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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1222389
審判番号 不服2009-7331  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-04-06 
確定日 2010-08-23 
事件の表示 平成11年特許願第303225号「プリントシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 5月23日出願公開、特開2000-141701〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年10月26日(パリ条約による優先権主張1998年10月26日、米国)に出願したものであって、平成20年11月4日に手続補正がなされ、平成21年1月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月6日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年4月22日に明細書についての手続補正がなされたものである。
その後、同年8月26日付けで、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、同年11月9日に回答書が提出された。

2.平成21年4月22日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年4月22日の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正は、特許請求の範囲(請求項数5)についての補正を含んでおり、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「頂面および対向する底面を有すると共に、第1の縁を有する基板と、
インク槽と、
内部に複数のインクオリフィスが形成され、前記基板の前記頂面の上にあるように配置されたノズル部材と、
前記複数のオリフィスのそれぞれに関連し、第1の端および第2の端を有するものであって、前記第1の端が前記インク槽に連通している1つ以上の溝と、
前記基板の頂面上に形成され、それぞれが前記オリフィスのうちの関連する1つに近接して配置されて、該関連するオリフィスからインクの一部を吐出する複数のインク噴出要素と、
それぞれが1つの前記インクオリフィスおよび1つの前記インク噴出要素に関連する複数のインク噴出チャンバと、
該インク噴出チャンバおよび前記溝あるいは前記溝のそれぞれの前記第2の端に関連し連通しており、前記溝のみによって前記インク槽に連通している少なくとも1つのインク受け取りチャンバであって、前記溝によって、インクが前記インク槽から前記少なくとも1つのインク受け取りチャンバに流れることができ、前記インクが、前記オリフィスおよび前記インク噴出要素に近接するように前記少なくとも1つのインク受け取りチャンバから流れ絞りによって前記インク噴出チャンバに流入するように流れ絞りが配置されており、前記溝あるいは前記溝のそれぞれの断面寸法は、前記流れ絞りの断面寸法よりも小さく、それにより、前記溝を十分通り抜けられるくらい小さい粒子はいかなるものでもその後前記プリントヘッド内で障害を引き起こすことはない少なくとも1つのインク受け取りチャンバとを備え、
前記少なくとも1つのインク受け取りチャンバおよび前記複数のインク噴出チャンバは、前記基板と前記ノズル部材との間のバリアー層内に形成され、前記少なくとも1つの溝は前記ノズル部材内に形成されているプリントシステム。」
から
「頂面および対向する底面を有すると共に、第1の縁を有する基板と、
インク槽と、
内部に複数のインクオリフィスが形成され、前記基板の前記頂面の上にあるように配置されたノズル部材と、
前記複数のオリフィスのそれぞれに関連し、第1の端および第2の端を有するものであって、前記第1の端が前記インク槽に連通している1つ以上の溝と、
前記基板の頂面上に形成され、それぞれが前記オリフィスのうちの関連する1つに近接して配置されて、該関連するオリフィスからインクの一部を吐出する複数のインク噴出要素と、
それぞれが1つの前記インクオリフィスおよび1つの前記インク噴出要素に関連する複数のインク噴出チャンバと、
該インク噴出チャンバおよび前記溝あるいは前記溝のそれぞれの前記第2の端に関連し連通しており、前記溝のみによって前記インク槽に連通している少なくとも1つのインク受け取りチャンバであって、前記溝によって、インクが前記インク槽から前記少なくとも1つのインク受け取りチャンバに流れることができ、前記インクが、前記オリフィスおよび前記インク噴出要素に近接するように前記少なくとも1つのインク受け取りチャンバから流れ絞りによって前記インク噴出チャンバに流入するように流れ絞りが配置されており、前記溝あるいは前記溝のそれぞれの断面寸法は、前記流れ絞りの断面寸法よりも小さく、それにより、前記溝を十分通り抜けられるくらい小さい粒子はいかなるものでもその後前記プリントヘッド内で障害を引き起こすことはない少なくとも1つのインク受け取りチャンバとを備え、
前記少なくとも1つのインク受け取りチャンバおよび前記複数のインク噴出チャンバは、前記基板と前記ノズル部材との間のバリアー層内に形成され、前記少なくとも1つの溝は前記ノズル部材内に形成され、
前記インク受け取りチャンバは前記バリアー層の縁から離れて配置され、前記少なくとも1つの溝は前記バリアー層の前記縁を越えて前記インク受け取りチャンバの上まで延在しているプリントシステム。」
