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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01M |
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管理番号 | 1221733 |
審判番号 | 不服2008-4460 |
総通号数 | 130 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-10-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-02-25 |
確定日 | 2010-08-11 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第142490号「内燃機関のブロックの為の抽気回路及び内燃機関のブロックの抽気回路の為の浄化装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 4月21日出願公開、特開平10-103039〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本件出願は、平成9年5月30日(パリ条約による優先権主張1996年5月31日、イタリア国)の出願であって、平成19年1月25日付けで拒絶理由が通知され、平成19年7月30日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成19年11月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成20年2月25日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされ、平成20年3月24日付けで明細書について手続補正がなされ、平成20年5月15日付けで審判請求書の請求の理由について手続補正がなされ、その後、当審において平成21年7月1日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成22年1月7日付けで回答書が提出されたものであって、その請求項1ないし15に係る発明は、上記平成20年3月24日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「内燃機関(1)のブロック(4)の内部のブローバイガスをブロック(4)から外部に排出する抽気回路(14)であり、 内燃機関(1)のブロック(4)の内部に連結される入口(16)と出口(18)との間に介在されて所定の方向に流れるブローバイガスが横断するフィルタ部材(20)を備えており、フィルタ部材(20)が油を凝集させる凝集フィルタであるとともに所定以下の大きさの粒子が通過出来る保持力を有しており、 フィルタ部材(20)の保持力により通過出来る粒子の所定以下の大きさが5μmと70μmとの間であり、好ましくは8μmと30μmとの間である、 ことを特徴とする内燃機関のブロックの為の抽気回路。」 なお、上記平成20年3月24日付けの手続補正書による手続補正において、上記請求項1に関する補正は、当該補正前の請求項1を削除し、当該補正前の請求項2を請求項1に繰り上げたものであり、請求項の削除を目的とするものである。 2.引用文献に記載された発明 (1)引用文献の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開平8-35413号公報(平成8年2月6日公開。以下、「引用文献」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。 a)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、オイルミスト分離回収装置に係り、特に自動車等の車両用エンジンのクランク室内に溜ったブローバイガスに含まれるオイルミストを分離回収するのに適した小型軽量のオイルミスト分離回収装置に関する。」(段落【0001】) b)「【0002】 【従来の技術】従来、この種のオイルミスト分離回収装置としては、例えば特開昭59ー206610号公報に示すように、自動車用エンジンのブローバイガス還流管の一部に介装されたオイルミスト分離回収装置(オイルトラッパ)が知られていた。このオイルミスト分離回収装置1は、図9に示すように、筒状のケーシング2の内部下側に複数の仕切り板3を設けてジグザグ経路4を形成すると共に、ケーシングの内部上側に網目状のフィルタ(オイルストレーナ)5を設けていた。そして、ブローバイガスを仕切り板3に当てることによりオイルミストの一部を仕切り板3に凝縮させ、さらに仕切り板3では取りきれない小粒径のオイルミストを目の細かいフィルタ5により取り除くようにしていた。」