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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E02D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E02D
管理番号 1222447
審判番号 不服2009-4757  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-05 
確定日 2010-08-27 
事件の表示 特願2006-169997「地盤強化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月10日出願公開、特開2008- 2076〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年6月20日の出願であって、平成21年1月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月5日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされ、さらに、同年3月19日付けで手続補正がなされたものである。
その後、平成21年12月22日付けで、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、平成22年3月8日付けで回答書が提出された。

第2 平成21年3月5日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成21年3月5日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成21年3月5日付けの手続補正は、補正前の明細書の特許請求の範囲の請求項1を、以下のように補正しようとする補正事項を含むものである。
「地盤中に設けられた注入孔を通して、地盤中に可塑状ゲルを圧入して地盤を強化することを特徴とし、前記可塑状ゲルは時間とともに、あるいは脱水によって流動性を失って塊状体を形成し、次の成分(1)と(3)または(1)と(2)と(3)とを有効成分として含有し、圧入時のテーブルフローが12cm?30cm、または/並びにシリンダーによるフローが8cm?28cm、圧入時のスランプが5cm以上、硬化発現材比が1?40重量パーセントの量であり水粉体比が20?200重量パーセントであって30パーセント以内の減少でテーブルフローが20cm以内になることを特徴とする地盤強化方法。
ただし、硬化発現材比=C/(F+C)×100(パーセント)水粉体比W/(F+C)
×100(パーセント)であり、F、C、Wはいずれも重量である。
(1)シリカ系非硬化性粉状体(F材)
(2)カルシウム系粉状硬化発現材(C材)
(3)水(W材)」

