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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1221739
審判番号 不服2008-15231  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-16 
確定日 2010-08-11 
事件の表示 特願2001-500850「使い捨てサブマイクロリットル量センサ及び製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年12月 7日国際公開、WO00/73778、平成15年 1月14日国内公表、特表2003-501626〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年5月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理平成11年6月2日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成19年5月22日付け拒絶理由通知に対し、同年10月22日付けで手続補正され、同年11月9日付け最後の拒絶理由通知に対し、平成20年2月13日付けで手続補正されたが、同年3月6日付けで同年2月13日付けの手続補正が却下され、同日付けで拒絶査定され、これに対し、同年6月16日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同年7月16日付けで手続補正されたものである。

第2 平成20年7月16日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年7月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正後の本願発明
本件補正により特許請求の範囲請求項1は、次のとおり補正された。

「【請求項1】
第一の片端、第二の片端及び積層片の最上面にあり前記第一の片端から離れた位置にある通気口を有する積層片であり、
3つの電極経路が形成された導電層が上に置かれている基部層と、
前記基部層上に置かれた経路形成層と、
被覆と、
を備えた積層片と、
前記第一の片端と前記通気口の間に設けられ、1マイクロリットル未満の体積の流体サンプルを収容するような大きさの閉鎖経路と、
前記閉鎖経路内の前記基部層上に置かれた、少なくとも1つの酵素、1つの安定剤、1つの結合剤及び1つのレドックス媒介物を含有する試薬マトリクスと、
前記第二の片端にあり、前記閉鎖経路から隔離された導電接触部と、
を備え、
前記1つの安定剤は、ポリアルキレングリコールであり、
前記1つの結合剤は、セルロース材料である
流体サンプル検査用の使い捨て電極片。」(下線は補正された箇所である。)

すると、本件補正は、
本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項に関し、
「試薬マトリクス」の構成として、「セルロース材料である」、「1つの結合剤」を更に含有するように限定したものを含むものである。

したがって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下、「平成18年法改正前」とする。)の特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)否かを、請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)について以下に検討する。

2.引用例
(1)原査定の最後の拒絶理由通知で引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平5-340915号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1-ア)「【0018】(実施例1)バイオセンサの一例として、グルコースセンサについて説明する。
【0019】図1は本発明のバイオセンサの一実施例として作製したグルコースセンサのベース平面図、図2は同グルコースセンサのうち反応層を除いた分解斜視図である。
【0020】ポリエチレンテレフタレートからなる絶縁性の基板1に、スクリーン印刷により銀ペ-ストを印刷し、リ-ド2、3、4、5を形成した。つぎに樹脂バインダーを含む導電性カーボンペーストを印刷して主電極系の測定極6と副電極系(測定極8、対極9)を形成した。測定極6はリード2と、測定極8はリード4と、対極9はリード5とそれぞれ接触している。
【0021】つぎに絶縁性ペーストを印刷して絶縁層10を形成した。絶縁層10は、測定極6の外周部を覆っており、これによって測定極6の露出部分の面積を一定に保っている。さらに、絶縁層6は、リード2、3、4、5を部分的に覆っている。副電極系(測定極8、対極9)は絶縁層10によって完全には覆われていない。
【0022】つぎに、樹脂バインダーを含む導電性カーボンペーストをリード3と接触するように印刷して主電極系の対極7を形成した。以上により図1に示すベース11を作製した。
【0023】次に、上記主電極系上に酵素としてグルコースオキシダーゼ(EC1.1.3.4;以下GODと略す)および電子受容体としてフェリシアン化カリウムを親水性高分子としてカルボキシメチルセルロ-ス(以下CMCと略す)の0.5wt%水溶液に溶解させた混合水溶液を滴下し、50℃の温風乾燥器中で10分間乾燥させて反応層を形成した。
【0024】このように親水性高分子、酵素および電子受容体の混合溶液を一度に滴下、乾燥させることによって製造工程を簡略化させることができる。
【0025】上記のようにして反応層を形成した後、カバー22およびスペーサー21を図2中、一点鎖線で示すような位置関係をもって接着した。カバーおよびスペーサーに高分子などの透明な材料を用いると、反応層の状態や試料液の導入状況を外部から極めて容易に確認することが可能である。
【0026】また、カバーを装着するとカバーとスペーサーによって出来る空間部の毛細管現象によって、試料液はセンサ先端の試料供給孔23に接触させるだけの簡易操作で容易に反応層部分および副電極系部分へ導入される。
【0027】なお、試料液の供給をより一層円滑にするためには、さらにレシチンの有機溶媒溶液を試料供給部(センサ先端部)から反応層にわたる部位に展開し、乾燥させることでレシチン層を形成するとよい。
【0028】前記レシチン層を設けた場合には、絶縁性の基板1とカバー22とスペーサー21によって生じる空間部が毛細管現象を発現し得ない程度の大きさとなる場合においても、試料液の供給が可能となる。
【0029】上記のように作製したグルコースセンサに試料液としてグルコースとアスコルビン酸の混合水溶液3μlを試料供給孔23より供給した。試料液供給前は、反応層を含めてバイオセンサ全体が乾燥状態である。そこで、試料液が空気孔24部分まで達し、主電極系上の反応層が溶解すると、主電極系の測定極と副電極系の測定極間のインピーダンスが変化する。」

