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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1222057
審判番号 不服2007-24840  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-10 
確定日 2010-08-19 
事件の表示 特願2004-140718「コイル部品」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月17日出願公開、特開2005-322820〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成16年5月11日の出願であって,平成19年8月9日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年9月10日に審判請求がなされるとともに,同年10月9日付けで手続補正がなされ,その後,当審において平成22年2月1日付けで審尋がなされ,同年3月31日に回答書が提出されたものである。

第2 平成19年10月9日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成19年10月9日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成19年10月9日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の主な補正事項
本件補正により,補正前の請求項1は,補正後の請求項1として,
「【請求項1】 断面形状が一対の短辺と一対の長辺とからなる略長方形状の巻芯部と該巻芯部の両端に設けられた一対の鍔部とを備えるコアと,
それぞれの該鍔部に設けられる端子電極と,
該巻芯部に巻回されると共に両端が端子電極にそれぞれ接続される巻線と,
該巻芯部の一方の該長辺に対向すると共に該巻芯部から離間した状態で略両端が該一対の鍔部に固定される板状コアと,を備えるコイル部品において,
該板状コアと対向する該巻芯部の該一方の長辺側の面であって該巻線と対向している部分には,第1凸部が設けられ,該第1凸部の断面形状は,該一方の長辺を底辺とし第1斜辺及び第2斜辺を有する略三角形状をなし,該第1斜辺は一方の該短辺まで延び,該第2斜辺は他方の該短辺まで延び,
該巻芯部の他方の該長辺側の面であって該巻線と対向している部分には,第2凸部が設けられ,該第2凸部の断面形状は,該他方の長辺を底辺とし第3斜辺及び第4斜辺を有する略三角形状をなし,該第3斜辺は一方の該短辺まで延び,該第4斜辺は他方の該短辺まで延び,
該第1斜辺と該一方の短辺との交差部,該第2斜辺と該他方の短辺との交差部,該第3斜辺と該一方の短辺との交差部,及び該第4斜辺と該他方の短辺との交差部は,それぞれ円弧状をなし,
該巻芯部に巻回されている該巻線は,隣合う該巻線と互いに離間して巻回されていることを特徴とするコイル部品。」と補正された。

