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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
管理番号 1222344
審判番号 不服2008-8458  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-07 
確定日 2010-08-23 
事件の表示 平成9年特許願第512829号「ゼオライトを含有した高効率デリバリーシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成9年3月27日国際公開、WO97/11152、平成11年10月26日国内公表、特表平11-512483〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、1996年9月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1995年9月18日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成17年4月28日付けで拒絶理由が通知され、同年11月7日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成19年12月19日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成20年4月7日に拒絶査定を不服とする審判請求がされるとともに、同年4月22日付けで手続補正書が提出され、同年9月29日に審尋が通知されたところ、平成21年3月31日に回答書が提出されたものであり、平成21年7月14日付けで、平成20年4月22日付けの手続補正を却下する旨の決定がされるとともに、同日付けで拒絶理由が通知されたところ、平成22年1月18日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明について
上記のとおり、平成20年4月22日付けの手続補正は、平成21年7月14日付けで決定をもって却下されているので、この出願の発明は、平成17年11月7日付け及び平成22年1月18日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりの以下のものである(以下、請求項1?10の発明を、それぞれ「本願発明1」?「本願発明10」という。)。

「【請求項1】
a)ゼオライトX、ゼオライトYおよびそれらの混合物からなる群より選択される多孔質キャリア;および
b)5?100重量%のデリバリー剤を含む洗濯剤(但し、その洗濯剤は、少くとも0.1%のイソブチルキノリン、少くとも1.5%のガラキソリド50%、少くとも0.5%のムスクキシロール、少くとも1.0%のエキサルテックスおよび少くとも2.5%のパチョリ油を含有した非デリバリー剤の混合物を6%より多く含まない)を含んでなる洗濯粒子であって、
上記非デリバリー剤は、式 y+0.01068x>1.497により規定される容積/表面積比vs.横断面積を有し、
上記洗濯剤は香料剤であり、
(a)5?100重量%の一以上のデリバリー剤(但し、該デリバリー剤は式 y+0.01068x≦1.497により規定される容積/表面積比vs.横断面積を有する);および
(b)0.1?50重量%のブロッカー剤(但し、該ブロッカー剤は式y+0.01325x>1.46 および y+0.01068x≦1.497により規定される容積/表面積比vs.横断面積を有する)(但し、上記において、xは分子横断面積であり、yは分子容積/表面積比である)を含むことを特徴とする、上記洗濯粒子。
【請求項2】
10ppb?1ppmのODTを有するデリバリー剤0?80%と、
10ppb以下のODTを有するデリバリー剤20?100%とを含んでいる、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
少くとも80%のデリバリー剤が、1.0より大きな計算ClogP値を有している、請求項1または2に記載の粒子。
【請求項4】
少くとも50%のデリバリー剤が、300℃未満の沸点を有している、請求項1?3のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項5】
a)請求項1に記載された洗濯粒子0.01?50重量%;および
b)全部で40?99.99重量%の、界面活性剤、ビルダー、漂白剤、酵素、汚れ放出ポリマー、染料移動阻止剤およびそれらの混合物からなる群より選択される洗濯成分を含んでなる顆粒洗剤組成物。
【請求項6】
5?80重量%の洗剤ビルダーおよび5?80重量%の洗浄性界面活性剤を更に含んでいる、請求項5に記載の洗剤組成物。
【請求項7】
少くとも550g/lの嵩密度を有する、請求項5または6に記載の顆粒洗剤組成物。
【請求項8】
洗剤顆粒の表面上にスプレーされた香料を更に含んでいる、請求項5?7のいずれか一項に記載の洗剤組成物。
【請求項9】
a)請求項2に記載された洗濯粒子0.01?50重量%;および
b)全部で40?99.99重量%の、界面活性剤、ビルダー、漂白剤、酵素、汚れ放出ポリマー、染料移動阻止剤およびそれらの混合物からなる群より選択される洗濯成分を含んでなる顆粒洗剤組成物。
【請求項10】
a)請求項3に記載された洗濯粒子0.01?50重量%;および
b)全部で40?99.99重量%の、界面活性剤、ビルダー、漂白剤、酵素、汚れ放出ポリマー、染料移動阻止剤およびそれらの混合物からなる群より選択される洗濯成分を含んでなる顆粒洗剤組成物。」

第3 当審で通知した拒絶の理由
平成21年7月13日付けで当審で通知した拒絶の理由の概要は、この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合せず、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない、というものである。