に補正された。(下線は補正箇所を示し、本件補正において付されたとおりである。)
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「インク受け取りチャンバ」について、「前記バリアー層の縁から離れて配置され」と限定し、「少なくとも1つの溝」について、「前記バリアー層の前記縁を越えて前記インク受け取りチャンバの上まで延在し」と限定したものであって、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用刊行物
(a)原査定の拒絶の理由に引用された米国特許第5638101号明細書(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載が図示とともにある。(日本語訳は、パテントファミリーである特開平8-174837号公報を参考にした。)
ア.「Generally, the particular architecture of the ink channels 132 in FIG. 15 provides advantages over the architecture shown in FIG. 11. Further details and other advantages of the TAB head assembly architecture will be described with respect to FIG. 16, which is a magnified top plan view of the portion of FIG. 15 shown within dashed outline 150. The architecture of the ink channels 132 in FIG. 16 has the following differences from the architecture shown in FIG. 11. The relatively narrow constriction points or pinch point gaps 145 created by the pinch points 146 in the ink channels 132 provide viscous damping during refill of the vaporization chambers 130 after firing. This viscous damping helps minimize cross-talk between neighboring vaporization chambers 130. The pinch points 146 also help control ink blow-back and bubble collapse after firing to improve the uniformity of ink drop ejection. The addition of "peninsulas" 149 extending from the barrier body out to the edge of the substrate provided fluidic isolation of the vaporization chambers 130 from each other to prevent cross-talk and allowed support of the nozzle member 136 at the edge of the substrate. The enlarged areas or reefs 148 formed on the ends of the peninsulas 149 near the entrance to each ink channel 132 increase the nozzle member 136 support area at the edges of the barrier layer 134 so that the nozzle member 136 lies relatively flat on barrier layer 134 when affixed to barrier layer 134. Adjacent reefs 148 also act to constrict the entrance of the ink channels 132 so as to help filter large foreign particles.」(第16欄第34?61行)
(一般に、図15のインク溝132 の特定の構造は図11の構造より長所を示す。TABヘツド組立体構造の他の細目および他の長所を図14に関して説明することにする。この図は破線輪郭150 の中に示してある図15の部分の拡大上面図である。図16のインク溝132 の構造には図11に示す構造とは次の差異がある。インク溝132 のの中のピンチ点146 により作られる比較的狭いくびれ点またはピンチ点隙間145 は、点火後蒸発室130 の再充填中粘性減衰を行なう。この粘性減衰は、隣接蒸発室間のクロストークを極力少なくするのに役立つ。ピンチ点146 はまた点火後インクブローバックおよび泡の崩壊を制御してインク滴放出の一様性を改善するのにも役立つ。障壁本体から基板の縁まで突出する「半島」149 は蒸発室130 を互いに流体分離してクロストークを防止し、ノズル部材136 を基板の縁に支持させる。半島149 の端で各インク溝132 への入り口の近くに形成されている拡大区域またはリーフ148 は、障壁層134 の縁でノズル部材136 の支持面積を増すので、ノズル部材136 は、障壁層134 に貼りつけたとき障壁層134 上に比較的平らに横たわる。隣接リーフ148 も大きい異質粒子を濾過するのに役立つようにインク溝132 の入り口を締め付けるように働く。)
