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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1221308
審判番号 不服2006-26253  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-21 
確定日 2010-08-03 
事件の表示 特願2002-587600「界面活性剤およびプロテアーゼを使用して核酸を単離するための組成物、方法およびキット」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月14日国際公開、WO02/90539、平成17年 1月20日国内公表、特表2005-501523〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1. 手続の経緯

本願は,平成13年11月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年11月28日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成18年8月21日付で拒絶査定がなされ,これに対し,平成18年11月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,平成18年12月21日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。

第2. 平成18年12月21日付の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成18年12月21日付の手続補正を却下する。

[理由]
I. 平成18年12月21日付け手続補正

本件補正により,以下のように補正された。

1. 特許請求の範囲の請求項25は,
「【請求項25】 生物学的サンプルから核酸を得て,そして該核酸を固相に結合させるための方法であって,以下:
該生物学的サンプルに破壊緩衝液を接触させる工程であって,該破壊緩衝液は,以下:
プロテアーゼ;および
カチオン性界面活性剤,
を含む,工程;ならびに
該核酸を固相に結合させる工程,
を包含する,方法。」 から,
「【請求項24】 生物学的サンプルから核酸を得て,そして該核酸を固相に結合させるための方法であって,以下:
該生物学的サンプルに破壊緩衝液を接触させる工程であって,該破壊緩衝液は,以下:
プロテアーゼ;および
カチオン性界面活性剤,
を含む,工程;ならびに
該核酸を固相に結合させる工程,
を包含する方法であって,ここで,前記カチオン性界面活性剤が,セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB),セチルトリメチルアンモニウムクロリド(CTACl),テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド(TTAB),テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド(TTACl),ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DTAB),ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド(DTACl),ドデシルエチルジメチルアンモニウムブロミド(DEDTAB),デシルトリメチルアンモニウムブロミド(D10TAB),ドデシルトリフェニルホスホニウムブロミド(DTPB),ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(HTAB),Mackernium(塩化オレアルコニウム),Mackernium NLE(クオーターニウム84),および,Mackernium Stearalkonium SDC-85 Chlorideから選択される,方法。」(以下,この補正を「本願補正1」,補正後の請求項24に係る発明を「本願補正発明1」という。) と補正された。

2.特許請求の範囲の請求項1は,
「【請求項1】 生物学的サンプルから核酸を得て,そして該核酸を固相に結合させるための方法であって,以下:
該生物学的サンプルに破壊緩衝液を接触させる工程であって,該破壊緩衝液は,以下:
プロテアーゼ;および
カチオン性界面活性剤,
を含む,工程;
該カチオン性界面活性剤を実質的に中和する工程;ならびに
該核酸を固相に結合させる工程,
を包含する,方法。」 から,
「【請求項1】 生物学的サンプルから核酸を得て,そして該核酸を固相に結合させるための方法であって,以下:
該生物学的サンプルに破壊緩衝液を接触させる工程であって,該破壊緩衝液は,以下:
プロテアーゼ;および
カチオン性界面活性剤
を含む,工程;
該カチオン性界面活性剤の1以上の効果を低減させるか,阻害するか,または防止する工程;ならびに
該核酸を固相に結合させる工程,
を包含する方法であって,ここで,前記カチオン性界面活性剤が,セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB),セチルトリメチルアンモニウムクロリド(CTACl),テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド(TTAB),テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド(TTACl),ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DTAB),ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド(DTACl),ドデシルエチルジメチルアンモニウムブロミド(DEDTAB),デシルトリメチルアンモニウムブロミド(D10TAB),ドデシルトリフェニルホスホニウムブロミド(DTPB),ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(HTAB),Mackernium(塩化オレアルコニウム),Mackernium NLE(クオーターニウム84),および,Mackernium Stearalkonium SDC-85 Chlorideから選択される, 方法。」 (以下,この補正を「本願補正2」,補正後の請求項1に係る発明を「本願補正発明2」という。) と補正された。

