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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F17C |
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管理番号 | 1221747 |
審判番号 | 不服2008-23547 |
総通号数 | 130 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-10-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-09-12 |
確定日 | 2010-08-11 |
事件の表示 | 特願2002- 18730「合成樹脂製高圧ガス容器の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月 8日出願公開、特開2003-222296〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は,平成14年1月28日の出願であって,平成20年8月4日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年9月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同年10月14日付けで明細書を対象とする手続補正がなされたものである。 第2.原査定 原査定の拒絶理由は,以下のとおりのものと認める。 「この出願の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 1;特開平08-216277号公報 2;特開平09-099475号公報 」 上記刊行物のうち,特開平08-216277号公報を,以下,「刊行物1」といい,特開平09-099475号公報を,以下,「刊行物2」という。 第3.平成20年10月14日付けの手続補正についての補正却下の決定 〔補正の却下の決定の結論〕 平成20年10月14日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。 〔理由〕 1.本件補正の概要 本件補正は,平成20年3月10日付けの手続補正書により補正された明細書をさらに補正するもので,特許請求の範囲については,補正前に 「【請求項1】天然ガス,酸素,水素等の高圧ガスを充填する合成樹脂製高圧ガス容器の製造方法であって,その容器壁を多層構造とし,比較的高強度の合成樹脂を用いて内壁層及び外壁層を形成し,前記内壁層と外壁層との間に,ガスバリア性に優れたエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)を用いてガスバリア層を形成し,前記外壁層の内側に,不良品又は成形屑を粉砕して再利用した比較的高強度の合成樹脂を用いて回収層を形成し,前記外壁層の外側に,繊維強化プラスチック(FRP)を用いて補強層を形成することを特徴とする合成樹脂製高圧ガス容器の製造方法。 【請求項2】前記内壁層,外壁層,ガスバリア層及び回収層は,多層ブロー成形機を使用して多層パリソンを形成することによって形成することを特徴とする請求項1に記載の合成樹脂製高圧ガス容器の製造方法。 【請求項3】前記補強層は,前記外壁層の外周面に,合成樹脂を含浸させた強化繊維をフィラメントワインダーによって巻き付け,炉内で合成樹脂を加熱,固化させることによって形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の合成樹脂製高圧ガス容器の製造方法。」 とあるのを,以下のとおりに補正するものである。 「【請求項1】天然ガス,酸素,水素等の高圧ガスを充填するための高耐圧性を有する合成樹脂製高圧ガス容器の製造方法であって,その容器壁を多層構造とし,比較的高強度の合成樹脂を用いて内壁層及び外壁層を形成し,前記内壁層と外壁層との間に,ガスバリア性に優れたエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)を用いてガスバリア層を形成し,前記外壁層の内側に,不良品又は成形屑を粉砕して再利用した比較的高強度の合成樹脂を用いて回収層を形成し,前記外壁層の外側に,繊維強化プラスチック(FRP)を用いて補強層を形成することを特徴とする合成樹脂製高圧ガス容器の製造方法。 【請求項2】前記内壁層,外壁層,ガスバリア層及び回収層は,多層ブロー成形機を使用して多層パリソンを形成することによって形成することを特徴とする請求項1に記載の合成樹脂製高圧ガス容器の製造方法。 【請求項3】前記補強層は,前記外壁層の外周面に,合成樹脂を含浸させた強化繊維をフィラメントワインダーによって巻き付け,炉内で合成樹脂を加熱,固化させることによって形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の合成樹脂製高圧ガス容器の製造方法。」 請求項1の補正は,合成樹脂製高圧ガス容器に「高耐圧性を有する」との限定を付したものであり,請求項2及び請求項3は,記載自体に変更はないが,これらは請求項1を引用するものであるから,実質的に上記と同じ内容の補正がなされたといえる。そして,本件補正は,産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではない。 したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。 2.