2頁左上欄第1行に記載されるように、カンチレバーの固有振動数を大きく(高く)することにより外部振動の影響を防ぐことも周知である。そして、上記特開平6-241775号公報の段落【0008】には、固有振動数を大きくするためには、カンチレバーの大きさを相対的に小さくする必要があることも記載されている。
したがって、引用例発明において、外部振動の成分が含まれてしまうという欠点を解決するために、測定光を参照光と干渉させる代わりに、固有振動数の高いカンチレバーを採用し、本願補正発明の上記相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到しうることである。

[相違点3]について
本願明細書には、以下の記載がある。
「 本発明は、小さな入射ビームスポットを生成することにより前記のニーズに見合うAFMを提供する。該AFMは、焦点を合わせた入射ビームを生成する光源を含む光学系、及び焦点を合わせたビームをカンチレバーに向けそこから検出器に反射させる手段を備える。このシステムは光源からの光の波長に対する十分な開口数(NA)を有し、これにより焦点を合わせたビームは、少なくとも一次元で8μm又は8μm未満のスポット直径W_(O)を形成する。μm単位でのスポット直径W_(O)は一般に2×λ/(π×NA)と定義され、ここでλはμm単位での波長である。また、NAはn×sinθと定義され、ここでθは(l/e^(2)点における)遠フィールド光円錐の角度の1/2であり、nは(空気中では1である)屈折率である。λ=670nmの赤色光の場合、NAは0.05よりも大きくなければならない。λ=400nmの青色光の場合、NAは0.03よりも大きくなければならない。紫外光の場合には、最小NAはより小さくなるであろう。」(公表公報第9頁第1?12行)
上記記載によれば、「前記光源からの光の波長に対して十分な開口数を有し」ているとは、2×λ/(π×NA)と定義されるスポット直径W_(O)が8μm又は8μm未満となるという条件を十分に満たすように、波長λに応じて開口数NAが設定されることを規定しているといえる。
一方、引用例発明の測定光であるP偏光は、探針28の真上の位置の一点に直径約0.8μmで集光されているため、スポット直径は0.8μmである。P偏光の波長は開示されていないものの、スポット直径が8μm又は8μm未満となるという条件を十分に満たしているため、引用例発明の光学系の開口数は光源からの光の波長に対して十分な開口数を有しているといえるものであり、上記相違点3は実質的な相違点であるとはいえない。

次に、本願補正発明の効果について検討すると、上記周知技術に記載されているように、原子間力顕微鏡においてカンチレバーの長さを短くすることにより高速走査を可能とすることは周知である。そして、本願の明細書の記載を参酌しても、カンチレバーの長さを30μm未満としたことにより、臨界的な効果の差異が生じるとはいえない。
したがって、本願補正発明の効果は、引用例発明および上記周知技術から当業者が予測できる範囲のものであって、格別なものであるとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用例発明および上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 まとめ
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明
1 本願発明の認定
本件補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1?22に係る発明は、平成19年11月15日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は以下のとおりである。
「 少なくとも1つのカンチレバーが取り付けられており光学検出器を含む、高速走査を可能とするための改良された原子間力顕微鏡であって、
長さが30μm未満である、前記カンチレバーと、
小さな入射ビームスポットを生成するための、光源、及び焦点合わせされた入射ビームを生成する手段を含む光学系と、
前記焦点合わせされた入射ビームを前記カンチレバー上に向かわせ、前記カンチレバーから前記検出器へ反射させる手段と、
を含み、
前記光学系は前記光源からの光の波長に対して十分な開口数を有し、これにより、前記焦点合わせされたビームは少なくとも一次元で8μm又は8μm未満のサイズを有するスポットを前記カンチレバー上に形成する、
原子間力顕微鏡。」(以下、「本願発明」という。)

2 引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物およびその記載事項は、前記「第2 2 引用刊行物記載の発明」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、本願補正発明における「前記焦点合わせされた入射ビームを干渉無しに反射させる」とする限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 4 判断」に記載したとおり、引用例発明および上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例発明および上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-25 
結審通知日 2010-03-02 
審決日 2010-03-18 
出願番号 特願平10-512687
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 洋平福田 裕司  
特許庁審判長 後藤 時男
特許庁審判官 宮澤 浩
信田 昌男
発明の名称 小さな入射ビームスポットを生成するための原子間力顕微鏡  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 西元 勝一  

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