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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04J
管理番号 1222129
審判番号 不服2008-19276  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-30 
確定日 2010-08-17 
事件の表示 特願2003-582942「無線で送信された情報の送信モードをダイナミックに最適化するシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月16日国際公開、WO03/85876、平成17年 7月14日国内公表、特表2005-521358〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯と本願発明
本願は、平成15年2月3日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 平成14年4月1日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成19年7月11日に手続補正がなされたが、平成20年4月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月30日に拒絶査定不服審判が請求されたものであって、特許請求の範囲の請求項28に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年7月11日付け手続補正書により補正された明細書及び図面からみて、その特許請求の範囲の請求項28に記載された以下のとおりのものと認める。

「送信モードを動的に調整する方法において、
第1送信モードに従って送信されたデータ信号の推定された性能特性と前記第1送信モードに従って送信されたデータ信号の予測された性能特性との間の差に関連する誤り係数を生成する段階と、
チャンネルのデータベースおよび生成された前記誤り係数に少なくとも部分的に基づいて後続の送信モードを選択する段階と、
を含むことを特徴とする方法。」

2.引用発明
(1)これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第01/82521号(以下、「引用例」という。)には、「METHOD AND APPARATUS FOR A RATE CONTROL IN A HIGH DATA RATE COMMUNICATION SYSTEM」として図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「I. Field of the Invention
The current invention relates to communication. More particularly, the present invention relates to a novel method and apparatus for adaptive rate selection in a wireless communication system.」
(第1頁第6行?第9行)
(仮訳:I.発明の分野
本発明は通信に関連する。特に、本発明は無線通信システムにおける適応レート選択のための新規な方法と装置に関連する。)

ロ.「One approach to the aforementioned requirements in high data rate (HDR) systems is to keep the transmit power fixed and vary the data rate depending on the users'channel conditions. Consequently, in a modern HDR system, Access Point(s) (APs) always transmit at maximum power to only one Access Terminal (AT) in each time slot, and the AP uses rate control to adjust the maximum rate that the AT can reliably receive. An AP is a terminal allowing high data rate transmission to ATs.」
(第4頁第8行?第14行)
(仮訳:ハイデータレート(HDR)システムにおける前述の要件のための1つのアプローチは、固定された伝送パワーを保持し、ユーザのチャンネル条件に依存してデータレートを変えることである。その結果、現代のHDRシステムでは、アクセスポイント(APs)が各時間スロットにおいて1つのアクセス端末(AT)だけに最大パワーを常に伝送し、APはATが確かに受信することができる最大のレートを調整するためレート制御を使用する。APはATsに高いデータレート伝送を許容する端末である。)

