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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C03B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C03B |
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管理番号 | 1221964 |
審判番号 | 不服2007-21995 |
総通号数 | 130 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-10-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-08-09 |
確定日 | 2010-08-12 |
事件の表示 | 特願2002-321341「光ファイバ用母材および光ファイバ用母材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年6月3日出願公開、特開2004-155606〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続きの経緯 本願は、平成14年11月5日の出願であって、平成19年2月7日付けで拒絶理由通知が通知され(発送日は同年2月9日)、同年4月4日付けで意見書・手続補正書が提出され、同年7月6日付けで拒絶査定され(発送日は同年7月10日)、その後、同年8月9日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同年9月10日付けで手続補正書により明細書が補正され、平成22年1月5日に特許法第164条3項に基づく報告書を引用した審尋がなされ、同年3月9日に回答書が提出されたものである。 第2 平成19年9月10日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成19年9月10日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.本件補正前及び補正後の本願発明 本件補正は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する補正は、本件補正前の請求項1における「均一屈折率の石英ガラス部材」について、「更に、その屈折率は後のOTDRでの検出が有利となるように前記光ファイバ用母材片のコア部分の最高屈折率と異なるように構成されている」と限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか)否かを、請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について検討する。 本願補正発明は、平成19年9月10日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「加熱紡糸後に使用することが有効となる部分を含む複数の光ファイバ用母材片が互いに前記光ファイバ用母材片の光学特性と異なるダミーガラス部材を介して接続されて構成されており、前記ダミーガラス部材は、前記光ファイバ用母材片と軟化温度がほぼ同じになるようにドーパントが調整された均一屈折率の石英ガラス部材であり、更に、その屈折率は後のOTDRでの検出が有利となるように前記光ファイバ用母材片のコア部分の最高屈折率と異なるように構成されていることを特徴とする光ファイバ用母材。」 2.刊行物に記載された発明及び周知技術 (1)引用例1の記載事項 これに対し、本願出願日前に公開され、原査定の拒絶の理由で引用された特開昭57-111255号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。 (ア)「複数のプリフォームロッドを接続して、これを連続的に紡糸する光ファイバの連続紡糸方法において、互いに接続されるプリフォームロッド間に識別層を設け、紡糸時または紡糸後の光ファイバから該識別層を検知するようにしたことを特徴とする光ファイバの連続紡糸方法。」(特許請求の範囲第1項) (イ)「該識別層(3)としては、プリフォームロッド(1)、(2)と同質の石英系材料を着色したもの、・・・等を使用することもできる。」(第2頁左上欄6?11行) (ウ)「ここで線引後被覆前の光ファイバ(5)をモニターすることにより識別層(3)を検知するのであるが、識別層(3)として、着色されたものが使用される場合には、当該色彩に吸収され易い光線を光ファイバ(5)に照射することによってモニターし、・・・識別層(3)を検知する。」(第2頁左上欄下2行?右上欄9行) (エ)「ここでより具体的な例について述べると、・・・次いでプリフォームロッド(1)、(2)を約2100℃に加熱したカーボン炉による加熱炉(4)に供給し、ここで直径125μmの光ファイバ(5)に線引きするとともに・・・識別層(3)を検知し、その後該識別層(3)近辺の不用部を除去する。」(第2頁右上欄下5行?同頁左下欄7行) (オ)「本発明においては、互いに接続されるプリフォームロッド間に識別層を設け、紡糸時、線引後の光ファイバから該識別層を検知するようにしたから、互いに接続された複数のプリフォームロッドを連続的に紡糸する・・・」(第2頁左下欄下4行?同頁右下欄1行) (2)引用例1に記載された発明 引用例1には、摘記事項(ア)及び(オ)によれば「複数のプリフォームロッドが接続され」、「互いに接続されるプリフォームロッド間に識別層が設けられている」ことが記載されているといえる。そして、この記載から「互いに識別層を介して複数のプリフォームロッドが接続されている」ことは明らかである。 