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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A47C |
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管理番号 | 1221988 |
審判番号 | 不服2008-18956 |
総通号数 | 130 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-10-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-07-24 |
確定日 | 2010-08-12 |
事件の表示 | 特願2002-361132号「椅子」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月 8日出願公開、特開2004-188009号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
【第1】手続の経緯 本願は、平成14年12月12日の特許出願であって、平成20年 6月11日付けで拒絶査定がなされ、この拒絶査定を不服として、同年 7月24日に本件審判請求がなされるとともに、審判請求と同日付けで手続補正(前置補正)がなされたものである。 【第2】平成20年 7月24日付け手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成20年 7月24日付け手続補正を却下する。 [理由] 1.新規事項追加に伴う手続補正の却下について (1)手続補正の内容 平成20年 7月24日付けの手続補正(以下、「本件手続補正」という。)は、本願の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に、「前記衣類掛け部が、背凭れが起立した状態においては前記衣類保持部材より前方に位置し、背もたれが後傾した状態においては前記背凭れの上端に追随して後下方に移動して前記衣類保持部材よりも後方に位置し」という記載を追加したものである。 (2)本件手続補正に対する当審の判断 上記1.に記載した本件手続補正の内容についてみると、上記追加された事項(以下、「本件補正事項」という。)のうち、「前記衣類掛け部が、背凭れが起立した状態においては前記衣類保持部材より前方に位置し」との事項については、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書」という。)に明記されていない。 ここで、当初明細書の段落【0012】には「衣類を掛けやすくするには、背もたれが起立した状態において、前記衣類保持部材の略椅子本体の幅方向に延伸する部位を衣類掛け部の略鉛直下方又はその後方に設定し、又は設定可能にすればよい。」と記載されており、該記載から、「衣類掛け部が、背凭れが起立した状態においては前記衣類保持部材の略椅子本体の幅方向に延伸する部位の前方に設定」(下線は当審で記入)することが記載されていると認められる。 しかし、上記「衣類保持部材の略椅子本体の幅方向に延伸する部位」は、当初明細書の段落【0024】に「衣類保持部材4は、前記図4に示すように、前記背もたれ上部フレーム142の側面から外方に延びる基部41と、前記基部41から後方に向けて湾曲して延びる側部42と、前記側部からさらに椅子本体の幅方向中央に向かって湾曲し、背もたれ14の後方において、略椅子本体1の幅方向に沿って、すなわち背もたれ14の背面14aに略沿って延伸する形状の本体部43とを一体に形成している」と記載されているように、衣類保持部材の全体ではなく、「基部」、「側部」及び「本体部」からなる衣類保持部材の「本体部」のみを示すものである。 そして、審判請求人が補正の根拠とする図2及び図5には、衣類掛け部たるハンガー本体が、背凭れが起立した状態において、衣類保持部材の上記「本体部」より前方に位置しているように認められるのみであり、基部及び側部を含む衣類保持部材全体の前方に位置しているとは認められず、上記本件補正事項は当初明細書に記載された事項の範囲内のものとはいえない。 (3)むすび 以上のとおり、本件手続補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 2.独立特許要件の欠如に伴う手続補正の却下について (1)補正後の請求項1に記載された発明 平成20年 7月24日付けの手続補正により、本願の特許請求の範囲の請求項1は、 【請求項1】 「後傾可能な背もたれを有する椅子本体と、衣類の一部又は全部を背もたれの背面より後方に位置させるようにして掛けるよう構成した衣類掛け部とを具備し、 前記背もたれの背面との間に前記衣類掛け部に掛けられている衣類を位置させることができ、背もたれが後傾した状態において該衣類を保持する機能を有する衣類保持部材をさらに具備するものであって、 前記衣類掛け部が、背凭れが起立した状態においては前記衣類保持部材より前方に位置し、背もたれが後傾した状態においては前記背凭れの上端に追随して後下方に移動して前記衣類保持部材よりも後方に位置し、 衣類保持部材の背もたれに向かう表面を軟質樹脂により形成していることを特徴とする椅子。」 と補正された。 上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「衣類掛け部」について、下線部分の構成を付加することにより、「背凭れが起立した状態においては前記衣類保持部材より前方に位置し、背もたれが後傾した状態においては前記背凭れの上端に追随して後下方に移動して前記衣類保持部材よりも後方に位置し」と限定するものであり、この限定した事項のうち、「背凭れが起立した状態においては前記衣類保持部材より前方に位置」するとの事項は、上記1.で述べたとおり、背凭れが起立した状態において「衣類保持部材の全体」より前方に位置すると解すると、当初明細書に記載された範囲内のものとは認められない。 