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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41F
管理番号 1221970
審判番号 不服2007-31606  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-22 
確定日 2010-08-12 
事件の表示 特願2004-215777「印刷物の検査方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 2月 9日出願公開、特開2006- 35505〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件審判請求に係る出願は、平成16年7月23日の出願であって、平成19年2月1日付け(発送日:同年2月6日)の拒絶理由通知に対して、同年4月6日付けで意見書及び手続補正書が提出されたところ、同年10月16日付け(発送日:同年10月23日)で拒絶査定がなされたものである。
この拒絶査定に対して、平成19年11月22日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同年12月25日付けで、明細書及び特許請求の範囲についての手続補正書が提出された。
その後、当審において、平成21年8月26日付け(発送日:同年9月1日)で審判審尋をかけたところ、同年10月30日付けで回答書が提出され、更に、当審において、平成19年12月25日付け(審判請求時)の手続補正について、平成22年2月26日付けで、補正の却下の決定を行うと共に拒絶の理由を通知し(発送日:平成22年3月2日)、この拒絶の理由に対して、平成22年4月28日付けで意見書及び手続補正書が提出された。

2.本願発明
したがって、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年4月28日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「一単位が多面付けされた印刷物の検査方法であって、
前記一単位の基準画像を記憶手段に記憶する工程と、検査対象となる前記印刷物を撮像手段にて撮像して取得した検査対象画像から前記一単位に相当する小領域画像を抽出する工程と、前記記憶手段に記憶した前記基準画像と前記小領域画像とを比較して、前記一単位の欠陥の有無を判定する工程と、を具備し、
前記欠陥の有無を判定する工程として、前記基準画像から前記小領域画像を差分した第1の差分結果と前記小領域画像から前記基準画像を差分した第2の差分結果とを同一の前記基準画像を用いてそれぞれ演算する工程と、前記第1の差分結果及び前記第2の差分結果に基づいて前記一単位の欠陥の有無及びその種類をそれぞれ判定する工程と、を備え、
前記一単位の欠陥の有無及びその種類をそれぞれ判定する工程による判定結果に基づいて、欠陥の種類毎に色分けされた欠陥部位が示された画像を前記検査対象画像に重ね合わせた状態で結果表示部に表示させる工程を更に具備することを特徴とする印刷物の検査方法。」

