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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41F
管理番号 1221781
審判番号 不服2005-11056  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-06-14 
確定日 2010-08-13 
事件の表示 特願2001-554869「凹版印刷機」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 8月 2日国際公開、WO01/54904、平成15年 7月 8日国内公表、特表2003-520707〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2000年12月16日(「パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年1月25日、独国、2000年5月25日、独国」)を国際出願日とする出願であって、拒絶理由通知に応答して平成16年11月22日付けで手続補正がされたが、平成17年3月11日付けで拒絶査定がされ、これを不服として平成17年6月14日付けで審判請求がされるとともに、同日付けで手続補正がされ、当審において、平成17年6月14日付け手続補正が平成20年10月20日付けで却下されるとともに、同日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成21年3月24日付け手続補正がなされた。これに対し、当審において、同年6月23日付けで審尋がなされたところ、同年12月15日付けで請求人は回答書を提出した。

第2 本願発明
1 本願の請求項1ないし14に係る発明は、平成21年3月24日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項によってそれぞれ特定される次のとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、請求項1として記載されたとおりのものである。

「【請求項1】 凹版印刷機において、
版胴が設けられており、該版胴に少なくとも1つの凹版が設けられており、該凹版が、凹版インキを収容するのに適した微細な溝によって形成される凹版印刷パターンと、スクリーンインキを収容するのに適した比較的大きな凹部によって形成されるスクリーン印刷パターンとを備えており、比較的大きな凹部が、凹版インキを収容する微細な溝よりも大きくなっており、
前記凹版の凹版印刷パターンにインキを供給するための手段が設けられており、該インキ供給手段が、前記凹版の微細な溝に凹版インキを供給するようになっており、
圧胴が設けられており、該圧胴が、版胴と圧胴との間を通過する被印刷材料に印刷を行うために版胴と協働するようになっており、
スクリーンインキを、前記凹版のスクリーン印刷パターンに供給するための少なくとも1つのスクリーン印刷胴が設けられており、該スクリーン印刷胴が、前記凹版の比較的大きな凹部にスクリーンインキを伝達するようになっていることを特徴とする、凹版印刷機。
【請求項2】 前記版胴が、彫刻凹版を備えている、請求項1記載の凹版印刷機。
【請求項3】 前記版胴に、集合胴が配設されており、該集合胴が、前記凹版の微細な溝に前記凹版インキを供給するようになっている、請求項1記載の凹版印刷機。
【請求項4】 前記集合胴に、複数のステンシル胴が配設されている、請求項3記載の凹版印刷機。
【請求項5】 各ステンシル胴に、インキ装置が配設されている、請求項4記載の凹版印刷機。
【請求項6】 前記版胴に、拭取装置が配設されている、請求項1記載の凹版印刷機。
【請求項7】 前記スクリーン印刷胴が、生産方向でみて、前記拭取装置の上流側で前記版胴に配置されている、請求項6記載の凹版印刷機。
【請求項8】 前記スクリーン印刷胴が、生産方向でみて、前記拭取装置の下流側で前記版胴に配置されている、請求項6記載の凹版印刷機。
【請求項9】 前記スクリーン印刷胴が、支持エレメントを備えており、該支持エレメントが、前記スクリーン印刷胴の、周に関して制限された区分の領域において、胴軸方向で延びている、請求項1記載の凹版印刷機。
【請求項10】 前記スクリーン印刷胴が、スクリーンを備えており、前記支持エレメントが、前記スクリーンの半径方向外側に配置されている、請求項9記載の凹版印刷機。
【請求項11】 前記スクリーン印刷胴が、スクリーンを備えており、前記支持エレメントが、前記スクリーンの半径方向内側に配置されている、請求項9記載の凹版印刷機。
【請求項12】 前記支持エレメントが、乗り上げエッジと乗り下げエッジとを備えており、これらのエッジが、前記スクリーン印刷胴の周面の母線に対して角度付けして延びている、請求項9記載の凹版印刷機。
【請求項13】 前記乗り上げエッジおよび乗り下げエッジが、長く引っ張った螺旋形状を有している、請求項12記載の凹版印刷機。
【請求項14】 前記支持エレメントが、インキにとって非透過性である、請求項9記載の凹版印刷機。」

