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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10M
管理番号 1221717
審判番号 不服2007-17272  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-21 
確定日 2010-08-11 
事件の表示 平成10年特許願第265705号「潤滑油組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月21日出願公開、特開2000- 80388〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成10年9月3日の出願であって、平成17年7月29日付けで拒絶理由が通知され、同年10月19日に意見書及び手続補正書が提出され、平成19年4月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月21日に審判請求がなされるとともに、同年7月23日付けで手続補正がなされ、同年10月3日に審判請求書の手続補正書が提出され、平成21年12月14日付けで審尋がされたところ、何ら応答がされなかったものである。

第2 平成19年7月23日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成19年7月23日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
平成19年7月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1である、
「芳香族分が1重量%以下、パラフィン分と1環ナフテン分の総量が50重量%以上、100℃における動粘度が2?50mm^(2)/s、かつNOACK蒸発量が16重量%以下である基油を主成分とし、基油に、組成物全量基準で、リン量として0.04?0.10重量%のジチオリン酸亜鉛を配合することを特徴とする潤滑油組成物。」
を、
「芳香族分が1重量%以下、パラフィン分と1環ナフテン分の総量が50重量%以上、100℃における動粘度が2?50mm^(2)/s、かつNOACK蒸発量が16重量%以下である基油を主成分とし、基油に、組成物全量基準で、リン量として0.04?0.10重量%の第2級アルキルジチオリン酸亜鉛単独を配合することを特徴とする潤滑油組成物。」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否
上記補正は、「ジチオリン酸亜鉛を配合する」を「第2級アルキルジチオリン酸亜鉛単独を配合する」とするものであって、発明を特定する事項である「ジチオリン酸亜鉛」について限定するものであり、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。また、本件補正後の明細書を「本願補正明細書」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

3 本願補正発明
本願補正発明は次のとおりである。
「芳香族分が1重量%以下、パラフィン分と1環ナフテン分の総量が50重量%以上、100℃における動粘度が2?50mm^(2)/s、かつNOACK蒸発量が16重量%以下である基油を主成分とし、基油に、組成物全量基準で、リン量として0.04?0.10重量%の第2級アルキルジチオリン酸亜鉛単独を配合することを特徴とする潤滑油組成物。」

4 引用文献および引用文献に記載された事項
本願出願前に頒布された刊行物である引用文献1?6は以下のとおりであり、以下の事項が記載されている。
引用文献1:特開平9-217079号公報
(原査定における引用文献1)
引用文献2:特開平8-209177号公報(同引用文献2)
引用文献3:特開平7-286190号公報(同引用文献4)
引用文献4:特開平9-100480号公報(拒絶理由通知中に提示)
引用文献5:特開平7-331270号公報(拒絶査定において提示)
引用文献6:特開平9-235579号公報(審尋において提示)

(1)引用文献1:特開平9-217079号公報
(1a)「100°Cにおける動粘度が3?5cStであり、粘度指数が135以上である鉱油系基油に、有機モリブデン化合物が、モリブデン量に換算して50?1000ppm(重量)配合されていることを特徴とする、内燃機関用の省燃費型潤滑油。」(特許請求の範囲の請求項1)
(1b)「本発明は、内燃機関用の省燃費型潤滑油に関し、より詳しくは、ガソリンエンジン用の潤滑油として好適であり、低粘度でありながら蒸発量が少なく、省エネルギー性、剪断安定性に優れた潤滑油に関する。」(段落【0001】)
(1c)「エンジン用の潤滑油は、本来、エンジン内を清浄に保ち、軸受、ピストン/シリンダ間、動弁系等の摺動部の摩擦ロスを低減し、摩耗を防止する等の作用によって、エンジンを円滑に動かすために使用されている。しかし、前述のような動きの中で、潤滑油に対して、更に省燃費性能を付与することが期待されてきている。」(段落【0002】)
(1d)「鉱油系基油の粘度指数が135未満であると、同等の動粘度を有する鉱油系基油に比べて蒸発損失が多くなるうえ、粘度の温度依存性が大きくなるために、150°C程度以上の高温で粘度が大きく低下し、潤滑性が悪化し、上記の焼き付き摩耗のおそれが増大する。」(段落【0009】)
(1e)「本発明の潤滑油は、CEC L-40-T-87に規定する方法での蒸発性試験(Noack)において、蒸発量が15%以下の性状を有するものが好ましく、13%以下の性状を有するものが一層好ましい。」(段落【0023】)
(1f)「本発明の潤滑油中には、必要に応じて、更に、一般の内燃機関用潤滑油に添加、配合されている各種の添加剤を、添加することができる。このような添加剤としては、酸化防止剤〔直鎖または分岐のアルキル基を有するアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、ビスフェノール、ジフェニルアミン等〕、・・・等を例示できる。」(段落【0024】)
(1g)「【表2】