刊行物記載事項 (1)本願の出願前に頒布された刊行物1には,図面とともに,次の事項が記載されている。 (1-a)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は,各種のガスボンベ,特に自動車等に搭載するのに好適なガスボンベ,およびその製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術】近年,米国その他の諸外国で,天然ガスを燃料とする自動車が低公害車として注目されている。そのような自動車には,一般にCNGタンク(Compressed Natural Gas Tank)と呼ばれるガスボンベが搭載される。」 (1-b)「【0014】図1ないし図3は,本発明の一実施態様に係るガスボンベを示している。図1において,ガスボンベ1は,ガスバリア性を有する内殻2と,この内殻2を覆うように設けた耐圧性のFRP製外殻3とを有する。」 (1-c)「【0016】この内殻2は,たとえばポリエチレン樹脂,ポリプロピレン樹脂,ポリアミド樹脂,ABS樹脂,ポリブチレンテレフタレート樹脂,ポリアセタール樹脂,ポリカーボネート樹脂等の樹脂で作られている。耐衝撃性に優れるという意味では,ABS樹脂が好ましい。そのような樹脂製の内殻2は,たとえば,周知のブロー成形法によって製造でき,ブロー成形の際に口金4と一体的に結合できる。複合ブロー成形法を用い,ガスシール性に優れる,たとえばポリアミド樹脂の層を,剛性に優れる,たとえば高密度ポリエチレン樹脂の層で挟んだ多層構造とすることもできる。」 (1-d)「【0019】一方,外殻3は,耐圧性能をもたせると同時に,ガスボンベ1全体の軽量化をはかるという観点から,FRPで構成されている。」 (1-e)「【0036】なお,本発明に係るガスボンベに充填されるガスの種類としては,特に限定されず,前述の如き天然ガスの他,窒素や酸素,ヘリウムガス等が挙げられる。」 上記記載事項(1-a)?(1-e)及び図面の記載によれば,刊行物1には,次の発明(以下,「刊行物1発明」という)が記載されているといえる。 「天然ガス,窒素,酸素,ヘリウム等のガスが充填されるガスボンベであって,ガスバリア性を有する内殻2と,内殻2を覆うように設けた耐圧性のFRP製外殻3からなり,内殻2は,ガスシール性に優れたポリアミド樹脂等の層を剛性に優れた高密度ポリエチレン樹脂等の層で挟んだ多層構造としたガスボンベ。」 (2)本願の出願前に頒布された刊行物2には,図面とともに,次の事項が記載されている。 (2-a)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,多層パリソンの押出成形方法及び装置並びに多層パリソンを用いた容器に関し,特に,アルコールが混合されたガソホールに対して高いバリア性を有する容器の成形を可能とするための新規な改良に関する。」 (2-b)「【0014】次に動作について説明する。まず,各押出機7,8,9,30の駆動装置(周知の油圧シリンダ又は回転装置)50,51,52,53を介して各押出機7,8,9,30により間欠又は連続的に押し出された内側,外側主原料1a,5a,第1,第2接着剤原料2a,4a及びバリア性原料3aが内側,外側主原料用流路5,5A,各環状ノズル2,3,4,4A内に供給され,外側と内側が内側,外側主原料1a,5a,中心層が芯用原料であるバリア性原料3a,このバリア性原料3aと主原料1a,5a間に一対の第1,第2接着剤原料2a,4a及び外側主原料5aと第2接着剤原料4a間に再生材60からなる4種6層の多層パリソン70が押出ノズル23から得られる。・・・図6で示す良好な多層パリソン70が得られた。この多層パリソン70を図示しない中空成形機にて中空成形することにより,中心層としてバリア性原料を有する4種6層のガソリンタンク等のメタノール,エタノール等に対してバリア性のある容器を成形することができ,従来不可能であった高バリア性原料(エチレン・ビニール・アルコール共重合樹脂すなわちEVOH)を含む容器が得られる。また,前述の再生材押出機30から押出される層状の再生材60は中空成形における廃材のリサイクルとして用いられかつ外側主原料5aの増量材として外側主原料の内側に位置するもので,」(段落【0014】) 上記記載事項(2-a)?(2-b)及び図面の記載によれば,刊行物2には,次の発明(以下,「刊行物2発明」という)が記載されているといえる。 「アルコールが混合されたガソホールに対して高いバリア性を有する容器の成形に用いる多層パリソンであって,内側主原料1a,第1接着剤原料2a,バリア性原料3a,第2接着剤原料4a,再生材60及び外側主原料5aが,内側から外側に向けて,この順に積層され,バリア性原料3aにはエチレン・ビニール・アルコール共重合樹脂が用いられ,再生材60は,中空成形における廃材のリサイクルとして用いられ,かつ,外側主原料5aの増量材として設けられる,多層パリソン。」 3.対比・判断 本願補正発明と刊行物1発明とを対比する。 刊行物1発明のガスボンベは,耐圧性の外殻3を備えるから,その中に充填される天然ガス,窒素,酸素,ヘリウム等のガスの圧力は高いことが明らかであり,また,このガスボンベは,ポリアミド樹脂等の層を高密度ポリエチレン樹脂等の層で挟んだ多層構造の内殻2とFRP製の外殻3からなり,したがって合成樹脂製であるから,刊行物1発明は,本願補正発明における「天然ガス,酸素,水素等の高圧ガスを充填するための高耐圧性を有する合成樹脂製高圧ガス容器」に相当する。 