第4 当審の判断
1 はじめに
特許法第36条第6項は、「第三項第四号の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号に規定する要件(いわゆる、「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、「特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの」(知財高裁特別部平成17年(行ケ)第10042号判決)である。
以下、この観点に立って、本願発明について検討する。

2 本願発明1について
(1)本願発明1の課題
本願明細書の発明の詳細な説明(審決注:本願明細書の発明の詳細な説明の記載内容は、願書に最初に添付された明細書の発明の詳細な説明の記載内容と同じ。以下、本願明細書の摘示は、願書に最初に添付された明細書(翻訳文)の頁及び行で表す。)の記載(特に1頁4?5行、4頁22行?5頁1行)から判断して、本願発明1の課題は、「香料剤のデリバリー用の洗濯粒子において、洗濯プロセス中および後に効果(特に、布帛臭効果)を発揮し、香料含有組成物の貯蔵中に製品臭を減少させ、かつ、貯蔵、乾燥またはアイロンかけしながら熱または湿気に暴されたときにも、洗濯された布帛から持続的香気放出の追加効果を付与すること」にあると認められる。

(2)本願発明1と発明の詳細な説明に記載された発明との対比
ア 本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
a「本発明は、脱水された・・・タイプXゼオライト、タイプYゼオライトまたはそれらの混合物を含んでなるデリバリーシステムに関し、洗濯剤(好ましくは香料または香料の混合物)が上記ゼオライトの孔中に吸収されている。
・・・本発明の組成物では、以下で詳細に記載されるような特別な選択基準に基づいて、ゼオライト粒子上に吸着されるシステムの一部である剤を劇的に限定している。このような選択基準では、更に、利用される剤の量を最少にしながら消費者認識効果を最大にするために、ゼオライト孔中に取り込ませるとき、これらの剤間の相互作用を利用できるように、業者にさせることができる。」(6頁16行?7頁4行)
b「本発明により有用な原料および組合せを特定する選択基準は、以下で規定されている。例えば少しのレベルの・・・ブロッカー剤を含有させることにより、ゼオライトから洗濯剤の放出を更に遅らせるように相互作用する組合せが特に望ましい。」(7頁15?18行)
c「洗濯洗浄プロセスの水性媒体に暴される本発明組成物の目的にとり、ゲスト分子のいくつかの特徴的パラメーターはそれらの最長および最広幅測定値、横断面積、分子容、分子表面積を特定および規定する上で重要である。これらの値は、CHEMX で最適にされた標準幾何学で調べられる最少エネルギー立体配座で分子のCHEMX プログラム(Chemical Design,Ltd.)を用いて、更に標準原子ファンデルワールス半径を用いて、個別の剤(例えば、個別の香料分子)について計算される。そのパラメーターの定義は下記のとおりである:
“最長”:それらのファンデルワールス半径により増大された分子中における原子間の最大距離(オングストローム)
“最広幅”:分子の“最長”軸と垂直な面上における分子の投影で、それらのファンデルワールス半径により増大された分子中における原子間の最大距離(オングストローム)
“横断面積”:最長軸に垂直な面で分子の投影により占められる面積(平方オングストローム単位)
“分子容”:その最少エネルギー立体配置で分子により占められる容積(立方オングストローム単位)
“分子表面積”:平方オングストロームとして定める任意単位(・・・)
分子の形状も取込みに重要である。例えば、ゼオライト溝中に含有させる上で十分小さい対称完全球形分子は好ましい方向性を有しておらず、いかなるアプローチ方向からも取り込まれる。しかしながら、孔寸法を超える長さを有した分子の場合には、含有上好ましい“アプローチ方向”がある。分子容積/表面積比の計算は、分子について“形状インデックス”を表すために本発明で用いられる。値が高くなると、分子は球形になる。」(8頁5行?9頁4行)
d「本発明の目的にとり、剤はゼオライト孔中に取り込まれるそれらの能力と、ひいてはゼオライトキャリアから水性環境中へのデリバリー用の成分としてそれらの有用性により分類される。これらの剤を容積/表面積比 vs.横断面積面でプロットする(図1参照)と、ゼオライト中へのそれらの取込みに基づいて、剤をグループにうまく分類できる。特に、本発明によるゼオライトXおよびYキャリアの場合、剤が下記式で規定される(本明細書では“取込みライン”と称される)ラインの下に属するならば、それらは取り込まれる:
y=-0.01068x+1.497
上記においてxは横断面積であり、yは容積/表面積比である。取込みラインの下に属する剤は本明細書で“デリバリー剤”と称される;そのラインの上に属する剤は本明細書で“非デリバリー剤”と称される。