」(段落【0033】)
(1h)「そして、各例の鉱油系基油に対してそれぞれ、表4、表5に示す各添加剤(重量%)を添加した。添加剤としては、モリブデンジチオホスフェイト(MoDTP)、モリブデンジチオカーバメイト(MoDTC)、アミンタイプ摩擦緩和剤、SGパッケージ及びポリメタクリレート/オレフィン共重合体混合物の粘度指数向上剤(VII)を用いた。SGパッケージは、Caスルホネート、Caフィネート、ZnDTP、コハク酸イミド誘導体及び防錆剤の混合物である。」(段落【0035】)
(1i)「【表4】

」(段落【0036】)
(1j)「本発明の内燃機関用の省燃費型潤滑油は、低コストの鉱油系基油を用いた潤滑油において、摩擦ロスの低減効果が大きく、省エネルギー性に優れ、低粘度でありながら蒸発量が少なく、高温域における潤滑油の粘度の低下が少なく、剪断安定性に優れている。従って、特に自動車のエンジン用潤滑油として、極めて有用である。」(段落【0051】)

(2)引用文献2:特開平8-209177号公報
(2a)「100℃における動粘度が2mm^(2) /s?20mm^(2) /sであり、芳香族成分含有量が3重量%以下であり、一環ナフテン成分及び二環ナフテン成分の合計含有量が45重量%以上であり、硫黄含有量が50重量ppm以下であり、窒素含有量が50ppm以下である炭化水素油を主成分とする基油に、組成物全重量基準で、ジチオカルバミン酸モリブデンをモリブデン量として0.02重量%?0.2重量%、ジチオリン酸亜鉛をリン量として0.02重量%?0.15重量%及びフェノール系酸化防止剤を0.05重量%?3重量%の範囲で含有させたことを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物。」(特許請求の範囲の請求項1)
(2b)「本発明は、内燃機関用潤滑油組成物に関するものであり、更に詳しくは、窒素酸化物ガスに対する耐酸化性に優れ、低摩擦性の長期持続性に優れた内燃機関用潤滑油組成物に関するものである。」(段落【0001】)
(2c)「特に内燃機関用潤滑油(エンジン油)は、主としてピストンリングとシリンダライナ、クランク軸や連接棒(コネクティングロッド)の軸受、カムとバルブリフタを含む動弁機構など、各種摺動部分の潤滑のほか、内燃機関内の冷却や燃焼生成物の清浄分散、さらには錆や腐食を防止するなどの作用を果たしている。」(段落【0002】)
(2d)「したがって、エンジン油には、上記の要求性能を満たし、窒素酸化物ガスを含有する空気雰囲気下においても劣化を抑制するために、例えば摩耗防止剤、金属清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤などの種々の添加剤が配合されている。」(段落【0002】)
(2e)「内燃機関内の潤滑部は、大部分が流体潤滑状態にあるが、動弁機構やピストンの上下死点などでは境界潤滑状態となりやすく、このような境界潤滑下における摩耗防止性は、一般にジチオリン酸亜鉛の添加によって付与されている。」(段落【0003】)
(2f)「本発明は、このような事情のもとで、優れた摩擦特性を有すると共に窒素酸化物ガスに対する耐酸化性に優れ、低摩擦性を長期間維持することができ、燃料消費率節減の持続性に優れた内燃機関用潤滑油組成物を提供することを目的とする。」(段落【0006】)
(2g)「芳香族成分の含有量は、3重量%以下であり、更に好ましくは、1.5重量%以下である。芳香族成分の含有量が3重量%を越えると、潤滑油組成物の高温での窒素酸化物ガスに対する耐酸化性が低下するという難点がある。」(段落【0012】)
(2h)「【表1】