3.引用文献に記載された事項及び発明
(1)当審からの拒絶理由において引用した、本願出願前に頒布された刊行物である、特開2004-170394号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。
以下、下線は審決において付すものである。
ア.【特許請求の範囲】の【請求項1】
「グラビア印刷の刷版の画像を撮像する撮像手段と、
少なくとも上記撮像手段により撮像した画像を表示する表示手段と、
上記撮像手段により撮像したグラビア印刷の刷版の画像における少なくとも1面の絵柄を基準絵柄として指定する指定手段と、
上記基準絵柄と同じ特徴を有する絵柄が刷版上に何面あるかをカウントして面付け数を割り出して、各絵柄面に面番を付し、上記指定手段により指定された基準絵柄と他の絵柄面とを比較して、両者の相違点を検査し、上記表示手段に当該相違点を表示するように制御する制御手段、
を具備することを特徴とする刷版検査装置。」
イ.【特許請求の範囲】の【請求項5】
「上記制御手段は、上記絵柄が違う部分を欠陥箇所として他の部分と色分けして上記表示手段に表示するように制御することを更に特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の刷版検査装置。」
ウ.段落【0001】
「本発明は、例えばグラビア印刷の刷版の検査し、刷版の傷やピンホール、絵柄や文字の欠け等の欠陥を検出するための刷版検査装置及び刷版検査システムに関するものである。」
エ.段落【0017】
「すなわち、請求項1の発明では、撮像手段によりグラビア印刷の刷版の画像が撮像され、表示手段により少なくとも上記撮像手段により撮像した画像が表示され、指定手段により上記撮像手段により撮像したグラビア印刷の刷版の画像における少なくとも1面の絵柄が基準絵柄として指定され、例えばパターンマッチングの手法等により、上記基準絵柄と同じ特徴を有する絵柄が刷版上に何面あるかがカウントされて面付け数と各面の位置座標が割り出され、各絵柄面に面番が付され、上記指定手段により指定された基準絵柄と他の絵柄面とが比較されて、両者の相違点が検査され、上記表示手段に当該相違点が表示されるように制御される。従って、画像処理により、グラビア印刷の刷版の傷やピンホール、絵柄や文字の欠け等の欠陥が簡易な操作で、迅速且つ高精度で検出され、表示手段により目視可能に表示される。」
オ.段落【0021】
「請求項5の発明では、上記制御手段の制御の下、上記絵柄が違う部分が欠陥箇所として他の部分と色分けされて上記表示手段に表示される。従って、表示手段の表示により、絵柄の違う部分を正確に把握することが可能となる。」
カ.段落【0038】
「この図1に示されるように、この刷版検査装置は、例えばグラビア印刷の刷版等の画像を撮像する撮像部1と、当該撮像部1により撮像された画像に面付けを行う面付け部5、この面付けされた画像の各絵柄面の欠陥を検査する画像検査部6、操作者による所定の指示を受け付ける指示部2、上記検査結果等を表示する表示部3と、を有している。そして、面付け部5と画像検査部6は、制御部4に含まれている。上記撮像部1は、不図示の刷版を回転させる駆動部、撮影用照明部、回転する刷版を撮像する複数のラインカメラ、を有している。」
キ.段落【0039】
「このような構成において、第1実施の形態に係る刷版検査装置では、グラビア印刷の刷版等の画像を複数のラインカメラで撮像し、得られた複数の画像を重なり位置を処理しつつ1つの全体画像とし、当該全体画像より特定の絵柄の位置と個数を測定して、認識することを特徴の一つとしている。」
ク.段落【0042】
「続いて、刷版を回転させて1周分の画像を取り込み(ステップS2)、取込み画像より基準となる絵柄を指示部2により指定する(ステップS3)。」
ケ.段落【0043】
「更に、基準絵柄と同じ絵柄を取込み画像より抽出すべき特徴点エリアを指示部2により指定する(ステップS4)。このように、面付数の算出前には、特徴点エリアを指定することになる。制御部4は、例えばパターンマッチングの手法等により、基準絵柄と同じ特徴をもった絵柄(面付数)がいくつあるか、及び刷版の各面における絵柄の各位置座標を測定する(ステップS5)。」
コ.段落【0044】
「そして、制御部4は、測定した絵柄と基準絵柄とを比較検査して(ステップS6)、この検査結果を表示部3に表示する(ステップS7)。この例では、面番と欠点(マスタとの相違点)個数を表示する。」
サ.段落【0045】
「尚、欠点が検出された面番の絵柄面をモニタ上でクリックすると、当該絵柄面が拡大表示される。この表示中、マスタ画像との相違部位(版傷、汚れ、絵柄不良等)は反転表示される等して他の部分と区別される。」
シ.段落【0047】
「以上説明したように、第1実施形態に係る刷版検査装置では、簡易な操作をするだけで、複数のラインカメラで撮像された画像より、刷版であるシリンダ1周分の全体画像を生成し、当該全体画像の中より基準絵柄を特定するだけで、全体画像における当該基準絵柄と同じ絵柄の個数、更には欠点(相違点)を迅速に自動的に検査し、把握しやすい態様で表示部に表示することができる。このように、従来は人手で行っていたグラビア印刷の刷版の絵柄の欠陥等の検査を自動的に行うことができるので、その効果は多大なものであるといえる。」
ス.段落【0073】4?7行
「検査終了時には、図12に示される画面110のように、各絵柄枠に検出された欠点の数が表示される。例えば、P3(N=1)とは、面版がP3であり、当該絵柄の欠陥数が1つであることを意味している。」
セ.段落【0074】
「この画面110で、所望とする絵柄枠をマウス操作でクリックすると、図13に示されるような画面111で拡大表示され、領域111aで示すようにマスタとの相違箇所は色分けされるなどして区別される。以上で、第2実施形態に係る刷版検査装置による一連の検査動作を終了する。」