この記載中の「識別層」は、摘記事項(オ)によれば「識別層が線引後の光ファイバから検知されるもの」であり、また、摘記事項(イ)によれば「プリフォームロッドと同質の石英系材料を着色したもの」であるといえる。そして、「検知」については、摘記事項(ウ)によれば「着色された識別層の色彩に吸収され易い光線を光ファイバに照射することによってモニター」されて検知されるものといえる。 これらのことを本願補正発明の記載振りに則して整理すると、引用例1には「複数のプリフォームロッドが接続され、互いに接続されるプリフォームロッド間に識別層が設けられ、該識別層は、プリフォームロッドと同質の石英系材料を着色したものであって、線引後の光ファイバから着色された識別層の色彩に吸収され易い光線を光ファイバに照射することによってモニターされて検知されるものである、互いに識別層を介して接続される複数のプリフォームロッド。」の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているといえる。 (3)周知技術 OTDR装置を用いることにより、光ファイバのコアに光線を入射し、不均一な屈折率分布が発生している部分からの散乱による入射光の一部の戻りを検出し、これにより当該不均一部分の位置を検出する技術は、本願出願前に周知の技術である。必要なら、下記周知例1及び2の記載事項を参照のこと。 (周知例1) 本願出願前に頒布された特開平11-142293号公報には、次の事項が記載されている。 「OTDR(Optical Time Domain Reflectmeter)装置では、光パルスを被測定光ファイバの一端に入射してその光ファイバ中を伝搬させる。すると・・・光ファイバのコアの屈折率の不均一分布があった場合に伝搬光が散乱し、これらの光の一部が入射端側に戻ってくる。そこで、光パルスの入射時点から戻ってくる光の到達時点までの時間差がその反射点または散乱点までの距離に対応することを利用して、・・・損失の大きな不良箇所の特定することが可能となる。」(【0002】) (周知例2) 同じく特開平7-187723号公報には、次の事項が記載されている。 「光伝送損失測定装置1は、バックスキャタリング法を利用し、即ち、光ファイバ3に入射した光がレーリー散乱を起こして戻ってくる現象を利用した測定方法であり、具体的にはOTDR(optical time domain reflectometer )を使用して母材8の基端部分に光学的アダプタを介して接続されており、該OTDRからの射出光は光ファイバ母材8のコアに入射される。これにより、光伝送損失の急激な変化から線引直後のカーボンコートされた光ファイバ3中の気泡の存在をリアルタイムに検出確認できるようになっている。」(【0011】) 3.対比と判断 (1)対比 本願補正発明と引用例1発明とを比較する。 (i)「光ファイバ用母材(片)」について 引用例1発明における「プリフォームロッド」及び「互いに識別層を介して接続される複数のプリフォームロッド」は、前者が接続されて後者となり、後者は紡糸されて光ファイバとされるものである(摘記事項(ア)(オ))。このため、それぞれ、本願補正発明における「光ファイバ用母材片」及びこれを接続した「光ファイバ用母材」に相当するものである。 (ii)「加熱紡糸後に使用することが有効」について 引用例1発明における「プリフォームロッド」は、紡糸して光ファイバを製造しているので(同(ア))、本願補正発明における「加熱紡糸後に使用することが有効となる部分」を含むことは明らかである。 (iii)「ダミーガラス部材」について 引用例1発明における「識別層」は、石英系材料からなり、プリフォームロッドを接続しており、紡糸後には識別層近傍の不用部を除去することとしている(摘記事項(エ))。 一方、本願明細書の【0023】段落の記載によれば、「ダミーガラス部材は後に光ファイバ母材を紡糸することによってファイバ化された時に除去する必要があるので、この部分の検知を容易にする」ものである。このため、本願補正発明における「ダミーガラス部材」においても、光ファイバ用母材片を接続して光ファイバ用母材とし、これを紡糸した後に検知手段により検知して除去されることになっている。 したがって、引用例1発明の「識別層」は、本願補正発明の「ダミーガラス部材」に相当するものである。 (iv)一致点と相違点について したがって、本願補正発明と引用例1発明の一致点と相違点は、次のとおりとなる。 (a)一致点 「加熱紡糸後に使用することが有効となる部分を含む複数の光ファイバ用母材片が互いにダミーガラス部材を介して接続されて構成されている光ファイバ用母材。」 (b)相違点 1 本願補正発明における「ダミーガラス部材」は、光ファイバ用母材片とは光学的特性が異なるものであるが、引用例1発明における「識別層」は、光学特性について具体的な明記はない点。 2 本願補正発明における「ダミーガラス部材」は、「光ファイバ用母材片と軟化温度がほぼ同じになるようにドーパントが調整された均一屈折率の石英ガラス部材」であるが、引用例1発明における「識別層」には、そのような特性は明記されていない点。 3 本願補正発明における「ダミーガラス部材」の「屈折率は後のOTDRでの検出が有利となるように前記光ファイバ用母材片のコア部分の最高屈折率と異なるように構成されている」が、引用例1発明における「識別層」は、「線引後の光ファイバから着色された識別層の色彩に吸収され易い光線を光ファイバに照射することによってモニターされて検知される」ものである点。 (2)判断 (i)相違点3について (a)OTDRの採用 周知例1、2から明らかなように、OTDRを用いることにより、光ファイバのコアに屈折率の不均一分布を有する部位の位置を検知・特定することは、当該技術分野の当業者には周知の技術である。 