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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1221966
審判番号 不服2007-24839  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-10 
確定日 2010-08-12 
事件の表示 特願2004-139634「コモンモードフィルタ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月17日出願公開、特開2005-322776〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成16年5月10日の出願であって,平成19年8月6日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年9月10日に審判請求がなされるとともに,同年10月5日付けで手続補正がなされ,その後,当審において平成22年2月1日付けで審尋がなされ,同年3月31日に回答書が提出されたものである。

第2 平成19年10月5日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成19年10月5日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成19年10月5日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の主な補正事項
本件補正により,補正前の請求項3は,補正後の請求項1として,
「【請求項1】巻芯部と,該巻芯部の両端にそれぞれ設けられた鍔部と,それぞれの該鍔部の一面上に設けられる電極部とを備えたコアと,
該巻芯部に巻回される巻回部と両端部がそれぞれの該電極部に継線される継線部と該継線部から引き出される引出部とを有する導線と,
該巻芯部から離間した状態で略両端がそれぞれの該鍔部に固定される板状コアと,を備え,
該巻芯部と該鍔部と該板状コアとは,該巻回部の外周と該巻回部の外周に対向する該板状コアの対向面との間に,該巻回部及び該引出部を覆う樹脂層が形成される程度の隙間が提供されるように形状化され,
該隙間の全体には,該樹脂層が充填されて該巻回部及び該引出部を覆い,
それぞれの該鍔部は,該巻芯部との連接個所から,該板状コア方向へ向けて延出される第1延出部と該第1延出部と一体で該板状コア反対方向へ向けて延出される第2延出部とを備え,該第1延出部の延出量が該第2延出部の延出量より小さく構成され,該第1延出部には該板状コアと対向する頂面が規定され,該電極は少なくとも該頂面に設けられ,該継線部は該頂面に配置され,
該コアと該板状コアとで閉磁路を形成し,
該導線は2本以上設けられると共に,バイファイラ巻きされていることを特徴とするコモンモードフィルタ。」と補正された。