」(段落【0034】)
(2i)「【表2】

」(段落【0035】)

(3)引用文献3:特開平7-286190号公報
(3a)「(A)芳香族成分が3重量%以下、一環ナフテン成分が20重量%以上、硫黄分が50重量ppm以下、窒素分が50重量ppm以下であり、かつ温度100℃における粘度が2?50mm^(2)/sである潤滑油基油に対して、組成物全重量に基づき(B)一般式【化1】・・・及び一般式【化2】・・・で表されるジアリールアミン類の中から選ばれた少なくとも1種0.05?3重量%を含有させるとともに、(C)一般式【化3】・・・で表される硫化オキシモリブデンジチオカルバメート、一般式【化4】・・・で表される硫化オキシモリブデンオルガノホスホロジチオエート、及び一般式【化5】・・・で表される硫化オキシモリブデンジチオキサントゲネートの中から選ばれた少なくとも1種をモリブデン量として50?2000重量ppm含有させたことを特徴とする潤滑油組成物。」(特許請求の範囲の請求項1)
(3b)「エンジン潤滑部は、大部分が流体潤滑状態にあるが、動弁系やピストンの上下死点などでは境界潤滑状態となりやすく、このような境界潤滑下における摩耗防止性は、一般にジチオりん酸亜鉛(ZnDTP)やジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)の添加によって付与されている。」(段落【0002】)
(3c)「本発明は、このような事情のもとで、優れた低摩擦性を有するとともに、高耐熱性、高酸化安定性及び適度の粘度特性を有し、特に内燃機関用潤滑油として好適な潤滑油組成物を提供することを目的としてなされたものである。」(段落【0003】)
(3d)「該芳香族成分の含有量が3重量%を超えると得られる潤滑油組成物の耐熱性、酸化安定性、摩擦特性が低下する。」(段落【0007】)
(3e)「【表1】

」(段落【0013】)
(3f)「【表2】

」(段落【0014】)

(4)引用文献4:特開平9-100480号公報
(4a)「炭化水素系の軽質潤滑油基油であって、○1 常圧における沸点が250?430℃の範囲内にあり、○2 全芳香族分が1.8重量%以下であり、○3 40℃における動粘度が5?10mm^(2) /sの範囲にあり、○4 粘度指数が95以上であり、○5 流動点が-10℃以下であり、かつ、○6 2,6-ジターシャリーブチル-p-クレゾール(DBPC)を0.5重量%添加した時の酸化安定性がRBOT値で340分以上であることを特徴とする軽質潤滑油基油。」(特許請求の範囲の請求項1。「○1」等は、「丸付き数字の1」等を意味する。)
(4b)「本発明の軽質潤滑油基油は、炭化水素系のものであり、一般に、n-パラフィン、分岐パラフィン、ナフテン系炭化水素等の飽和炭化水素を主成分とする炭化水素混合物であるが、芳香族炭化水素を含有しているとしても、全芳香族分が1.8重量%以下であることも重要であり、中でも、全芳香族分が1.2重量%以下であるものが好ましい。ここでいう全芳香族分の値は、ASTM-D-2549の方法によって測定されたものである(以下、同様)。このように全芳香族含量を1.8重量%以下にすることによって、熱、光、酸化等に対する安定性を十分に確保することができ、十分に安定で耐久性に優れた潤滑油を容易に実現することができる。」(段落【0011】)
(4c)「本発明の軽質潤滑油基油には、目的に応じて、各種の添加剤を混合もしくは添加して使用することができる。・・・添加剤としては、公知のものなど各種のものが使用可能であり、例えば、・・・などの酸化防止剤、・・・などの摩擦低減剤、・・・、ジチオリン酸亜鉛などの極圧剤、・・・などの錆止め剤、・・・などの金属不活性剤、・・・などの金属系清浄剤、・・・などの消泡剤、・・・などの粘度指数向上剤、流動点降下剤などが挙げられ、これらを単独又は2種以上組み合わせて添加することができる。」(段落【0016】)
(4d)「【表2】

」(段落【0051】)
(4e)「例えば自動車類、船舶あるいは建設・工作用機械等の各種の産業機械や装置類等に種々の目的で用いられる各種の潤滑油(例えば、エンジン油、ATF油、作動油等々)にその主成分として有利に使用することができる実用上著しく有用な低芳香族炭化水素系の潤滑油を提供することができる。」(段落【0053】)