(段落【0002】) c)「【0008】 【発明の作用・効果】上記のように構成した請求項1に係る発明においては、オイルミストを含むガスが外側容器の側壁のガス流入口を通って内側容器の流入口から内部空間の下側部分に流れ込み、流速が遅くなることによって、ここでオイルミストの一部が落下または壁面に付着することにより除去される。そして、ガスがフィルタ部材を通過するときに、粒径が数μm?十数μm以上のオイルミストはフィルタ部材に付着して除去され、フィルタ部材に付着したオイル分は徐々に粒径が大きくなる。粒径の大きくなったオイル分は、一部が内部空間の下側部分に落下して回収され、残りは下から流れ込むガスによって上方に運ばれる。このとき、ガスは上側板に設けた複数の貫通小孔を通ることにより、流通速度が高められ、そのまま外側容器の上壁の内面に衝突する。その結果、ガスに含まれている粒径の小さい1?2μm程度のオイル分まで上壁に付着し、徐々に粒径が大きくなることによって下部オイル溜め空間内に落下し、オイル排出口から回収される。すなわち、フィルタ部材ではとれない粒径の細かいオイル分を高速で壁面に当てることにより、効率よく除去することができる。」(段落【0008】) d)「【0012】 【実施例】以下、本発明の一実施例を図面を用いて説明すると、図1は、同実施例に係る自動車エンジン用のオイルミスト分離回収装置を斜視図により概略的に示したものである。このオイルミスト分離回収装置は、円筒形の外側容器10と蓋20を設けており、外側容器10内には、図2の分解斜視図に示すように、略円筒形の内側容器30が収容されている。外側容器10は、上端外周部分が外側に突出したリング状凸部11になっている。外側容器10の上端面は、図2(c)に示すように、リング状の平坦部12aとその内側傾斜部12bによって構成されている。そして、内周面10aには、図3に示すように、中心に対して90゜の間隔で上端から下端にかけて形成された3本のオイル通過溝13a?13cが設けられている。そして、傾斜部12bには、図3に示すように、オイル通過溝13aから約45゜の位置から約150゜の位置にかけて偏心した円弧状の切り欠き部14が設けられている。そして、内周面10aのオイル通過溝13cから反時計方向に約45゜の位置にて、幅の広い溝15が、上端から縦方向の中間位置にまで形成されている。そして、外側容器10は、底壁10cの中心位置にオイル排出口16aを設けており、オイル排出口16aには、下方に向けたオイル排出管16が連結されている。外側容器10の側壁10bのオイル通過溝13aと13cの間の下端近傍位置には、ガス流入口17aが設けられており、ガス流入口17aにはガス流入管17が連結されている。 【0013】蓋体20は、図2(a)に示すように、上面中央にガス流出管21を設けている。蓋体20の裏面側には、図4に示すように、ガス流出口21aを囲んで同心円上に3本のリング状凸部22a?22cを設けている。外側凸部22aは、他のリング状凸部より幅が広く外側容器10の内壁近傍に位置する。内側凸部22cは、ガス流出口21aの近傍に設けられ、中間凸部22bは、両凸部22a,22cの中間にある。」(段落【0012】及び【0013】) e)「【0014】内側容器30は、図5(a)に示すように、略円筒形状の筒部31を設けており、筒部31の周壁31aの上端にはリング状のフランジ部32aを設けている。フランジ部32aの外側容器10のオイル通過溝13a?13cとの対応位置には、3個の切り欠き部32a1?32a3が設けられている。そして、筒部31の上端の上記外側容器10の円弧状切り欠き部14との対応位置には、扇形帯状の上端位置決め部材33が設けられている。上端位置決め部33は、図6(a)に示すように、中心角90゜で、幅がフランジ部32aよりやや広く、その外側が外側容器10の切り欠き部14の外周に一致するようになっている。また、上端位置決め部33は、図6(b)に示すように、外周側から内側にかけて溝33aを設けており、溝33aの一端は封止されている。筒部31の下端の上記切り欠き部32a1?32a3との対応位置には、円弧状の切り欠き31a1?31a3(31a1は図示しない)が設けられている。そして、筒部31の外側容器10のガス流入口17aとの対応位置には、流入口34が設けられており、外側容器10の切り欠き部15との対応位置には流出口35が設けられている。 【0015】上側板状部材36は、図5(b)に示すように、円盤状で中央の円形の突出部36aと周囲のつば部36bとを備え、突出部36aは、上面の中央がわずかに高い円錐状になっており、その周縁近傍には2つの同心円上に配列された直径1mmφの貫通小孔36a1が多数設けられている。フィルタ部材37は、円盤形状で、金属細線の密集体であり、例えば金網を重ねたもの、メッシュ板を重ねたもの、孔開き板等であるが、特に金属多孔体として周知のセルメット(住友電気工業株式会社製)を用いるのが好ましい。セルメットの代表的な試料のセル数と比表面積のデータを下記表1に示す。このフィルタ部材37は、粒径が1?2μm程度の細かいオイルミストを付着させて粒径を大きくさせるために用いられるものである。