(1-イ)「【0031】反応層中のGODおよびフェリシアン化カリウムは特に主電極系上に固定化されたものではないが、反応層が試料液に溶解すると親水性高分子を含むために試料液の粘度が高まり物質の拡散は抑制される。したがって、短時間では反応層構成物質は副電極系上へ移動しない。しかしながら、より信頼性の高い測定を実施するためには酵素およびフェリシアン化カリウムを固定化することも有効である。」

(1-ウ)「【0069】上記実施例では親水性高分子としてカルボキシメチルセルロースおよびヒドロキシエチルセルロースを用いたが、これらに限定されることはなく、ポリビニルピロリドン,ポリビニルアルコール、ゼラチンおよびその誘導体、アクリル酸およびその塩、メタアクリル酸およびその塩、スターチおよびその誘導体、無水マレイン酸およびその塩、そして、セルロース誘導体、具体的には、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロースを用いても同様の効果が得られた。」

(1-エ)図2には、バイオセンサの一実施例の反応層を除いたグルコースセンサの分解斜視図が描かれている。

上記摘記事項(1-ア)、及び、(1-エ)の記載事項からみて、
(a)反応層は、試料供給孔23内の基板1上に置かれていること、
(b)空気孔24は、センサ先端部から離れた位置にあること、
(c)試料供給孔23とセンサ先端部と空気孔24との間に設けられていること、
(d)センサ先端部とは逆の端部にあり、試料供給孔から隔離された状態で他と接触可能なリード2、4、5が形成されていること、
(e)カバー22、スペーサー21、基板1は積層された構造であること、
が各々読み取れる

これらの記載事項によると、引用例1には、以下の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

「主電極系の測定極6と接触するリード2、副電極系の測定極8と接触するリード4、及び、副電極系の対極9と接触するリード5がスクリーン印刷により形成された絶縁性の基板1と、
前記基板1上に置かれたスペーサー21と、
センサ先端部から離れた位置にある空気孔24を形成したカバー22
とが積層された構造を有し、
センサ先端部と空気孔24との間に設けられ、3μlの試料液を収容するような大きさの試料供給孔23と、
前記試料供給孔23内の前記基板1上の置かれた、酵素としてグルコースオキシダーゼ、反応層が試料液に溶解すると親水性高分子を含むために試料液の粘度が高まり物質の拡散は抑制される機能を有する親水性高分子としてカルボキシメチルセルロース、及び、電子受容体としてフェリシアン化カリウムを有する反応層と、
センサ先端部とは逆の端部にあり、試料供給孔から隔離された状態で他と接触可能なリード2、4、5
を備えたグルコースセンサ。」