2 特許法第17条の2(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2をいう。以下同様。)第3項について
(1)上記請求項1には,「該板状コアと対向する該巻芯部の該一方の長辺側の面であって該巻線と対向している部分には,第1凸部が設けられ,該第1凸部の断面形状は,該一方の長辺を底辺とし第1斜辺及び第2斜辺を有する略三角形状をなし,該第1斜辺は一方の該短辺まで延び,該第2斜辺は他方の該短辺まで延び, 該巻芯部の他方の該長辺側の面であって該巻線と対向している部分には,第2凸部が設けられ,該第2凸部の断面形状は,該他方の長辺を底辺とし第3斜辺及び第4斜辺を有する略三角形状をなし,該第3斜辺は一方の該短辺まで延び,該第4斜辺は他方の該短辺まで延び」との補正(以下「補正事項1」という。)が含まれている。
(2)本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)には,「【0018】・・・巻芯部4のその長手方向に直交する断面は,図4に示すように,仮想の長辺4Dを底辺とする二等辺三角形の第1傾斜辺4D-1及び第2傾斜辺4D-2と,長辺4Dに対向する仮想の長辺4Eを底辺とする二等辺三角形の第3傾斜辺4E-1及び第4傾斜辺4E-2と,一対の長辺4D,4Eの両端をそれぞれ接続し接続面4Cをなす一対の短辺4F,4Gとにより構成される。従って,当該断面は,長辺4D,4E及び短辺4F,4Gからなる略長方形に第1,第2傾斜辺4D-1,4D-2及び第3,第4傾斜辺4E-1,4E-2からなる凸部を設けた六角形をなしている。」と,「二等辺三角形」であることは記載されているが,「略三角形状」であること,すなわち,二等辺三角形以外の三角形も含まれる「略三角形状」については,記載されていない。
(3)したがって,補正事項1は,当初明細書等に記載がなく,また当初明細書等の記載から自明な事項でもないので,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであり,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものではない。
(4)以上のとおり,上記補正事項1を含む本件補正は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たさないので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 独立特許要件について
上記補正は,補正前の請求項1の「該板状コアと対向する該巻芯部の該一方の長辺側の面であって該巻線と対向している部分には,凸部が設けられている」を補正後の請求項1の「該板状コアと対向する該巻芯部の該一方の長辺側の面であって該巻線と対向している部分には,第1凸部が設けられ,該第1凸部の断面形状は,該一方の長辺を底辺とし第1斜辺及び第2斜辺を有する略三角形状をなし,該第1斜辺は一方の該短辺まで延び,該第2斜辺は他方の該短辺まで延び, 該巻芯部の他方の該長辺側の面であって該巻線と対向している部分には,第2凸部が設けられ,該第2凸部の断面形状は,該他方の長辺を底辺とし第3斜辺及び第4斜辺を有する略三角形状をなし,該第3斜辺は一方の該短辺まで延び,該第4斜辺は他方の該短辺まで延び,
該第1斜辺と該一方の短辺との交差部,該第2斜辺と該他方の短辺との交差部,該第3斜辺と該一方の短辺との交差部,及び該第4斜辺と該他方の短辺との交差部は,それぞれ円弧状をなし, 該巻芯部に巻回されている該巻線は,隣合う該巻線と互いに離間して巻回されている」と限定するものであるから,特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。
そこで,補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)刊行物に記載された発明
(ア)刊行物1:特開2002-110428号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物1には,「巻線型コモンモードチョークコイル」(発明の名称)に関して,図2,図4?図6とともに,以下の事項が記載されている。(なお,下線は,引用箇所のうち特に強調する部分に付加したものである。以下同様。)
「【0014】本発明の巻線型コモンモードチョークコイルの基本構造は,使用する絶縁被覆導線を除き従来のそれと同等である。即ち,図2の直方体チップタイプの巻線型コモンモードチョークコイル10を参照すると,複数の直付けの電極7,・・が鍔部2,3に付設された磁性コア1の巻芯5に2本の絶縁被覆導線8A,8Bが巻回されてその端末が前記電極7,・・に各々導電接続された構造を備える(なお,符号6の一点鎖線は電極7上を最終的に覆う外部電極を示す。)。そしてこの巻線型コモンモードチョークコイル10では,上記基本構造に加えて外装樹脂材9が鍔2,3間を埋めるように巻線の外周を被覆していて,全体が直方体形状のチップ形となっており,自動表面実装に適した形状である。」
「【0020】上記本発明で使用する強磁性体層12で導体線11の表面を覆った絶縁被覆導線8A,8Bもしくはそのペア線15は種々の形状,寸法の巻線型コモンモードチョークコイルに適用できることは既に述べた。例えば,前記試作品は図4に示されるような板状磁性コア17を備える巻線型コモンモードチョークコイル20(巻芯は円形断面)であり,付記した寸法(単位mm)のように横幅2.0mm,縦幅1.2mm,高さ1.5mmという非常に小型のものである。また,図5の巻線型コモンモードチョークコイル30は高さ0.9mmと一層低背化を進めたものであり,巻芯は矩形断面となっている。
【0021】また,絶縁被覆導線8A,8Bの電極7への導電接続箇所は,図2のように鍔2,3の側面側に設ける場合の他に,図6の巻線型コモンモードチョークコイル40では板状磁性コア17を本体磁性コア1の鍔2,3の上面に樹脂接着剤18で接着固定するとともに絶縁被覆導線8A,8Bが上記板状磁性コア17と磁性コア1の両鍔2,3の上面の電極に熱圧着にて接合した構造・・・」
さらに,上記記載及び図2,図6の電極も考慮すると図5には,
「断面形状が一対の短辺と一対の長辺とからなる略長方形状の巻芯と該巻芯の両端に設けられた一対の鍔とを備える磁性コアと,
それぞれの該鍔に設けられる電極と,
該巻芯に巻回されると共に両端が電極にそれぞれ接続される導線と,
該巻芯の一方の該長辺に対向すると共に該巻芯から離間した状態で略両端が該一対の鍔に固定される板状磁性コアと,を備えるコモンモードチョークコイル」が記載されている。

