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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1222459
審判番号 不服2007-13594  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-10 
確定日 2010-08-26 
事件の表示 平成11年特許願第 18987号「セメント組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 4月18日出願公開、特開2000-109357〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年1月27日(優先権主張平成10年8月7日)に特許出願されたものであって、平成18年6月1日付けで拒絶理由の通知がなされ、同年8月3日に意見書と明細書の記載に係る手続補正書の提出がなされ、平成19年4月6日付けで拒絶査定がなされ、同年5月10日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年6月7日付けで審判請求書の請求の理由及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成21年11月4日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用する審尋がなされ、平成22年1月12日付けで回答書の提出がなされたものである。

2.平成19年6月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年6月7日付けの手続補正を却下する。
[理由]
[1]平成19年6月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の記載に係る補正を含んでおり、その特許請求の範囲の記載に係る補正は、
補正前の「【請求項1】 セメント、水、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる高性能AE減水剤、および三次元に架橋されたポリアルキレンイミンに含まれる活性水素含有アミノ基に対して当該アミノ基の活性水素の当量を越えるアルキレンオキサイドを付加重合してなるポリオキシアルキレン系化合物とを含有するセメント組成物。
【請求項2】 前記ポリオキシアルキレン系化合物のアルキレンオキサイドが、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドからなることを特徴とする請求項1記載のセメント組成物。」を、
補正後の「【請求項1】 セメントと、水と、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる高性能AE減水剤と、三次元に架橋されたポリアルキレンイミンに含まれる活性水素含有アミノ基に対して当該アミノ基の活性水素の当量を越えるアルキレンオキサイドを付加重合してなるポリオキシアルキレン系化合物であって、前記アルキレンオキサイドがエチレノンオキサイドとプロピレンオキサイドとからなり、前記アルキレンオキサイドの平均付加重合数が前記活性水素含有アミノ基中の活性水素1つに対して10?300であるポリオキシアルキレン系化合物とを含有するセメント組成物。」に補正するものである。

[2]特許法第17条の2第3項及び第4項(新規事項禁止要件及び目的要件)について
請求項1に係る補正は、補正前の請求項1に記載の「セメント、水、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる高性能AE減水剤、および」を「セメントと、水と、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる高性能AE減水剤と、」とする補正については、成分の相互の関係を明りょうにするべく釈明するものであり、「アルキレンオキサイド」を「アルキレンオキサイドがエチレノンオキサイドとプロピレンオキサイドとからなり」とする補正については、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の請求項2の記載に基づく補正であり、「アミノ基の活性水素の当量を越えるアルキレンオキサイドを付加重合してなるポリオキシアルキレン系化合物」を「アルキレンオキサイドの平均付加重合数が前記活性水素含有アミノ基中の活性水素1つに対して10?300であるポリオキシアルキレン系化合物」とする補正については、当初明細書の段落【0015】の「ポリアルキレンポリアミンの活性水素含有アミノ基に付加させるアルキレンオキサイドの平均付加重合数は、当該アミノ基の活性水素1つに対して1を越えれば特に制限はないが、好ましくは2?300、より好ましくは2?100、特に好ましくは10?50である。」の記載に基づく補正であり、いずれも、当初明細書に記載した事項の範囲内において、補正前の請求項1の発明を特定するのに必要な事項を限定するものといえる。
また、補正前の請求項2に係る補正は、請求項を削除するものである。
したがって、特許請求の範囲の記載に係る前記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満足するものである。

[3]特許法第17条の2第5項(独立特許要件)について
(i)補正後発明
補正後の請求項1に記載された発明(以下、「補正後発明」という。)は、前記[1]において、補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものである。
(ii)引用文献
(ア)審尋において引用された特開昭60-27638号公報(以下、「引例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア-1)「1 アミン化合物に対しその活性水素1ケに対してエチレンオキシド及びプロピレンオキシドを必ず含むアルキレンオキシドを20?300モル付加した分子量6,000?2,000,000のポリエーテルポリオール又はポリエーテルポリオール誘導体を必須成分とするセメント分散剤。」(特許請求の範囲)
(ア-2)「本発明はセメント分散剤、さらに詳しくは、セメント組成物であるセメントペースト、モルタル及びコンクリートに使用する減水剤並びにスランプロス防止剤に関するものである。」(1頁右下欄14?17行)
(ア-3)「アミン化合物としては・・・エチレンイミンを一般に酸性触媒を用いて重合することにより得る事もできる。」(3頁左上欄20行?同頁右上欄11行)
(ア-4)「付加反応は、エチレンオキシド、プロピレンオキシドいずれが先でも良く、又、ブロック状でもランダム状でも良好である」(3頁右下欄2?5行)
(ア-5)「本発明のセメント分散剤には本発明のポリエーテルポリオール又はその誘導体の他に、他のセメント分散剤、例えば・・・ポリカルボン酸及びそれらの塩などが使用され得る。」(4頁左下欄12行?同頁右下欄1行)
(ア-6)「実施例及び比較例におけるコンクリートの配合および使用材は次の第1表の通りである。」(4頁右下欄17?18行)
(ア-7)「W/C」が55%であること、及び「目標スランプ」について「1)」の付記があることを示す第1表(5頁左上欄1?4行)
(ア-8)「1)ベースコンクリート
セメント(C):・・・
細骨材(B):・・・
粗骨材(D):・・・
水(W)」(5頁左上欄5?9行)。