上記補正事項は、補正前の請求項1に係る発明を特定する「可塑状ゲル」についての「地盤中への圧入前または圧入中に可塑状に至る」との事項を、具体的に、圧入時のテーブルフロー30cm以下、シリンダーによるフロー28cm以下、圧入時のスランプが5cm以上、硬化発現材比が1?40重量パーセントの量、水粉体比が20?200重量パーセントであって30パーセント以内の減少でテーブルフローが20cm以内になるものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そこで、本願の補正後の上記請求項1に係る発明(以下、「補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2.引用刊行物
本願出願前に頒布された刊行物である、特開2006-56909号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付与した。)。
(1a)「【請求項12】
フライアッシュ(F)と、セメント(C)と、水(W)とを有効成分とし、セメント比を50重量パーセント以下、および水粉体比を30?70重量パーセントの配合液として地盤中に圧入することにより、配合液がゲル状になったときに、そのままでは流動しないが外力が作用すると流動する所望の可塑状態を経て固結する可塑性注入材を地盤中に圧入して土粒子を周辺に押しやり、地盤強化を図りながら固結することを特徴とする地盤注入工法。ただし、セメント比=(C/F+C)×100であり、水粉体比=(W/F+C)×100であり、F、C、Wはいずれも重量を表す。」、
(1b)「【請求項15】
請求項12において、可塑性注入材の注入に当たり、初期の注入圧力を低くして先行注入物の脱水を図りながら注入圧力を段階的に高め、あるいは間欠的に加圧し、これにより可塑性を呈するゲル化物の土粒子間浸透と地盤の割裂による逸脱を防ぎながら土粒子を周辺に押し広げて地盤の密度を増大させながら固結する請求項12に記載の地盤注入工法。」、
(1c)「【0001】
本発明はフライアッシュと、セメントと、水とを有効成分とし、これらを特定比率で配合して可塑状態を経て固結し得る可塑性の注入材とし、この注入材を地盤中に圧入して土粒子を周辺に押しやり、地盤強化を図りながら固結する可塑性注入材およびこの注入材を用いた地盤注入工法に関する。・・・」、
(1d)「【0016】
上述の本発明にかかる可塑性注入材は地盤中に挿入した注入管を通して、地盤中に圧入し、土粒子を周辺に押しやって地盤強化を図りながら注入固結する。このような可塑性注入材の注入に当たり、初期の注入圧力を低くして先行注入物の脱水を図りながら注入圧力を段階的に高め、あるいは間欠的に加圧しながら注入し、これにより可塑性を呈するゲル化物の土粒子間浸透と地盤の割裂による逸脱を防ぎながら土粒子を周辺に押し広げて地盤の密度を増大させながら固結することが好ましい。しかも、この注入は複数の注入ポイントからの同時注入方式、連続注入方式、インターバル注入方式、またはこれら方式を組み合わせて行われる。さらに、本発明にかかる可塑性注入材は複数の注入ポイントから注入して注入ポイント間の地盤を拘束し、あるいは複数の注入管を3m以内の間隔で地盤に設置し、注入管間の地盤密度を増大して地盤を固結することもできる。なお、本発明注入材の地盤中への注入に際し、地盤中にドレーン材を設置して地盤中に注入された可塑性注入材の脱水あるいは地盤の脱水を促進しながら注入を行うこともできる。」、
(1e)「【0020】
図1は本発明にかかる可塑性注入材を地盤中に圧入し、地盤を強化する注入原理を表した模式図である。図1中、1は地盤であって、地盤1中に注入管2、2・・・2を複数本、間隔をあけて挿入する。本発明はこれら注入管2、2・・・2を通して可塑性注入材を地盤中1に圧入してグラウトパイル3を形成する。このとき、粒子は周辺に押しやられて注入管2、2間の地盤1が圧縮され、密度増加された周辺地盤4を形成する。このような周辺地盤4は圧縮され、密度増加されており、強固に固結される。また、図1において、複数の注入管2、2・・・2を3m以内の間隔で設置することにより、グラウトパイル3が互いに拘束効果を発揮し、中間の軟弱地盤が圧縮されて一層密な周辺地盤4が形成される。」。
(1f)【0037】
配合例1?3
フライアッシュ、セメント、水を練り混ぜる。フライアッシュとセメントの配合量は同じくして、水の配合量のみ変化させた。このようにして得られた配合例1?3の地盤注入材の調製条件および物性値を下記の表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