洗浄中の封じ込めのため、デリバリー剤は競合デリバリー剤と比較したキャリアへのそれらの親和性の関数としてゼオライトキャリアに留められる。親和性は分子サイズ、疎水性、機能性、揮発性などにより影響され、ゼオライトキャリア内でデリバリー剤間の相互作用によりもたらされる。これらの相互作用は、取り込まれたデリバリー剤混合物について改善された洗浄中封じ込めを行える。特に、本発明では、ゼオライトキャリア孔寸法とぴったり合う少くとも1つの寸法を有したデリバリー剤の使用は、水性洗浄環境で他のデリバリー剤の喪失を遅らせる。こうして機能するデリバリー剤は本明細書で“ブロッカー剤”と称され、(前記のような)“取込みライン”の下にあって、下記式で規定される(本明細書では“ブロッカーライン”と称される)ラインの上に属するデリバリー剤分子として、容積/表面積比 vs.横断面積面により本発明で規定される:
y=-0.01325x+1.46
上記においてxは横断面積であり、yは容積/表面積比である。
キャリアとしてゼオライトXおよびYを利用する本発明組成物にとり、“取込みライン”下におけるすべてのデリバリー剤は本発明組成物からデリバリーおよび放出できて、好ましい物質は“ブロッカーライン”の下に属する。ブロッカー剤および他のデリバリー剤の混合物も好ましい。」(9頁5行?10頁7行)
d’「明らかに、香料剤が組成物によりデリバリーされている本発明組成物の場合には、感覚的知覚が、消費者により認められる効果上必要である。本発明香料組成物の場合に、有用な最も好ましい香料剤は、10部/十億(“ppb”)以下の(後で詳細に記載されるような、慎重にコントロールされたGC条件下で香気検出閾値(“ODT”)として測定される)認識の閾値を有している。ODT10ppb?1部/百万(“ppm”)の剤はそれほど好ましくない。ODT1ppm以上の剤は避けることが好ましい。本発明洗濯粒子に有用な洗濯剤香料混合物は、好ましくは、ODT10ppb?1ppmのデリバリー剤約0?約80%と、ODT10ppb以下のデリバリー剤約20?約100%(好ましくは約30?約100%、更に好ましくは約50?約100%)とを含んでなる。
洗濯プロセスをやりすごして、乾燥布帛周囲の空気(例えば、貯蔵中に布帛周囲の空間)中に放出される香料も好ましい。これにはゼオライト孔から香料の移動を要して、その後で布帛周囲の空気中に出される。したがって、好ましい香料剤はそれらの揮発性に基づき更に特定される。沸点は揮発性の尺度として本発明で用いられ、好ましい物質は300℃未満の沸点を有している。本発明洗濯粒子に有用な洗濯剤香料混合物は、好ましくは、沸点300℃未満のデリバリー剤を少くとも約50%(好ましくは少くとも約60%、更に好ましくは少くとも約70%)含む。
加えて、本発明で好ましい洗濯粒子は、少くとも約80%、更に好ましくは少くとも約90%のデリバリー剤が約1.0を越える“ClogP値”を有している組成物を含んでなる。ClogP値は下記のように得られる。
ClogPの計算:
これらの香料成分は、それらのオクタノール/水分配係数Pにより特徴付けられる。香料成分のオクタノール/水分配係数は、オクタノール中と水中との間におけるその平衡濃度の比率である。ほとんどの香料成分の分配係数は大きいため、それらは基数10のそれらの対数、logPの形でより便宜的に示される。
多くの香料成分のlogPが報告されている;例えばDaylight Chemical Information Systems,Inc.(Daylight CIS)から入手できるPomona92データベースではオリジナル文献の引用と一緒に多くを含んでいる。
しかしながら、logP値はDaylight CISからも入手できる“CLOGP”プログラムにより計算すると最も便利である。このプログラムでは、それらがPomona92データベースで利用できるとき、実験logP値についても掲載している。“計算logP”(ClogP)はHansch & Leoのフラグメントアプローチにより決定される(cf.,A.Leo in Comprehensive Medicinal Chemistry,Vol.4,C.Hansch,P.G.Sammens,J.B.Taylor & C.A.Ramsden,Eds.,p.295,Pergamon Press,1990)。フラグメントアプローチは各香料成分の化学構造に基づいており、原子の数およびタイプ、原子結合と化学結合について考慮している。この物理化学的性質について最も信頼できて広く用いられる推定値であるClogP値は、香料成分の選択に際して、実験logP値の代わりに用いることができる。
香気検出閾値の決定:
ガスクロマトグラフは、シリンジにより注入される物質の正確な容量、正確なスプリット比と、既知濃度および鎖長分布の炭化水素標準を用いた炭化水素応答を調べるために特徴付けられる。空気流速はヒト吸入時間を0.2分間として仮定して正確に測定され、サンプリングされた容量が計算される。正確な濃度は検出器でいかなる時点にも知られているため、吸入された容量当たりの質量と、ひいては物質の濃度がわかる。物質が10ppb以下の閾値を有するかどうかを調べるために、溶液は逆計算された濃度で臭いかぎ口にデリバリーされる。パネリストはGC流出液の臭いをかいで、臭いに気付いたときに保持時間を特定する。すべてのパネリストについての平均が認識の閾値を決める。
被検体の必要量は、検出器で10ppb濃度に達するようにカラムに注入される。」(10頁15行?12頁15行)
e「求める香気印象にとり望ましいように単独でまたは組合せで本発明組成物にとり有用なデリバリー剤である典型的な香料剤には以下があるが、それらに限定されない。
1.ブロッカー剤:

LPG201・・・
2.他のデリバリー剤:

エチルアセトアセテート・・・」(13頁23行?21頁7行)
f「 本発明で有用なゼオライトは、約8オングストローム単位、典型的には約7.4?約10オングストローム単位範囲の呼称孔径を双方とも有する、タイプXゼオライトまたはタイプYゼオライトを含めた、ホージャサイトタイプゼオライトである。」(21頁17?20行)
g「 例I
コートされた香料キャリア粒子の製造
ステップ1 ゼオライトへの香料成分添加:
ゼオライト13X粉末約1500gをジャケット温度?140°F(?60℃)の5lLittlerford ploughミキサーに加える。香料成分300gを耐圧ボンベ中に入れて、5psig(約0.35 kg/cm^(2))に加圧する。これらの香料成分は以下である:
成分 Wt%
アリルアミルグリコレート 0.2
・・・
ウンデカベルトール 10.18
ミキサーオンにして、香料をLittlerford に加え、?1.75時間ミックスする。次いで冷却水をジャケットに?15分間かけて加えながらミキシングを続けて、香料担持を完了させる。
ステップ2 グルコース/グリセロールコーティング混合物の調製:・・・
ステップ3 香料/ゼオライト粒子へのグルコース/グリセロールコーティング混合物の添加:・・・
洗濯粒子組成物は、下記のような洗浄成分と組み合わせて用いる。」(27頁22行?29頁6行)
g’「 例II‐IV
例Iで製造された香料粒子を配合している、特にトップローディング(top-loading)洗濯機向けに本発明に従い作られたいくつかの洗剤組成物を以下に例示する。

1.ジエチレントリアミン五酢酸
2.1995年5月16日付で発行されたGosselink らの
米国特許第5,415,807号に従い製造
3.ノナノイルオキシベンゼンスルホネート
4.Novo Nordisk A/Sから購入
5.Genencorから購入
6.Ciba-Geigyから購入
7.ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸
8.テトラアセチルエチレンジアミン
9.例Iから」(74頁14行?76頁末行)
h 「

」(図1)
h’「 図面の簡単な説明
図1は、取込みラインおよびブロッカーラインの表示と共に、容積/表面積比vs.横断面積面で様々な洗濯剤のプロットを表したグラフである。」(6頁13?15行)