イ.「FIG. 19 is a preferred nozzle member 136 in the form of a flexible polymer tape 140, which, when affixed to the substrate structure shown in FIG. 15, forms a TAB head assembly similar to that shown in FIGS. 4 and 5. Elements in FIGS. 5 and 15 which are labelled with the same numbers are similar in structure and operation. The flexible polymer nozzle member 136 in FIG. 19 primarily differs from the flexible circuit 18 in FIG. 5 by the increased density of laser-ablated nozzles 17 in the nozzle member 136 (to produce a higher printing resolution) and by the inclusion of cavities 142 which are laser-ablated through a partial thickness of the nozzle member 136. A separate mask 108 in the process shown in FIG. 14 may be used to define the pattern of cavities 142 in the nozzle member 136. A second laser source may be used to output the proper energy and pulse length to laser ablate cavities 142 through only a partial thickness of the nozzle member 136.」(第18欄第58行?第19欄第7行)
(図19は、フレキシブルポリマーテープ140 の形を成す好ましいノズル部材136であり、これは、図15に示す基板構造に貼りつけたとき、図4および図5に示すものと同様のTABヘツド組立体を形成する。図5および図15で同じ番号が付いている要素は構造および動作が同じである。図19のフレキシブルポリマーノズル部材136 は主として、ノズル部材136 のレーザ削摩ノズル17の密度が大きい(より高い印刷解像度を生ずる)ことにより、およびノズル部材136 の部分的厚さを貫いてレーザ削摩されている空洞142 を備えていることにより、図5のフレキシブル回路18と異なっている。図14に示すプロセスで別別のマスク108 を使用して、ノズル部材136 に空洞142 のパターンを形成することができる。第2のレーザ源を使用して正しいエネルギおよびパルス長をノズル部材136 の部分厚さだけを通して、レーザ削摩空洞142 に出力することができる。)
ウ.「Conductors 36 on flexible circuit 140 provide an electrical path between the contact pads 20 (FIG. 4) and the electrodes 74 on the substrate 28 (FIG. 15). Conductors 36 are formed directly on flexible circuit 140 as previously described with respect to FIG. 5.」(第19欄第8?12行)
(フレキシブル回路140 の導体36は、接触パッド20(図4)と基板28の電極74(図15)との間の電気経路となる。導体36は、図5に関して先に説明したようにフレキシブル回路140 の上に直接形成される。)
エ.「FIG. 20 is a magnified, partially cut away view in perspective of the portion of the nozzle member 136 shown in the dashed outline 154 of FIG. 19 after the nozzle member 136 has been properly positioned over the substrate structure of FIG. 20 to form a TAB head assembly 158 similar to the TAB head assembly 14 in FIG. 5. As shown in FIG. 20, the nozzles 17 are aligned over the vaporization chambers 130, and the cavities 142 are aligned over the ink channels 132. FIG. 20 also illustrates the ink flow 160 from an ink reservoir generally situated behind the substrate 28 as the ink flows over an edge 86 of the substrate 28 and enters cavities 142 and ink channels 132.」(第19欄第13?23行)