また、例えば配合例3のゲル化物を可塑状保持時間内で上下にポーラスストーンを設けた直径5cm、高さ15cmのモールド中に充填して0.1MN/m^(2)で1時間加圧しつづけるとほぼ20%脱水し、同条件で0.5MN/m^(2)で加圧しつづけるとほぼ40%脱水する。
【0040】
さらに、水粉体比が30%より少なくなると、配合後の粘性がきわめて高くポンプ注入管内の流動性や作業性が困難になる。表1より水粉体比が少なくなるにつれゲルタイムが短く可塑状保持時間が短くブリージング率が小さく粘性が高く強度が大きくなることがわかる。
【0041】
配合例3は地上ではゲルタイムが長く、可塑状保持時間も長く、可塑状になるまでの時間が長く、1日後も固結強度は得られないが、地中に0.1MN/m^(2)以上の注入圧で注入すれば20%以上が脱水される。圧力を高めて0.5MN/m^(2)で圧入すると、脱水率はほぼ40%になる。すなわち、脱水率が増大するにつれ、配合例3→配合例2(脱水率ほぼ20%)→配合例1(脱水率ほぼ40%)に移行し、1日後には固結強度が得られることがわかる。これらの実験結果より、水粉体比は30?70%が適切であることがわかった。」
(1g)「【0042】
配合例2、4?6
フライアッシュ、セメント、水を練り混ぜる。粉体と水の配合量は同じで、粉体中のフライアッシュとセメントの配合比率を変化させた。このようにして得られた配合例2、4?6の地盤注入材の調製条件および物性値を下記の表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
表2より、PC添加量が50%よりも大きくなると可塑状保持時間が短くなって、ブリージング率が大きくなり、可塑状になるまでの時間が短くなり、初期粘性が8000以上になって流動性も作業性も低下する。すなわち、可塑状グラウトとしての特性が低下する。したがって、PC添加量は50%より少なく、好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下にすることによって可塑状保持時間が長く、ブリージング率も低く、初期粘性も低く、流動性も作業性もよいことがわかる。」
(1h)「【0049】
(1)PC添加量
グラウトに含まれる粉体、つまり石炭灰、セメントに対するセメントの含有量:(セメント重量/フライアッシュ重量+セメント重量)×100(%)
セメントは硬化発現剤であり、かつ、フライアッシュの可塑剤でもある。フライアッシュ単独ではゲル化せず可塑性グラウトにはならないが、セメントを混ぜることによりポラゾン反応を起こし固結強度を得る。しかし、PC添加量が多くなるにつれ可塑状グラウトとしての特性が低下する。その範囲は硫酸バンド(ゲル化促進剤)を添加しない場合、2?50%、好ましくは2?20%、さらに好ましくは2?10%である。また、硫酸バンドを添加する場合は2?10%が好ましい。
【0050】
以上のとおり、本発明は注入材を地盤中に注入し、脱水を伴いながら地盤中で可塑状態で経過し、軟弱地盤を押し拡げながら固化して固結体を形成し、かつ周辺密度を高めて地盤強化するという原理に基づき、初期に低圧からスタートして段階的に圧力を高める。ここで段階的に圧力を高めるとは直線的に圧力を高めていく場合も含めるものとする。脱水を伴いながら可塑状態を地盤中に形成しやすくし、かつ、圧力を緩和しながら地盤の亀裂破壊を防ぎ、注入量を増大して固結径を拡大し、あるいは間欠的に加圧を繰り返す。すなわち、圧力を高めて圧入し、地盤を亀裂破壊する前に加圧を中断してゲル中の圧力を抜き、次いで加圧を繰り返して可塑ゲルで亀裂破壊することを最小限に防ぎながら固結径を拡大する。」
(1i)「【0051】
(2)水粉体比
グラウト中の粉体に対する水の含有量:(水重量/フライアッシュ重量+セメント重量)×100(%)
この値が小さいと可塑状になりやすいが、施工性を考えると30?130%、好ましくは30?70%、さらに好ましくは35?50%が適している。これ以下の場合、材料の練り混ぜが難しく、これ以上の場合、グラウトが可塑状となるまで時間を要するため、ブリージング率が大きくなる。また、この範囲内で添加剤の種類の選定、添加量の選定を行うことにより所定の可塑状態を経て固結する可塑性注入材を得ることができる。」
(1j)「【0057】
(8)フロー値
フロー試験(JIS R 5201)に基づき、グラウトに15秒間に15回の落下運動を与え、その広がりを測定した。可塑状グラウトとしては約18?19cmが適しているとされている。また、表における×はグラウトにまだ流動性があり、フローコーンを取ると自立せず流れ出てしまうため正確な測定が行えないことを示す。本発明ではフローが19cmになる時点で自重による流動性がなくなったものとし、ゲルタイムとした。」