2 パリ条約による優先権の主張について
本願は、パリ条約による優先権の主張をするものであるが、そのうちの2000年1月25日の出願(末尾添付書類参照。)に基づく優先権主張のものは、以下(1)及び(2)に示す理由により認められない。
よって、本願のパリ条約による優先権の主張は、2000年5月25日をその基準日(以下「優先日」という。)とするものと認める。

(1)上記1に示した本願の請求項1ないし14に係る発明は、「凹版が、凹版インキを収容するのに適した微細な溝によって形成される凹版印刷パターンと、スクリーンインキを収容するのに適した比較的大きな凹部によって形成されるスクリーン印刷パターンとを備えており、」を、その発明を特定するために必要な事項とするものである。
しかしながら、上記2000年1月25日の出願に添付された明細書及び図面のいずれにも、凹版印刷機に使用される「凹版」自体の構造については記載も示唆もされていないことから、本願の請求項1ないし14に係る発明を特定するために必要な事項である、上記「凹版が、凹版インキを収容するのに適した微細な溝によって形成される凹版印刷パターンと、スクリーンインキを収容するのに適した比較的大きな凹部によって形成されるスクリーン印刷パターンとを備えており、」は、上記2000年1月25日の出願に添付された明細書及び図面から、当業者が自明に把握できたものとは認められない。

(2)上記1に示した本願の請求項9ないし14に係る発明は、「スクリーン印刷胴」が「支持エレメント」を備えることを、その発明を特定するため必要な事項とするものである。
しかしながら、上記2000年1月25日の出願に添付された明細書及び図面のいずれにも、「スクリーン印刷胴」が「支持エレメント」を備えることについては記載も示唆もされていないことから、請求項9ないし14に係る発明を特定するために必要な上記事項は、上記2000年1月25日の出願に添付された明細書及び図面から、当業者が自明に把握できたものとは認められない。
ここで、本願の請求項9ないし14に係る発明は請求項1を引用するものであるところ、本願の請求項1に係る発明は「スクリーン印刷胴」をその発明を特定するために必要な事項とするものである。してみると、本願の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「スクリーン印刷胴」は、請求項9ないし14に係る発明を特定するために必要な事項である「支持エレメント」を備えるものを含むと解される。しかしながら、上記のとおり、「スクリーン印刷胴」が「支持エレメント」を備えることについては、上記2000年1月25日の出願に添付された明細書及び図面から、当業者が自明に把握できたものとは認められない。
そして、請求項1を引用する請求項2ないし8に係る発明についても、「スクリーン印刷胴」をその発明を特定するために必要な事項とするものであるから、同様に、「スクリーン印刷胴」が「支持エレメント」を備えることについては、上記2000年1月25日の出願に添付された明細書及び図面から、当業者が自明に把握できたものとは認められない。

第3 引用刊行物及び引用発明
本願の優先日前に頒布された刊行物であって、当審拒絶理由に引用された特開2000-127351号公報(平成12年(2000年)5月9日公開)、以下「引用例」という。)には、以下の1ないし2の記載が図示とともにある。

1 「【特許請求の範囲】
【請求項1】凹版を周面に取り付けられた版胴と、
前記版胴に対接する圧胴と、前記版胴に対接し、周面にブランケットを取り付けられたインキ集合胴と、前記インキ集合胴の前記ブランケットにインキを供給する第一インキ供給手段と、
前記版胴に対接し、前記凹版にインキを供給する第二インキ供給手段と、
前記版胴に対接するワイピングローラとを備えてなる凹版印刷機であって、
前記第二インキ供給手段がロータリースクリーンを備えてなることを特徴とする凹版印刷機。」