(2)原査定の最後の拒絶理由通知で引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平10-113200号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(2-ア)「【特許請求の範囲】【請求項1】 (1)水溶性高分子化合物により形成され、その中に酵素を含有するマイクロパーティクルと、(2)導電性微粒子層とを含み、前記マイクロパーティクルが前記導電性微粒子層のマトリクス内の空隙中に分散して配置されていることを特徴とする、酵素電極。
【請求項2】 水溶性高分子化合物が、デキストラン、デキストラン誘導体、及びポリエチレングリコールからなる群から選んだ化合物である請求項1に記載の酵素電極。
【請求項3】 酵素として酸化還元酵素を含む、請求項1又は2に記載の酵素電極。
【請求項4】 酸化還元酵素が、ペルオキシダーゼ、又はペルオキシダーゼと他の酸化還元酵素との組み合わせである請求項3に記載の酵素電極。
【請求項5】 マイクロパーティクルが電子メディエーターを更に含有する請求項1?4のいずれか一項に記載の酵素電極。
【請求項6】 導電性微粒子層が電子メディエーターを更に含有する請求項1?4のいずれか一項に記載の酵素電極」

(2-イ)「【0009】前記の水溶性高分子化合物として用いることのできるポリエチレングリコールの分子量は、1,000?500,000であることが好ましい。分子量が500,000より大きいと、分散が困難になることがあり、1,000未満では、酵素の保持能が低下することがあるからである。本発明の酵素電極において水溶性高分子化合物として用いることのできるタンパク質としては、ゼラチン、又はアルブミンを挙げることができる。
【0010】本発明の酵素電極に用いることのできる酵素は、好ましくは酸化還元酵素、例えば、デヒドロゲナーゼ、オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、ヒロドキシラーゼ、又はオキシゲナーゼなどである。本発明の酵素電極においては、前記酸化還元酵素を単独で、あるいは複数の酸化還元酵素を組み合わせて用いることができる。複数の酸化還元酵素を組み合わせて用いる場合には、或る酸化還元酵素と、その酵素に共役する他の酸化還元酵素とを組み合わせて用いることによって、共役系を構築することもできる。このような共役系としては、例えば、グルコースオキシダーゼとペルオキシダーゼとの組合せ、コレステロールオキシダーゼとペルオキシダーゼなどを挙げることができる。本発明の酵素電極においては、酵素として、ペルオキシダーゼ、又はペルオキシダーゼと他の酸化還元酵素との組合せを用いることが好ましい。本発明の酵素電極に用いることのできる酵素として、補酵素を必要とする酵素、例えば、アルコールデヒドロゲナーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、ラクテートデヒドロゲナーゼなどのデヒドロゲナーゼを用いる場合には、補酵素を含む状態で前記酵素を用いる。」

(2-ウ)「【0021】また、本発明の酵素電極においては、必要に応じて、ビニル系やアクリル系などの結着剤、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラール、アクリル酸エステル、又はメタアクリル酸エステルなどを疎水性混合液の段階で適量添加することによって、導電性微粒子を相互に一層強固に結着させ、完成後の酵素電極の物理的強度を確保することができる。」

3.対比・判断
本願補正発明と引用例1発明とを対比する。

(1)引用例1発明の「主電極系の測定極6と接触するリード2、副電極系の測定極8と接触するリード4、及び、副電極系の対極9と接触するリード5がスクリーン印刷により形成された絶縁性の基板1」、
「前記基板1上に置かれたスペーサー21」、及び、
「カバー22」は、機能・構造からみて、
本願補正発明の「3つの電極経路が形成された導電層が上に置かれている基部層」、
「前記基部層上に置かれた経路形成層」、及び、
「被覆」の各々に相当する。