表1の配合例1及び表2の配合例2、4ないし6には、可塑状グラウトは、時間とともに流動性が低下することが示されているから、これらの記載事項によれば、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「地盤中に設けられた注入孔を通して、地盤中に可塑状グラウトを圧入して地盤を強化する地盤注入工法であって、
前記可塑状グラウトは、時間とともに、あるいは脱水によって流動性を失って塊状体を形成するものであって、フライアッシュ(F)と、セメント(C)と、水(W)とを有効成分として含有し、セメント比が1?50重量パーセント、好ましくは20%以下の量であり、水粉体比が30?130%重量パーセントであって、地盤中に可塑状グラウトを注入し、可塑性を呈するゲル化物の土粒子間浸透と地盤の割裂による逸脱を防ぎながら土粒子を周辺に押しやって径を拡大しながら固結体を形成し、地盤の密度増加をはかる地盤注入工法。 ただし、セメント比=(C/F+C)×100であり、水粉体比=(W/F+C)×100であり、F、C、Wはいずれも重量を表す。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。)

3.対比、判断
補正発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「可塑状グラウト」、「地盤注入工法」、「フロー値」は、それぞれ、補正発明1の「可塑状ゲル」、「地盤強化方法」、「テーブルフロー」に相当する。
また、刊行物1記載の発明の「フライアッシュ(F)」、「セメント(C)」、「水(W)」、「セメント比」は、それぞれ、補正発明1の「(1)シリカ系非硬化性粉状体(F材)」、「(2)カルシウム系粉状硬化発現材(C材)」、「(3)水(W材)」、「硬化発現材比」に相当し、刊行物1記載の発明の「セメント比」(硬化発現材比)、「水粉体比」の範囲は、補正発明1の硬化発現材比、水粉体比に含まれる。

したがって、両者は、次の一致点及び相違点を有する。
[一致点]
「地盤中に設けられた注入孔を通して、地盤中に可塑状ゲルを圧入して地盤を強化することを特徴とし、前記可塑状ゲルは時間とともに、あるいは脱水によって流動性を失って塊状体を形成し、次の成分(1)と(2)と(3)とを有効成分として含有し、硬化発現材比が1?40重量パーセントの量であり水粉体比が20?200重量パーセントである地盤強化方法。ただし、硬化発現材比=C/(F+C)×100(パーセント)水粉体比W/(F+C)×100(パーセント)であり、F、C、Wはいずれも重量である。
(1)シリカ系非硬化性粉状体(F材)
(2)カルシウム系粉状硬化発現材(C材)
(3)水(W材)」

[相違点1]
可塑状ゲルが、補正発明1では、圧入時のテーブルフローが12cm?30cm、または/並びにシリンダーによるフローが8cm?28cm、圧入時のスランプが5cm以上であって、水粉体比30パーセント以内の減少でテーブルフローが20cm以内になるものであるのに対し、刊行物1記載の発明では、圧入時のテーブルフローまたはシリンダーによるフロー、スランプ値が限定されておらず、また水粉体比30パーセント以内の減少でテーブルフローが20cm以内になるものにも限定されていない点。

上記相違点1について検討する。
ア.刊行物1には、可塑状ゲルとしては、フロー値(テーブルフロー)が約18?19cmのものが適していることが記載されており(記載事項(1j)参照)、実施例1の配合例1には、配合5分後のフロー値が19.8cm、30分後のフロー値が17.0cm(なお、表1のフロー値の単位mmは、cmの誤記と認められる。)であるもの、配合例2には、配合5分後及び30分後は流動性があるが、4時間後フロー値が20.6cm、5時間後のフロー値が19.5cmとなるものが、配合例4には、4時間後フロー値が21.2cm、5時間後のフロー値が18.9cmのものが記載されている。
これらの配合例は、地盤注入材の調整条件を決めるために配合されたものと認められ、しかもテーブルフローは、時間の経過とともに変化するものであり、刊行物1には、どの程度のテーブルフローの時に地盤中に圧入するかは明記されていないが、上記のとおり、可塑状ゲルとしては、テーブルフローが約18?19cmのものが適していることが記載されている以上、圧入時に、テーブルフローが可塑状ゲルとして適した18?19cm程度となっているものを採用することは、当業者が容易になしうることである。
また、圧入時に、テーブルフローが18?19cm程度となっている可塑状ゲルは、水粉体比30パーセント以内の減少でテーブルフローが20cm以内を呈することは明らかである。
イ.さらに、刊行物1には、配合例3の可塑状ゲルに圧力をかけて脱水し、配合例3から配合例1の組成へと変化させ、水粉体比を52.68%から33.76%と約36%減少させると、配合例1に示すように、フロー値が19.8cmとなること、すなわち、初期は流動性が大きいものの、注入の圧力により脱水し、水粉体比36%減少でテーブルフローが、可塑状ゲルとして適した20cm以内になるものがあることが示され(記載事項(1f)参照)、注入時、テーブルフローが可塑状ゲルとして適した18?19cmより大きいものも採用できることが示されている。
しかしながら、刊行物1記載の発明は、軟弱地盤を押し拡げながら固化し、可塑状ゲルが地盤中の亀裂に逸脱することを防止しながら固結体を形成することを目的とするものであるから、初期に過度の流動性を有していないものを用いることも当然考慮すべきであり、そのために、「水粉体比30パーセント以内の減少でテーブルフローが20cm以内を呈する」程度に、圧入時のテーブルフローの上限を調整することも適宜なしうることであって、圧入時のテーブルフローを30cm以下とすることは、注入圧力等を考慮して、当業者が適宜決めうることである。
ウ.そして、テーブルフローが約18?19cmのもの、あるいはそれ以上の流動性のあるものは、スランプ値5cm以上であることは明らかである(本願明細書の段落【0030】にも、「テーブルフローが15cm?28cmの範囲でスランプは10cm?28cmの範囲」と記載されている。)。