また,刊行物1発明のガスボンベは,ガスシール性に優れたポリアミド樹脂等の層を剛性に優れた高密度ポリエチレン樹脂等の層で挟んだ多層構造の内殻2と,これを覆うFRP製外殻3とを備えるから,刊行物1発明は,本願補正発明における「比較的高強度の合成樹脂を用いて内壁層及び外壁層を形成し,前記内壁層と外壁層との間に」「ガスバリア層を形成し」との要件及び「前記外壁層の外側に,繊維強化プラスチック(FRP)を用いて補強層を形成する」との要件を実質的に備える(“実質的に”とした意味は後述する。)。 したがって,本願補正発明と刊行物1発明は,本願補正発明の表記にしたがえば, 「天然ガス,酸素,水素等の高圧ガスを充填するための高耐圧性を有する合成樹脂製高圧ガス容器の製造方法であって,その容器壁を多層構造とし,比較的高強度の合成樹脂を用いて内壁層及び外壁層を形成し,前記内壁層と外壁層との間に,ガスバリア層を形成し,前記外壁層の外側に,繊維強化プラスチック(FRP)を用いて補強層を形成する合成樹脂製高圧ガス容器の製造方法。」の点で実質的に一致し,次の点で相違する。ここで,“実質的に”としたのは,刊行物1発明がガスボンベに係るものであるのに対して本願補正発明がガス容器の製造方法に係るものであって,両者はカテゴリーが相違するが,この相違は,単に表現形式が異なるだけの形式的なものに過ぎないというべきであるからである。 [相違点1] 本願補正発明では,ガスバリア性に優れたエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)を用いてガスバリア層を形成するのに対し,刊行物1発明では,ガスシール性に優れたポリアミド樹脂を用いてガスバリア性を担う層が構成されている点。 [相違点2] 本願補正発明では,外壁層の内側に,不良品又は成形屑を粉砕して再利用した比較的高強度の合成樹脂を用いて回収層を形成するのに対し,刊行物1発明では,そのような回収層は形成されていない点。 相違点1について検討する。刊行物2発明の多層パリソンは,アルコールが混合されたガソホールに対して高いバリア性を有する容器を成形することができるように,中間層にエチレン・ビニール・アルコール共重合樹脂が用いられるものである。エチレン・ビニール・アルコール共重合体が,ガスバリア性に優れており,高圧ガス(圧縮ガス)の容器においてもガスバリア性を発揮する層として用いられることは,例えば,特開2000-220794号公報や特開2001-239605号公報に示されるように,従来からよく知られていることにかんがみれば,刊行物1発明において,ガスバリア層をエチレン・ビニール・アルコール共重合体から構成すること,すなわち相違点1は,当業者が容易に想到し得たことである。 相違点2について検討する。刊行物2発明の多層パリソンは,再生材60が,中空成形における廃材のリサイクルとして用いられ,かつ,外側主原料5aの増量材として外側主原料5aの内側に設けられるものである。刊行物1発明において,ポリアミド樹脂等の層とその外側に位置する高密度ポリエチレン樹脂等の層との間に,中空成形における廃材のリサイクルとして用いられる再生材を,該高密度ポリエチレン樹脂等の層の増量材として設けること,すなわち相違点2は,刊行物2発明を参酌することにより,当業者が容易に想到し得たことである。 したがって,本願補正発明は,刊行物1発明,刊行物2発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。 4.むすび 以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第4.本願発明 本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という)は,平成20年3月10日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(「第3」の「1.本件補正の概要」参照) 第5.刊行物記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は,前記「第3」の「2.刊行物記載事項」に記載したとおりである。 第5.対比・判断 本願発明は,本願補正発明から,前記「第3」の「1.本件補正の概要」に記載した限定を外したものである。 してみると,本願発明の発明特定事項をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が,前記「第3」の「3.対比・判断」に記載したとおり,刊行物1発明,刊行物2発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由で当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6.むすび 以上のとおり,本願発明は,刊行物1発明,刊行物2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 したがって,原査定は妥当であり,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-04-28 |
結審通知日 | 2010-05-25 |
審決日 | 2010-06-07 |
出願番号 | 特願2002-18730(P2002-18730) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F17C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 高橋 裕一、柳本 幸雄 |
特許庁審判長 |
千馬 隆之 |
特許庁審判官 |
豊島 ひろみ 栗林 敏彦 |
発明の名称 | 合成樹脂製高圧ガス容器の製造方法 |
代理人 | 橋本 清 |