(図20は、ノズル部材136 を図20の基板構造の上に正しく位置決めして、図5のTABヘツド組立体と同様のTABヘツド組立体158 を形成してからの図19の破線輪郭154 で示すノズル部材136 の部分の透視図による拡大部分切り払い図である。図20に示すように、ノズル17は蒸発室130 の上方に整列しており、空洞142はインク溝132 の上方に整列している。図20はまた、インクが基板28の縁86の上方を流れ、空洞142 およびインク溝132 に入るにつれて、一般的に基板28の後にあるインク溜めからのインク流160 をも示している。)
オ.「FIG. 21 is a top plan view of the portion of the TAB head assembly 158 shown in FIG. 20, where the vaporization chambers 130 and ink channels 132 can be seen through the nozzle member 136. The various dimensions of the cavities 142, the nozzles 17, and the separations between the various elements are identified in Table IV below. In FIG. 21, dimension H is the entrance diameter of the nozzles 17, while dimension I is the exit diameter of the nozzles 17. The other dimensions are self-explanatory.」(第19欄第29?37行)
(図21は、図20に示すTABヘツド組立体158 の部分の上面図であり、ここで蒸発室130 およびインク溝132 をノズル部材136 を通して見ることができる。空洞142 、ノズル17、および各種要素間の分離箇所の各寸法を下の表7に識別してある。図21で、寸法Hはノズル17の入り口直径であり、一方、寸法Iはノズル17の出口直径である。他の寸法は自明である。)
カ.「The cavities 142 minimize the viscous damping of ink during refill as the ink flows into the ink channels 132. This helps compensate for the increased viscous damping provided by the pinch points 146, reefs 148, and increased length of the ink channels 132 along the substrate shelf. Minimizing viscous damping helps increase the maximum firing rate of the resistors 70, since ink can enter into the ink channels 132 more quickly after firing. Thus, the damping function is provided primarily by the pinch points rather than the viscous damping which is different individual vaporization chambers due to the different shelf lengths for individual vaporization chambers caused by the offsets, E, between the vaporization chambers.」(第19欄第38?50行)
(空洞142 は、インクがインク溝132 に流入するとき再充填中のインクの粘性減衰を極力小さくする。これはピンチ点146 、リーフ148 、および基板自身に沿うインク溝132 の増大長さにより与えられる粘性減衰の増大を補償するのに役立つ。粘性減衰が極小になれば、インクが発射後インク溝132 に一層急速に入ることができるので、抵抗器70の最大発射レートを大きくするのに役立つ。したがって、減衰機能は主として、蒸発室間の偏りEにより生ずる個々の蒸発室の屋根の長さが異なるため異なる個別蒸発室である各種減衰ではなく、ピンチ点により行なわれる。)
キ.図19?図21から、基板28は、頂面および対向する底面を有すると共に、縁86を有すること、ノズル部材136には、その縁から離れた位置に複数のノズル17が形成され、ノズル17毎に空洞142が形成されていること、基板28の頂面の上に配置された障壁層134の更に上にノズル部材136が配置されていること、ノズル17毎に蒸発室130 が障壁層134に形成され、抵抗器70は、基板28の頂面上であって、蒸発室130 毎にノズル17の下方に形成されていること、障壁層134に形成されているピンチ点146とリーフ148間に蒸発室130の前室が形成されていること、空洞142の一端は前記前室に他端はリーフ148を結んだ仮想線を越えて前記前室の外に連通していることが看取できる。