上記記載(特に、ア、ウ、カ?サ参照)及び図面からみて、引用文献1には、次の発明が開示されていると認められる(以下、「引用文献1記載発明」という。)。
「撮像手段により、グラビア印刷の刷版の画像を撮像するステップと、
指定手段により、上記撮像手段により撮像したグラビア印刷の刷版の画像における1面の絵柄を基準絵柄として指定するステップと、
上記基準絵柄と同じ特徴を有する絵柄が、刷版上に何面あるかカウントし、面付け数と各面の位置座標を割り出すステップと、
各絵柄面に面番を付すステップと、
上記指定手段により指定された基準絵柄と他の絵柄面とを比較して、両者の相違点を検査するステップと、
表示手段により、当該相違点を表示するステップとを、
具備する刷版検査方法。」

(2)同じく当審からの拒絶理由において引用した、本願出願前に頒布された刊行物である、特開2000-335062号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。
ソ.【特許請求の範囲】の【請求項1】
「あらかじめ基準パターンを記憶しておき、
被検査物のパターンを取り込み、検査画像として記憶し、
前記基準画像の画像境界部にマスクを作成し、基準画像マスクとして設定し、
前記基準画像から前記検査画像を減算処理し、得られた検出信号に対して、基準画像マスク処理を施し、
残った信号より付加欠陥についての品質を判定する印刷検査方法。」
タ.【特許請求の範囲】の【請求項3】
「あらかじめ基準パターンを記憶しておき、
被検査物のパターンを取り込み、検査画像として記憶し、
前記基準画像の画像境界部にマスクを作成し、基準画像マスクとして設定し、
前記検査画像から前記基準画像を減算処理し、得られた検出信号に対して、基準画像マスク処理を施し、
残った信号より欠如欠陥についての品質を判定する印刷検査方法。」
チ.【特許請求の範囲】の【請求項5】
「前記請求項1から請求項4までの方法を2以上組み合わせて行うことを特徴とする印刷検査方法。」
ツ.段落【0001】
「【発明の属する技術分野】本発明は、印刷物における印刷不良の有無を検査する方法に関する。」
テ.段落【0011】13?14行
「表示部57は、液晶表示パネルなどからなり、検査結果などを表示する。」
ト.段落【0012】
「CPU58は、以下の(1)?(3)に示す機能を有する。
(1) …(略)…
(2)画像処理ユニット53からの信号に基づいて、印刷検査欠陥の有無を検査し、不良品を系外へ移出する機能。
(3)検査結果に基づいて表示部57の表示内容を制御する機能。」
ナ.段落【0015】
「図5と図6は、上述の検査のための画像処理のフローチャートを示す。最初に、基準となる印刷パターンをCCDカメラなどの撮像装置3で取り込み、RAM55に基準画像として記憶する(S100、S102)。図7は、基準画像の1例を示す。次に、この基準画像の画像境界部にマスクを作成し(S104)、基準画像マスク(B)として設定する(S106)。図8は、図7の基準画像についての基準画像マスクを示す。そして、得られた基準画像を格納する(S108)。基準画像の入力が終了する(S110でYES)まで、S100に戻り、上述の処理を繰り返す。」
ニ.段落【0016】
「検査の際には、まず、被検査物の印刷パターンを取り込み(S100、S102)、検査画像として記憶する。ここで、図9は検査画像の1例を示す。この検査画像は、異物(右下部)・詰まり(左上部)・欠け(右上部)・欠損(左下部)の4種の不良を含んでいる。ここで、「異物」とは、印刷されていないところに付着した付加欠陥をいい、「詰まり」とは、印刷部の一部にあった抜けがなくなってしまう欠如欠陥をいい、「欠け」とは、印刷部の一部が欠けてしまう欠如欠陥をいい、「欠損」とは、文字などが無くなってしまう欠如欠陥をいう。次に、検査画像の画像境界部にマスクを作成し(S112)、検査画像のマスク(A)として設定する(S114)。図10は、図9の検査画像のマスクを示す。そして、得られた検査画像を格納する(S116)。」
ヌ.段落【0017】
「次に、基準画像と検査画像の位置合わせを行い、減算処理をする。基準画像から検査画像を減算し(S118)、減算結果を、付加欠陥(画像境界部ノイズを含む)が検出可能な付加欠陥検出信号とする(S120)。図11は、図7の基準画像から図9の検査画像を減算した結果を示す。また、逆に、検査画像から基準画像を減算し(S130)、減算結果を、欠如欠陥(画像境界部ノイズを含む)が検出可能な欠如欠陥検出信号とする(S132)。図12は、図9の検査画像から図6の基準画像を減算した結果を示す。図11に示す付加欠陥検出信号と図12に示す欠如欠陥検出信号には、いずれにもパターンマッチングのずれによるノイズが含まれている。ここで、減算処理とは、たとえば、対応する画像を1画素の単位で比較し、濃度値を減算したものである(減算結果が0未満の場合は0とする)。基準画像から検査画像を減算すると、検査画像の濃度値が低い場合のみ信号が検出されることになり、たとえば濃度値の高いベース部に付いた黒点異物などの付加欠陥のみが検出される。また、検査画像から基準画像を減算すると、基準画像の濃度値が低い場合のみ信号が検出されることになり、たとえば濃度値の低い欠けなどの欠如欠陥のみが検出される。」
ネ.段落【0022】
「以上のマスク処理の後の4種類の画像(図13から図16)を、たとえば2値化して論理和をとることにより、面積が大きい検出物が優先になるように重ね合わせると(S142)、前記の4種類の不良について、すべてをマスクがかからない状態で検出した画像(図17)を得ることができる。得られた結果を比較して判定し(S144)、その検査画像についての検査結果を出力する(S146)。さらに、印刷検査が終了でなければ(S148でNO)、S100に戻り、検査を続ける。」