2 「【0008】
【発明の実施の形態】本発明による凹版印刷機の実施の形態を図1?3を用いて説明する。なお、図1は、その要部の概略構成図、図2は、図1のロータリースクリーンの内部の概略構造図、図3は、図1のゴムローラの平面図である。
【0009】図1に示すように、紙100の積載された給紙装置10には、当該給紙装置10のサッカ機構で上層から一枚ずつ送り出された紙100を受けて印刷見当を合わせる差板11が連絡している。差板11には、当該差板11上の紙100をくわえて揺動するスイング装置12が配設されている。
【0010】前記スイング装置12には、くわえ爪14aを周方向にわたって等間隔で複数(本実施の形態では3つ)配設された圧胴14が渡胴13を介して連絡している。渡胴13には、上記圧胴14の上記くわえ爪と同様なくわえ爪が設けられており、スイング装置12からくわえ替えた紙100を圧胴14のくわえ爪にくわえ替えさせることができるようになっている。
【0011】前記圧胴14には、周方向に沿って複数の凹版を取り付けできる版胴15が対接している。版胴15の上記凹版には、周方向に沿って複数のゴム製のブランケットを取り付けできるインキ集合胴16が対接している。このインキ集合胴16には、シャブロン胴17が周方向にわたって複数(本実施の形態では4つ)対接している。これらシャブロン胴17には、主図案を印刷する一般インキを充填されたインキ壺20が壺ローラ19および中間ローラ18を介してそれぞれ対接している。このようなシャブロン胴17、中間ローラ18、壺ローラ19、インキ壺20などにより、本実施の形態では第一インキ供給手段を構成している。
【0012】また、前記版胴15には、偽造防止用の図案を印刷するOVI(Optical Variable Ink)などのような特殊インキを内部に充填されたロータリースクリーン22がゴムローラ21を介して対接しており、当該ロータリースクリーン22は、図2に示すような構造となっている。
【0013】図2に示すように、上記ロータリースクリーン22は、絵柄に応じた小孔をエッチングした薄いスクリーン(ステンレスやニッケルなどからなる)を円筒状にして中空胴22cを作成し、フレームに固定されたインキ送出手段であるインキ壺22aおよびスキージ22bを内部に位置させるように当該中空胴22cを回転可能に取り付け、当該中空胴22cを回転させながらスキージ22bによりインキ壺22a内の特殊インキを中空胴22cの上記小孔から送り出すことにより、前記ゴムローラ21のブランケット21aの印刷パターン21b(図3参照)を介して版胴15の凹版に特殊インキを供給することができるようになっている。
【0014】つまり、ロータリースクリーン22は、特殊インキを所定パターンで一定量づつ直接送給することができるのである。このようなゴムローラ21、ロータリースクリーン22などにより、本実施の形態では第二インキ供給手段を構成している。
【0015】なお、ゴムローラ21は、インキ集合胴16から版胴15の凹版に転写された一般インキがロータリースクリーン22側に移ることを防ぐため、図3に示すように、版胴15の凹版に転写されている一般インキ部分と当接する外周のブランケット21a部分に溝21cが形成されている。このゴムローラ21のブランケット21aの溝21cが当該ブランケット21aの幅方向全長にわたって形成されていると、ロータリースクリーン22のスキージ22bが中空胴22cと共に当該溝21c内に落ち込んでしまう。このため、ロータリースクリーン22のスキージ22bおよび中空胴22cをゴムローラ21のブランケット21aの溝21c内に落ち込ませないように当該スキージ22bの両端側を中空胴22cを介して常に支持する支持部21dが当該ゴムローラ21のブランケット21aの幅方向両端側に形成されている。
【0016】一方、図1に示すように、前記版胴15の上記凹版には、ワイピングローラ23が対接している。このワイピングローラ23は、洗浄液を貯えたワイピングタンク24内に浸漬している。
【0017】また、前記圧胴14には、排紙胴25が対接している。排紙胴25と同軸上のスプロケットと図示しないスプロケットとの間には、一対の排紙チェーン26が張架されている。排紙チェーン26には、圧胴14のくわえ爪14aから紙100をくわえ替える図示しない排紙爪が設けられている。
【0018】このような凹版印刷機では、給紙装置10から差板11上へ一枚ずつ送り出された紙100がスイング装置12から渡胴13を経て圧胴14のくわえ爪14aにくわえ替えられて搬送される一方、インキ壺20内から一般インキが壺ローラ19および中間ローラ18を介してシャブロン胴17にそれぞれ供給されてインキ集合胴16にそれぞれ供給されてから、版胴15(審決注:「叛胴112」は「版胴15」の明らかな誤記であるので、訂正して摘記した。)の凹版に一括して供給されると共に、ロータリースクリーン22内から特殊インキがゴムローラ21を介して版胴15の凹版に所定パターンで一定量づつ直接供給され、これらインキが余剰分をワイピングローラ23で除去された後、圧胴14に受け渡された紙100に転写されて印刷され、当該紙100が排紙胴25を介して排紙チェーン26で搬送排紙される。
【0019】ここで、先にも説明したように、ロータリースクリーン22が特殊インキを所定パターンで一定量づつ直接送給するので、転写特性の悪い特殊インキであっても、版胴15の凹版に効率よく供給することができる。
【0020】したがって、高価で転写特性の悪い特殊インキを用いる場合でも、印刷品質の低下を防止することができると共に、印刷コストの上昇を抑制することができる。
【0021】
【発明の効果】本発明による凹版印刷機は、版胴に対接して凹版にインキを供給する第二インキ供給手段がロータリースクリーンを備えてなるので、高価で転写特性の悪い特殊インキであっても、当該ロータリスクリーンにより供給すれば、版胴の凹版に効率よく供給することができる。このため、高価で転写特性の悪い特殊インキを用いる場合でも、印刷品質の低下を防止することができると共に、印刷コストの上昇を抑制することができる。」