そして、補正発明1全体の効果は、刊行物1記載の発明から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものということができないから、補正発明1は、刊行物1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおり、平成21年3月5日付けの手続補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。

第2 平成21年3月19日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成21年3月19日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成21年3月19日付けの手続補正は、補正前の特許請求の範囲(平成20年7月25日付け手続補正による補正された特許請求の範囲)の請求項1を、以下のように補正しようとする補正事項を含むものである。
「地盤中に設けられた注入孔を通して、地盤中に可塑状ゲルを圧入して地盤を強化することを特徴とし、前記可塑状ゲルは時間とともに、あるいは脱水によって流動性を失って塊状体を形成し、次の成分(1)と(3)または(1)と(2)と(3)とを有効成分として含有し、圧入時のテーブルフローが12cm?30cm、または/並びにシリンダーによるフローが8cm?28cm、硬化発現材比が1?40重量パーセントの量、水粉体比が20?200重量パーセントであって、脱水率が30パーセント以内でテーブルフローが20cm以内を呈することによって、地盤中可塑状ゲルそのものからなる塊状体が大きく成長した固結体を形成しながら土粒子を周辺に押しやって密度増加をはかることを特徴とする地盤強化方法。ただし、硬化発現材比=C/(F+C)×100(パーセント)水粉体比W/(F+C)×100(パーセント)であり、F、C、Wはいずれも重量である。
(1)シリカ系非硬化性粉状体(F材)
(2)カルシウム系粉状硬化発現材(C材)
(3)水(W材)」

なお、上記第2のとおり平成21年3月5日付けの手続補正は補正の却下の決定がされたので、補正前の特許請求の範囲は、上記のとおり平成20年7月25日付け手続補正による補正された特許請求の範囲である。

2.補正の適否の判断
上記補正事項は、補正前の請求項1に係る発明を特定する「可塑状ゲル」について、圧入時のテーブルフロー30cm以下、シリンダーによるフロー28cm以下、硬化発現材比が1?40重量パーセントの量、水粉体比が20?200重量パーセントであり、脱水率が30パーセント以内でテーブルフローが20cm以内を呈することによって、地盤中可塑状ゲルそのものからなる塊状体が大きく成長した固結体を形成しながら土粒子を周辺に押しやって密度増加をはかるものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本願の補正後の上記請求項1に係る発明(以下、「補正発明2」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、検討する。