上記記載(特に、ソ?チ、ナ?ネ)及び図面(特に図5、6)からみて、引用文献2には、次の発明が開示されていると認められる(以下、「引用文献2記載発明」という。)。
「あらかじめ印刷物の基準となる印刷パターンを基準画像として記憶し、
被検査物の印刷パターンを取り込み、検査画像として記憶し、
基準画像から検査画像を減算処理し、得られた検出信号に基づき付加欠陥を検出し、
検査画像から基準画像を減算処理し、得られた検出信号に基づき欠如欠陥を検出し、
上記2種類の欠陥を検出した画像を得、得られた結果を判定し、検査画像についての検査結果を出力する、印刷物の検査方法。」

4.対比
本願発明と引用文献1記載発明とを対比する。
引用文献1記載発明は、刷版ではあるが、一単位が多面付けされたもの(図6等参照)の検査方法であり、且つ、該多面付けされた刷版は、撮像手段により撮像されて、「検査対象画像」となることは明らかである。
引用文献1記載発明の「基準絵柄」は、撮像された刷版の画像(検査対象画像)より指定されるものであって(上記ク参照)、且つ、それが一単位であることは言うまでもないから、引用文献1記載発明の「基準絵柄」は、本願発明の「基準画像」に相当する。
又、引用文献1記載発明は、「基準絵柄と同じ特徴を有する絵柄」が刷版に何面あるかカウントし、面付け数を割り出すものであるところ、割り出された面付け数の絵柄が「他の絵柄面」として、「基準絵柄」と比較されるものであるから、引用文献1記載発明の「他の絵柄面」は、本願発明の「小領域画像」に相当する。
そして、引用文献1記載発明において、「他の絵柄面」は、刷版に何面あるか割り出された面付け数の中から、基準絵柄と比較するために、1面ずつ選択(抽出)されることは明らかであるから、引用文献1記載発明も、「他の絵柄面を抽出するステップ(工程)」を具備している。
ところで、引用文献1には、引用文献1記載発明に関して、記憶手段は明記されていない。
しかしながら、引用文献1に記載された検査装置(図1、3参照)が、記憶手段を具備することは明らかであり、又、引用文献1記載発明も、本願発明と同様に、基準絵柄(基準画像)と他の絵柄面(小領域画像)との比較検査を行うものであって、比較検査を行うためには、各画像データを記憶させることは必須の要件であるから、引用文献1記載発明においても、刷版を撮像手段により撮像した検査対象画像、及び、指定された基準絵柄を、記憶手段に記憶することは明らかである。
したがって、引用文献1記載発明も、基準絵柄を記憶手段に記憶するステップ(工程)を具備している。
さらに、引用文献1記載発明の「基準絵柄と他の絵柄面とを比較して、両者の相違点を検査するステップ」は、他の絵柄面の、基準絵柄との相違点、即ち、欠陥を検査し、その有無を判定することに他ならない。
なお、欠陥の種類については、相違点3として後述する。
又、引用文献1記載発明は、基準絵柄との相違部位(欠陥部位)を表示するものであるが、欠陥部位は、「検査対象画像」と重ね合わせて表示されるものではないので、この点も、相違点3として後述する。
そして、本願発明の「印刷物」と引用文献1記載発明の「刷版」とは、「パターンを有するシート状物」である点で共通である。