3 上記1、2及び引用例の明細書及び図面全体から、引用例には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「凹版印刷機であって、
圧胴14と、
周方向に沿って複数の凹版を取り付けできる版胴15と、
を有しており、
前記版胴15の上記凹版に、周方向に沿って複数のゴム製のブランケットを取り付けできるインキ集合胴16が対接し、該インキ集合胴16には、シャブロン胴17が周方向にわたって複数対接し、該シャブロン胴17には一般インキを充填されたインキ壺20が壺ローラ19及び中間ローラ18を介して対接しており、
前記版胴15には、特殊インキを内部に充填されたロータリースクリーン22がゴムローラ21を介して対接しており、
インキ壺20内から前記一般インキが壺ローラ19および中間ローラ18を介してシャブロン胴17にそれぞれ供給されてインキ集合胴16にそれぞれ供給されてから、版胴15の凹版に一括して供給されると共に、ロータリースクリーン22内から特殊インキがゴムローラ21を介して版胴15の凹版に所定パターンで一定量づつ直接供給され、
これらインキが前記圧胴14に受け渡された紙100に転写されることにより印刷をする、
凹版印刷機。」

第4 対比
本願発明と引用発明を対比する。
1 引用発明の「圧胴14」、「版胴15」、「ロータリースクリーン22」及び「紙100」は、それぞれ、本願発明の「圧胴」、「版胴」、「スクリーン印刷胴」及び「被印刷材料」に相当する。

2 引用発明の「一般インキ」は「壺ローラ19および中間ローラ18を介してシャブロン胴17にそれぞれ供給されてインキ集合胴16にそれぞれ供給されてから、版胴15の凹版に一括して供給される」ものであるから、本願発明の「凹版インキ」に相当するといえる。

3 引用発明の「周方向に沿って複数のゴム製のブランケットを取り付けできるインキ集合胴16が対接し、該インキ集合胴16には、シャブロン胴17が周方向にわたって複数対接し、該シャブロン胴17には一般インキを充填されたインキ壺20が壺ローラ19及び中間ローラ18を介して対接」した構成は、「凹版インキ(一般インキ)」を「版胴15の凹版に一括して供給」するものであるから、「凹版にインキを供給する手段」であって、「凹版」に「凹版インキを供給する」ものであるといえる。
よって、引用発明は、本願発明の「凹版にインキを供給する手段」であって、「該インキ供給手段」が「凹版」に「凹版インキを供給する」構成を備えている。

4 引用発明は、「版胴15の凹版」に「供給されたインキ」が、「圧胴14に受け渡された被記録材料(紙100)に転写されることにより印刷をする」ものであるから、「被記録材料(紙100)」が版胴15と圧胴14との間を通過し、版胴15と圧胴14とが協働して印刷するものであることが、当業者に自明である。
よって、引用発明は、本願発明の「圧胴が、版胴と圧胴との間を通過する被印刷材料に印刷を行うために版胴と協働する」構成を備えている。

5 引用発明の「特殊インキ」は、「ロータリースクリーン22内」から「ゴムローラ21を介して版胴15の凹版に所定パターンで一定量づつ直接供給され」るものであるから、本願発明の「スクリーンインキ」に相当するといえる。