(2)引用例1発明の基板1とスペーサー21とカバー21とが「積層された構造」は、その構成からみて、本願補正発明の「積層片」に相当する。

(3)引用例1発明の「センサ先端部」、「センサ先端部とは逆の端部」は、位置関係からみて、本願補正発明の「第一の片端」、「第二の片端」に各々相当する。

(4)引用例1発明の「センサ先端部から離れた位置にある空気孔」は、積層された構造の最上面にある被覆に形成されていることからみて、本願補正発明の「積層片の最上面にあり前記第一の片端から離れた位置にある通気口」に相当する。

(5)引用例1発明の「センサ先端部と空気孔24との間に設けられ、3μlの試料液を収容するような大きさの試料供給孔23」と、本願補正発明の「前記第一の片端と前記通気口の間に設けられ、1マイクロリットル未満の体積の流体サンプルを収容するような大きさの閉鎖経路」とは、「前記第一の片端と前記通気口の間に設けられ、流体サンプルを収容するような大きさの閉鎖経路」という点で共通する。

(6)引用例1発明の「酵素としてグルコースオキシダーゼ」、「電子受容体としてフェリシアン化カリウム」は、機能からみて、本願補正発明の「少なくとも1つの酵素」、「1つのレドックス媒介物」に各々相当する。

(7)引用例1発明の「反応層が試料液に溶解すると親水性高分子を含むために試料液の粘度が高まり物質の拡散は抑制される機能を有する親水性高分子としてカルボキシメチルセルロース」は、その機能、及び、セルロース系の物質は結合作用を一般的に有しているという技術常識からみて、本願補正発明の「1つの結合剤は、セルロース材料である」に相当する。

(8)引用例1発明の「前記試料供給孔23内の前記基板1上の置かれた、酵素としてグルコースオキシダーゼ、反応層が試料液に溶解すると親水性高分子を含むために試料液の粘度が高まり物質の拡散は抑制される機能を有する親水性高分子としてカルボキシメチルセルロース、及び、電子受容体としてフェリシアン化カリウムを有する反応層」と、
本願補正発明の「前記閉鎖経路内の前記基部層上に置かれた、少なくとも1つの酵素、1つの安定剤、1つの結合剤及び1つのレドックス媒介物を含有する試薬マトリクス」とは、
「前記閉鎖経路内の前記基部層上に置かれた、少なくとも1つの酵素、1つの結合剤及び1つのレドックス媒介物を含有する試薬マトリクス」という点で共通する。

(9)引用例1発明の「センサ先端部とは逆の端部にあり、試料供給孔から隔離された状態で他と接触可能なリード2、4、5」は、配置や機能からみて、本願補正発明の「前記第二の片端にあり、前記閉鎖経路から隔離された導電接触部」に相当する。

(10)引用例1発明の「グルコースセンサ」は、試料液を検査するための電極構造を有しており、かつ、グルコースセンサの技術常識からみて、使い捨ての用途を有しているから、本願補正発明の「流体サンプル検査用の使い捨て電極片」に相当する。

以上、(1)?(10)の考察から、両者は、

(一致点)
「第一の片端、第二の片端及び積層片の最上面にあり前記第一の片端から離れた位置にある通気口を有する積層片であり、
3つの電極経路が形成された導電層が上に置かれている基部層と、
前記基部層上に置かれた経路形成層と、
被覆と、
を備えた積層片と、
前記第一の片端と前記通気口の間に設けられ、流体サンプルを収容するような大きさの閉鎖経路と、
前記閉鎖経路内の前記基部層上に置かれた、少なくとも1つの酵素、1つの結合剤及び1つのレドックス媒介物を含有する試薬マトリクスと、
前記第二の片端にあり、前記閉鎖経路から隔離された導電接触部と、
を備え、
前記1つの結合剤は、セルロース材料である
流体サンプル検査用の使い捨て電極片。」