(5)引用文献5:特開平7-331270号公報
(5a)「潤滑油基油に、組成物全量基準で、(A)アルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ土類金属フェネートおよびアルカリ土類金属サリシレートより選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属系清浄剤を硫酸灰分として0.1?0.7重量%、(B)下記の一般式(1)(化1)で表されるジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン原子濃度として0.01?0.10重量%、【化1】

(式中、R^(1) およびR^(2) は同一でも異なっていてもよく、炭素数3?12のアルキル基を示す)
(C)コハク酸イミド系無灰分散剤を窒素原子濃度として0.05?0.20重量%、および(D)フェノール系および/またはアミン系の無灰酸化防止剤を0.5?3.0重量%、を必須成分として含有し、かつ組成物の全塩基価が2.0?6.0mgKOH/gであることを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物。」(特許請求の範囲の請求項1)
(5b)「本発明でいう成分(B)とは、上記の一般式(1)(化2)で表されるジアルキルジチオリン酸亜鉛である。式中、R^(1) およびR^(2) は同一でも異なっていてもよく、炭素数3?12、好ましくは3?8のアルキル基を示す。アルキル基としてはプライマリータイプでもセカンダリータイプでもよい。」(段落【0024】)

(6)引用文献6:特開平9-235579号公報
(6a)「潤滑油基油に対して、(1)炭素数5?20の第二級炭化水素基を有する有機ジチオリン酸亜鉛、(2)サリチル酸のアルカリ土類金属塩、および(3)ホウ素/窒素の原子数の比が0.2?0.4のホウ素含有アルケニルコハク酸イミドを必須成分として含有させたことを特徴とする潤滑油組成物。」(特許請求の範囲の請求項1)
(6b)「本発明は、新規な潤滑油組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、優れた酸化安定性を有し、長期にわたり無交換で使用可能なロングドレン化を達成した潤滑油組成物に関するものであり、内燃機関、自動変速機、緩衝器、パワーステアリング等に好適な潤滑油組成物を提供するものである。」(段落【0001】)

5 対比・判断
(1)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、(1a)に摘記した潤滑油について記載されるところ、これは「低粘度でありながら蒸発量が少なく」(摘記(1b))、エンジン油用潤滑油の種々の問題を解決に導くものであり(摘記(1c))、「CEC L-40-T-87に規定する方法での蒸発性試験(Noack)において、蒸発量が15%以下の性状を有するものが好ましく」(摘記(1e))、「添加剤としては、酸化防止剤〔直鎖または分岐のアルキル基を有するアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)・・・等を例示できる。」(摘記(1f))ものであるところ、実施例1?5においては、基油の「蒸発量(Noack)」が14?16重量%、「パラフィン比率」が「91?96%」であって(摘記(1g))、「モリブデンジチオホスフェイト(MoDTP)、モリブデンジチオカーバメイト(MoDTC)」とともに、ZnDTPを含むSGパッケージが添加されている(摘記(1h)、(1i))ものが示されている。
そうしてみると、引用文献1には、
「100°Cにおける動粘度が3?5cSt、粘度指数が135以上、NOACK蒸発量が14?16重量%、パラフィン比率が91?96%である鉱油系基油に、有機モリブデン化合物と、ジチオリン酸亜鉛を含むSGパッケージとが配合されている、内燃機関用の省燃費型潤滑油」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(2)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
両者ともに「基油に添加剤が配合された潤滑油組成物」であるところ、基油についてみるに、動粘度は「1mm^(2)/s=1cSt」であって、引用発明における「動粘度が3?5cSt」とは「動粘度が3?5mm^(2)/s」のことであるから、100℃における動粘度が3?5mm^(2)/sの範囲で両者は重複し、パラフィン比率が91?96%であればパラフィン分と1環ナフテン分の総量が50重量%以上となるから、パラフィン比率が91?96%の範囲で両者は重複し、また、NOACK蒸発量が14?16重量%の範囲で両者は重複し、また、添加剤については、両者ともにジチオリン酸亜鉛が配合されているものである。
そして、本願補正発明も、本願補正明細書の段落【0003】に記載されるように内燃機関用潤滑油であり、引用発明も、内燃機関用潤滑油であるから、両者は、
「パラフィン比率が91?96%、100℃における動粘度が3?5mm^(2)/s、かつNOACK蒸発量が14?16重量%である基油を主成分とし、基油に、添加剤として、ジチオリン酸亜鉛が配合されるものである、内燃機関用潤滑油」
である点で一致し、
(i)基油中の芳香族成分について、本願補正発明においては、「1重量%以下」と規定されているのに対し、引用発明においては、特に規定されていない点、
(ii)基油の粘度指数について、本願補正発明においては、特に規定はされていないのに対し、引用発明においては「135以上」と規定されている点、
(iii)添加剤について、本願補正発明においては、「リン量として0.04?0.10重量%の第2級アルキルジチオリン酸亜鉛単独」が配合されているのに対し、引用発明においては、「有機モリブデン化合物と、ジチオリン酸亜鉛を含むSGパッケージ」が配合されている点、
で、相違する。