上記記載及び図面を含む刊行物1全体の記載から、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。
「頂面および対向する底面を有すると共に、縁86を有する基板28と、
基板28の後にあるインク溜めと、
ノズル部材136の縁から離れた位置に複数のノズル17が形成され、ノズル17毎に部分的厚さを貫いて空洞142が形成され、基板28の頂面の上に配置された障壁層134の更に上に配置されたノズル部材136と、
前記基板28の頂面上であって、蒸発室130 毎にノズル17の下方に形成されている抵抗器70と、
ノズル17毎に障壁層134に形成された蒸発室130 と、
障壁層134に形成されているピンチ点146とリーフ148間に形成される蒸発室130の前室とを備え、
前記空洞142の一端は前記前室に他端はリーフ148を結んだ仮想線を越えて前記前室の外に連通しており、リーフ148は、大きい異質粒子を濾過するのに役立つようにインク溝132 の入り口を締め付けるように働くものである
TABヘツド組立体158 。」(以下、「引用発明」という。)

(b)原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-1952号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載が図示とともにある。
ク.【0034】図2に説明されるようにインクジェットヘッドを組み立てた後は、共通電極17と個別電極21の端子部23間にFPC49により駆動回路40を接続し、インクジェットプリンタを構成する。インク103は、図示しないインクタンクよりフィルター51を経て第1の基板1の内部に供給され、リザーバ8、吐出室6等を満たしている。そして、吐出室6のインクは、図3に示されるように、インクジェットヘッド10の駆動時にノズル孔4よりインク液滴104となって吐出され、記録紙105に印字される。
ケ.【0035】図4は基板1の部分詳細平面拡大図である。本発明の実施例に示すインクジェットヘッドの基板1は単結晶シリコンを異方性エッチングにて形成されている。異方性エッチングとはエッチング速度がエッチング方向により異なることを利用してなされるエッチングである。本実施例では単結晶シリコン(100)面のエッチング速度が(111)面に比較して約40倍以上速いことを利用して、前述のノズル溝11、凹部12、細溝13、凹部14及びフィルター溝52を形成している。この内ノズル溝11、細溝13及びフィルター溝52はそれぞれエッチング速度が遅い(111)面からなるV字状の溝となっている。即ち、ノズル溝11、細溝13及びフィルター溝52の断面形状を三角形に構成してある。ノズル溝11の幅は60μm、細溝13は3本の流路を並列に構成してありその幅は55μmである。また、フィルター溝52の幅は50μmであり、凹部14に54本が並列に連通している。また、凹部12及び14は底面が(100)面で側面が(111)面からなる台形状の溝となっている。凹部12及び14の溝深さはエッチング時間を調整することにより決められる。一方V字状の溝となっているノズル溝11、細溝13及びフィルター溝51はエッチング速度の遅い(111)面のみからなるのでその深さはエッチング時間に寄らず溝幅のみにより決まる。
コ.【0037】上述の本実施例における寸法構成例の様に、フィルター溝52の幅をノズル溝11、細溝13よりも狭く構成することにより、第3の基板接合により構成されるインク流路の内フィルター51の開孔断面積が流路断面積中で最も断面積が小さく構成されるようになる。ノズル孔4、オリフィス7を詰まらせる異物はすべてフィルター孔51により阻止されてインク流路中には侵入せずドット抜け等の印刷不良が発生しにくくインクジェットヘッドの信頼性を確保可能である。更に、製造中のノズル孔詰まりやオリフィス詰まりを防止できるので、良品率を向上させて、大量に作り易いヘッドを得ることができる。

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「縁86」、「基板28」、「インク溜め」、「ノズル17」、「ノズル部材136」、「他端」、「一端」、「空洞142」、「抵抗器70」、「蒸発室130 」、「ピンチ点146」、「異質粒子」及び「TABヘツド組立体158 」は、それぞれ本願補正発明の「第1の縁」、「基板」、「インク槽」、「インクオリフィス」、「ノズル部材」、「第1の端」、「第2の端」、「溝」、「インク噴出要素」、「インク噴出チャンバ」、「流れ絞り」、「粒子」及び「プリントシステム」に相当する。
引用発明の「ノズル部材136」は、「ノズル部材136の縁から離れた位置に複数のノズル17が形成され」ているから、内部に複数のインクオリフィスが形成されているものといえる。
引用発明の「ノズル部材136」は、「基板28の頂面の上に配置された障壁層134の更に上に配置され」ているから、基板の頂面の上にあるように配置されたものといえる。
引用発明の「空洞142」は、「ノズル17毎に部分的厚さを貫いて」形成されており、「一端は前記前室に他端はリーフ148を結んだ仮想線を越えて前記前室の外に連通して」おり、「他端」が「インク溜め」に連通していることは明らかであるから、第1の端および第2の端を有するものであって、前記第1の端がインク槽に連通している1つ以上の溝といえる。
引用発明の「抵抗器70」は、「前記基板28の頂面上であって、蒸発室130 毎にノズル17の下方に形成されている」から、基板の頂面上に形成され、それぞれがオリフィスのうちの関連する1つに近接して配置されて、該関連するオリフィスからインクの一部を吐出する複数のインク噴出要素といえる。