2 特許法第17条の2(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2をいう。以下同様。)第3項について
(1)上記請求項1には,「該導線は2本以上設けられる」との補正(以下「補正事項1」という。)が含まれている。
(2)本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)には,「【0017】図2に示すように,磁気コア2は長手方向に直交する断面が略長方形の巻芯部5と,巻芯部5の長手方向両端に設けられ,略同一形状の一対の鍔部4,4より構成され,巻芯部5には2本の導線6A,導線6Bが巻回されている。これら導線6A,導線6Bはバイファイラ巻きされている。以下,鍔部4については略同一形状であるため,特に明記しない限り,片側のみで説明する。」,「【0021】導線6A,導線6Bは,図2に示すように,巻芯部5と鍔部4との結合部付近より引き出されて,それぞれ巻線引出部6A-1,巻線引出部6B-1を形成する。第1延出部4Gの延出量は,導線6A,導線6Bの直径の約2?4倍程度と短くなっているため,バイファイラ巻きされている導線6Aと導線6Bとの間の,引き出されて解離する個所を少なくすることが可能となり,コイル部品1全体として導線間の結合が向上する。」と,導線が2本であることは記載されているが,「該導線は2本以上設けられる」こと,すなわち,導線を3本,4本設けることについては,記載されていない。
(3)したがって,「該導線は2本以上設けられる」との補正事項1は,当初明細書等に記載がなく,また当初明細書等の記載から自明な事項でもないので,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであり,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものではない。
(4)以上のとおり,上記補正事項1を含む本件補正は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たさないので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 独立特許要件について
上記補正は,補正前の「導線」について「該継線部から引き出される引出部とを有する導線」であることを限定し,「該樹脂層が充填されて該巻回部及び該引出部を覆」うことを限定し,「コイル部品」を「コモンモードフィルタ」と限定するものであるから,特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)刊行物に記載された発明
(ア)刊行物1:特開2002-110428号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物1には,「巻線型コモンモードチョークコイル」(発明の名称)に関して,図2,図6とともに以下の事項が記載されている。(なお,下線は,引用箇所のうち特に強調する部分に付加した。以下同様。)
「【請求項2】 請求項1に記載の巻線型コモンモードチョークコイルにおいて,絶縁被覆導線が,強磁性体層で表面が覆われた一対の平行な導体線を絶縁材で一体に被覆したペア線であり,磁性コアの巻芯にバイファイラ巻されていることを特徴とする巻線型コモンモードチョークコイル。」
「【0014】本発明の巻線型コモンモードチョークコイルの基本構造は,使用する絶縁被覆導線を除き従来のそれと同等である。即ち,図2の直方体チップタイプの巻線型コモンモードチョークコイル10を参照すると,複数の直付けの電極7,・・が鍔部2,3に付設された磁性コア1の巻芯5に2本の絶縁被覆導線8A,8Bが巻回されてその端末が前記電極7,・・に各々導電接続された構造を備える(なお,符号6の一点鎖線は電極7上を最終的に覆う外部電極を示す。)。・・・」
「【0021】また,絶縁被覆導線8A,8Bの電極7への導電接続箇所は,図2のように鍔2,3の側面側に設ける場合の他に,図6の巻線型コモンモードチョークコイル40では板状磁性コア17を本体磁性コア1の鍔2,3の上面に樹脂接着剤18で接着固定するとともに絶縁被覆導線8A,8Bが上記板状磁性コア17と磁性コア1の両鍔2,3の上面の電極に熱圧着にて接合した構造・・・」
さらに,上記記載及び図2の電極7も考慮すると,図6には,
「巻芯部と,該巻芯部の両端にそれぞれ設けられた鍔2,3と,それぞれの該鍔の一面上に設けられる電極7とを備えた磁性コア1と,
該巻芯部に巻回される巻回部と両端部がそれぞれの該電極に継線される継線部と該継線部から引き出される引出部とを有する導線8A,8Bと,
該巻芯部から離間した状態で略両端がそれぞれの該鍔に固定される板状磁性コア17と,を備え,
該板状磁性コアは,磁性コアの鍔の上面に樹脂接着剤18で接着固定され,
該巻芯部と該鍔と該板状磁性コアとは,該巻回部の外周と該巻回部の外周に対向する該板状磁性コアの対向面との間に,該巻回部及び該引出部を覆う隙間が提供されるように形状化され,
それぞれの該鍔は,該巻芯部との連接個所から,該板状磁性コア方向へ向けて延出される第1延出部と該第1延出部と一体で該板状磁性コア反対方向へ向けて延出される第2延出部とを備え,該第1延出部には該板状磁性コアと対向する頂面が規定され,該電極は少なくとも該頂面に設けられ,該継線部は該頂面に配置され,
該コアと該板状磁性コアとで閉磁路を形成し,
該導線は2本設けられると共に,バイファイラ巻きされているコモンモードチョークコイル40。」が記載されている。

以上から,刊行物1には,
「巻芯部と,該巻芯部の両端にそれぞれ設けられた鍔2,3と,それぞれの該鍔の一面上に設けられる電極7とを備えた磁性コア1と,
該巻芯部に巻回される巻回部と両端部がそれぞれの該電極に継線される継線部と該継線部から引き出される引出部とを有する導線8A,8Bと,
該巻芯部から離間した状態で略両端がそれぞれの該鍔に固定される板状磁性コア17と,を備え,
該巻芯部と該鍔と該板状磁性コアとは,該巻回部の外周と該巻回部の外周に対向する該板状磁性コアの対向面との間に,該巻回部及び該引出部を覆う隙間が提供されるように形状化され,
それぞれの該鍔は,該巻芯部との連接個所から,該板状磁性コア方向へ向けて延出される第1延出部と該第1延出部と一体で該板状磁性コア反対方向へ向けて延出される第2延出部とを備え,該第1延出部には該板状磁性コアと対向する頂面が規定され,該電極は少なくとも該頂面に設けられ,該継線部は該頂面に配置され,
該コアと該板状磁性コアとで閉磁路を形成し,
該導線は2本設けられると共に,バイファイラ巻きされているコモンモードチョークコイル40。」(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