(3)判断
ア 相違点(i)について
引用文献2には、引用発明と同様の、
「100℃における動粘度が3?5mm^(2) /sであり、芳香族成分含有量が3重量%以下である炭化水素油を主成分とする基油に、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオリン酸亜鉛、フェノール系酸化防止剤を含有させた内燃機関用潤滑油組成物。」(摘記(2a))であって、内燃機関用潤滑油の種々の問題を解決に導くものについて記載されるところ(摘記(2b)?(2f))、その基油中の芳香族分について、「芳香族成分の含有量は、3重量%以下であり、更に好ましくは、1.5重量%以下である。芳香族成分の含有量が3重量%を越えると、潤滑油組成物の高温での窒素酸化物ガスに対する耐酸化性が低下するという難点がある。」(摘記(2g))と記載され、実施例においては「70N」、「150N-1」なる基油が用いられ(摘記(2i))、これらの基油は摘記(2h)によれば、芳香族分がそれぞれ「1.1wt%」、「0.3wt%」のものである。
また、引用文献3にも、「芳香族成分が3重量%以下、温度100℃における粘度が2?50mm^(2)/sである潤滑油基油に対して、有機モリブデン化合物等の添加剤を配合した、内燃機関用に適した潤滑油」が記載され(摘記(3a)、(3c))、「芳香族成分の含有量が3重量%を超えると得られる潤滑油組成物の耐熱性、酸化安定性、摩擦特性が低下する。」(摘記(3d))としたうえで、多くの実施例においては「150N-1」なる基油が用いられ(摘記(3f))、この基油は摘記(3e)によれば、「芳香族分0.5wt%」のものである。
さらに引用文献4にも、「全芳香族分が1.8重量%以下」である、エンジン油等に有利に使用することができる潤滑油基油(摘記(4a)、(4e))が記載され、「全芳香族含量を1.8重量%以下にすることによって、熱、光、酸化等に対する安定性を十分に確保することができ、十分に安定で耐久性に優れた潤滑油を容易に実現することができる」ものであって(摘記(4b))、実施例で用いられている基油の芳香族分は、「0.6重量%、0.8重量%、1.0重量%」である(摘記(4d))。
以上のことから、内燃機関用に適した潤滑油組成物において、その基油として、芳香族分が3重量%を越えると、高温での窒素酸化物ガスに対する耐酸化性が低下することや耐熱性、酸化安定性、摩擦特性が低下することが知られており、また、全芳香族含量を1.8重量%以下にすることによって、熱、光、酸化等に対する安定性を十分に確保することができ、十分に安定で耐久性に優れた潤滑油を容易に実現することができることが知られており、より具体的には、芳香族分が1.1重量%、1.0重量%、0.8重量%、0.6重量%、0.3重量%のものが用いられているのであるから、基油の酸化安定性を高め、内燃機関内の冷却や燃焼生成物の清浄分散に適したもの等とし、低摩擦性の長期持続性に優れたものとするために、基油中の芳香族成分を「1重量%以下」程度とすることは当業者が容易になし得るところといえる。
したがって、引用発明において、基油中の芳香族成分を「1重量%以下」と規定するのは当業者にとって容易である。

