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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16J
管理番号 1222160
審判番号 不服2009-7239  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-04-03 
確定日 2010-08-18 
事件の表示 特願2002-42292号「一体化バックアップリングによるエラストマー付勢ロッドシール」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 9月18日出願公開、特開2002-267021号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成14年2月19日(パリ条約による優先権主張2001年2月21日、(US)アメリカ合衆国)の出願であって、平成20年12月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年4月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

II.平成21年4月3日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年4月3日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「【請求項1】 弾性材料からなり、かつOリングといった取り囲む圧力リングにより付勢され、水圧シリンダのシリンダヘッドとピストンロッドとの間といった静的装置部材と動的装置部材との間を密閉するためのシール要素であって、
前記シール要素は、前記圧力リングを前記動的装置部材の移動表面と前記静的装置部材のハウジング溝の下流側の壁部とから離間させるように、かつ前記圧力リングが、前記ハウジング溝の底部に接するように、通常の矩形ハウジング溝内に前記圧力リングとともに装着され、
前記シール要素の外径は前記ハウジング溝の底部の外径と一致するか又は前記ハウジング溝の底部の外径より大きいことを特徴とするシール要素。」(なお、下線部は補正箇所を示す。)
上記補正は、補正前の請求項1(平成20年9月30日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1)に記載された発明を特定するために必要な事項である「圧力リング」について、「前記圧力リングが、前記ハウジング溝の底部に接するように」との限定を付加したものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭62-141373号公報(以下、「引用例」という。)には、「油圧シリンダのロッドのシール装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「第2図に示すように、従来の油圧シリンダ1は、内孔1a内にロッド3に固定したピストン2を摺動自在に嵌入するもので圧力室8あるいは7に圧油を給排することで、ロッド3が矢印Aで示すように左右に移動するものである。この油圧シリンダ1のロッドカバー5には、圧力室8側から順に軸受5a、バツフアー装置5b、Uパツキン5cが配置され、そのバッファー装置5bとUパツキン5cとでシール装置Sを構成している。そのバッファー装置5bは、第3図に示すように、バッファーリング50をOリング51で押圧する構成である。バッファーリング50はOリング51が当接する基部52とロッド3の表面に当接する突起53を有する内側の部分54からなる。部分54の内周面はバッファーリング50が突起53を中心に回動させられると、ロッド3の表面との間の隙間を小さくしてバッファー作用の増強を図るようになっている。なお、バッファーリング50は硬質の合成樹脂で形成してある。
この従来の油圧シリンダ1は、圧力室7に圧油が供給されると、ロッド3は右方へ移動する。このとき、ロッド3の表面に沿った位置にある油は軸受5aを通過し、そしてバッファー装置5bに達すると、バッファーリング50の突起53でかき取られ、バッファー装置5bとUパツキン5cとの間の中間室55への進入を断たれる。また、油圧シリンダ1の作動中において、圧力室8に圧油が供給されたり、あるいは圧力室7に圧油が供給されてロッド3が右方へ移動中にその排圧が上昇して圧力室8の油圧が上昇すると、その油圧によりバッファーリング50は突起53を中心に転動してバッファー作用を増加させる。」(1ページ右下欄1行?2ページ左上欄11行)
イ.第1図(a)には、ロッドカバー5の矩形の溝内に装着されたUパッキン5cが図示されている。また、第1図(a)によれば、Uパッキン5cは、ロッド3に当接するシールリップとロッドカバー5の溝の底部に当接するシールリップからなる一対のシールリップを備え、この一対のシールリップの間にOリング51と同様の断面形状を有する部材(挿入部材)が挿入されていることが看取できる。
ウ.第1図(a)によれば、Uパッキン5cは、挿入部材をロッド3の移動表面とロッドカバー5の溝の下流側の壁部とから離間させるように、矩形の溝内に挿入部材とともに装着されていることが看取できる。
エ.Uパッキン5cが弾性材料からなること、及びUパッキン5cがロッドカバー5とロッド3との間を密閉するためのシール部材であることは明らかである。