(イ)刊行物2:特開2003-86442号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物2には,「巻線型コイル部品の製造方法及びコイル部品」(発明の名称)に関して,図6とともに以下の事項が記載されている。
「【0004】また,図6は,従来の他のコイル部品を示す図であり,このコイル部品は,巻芯部52にワイヤ54を巻回した巻線部58の上部のみが,接着剤57により被覆されており,巻線部58の側面や下面が露出した構造を有している。」
「【0006】また,図6に示すような,巻線部58の上部のみが,接着剤(樹脂)57により被覆されたコイル部品は,(1)図7に示すように,ディスペンサ61を用いて接着剤(樹脂)57を塗布し,磁性体板56(図6)を接合した後,接着剤(樹脂)57を硬化させる方法,あるいは,(2)図8(a)に示すように,上面が平坦な支持体62上に接着剤(樹脂)57を塗布し,図8(b)に示すように,巻芯部52にワイヤ54が巻回された巻線部58及びフランジ部53a,53bを押し付けて,接着剤(樹脂)57を巻線部58及びフランジ部53a,53bに転写した後,磁性体板56(図6)を接合し,接着剤(樹脂)57を硬化させる方法などの方法により製造されている。」
さらに,上記記載も考慮すると,図6には,「巻芯部52及びフランジ部53a,53bと磁性体板56との隙間に,接着剤(樹脂)57を充填して,巻芯部52にワイヤ54を巻回した巻線部58の上部のみが,接着剤(樹脂)57により被覆されたコイル部品。」が記載されている。

(ウ)刊行物3:登録実用新案第3016658号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物3には,「チップインダクター用コア」(考案の名称)に関して,図1?図3とともに以下の事項が記載されている。
「【請求項1】巻線が巻回される巻線部(12)と,該巻線部の両端部に一体成形されたフランジ部(13)とを具備し,前記フランジ部の外周面に電極形成面(13a)が形成されたチップインダクター用コア(11)において,前記巻線部(12)が前記フランジ部(13)に対して,前記電極形成面(13a)に対する側面(13b)側に偏心して設けられていることを特徴とする,チップインダクター用コア。
【請求項2】前記巻線部(12)及びフランジ部(13)が略直方体形状で,巻線部の上面(12a)と電極形成面(13a)との寸法(A)が,巻線部の下面(12b)と電極形成面に対する側面(13b)との寸法(B)より大きく設定(A>B)されていることを特徴とする,請求項1記載のチップインダクター用コア。」
「【0019】
また,このコア11を使用したチップインダクター16を,プリント基板17に実装する場合,巻線15の下側面15cとプリント基板17間に間隙20が形成されるため,この間隙20によって,実装時の巻線15の他部品との接触等による傷付きが防止されると共に,巻線15やパターン18から発する熱の放熱効果も良好になる。さらに,少なくとも巻線15の下側面15cが,コア11のフランジ部13の電極形成面13aから外部にはみ出すことがなくなるため,漏れ磁束を減少させることができて,コア11の能力を十分に引き出すことが可能になる。」

(エ)刊行物4:特開2002-313643号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物4には,「インダクタ部品」(発明の名称)に関して,図6?図8とともに以下の事項が記載されている。
「【0002】
【従来の技術】以下,従来のインダクタ部品について,図面を参照しながら説明する。
【0003】図6は従来のインダクタ部品の断面図,図7は同インダクタ部品の斜視図,図8は同インダクタ部品の図6におけるA部分の拡大断面図である。
【0004】図6?図8において,従来のインダクタ部品は,両端に鍔部1を有したドラム型の磁芯2と,この磁芯2に巻回した巻線3と,この巻線3を接続するとともに,磁芯2の鍔部1に配置した電極4とを備えている。
【0005】また,磁芯2は両端の鍔部1間の上面および下面および側面の全外周面に凹部5を設け,この鍔部1間の凹部5に巻線3を接続するとともに,この凹部5を外装樹脂でモールドし外装部6を形成している。」
さらに,上記記載も考慮すると,図6には,「磁芯2に巻回した巻線3の上面と鍔部1の上面との寸法を磁芯2に巻回した巻線3の下面と鍔部1の下面との寸法より小さくしたインダクタ部品」が記載されている。