以上によれば,刊行物1には,
「断面形状が一対の短辺と一対の長辺とからなる略長方形状の巻芯と該巻芯の両端に設けられた一対の鍔とを備える磁性コアと,
それぞれの該鍔に設けられる電極と,
該巻芯に巻回されると共に両端が電極にそれぞれ接続される導線と,
該巻芯の一方の該長辺に対向すると共に該巻芯から離間した状態で略両端が該一対の鍔に固定される板状磁性コアと,を備えるコモンモードチョークコイル。」(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(イ)刊行物2:特開平3-23604号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物2には,「ドラム形磁芯」(発明の名称)に関して,第1図,第2図,第5図とともに,以下の事項が記載されている。
「(1)巻芯部の断面形状が,四角形を除く多角形であることを特徴とするドラム形磁芯。」(特許請求の範囲請求項1)
「これに対して断面形状が四角形とされたドラム形磁芯15では,その巻芯部16が互いに対向する一対の平面を有していることから,上述したようなプレス金型の構造に起因する不都合が生じることはなく,1度のプレス加工によって素体を形作ることができる。その結果,この素体に対しては手間のかかる切削加工を行う必要はなく,プレス加工された素体を本焼成するだけでドラム形磁芯15が完成するという利点がある。しかし,このドラム形磁芯15の巻芯部16に巻線を巻き付けると,巻芯部16を構成する平面同士が接して形成された陵線によって巻線の被覆が傷付けられてしまい易く,短絡(ショート)などの不都合が発生してしまうことになっていた。また,巻き付けられた巻線が巻芯部16を構成する各平面に密着せず,隙間を介して大きく浮き上がってしまうという不都合もあった。
本発明は,このような不都合を解消しうるドラム形磁芯を提供することを目的としている。」(2頁左上欄14行?同頁右上欄12行)
「<作用>
上記構成によれば,ドラム形磁芯の巻芯部が少なくとも対向する一対の平面を備えているので,焼成によってドラム形磁芯となる素体をプレス加工のみによって形作ることが可能となる。また,この巻芯部が多角形もしくは対向する一対の曲面を備えた断面形状となっているので,この巻芯部に巻き付けられた巻線が大きく浮き上がってしまうことはなく,巻芯部に密着することになる。
<実施例>
以下,本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
第1図は本実施例に係るドラム形磁芯の外観形状を一部省略して示す斜視図であり,第2図はそのプレス途中の状態を示す断面図である。これらの図における符号1はドラム形磁芯であって,このドラム形磁芯1を構成する巻芯部2及び鍔部3それぞれの断面形状は,例えば,八角形というように,四角形を除く多角形となっている。なお,この巻芯部2の断面形状は,図で示すような八角形に限定されるものではなく,例えば,六角形などであってもよいことはいうまでもない。また,ドラム形磁芯1の鍔部3の断面形状については,必ずしも巻芯部2と同一形状でなければならないものではなく,例えば,円形というように巻芯部2とは異なる断面形状とされていてもよい。」(2頁左下欄2行?同頁右下欄7行)
「そして,このようにして形作られた素体を本焼成すると,ドラム形磁芯1として完成することになる。さらに,完成したドラム形磁芯1に対してはバレル研磨が施され,このバレル研磨によってドラム形磁芯1の角(エッジ)やその巻芯部2を構成する各平面同士が接することによって形成された陵線に0.02?0.1mm程度の丸みを形成している。なお,このとき,ドラム形磁芯1の巻芯部2を構成する各平面が接する陵線の角度は,従来例における断面形状が四角形とされたドラム形磁芯15の巻芯部16における陵線の角度よりも大きな鈍角となっている。」(3頁左上欄15行?同頁右上欄6行)

(ウ)刊行物3:特開2002-313643号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物3には,「インダクタ部品」(発明の名称)に関して,図6?図8とともに,以下の事項が記載されている。
「【0004】図6?図8において,従来のインダクタ部品は,両端に鍔部1を有したドラム型の磁芯2と,この磁芯2に巻回した巻線3と,この巻線3を接続するとともに,磁芯2の鍔部1に配置した電極4とを備えている。
【0005】また,磁芯2は両端の鍔部1間の上面および下面および側面の全外周面に凹部5を設け,この鍔部1間の凹部5に巻線3を接続するとともに,この凹部5を外装樹脂でモールドし外装部6を形成している。」
さらに,図6及び図7には,「巻芯部に巻回されている巻線が,隣合う巻線と互いに離間して巻回されているインダクタ部品」が記載されている。

(2)本願補正発明と引用発明との対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「巻芯」,「鍔」,「磁性コア」,「電極」,「板状磁性コア」,「コモンモードチョークコイル」は,それぞれ,本願補正発明の「巻芯部」,「鍔部」,「コア」,「端子電極」,「板状コア」,「コイル部品」に相当する。