以上の点からみて、両発明は、次の一致点と相違点を有するものと認められる。
《一致点》
一単位が多面付けされたパターンを有するシート状物の検査方法であって、
前記一単位の基準画像を記憶手段に記憶する工程と、検査対象となる前記シート状物を撮像手段にて撮像して取得した検査対象画像から前記一単位に相当する小領域画像を抽出する工程と、前記記憶手段に記憶した前記基準画像と前記小領域画像とを比較して、前記一単位の欠陥の有無を判定する工程と、を具備し、
前記一単位の欠陥の有無を判定する工程による判定結果に基づいて、欠陥部位が示された画像を結果表示部に表示させる工程を更に具備するシート状物の検査方法。
《相違点1》
検査対象となるパターンを有するシート状物が、本願発明では「印刷物」であるのに対して、引用文献1記載発明では、刷版である点。
《相違点2》
欠陥の有無を判定する工程が、本願発明では「前記基準画像から前記小領域画像を差分した第1の差分結果と前記小領域画像から前記基準画像を差分した第2の差分結果とを同一の前記基準画像を用いてそれぞれ演算する工程と、前記第1の差分結果及び前記第2の差分結果に基づいて前記一単位の欠陥の有無及びその種類をそれぞれ判定する工程とを備える」ものであるのに対して、引用文献1記載発明では、相違点(欠陥)の有無を判定する工程を備えるものである点。
《相違点3》
結果表示部に表示させる工程が、本願発明では「前記一単位の欠陥の有無及びその種類をそれぞれ判定する工程による判定結果に基づいて、欠陥の種類毎に色分けされた欠陥部位が示された画像を前記検査対象画像に重ね合わせた状態で結果表示部に表示させる工程を更に具備する」ものであるのに対して、引用文献1記載発明では、前記一単位の相違点(欠陥)の有無を判定する工程による判定結果に基づいて、相違点(欠陥)を表示させる工程を具備する点。

5.判断
(1)相違点1について
当該技術分野において、一単位が多面付けされた印刷物の欠陥を検査することは、例えば、特開2003-123056号公報等に記載されるように、普通に行われている、周知の技術事項であるから、引用文献1記載発明の多面付けされた刷版の検査方法を、多面付けされた印刷物に適用することは、当業者が容易に想到し得ることと認められる。

(2)相違点2について
引用文献2記載発明は、印刷物の付加欠陥、欠如欠陥を検出するための検査方法であって、上記のとおり、基準画像から検査画像を減算し、且つ、検査画像から基準画像を減算し、それぞれの減算結果に基づいて、付加欠陥(汚れ等)、欠如欠陥(欠け等)を検出するものである。
ところで、引用文献2記載発明の「検査画像」が、本願発明の「小領域画像」に相当することは明らかであり、又、それぞれの減算における基準画像として同一のものを用いて演算していることは言うまでもない。
そして、検出結果に基づいて、付加欠陥(汚れ等)と欠如欠陥(欠け等)、即ち、「欠陥の種類」を判定するものである。
なお、「欠陥の有無」も判定していることは言うまでもない。
即ち、引用文献2には、上記相違点2に係る本願発明の特定事項が記載されており、又、引用文献2記載発明は、印刷物の検査方法に係るものであるから、引用文献1記載発明における「相違点の有無」を判定する印刷物の検査方法に代えて、引用文献2記載発明の「欠陥の有無及び種類」を判定する検査方法を採用することは、当業者が容易に想到し得ることと認められる。