(2)本願補正発明と引用発明1との対比・判断
本願補正発明と引用発明1とを対比する。
(a)引用発明1の「鍔2,3」,「電極7」,「磁性コア1」,「導線8A,8B」,「板状磁性コア17」,「コモンモードチョークコイル40」は,それぞれ,本願補正発明の「鍔部」,「電極部」,「コア」,「導線」,「板状コア」,「コモンモードフィルタ」に相当する。
(b)刊行物1の図6から明らかなように,引用発明1の「該巻回部及び該引出部を覆う隙間」は,本願補正発明の「該巻回部及び該引出部を覆う樹脂層が形成される程度の隙間」に相当する。

よって,両者は,
「巻芯部と,該巻芯部の両端にそれぞれ設けられた鍔部と,それぞれの該鍔部の一面上に設けられる電極部とを備えたコアと,
該巻芯部に巻回される巻回部と両端部がそれぞれの該電極部に継線される継線部と該継線部から引き出される引出部とを有する導線と,
該巻芯部から離間した状態で略両端がそれぞれの該鍔部に固定される板状コアと,を備え,
該巻芯部と該鍔部と該板状コアとは,該巻回部の外周と該巻回部の外周に対向する該板状コアの対向面との間に,該巻回部及び該引出部を覆う樹脂層が形成される程度の隙間が提供されるように形状化され,
それぞれの該鍔部は,該巻芯部との連接個所から,該板状コア方向へ向けて延出される第1延出部と該第1延出部と一体で該板状コア反対方向へ向けて延出される第2延出部とを備え,該第1延出部には該板状コアと対向する頂面が規定され,該電極は少なくとも該頂面に設けられ,該継線部は該頂面に配置され,
該コアと該板状コアとで閉磁路を形成し,
該導線は2本以上設けられると共に,バイファイラ巻きされていることを特徴とするコモンモードフィルタ。」である点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点1]本願補正発明は,「該隙間の全体には,該樹脂層が充填されて該巻回部及び該引出部を覆」っているのに対して,引用発明1は,そのような構成を備えていない点。
[相違点2]本願補正発明は,「該第1延出部の延出量が該第2延出部の延出量より小さく構成され」ているのに対して,引用発明1は,そのような構成を備えていない点。

そこで,上記相違点について検討する。
[相違点1について]
引用発明1では,「板状磁性コアは,磁性コアの鍔の上面に樹脂接着剤18で接着固定され」ているが,刊行物2の図6には,「巻芯部52及びフランジ部53a,53bと磁性体板56との隙間に,接着剤(樹脂)57を充填して,巻芯部52にワイヤ54を巻回した巻線部58の上部のみが,接着剤(樹脂)57により被覆されたコイル部品。」が記載されているので,引用発明1において,巻芯部に導線が巻回される巻回部の上部のみに樹脂接着剤を充填して,本願補正発明のように「該隙間の全体には,該樹脂層が充填されて該巻回部及び該引出部を覆」うことは,当業者が適宜なし得たことである。

[相違点2について]
(a)鍔部において,巻芯部との連接個所から上側の寸法を,巻芯部との連接個所から下側の寸法より小さくしたコアは,刊行物3,4に記載されており,この刊行物3,4の構造のコアを引用発明1のコアに採用することに,格別の困難性は認められない。
そして,刊行物3には,「【0019】また,このコア11を使用したチップインダクター16を,プリント基板17に実装する場合,巻線15の下側面15cとプリント基板17間に間隙20が形成されるため,この間隙20によって,実装時の巻線15の他部品との接触等による傷付きが防止されると共に,巻線15やパターン18から発する熱の放熱効果も良好になる。さらに,少なくとも巻線15の下側面15cが,コア11のフランジ部13の電極形成面13aから外部にはみ出すことがなくなるため,漏れ磁束を減少させることができて,コア11の能力を十分に引き出すことが可能になる。」と記載されており,特に,「巻線15の下側面15cとプリント基板17間に間隙20が形成される」ことにより「巻線15やパターン18から発する熱の放熱効果」を得るためには,基板への設置面側を長くして間隙を形成するのが自然である。
(b)また,刊行物3,4の構造のコアを引用発明1のコアに採用する際に,鍔において,巻芯部との連接個所から板状磁性コア側の寸法を短くした方が,磁路長を短くできることは,当業者が容易に予測可能である。
(c)さらに,第1延出部の延出量の絶対量を規定せず,単に第2延出部の延出量より小さくしても,第1延出部の延出量の絶対量が小さいとは限らず,限定の意味は認められない。例えば,第1延出部の延出量:1mmで第2延出部の延出量:1.1mmのものと,第1延出部の延出量:0.9mmで第2延出部の延出量:0.9mmのものとを比較して,本願補正発明に該当する前者が後者に比べて格別の効果を奏するとは認められない。
(d)以上の点を考慮すると,引用発明1において,「該第1延出部の延出量が該第2延出部の延出量より小さく構成され」るようにすることは,当業者が適宜なし得たことである。