ここで、上記事項を、当初明細書の記載を参酌して、「背凭れが起立した状態においては前記衣類保持部材の略椅子本体の幅方向に延伸する部位の前方に位置」するという意味であると仮に解するならば、上記限定した事項は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されており、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではないから、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号でいう特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、上記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)について、上記のように仮に解した場合について、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(同法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下で検討しておく。 (2)引用例及びその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-253274号公報(以下「引用例1」という。)には、「椅子への衣類用ハンガーの取付け構造」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。 A:「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、椅子の背もたれに衣類用ハンガーを取付ける構造に関するものである。 【0002】 【従来の技術】椅子の背もたれに背広等の上着を掛けることが多いが、上着を背もたれに直接に被せると、上着の前身頃が人の身体で潰されて型崩れしたり、或いは、袖や裾が床面に接触したりキャスターに絡まったりするという問題がある。・・・。」 B:「【0007】 【発明の実施形態】次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は椅子1から上着(背広)Wを離した状態の斜視図、図2は上着Wを掛けた状態の正面図、図3は上着Wを一点鎖線で示した一部破断正面図である。これらの図に示すように、椅子1は、座受け部材2を介して脚3で支持された座4と、座受け部材2に後傾動自在に取付けられた背もたれ5とを備えている。 【0008】背もたれ5は、合成樹脂製の背もたれ板(アウターシェル)6と、その前面に取付けられたクッション7とを備えており、背もたれ5の上部には、線材製のハンガー8を取付けている。・・・。」 図1?2と共に、上記摘記事項A?Bを総合すると、引用例1には、 「後傾動自在に取付けられた背もたれ5を備えた椅子1に、背広等の上着を掛けるハンガー8を取付けた椅子。」 に関する発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 (3)発明の対比 本願補正発明と引用発明とを対比すると、両者はいずれも「椅子」に関するものであって、引用発明における「後傾動自在に取付けられた背もたれ5」は本願補正発明における「後傾可能な背もたれ」に相当し、以下同様に「背もたれ5を備えた椅子1」は「背もたれを有する椅子本体」に、「背広等の上着」は「衣類」に、及び「ハンガー8」は「衣類掛け部」にそれぞれ相当する。 そして、引用発明の図2からみて、引用発明の「衣類掛け部」が、「衣類の一部又は全部を背もたれの背面より後方に位置させるようにして掛けるよう構成した」ものであることは明らかである。 そうすると、本願補正発明と引用発明の一致点、相違点は以下のとおりであると認められる。 <一致点> 「後傾可能な背もたれを有する椅子本体と、衣類の一部又は全部を背もたれの背面より後方に位置させるようにして掛けるよう構成した衣類掛け部とを具備する椅子。」 <相違点1> 本願補正発明では、椅子が「背もたれの背面との間に前記衣類掛け部に掛けられている衣類を位置させることができ、背もたれが後傾した状態において該衣類を保持する機能を有する衣類保持部材をさらに具備する」ものであり、該衣類保持部材が「背もたれに向かう表面を軟質樹脂により形成している」ものであるが、引用発明では、衣類保持部材が設けられていない点。 <相違点2> 本願補正発明では、衣類掛け部が「背凭れが起立した状態においては前記衣類保持部材より前方に位置し、背もたれが後傾した状態においては前記背凭れの上端に追随して後下方に移動して前記衣類保持部材よりも後方に位置」するものであるが、引用発明では、衣類保持部材が設けられておらず、衣類掛け部との位置関係を満たさない点。 (4)当審の判断(相違点の検討) 上記各相違点について検討する。 <相違点1>について 衣類掛け部を有する椅子において、本願の出願前に頒布された刊行物である実願昭63-170397号(実開平2-89964号)のマイクロフィルム(明細書第6頁第14行?第9頁第15行及び第1?3図等参照)及び実願昭61-167267号(実開昭63-71762号)のマイクロフィルム(明細書第3頁第1行?第4頁第7行及び第1図等参照)に記載のような、背もたれを有する椅子本体と、衣類の一部又は全部を背もたれの背面より後方に位置させるようにして掛けるよう構成した衣類掛け部とを具備し、前記背もたれの背面との間に前記衣類掛け部に掛けられている衣類を位置させることができ、該衣類を保持する機能を有する衣類保持部材をさらに具備する椅子は周知である。 よって引用発明における衣類掛け部を有する椅子に、上記周知の衣類保持部材を採用することは、当業者が容易になし得たことであり、その際に衣類保持部材が、背もたれが後傾した状態においても衣類を保持することは明らかである。 なお、衣類を掛けて保持する機能を有する部材において、衣類と接する表面を軟質樹脂より形成して滑り止め機能を付加することは周知技術(必要であれば特開平8-89363号公報の段落【0023】等参照及び登録実用新案第3052747号公報の段落【0014】等参照)であるから、上記衣類保持部材の背もたれに向かう表面を軟質樹脂により形成して滑り止め機能を付加する程度のことは、当業者が適宜なし得た設計変更にすぎない。 <相違点2>について 上記実願昭63-170397号(実開平2-89964号)のマイクロフィルム(明細書第6頁第14行?