ハ.「An exemplary HDR system defines a set of data rates, ranging from 38.4kbps to 2.4 Mbps, at which an AP may send data packets to an AT. The data rate is selected to maintain a targeted packet error rate (PER). The AT measures the received signal to interference and noise ratio (SINR) at regular intervals, and uses the information to predict an average SINR over the next packet duration. An exemplary prediction method is disclosed in co-pending application serial number 09/394,980 entitled "SYSTEM AND METHOD FOR ACCURATELY PREDICTING SIGNAL TO INTERFERENCE AND NOISE RATIO TO IMPROVE COMMUNICATIONS SYSTEM PERFORMANCE," assigned to the assignee of the present invention and incorporated herein by reference.
FIG.1 shows a conventional open loop rate control apparatus 100. A stream of past SINR values at instances [n-m],...[n-1],[n], each measured over a duration of a corresponding packet, is provided to a predictor 102. The predictor 102 predicts the average SINR over the next packet duration in accordance with the following equation :
OL_SINR_(Predicted) = OL_SINR_(Estimated) - K・σ_(e) (1)
In Equation (1), OL_SINR_(Predicted) is a SINR predicted by the open loop for the next packet, OL_SINR_(Estimated) is a SINR estimated by the open loop based on past SINR values, K is a back-off factor, and σ_(e) is a standard deviation of an error metric.
The estimated SINR may be obtained, for example, by selecting an output from a bank of low pass filters acting on past measurements of SINR.Selection of a particular filter from the filter bank may be based on an error metric, defined as a difference between the particular filter output and measured SINR over a packet duration immediately following the output. The predicted SINR is obtained by backing off from the filter output by an amount equal to the product of the back-off factor K and the standard deviation σ_(e) of the error metric. The value of the back-off factor K is determined by a back-off control loop, which ensures that a tail probability, i.e., probability that predicted SINR exceeds the measured SINR, is achieved for a certain percentage of time.
The SINR_(Predicted) value is provided to a look up table 104 that maintains a set of SINR thresholds that represent the minimum SINR required to successfully decode a packet at each data rate. An AT (not shown) uses the look up table 104 to select the highest data rate whose SINR threshold is below the predicted SINR, and requests that an AP (not shown) send the next packet at this datarate.」
(第4頁第20行?第5頁第29行)
(仮訳:例示的HDRシステムは38.4kbpsから2.4Mbpsの範囲で一組のデータレートを定義し、そのレートでAPがデータパケットをATに送るかもしれない。データレートは目標パケットエラーレート(PER)を維持するように選択される。ATは一定の間隔で受信された信号に対する干渉雑音比(SINR)について測定し、次のパケット期間上の平均SINRを予測するために情報を使用する。例示的予測方法は、“SYSTEM AND METHOD FOR ACCURATELY PREDICTING SIGNAL TO INTERFERENCE AND NOISE RATIO TO IMPROVE COMMUNICATIONS SYSTEM PERFORMANCE,”と題する出願係属中連続番号09/394,980に開示され、それは本発明の譲受人に譲渡され、ここに引用文献として組み込まれる。
図1は通常のオープンループレート制御装置100を示す。対応するパケットの期間上でそれぞれ測定された例[n-m],…[n-1],[n],の過去のSINR値の流れが予測器102に提供される。予測器102は以下の方程式にしたがって次のパケット期間上の平均SINRを予測する:
OL_SINR_(Predicted) = OL_SINR_(Estimated) - K・σ_(e)(1)
方程式(1)において、OL_SINR_(Predicted)は次のパケットのためのオープンループにより予測されたSINR、OL_SINR_(Estimated)は過去のSINR値に基づくオープンループによって推定されたSINR、Kはバックオフ係数、σ_(e)はエラーメトリックの標準偏差である。
例えば、推定されたSINRはSINRの過去の測定に作用しているローパスフィルタのバンクから出力を選択することにより得られるかもしれない。フィルタバンクからの特定のフィルタの選択は、エラーメトリックに基づいて、特定のフィルタ出力と出力に直接従っているパケット期間上の測定されたSINRとの間の差として定義されるかもしれない。予測されたSINRは、エラーメトリックのバックオフ係数Kおよび標準偏差σ_(e)の積に等しい量だけフィルタ出力から後戻りすることにより得られる。バックオフ係数Kの値は、バックオフ制御ループにより決定され、それはテール確率、即ち予測されたSINRが測定されたSINRを超える確率が時間のある割合で達成されることを確保する。
SINR_(Predicted)値は各データレートでパケットを首尾よく解読することを要求される最小のSINRを表す一組のSINR閾値を維持するルックアップテーブル104に提供される。AT(示されない)は、そのSINR閾値が予測されたSINR以下である最も高いデータレートを選択するためにルックアップテーブル104を使用し、AP(示されない)が次のパケットをこのデータレートで送ることを要求する。)