6 引用発明の「スクリーン印刷胴(ロータリースクリーン22)」は、「スクリーンインキ(特殊インキ)」を「ゴムローラ21を介して版胴15の凹版に所定パターンで一定量づつ直接供給」するものであるから、本願発明の「スクリーン印刷胴」とは、「スクリーンインキ」を、「凹版」に「供給するため」の「スクリーン印刷胴」であって、前記「凹版」に「スクリーンインキを伝達する」点で一致する。

7 したがって、本願発明と引用発明とは、
「凹版印刷機において、
版胴が設けられており、該版胴に少なくとも1つの凹版が設けられており、
前記凹版にインキを供給するための手段が設けられており、該インキ供給手段が前記凹版に凹版インキを供給するようになっており、
圧胴が設けられており、該圧胴が、版胴と圧胴との間を通過する被印刷材料に印刷を行うために版胴と協働するようになっており、
スクリーンインキを、前記凹版に供給するための少なくとも1つのスクリーン印刷胴であって、該スクリーン印刷胴が前記凹版にスクリーンインキを伝達するようになっている、凹版印刷機。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点:
本願発明の「版胴」に設けられる「凹版」は、「凹版インキを収容するのに適した微細な溝によって形成される凹版印刷パターンと、スクリーンインキを収容するのに適した比較的大きな凹部によって形成されるスクリーン印刷パターンとを備えており、比較的大きな凹部が、凹版インキを収容する微細な溝よりも大きくなって」いるものであって、凹版にインキを供給するための手段が「凹版印刷パターン」である「前記凹版の微細な溝」に凹版インキを供給し、スクリーン印刷胴が「スクリーン印刷パターン」である「前記凹版の比較的大きな凹部」にスクリーンインキを供給する、との特定を有するのに対し、引用発明の「版胴」に設けられる「凹版」は、どのようなパターンを有するものか不明であり、上記特定を有さない点。

第5 判断
上記相違点について検討する。
1 上記相違点は、本願発明である「印刷機」において印刷のために使用される「凹版」に関するものである。
このような「凹版」に関する相違点が、本願発明をどのように特定するものであるかは、以下に示す解釈が可能である。
(1)解釈1
通常、印刷機は、印刷したい内容に応じて種々の版を交換して印刷を行うものであるから、印刷機に使用される版自体は、印刷機という発明を特定するために必要な事項には含まれない。よって、相違点1である「凹版」に関する事項は、本願発明である「印刷機」を何ら特定するものではない。

(2)解釈2
通常、印刷機は、印刷したい内容に応じて種々の版を交換して印刷を行うものであるから、印刷機に使用される版自体は、印刷機という発明を特定するために必要な事項には含まれないものの、特定の版が使用されることによって、印刷機という発明を特定するために必要な事項が限定されるとの解釈が可能である。つまり、上記相違点に係る本願発明の構成により、「凹版」にインキを供給する「凹版にインキを供給するための手段」と「スクリーン印刷胴」のうち、少なくとも1つについて、何らかの特定がなされているとの解釈が可能である。

(3)解釈3
本願発明である「印刷機」は、特定の「凹版」を使用する「印刷機」との限定がなされているものである。したがって、本願発明の「凹版」の具体的な構成は、発明を特定する為に必要な事項として認められる。

2 したがって、以下では、上記解釈1ないし3について、それぞれ検討する。
(1)解釈1について
上記解釈1によれば、上記相違点は、本願発明を特定するために必要な事項を規定するものとは認められないから、本願発明である「印刷機」を特定するために必要な事項は、引用発明と同一のものである。