これら記載事項及び図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「弾性材料からなり、油圧シリンダ1のロッドカバー5とロッド3との間を密閉するためのUパッキン5cであって、
前記Uパッキン5cは、挿入部材を前記ロッド3の移動表面と前記ロッドカバー5の溝の下流側の壁部とから離間させるように、矩形の溝内に前記挿入部材とともに装着されているUパッキン5c。」

3.対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、引用発明の「油圧シリンダ1」は本願補正発明の「水圧シリンダ」に相当し、以下同様に、「ロッドカバー5」は「シリンダヘッド」又は「静的装置部材」に、「ロッド3」は「ピストンロッド」又は「動的装置部材」に、「Uパッキン5c」は「シール要素」に、「溝」は「ハウジング溝」に、「矩形の溝」は「通常の矩形ハウジング溝」にそれぞれ相当するから、両者は、本願補正発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「弾性材料からなり、水圧シリンダのシリンダヘッドとピストンロッドとの間といった静的装置部材と動的装置部材との間を密閉するためのシール要素であって、
前記シール要素は、通常の矩形ハウジング溝内に装着されるシール要素。」

そして、両者は次の点で相違する(かっこ内は対応する引用発明の用語を示す。)。
[相違点]
相違点1:本願補正発明のシール要素は、「Oリングといった取り囲む圧力リングにより付勢され、」「前記圧力リングを前記動的装置部材の移動表面と前記静的装置部材のハウジング溝の下流側の壁部とから離間させるように、かつ前記圧力リングが、前記ハウジング溝の底部に接するように、通常の矩形ハウジング溝内に前記圧力リングとともに装着され」ているのに対して、引用発明のシール要素(Uパッキン5c)は、挿入部材を動的装置部材(ロッド3)の移動表面と前記静的装置部材(ロッドカバー5)の溝の下流側の壁部とから離間させるように、通常の矩形ハウジング溝(矩形の溝)内に前記挿入部材とともに装着されているものの、その挿入部材がハウジング溝の底部に接しておらず、また、その挿入部材が圧力リングといえるかどうか、即ちシール要素(Uパッキン5c)がOリングといった取り囲む圧力リングにより付勢されているといえるものか明らかでない点。
相違点2:本願補正発明は、「前記シール要素の外径は前記ハウジング溝の底部の外径と一致するか又は前記ハウジング溝の底部の外径より大きい」のに対して、引用発明は、その点が明らかでない点。

4.判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用発明においては、Uパッキン5cにおける一対のシールリップの間に挿入部材が設けられているが、その挿入部材が本願補正発明の圧力リングに相当するかどうか引用例には明記されていない。しかし、Uパッキンにおいては一般に、シールリップによる密封性を維持・向上させるために一対のシールリップの間にOリングを設けてシールリップをシール面に向けて付勢するように構成することが普通であり、例えば、特開平6-58424号公報(弾性シール部材12参照)、実願昭54-107019号(実開昭56-25865号)のマイクロフィルム(5ページ4?16行、第1図参照)、実願昭57-12572号(実開昭58-116863号)のマイクロフィルム(1ページ11?16行、第4図参照)、特開昭63-312568号公報(1ページ左下欄18行?右下欄15行、第4図参照)などに見られるように、本願出願前における周知慣用手段にすぎないことからみて、さらには、Uパッキン5cに設けられた挿入部材は、引用例の第1図(a)において、Oリング51と同様の断面形状に描かれていること(上記イ.参照)を考慮すると、引用発明のUパッキン5c(シール要素)に設けられた挿入部材はOリングといったシールリップを付勢する圧力リングであると解するのが相当である。そして、引用発明のUパッキン5cは、一対のシールリップの間に挿入された挿入部材をロッド3の移動表面とロッドカバー5の溝の下流側の壁部とから離間させるように、矩形の溝内に挿入部材とともに装着されたものである(上記ウ.参照)。
そうすると、引用発明のシール要素(Uパッキン5c)も、「Oリングといった取り囲む圧力リングにより付勢され、」「前記圧力リングを前記動的装置部材の移動表面と前記静的装置部材のハウジング溝の下流側の壁部とから離間させるように、」「通常の矩形ハウジング溝内に前記圧力リングとともに装着され」ているということができる。
してみれば、上記相違点1は、実質的には、圧力リングがハウジング溝の底部に接するように通常の矩形ハウジング溝内に装着されているかどうかの違いにすぎない。
しかしながら、シール要素を押圧するために圧力リングをハウジング溝内の底部に接するように配置することは、例えば引用例のOリング51や特開昭50-50541号公報(3ページ右下欄6?9行、第2図の圧力部材13を参照)などに見られるように従来周知の技術にすぎないから、引用発明にこの周知技術を適用し、相違点1に係る本願補正発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到できたことであるということができる。
(2)相違点2について
シール要素の外径がハウジング溝の底部の外径より小さければシールとしての作用を十分に果たすことができないことは当業者にとって明らかであるから、引用発明において、シール要素(Uパッキン5c)の外径をハウジング溝の底部の外径と一致させるか又はハウジング溝の底部の外径より大きくすることは、当業者であれば普通に採用する手段であり、容易になし得たことである。
したがって、相違点2に係る本願補正発明のように構成することは、当業者が容易に想到できたことである。