II. 判断

1. 本願補正1について

(1) 上記第2.I.1.記載の特許請求の範囲の請求項25における補正は,カチオン性界面活性剤として,何ら特定がなされていなかったところ,「前記カチオン性界面活性剤が,セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB),セチルトリメチルアンモニウムクロリド(CTACl),テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド(TTAB),テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド(TTACl),ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DTAB),ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド(DTACl),ドデシルエチルジメチルアンモニウムブロミド(DEDTAB),デシルトリメチルアンモニウムブロミド(D10TAB),ドデシルトリフェニルホスホニウムブロミド(DTPB),ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(HTAB),Mackernium(塩化オレアルコニウム),Mackernium NLE(クオーターニウム84),および,Mackernium Stearalkonium SDC-85 Chlorideから選択される」 と限定するものである。

この限定は,平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。
そこで,本願補正発明1が特許出願の際,独立して特許を受けることができるものであるかにつき,以下検討する。

(2) 独立特許要件(特許法第29条第2項)について

1) 本願補正発明1
本願補正発明1は,平成18年12月21日付で手続補正された特許請求の範囲の請求項24に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項24】 生物学的サンプルから核酸を得て,そして該核酸を固相に結合させるための方法であって,以下:
該生物学的サンプルに破壊緩衝液を接触させる工程であって,該破壊緩衝液は,以下:
プロテアーゼ;および
カチオン性界面活性剤,
を含む,工程;ならびに
該核酸を固相に結合させる工程,
を包含する方法であって,ここで,前記カチオン性界面活性剤が,セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB),セチルトリメチルアンモニウムクロリド(CTACl),テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド(TTAB),テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド(TTACl),ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DTAB),ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド(DTACl),ドデシルエチルジメチルアンモニウムブロミド(DEDTAB),デシルトリメチルアンモニウムブロミド(D10TAB),ドデシルトリフェニルホスホニウムブロミド(DTPB),ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(HTAB),Mackernium(塩化オレアルコニウム),Mackernium NLE(クオーターニウム84),および,Mackernium Stearalkonium SDC-85 Chlorideから選択される,方法。」

2) 引用例
これに対して,原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である,引用例 (特開平6-205676号公報) には,以下の記載がなされている。

ア. 「【請求項1】 全血液検体に界面活性剤を接触させて血球細胞の細胞膜を破壊し,露出した細胞核を集め,更に界面活性剤と蛋白質分解酵素で処理して核膜及び核蛋白質を破壊した後,カオトロピック剤と接触させてDNA鎖を遊離させ,該遊離されたDNA鎖を含む溶液にアルコール類を加えてDNA鎖を沈澱させることを特徴とするDNA鎖抽出方法。」
( 特許請求の範囲 請求項1 )

イ. 「【請求項6】 蛋白質分解酵素がプロティナーゼKである,請求項1?5の何れかに記載のDNA鎖抽出方法。」(特許請求の範囲 請求項6)

ウ. 「【0006】 本発明に於て用いられる界面活性剤としては,一般に細胞,細菌等から核酸鎖抽出の際に用いられるものであれば,陽イオン性界面活性剤,陰イオン性界面活性剤,非イオン性界面活性剤,両性界面活性剤等,特に限定されることなく挙げられるが,具体的には例えばドデシルトリメチルアンモニウムブロミド,ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド,セチルトリメチルアンモニウムブロミド等の陽イオン性界面活性剤・・・が好ましく挙げられる。」 ( 第3欄 段落番号【0006】 )

エ. 「【0013】 【実施例】 実施例1.
ヒト新鮮全血0.5mlに・・・得られたペリットに1%SDS,1mM EDTAを含む10mMトリス-塩酸緩衝液(pH8.0)200μlと20mg/mlのプロティナーゼK 10μlを添加した後,37℃で60分間反応させた。その後・・DNAを沈澱させた。上清を捨て,沈澱に40%イソプロパノールを1ml添加して洗浄した後乾燥処理し,DNAを得た。・・・得られたDNAの分子量を測定した。結果を表1示す。」(第6欄 段落番号【0013】)

オ. 実施例1の操作時間が 1.5時間であり,DNA抽出効率(%)が 95%であること。 ( 第5頁 【表1】 実施例1の欄 )