そして、光ファイバ用母材を紡糸した後に、光ファイバとはならない部分を検知する手段として、OTDRを用いることは、識別層を着色し、色彩に吸収され易い光線を光ファイバに照射することで検知することに対して同等の機能を有するものである。なぜなら、光ファイバ母材を延伸した部分とダミーガラス部材を延伸した部分の界面近傍は屈折率の分布が不均一となるので、ダミーガラス部材の検知にOTDRが適することは当業者には明らかであるからである。 したがって、ダミーガラス部材の検知を、引用例1発明において採用する識別層を着色し、色彩に吸収されやすい光線を光ファイバに照射することに代え、光ファイバのコアに光線を入射し、不均一な屈折率分布に起因する散乱による戻りをOTDRを用いて検知することにより行おうとすることは、当業者が容易に想到するところである。 (b)「コア部分の最高屈折率と異なる」屈折率である点について 上記(a)のとおり、ダミーガラス部材の検知手段としてOTDRを採用するとした場合には、光学特性の違いを明確にして検知を有利にするために、ダミーガラス部材の屈折率を光ファイバ母材片のコア部分の最高屈折率と異なるように設定することは、当業者が必要に応じて適宜設定しうるところである。なぜなら、両者の光学的特性が異なることがOTDRによる検知に必要なことだからである。 (ii)相違点2について (a)「軟化点がほぼ同じ」について 引用例1発明においては、ダミーガラス部材の軟化温度を光ファイバ母材片と同程度にすることについて、具体的に明示されていない。 しかし、摘記事項(エ)から明らかなように、ダミーガラス部材は、これが接続された光ファイバ用母材片と同じ条件で紡糸されている。このため、ダミーガラス部材についても、光ファイバ用母材片と同等の紡糸ができるように、ドーパントを調整して軟化温度がほぼ同じになるようにすることは、当業者が適宜なしうるところである。なぜなら、軟化温度が異なると、線引き後のファイバの直径に差異が生じることになり、切断の可能性が高まる等、その取り扱いが困難になることは当業者には明らかだからである。 また、ドーパント濃度にムラがあると軟化温度にもムラがあることになり、紡糸に不都合が生じるので、ドーパントの調整を行うことは、当然のことであるからである。 (b)「均一屈折率の石英ガラス部材」について 上記した相違点3の検討のうち、(b)「コア部分の最高屈折率と異なる」屈折率の部分で述べたように、光ファイバのコア部分とダミーガラスの屈折率が異なることが、OTDRの検出を有利に行うことに必要なことである。とすれば、OTDRで屈折率が光ファイバのコア部分と比較の対象となる「識別層」について、その屈折率と、光ファイバのコアクラッド構造に起因する断面方向に変化する屈折率との違いが明確になるように、「識別層」の屈折率を均一にすることは、当業者が必要に応じて適宜設定しうるところである。 そして、引用例1発明の「識別層」はプリフォームロッドと同質の石英系材料であるから(摘記事項(イ))、引用例1発明の「識別層」を「均一屈折率の石英ガラス部材」とすることに格別の困難性は見いだせない。 (iii)相違点1について 上記相違点3で検討したとおり、OTDRを検出方法として採用するとした場合には、これに対応してダミーガラス部材を、光ファイバ用母材片とは光学的特性が異なるようにすることは当然のことである。 (iv)効果の非顕著性 本願明細書の記載を検討しても、本願補正発明が、上記の相違点1乃至3に係る特定事項を採用することにより、光ファイバにはならない部分の検出手段として、従来技術に比して格別の効果を奏しているとすることはできない。 4.本件補正発明についての結び 以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成19年9月10日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、同年4月4日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「加熱紡糸後に使用することが有効となる部分を含む複数の光ファイバ用母 材片が互いに前記光ファイバ用母材片の光学特性と異なるダミーガラス部材を介して接続されて構成されており、前記ダミーガラス部材は、前記光ファイバ用母材片と軟化温度がほぼ同じになるようにドーパントが調整された均一屈折率の石英ガラス部材であることを特徴とする光ファイバ用母材。」 2.進歩性欠如の判断 本願発明は、上記第2[理由]で検討した本願補正発明に関して、限定事項である「均一屈折率の石英ガラス部材であり、更に、その屈折率は後のOTDRでの検出が有利となるように前記光ファイバ用母材片のコア部分の最高屈折率と異なるように構成されている」を「均一屈折率の石英ガラス部材である」と拡張するものである。 そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、更に他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2の[理由]3(2)」に記載したとおり、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-06-09 |
結審通知日 | 2010-06-15 |
審決日 | 2010-06-30 |
出願番号 | 特願2002-321341(P2002-321341) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C03B)
P 1 8・ 575- Z (C03B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 柿崎 美陶 |
特許庁審判長 |
真々田 忠博 |
特許庁審判官 |
安齋 美佐子 中澤 登 |
発明の名称 | 光ファイバ用母材およびそれを用いた光ファイバの製造方法 |
代理人 | 荒船 良男 |
代理人 | 荒船 博司 |