そうすると,両者は,
「断面形状が一対の短辺と一対の長辺とからなる略長方形状の巻芯部と該巻芯部の両端に設けられた一対の鍔部とを備えるコアと,
それぞれの該鍔部に設けられる端子電極と,
該巻芯部に巻回されると共に両端が端子電極にそれぞれ接続される巻線と,
該巻芯部の一方の該長辺に対向すると共に該巻芯部から離間した状態で略両端が該一対の鍔部に固定される板状コアと,を備えるコイル部品。」である点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点1]本願補正発明は,「該板状コアと対向する該巻芯部の該一方の長辺側の面であって該巻線と対向している部分には,第1凸部が設けられ,該第1凸部の断面形状は,該一方の長辺を底辺とし第1斜辺及び第2斜辺を有する略三角形状をなし,該第1斜辺は一方の該短辺まで延び,該第2斜辺は他方の該短辺まで延び, 該巻芯部の他方の該長辺側の面であって該巻線と対向している部分には,第2凸部が設けられ,該第2凸部の断面形状は,該他方の長辺を底辺とし第3斜辺及び第4斜辺を有する略三角形状をなし,該第3斜辺は一方の該短辺まで延び,該第4斜辺は他方の該短辺まで延び」ているのに対して,引用発明は,そのような構成を備えていない点。
[相違点2]本願補正発明は,「該第1斜辺と該一方の短辺との交差部,該第2斜辺と該他方の短辺との交差部,該第3斜辺と該一方の短辺との交差部,及び該第4斜辺と該他方の短辺との交差部は,それぞれ円弧状をなし」ているのに対して,引用発明は,そのような構成を備えていない点。
[相違点3]本願補正発明は,「該巻芯部に巻回されている該巻線は,隣合う該巻線と互いに離間して巻回されている」のに対して,引用発明は,そのような構成を備えていない点。

そこで,上記相違点について検討する。
[相違点1について]
(a)刊行物2には,「巻芯部の断面形状が,四角形を除く多角形であることを特徴とするドラム形磁芯。」(請求項1),「この巻芯部2の断面形状は,図で示すような八角形に限定されるものではなく,例えば,六角形などであってもよいことはいうまでもない。」(2頁右下欄1?3行)と記載され,作用として「巻芯部に巻き付けられた巻線が大きく浮き上がってしまうことはなく,巻芯部に密着することになる。」(2頁左下欄8?10行)ことが記載されている。すなわち,刊行物2には,四角形を除く多角形として,六角形であってもよいことが記載されているので,引用発明においても,「巻芯部に巻き付けられた巻線が大きく浮き上がってしまうことはなく,巻芯部に密着することになる」との作用を得るべく,巻芯部の断面形状を六角形とすることに格別の困難性は認められない。
(b)引用発明において,巻芯部の断面形状を六角形とする際に,六角形の角部を上にする場合と辺を上にする場合の二通りが考えられるが,二通りのうち六角形の角部を上にする場合を選択することにも格別の困難性は認められない。
(c)よって,引用発明において,本願補正発明のように,「該板状コアと対向する該巻芯部の該一方の長辺側の面であって該巻線と対向している部分には,第1凸部が設けられ,該第1凸部の断面形状は,該一方の長辺を底辺とし第1斜辺及び第2斜辺を有する略三角形状をなし,該第1斜辺は一方の該短辺まで延び,該第2斜辺は他方の該短辺まで延び, 該巻芯部の他方の該長辺側の面であって該巻線と対向している部分には,第2凸部が設けられ,該第2凸部の断面形状は,該他方の長辺を底辺とし第3斜辺及び第4斜辺を有する略三角形状をなし,該第3斜辺は一方の該短辺まで延び,該第4斜辺は他方の該短辺まで延び」た六角形とすることは,当業者が適宜なし得たことである。

[相違点2について]
(a)刊行物2には,「巻芯部16を構成する平面同士が接して形成された陵線によって巻線の被覆が傷付けられてしまい易く,短絡(ショート)などの不都合が発生してしまうことになっていた。」(2頁右上欄4?7行)と,従来技術において巻芯部の陵線によって巻線の被覆が傷付けられやすいことが記載され,さらに,それを防ぐため,「さらに,完成したドラム形磁芯1に対してはバレル研磨が施され,このバレル研磨によってドラム形磁芯1の角(エッジ)やその巻芯部2を構成する各平面同士が接することによって形成された陵線に0.02?0.1mm程度の丸みを形成している。」(3頁左上欄17行?同頁右上欄2行)と,巻芯部の陵線に丸みを形成することが記載されている。
(b)よって,[相違点1について]において検討したように,引用発明において,巻芯部の断面形状を六角形とする際に,巻芯部の陵線によって巻線の被覆が傷付けられるのを防ぐために,巻線の被覆が傷付けられるおそれのある巻芯部の陵線に丸みを形成し,本願補正発明のように,「該第1斜辺と該一方の短辺との交差部,該第2斜辺と該他方の短辺との交差部,該第3斜辺と該一方の短辺との交差部,及び該第4斜辺と該他方の短辺との交差部は,それぞれ円弧状をなし」た構成とすることは,当業者が適宜なし得たことである。