なお、フィルタ部材の材質としては、金属に限らず、耐油製のプラスチックやセラミックス等を用いることもできる。」(段落【0014】及び【0015】) (2)ここで、上記(1)a)ないしe)及び図面の記載より、次のことが分かる。 イ)上記(1)a)、b)、d)及びe)並びに図1、図7及び図9の記載より、オイルミスト分離回収装置は、自動車エンジンのクランク室内のブローバイガスをクランク室から外部に排出する回路に設けられていることが分かる。 ロ)上記(1)a)、b)、d)及びe)並びに図1、図2、図5、図7及び9の記載より、オイルミスト分離回収装置は、ガス流入口17aとガス流出口21aとの間にフィルタ部材37を介在させた構成を備えるものであり、該フィルタ部材37に所定の方向に流れるブローバイガスが横断するものであることが分かる。また、上記イ)で示されるとおり、オイルミスト分離回収装置は自動車エンジンのクランク室内のブローバイガスをクランク室から外部に排出する回路に設けられるものであるから、オイルミスト分離回収装置のガス流入口17aは、自動車エンジンのクランク室内に連結されるものであることは明らかである。 ハ)上記(1)c)及びe)並びに図5及び図7の記載より、フィルタ部材37は、付着したオイル分の粒径を大きくするフィルタであることが分かる。 ニ)上記(1)c)及びe)並びに図5及び図7の記載より、フィルタ部材37は、付着して除去される数μm?十数μm以上の大きさより小さい大きさであるオイルの粒子が通過出来る、すなわち所定以下の大きさのオイルの粒子が通過出来るものであることが分かる。 (3)引用文献に記載された発明 したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、引用文献には次の発明(以下、「引用文献に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。 <引用文献に記載された発明> 「自動車エンジンのクランク室内のブローバイガスをクランク室から外部に排出する回路であり、 自動車エンジンのクランク室内に連結されるガス流入口17aとガス流出口21aとの間に介在されて所定の方向に流れるブローバイガスが横断するフィルタ部材37を備えており、フィルタ部材37が付着したオイル分の粒径を大きくするフィルタであるとともに所定以下の大きさの粒子が通過出来るものであり、 フィルタ部材37を通過出来る粒子の所定以下の大きさが数μm?十数μm以上の大きさより小さい大きさである、 自動車エンジンのクランク室の為の回路。」 3.対比・判断 本願発明と引用文献に記載された発明とを対比すると、その機能・構造からみて、引用文献に記載された発明における「自動車エンジン」は本願発明における「内燃機関(1)」に相当し、以下同様に、「クランク室内」は「ブロック(4)の内部」に、「クランク室」は「ブロック(4)」に、「回路」は「抽気回路(14)」に、「ガス流入口17a」は「入口(16)」に、「ガス流出口21a」は「出口(18)」に、「フィルタ部材37」は「フィルタ部材(20)」に、「付着したオイル分の粒径を大きくするフィルタ」は「油を凝集させる凝集フィルタ」に、それぞれ相当する。 また、引用文献に記載された発明における「所定以下の大きさの粒子が通過出来るものであり、フィルタ部材37を通過出来る粒子の所定以下の大きさが数μm?十数μm以上の大きさより小さい大きさである」という事項は、「所定以下の大きさの粒子が通過出来るものであり、フィルタ部材を通過出来る粒子の所定以下の大きさが数μmから十数μmのオーダーである」という事項である限りにおいて本願発明における「所定以下の大きさの粒子が通過出来る保持力を有しており、フィルタ部材(20)の保持力により通過出来る粒子の所定以下の大きさが5μmと70μmとの間であり、好ましくは8μmと30μmとの間である」という事項に一致する。 してみると、本願発明と引用文献に記載された発明とは、 「内燃機関のブロックの内部のブローバイガスをブロックから外部に排出する抽気回路であり、 内燃機関のブロックの内部に連結される入口と出口との間に介在されて所定の方向に流れるブローバイガスが横断するフィルタ部材を備えており、フィルタ部材が油を凝集させる凝集フィルタであるとともに所定以下の大きさの粒子が通過出来るものであり、 フィルタ部材を通過出来る粒子の所定以下の大きさが数μmから十数μmのオーダーである、 内燃機関のブロックの為の抽気回路。」の点で一致し、次の2つの点で相違する。 <相違点1> フィルタ部材が、本願発明では、所定以下の大きさの粒子が通過出来る「保持力」を有しているのに対して、引用文献に記載された発明では、所定以下の大きさの粒子が通過出来る「保持力」を有しているか明らかではない点(以下、「相違点1」という。)。 <相違点2> 本願発明では、フィルタ部材を通過出来る粒子の所定以下の大きさが「5μmと70μmとの間であり、好ましくは8μmと30μmとの間である」のに対して、引用文献に記載された発明では、フィルタ部材を通過出来る粒子の所定以下の大きさが「数μm?