イ 相違点(ii)について
本願補正発明においても、本願補正明細書の段落【0008】に、「特に、水素化分解工程や異性化工程によって得られる水素化分解基油や高粘度指数基油が好適なものとして挙げることができる。」と記載され、同段落【0018】に、粘度指数向上剤が列挙されていること等からすると、本願補正発明における基油も高粘度指数を有する基油といえる。
そして、両者ともに内燃機関用に適したものであり、引用文献1に「鉱油系基油の粘度指数が135未満であると、同等の動粘度を有する鉱油系基油に比べて蒸発損失が多くなるうえ、粘度の温度依存性が大きくなるために、150°C程度以上の高温で粘度が大きく低下し、潤滑性が悪化し、上記の焼き付き摩耗のおそれが増大する。」と記載され(摘記(1d))、引用発明と本願補正発明とで蒸発損失に差異がないのであるから、粘度指数について、ほぼ同等といえ、相違点(ii)については、実質的に差異がないといえる。
また、差異があったとしても、同様に内燃機関用に適した潤滑油において、粘度指数を規定していない例も多数あることから(引用文献2?4)、引用発明において、基油の粘度指数を規定しないことは、当業者が適宜なしうる程度のものといえる。

ウ 相違点(iii)について
(ア)引用発明における「有機モリブデン化合物と、ジチオリン酸亜鉛を含むSGパッケージ」について、上記「有機モリブデン化合物」は、本願補正明細書の段落【0016】に記載されるように本願補正発明においても適宜含むものであり、また、上記「ジチオリン酸亜鉛を含むSGパッケージ」について、これは、摘記(1h)によれば、「Caスルホネート、Caフィネート、ZnDTP、コハク酸イミド誘導体及び防錆剤の混合物」であるところ、本願補正明細書の段落【0014】(Ca、Mg、Ba等のスルホネート系、フェネート系)、【0013】(ポリアルケニルコハク酸イミド系)、【0012】(防錆剤)にそれぞれ添加剤として記載されていて、「Caスルホネート、Caフィネート、コハク酸イミド誘導体及び防錆剤」は、本願補正発明においても適宜含むものであるから、両者は、「有機モリブデン化合物と、ジチオリン酸亜鉛を除いたSGパッケージ」を含む点においては、実質的に差異がない。
(イ)そうすると、相違点(iii)を判断するということは、
(iii-1)添加剤について、本願補正発明においては、「リン量として0.04?0.10重量%の第2級アルキルジチオリン酸亜鉛単独」が配合されているのに対し、引用発明においては、「ジチオリン酸亜鉛」が配合されている点、
を判断する、ということとなる。
(ウ)そこで検討するに、引用発明も、ジチオリン酸亜鉛を含むものであるところ、同様に内燃機関用に適した潤滑油である引用文献2に記載の潤滑油は、「ジチオリン酸亜鉛をリン量として0.02重量%?0.15重量%」含んでおり(摘記(2a))、また、同様に内燃機関用に適した潤滑油について記載される引用文献3にも引用文献4にも、ジチオりん酸亜鉛(ZnDTP)が添加されていること(摘記(3b))や添加されること(摘記(4c))が、記載されている。
さらに、内燃機関用潤滑油において、ジチオリン酸亜鉛が1級タイプでも2級タイプでも用いられることや、第二級炭化水素基を有する有機ジチオリン酸亜鉛、すなわち第2級アルキルジチオリン酸亜鉛が優れることは、引用文献5、6に記載されるように当業者に知られていることである(摘記(5a)、(5b)、(6a)、(6b))。
(エ)そうしてみると、引用発明において、「ジチオリン酸亜鉛」を、「リン量として0.02重量%?0.15重量%」と重複する範囲であるところの、「リン量として0.04?0.10重量%の第2級アルキルジチオリン酸亜鉛単独」とするのは、当業者にとって容易である。