(イ)社団法人日本コンクリート工学協会編「コンクリート便覧(第二版)」技報堂出版株式会社発行(1996年7月10日2版2刷発行)79?88頁(以下、「引例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(イ-1)「各種混和材料の代表的な主成分と機能を表-4.1にまとめて示した。」(79頁右欄4?5行)
(イ-2)高性能AE減水剤について、その主成分として「ポリカルボン酸塩系(ポリエチレンオキシドグラフト共重合体)」が記載され、機能として「著しい単位水量の低減、耐凍害性の改善」が記載された「表-4.1」(79頁下欄)。
(イ-3)「高性能AE減水剤は、・・・従来のAE減水剤より優れた減水性能と良好なスランプ保持性能を有する混和材である。」(88頁左欄12?16行)
(イ-4)「高性能AE減水剤は主成分の化学成分により、ナフタリン系、メラミン系、ポリカルボン酸系、およびアミノスルホン酸系に分類される。」(88頁左欄30?32行)
(イ-5)「AE減水剤は、主としてセメント粒子を分散させる成分(分散剤)と、コンクリートの凝結硬化速度を調節する成分とからなっており、これに連行空気量を調節するための空気連行剤(AE剤)が添加されている。」(83頁右欄16?19行)

(iii)対比・判断
引例1には、摘記事項(ア-1)に「アミン化合物に対しその活性水素・・・に対してエチレンオキシド及びプロピレンオキシドを必ず含むアルキレンオキシドを・・・付加した・・・ポリエーテルポリオール又はポリエーテルポリオール誘導体を必須成分とするセメント分散剤」と記載され、
同(ア-5)に「本発明のセメント分散剤には本発明のポリエーテルポリオール又はその誘導体の他に、他のセメント分散剤、例えば・・・ポリカルボン酸及びそれらの塩などが使用され得る。」と記載され、前記セメント分散剤とともに他のポリカルボン酸などの分散剤をも併用することが記載されているといえ、同(ア-2)に「本発明はセメント分散剤、さらに詳しくは、セメント組成物であるセメントペースト、モルタル及びコンクリートに使用する減水剤並びにスランプロス防止剤に関するものである。」、同(ア-6)に「実施例及び比較例におけるコンクリートの配合および使用材は次の・・・通りである。」、同(ア-7)に「W/C」が55%であること、「1)」が「目標スランプ」のコメントであること、さらに、同(ア-8)に「1)ベースコンクリート セメント(C):・・・ 細骨材(B):・・・ 粗骨材(D):・・・ 水(W)」が記載されているから、前記セメント分散剤が、セメントと水とを含有するセメント組成物に用いられることが記載されているといえる。
したがって、引例1には、「セメントと、水と、ポリカルボン酸及びそれらの塩などの分散剤と、アミン化合物の活性水素に対してエチレンオキシド及びプロピレンオキシドを必ず含むアルキレンオキシドを付加したポリエーテルポリオール又はポリエーテルポリオール誘導体とを含有するセメント組成物」に係る発明が記載されているといえる。
そして、前記「ポリカルボン酸及びその塩などの分散剤」を含有することは、分散剤として本出願前に周知のポリカルボン酸及びその塩などのセメント用の分散剤を含有することを示していると解されるところ、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸系共重合体は、セメント用の分散剤として本出願前に周知のものであり(必要ならば、特公昭59-18338号公報、特開平7-53645号公報および特開平8-208769号公報参照。いずれも、本願明細書の段落【0003】において従来技術として引用されたものであり、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸系共重合体をセメント用の分散剤とすることが記載されている。)、高性能AE減水剤の形態でセメント組成物に含有させることも周知である[必要ならば、引例2(便覧)の摘記事項参照。高性能AE減水剤として「ポリカルボン酸塩系」や「ポリカルボン酸系」が記載され、その「ポリカルボン酸塩系(ポリエチレンオキシドグラフト共重合体)」の記載から「ポリカルボン酸」がポリエチレンオキシドグラフト共重合体を示すことは明らかであり、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸系又はポリカルボン酸塩系共重合体を高性能AE減水剤とすることが記載されている。]から、前記「ポリカルボン酸及びその塩などの分散剤を含有する」は、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸を高性能AE減水剤の形態を含めてセメント組成物に含有させることを示しているということができる。