イ 上記アの摘示からみて、発明の詳細な説明には、「利用される剤の量を最少にしながら消費者認識効果を最大にするために」、洗濯剤(好ましくは香料または香料の混合物)を「ゼオライト孔中に取り込ませるとき、これらの剤間の相互作用を利用できる」(摘示a)ことが記載され、また、「少しのレベルのブロッカー剤を含有させることにより、ゼオライトから洗濯剤の放出を更に遅らせるように相互作用する」(摘示b)ことも記載されている。
そして、洗濯剤の一種である香料剤を構成する香料分子を、x、yを用いた2種の式(摘示d。以下、まとめて「2式」という。)による直線を境界とする範囲(摘示hの図1参照)で特定し、「ゼオライト孔中に取り込」まれる香料分子としては、「y=-0.01068x+1.497」で表される「“取込みライン”と称されるラインの下」(式 y+0.01068x≦1.497で規定される範囲)に属する「デリバリー剤」を用いること(摘示d)が記載されている。また、「ゼオライトから洗濯剤の放出を更に遅らせ」(摘示b)、特に、「他のデリバリー剤の喪失を遅らせる」ために使用される剤としては、「ゼオライトキャリア孔寸法とぴったり合う少くとも1つの寸法を有したデリバリー剤」、すなわち、「“取込みライン”の下にあって、」かつ、「y=-0.01325x+1.46」で表される「“ブロッカーライン”と称されるラインの上」(式 y+0.01325x>1.46 および y+0.01068x≦1.497で規定される範囲)に属するデリバリー剤である「ブロッカー剤」を用いることが記載されている(摘示d)。ここで、上記2式において、「xは横断面積であり、yは容積/表面積比」(摘示d)であり、それぞれの値は、「最少エネルギー立体配座」及び「標準原子ファンデルワールス半径」を用いて、「個別の剤(例えば、個別の香料分子)について計算される」こと(摘示c)、「分子容積/表面積比」は、分子について“形状インデックス”を表すために用いられ、「値が高くなると、分子は球形になる」(摘示c)ことも記載されている。

ウ そうすると、「取込みライン」及び「ブロッカーライン」を規定する上記2式が、香料分子のサイズ(横断面積x)と形状(容積/表面積比y)に関する式であり、個別の香料分子のx、yの値は、計算により求められることまでは理解できるが、発明の詳細な説明には、上記2式を算出した根拠及び妥当性、特に、「取込みライン」という、ゼオライト孔に取り込まれるか否かの境界線、及び、「ブロッカーライン」という、ゼオライト孔とぴったり合う少くとも1つの寸法を有するか否かの境界線をどのように設定し、上記2式におけるxの係数や定数をどのように求めたのかを、理論的に説明する記載はない。
また、ゼオライト孔に上記香料分子が取り込まれる条件を数値化する場合、香料分子のサイズや形状だけでなく、取り込む側のゼオライト孔の孔径も考慮し、両者の関係性を特定すべきであるところ、上記2式における変数であるx、yのいずれもが、香料分子のみに関するものであり、ゼオライトの孔径についての情報は、上記2式に含まれていない。
つまり、摘示hの図1には、横軸を「横断面積」とし、縦軸を「形状インデックス」、すなわち、「分子容積/表面積比」で表される値(摘示c、h’)として香料剤を含む洗濯剤をプロットしたグラフが示されているが、その定義からみて、x、yは各香料分子に固有のものであって、ゼオライトX、ゼオライトYの孔径とは無関係に、一香料分子につき一つの位置が特定されるといえる。
他方、取り込む側のゼオライトX、ゼオライトYは、その種類によって孔径が変化し、同じ種類では均一な孔径を有することが周知であるから、「約8オングストローム単位、典型的には約7.4?約10オングストローム単位範囲の呼吸孔径」(摘示f)という孔径は、例えば、7.4オングストロームの孔径のゼオライトを用いる場合と、10オングストロームの孔径のゼオライトを用いる場合があるということである。そうすると、摘示hの図1における、ブロッカーラインと取込みラインは、上記のとおりどのように求めたのか明らかでないが、例えば約7.4?約10オングストロームのうちのいずれか一つの孔径のゼオライトを用いた場合のラインであるといえる。
しかし、例えば、7.4オングストロームの孔径を有するゼオライトに、ぴったり合う寸法を有したブロッカー剤となる香料分子が、10オングストロームの孔径を有するゼオライトにも同様に、ぴったり合う寸法を有したブロッカー剤として機能することができないことは明らかである。ゼオライトの細孔が7.4オングストロームの孔径と10オングストロームの孔径とでは、孔径にして約1.3倍、面積にして約1.8倍(審決注:面積の単位(オングストロームの二乗)を考慮すると、両孔径の二乗の比に相当。)の違いがあるから、ブロッカー剤として機能できる香料分子は、同じ形状インデックス(分子容積/表面積比)を持つ分子であれば、横断面積にして約1.8倍の大きさが異なるものとなるはずであり、ブロッカーラインの位置は、ゼオライトの孔径によって変化するといえる。デリバリー剤と非デリバリー剤の境界を規定する取込みラインについても同様のことがいえる。したがって、ゼオライトの孔径の差異を考慮することなく、香料分子のサイズと形状に関するx、yの変数のみで、「取込みライン」と「ブロッカーライン」を一義的に規定することはできないといえる。
よって、上記2式の境界線により範囲が特定された本願発明1の「(a)・・デリバリー剤」及び「(b)・・ブロッカー剤」が、どのような孔径のゼオライトX、ゼオライトYを用いた場合であっても、それぞれ「デリバリー剤」及び「ブロッカー剤」として機能し、本願発明1の上記(1)の課題を解決できるといえる程度に、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。