エ 本願補正発明の効果について
本願補正発明の奏する効果は、本願補正明細書の段落【0032】に記載されるとおり、「耐NOx酸化安定性や蒸発特性に優れ、かつ吸気系のデポジット生成を抑制する優れた性能を有する。本発明の潤滑油組成物は、内燃機関、特にNOx吸蔵還元型触媒やEGR装置を装備するガソリンエンジン及びディーゼルエンジン、自動変速機、手動変速機、終減速機、パワーステアリング、緩衝器、歯車などに用いられる潤滑油として好適である。」というものであるといえる。
ところで、内燃機関用に適する効果、蒸発特性に優れる効果は、引用発明においても奏する効果である(摘記(1a)、(1j)等)。また、耐NOx酸化安定性の効果は、これが芳香族分を減少させることにより得られるものであることは引用文献2?4に記載されるように(摘記(2g)、(3d)、(4b)等)、当業者に公知であるから、当業者の予測しうる範囲のものである。
さらに、吸気系のデポジット生成を抑制することは、従来より、エンジン内を清浄に保つこと(摘記(1c)等)、燃焼生成物の清浄分散(摘記(2c)等)等は、内燃機関用に適する潤滑油に当然に要求される性能であり、このようなデポジットが酸化により生じることも周知である。
そうしてみると、酸化安定性の高い基油とすることで、デポジット生成を抑制できることは当業者に周知といえ、この効果も当業者の予測しうるところといえる。
したがって、本願補正発明の奏する効果は、格別に優れたものとはいえない。

オ まとめ
したがって、本願補正発明は、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明及び引用文献2?6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)請求人の主張について
請求人は、本願補正発明について、平成19年10月3日に提出された審判請求書の補正書の「3.(4)(4-1)(I)(i)引用文献1との対比」の項において、次のア?イの主張をし、「3.(4)(4-1)(I)(iii)特許性(新規性進歩性)について」の項で、追加実施例A及び追加比較例A?Cを示して、次のウの主張をしている。

ア 本願発明1(「本願補正発明」に同じ。)と引用文献1(特開平9-217079号公報。上記「4」における「引用文献1」に同じ。)に記載の発明とを対比すると、引用文献1に記載のものは、基油について、・・・(イ)「芳香族分」については、何等記載がなく、不明である点で、両者は大きく相違し、また、基油に配合する添加剤については、引用文献1に、・・・(ロ)ジチオリン酸亜鉛の配合量と、そのタイプについては、何ら記載がなく、不明である点で、両者は明確に相違する。
イ さらに、性能や作用効果の面では、・・・両者は、蒸発特性では一致するものの、その他の性能で相違している。すなわち、本願発明の「耐NOx酸化安定性」と「吸気系のデポジット生成を抑制する性能」は、引用文献1の作用効果に対して、異質の作用効果である。
ウ 【表1】

上記表1の結果から、明らかなように、・・・。追加比較例A?Cの如く、ジチオリン酸亜鉛のアルキル基が第1級アルキル単独、或いは第1級/第2級混合アルキルの場合には、第2級アルキル単独の場合に比べて、十分な耐摩耗性が得られていないことがわかる。

これを検討する。
「ア」に挙げられた点について、これらの点が当業者が容易になし得たものであることは、上記「(3)ア、ウ」に示したとおりである。
「イ」に挙げられた効果について、これらが格別に優れたものといえないことは、上記「(3)エ」に示したとおりである。
また、「ウ」については、本願補正明細書の段落【0009】には、「上記の潤滑油基油に、耐摩耗剤又は酸化防止剤として、ジチオリン酸亜鉛が配合されるのが望ましい。」と記載され、同【0011】には、「特に好ましくは、第2級(セカンダリー)アルキル基である。」なる記載があるものの、これから読み取れるのは、同量を同条件で用いたなら、第2級アルキルジチオリン酸亜鉛の方が、第1級アルキルジチオリン酸亜鉛よりも耐摩耗剤又は酸化防止剤として効果に優れる、というところまでであって、追加比較例B、Cに示されるように、第2級アルキルジチオリン酸亜鉛と第1級アルキルジチオリン酸亜鉛とを併用すると、第1級アルキルジチオリン酸亜鉛のみを用いた場合よりも耐摩耗性が悪くなることまでは、読み取れない。
すなわち、追加比較例B、Cに示したデータは、本願補正明細書の記載から導けるものとはいえない。
したがって、請求人が上記「ウ」で主張する、「追加比較例A?Cの如く、ジチオリン酸亜鉛のアルキル基が第1級アルキル単独、或いは第1級/第2級混合アルキルの場合には、第2級アルキル単独の場合に比べて、十分な耐摩耗性が得られていないことがわかる。」については、本願補正明細書の記載に基づかない主張であり、採用することはできない。

以上のとおり、請求人の主張はいずれも当を得ておらず、当審の判断に影響しない。

(5)結論
以上のとおり、本願補正発明は、その出願前頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明及び引用文献2?6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものではない。
したがって、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、その余のことを検討するまでもなく、この補正を含む本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成19年7月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成17年10月19日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであり、請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、下記のとおりである。