3) 対比
本願補正発明1と,引用例に記載された発明(以下,「引用発明」という。)とを,以下対比する。

ア) 引用例の上記第2.II.1.(2) 2) ア記載の「全血液検体・・・露出した細胞核」は,本願補正発明1の「生物学的サンプル」に,また同箇所記載の「DNA鎖抽出方法」は,本願補正発明1の「核酸を得」る「工程」に,それぞれ相当する。

イ) 引用例の上記第2.II.1.(2) 2)ア記載の「全血液検体・・露出した細胞核を集め,更に界面活性剤と蛋白質分解酵素で処理して核膜及び核蛋白質を破壊した」について。

イ-1) 「界面活性剤」は,引用例の上記第2.II.1.(2) 2) エの「本発明に於て用いられる界面活性剤としては,・・・陽イオン性界面活性剤・・・具体的には・・ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド,ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド,セチルトリメチルアンモニウムブロミド等の陽イオン性界面活性剤」という記載より,本願補正発明1の「カチオン性界面活性剤」及び「前記カチオン性界面活性剤が,セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB),・・・,ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DTAB),ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド(DTACl)・・・から選択される」に相当する。
そして,これらの陽イオン性界面活性剤が,引用例の記載及び本願優先日当時の技術常識からみて,引用例に記載された方法において用いることができないとすべき理由はない。

イ-2) 「蛋白質分解酵素」は,引用例の上記第2.II.1.(2) 2) イの記載より,プロティナーゼKを具体的に用いていることから,本願補正発明1の「プロテアーゼ」に相当する。

イ-3) 引用例の「界面活性剤」と「蛋白質分解酵素」は,生物学的サンプルである「全血液検体・・露出した細胞核」に接触させて「核膜及び核蛋白質を破壊」するためのものであり,且つ,引用例の【請求項1】の具体的な実施例である引用例の上記第2.II.1.(2) 2) エの「ヒト新鮮全血・・得られたペリットに1%SDS・・を含む10mMトリス-塩酸緩衝液・・と・・プロティナーゼK・・を添加した後,37℃で60分間反応・・その後・・・DNAを沈澱させた」という記載より,引用例のトリス-塩酸緩衝液は,「界面活性剤」及び「蛋白質分解酵素」を含むもので,本願補正発明1の「破壊緩衝液」に相当する。

イ-4) そうすると,イ-1)?イ-3)より,引用例の上記第2.II.1.(2) 2)ア記載の「全血液検体・・露出した細胞核を集め,更に界面活性剤と蛋白質分解酵素で処理して核膜及び核蛋白質を破壊した」は,本願補正発明1の「生物学的サンプルに破壊緩衝液を接触させる工程であって,該破壊緩衝液はプロテアーゼ,及び界面活性剤を含む」に相当する。

以上,ア)?イ-4)より,本願補正発明1と引用発明とを対比すると,

両者は,生物学的サンプルから核酸を得る方法で,
該生物学的サンプルに破壊緩衝液を接触させる工程であって,
該破壊緩衝液は,プロテアーゼ 及び カチオン性界面活性剤 を含み,
該カチオン性界面活性剤は,セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB),ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DTAB),ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド(DTACl)から選択される,方法 に係るものである点, で一致し,

本願補正発明1は,得られた核酸を更に固相に結合させる工程を含む,「核酸を固相に結合させるための方法」 であるのに対し,
引用発明は,そのような,得られた核酸の固相への結合工程はない点,
でのみ相違する。

4) 当審の判断

ア. 上記相違点について
一般に,生体試料から得る核酸の収率や純度を高くする目的で,遊離核酸を固相である担体に結合させることは,平成17年9月15日付け拒絶理由通知書で言及されている,引用例1(特開平07-143879号公報)及び引用例4(国際公開第98/04730号)のみならず,同書に記載された引用例5(特開平11-92494号公報)からも明らかなように,本願優先日当時,周知技術であった。

そうすると,引用発明において,生体試料から得る核酸の収率や純度を高くする目的で,生物学的サンプルから核酸を得る方法に,更に上記周知技術を適用し,遊離した核酸を固相である担体に結合させる工程を設け,核酸を固相に結合させるための方法とすることは,当業者が容易に想到し得たことと認める。
そして,それにより奏される効果についても,当業者の予測し得るものであり,格別顕著なものとも認められない。