したがって,本願補正発明は,刊行物1?4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)独立特許要件についてのむすび
以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成19年10月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成19年7月18日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「【請求項1】巻芯部と,該巻芯部の両端にそれぞれ設けられた鍔部と,それぞれの該鍔部の一面上に設けられる電極部とを備えたコアと,
該巻芯部に巻回される巻回部と両端部がそれぞれの該電極部に継線される継線部を有する導線と,
該巻芯部から離間した状態で略両端がそれぞれの該鍔部に固定される板状コアと,を備え,
該巻芯部と該鍔部と該板状コアとは,該巻回部の外周と該巻回部の外周に対向する該板状コアの対向面との間に,該巻回部を覆う樹脂層が形成される程度の隙間が提供されるように形状化され,
該隙間の全体には,該樹脂層が充填され,
それぞれの該鍔部は,該巻芯部との連接個所から,該板状コア方向へ向けて延出される第1延出部と該第1延出部と一体で該板状コア反対方向へ向けて延出される第2延出部とを備え,該第1延出部の延出量が,該第2延出部の延出量より小さく構成され,
該コアと該板状コアとで閉磁路を形成していることを特徴とするコイル部品。」

第4 刊行物に記載された発明
1 刊行物2:特開2003-86442号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物2には,「巻線型コイル部品の製造方法及びコイル部品」(発明の名称)に関して,図5?図8とともに以下の事項が記載されている。
「【0002】
【従来の技術】例えば,巻線型コイル部品の一つに,図4に示すような構造を有するコイル部品がある。このコイル部品は,図5に示すように,コア51の巻芯部52に,ワイヤ54を巻回し,ワイヤ54の両端部を,コア51の両端部のフランジ部53a,53bに設けられた電極55に接続するとともに,図4に示すように,磁性体板56を接着剤(樹脂)57により,一方のフランジ部53a及び他方のフランジ部53bに接着,固定して,一方のフランジ部53aと他方のフランジ部53bを連結することにより製造されている。」
「【0004】また,図6は,従来の他のコイル部品を示す図であり,このコイル部品は,巻芯部52にワイヤ54を巻回した巻線部58の上部のみが,接着剤57により被覆されており,巻線部58の側面や下面が露出した構造を有している。」
「【0006】また,図6に示すような,巻線部58の上部のみが,接着剤(樹脂)57により被覆されたコイル部品は,(1)図7に示すように,ディスペンサ61を用いて接着剤(樹脂)57を塗布し,磁性体板56(図6)を接合した後,接着剤(樹脂)57を硬化させる方法,あるいは,(2)図8(a)に示すように,上面が平坦な支持体62上に接着剤(樹脂)57を塗布し,図8(b)に示すように,巻芯部52にワイヤ54が巻回された巻線部58及びフランジ部53a,53bを押し付けて,接着剤(樹脂)57を巻線部58及びフランジ部53a,53bに転写した後,磁性体板56(図6)を接合し,接着剤(樹脂)57を硬化させる方法などの方法により製造されている。」
さらに,上記記載も考慮すると,図6には,
「巻芯部52と,該巻芯部の両端にそれぞれ設けられたフランジ部53a,53bと,それぞれの該フランジ部の一面上に設けられる電極55とを備えたコア51と,
該巻芯部に巻回される巻回部と両端部がそれぞれの該電極に継線される継線部を有するワイヤ54と,
該巻芯部から離間した状態で略両端がそれぞれの該フランジ部に固定される磁性体板56と,を備え,
該巻芯部と該フランジ部と該磁性体板とは,該巻回部の外周と該巻回部の外周に対向する該磁性体板の対向面との間に,該巻回部を覆う接着剤(樹脂)57が形成される程度の隙間が提供されるように形状化され,
該隙間の全体には,該接着剤(樹脂)が充填され,
それぞれの該フランジ部は,該巻芯部との連接個所から,該磁性体板方向へ向けて延出される第1延出部と該第1延出部と一体で該磁性体板反対方向へ向けて延出される第2延出部とを備え,
該コアと該板状コアとで閉磁路を形成していることを特徴とするコイル部品。」が記載されている。