十数μm以上の大きさより小さい大きさである」数μmから十数μmのオーダーであるものの、その上限値及び下限値が本願発明のように規定されていない点(以下、「相違点2」という。)。 上記相違点1及び2について検討する。 <相違点1について> 本願発明における「フィルタ部材」の「保持力」について検討する。 平成19年7月30日付け意見書において『「絶対保持力」とは、いわゆる笊の網目により粒子を保持するようなものであることと理解することが出来ます。即ち、所定の大きさの網目以下の大きさの粒子は上記網目を通過でき、所定の大きさの網目以上の大きさの粒子は上記網目を通過できません。』という記載からすると、単に、網目の大きさより大きい粒子が網目を通過できずに網目に保持されることを「保持力」と表現しているものと解される。とすると、この「保持力」とは、所定の大きさ以上の物質をろ過する物理フィルタが当然に備えている能力を表現したものにすぎない。 してみると、引用文献に記載された発明におけるフィルタ部材は、所定の粒径(数μm?十数μm)以上のオイルミストが通過できないようにしている物理フィルタであって(上記2.(1)c)参照。)「保持力」を有しているといえるから、本願発明と同様に、所定以下の大きさの粒子が通過出来る「保持力」を有しているといえる。 よって、本願発明と引用文献に記載された発明との間の相違点1についての相違は実質的な相違ではない。 <相違点2について> 本願発明においてフィルタ部材を通過出来る粒子の所定以下の大きさを「5μmと70μmとの間であり、好ましくは8μmと30μmとの間である」と数値限定した点は、引用文献に記載された発明おける「数μm?十数μm以上の大きさより小さい大きさ」としたものと、数値的に極めて近似し、作用効果において格別な差がなく、また、明細書の記載から、かかる数値範囲をとることに臨界的な意義を見出すこともできない。 よって、引用文献に記載された発明に基づき、フィルタ部材を通過出来る粒子の所定以下の大きさを本願発明のように限定して、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が適宜なし得たことである。 そして、本願発明を全体としてみても、引用文献に記載された発明から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。 4.むすび 以上より、本願発明は、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、結論のとおり審決する。 5.平成22年1月7日付けで提出された回答書において主張する点について 当該回答書において特許請求の範囲の補正案が提示されている。そして、その補正案は、特許請求の範囲の請求項1に係る発明に関しては、 (ア)発明特定事項である「ブローバイガス」を「浮遊している油及び粒子を含んでいるブローバイガス」と限定し、 (イ)発明特定事項である「フィルタ部材」の構成を「中央ろ過層に上記保持力を有しているとともに、中央ろ過層の上流側と下流側とに凝集作用を有する排油層を伴っている」構成に限定しようとするものである。 しかしながら、上記(ア)に記載されている「浮遊している油及び粒子を含んでいるブローバイガス」は、内燃機関の技術分野においてごく一般的に知られていることにすぎない。また、上記(イ)に記載されている「中央ろ過層に上記保持力を有しているとともに、中央ろ過層の上流側と下流側とに凝集作用を有する排油層を伴っている」構成は、本件出願の明細書の段落【0019】の記載からみて、中央ろ過層の繊維の直径より、中央ろ過層の上流側と下流側とに配置されたろ過層の繊維の直径を大きくした構成を示すものと認められるが、そのような構成を備えた、ガス中からオイルミストを分離するフィルタは、実願昭52-27876号(実開昭53-122778号)のマイクロフィルム及び特開平5-245321号公報に記載されているように従来周知である。 したがって、当該回答書における補正案の特許請求の範囲の請求項1に係る発明も、進歩性があるものとは認められない。 |
審理終結日 | 2010-03-16 |
結審通知日 | 2010-03-23 |
審決日 | 2010-03-26 |
出願番号 | 特願平9-142490 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F01M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 橋本 しのぶ |
特許庁審判長 |
早野 公惠 |
特許庁審判官 |
八板 直人 柳田 利夫 |
発明の名称 | 内燃機関のブロックの為の抽気回路及び内燃機関のブロックの抽気回路の為の浄化装置 |
代理人 | 村松 貞男 |
代理人 | 橋本 良郎 |
代理人 | 白根 俊郎 |
代理人 | 白根 俊郎 |
代理人 | 鈴江 武彦 |
代理人 | 村松 貞男 |
代理人 | 橋本 良郎 |
代理人 | 鈴江 武彦 |