[相違点3について]
(a)「巻芯部に巻回されている巻線が,隣合う巻線と互いに離間して巻回されているインダクタ部品」が,刊行物3に記載されており,この構成を引用発明に採用することに格別の困難性は認められない。
(b)よって,引用発明において,本願補正発明のように,「該巻芯部に巻回されている該巻線は,隣合う該巻線と互いに離間して巻回されている」ようにすることは,当業者が適宜なし得たことである。

また,本願補正発明の効果についても,刊行物1?3に記載された発明から予測された範囲内のものであり,格別のものとは認められない。

したがって,本願補正発明は,刊行物1?3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)独立特許要件についてのむすび
以上のとおり,請求項1についての補正を含む本件補正は,特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成19年10月9日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成19年7月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「【請求項1】 断面形状が一対の短辺と一対の長辺とからなる略長方形状の巻芯部と該巻芯部の両端に設けられた一対の鍔部とを備えるコアと,
それぞれの該鍔部に設けられる端子電極と,
該巻芯部に巻回されると共に両端が端子電極にそれぞれ接続される巻線と,
該巻芯部の一方の該長辺に対向すると共に該巻芯部から離間した状態で略両端が該一対の鍔部に固定される板状コアと,を備えるコイル部品において,
該板状コアと対向する該巻芯部の該一方の長辺側の面であって該巻線と対向している部分には,凸部が設けられていることを特徴とするコイル部品。」

第4 刊行物に記載された発明
刊行物1,2の記載事項及び刊行物1に記載された発明は,上記「第2 3(1)」で認定したとおりである。

第5 本願発明と引用発明との対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「巻芯」,「鍔」,「磁性コア」,「電極」,「板状磁性コア」,「コモンモードチョークコイル」は,それぞれ,本願発明の「巻芯部」,「鍔部」,「コア」,「端子電極」,「板状コア」,「コイル部品」に相当する。

そうすると,両者は,
「断面形状が一対の短辺と一対の長辺とからなる略長方形状の巻芯部と該巻芯部の両端に設けられた一対の鍔部とを備えるコアと,
それぞれの該鍔部に設けられる端子電極と,
該巻芯部に巻回されると共に両端が端子電極にそれぞれ接続される巻線と,
該巻芯部の一方の該長辺に対向すると共に該巻芯部から離間した状態で略両端が該一対の鍔部に固定される板状コアと,を備えるコイル部品。」である点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点4]本願発明は,「該板状コアと対向する該巻芯部の該一方の長辺側の面であって該巻線と対向している部分には,凸部が設けられている」のに対して,引用発明は,そのような構成を備えていない点。

そこで,上記相違点について検討する。
[相違点4について]
(a)刊行物2には,「巻芯部の断面形状が,四角形を除く多角形であることを特徴とするドラム形磁芯。」(請求項1),「この巻芯部2の断面形状は,図で示すような八角形に限定されるものではなく,例えば,六角形などであってもよいことはいうまでもない。」(2頁右下欄1?3行)と記載され,作用として「巻芯部に巻き付けられた巻線が大きく浮き上がってしまうことはなく,巻芯部に密着することになる。」(2頁左下欄8?10行)ことが記載されている。すなわち,刊行物2には,四角形を除く多角形として,六角形であってもよいことが記載されているので,引用発明においても,「巻芯部に巻き付けられた巻線が大きく浮き上がってしまうことはなく,巻芯部に密着することになる」との作用を得るべく,巻芯部の断面形状を六角形とすることに格別の困難性は認められない。
(b)引用発明において,巻芯部の断面形状を六角形とする際に,六角形の角部を上にする場合と辺を上にする場合の二通りが考えられるが,二通りのうち六角形の角部を上にする場合を選択することにも格別の困難性は認められない。
そして,この六角形の角部を含む三角形部分が本願発明の凸部に相当することは,明らかである。
(c)よって,引用発明において,本願発明のように,「該板状コアと対向する該巻芯部の該一方の長辺側の面であって該巻線と対向している部分には,凸部が設けられている」構成とすることは,当業者が適宜なし得たことである。

また,本願発明の効果についても,刊行物1,2に記載された発明から予測された範囲内のものであり,格別のものとは認められない。

したがって,本願発明は,刊行物1,2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1,2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-17 
結審通知日 2010-06-22 
審決日 2010-07-05 
出願番号 特願2004-140718(P2004-140718)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01F)
P 1 8・ 121- Z (H01F)
P 1 8・ 561- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 正文  
特許庁審判長 橋本 武
特許庁審判官 高橋 宣博
西脇 博志
発明の名称 コイル部品  
代理人 市川 朗子  
代理人 小泉 伸  
代理人 北澤 一浩  

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