である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
閉鎖経路が、本願補正発明では、「1マイクロリットル未満の体積の流体サンプルを収容するような大きさ」のものであるのに対し、引用例1発明では、「3μlの試料液を収容するような大きさ」である点。

(相違点2)
試薬マトリクスが、本願補正発明では「1つの安定剤」を含有し、「1つの安定剤は、ポリアルキレングリコール」であるのに対し、引用例1発明では、そのような物質を含んでいるか否か不明である点。

4.当審の判断
上記(相違点1)について検討する。
流体サンプル用使い捨て電極片構造のバイオセンサの技術分野において、微量のサンプルで測定を行うことが望ましいという課題は、本願の優先権主張の日前に周知のことであり、その課題を達成するために1μl程度のサンプルを収容できる大きさの経路を形成することも、本願の優先権主張の日前に周知の技術である。

例えば、特開平9-229894号公報には、「【0026】-取り扱い性の向上
Nankai et al.はヨーロッパ出願0 471 986において、消耗性センサーを含有する電流測定血液グルコース試験系の二次加工につき記載しており、該系は特に優れた取り扱い性が顕著である。電流測定分析器中に差し込まれる消耗性センサーは、センサーの先端で分析されるべき血液の滴に触れるように作られている。微小毛細管(microcapillary)(毛細管流系(capillary flow system))を介し、全血はセンサーの作用室(作用電極及び参照電極、ならびに検出試薬)中に運ばれる。その方法では、検出試薬(GO/K3Fe(CN)6)は分析されるべき液体(血液)に溶解され、前記の検出反応が進行する。両電極が血液で濡れると-問題のない操作性のための予備条件-自動的に低い抵抗値が分析器を開始させる。従って機器は制御ボタンなしで操作することができる。不必要な痛みなしで血液を抽出するという観点で、血液の必要量は可能な限り低く保たれ、従って微小毛細管の体積は約5μlに制限されている。導電路は、微小毛細管により限定される反応室から、延びているセンサー部分を介し、差し込み接点に達し、かくして分析器中の重要な機能性成分のいずれの汚染も排除される。」、及び、「【0060】最小の試料体積を用いて機能することができるセンサー系は、特にいわゆる「最小侵略的(minimal invasive)」設計(PCT WO 95/10223)と関連して興味深く、2μlか又はそれ以下の値が目的とされている。」と記載され、

特表平9-512335号公報には、「本発明の新規センサーは、必要なサンプル量は従来技術の約25μlと比較して少量(例えば1μl)であるという利点を有するので、小さい(例えば1mm角の)標的域が好ましい。」(第10頁第1?3行)と記載され、

特開平11ー51895号公報には、「【0026】グルコース濃度の測定は、このようにして作製されたグルコースバイオセンサに所定濃度のグルコース水溶液約0.1?10μlを接触させ、約1?120秒間程度反応させた後、そこに約0.05?1.5V、好ましくは約0.4?1.1Vの電圧を印加し、例えば印加10秒後の電流値を測定することによって行われる。測定には、ポテンショガルバノスタットおよびファンクションジェネレータが用いられる。」、及び、「【0033】上記グルコースバイオセンサに1μlのpH5.0のグルコース水溶液試料(濃度250mg/dl)を吸引させ、80秒間静置した後、作用極-対極間に0.9Vの電圧を印加し、印加10秒後の電流値(単位:μA)を測定した。測定は9回行ない、平均値およびCV値(平均値に対する標準偏差の割合)を算出した。測定には、ポテンショガルバノスタット(北斗電工製HA-501)およびファンクションジェネレータ(同社製HB-104)が用いられ、この装置に上記グルコースバイオセンサが取り付けられ、測定が行われた。なお、センサは1試料測定毎に使い捨てとした。・・・」と記載されている。