以上から,刊行物2には,
「巻芯部52と,該巻芯部の両端にそれぞれ設けられたフランジ部53a,53bと,それぞれの該フランジ部の一面上に設けられる電極55とを備えたコア51と,
該巻芯部に巻回される巻回部と両端部がそれぞれの該電極に継線される継線部を有するワイヤ54と,
該巻芯部から離間した状態で略両端がそれぞれの該フランジ部に固定される磁性体板56と,を備え,
該巻芯部と該フランジ部と該磁性体板とは,該巻回部の外周と該巻回部の外周に対向する該磁性体板の対向面との間に,該巻回部を覆う接着剤(樹脂)57が形成される程度の隙間が提供されるように形状化され,
該隙間の全体には,該接着剤(樹脂)が充填され,
それぞれの該フランジ部は,該巻芯部との連接個所から,該磁性体板方向へ向けて延出される第1延出部と該第1延出部と一体で該磁性体板反対方向へ向けて延出される第2延出部とを備え,
該コアと該板状コアとで閉磁路を形成していることを特徴とするコイル部品。」(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

2 刊行物3:登録実用新案第3016658号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物3には,「チップインダクター用コア」(考案の名称)に関して,図1?図3とともに以下の事項が記載されている。
「【請求項1】巻線が巻回される巻線部(12)と,該巻線部の両端部に一体成形されたフランジ部(13)とを具備し,前記フランジ部の外周面に電極形成面(13a)が形成されたチップインダクター用コア(11)において,前記巻線部(12)が前記フランジ部(13)に対して,前記電極形成面(13a)に対する側面(13b)側に偏心して設けられていることを特徴とする,チップインダクター用コア。
【請求項2】前記巻線部(12)及びフランジ部(13)が略直方体形状で,巻線部の上面(12a)と電極形成面(13a)との寸法(A)が,巻線部の下面(12b)と電極形成面に対する側面(13b)との寸法(B)より大きく設定(A>B)されていることを特徴とする,請求項1記載のチップインダクター用コア。」
「【0019】
また,このコア11を使用したチップインダクター16を,プリント基板17に実装する場合,巻線15の下側面15cとプリント基板17間に間隙20が形成されるため,この間隙20によって,実装時の巻線15の他部品との接触等による傷付きが防止されると共に,巻線15やパターン18から発する熱の放熱効果も良好になる。さらに,少なくとも巻線15の下側面15cが,コア11のフランジ部13の電極形成面13aから外部にはみ出すことがなくなるため,漏れ磁束を減少させることができて,コア11の能力を十分に引き出すことが可能になる。」

3 刊行物4:特開2002-313643号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物4には,「インダクタ部品」(発明の名称)に関して,図6?図8とともに以下の事項が記載されている。
「【0002】
【従来の技術】以下,従来のインダクタ部品について,図面を参照しながら説明する。
【0003】図6は従来のインダクタ部品の断面図,図7は同インダクタ部品の斜視図,図8は同インダクタ部品の図6におけるA部分の拡大断面図である。
【0004】図6?図8において,従来のインダクタ部品は,両端に鍔部1を有したドラム型の磁芯2と,この磁芯2に巻回した巻線3と,この巻線3を接続するとともに,磁芯2の鍔部1に配置した電極4とを備えている。
【0005】また,磁芯2は両端の鍔部1間の上面および下面および側面の全外周面に凹部5を設け,この鍔部1間の凹部5に巻線3を接続するとともに,この凹部5を外装樹脂でモールドし外装部6を形成している。」
さらに,上記記載も考慮すると,図6には,「磁芯2に巻回した巻線3の上面と鍔部1の上面との寸法を磁芯2に巻回した巻線3の下面と鍔部1の下面との寸法より小さくしたインダクタ部品」が記載されている。