ニ.「FIG. 2 illustrates an exemplary communication system 200 capable of implementing embodiments of the invention. An AP 204 transmits signals to an AT 202 over a forward link 206a, and receives signals from the AT 202 over a reverse link 206b. The communication system 200 can be operated bidirectionally, each of the terminals 202, 204 operating as a transmitter unit or a receiver unit, or both concurrently, depending on whether data is being transmitted from, or received at, the respective terminal 202, 204. In a cellular wireless communication system embodiment, the transmitting terminal 204 can be a base station (BS), the receiving terminal 202 can be a mobile station (MS), and the forward link 206a and reverse link 206b can be electromagnetic spectra.
The AT 202 contains an apparatus for a rate control method in accordance with one embodiment of the present invention. The apparatus contains two control loops, an open loop and a closed loop.
The open loop, comprising a SINR predictor 208 and a look up table 210, controls the forward-link data rate based on the difference between the average SINR of the next packet and SINR thresholds of all the data rates. A signal arriving at the AT 202 from the AP 204 over the forward link 206a in packets is provided to a decoder 212. The decoder 212 measures an average SINR over the duration of each packet, and provides the SINRs to the SINR predictor 208. In one embodiment, the predictor 208 predicts a SINR (OL_SNIR_(Predicted)) value of the next packet in accordance with Equation (1). However, one skilled in the art will understand that any open loop method, not limited to the one expressed by Equation (1), may be used. The OL_ SNIR_(Predicted) value is provided to the look up table 210. The look up table 210 maintains a set of SINR thresholds that represents the minimum SINR required to successfully decode a packet at each data rate. The set of SINR thresholds is adjusted by the operation of the closed loop.」
(第7頁第20行?第8頁第8行)
(仮訳:図2は発明の実施例を実行することができる例示的通信システム200を示す。AP 204は順方向リンク206a上でAT 202に信号を送信し、逆方向リンク206b上でAT 202から信号を受信する。通信システム200は、データがそれぞれの端末202、204で送信され、または受信されるか否かに依存して、送信器ユニットまたは受信器ユニット、あるいは同時に両方として作動する端末202、204の各々を双方向に作動させることができる。セルラー無線通信システムの実施例では、送信端末204は基地局(BS)であることができ、受信端末202はモバイル局(MS)であることができ、順方向リンク206aと逆方向リンク206bは電磁スペクトルであることができる。
AT 202は本発明の一実施例によるレート制御方法のための装置を含んでいる。装置は2つの制御ループ、オープンループ、およびクローズドループを含んでいる。
SINR予測器208およびルックアップテーブル210を含むオープンループは、次のパケットの平均SINRとすべてのデータレートのSINR閾値の間の差に基づいた順方向リンクデータレートを制御する。パケットの順方向リンク206a上のAP 204からAT 202に届く信号はデコーダ212に提供される。デコーダ212は各パケットの期間上の平均SINRを測定し、SINRsをSINR予測器208に提供する。一実施例では、予測器208が方程式(1)による次のパケットのSINR(OL_SINR_(Predicted))値を予測する。しかしながら、技術に熟練した者は、任意のオープンループの方法が方程式(1)によって表されたものに制限されずに使用されるかもしれないことを理解するだろう。OL_SINR_(Predicted)値はルックアップテーブル210に提供される。ルックアップテーブル210は各データレートでパケットを首尾よく解読するために必要な最小のSINRを表す一組のSINR閾値を維持する。一組のSINR閾値はクローズドループの作動により調整される。)