そして、本願補正発明の効果も、引用発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

なお、審判請求人は、審判請求書の中で「本願の『圧力リングが、前記ハウジング溝の底部に接するように、通常の矩形ハウジング溝内に前記圧力リングとともに装着される』という構成は、上述したように本願の全ての実施形態に共通する特徴であり、シール要素の形状の特徴を示すものです。この形状によって、シール要素自体に回転力が生じ易くなり、例えば、シール要素は動的装置部材上に強制的に押し付けられるように作用したり、あるいは、ハウジング溝の底部との接触を改良するように作用するという効果を奏するものとなります(段落[0011]参照)。」(「3.(d)本願発明と引用発明との対比」の項を参照)と主張する。しかしながら、平成20年9月30日付けの手続補正により補正された明細書の段落【0008】には、「本発明は、上述した従来技術における欠点を克服することを目指しており、かつ優れた流体境膜制御(fluid film control)による作動中に、シールが回動することを防止するように作用する独自の構成を有するシール装置を提供している。」と記載されており、審判請求人の「シール要素自体に回転力が生じ易く」なるとの主張は、明細書の上記記載と整合していない。また、仮に整合しているとしても、周知技術として例示した前掲の特開昭50-50541号公報などに記載されているシール要素も、「圧力リングが、ハウジング溝の底部に接するように、通常の矩形ハウジング溝内に前記圧力リングとともに装着される」という本願補正発明と同様の構成を備えている以上、本願補正発明と同様の効果を奏するものと解される。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし20に係る発明は、平成20年9月30日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】 弾性材料からなり、かつOリングといった取り囲む圧力リングにより付勢され、水圧シリンダのシリンダヘッドとピストンロッドとの間といった静的装置部材と動的装置部材との間を密閉するためのシール要素であって、
前記シール要素は、前記圧力リングを前記動的装置部材の移動表面と前記静的装置部材のハウジング溝の下流側の壁部とから離間させるように、通常の矩形ハウジング溝内に前記圧力リングとともに装着され、前記シール要素の外径は前記ハウジング溝の底部の外径と一致するか又は前記ハウジング溝の底部の外径より大きいことを特徴とするシール要素。」

2.引用例の記載事項
引用例の記載事項及び引用発明は、前記II.2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記II.1.の本願補正発明から、「圧力リング」についての限定事項である「前記圧力リングが、前記ハウジング溝の底部に接するように」との事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.3.及び4.に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そうすると、本願発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-18 
結審通知日 2010-03-23 
審決日 2010-04-05 
出願番号 特願2002-42292(P2002-42292)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16J)
P 1 8・ 121- Z (F16J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谿花 正由輝山本 健晴  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 川上 溢喜
藤村 聖子
発明の名称 一体化バックアップリングによるエラストマー付勢ロッドシール  
代理人 渡邊 隆  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  
代理人 志賀 正武  

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