「芳香族分が1重量%以下、パラフィン分と1環ナフテン分の総量が50重量%以上、100℃における動粘度が2?50mm^(2)/s、かつNOACK蒸発量が16重量%以下である基油を主成分とし、基油に、組成物全量基準で、リン量として0.04?0.10重量%のジチオリン酸亜鉛を配合することを特徴とする潤滑油組成物。」

第4 原査定の理由
拒絶査定の理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

第5 刊行物及び刊行物に記載された事項
原査定で引用された引用文献のうち、刊行物1?4を次に挙げる。
刊行物1:特開平9-217079号公報
(原査定における引用文献1。
「第2[理由]4」に示した引用文献1に同じ。)
刊行物2:特開平8-209177号公報
(原査定における引用文献2。
「第2[理由]4」に示した引用文献2に同じ。)
刊行物3:特開平7-286190号公報
(原査定における引用文献4。
「第2[理由]4」に示した引用文献3に同じ。)
刊行物4:特開平9-100480号公報
(原査定の拒絶理由通知中に提示したもの。
「第2[理由]4」に示した引用文献4に同じ。)

刊行物1?4に記載された事項は、「第2[理由]4(1)?(4)」に記載したとおりである。

第6 対比・判断
1 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「第2[理由]5(1)」に記載した「引用発明」が記載されている。

2 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、「第2[理由]5(2)」に示したのと同様に、両者は、
「パラフィン比率が91?96%、100℃における動粘度が3?5mm^(2)/s、かつNOACK蒸発量が14?16重量%である基油を主成分とし、基油に、添加剤として、ジチオリン酸亜鉛が配合されるものである、内燃機関用潤滑油」
である点で一致し、
(i’)基油中の芳香族成分について、本願発明においては、「1重量%以下」と規定されているのに対し、引用発明においては、特に規定されていない点、
(ii’)基油の粘度指数について、本願発明においては、特に規定はされていないのに対し、引用発明においては「135以上」と規定されている点、
(iii’)添加剤について、本願発明においては、「リン量として0.04?0.10重量%のジチオリン酸亜鉛」が配合されているのに対し、引用発明においては、「有機モリブデン化合物と、ジチオリン酸亜鉛を含むSGパッケージ」が配合されている点、
で、相違する。

3 判断
ア 相違点(i’)、(ii’)は、「第2[理由]5(2)」に示した相違点(i)、(ii)と同じであるから、「第2[理由]5(3)ア、イ」で判断したとおりである。

イ 相違点(iii’)について
(ア)引用発明における「有機モリブデン化合物と、ジチオリン酸亜鉛を含むSGパッケージ」とは、刊行物1の摘記(1h)によれば、「第2[理由]5(3)ウ(ア)」に示したように、本願発明においても適宜含むものであるから、これらを含む点において、両者は実質的に差異がない。
(イ)そうすると、相違点(iii’)を判断するということは、
(iii’-1)「ジチオリン酸亜鉛」の配合量が、本願発明においては、「リン量として0.04?0.10重量%」であるのに対し、引用発明においては、特に規定はされていない点、
を判断する、ということになる。
(ウ)そこで検討するに、同様に内燃機関用に適した潤滑油である刊行物2に記載の潤滑油は、「ジチオリン酸亜鉛をリン量として0.02重量%?0.15重量%」含むものであるから(摘記(2a))、この範囲内である、「リン量として0.04?0.10重量%」とすることは、当業者が適宜なし得るところといえる。
したがって、引用発明において、「ジチオリン酸亜鉛」の配合量を「リン量として0.04?0.10重量%」とするのは、当業者にとって容易である。

ウ 本願発明の効果について
本願発明の効果は、本願補正発明の効果と同じであるから、「第2[理由]5(3)エ」で判断したとおりである。

4 まとめ
したがって、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物1に記載された発明及び刊行物2?4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできないから、本願は、その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-28 
結審通知日 2010-06-08 
審決日 2010-06-21 
出願番号 特願平10-265705
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C10M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 庸子小柳 正之  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 細井 龍史
橋本 栄和
発明の名称 潤滑油組成物  
代理人 河備 健二  

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