エ 上記ウのとおり、そもそも本願発明1の「(a)・・デリバリー剤」及び「(b)・・ブロッカー剤」を規定する上記2式の算出根拠について発明の詳細な説明に記載されておらず、また、上記2式の境界線により範囲が特定された「デリバリー剤」及び「ブロッカー剤」が、本願発明1の課題を解決できるといえる程度に、発明の詳細な説明に記載されているとはいえないが、具体的な香料剤について、発明の詳細な説明に、本願発明1の課題を解決できるといえる程度の記載があるか否かについても、以下に検討する。
上記摘示eには、「ブロッカー剤」、「他のデリバリー剤」として、多数の香料分子が例示されているものの、上記香料分子の各々について、上記2式を導くための横断面積、容積/表面積比の値が不明であり、デリバリー剤又はブロッカー剤の定義に実際に合致するものであるか否かが、発明の詳細な説明の記載からは明らかでなく、また、上記各香料分子が、どのような孔径のゼオライトX、ゼオライトYを用いた場合であっても、それぞれ「デリバリー剤」及び「ブロッカー剤」として機能するか否かが、発明の詳細な説明の記載からは明らかでない。
また、実施例の記載をみても、例I(摘示g)には、香料成分の配合例と、配合された香料成分をゼオライトへ担持する製造方法が記載されており、例II?XXVI(摘示g’)には、例Iの香料粒子を配合した洗剤組成物の配合例が記載されているだけであって、香料剤を含んだ洗濯粒子又は該洗濯粒子を配合した洗剤組成物を使用した場合の具体的な効果については一切記載されていないうえ、例Iの香料成分は、いずれも摘示eにおける「他のデリバリー剤」に属するものであって、「ブロッカー剤」に属するものはないから、本願発明1の実施例であるともいえない。
よって、摘示eで例示された香料分子が、ゼオライトX又はゼオライトYに対し、ブロッカー剤又はデリバリー剤として実際に機能し、上記イに記載した「利用される剤の量を最少にしながら消費者認識効果を最大にするために」、洗濯剤の一種である香料剤を「ゼオライト孔中に取り込ませるとき、これらの剤間の相互作用を利用できる」(摘示a)もの、また、「少しのレベルのブロッカー剤を含有させることにより、ゼオライトから洗濯剤の放出を更に遅らせるように相互作用する」(摘示b)ものとして、具体的な裏付けをもって記載されていないから、具体的な香料剤についても、発明の詳細な説明に、本願発明1の上記(1)の課題を解決できるといえる程度の記載があるとはいえない。

オ したがって、発明の詳細な説明の記載が、上記(1)で記載した本願発明1の課題である「香料剤のデリバリー用の洗濯粒子において、洗濯プロセス中および後に効果(特に、布帛臭効果)を発揮し、香料含有組成物の貯蔵中に製品臭を減少させ、かつ、貯蔵、乾燥またはアイロンかけしながら熱または湿気に曝されたときにも、洗濯された布帛から持続的香気放出の追加効果を付与すること」を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。