イ. 本件請求人の主張に対する反論
本件請求人は,平成19年1月25日付け審判請求書の手続補正書において,
(i) 引用発明は,プロテアーゼと界面活性剤とを別々に連続的に使用しており,本願補正発明1において初めて実証された,プロテイナーゼKと一緒に使用された場合のカチオン性界面活性剤の効果,すなわち,プロテイナーゼKのみを使用した場合に必要とされる核酸遊離時間は約12?18時間であるのに対し,カチオン性界面活性剤を一緒に使用した場合の核酸遊離時間は30分に減少されるという顕著な効果を奏する [ 本願明細書の段落番号【0037】,実施例11(段落番号【0116】?【0117】)又は図12参照 ],
(ii) 本願明細書の実施例10,図11及び本願明細書の段落番号【0115】の記載「界面活性剤がSDSである場合,より少ない核酸が遊離」を指摘し,本願補正発明1で用いるカチオン性界面活性剤を使用した核酸の遊離法は,アニオン性界面活性剤(SDS)を使用した方法よりも,「多量の高完全性の核酸を遊離」させるという予想外の顕著な効果を奏する,
それ故,本願補正発明1は,引用例に記載された発明及び本願優先日当時の周知技術に基いて,当業者が容易に想到し得たものではない旨,主張している。

i) 上記(i)について
本件請求人が言及している効果,即ち,プロテイナーゼKと一緒に使用された場合のカチオン性界面活性剤の効果に関し,そもそも,上記第2.II.1.(2) 3) イ-1)?イ-4)で述べたように,引用発明の「界面活性剤」は,本願補正発明1の「カチオン性界面活性剤」及び「前記カチオン性界面活性剤が,セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB),・・・,ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DTAB),ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド(DTACl)・・・から選択される」に相当し,また,引用発明の「蛋白質分解酵素」はプロテイナーゼKで,本願補正発明1の「プロテアーゼ」に相当するものであり,引用発明でも,両者は一緒に使用されていることから,プロテイナーゼKとカチオン性界面活性剤とが一緒に使用される点については,引用発明と本願補正発明1とに,構成上の相違はない。
それ故,プロテイナーゼKとカチオン性界面活性剤とが一緒に使用された場合の効果を参酌する余地はない。

なお,仮に,カチオン性界面活性剤として,セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB),ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DTAB)又はドデシルトリメチルアンモニウムクロリド(DTACl)等のカチオン性界面活性剤を用いた具体例が引用例に記載されていない点が相違点であったとしても,引用例に明記されているこれらのカチオン性界面活性剤を用いることは,極めて容易に想到し得ることであるが,その場合には,効果の顕著性が問題となる可能性があるので,検討すると,以下に述べる通り,該カチオン性界面活性剤の効果については,格別顕著なものとは認められない。
まず,本件請求人が指摘する,本願明細書の実施例11(段落番号【0116】?【0117】)又は図12に記載され,効果が客観的に確認できる発明は,生物学的サンプルから得た核酸を固相に結合させる方法において,生物学的サンプルに破壊緩衝液(プロテアーゼ及びカチオン性界面活性剤を含むもの)を接触させる工程のみならず,該カチオン性界面活性剤の1以上の効果を低減させるか,阻害するか又は防止する工程をも包含する方法であり,本願補正発明1とは構成が異なる発明である。それ故,本願明細書の実施例11(段落番号【0116】?【0117】)又は図12に記載された効果を以てして,直ちに,本願補正発明1の効果を判断することはできない。
次に,本件請求人は,生物学的サンプルにプロテアーゼ及び界面活性剤を反応させた際の核酸遊離時間に言及し,本願補正発明1の核酸遊離時間はかなり短いという効果の顕著性を主張しているが,生物学的サンプルにプロテアーゼ及び界面活性剤を反応させる条件に関し,本願明細書の実施例11の記載と引用発明の具体的な実施例である上記第2.II.1.(2) 2) エの記載とを比較すると,プロテアーゼの添加量,生物学的サンプルとプロテアーゼ及び界面活性剤との反応温度,プロテアーゼ及び界面活性剤以外に生物学的サンプルに添加する物質の種類等々,反応条件がかなり異なっている。それ故,一概に,本願補正発明1と引用発明とを比較し,本願補正発明1の効果の顕著性を判断することはできない。
あえて,該核酸遊離時間について,本願明細書の実施例11の記載と引用発明の具体的な実施例である上記第2.II.1.(2) 2) エ,オの記載とを比較すると,引用発明における界面活性剤及びプロティナーゼKとを’同時に’添加した際の反応時間は’60分’であり,更に,引用例の上記第2.II.1.(2) 2) オより,全工程に要する時間も,’1.5時間’である。また,本願補正発明1における全工程に要する時間に関し,本願明細書の段落番号【0037】には「高度な完全性の核酸は,本発明の組成物および方法を使用して,’60分以内’で生物学的サンプルから効率的に得られ得る。」と記載されているにすぎない。
そうすると,本願明細書の実施例11における核酸遊離時間が30分に減少されるということが,カチオン性界面活性剤として,セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB),ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DTAB)又はドデシルトリメチルアンモニウムクロリド(DTACl)や,それ以外の,本願補正発明1に列挙されている各種のカチオン性界面活性剤を使用することにより奏される効果として,本願補正発明1が引用発明に対して顕著な効果を奏するものとはいえない。

