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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03F
管理番号 1221321
審判番号 不服2008-6645  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-18 
確定日 2010-08-03 
事件の表示 特願2000-350489「信号を生成する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 7月 6日出願公開、特開2001-185958〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年11月17日(パリ条約による優先権主張1999年11月19日、米国)の出願であって、平成18年10月11日付けで拒絶理由通知がなされ、平成19年4月13日付けで手続補正がなされたが、同年12月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年3月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成19年4月13日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「少なくとも1つの信号を生成するための方法であって、
増幅すべき信号を分割して、第1および第2の信号バージョンを生成するステップと、
該第2の信号バージョンを遅延回路内で遅延させて、該第1の信号バージョンの時間遅延バージョンを生成するステップと、
該第1の信号バージョンと該時間遅延バージョンを結合器内で結合して、低減された最大値対平均値電力比を有する少なくとも1つの変換信号を生成するステップと、
後に逆変換される該少なくとも1つの変換信号を増幅するステップと、を含むことを特徴とする方法。」

3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-234066号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

A.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は一般に、伝送のために複数の信号を増幅するために使用される並列増幅システムに関し、特に所望の信号の方向に伝送される相互変調積のレベルを低下させる方法および装置に関する。」

B.「【0015】
【発明の実施の形態】本発明は、一般に、マイクロ波中継器や衛星リレー(それらに限定されない)のような線形増幅器システムに適用可能である。増幅された出力におけるIMD積を低下させるために本発明が使用する一般的な方法は、振幅が周波数の関数として互いに変化する多信号に複合入力信号をコード化し、コード化された信号を増幅し、コード化プロセスと逆に行われる相補的な方式で増幅された信号を復号し、それによってもとの複合入力信号を増幅された形態で復元する。このようなIMD積は、コード化プロセスではなく復号化プロセスを受けているため、所望の出力信号と区別される。図1には、本発明の1実施形態のブロック図が示されており、エンコーダ部分が参照符号2 で示され、デコーダ部分が符号4 で示され、増幅器部分が符号6 で示されている。
【0016】好ましい実施形態において、1:N電力分割器8 は、入力端子10における多周波数入力信号を、分割器出力ライン12a,12b,12c,…12N上のN個の分割された信号に分割する。分割された信号は互いに等しい電力を有することができ、あるいはそれらは異なる電力レベルを有することができるが、その場合には復号部分における異なる電力レベルに対して相補型の電力結合器によってもとの信号波形を復元するように加重される。
【0017】分割された信号は各時間遅延素子14a,14b,14c,…14Nに供給され、これらの各時間遅延素子が周波数の関数として変化する分割された信号の間に相対的な位相シフトを導入する。その結果、分割された信号は、それらの周波数の関数として電力振幅が互いに変化すると共にそれらの位相分布が互いに変化する。分割された各信号は入力信号波長帯にわたる多数の周波数を搬送するため、所定の分割された信号に与えられる時間遅延によって、関心のある重要な帯域幅に対する周波数の関数である位相シフトが生成される。
【0018】図1において、ライン12a上の第1の分割された信号は遅延されず、一方、残りのライン12b,12c,…12N上の分割された信号は増分τで線形的に増加する時間遅延を与えられ、ライン12b上の信号は1τだけ遅延され、ライン12c上の信号は2τだけ遅延されるというように順次遅延され、(N-1)τだけ遅延されるライン12N上の信号まで遅延が与えられる。分割された各入力信号に対する位相遅延が周波数の関数として線形的に変化するように、τは定数であることが好ましい。もっとも、τが周波数の関数として変化するシステムもまた構成可能である。同様に、それぞれ連続する分割された信号に対する時間遅延は、一定した増分で増加されることが好ましい。しかしながら、連続する分割された信号間の時間遅延の差がある信号と次の信号とで変化するシステムもまた構成可能である。理論的には、τとして多数の異なる値を選択できるが、τが複合入力信号の帯域幅で除算した4πの整数倍であるときに、最適な結果が得られている。その結果は、IMレベルの改良が増幅器間における振幅および位相の不均衡に対してほとんど反応しない点で最適である。
【0019】遅延された分割された信号は、好ましくはハイブリッドカップラ・バトラーマトリクスとして構成されたN×Nマトリクス16に入力として供給され、このマトリクスは、出力ライン18a,18b,18c,…18N上のそのが異なる各マトリクス入力からの影響を含むようにその入力を分配する。バトラーマトリクスはよく知られており、たとえば文献(Electronics Engineers' Handbook,Fink and Christiansen,ed.,Third Edition 1989,pages 25-61 - 25-62)に記載されている。
【0020】コード化されたマトリクス出力は、各電力増幅器20a,20b,20c,…20Nに供給され、これらの増幅器は衛星用として典型的に固体電力増幅器(SSPA)または進行波管増幅器(TWTA)であるが、一般に多周波数入力に応答してIMDを導入する任意の電力増幅器であってよい。
【0021】デコーダ部分4 は、やはりハイブリッドカップラ・バトラーマトリクスであることが好ましい逆N×Nマトリクス22、それぞれその遅延が素子14a,14b,14c,…14Nと等しいマトリクス出力における一連の時間遅延素子24a,24b,24c,…24N、および時間遅延素子24a…24Nからの信号を端子28で出力される信号に結合するN:1電力結合器26から構成されている。復号マトリクス22、時間遅延素子24a乃至24Nおよび電力結合器26は、対応したコード化素子8 、時間遅延素子14a乃至14NおよびN×Nマトリクス16とは逆の順序で配置されており、相補的な方式で増幅器出力に作用して、出力端子28においてもとの入力信号を増幅された形態で復元する。以下、マトリクスがこの信号復元を行うように動作する方式を図3を参照してさらに詳細に説明する。電力結合器26は、ハイブリッドカップラのネットワークにより構成された通常のマイクロ波伝送ラインネットワークであることができ、信号ポート以外の結合器の全ての出力が負荷で終端される。
【0022】増幅器20a乃至20Nは、それらが増幅した信号成分中にIMDを導入する。コード化電力分割器8 の出力は互いにコヒーレント(互いに同位相)であり、かつコード化時間遅延素子14a乃至14Nおよびマトリクス16は、復号マトリクス22および時間遅延素子24a乃至24Nの相補型であるため、入力ライン30a,30b,30c…30Nから電力結合器26への信号成分もまた互いにコヒーレントであり、コヒーレントな加法で結合して、出力端子28においてもとの入力信号を増幅された形態で再生する。しかしながら、増幅器によって導入されるIMD成分は、増幅された入力が異なるので、各増幅器について異なっており、また電力結合器26への入力におけるIMD成分は、コード化プロセスではなく復号プロセスだけを受けているため、相関されず、互いに非コヒーレントである。復号遅延および結合プロセスの後でさえ、2つのIMD成分がほとんど相関されていない状態であり、ほぼ電力ベースで加算する。しかしながら、所望の信号成分は、コヒーレントに結合し、電圧ベースで加算する。したがって、IMD成分は電力結合器26においてコヒーレントに結合せず、それ以外の場合よりもはるかに小さいレベルのIMDが出力端子28に送られる。したがって、電力結合器26は、信号成分をコヒーレントに結合するが、IMD成分を非コヒーレントに結合することにより、復号された増幅された信号成分を復号されたIMD成分から効率的に分離する。IMDの一部分だけが出力28に到達する。残りのIMD電力は、電力結合器26の内部の負荷に送られる。」