上記引用例の記載及び関連する図面並びにこの分野の技術常識を考慮すると、
(1)引用例には、上記ロ.から明らかなように、「データレート」を「調整」する方法について記載されており、上記イ.ロ.ハ.から明らかなように、「ユーザのチャンネル条件」に依存して「目標パケットエラーレート」を維持するように「データレート」を選択して変える「適応レート選択」であるから、「データレート」を動的に調整すると言えるものであり、
(2)上記ニ.に記載されるように、「次のパケットの平均SINRとすべてのデータレートのSINR閾値との間の差」に基づいて「データレート」が選択されており、この差は、上記ハ.に記載されるように「目標パケットエラーレート」を維持するために用いられるからエラーファクターと言えるものであり、このエラーファクターが用いられることから生成されることも自明であり、
(3)上記ニ.から明らかなように、上記エラーファクター及び「ルックアップテーブル」に少なくとも部分的に基づいて「データレート」を選択しており、選択された「データレート」は選択後に用いられるから、後続のデータレートと言えるものであり、
(4)上記ハ.の方程式(1)から明らかなように、「次のパケットの平均SINR(OL_SINR_(Predicted))」は、「推定されたSINR(OL_SINR_(Estimated))」と「K・σ_(e)」との差であるから、「次のパケットの平均SINRとすべてのデータレートのSINR閾値との間の差」は、推定されたSINRとすべてのデータレートのSINR閾値との間の差に関連しており、
(5)「推定されたSINR」は、上記ハ.に記載されるように、「過去のSINR」に基づいて推定されたものであって、「過去のSINR」が過去に送信された「信号」のSINRであることは技術常識であり、
(6)過去に送信された「信号」が「すべてのデータレート」の中の一つの「データレート」に従って送信された「信号」であることは自明であって、この「データレート」を第1データレートと称することは任意であり、
(7)上記(6)から、「すべてのデータレートのSINR閾値」に上記第1データレートのSINR閾値が含まれることは自明であり、上記ハ.からして、この第1データレートのSINR閾値が、第1データレートに従って送信された信号が目標パケットエラーレートを維持すると予測されたSINRを示すことは技術常識である。

したがって、上記(1)?(7)からして、引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認められる。

「データレートを動的に調整する方法において、
第1データレートに従って送信された信号の推定されたSINRと前記第1データレートに従って送信された信号の予測されたSINRとの間の差に関連するエラーファクターを生成する段階と、
ルックアップテーブルおよび生成された前記エラーファクターに少なくとも部分的に基づいて後続のデータレートを選択する段階と、
を含むことを特徴とする方法。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比するに、
引用発明の「信号」は、当然、データを送信する信号であるから、データ信号であり、
SINRとは、信号に対する干渉雑音比であるから、(データ)信号の性能特性といえるものであり、
引用発明の「エラーファクター」は、本願発明の「誤り係数」に相当し、
引用発明の「ルックアップテーブル」は、チャンネルのデータベースの一形態である。
また、本願発明の「送信モード」も引用発明の「データレート」も、送信の一形態を示すから、「送信形態」である。

したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「送信形態を動的に調整する方法において、
第1送信形態に従って送信されたデータ信号の推定された性能特性と前記第1送信形態に従って送信されたデータ信号の予測された性能特性との間の差に関連する誤り係数を生成する段階と、
チャンネルのデータベースおよび生成された前記誤り係数に少なくとも部分的に基づいて後続の送信形態を選択する段階と、
を含む方法。」

(相違点)
送信形態について、本願発明は「送信モード」を調整するであるのに対して、引用発明は「データレート」を調整する点。


4.検討
そこで、上記相違点について検討するに、例えば、国際公開第01/037506号、米国特許第6262994号明細書、松岡秀浩外3名“誤り訂正符号を用いた適応変調方式”1995年電子情報通信学会総合大会講演論文集,1995年 3月10日,通信1,p.433に記載されるように、データレートの調整を、変調方式、符号化方式などの送信モードの調整で実施することは周知技術であるから、引用発明の「データレート」の「調整」を、送信モードの調整により行うことは、単なる周知技術の利用にすぎない。

そして、本願発明の作用・効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-16 
結審通知日 2010-03-23 
審決日 2010-04-05 
出願番号 特願2003-582942(P2003-582942)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 龍一  
特許庁審判長 山本 春樹
特許庁審判官 萩原 義則
高野 洋
発明の名称 無線で送信された情報の送信モードをダイナミックに最適化するシステムおよび方法  
代理人 本城 吉子  
代理人 本城 雅則  

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