(3)相違点3について
上記相違点3は「欠陥の有無・種類」に係るものであるところ、相違点3を、本願発明と引用文献1記載発明との共通点に着目して整理すると、結局、相違点3は、次の点に帰結する。
本願発明では、欠陥の種類を判定し、種類毎に色分けして、検査対象画像に重ねて表示するのに対して、引用文献1記載発明では、相違点(欠陥)の種類は判別しておらず、したがって、色分け表示はせず、又、検査対象画像と重ね合わせて表示していない点。

そこで検討する。
上記(2)に記載したとおり、引用文献1記載発明に、引用文献2記載発明の検査方法を採用することは、当業者が容易に想到し得ることであり、引用文献2記載発明を採用した場合、検出できる欠陥が、汚れ・欠けの2種類になることは明らかである。
ところで、引用文献1には、第2の実施形態として、欠陥部位を他の部分と色分けして表示することも記載されている(上記イ、セ参照)から、引用文献1記載発明には、欠陥部位を反転表示する態様だけでなく、他の部分と色分けして表示する態様も含まれることは明らかである(上記ア、イから、「請求項1を引用する請求項5」参照)。
他方、欠陥の検査方法として、複数の欠陥を判定し、それら欠陥を種類毎に色分けして表示することは、例えば、特開2000-9591号公報(段落【0027】等)、国際公開01/41068号(特許請求の範囲12等)等に記載されるように周知の技術事項であるから、引用文献2記載発明を採用して、欠陥の種類が複数になった場合、欠陥部位を他の部分と色分けして表示すること、更に、それら欠陥を種類毎に色分けして表示することに、格別の困難性は認められない。

次に、それら欠陥を検査対象画像に重ねて表示する点について検討する。
本願発明において、検査結果(欠陥部位)を検査対象画像に重ねて表示するのは、欠陥部位の視認性を向上させるためである(本願明細書の段落【0025】参照)。
他方、引用文献1に記載された実施態様においては、検査対象画像に重ねて表示するものは、検査結果ではあるが、相違点(欠陥)のある面番と相違点の個数であって(上記コ、ス及び図12参照)、実際の欠陥部位は、絵柄面を拡大した画面で表示される(上記サ及び図13参照)。
この点について勘案するに、引用文献1に記載された実施態様では、絵柄面は「4×5」の20面で多面付けされており、そのため、検査対象画像を表示すると、表示画面の大きさとの関係で、各絵柄面は小さく表示されることになり(図10、12等参照)、欠陥部位を、検査対象画像(各絵柄面)に重ねて表示すると、絵柄面が小さい分、欠陥が視認しにくくなることは明らかであり、それを解消するために、換言すれば、視認性を向上させるために、欠陥を有する絵柄面を拡大表示して、欠陥をわかりやすく表示した、と解するのが相当である。
即ち、引用文献1に記載された実施態様においては、視認性向上のために、欠陥部位の表示について、通常の表示ステップに加え(図2のS7参照)、絵柄面を拡大表示するというステップを更に付加しているのである。
してみると、多面付けされる絵柄面の数が少なければ、あるいは表示画面が十分に大きければ、絵柄面そのものが大きく表示されることは言うまでもなく、そうであれば、拡大表示のステップをわざわざ付加しなくても、欠陥が容易に視認できることは明らかであるから、欠陥部位を、検査対象画像に重ねて表示するか、絵柄面を拡大した画面に重ねて表示するかは、多面付けされた一単位の数や表示画面の大きさ等に基づき、当業者が適宜選択し得る事項であって、その選択に格別の困難性は認められない。

結局、相違点3に係る本願発明の特定事項は、当業者が、格別の困難性なく、適宜に採用或いは選択し得るものと認められる。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、相違点1乃至3に係る本願発明の特定事項は、当業者が適宜に採用或いは選択可能なものであって、それらを寄せ集めたことにより得られる作用効果も当業者であれば容易に推察可能なものであって、格別なものとは言えない。

6.むすび
したがって、本願発明は、引用文献1記載発明、引用文献2記載発明、及び、周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-09 
結審通知日 2010-06-15 
審決日 2010-06-29 
出願番号 特願2004-215777(P2004-215777)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藏田 敦之  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 桐畑 幸▲廣▼
星野 浩一
発明の名称 印刷物の検査方法及び装置  
代理人 山本 晃司  

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