よって、引用例1発明において、より少量のサンプル流体を収容する大きさで閉鎖経路を形成する周知の技術に基づき、収容できる量を少なく設計し、本願補正発明のように構成することは、当業者であれば容易になし得たことである。

上記(相違点2)について検討する。
引用例2には、上記摘記事項(2-ア)乃至(2-ウ)の記載から、酵素電極という引用例1発明と同一技術分野において、酵素を「ポリエチレングリコール」とともに用いる技術が記載されている。ここで、上記摘記事項(2-イ)には、ポリエチレングリコールの酵素の保持能に係る記載はあるものの、「保持能」に係る機能の定義がない。
しかしながら、ポリエチレングリコール等が安定剤としての機能を有することは、本願の優先権主張の日前に周知の事項である。
例えば、特開昭63-39589号公報には、「本発明方法を実施するに当って、公知の酵素安定剤、例えばソルビトール、グリセリン、ポリエチレングリコール等の多価アルコール、ゼラチン、牛血清アルブミン等の蛋白質、乳糖、澱粉、デキストリン等の糖類を併用してもよい。」(第5頁左上欄第17行?右上欄第1行)と記載され、
特開平2-249486号公報には、「又該酵素を菌体から抽出する場合や更に精製する場合は糖、アルコール、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリオール系の安定剤その池該酵素の安定剤を、適宜添加する方法を用いることが有利である。」(第4頁左上欄第9?13行)と記載され、
国際公開99/24539号パンフレットには、「The enzymes can also be stabilized through the inclusion of propylene glycol or low molecular weigh polyethylene glycols(PEG), including dimers and trimers. These can be either mixed with the enzyme prior to addition to the compositions used herein, or they can be added directly to the compositions used herein either vefore or after the enzyme is added.」(第13頁第27?31行)、訳文「【0062】酵素は、プロピレングリコールあるいは二量体または三量体を含めた低分子量ポリエチレングリコール(PEG)の含入によっても安定化され得る。これらは、本明細書中で用いられる組成物への添加前に酵素と混合され得るか、あるいはそれらは酵素が付加される前または後に、本明細書中で用いられる組成物に直接添加され得る。」(訳文は、対応する国内出願である特表2001-522931号公報の記載による。)と記載されている。

また、上記周知の事項を示す各文献には、上記2.の摘記事項(2-イ)に記載されているように、引用例2にポリエチレングリコールの代わりに用いることができる物質として挙げられている「アルブミン」、「ゼラチン」も安定剤としての機能を有することが記載されている。
ゆえに、これらの周知の事項を参酌すると、引用例2に記載されたポリエチレングリコールにも安定剤としての機能を内包しているといえ、引用例2に記載された「保持能」についても、安定的な保持が可能であると解するのが自然といえる。

よって、引用例1発明の酵素を含有する反応層に対し、引用例2に記載された酵素とともに用いるポリエチレングリコールを適用し、本願補正発明のようにすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

したがって、本願補正発明は、引用例1発明、引用例2に記載された発明、及び、上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により独立して特許を受けることができない。