第9頁第15行及び第1?3図等参照)に記載の服押え狭部11(本願補正発明における「衣類保持部材」に相当)を、引用発明における衣類掛け部を有する椅子に採用した際には、衣類掛け部は、背凭れが起立した状態においては脇押え狭部11の両先端部の細コイルスプリング10が設けられた部位(上記(1)で述べた「衣類保持部材の略椅子本体の幅方向に延伸する部位」に相当)より前方に位置するものと認められる。 また、引用発明における衣類掛け部が、背もたれが後傾した状態において前記背凭れの上端に追随して後下方に移動することは明らかである。一方、上記実願昭63-170397号(実開平2-89964号)のマイクロフィルム及び上記実願昭61-167267号(実開昭63-71762号)のマイクロフィルムの各図面の記載からみて、衣類保持部材は背もたれの下方に配置されるものである。よって、引用発明において上記周知の衣類保持部材を採用した際に、背もたれが所定の角度以上で後傾した状態においては、背もたれの上方に配置される衣類掛け部は、上記衣類保持部材よりも後方に位置するものと認められる。 そして、上記相違点1?2を併せ備える本願補正発明の作用・効果について検討しても、引用発明及び上記各周知例に記載の事項から当業者が予測し得る範囲を超えるものではない。 したがって、本願補正発明は引用発明及び上記各周知例に記載の事項に基づいて、当業者が容易に推考することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (5)むすび 以上によれば、平成20年 7月24日付けの手続補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 上記理由1.及び理由2.によって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。 【第3】本願の発明について 1.本願発明 平成20年 7月24日付け手続補正は上記のとおり却下されたから、本願の各請求項に係る発明は、平成20年 4月30日付けの手続補正に係る特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項によって特定されるものと認められるが、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。 【請求項1】 「後傾可能な背もたれを有する椅子本体と、衣類の一部又は全部を背もたれの背面より後方に位置させるようにして掛けるよう構成した衣類掛け部とを具備し、 前記背もたれの背面との間に前記衣類掛け部に掛けられている衣類を位置させることができ、背もたれが後傾した状態において該衣類を保持する機能を有する衣類保持部材をさらに具備するものであって、 衣類保持部材の背もたれに向かう表面を軟質樹脂により形成していることを特徴とする椅子。」 2.引用例及びその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用例とその記載事項は、前記「【第2】の2.(2)」に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明の構成を全て含むとともに、本願発明の構成に更に限定を付加した本願補正発明(上記【第2】の2.(1)の【請求項1】の下線部分が限定されたところ)が、上記【第2】の2.で検討した如く、引用発明及び上記各周知例に記載の事項に基づいて、当業者が容易に推考することができたものであるから、本願補正発明を上位概念化した本願発明も、本願補正発明と同様の理由により、引用発明及び上記各周知例に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.審判請求人の主張 請求人は審尋回答書で、以下のように補正案を提示しているので、この補正案についても検討しておく。 「請求項1を削除し、同請求項2に対して、「脚の上端に設けた座支持部、この座支持部に設けた第1リンク要素、この第1リンク要素に接続した座受、及びこの座受けと前記第1リンク要素とを接続する第2リンク要素により座がロッキング可能であるとともに、背凭れが前記第2リンク要素に設けた回転軸中心に回転することにより後傾可能である」ことの限定を加えるとともに、請求項2?10をそれぞれ請求項1?9に繰り上げる補正を行う」 後傾可能な背もたれを有する椅子において、「脚の上端に設けた座支持部、この座支持部に設けた第1リンク要素、この第1リンク要素に接続した座受、及びこの座受けと前記第1リンク要素とを接続する第2リンク要素により座がロッキング可能であるとともに、背凭れが前記第2リンク要素に設けた回転軸中心に回転することにより後傾可能である」ものは、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-119374号公報(段落【0015】?【0023】及び図1?3等参照)に記載のように公知であり、引用発明に記載の後傾可能な背もたれを有する椅子の後傾構造として、該公知の構造を採用することは、当業者が適宜なし得る設計事項であって、また、該構造を採用することによって、格別の作用・効果が得られるものとも認められない。 よって、仮に補正案のように補正をしたとしても、該補正後の発明は特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、結論を覆すものではない。 5.むすび 以上によれば、本願発明(請求項1に係る発明)は、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-06-09 |
結審通知日 | 2010-06-15 |
審決日 | 2010-06-28 |
出願番号 | 特願2002-361132(P2002-361132) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A47C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 熊倉 強、平瀬 知明 |
特許庁審判長 |
寺本 光生 |
特許庁審判官 |
藤井 昇 植前 津子 |
発明の名称 | 椅子 |
代理人 | 赤澤 一博 |