(3)出願時の技術常識について
ア 出願時の技術常識について検討するに際し、この出願の出願前に頒布された刊行物である国際公開第94/28107号(審査時に引用された引用文献1。日本語訳については、特表平8-510785号公報(以下、「公表公報」という。)参照。)を引用する。上記刊行物には、以下の記載がある。
1a「A perfume delivery composition in the form of particles comprising:
a) a solid, water-insoluble, porous carrier which comprises a natural or synthetic zeolite having a nominal pore size of at least 6 Angstroms:
b) a perfume which is releasably incorporated in the pores of said zeolite carrier to provide a perfumed zeolite,; and ・・・」(Claim 1)
(「a)少くとも6Åの呼称孔径を有する天然又は合成ゼオライトからなる固体非水溶性多孔質キャリア;
b)香料化ゼオライトを形成するように上記ゼオライトキャリアの孔中に放出可能に配合された香料;及び・・・
を含んだ,粒子形態の香料デリバリー組成物。」(公表公報の請求項1))
1b「A composition according to any of Claims 1-3 wherein the zeolite is Zeolite X or Zeolite Y.」(Claim 4)
(「ゼオライトがゼオライトX又はゼオライトYである、請求項1?3のいずれか一項に記載の組成物。」(公表公報の請求項4))
1c「It is also believed that since the perfume is incorporated into the relatively large zeolite pores, it has better perfume retention through the laundry process than other smaller pore size zeolites in which the perfume is predominately adsorbed on the zeolite surface. Fabrics treated by such perfume delivery systems thus have higher scent intensity and remain scented for longer periods of time after laundering.」(3頁34行?4頁3行)
(「香料は比較的大きなゼオライト孔中に配合されるため、香料が主にゼオライト表面に吸着される他の小さな孔径のゼオライトよりも良い香料保持性を洗濯プロセス中に有していると考えられる。このため、このような香料デリバリー系で処理された布帛は高い香気強度を有し、洗濯後も長期間にわたり香りを留める。」(公表公報の6頁17?22行))

イ 摘示1a?1cの記載から、少なくとも、ゼオライトX又はゼオライトYと、その孔中に配合される香料からなり、所望の香料保持効果を有する粒子形態の香料デリバリー組成物は、出願時に当業者に知られていたものの、ゼオライトX又はゼオライトYに対し、いずれの香料分子が、「ブロッカー剤」として機能し、「洗濯剤の放出を更に遅らせる」ことができるのかを、当業者が技術常識から理解できるものではなく、また、ブロッカー剤及びデリバリー剤の境界となる「ブロッカーライン」及び「取込みライン」を、ゼオライトの孔径によらず、香料分子のサイズや形状のみにより設定しても、香料分子が、ゼオライトに対し、ブロッカー剤又はデリバリー剤として機能し得るとする技術常識があったともいえない。
また、その他の技術常識を考慮しても、ゼオライトX又はゼオライトYに対し、いずれの香料分子が、ブロッカー剤として機能し、「洗濯剤の放出を更に遅らせる」ことができるのかを、当業者が技術常識から理解できるものではなく、また、ブロッカー剤及びデリバリー剤の境界となる「ブロッカーライン」及び「取込みライン」を、ゼオライトの孔径によらず、香料分子のサイズや形状のみにより設定しても、香料分子が、ゼオライトに対し、ブロッカー剤又はデリバリー剤として機能し得るとする技術常識があったともいえない。
したがって、当業者の技術常識に照らしても、本願発明1が、上記(1)の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。

(4)本願発明1についてのまとめ
以上のとおり、本願発明1は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、さらに、当業者の技術常識に照らしても、本願発明1が、上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
よって、本願発明1は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということができない。

3 本願発明2?4について
本願発明2?4は、本願発明1において、デリバリー剤を、「ODT」、「計算ClogP値」、「沸点」でさらに特定するものであり、本願発明1と同様の課題を有するものである。
しかし、上記特定は摘示d’にその定義が示されているとおり、各香料分子に固有の値を有するものであって、ゼオライトの孔径とは無関係に特定されるものであるから、該特定によっても、上記2式の境界線により範囲が特定された「デリバリー剤」及び「ブロッカー剤」が、どのような孔径のゼオライトX、ゼオライトYを用いた場合であっても、それぞれ「デリバリー剤」及び「ブロッカー剤」として機能するといえるものではない。
よって、本願発明1について上記2に説示したのと同様の理由により、本願発明2?4は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということはできない。

4 本願発明5?10について
本願発明5?10は、本願発明1?3のいずれかに記載された洗濯粒子を含んでなる顆粒洗剤組成物の発明であるから、本願発明1と同様の課題を有するものであり、本願発明1について上記2に説示したのと同様の理由により、本願発明5?10は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということはできない。