上記A,Bの記載及び関連する図面を参照すると、引用例には、実質的に、次の発明が記載されているものと認められる。(以下、「引用例記載の発明」という。)
「出力端子28から出力される信号を生成するための方法であって、
入力端子10における多周波数入力信号を分割して、ライン12a上の第1の分割された信号および残りのライン12b,12c,…12N上の分割された信号を生成するステップと、
上記ライン12b,12c,…12N上の分割された信号を時間遅延素子14b,14c,…14Nで遅延させて、上記ライン12a上の第1の分割された信号の時間遅延バージョンを生成するステップと、
上記ライン12a上の第1の分割された信号と上記時間遅延バージョンをN×Nマトリクス16で結合して、出力ライン18a,18b,18c,…18N上のN個のコード化された出力を生成するステップと、
後に復号される上記出力ライン18a,18b,18c,…18N上のN個のコード化された出力を増幅するステップと、を含む方法。」

4.対比
本願発明と引用例記載の発明とを対比すると、引用例記載の発明における「出力端子28から出力される信号」、「入力端子10における多周波数入力信号」、「ライン12a上の第1の分割された信号」、「残りのライン12b,12c,…12N上の分割された信号」、「時間遅延素子14b,14c,…14N」、「N×Nマトリクス16」、「出力ライン18a,18b,18c,…18N上のN個のコード化された出力」、「復号」は、それぞれ、本願発明における「少なくとも1つの信号」、「増幅すべき信号」、「第1の信号バージョン」、「第2の信号バージョン」、「遅延回路」、「結合器」、「少なくとも1つの変換信号」、「逆変換」に相当するから、本願発明と引用例記載の発明とは、次の点で一致し、また、相違するものと認められる。