引用発明の「蒸発室130」は、「ノズル17毎に形成され」、「蒸発室130 毎に」「抵抗器70」が形成されているから、それぞれが1つのインクオリフィスおよび1つのインク噴出要素に関連する複数のインク噴出チャンバといえる。
引用発明の「蒸発室130の前室」は、「障壁層134に形成されているピンチ点146とリーフ148間に形成される」ものであり、「空洞142の一端は前記前室に他端はリーフ148を結んだ仮想線を越えて前記前室の外に連通」するものであるから、インク噴出チャンバおよび溝あるいは前記溝のそれぞれの第2の端に関連し連通しているものといえ、溝によってインク槽に連通している少なくとも1つの噴出チャンバの前室である点で本願補正発明と共通する。
また、引用発明の「蒸発室130の前室」は、溝によって、インクがインク槽から少なくとも1つの噴出チャンバの前室に流れることができ、前記インクが、オリフィスおよびインク噴出要素に近接するように前記少なくとも1つの噴出チャンバの前室から流れ絞りによってインク噴出チャンバに流入するように流れ絞りが配置されているものといえる。
引用発明の「リーフ148」は、「大きい異質粒子を濾過するのに役立つようにインク溝132 の入り口を締め付けるように働くものである」から、本願補正発明の「前記溝あるいは前記溝のそれぞれの断面寸法は、前記流れ絞りの断面寸法よりも小さく、それにより、前記溝を十分通り抜けられるくらい小さい粒子はいかなるものでもその後前記プリントヘッド内で障害を引き起こすことはない」と、「粒子の濾過機能を有する」点で共通する。
引用発明の「ノズル部材136」は、「基板28の頂面の上に配置された障壁層134の更に上に配置され」ており、「蒸発室130の前室」は、「障壁層134に形成されているピンチ点146とリーフ148間に形成され」、「蒸発室130」は、「ノズル17毎に障壁層134に形成され」ているから、噴出チャンバの前室および複数のインク噴出チャンバは、基板とノズル部材との間のバリアー層内に形成されるといえる。
また、引用発明の「ノズル部材136」には、「ノズル17毎に部分的厚さを貫いて空洞142が形成され」ているから、少なくとも1つの溝はノズル部材内に形成されているといえる。
よって、本願補正発明と引用発明は、
「頂面および対向する底面を有すると共に、第1の縁を有する基板と、
インク槽と、
内部に複数のインクオリフィスが形成され、前記基板の前記頂面の上にあるように配置されたノズル部材と、
前記複数のオリフィスのそれぞれに関連し、第1の端および第2の端を有するものであって、前記第1の端が前記インク槽に連通している1つ以上の溝と、
前記基板の頂面上に形成され、それぞれが前記オリフィスのうちの関連する1つに近接して配置されて、該関連するオリフィスからインクの一部を吐出する複数のインク噴出要素と、
それぞれが1つの前記インクオリフィスおよび1つの前記インク噴出要素に関連する複数のインク噴出チャンバと、
該インク噴出チャンバおよび前記溝あるいは前記溝のそれぞれの前記第2の端に関連し連通しており、前記溝によって前記インク槽に連通している少なくとも1つの噴出チャンバの前室であって、前記溝によって、インクが前記インク槽から前記少なくとも1つの噴出チャンバの前室に流れることができ、前記インクが、前記オリフィスおよび前記インク噴出要素に近接するように前記少なくとも1つの噴出チャンバの前室から流れ絞りによって前記インク噴出チャンバに流入するように流れ絞りが配置されており、粒子の濾過機能を有する少なくとも1つの噴出チャンバの前室とを備え、
前記少なくとも1つの噴出チャンバの前室および前記複数のインク噴出チャンバは、前記基板と前記ノズル部材との間のバリアー層内に形成され、前記少なくとも1つの溝は前記ノズル部材内に形成されている、
プリントシステム。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]「少なくとも1つの噴出チャンバの前室」に関し、本願補正発明は、「インク受け取りチャンバ」であって、「溝のみによって前記インク槽に連通して」おり、「前記溝あるいは前記溝のそれぞれの断面寸法は、前記流れ絞りの断面寸法よりも小さく、それにより、前記溝を十分通り抜けられるくらい小さい粒子はいかなるものでもその後前記プリントヘッド内で障害を引き起こすことはない」、「前記インク受け取りチャンバは前記バリアー層の縁から離れて配置され、前記少なくとも1つの溝は前記バリアー層の前記縁を越えて前記インク受け取りチャンバの上まで延在している」と特定されているのに対し、引用発明は、本願補正発明のようなものではない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
引用発明の「蒸発室130の前室」の入り口の開口面積は、隣り合う「リーフ148」間の面積及び「空洞142」の断面積の和であることは明らかであり、「リーフ148」が「大きい異質粒子を濾過するのに役立つようにインク溝132 の入り口を締め付けるように働くものである」ものの、ピンチ点146(流れ絞り)の断面寸法との関係は明示されていないが、引用発明のようなTABヘツド組立体158(プリントシステム)において、ピンチ点146(流れ絞り)を詰まらせる粒子をその前段階で濾過すべきことは当然の要求である。