ii) 上記(ii)について
本件請求人が指摘する本願明細書の実施例10及び図11に記載され,効果が客観的に確認できる発明も,上記 i)で述べたように,生物学的サンプルに破壊緩衝液(プロテアーゼ及びカチオン性界面活性剤を含むもの)を接触させる工程のみならず,該カチオン性界面活性剤の1以上の効果を低減させるか,阻害するか又は防止する工程(即ち中和工程)をも包含する方法で,本願補正発明1とは構成が異なる発明であり,本願明細書の実施例10及び図11に記載された効果を以てして,直ちに,本願補正発明1の効果を判断することはできない。
さらに,本願明細書の実施例10及び図11の結果を受けて,さらに他のカチオン性界面活性剤が高完全性の核酸を遊離する能力を試験した本願明細書の実施例11及びその結果が示されている図12を検討すると,比較対象であるアニオン性界面活性剤SDSも多量の高完全性の核酸を遊離させていることが示され,特に,カチオン性界面活性剤である塩化セチルトリメチルアンモニウム(CTACl)の結果と比較すると,このカチオン性界面活性剤CTAClよりも多量の高完全性の核酸を遊離させていることが示されている。
そうすると,この図12の結果より,本願補正発明1に更に該中和工程が含まれる発明であってすら,本願補正発明1で用いるカチオン性界面活性剤を使用した核酸の遊離法は,アニオン性界面活性剤(SDS)を使用した方法よりも,多量の高完全性の核酸を遊離させるという予想外の顕著な効果を奏するとは認められない。

したがって,本件請求人の上記主張は採用できない。

5) 小括
以上のとおり,本願補正発明1は,引用例に記載された発明及び本願優先日当時の周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものと認める。
したがって,本件補正発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件補正発明1は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

そうすると,本願補正1は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定される「第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの」に該当しない。

したがって,当該本願補正1は,同法同条同項同号に規定される特許請求の範囲の減縮に該当せず,ましてや,同法同条同項第1,3,4号に規定される請求項の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しない。

2. 本願補正2について

上記第2.I.2.記載の特許請求の範囲の請求項1における補正は,「該カチオン性界面活性剤を’実質的に中和する’工程」を,拒絶査定での「実質的に中和する」なる記載は不明瞭である」という指摘により,「該カチオン性界面活性剤の1以上の効果を低減させるか,阻害するか,または防止する工程」(下線は審判合議体付与)と特定したものである。

この「該カチオン性界面活性剤の1以上の効果を低減させるか,阻害するか,または防止する」という特定に関し,まず,請求項1の記載上から判断するに,「該カチオン性界面活性剤の1以上の効果」といっても,何に対し,どのような効果を意図したものか,何ら明示されておらず,不明である。
それ故,「該カチオン性界面活性剤の1以上の効果を低減させるか,阻害するか,または防止する」は,カチオン性界面活性剤を「実質的に中和する」という意味を明確に特定するために必要な事項を限定するものとはいえない。