(一致点)
本願発明と引用例記載の発明とは、ともに、
「少なくとも1つの信号を生成するための方法であって、
増幅すべき信号を分割して、第1および第2の信号バージョンを生成するステップと、
該第2の信号バージョンを遅延回路内で遅延させて、該第1の信号バージョンの時間遅延バージョンを生成するステップと、
該第1の信号バージョンと該時間遅延バージョンを結合器内で結合して、少なくとも1つの変換信号を生成するステップと、
後に逆変換される該少なくとも1つの変換信号を増幅するステップと、を含む方法。」
である点。

(相違点)
「第1の信号バージョンと時間遅延バージョンを結合器内で結合して、少なくとも1つの変換信号を生成するステップ」が、本願発明においては、「第1の信号バージョンと時間遅延バージョンを結合器内で結合して、低減された最大値対平均値電力比を有する少なくとも1つの変換信号を生成するステップ」であるのに対し、引用例記載の発明においては、単に「ライン12a上の第1の分割された信号と時間遅延バージョンをN×Nマトリクス16で結合して、出力ライン18a,18b,18c,…18N上のN個のコード化された出力を生成するステップ」とされていて、「出力ライン18a,18b,18c,…18N上のN個のコード化された出力」が「低減された最大値対平均値電力比を有する」ものであるとは明示されていない点。

5.当審の判断
そこで、上記相違点について検討する。
上記「低減された最大値対平均値電力比を有する」ことに関し、本願の発明の詳細な説明において、次の記載がなされている。
「【0033】
図2は図1における信号増幅システム10の実施形態50を示し、この中でオリジナル信号S(t)は変換信号X1乃至Xnに変換される。変換信号X1乃至Xnは増幅された後に合成されて、送信のためのオリジナル信号が生成される。増幅システム50において、オリジナル信号S(t)は、変換ブロック52でその時間遅延されたバージョンを平均又は合成することにより変換信号X1乃至Xnに変換され、増幅器AMP1乃至AMPnそれぞれでの増幅のために、低減されたPARをもつ変換信号X1乃至Xnが生成される。」
上記段落【0033】の記載によれば、本願のものは、「オリジナル信号S(t)」を「変換ブロック52でその時間遅延されたバージョンを平均又は合成する」ことにより「変換信号X1乃至Xn」に変換し、もって「低減されたPARをもつ変換信号X1乃至Xn」を生成するようにするとされている。
そして、上記のように「時間遅延されたバージョンを平均又は合成する」ことにより、何故「低減されたPARをもつ」ようになるかについては、段落【0016】に、「実施形態によれば、増幅される信号は、オリジナル信号のオフセットバージョンを組み合わせることによって、変換信号に変換することができる。そのことにより、時間軸上で拡散された信号のエネルギーを有する変換信号を生成することができ、また、平均電力比(PAR)に対して低減されたピーク値を有する変換信号を生成することができる。」と記載されているように、変換信号が「時間軸上で拡散された信号のエネルギーを有する」ようなものであるからと解される。
しかるに、引用例記載の発明においても、「ライン12a上の第1の分割された信号」とその「時間遅延バージョン」が「N×Nマトリクス16」で結合されるのであるから、「出力ライン18a,18b,18c,…18N上のN個のコード化された出力」は、本願発明と同様に「時間軸上で拡散された信号のエネルギーを有する変換信号」となるものと解され、「低減されたPARをもつ変換信号」となるものと解される。
よって、引用例記載の発明においても、「時間遅延バージョン」を結合するという本願発明と同様の構成を有する以上、引用例に明示されていなくとも、「変換信号」は「低減された最大値対平均値電力比を有する」ものとなると解され、上記相違点は実質的なものではない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-09 
結審通知日 2010-03-10 
審決日 2010-03-24 
出願番号 特願2000-350489(P2000-350489)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野元 久道  
特許庁審判長 長島 孝志
特許庁審判官 真木 健彦
小曳 満昭
発明の名称 信号を生成する方法  
代理人 越智 隆夫  
代理人 岡部 正夫  
代理人 臼井 伸一  
代理人 加藤 伸晃  
代理人 朝日 伸光  

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