第5 本願発明と引用発明2との対比・判断
本願発明と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「フランジ部53a,53b」,「電極55」,「コア51」,「ワイヤ54」,「磁性体板56」,「接着剤(樹脂)57」は,それぞれ,本願発明の「鍔部」,「電極部」,「コア」,「導線」,「板状コア」,「樹脂層」に相当する。

よって,両者は,
「巻芯部と,該巻芯部の両端にそれぞれ設けられた鍔部と,それぞれの該鍔部の一面上に設けられる電極部とを備えたコアと,
該巻芯部に巻回される巻回部と両端部がそれぞれの該電極部に継線される継線部を有する導線と,
該巻芯部から離間した状態で略両端がそれぞれの該鍔部に固定される板状コアと,を備え,
該巻芯部と該鍔部と該板状コアとは,該巻回部の外周と該巻回部の外周に対向する該板状コアの対向面との間に,該巻回部を覆う樹脂層が形成される程度の隙間が提供されるように形状化され,
該隙間の全体には,該樹脂層が充填され,
それぞれの該鍔部は,該巻芯部との連接個所から,該板状コア方向へ向けて延出される第1延出部と該第1延出部と一体で該板状コア反対方向へ向けて延出される第2延出部とを備え,
該コアと該板状コアとで閉磁路を形成していることを特徴とするコイル部品。」である点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点3]本願発明は,「該第1延出部の延出量が該第2延出部の延出量より小さく構成され」ているのに対して,引用発明2は,そのような構成を備えていない点。

そこで,上記相違点3について検討する。
(a)鍔部において,巻芯部との連接個所から上側の寸法を,巻芯部との連接個所から下側の寸法より小さくしたコアは,刊行物3,4に記載されており,この刊行物3,4の構造のコアを引用発明2のコアに採用することに,格別の困難性は認められない。
そして,刊行物3には,「【0019】また,このコア11を使用したチップインダクター16を,プリント基板17に実装する場合,巻線15の下側面15cとプリント基板17間に間隙20が形成されるため,この間隙20によって,実装時の巻線15の他部品との接触等による傷付きが防止されると共に,巻線15やパターン18から発する熱の放熱効果も良好になる。さらに,少なくとも巻線15の下側面15cが,コア11のフランジ部13の電極形成面13aから外部にはみ出すことがなくなるため,漏れ磁束を減少させることができて,コア11の能力を十分に引き出すことが可能になる。」と記載されており,特に,「巻線15の下側面15cとプリント基板17間に間隙20が形成される」ことにより「巻線15やパターン18から発する熱の放熱効果」を得るためには,基板への設置面側を長くして間隙を形成するのが自然である。
(b)また,刊行物3,4の構造のコアを引用発明2のコアに採用する際に,フランジ部において,巻芯部との連接個所から磁性体板側の寸法を短くした方が,磁路長を短くできることは,当業者が容易に予測可能である。
(c)さらに,第1延出部の延出量の絶対量を規定せず,単に第2延出部の延出量より小さくしても,第1延出部の延出量の絶対量が小さいとは限らず,限定の意味は認められない。例えば,第1延出部の延出量:1mmで第2延出部の延出量:1.1mmのものと,第1延出部の延出量:0.9mmで第2延出部の延出量:0.9mmのものとを比較して,本願発明に該当する前者が後者に比べて格別の効果を奏するとは認められない。
(d)以上の点を考慮すると,引用発明2において,「該第1延出部の延出量が該第2延出部の延出量より小さく構成され」るようにすることは,当業者が適宜なし得たことである。

したがって,本願発明は,刊行物2?4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物2?4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-10 
結審通知日 2010-06-15 
審決日 2010-06-28 
出願番号 特願2004-139634(P2004-139634)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01F)
P 1 8・ 121- Z (H01F)
P 1 8・ 561- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 正文  
特許庁審判長 橋本 武
特許庁審判官 西脇 博志
高橋 宣博
発明の名称 コモンモードフィルタ  
代理人 市川 朗子  
代理人 北澤 一浩  
代理人 小泉 伸  

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