3.対比・判断
上記第2 3.の対比をふまえて、補正発明2と刊行物1記載の発明を対比すると、さらに、刊行物1記載の発明の「可塑性を呈するゲル化物の土粒子間浸透と地盤の割裂による逸脱を防ぎながら土粒子を周辺に押しやって径を拡大しながら固結体を形成し、地盤の密度増加をはかる」は、補正発明2の「地盤中可塑状ゲルそのものからなる塊状体が大きく成長した固結体を形成しながら土粒子を周辺に押しやって密度増加をはかる」に相当するから、両者は、次の点でのみ相違する。
[相違点2]
可塑状ゲルが、補正発明2では、圧入時のテーブルフローが12cm?30cm、または/並びにシリンダーによるフローが8cm?28cm、脱水率が30パーセント以内でテーブルフローが20cm以内を呈するのに対し、刊行物1記載の発明では、圧入時のテーブルフローまたはシリンダーによるフロー値が限定されておらず、また脱水率が30パーセント以内の減少でテーブルフローが20cm以内になるものにも限定されていない点。

相違点2について検討すると、「脱水率」は、水粉体比の減少割合であるから、補正発明2における「脱水率が30パーセント以内でテーブルフローが20cm以内を呈する」は、補正発明1における「(水粉体比)30パーセント以内でテーブルフローが20cm以内を呈する」と実質的に同じであり、補正発明2は、補正発明1から「圧入時のスランプが5cm以上」との限定を省略したものに相当するから、補正発明1と同様の理由により、刊行物1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3.むすび
以上のとおり、平成21年3月19日付けの手続補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第4 本願発明について
1.本願発明
平成21年3月5日付け及び平成21年3月19日付けの手続補正は上記のとおり補正の却下の決定がされたので、本願の請求項1ないし20に係る発明は、平成20年7月25日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明は次のとおりである。
「地盤中に設けられた注入孔を通して、地盤中に可塑状ゲルを圧入して地盤を強化することを特徴とし、前記可塑状ゲルは時間とともに、あるいは脱水によって流動性を失って塊状体を形成し、次の成分(1)と(3)または(1)と(2)と(3)とを有効成分として含有し、圧入時のテーブルフローが12cm以上、または/並びにシリンダーによるフローが8cmより大きく、地盤中への圧入前または圧入中に可塑状に至ることを特徴とする地盤強化方法。
(1)シリカ系非硬化性粉状体(F材)
(2)カルシウム系粉状硬化発現材(C材)
(3)水(W材)」(以下、「本願発明」という。)

1.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に国内において頒布された刊行物である刊行物1の記載事項及び刊行物1記載の発明は、上記第2 2.に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、上記第2で検討した補正発明1から、「可塑状ゲル」についての圧入時のテーブルフロー30cm以下、シリンダーによるフロー28cm以下、圧入時のスランプが5cm以上、硬化発現材比が1?40重量パーセントの量、水粉体比が20?200重量パーセントであって30パーセント以内の減少でテーブルフローが20cm以内との限定を省略し、単に「地盤中への圧入前または圧入中に可塑状に至る」としたものに相当する。
そして、上記第2 3.で検討したとおり、刊行物1記載の発明において、地盤中への圧入前に可塑状に至るような、圧入時のテーブルフローが18?19cm程度のもの、あるいは圧入時のテーブルフローがそれ以上で、地盤中への圧入中に可塑状に至る可塑状ゲルを採用することは、当業者が容易になしうることであり、本願発明は、刊行物1記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、回答書において補正案を提示しており、当該補正案の請求項1に係る発明は、補正発明1において、さらに可塑状保持時間、注入方法を限定したものに相当するが、上記のさらなる限定事項は、刊行物1に開示されているか、刊行物1に開示された事項から当業者が容易になしうることである(刊行物1の段落【0020】、【表1】?【表9】、【図1】?【図4】参照)。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1記載の発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-17 
結審通知日 2010-06-22 
審決日 2010-07-06 
出願番号 特願2006-169997(P2006-169997)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (E02D)
P 1 8・ 121- Z (E02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 苗村 康造  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 草野 顕子
宮崎 恭
発明の名称 地盤強化方法  
代理人 染谷 仁  

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