念のため,本願明細書の詳細な説明を参酌すると,本願明細書の段落番号【0032】には,「カチオン性界面活性剤を『実質的に中和する』とは,本出願の目的のために,サンプル中の多数の核酸が,中和するのではなく,このような実質的な中和により固相に結合し得ることを意味する。特定の実施形態に従って,このカチオン性界面活性剤の実質的な中和は,カチオン性界面活性剤の1以上の効果を低減させること,阻害すること,または防止することによって達成され得る。特定の実施形態において,これらの効果としては,以下のうちの1以上が挙げられ得る:カチオン性界面活性剤によって核酸が沈殿すること,カチオン性界面活性剤が核酸に結合すること,核酸が固相に結合するのをブロックすること,および固相と相互作用した結果,核酸との結合を妨害すること」 と記載されている。
しかしながら,カチオン性界面活性剤が核酸精製法に用いられる際,カチオン性界面活性剤の一般的に考えられている効果は,核膜や細胞膜を破壊することである。この一般的な効果を「低減」,「阻害」又は「防止」しても,本願明細書に記載された意図である’核酸が固相に結合し得ること’にはならないから,本願明細書の記載によれば,請求項1の「該カチオン性界面活性剤の1以上の効果」には,核膜や細胞膜の破壊は含まれないことになる。しかし,本願明細書の記載を参酌して,請求項に記載された用語の意義を解釈した場合であっても,それは請求項に記載された用語の意義が多義的である場合や誤記の場合に許されるにすぎず,この場合のように,一般的な効果として認識できる効果が含まれないとするような解釈のために参酌することは許されるべきではない。

したがって,本願補正2は,平成18年改正前特許法第17条の2第4項第4号に規定される明りょうでない記載の釈明に該当せず,ましてや,同法同条同項第1乃至3号に規定される請求項の削除,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正のいずれにも該当しない。

III. むすび

以上のとおり,本件補正は,本願補正1については,特許請求の範囲の減縮に該当するものの,同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり,及び,本願補正2については,平成18年改正前特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず,同法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3. 本願発明について

I. 平成18年12月21日付の手続補正は上記のとおり却下されたので,本願請求項25に係る発明は,平成18年3月17日付の手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項25に記載された事項により特定される,以下のとおりのもの(以下,「本願発明」という。)である。

「【請求項25】 生物学的サンプルから核酸を得て,そして該核酸を固相に結合させるための方法であって,以下:
該生物学的サンプルに破壊緩衝液を接触させる工程であって,該破壊緩衝液は,以下:
プロテアーゼ;および
カチオン性界面活性剤,
を含む,工程;ならびに
該核酸を固相に結合させる工程, を包含する,方法。」

II. 引用例

原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は,前記第2.II.1.(2) 2)に記載したとおりである。

III. 対比・判断

本願発明は,前記第2.II.1.(2) で検討した本願補正発明1において,カチオン性界面活性剤が,「セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB),セチルトリメチルアンモニウムクロリド(CTACl),テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド(TTAB),テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド(TTACl),ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DTAB),ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド(DTACl),ドデシルエチルジメチルアンモニウムブロミド(DEDTAB),デシルトリメチルアンモニウムブロミド(D10TAB),ドデシルトリフェニルホスホニウムブロミド(DTPB),ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(HTAB),Mackernium(塩化オレアルコニウム),Mackernium NLE(クオーターニウム84),および,Mackernium Stearalkonium SDC-85 Chlorideから選択される」と限定されていたものを,削除したものである。

そうすると,本願発明は,本願補正発明1を包含するものと認められる。

そうすると,前記第2.II.1.(2) で述べたとおり,本願補正発明1は,引用例に記載された発明及び本願優先日当時の周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明1を包含する本願発明も,同じ理由により,引用例に記載された発明及び本願優先日当時の周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4. むすび

以上のとおりであるから,本願発明は,引用例に記載された発明及び本願優先日当時の周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-15 
結審通知日 2010-02-16 
審決日 2010-03-24 
出願番号 特願2002-587600(P2002-587600)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C12N)
P 1 8・ 537- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂崎 恵美子引地 進  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 齊藤 真由美
深草 亜子
発明の名称 界面活性剤およびプロテアーゼを使用して核酸を単離するための組成物、方法およびキット  
代理人 安村 高明  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  

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