5 まとめ
以上のとおり、請求項1?10の各記載は、同各項に記載された事項で特定される特許を受けようとする本願発明1?10が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということはできず、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものであるとはいえない。

6 請求人の主張について
(1)請求人は、平成22年1月18日付けの意見書の3.において、以下のように主張している。
ア「「取込みライン」及び「ブロッカーライン」を規定する上記2式は、典型的な孔径の差異を既に考慮に入れたものとなっております。よって、ライン間で定義された洗剤は、7.4?約10オングストローム単位範囲の孔径を有するゼオライトX又はゼオライトYの何れかによって、働くものであることが当然に理解されます。
実際、上記定義された式等は、7.4?約10オングストローム単位範囲の孔径を有するゼオライトX又はゼオライトYの両方の為に、細孔の取込み及びブロッカーを実際に付与することができるものとなっているのです。従って、本願発明は明細書に開示され、かつ、当業者が容易に認識することができるものとなっております。」
イ「実施例Iにおける全ての剤は配送剤(審決注:「デリバリー剤」のことであると解される。)であり、「ブロック剤」(審決注:「ブロッカー剤」のことであると解される。)ではないものですが、この「ブロック剤」については、本願明細書第9頁乃至11頁に明確に開示されております。従って、本願明細書を一読した当業者であれば、所望の洗剤を得るために、そのような剤を実施例Iに開示された剤に添加し改良してみることは当然に行うはずです。従って、本願明細書は、当業者が本願発明を実施出来る程度に、これらの内容を明確に教示し、説明しているものとなっております。」

(2)しかしながら、上記アについては、上記2(2)ウに説示したとおり、「取込みライン」という、ゼオライト孔に取り込まれるか否かの境界線、及び、「ブロッカーライン」という、ゼオライト孔とぴったり合う少くとも1つの寸法を有するか否かの境界線は、ゼオライトの孔径によって変化し、ゼオライトの孔径の差異を考慮することなく、香料分子のサイズと形状に関するx、yの変数のみで、「取込みライン」と「ブロッカーライン」を一義的に規定することはできないといえるから、上記2式が孔径の差異を考慮に入れたものであるとは認められない。また、上記2式で規定される「デリバリー剤」及び「ブロッカー剤」が、7.4?約10オングストローム単位範囲の孔径を有するゼオライトX又はゼオライトYの両方の為に、細孔の取込み及びブロッカーを実際に付与することができるものとなっているとする根拠も、発明の詳細な説明に具体的に開示されているとはいえない。
そして、上記イについては、上記1に説示したように、「特許請求の範囲に記載された発明が、・・・発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである」ときに、明細書のサポート要件に適合するといえるところ、上記2(2)ウに説示したとおり、上記2式の境界線により範囲が特定された「デリバリー剤」及び「ブロッカー剤」が、本願発明1の課題を解決できるといえる程度に、発明の詳細な説明に記載されているとはいえるものではなく、上記2(2)エに説示したとおり、摘示eにブロッカー剤に該当する香料分子が例示されているものの、ゼオライトの孔径の差異に関わりなく、「ブロッカー剤」として機能するか否かが、発明の詳細な説明の記載からは明らかでないから、発明の詳細な説明の摘示eの記載をみて、「ブロッカー剤」とされる香料分子を添加することはできたとしても、発明の詳細な説明の記載により、本願発明1?10の課題が解決できると認識できるとはいえない。
また、上記2(3)に説示したとおり、いずれの香料分子が、「ブロッカー剤」として機能し、「洗濯剤の放出を更に遅らせる」ことができるのかを、当業者が技術常識から理解できるものではないといえるから、発明の詳細な説明に香料分子を「ブロッカー剤」として用いた場合の効果を裏付けをもって示されていない以上、発明の詳細な説明の記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし本願発明1?10の課題を解決できると認識できるとはいえない。
よって、請求人の上記(1)の主張はいずれも採用することができない。

第6 むすび
したがって、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものであるとはいえないから、この出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、その余のことを検討するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-01 
結審通知日 2010-04-02 
審決日 2010-04-13 
出願番号 特願平9-512829
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C11D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 泰之中村 浩  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 松本 直子
原 健司
発明の名称 ゼオライトを含有した高効率デリバリーシステム  
代理人 堅田 健史  
代理人 吉武 賢次  
代理人 横田 修孝  
代理人 中村 行孝  
代理人 紺野 昭男  

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