(2)解釈2について
ア 上記解釈2によれば、上記相違点は、本願発明を特定するために必要な事項である「凹版にインキを供給するための手段」と「スクリーン印刷胴」のうち、少なくとも1つについて、何らかの特定がなされていると解釈する余地があるというものである。
しかしながら、本願の発明の詳細な説明の記載及び図面には、相違点に係る本願発明の構成が、具体的にどのように「凹版にインキを供給するための手段」又は「スクリーン印刷胴」を特定するものであるのか、記載も示唆もされていない。
したがって、上記相違点は、本願発明を特定するために必要な事項である「凹版にインキを供給するための手段」と「スクリーン印刷胴」のうち、少なくとも1つについて、どのような特定をするものであるのか、本願の発明の詳細な説明の記載及び図面を参酌しても、当業者といえども理解できない。
よって、本願発明を特定するために必要な事項である「凹版にインキを供給するための手段」及び「スクリーン印刷胴」は、どのような「凹版にインキを供給するための手段」及び「スクリーン印刷胴」であっても包含するものと解釈せざるを得ない。
してみると、引用発明は、上記「第4」で述べたように、「周方向に沿って複数のゴム製のブランケットを取り付けできるインキ集合胴16が対接し、該インキ集合胴16には、シャブロン胴17が周方向にわたって複数対接し、該シャブロン胴17には一般インキを充填されたインキ壺20が壺ローラ19及び中間ローラ18を介して対接」した構成よりなる「凹版にインキを供給するための手段」と、「ロータリースクリーン22(スクリーン印刷胴)」を備えていることから、引用発明は、本願発明を特定するために必要な事項である「凹版にインキを供給するための手段」及び「スクリーン印刷胴」を備えるものといえる。
よって、本願発明は引用発明と同一のものである。
イ なお、上記解釈2に関連して、当審において、平成21年6月23日付け審尋により、「凹版」に関する特定が、「凹版にインキを供給するための手段」と「スクリーン印刷胴」のうち、少なくとも1つについて何らかの特定をするものであるかどうかについて、請求人に意見を求めたところ、平成21年12月15日付け回答書からは、「凹版」に関する特定により「凹版にインキを供給するための手段」と「スクリーン印刷胴」が具体的に特定されるものであるとの主張はなされなかった。
よって、上記アにおいて、「凹版」に関する特定は「凹版にインキを供給するための手段」と「スクリーン印刷胴」を具体的に特定するものではないとした判断は、請求人の回答書の趣旨に添うものである。

(3)解釈3について
ア インキを収容する微細な溝よりなるパターンと、インキを収容する比較的大きな溝よりなるパターンよりなる凹版を使用して、該凹版のそれぞれのパターンに異なるインキを供給することにより、偽造防止印刷を行う凹版印刷機は、本願の優先日前に周知の技術である(例.特開昭58-183257号公報(特に特許請求の範囲及び3頁左下欄9行?同頁右下欄6行参照。)及び特開平10-291297号公報(特に段落【0010】及び【0022】参照。)。以下「周知技術」という。)。
イ 引用例の段落【0012】に「偽造防止用の図案を印刷する」(上記「第2 2」参照。)とあることから、引用発明は偽造防止のための印刷を行う印刷機であるところ、偽造防止印刷に使用する「凹版」として、上記周知技術である、「インキを収容する微細な溝よりなるパターンと、インキを収容する比較的大きな溝よりなるパターンよりなる凹版」を使用するとともに、「該凹版のそれぞれのパターンに異なるインキを供給する」構成を採用することは、当業者ならば容易に想到することができたものであり、その際に、「インキを収容する微細な溝よりなるパターン」と「インキを収容する比較的大きな溝よりなるパターン」にインキを供給する手段として、一般インキを版胴15の凹版に供給する構成と、ロータリースクリーン22のいずれを用いるかは、当業者が適宜設計することができた事項である。
ウ よって、上記相違点に係る本願発明の構成は、当業者が、引用発明及び周知技術から容易に想到することができたものである。
エ 効果について
本願発明が奏する効果は、引用発明が奏する効果及び周知技術が奏する効果から当業者が予測し得たものである。
オ 小括
以上のとおり、本願発明は、当業者が、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

3 まとめ
上記のとおりであるから、「凹版」に関する相違点を有する本願発明は、上記1における解釈1ないし3のいずれの場合であっても、引用例に記載された発明と同一、若しくは、引用例に記載された発明及び周知技術から容易に想到することができたものである。

第6 むすび
上記第5のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明と実質的に同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また本願発明は、当業者が、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の点の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2010-03-12 
結審通知日 2010-03-17 
審決日 2010-03-31 
出願番号 特願2001-554869(P2001-554869)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (B41F)
P 1 8・ 121- WZ (B41F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 國田 正久  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 上田 正樹
菅野 芳男
発明の名称 凹版印刷機  
代理人 二宮 浩康  
代理人 星 公弘  
代理人 山崎 利臣  
代理人 久野 琢也  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 杉本 博司  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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