一方、刊行物2には、オリフィス7(流れ絞り)を詰まらせる異物を阻止するべく、吐出室6(インク噴出チャンバ)の前室であるリザーバ8の入り口の開口面積であるフィルター51の開孔断面積が流路断面積中で最も断面積が小さく構成されることが記載されているから、引用発明の蒸発室130(インク噴出チャンバ)の前室の入り口の開口面積を流路断面積中で最も断面積が小さく構成しようとすることは当業者が容易になし得る程度のことである。そして、その際、室の入り口の開口をどこに設けるかは、設計事項に過ぎないものである。また、室の入り口の開口をノズル部材に形成した溝のみとすることは、国際公開97/34769号、第1?6図、特開平9-267472号公報、第1、4、5図に示すように周知技術でもあるから、引用発明に刊行物2記載の事項及び周知技術を適用し、蒸発室130(インク噴出チャンバ)の前室を溝のみによってインク槽に連通して、前記溝あるいは前記溝のそれぞれの断面寸法は、流れ絞りの断面寸法よりも小さくすることは当業者が容易になし得る程度のことである。
そうすると、引用発明の蒸発室130(インク噴出チャンバ)の前室を「インク受け取りチャンバ」と称することができ、溝を十分通り抜けられるくらい小さい粒子はいかなるものでもその後プリントヘッド内で障害を引き起こすことはなくなり、インク受け取りチャンバはバリアー層の縁から離れて配置され、少なくとも1つの溝は前記バリアー層の縁を越えて前記インク受け取りチャンバの上まで延在することになる。
よって、本願補正発明の上記相違点のような構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。

以上のとおりであるから、本願補正発明の相違点に係る構成は、引用発明、刊行物2に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものであり、それにより得られる効果も当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明、引用文献2に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成21年4月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成20年11月4日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「頂面および対向する底面を有すると共に、第1の縁を有する基板と、
インク槽と、
内部に複数のインクオリフィスが形成され、前記基板の前記頂面の上にあるように配置されたノズル部材と、
前記複数のオリフィスのそれぞれに関連し、第1の端および第2の端を有するものであって、前記第1の端が前記インク槽に連通している1つ以上の溝と、
前記基板の頂面上に形成され、それぞれが前記オリフィスのうちの関連する1つに近接して配置されて、該関連するオリフィスからインクの一部を吐出する複数のインク噴出要素と、
それぞれが1つの前記インクオリフィスおよび1つの前記インク噴出要素に関連する複数のインク噴出チャンバと、
該インク噴出チャンバおよび前記溝あるいは前記溝のそれぞれの前記第2の端に関連し連通しており、前記溝のみによって前記インク槽に連通している少なくとも1つのインク受け取りチャンバであって、前記溝によって、インクが前記インク槽から前記少なくとも1つのインク受け取りチャンバに流れることができ、前記インクが、前記オリフィスおよび前記インク噴出要素に近接するように前記少なくとも1つのインク受け取りチャンバから流れ絞りによって前記インク噴出チャンバに流入するように流れ絞りが配置されており、前記溝あるいは前記溝のそれぞれの断面寸法は、前記流れ絞りの断面寸法よりも小さく、それにより、前記溝を十分通り抜けられるくらい小さい粒子はいかなるものでもその後前記プリントヘッド内で障害を引き起こすことはない少なくとも1つのインク受け取りチャンバとを備え、
前記少なくとも1つのインク受け取りチャンバおよび前記複数のインク噴出チャンバは、前記基板と前記ノズル部材との間のバリアー層内に形成され、前記少なくとも1つの溝は前記ノズル部材内に形成されているプリントシステム。」

(1)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から「インク受け取りチャンバ」についての限定事項である「前記バリアー層の縁から離れて配置され」との構成を省き、「少なくとも1つの溝」についての限定事項である「前記バリアー層の前記縁を越えて前記インク受け取りチャンバの上まで延在し」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明を特定する事項を全て含み、さらなる限定を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用発明、刊行物2に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、刊行物2に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、刊行物2に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-31 
結審通知日 2010-04-02 
審決日 2010-04-13 
出願番号 特願平11-303225
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 友子  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 湯本 照基
江成 克己
発明の名称 プリントシステム  
代理人 有原 幸一  
代理人 河村 英文  
代理人 松島 鉄男  
代理人 奥山 尚一  

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