そして、本願補正発明の奏する効果についても、引用例1、2及び上記周知技術に基づいて当業者が予測し得る範囲内のものである。

また、請求人は、請求書(平成20年8月29日付けの手続補正書)において、「引用文献2においては、ポリエチレングリコールが水溶性高分子化合物の例として挙げられております。しかしながら、段落[0009]の「分子量が…1,000未満では、酵素の保持能が低下することがある」との記載から明らかなように、引用文献2では、ポリエチレングリコールが、酵素を保持するための結合剤として用いられております。また、ポリエチレングリコールが結合剤として用いられていることは、試薬に結合剤が含まれていない場合には、導電性微粒子層の表面に被検試料が接触したときに、酵素が即座に導電性微粒子層のマトリクス間空隙中に放出されるはずであるところ、引用文献2の段落[0022]には、「水溶性高分子化合物(ポリエチレングリコール)により形成されているマイクロパーティクル13が徐々に溶解し、その中に含まれる酵素が導電性微粒子層12のマトリクス間空隙中に放出される」のように結合剤の作用に関する記載がされており、この点からも明らかであります。」と主張している。
しかしながら、引用例2には、ポリエチレングリコールに関して、「保持能」と記載されているものの、「結合剤」と記載されているわけではなく、その作用の記載からみて単に結合剤が有する作用ともいえない。
また、本願の出願当初の明細書及び図面には、「安定剤」の具体的な機能が記載されておらず、安定剤の有する「安定」の機能または作用が具体的にどのような範囲のものかが不明であることから、本願補正発明の安定剤としてのポリエチレングリコールと、引用例2のポリエチレングリコールとの間で機能または作用において相違するという主張は本願明細書に基づかないものである。
ゆえに、上記主張は採用できない。

また、請求人は、当審における審尋に対する平成22年1月27日付け回答書において、、請求項1等において、安定剤及び結合剤を、「前記1つの安定剤は、前記酵素と前記レドックス媒介物と、を長期保存するために安定化するポリアルキレングリコールであり、前記1つの結合剤は、前記試薬マトリクス内の前記安定剤、前記酵素、及び、前記レドックス媒介物を、結合及び保持するセルロース材料である」とした補正案を示している。

しかしながら、出願当初の明細書には、安定剤及び結合剤について「【0029】・・・安定剤は、水に十分に溶けかつ媒介物と酵素の両方を安定化できなければならない。好ましい安定剤は、ポリエチレングリコール(Cat.No.P4338、ミズーリ州セントルイスのシグマケミカルズ(Sigma Chemicals))である。結合剤もまた、電極領域W、R、W0における試薬マトリクス中の他の全ての化学製品を基部層20の導電面/層21に結合できなければならない。好ましい結合剤は、Methocel 60 HG(Cat.No.64-655、ウィスコンシン州ミルウォーキーのフルカケミカル(Fluka Chemical))である。・・・」と記載されているが、安定剤が前記酵素と前記レドックス媒介物とを「長期保存するために」安定化することと、結合剤が、安定剤、前記酵素、及び、前記レドックス媒介物を、「保持する」ことが記載されていないため、新規事項を追加したものといえる。
ゆえに、上記補正案は採用できない。

5.本件補正についての結び
以上のとおり、本件補正は、平成18年法改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成20年7月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1乃至39に係る発明は、平成19年10月22日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至39に記載された事項により特定されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
第一の片端、第二の片端及び積層片の最上面にあり前記第一の片端から離れた位置にある通気口を有する積層片であり、
3つの電極経路が形成された導電層が上に置かれている基部層と、
前記基部層上に置かれた経路形成層と、
被覆と、
を備えた積層片と、
前記第一の片端と前記通気口の間に設けられ、1マイクロリットル未満の体積の流体サンプルを収容するような大きさの閉鎖経路と、
前記閉鎖経路内の前記基部層上に置かれた、少なくとも1つの酵素、1つの安定剤及び1つのレドックス媒介物を含有する試薬マトリクスと、
前記第二の片端にあり、前記閉鎖経路から隔離された導電接触部と、
を備え、
前記1つの安定剤は、ポリアルキレングリコールである
流体サンプル検査用の使い捨て電極片。」

2.引用例記載の発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1及び2は、前記「第2[理由]2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2[理由]」で検討した本願補正発明から、「セルロース材料である」、「1つの結合剤」との限定を除いたものである。

そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、更に他の限定的な発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2[理由]3.」に記載したとおり,引用例1発明、引用例2に記載された発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである以上、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-03 
結審通知日 2010-03-16 
審決日 2010-03-29 
出願番号 特願2001-500850(P2001-500850)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 郡山 順  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 後藤 時男
居島 一仁
発明の名称 使い捨てサブマイクロリットル量センサ及び製造方法  
代理人 名古屋国際特許業務法人  

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