また、前記「アミン化合物」については、摘記事項(ア-3)に「アミン化合物としては・・・エチレンイミンを一般に酸性触媒を用いて重合することにより得る事もできる。」と記載され、エチレンイミンを重合した化合物、すなわち、ポリエチレンイミンが記載され、前記「アルキレンオキシドを付加」については、摘記事項(ア-1)に「アミン化合物に対しその活性水素1ケに対して・・・アルキレンオキシドを20?300モル付加」と記載されている。
してみると、引例1には、「セメントと、水と、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸などの分散剤と、ポリエチレンイミンの活性水素1ケに対してエチレンオキシド及びプロピレンオキシドを必ず含むアルキレンオキシドを20?300モル付加したポリエーテルポリオール又はポリエーテルポリオール誘導体とを含有するセメント組成物」に係る発明(以下、「引例1発明」という。)が記載されていると認められる。
そこで、補正後発明と引例1発明とを比較すると、後者の「ポリエチレンイミン」及び「ポリエーテルポリオール又はポリエーテルポリオール誘導体」は、前者の「ポリアルキレンイミン」及び「ポリオキシアルキレン系化合物」に包含される化合物であり、後者の「ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸などの分散剤」は、前者の「ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる高性能AE減水剤」と「ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる剤」で共通し、後者の「ポリエチレンイミンの活性水素1ケに対してアルキレンオキシドを20?300モル付加」は、前者の「ポリアルキレンイミンに含まれる活性水素含有アミノ基に対して当該アミノ基の活性水素の当量を越えるアルキレンオキサイドを付加」及び「アルキレンオキサイドの平均付加重合数が前記活性水素含有アミノ基中の活性水素1つに対して10?300である」と重複するから、両者は、
「セメントと、水と、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる剤と、ポリアルキレンイミンの活性水素の当量を越えるアルキレンオキサイドを付加重合してなるポリオキシアルキレン系化合物であって、前記アルキレンオキサイドがエチレノンオキサイドとプロピレンオキサイドとからなり、前記アルキレンオキサイドの平均付加重合数が前記活性水素含有アミノ基中の活性水素1つに対して20?300であるポリオキシアルキレン系化合物とを含有するセメント組成物」に係る発明である点で一致し、
次の点で一応相違する。
(1)「ポリアルキレンイミン」について、補正後発明は、「三次元に架橋されたポリアルキレンイミン」であるのに対して、引例1発明は、「ポリエチレンイミン」である点、
(2)「ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる剤」について、補正後発明は、「ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる高性能AE減水剤」であるのに対して、引例1発明は、「ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる分散剤」である点。
(3)「ポリアルキレンイミンの活性水素」について、補正後発明は、「ポリアルキレンイミンに含まれる活性水素含有アミノ基に対して当該アミノ基の活性水素」又は、「前記活性水素含有アミノ基中の活性水素」であるのに対して、引例1発明は、「ポリエチレンイミンの活性水素」である点。

相違点(1)について
補正後発明における「三次元に架橋されたポリアルキレンイミン」は、本願明細書の段落【0011】に「ポリアルキレンイミンは、・・・アルキレンイミンを常法により重合して得ることができる。ポリエチレンイミンおよびポリプロピレンイミンが好ましい。ポリアルキレンイミンは重合により三次元に架橋され、通常構造中に第三アミノ基のほか、活性水素含有アミノ基である第一アミノ基および第二アミノ基が含まれる」と記載され、段落【0045】、【0047】、【0051】に、実施例におけるポリエチレンイミンとして市販品を用いたことが記載され、「三次元に架橋された」に格別の技術的意義があることや架橋の確認についての記載がないことから、前記「三次元に架橋された」には格別の技術的意義はなく、常法により重合して得られる、三次元に架橋され、構造中に活性水素含有アミノ基を有する市販されているような、通常のポリアルキレンイミンを示しているといえる。
また、引例1発明における「ポリエチレンイミン」も、その製造方法が限定されているわけでもないから通常の方法で製造されたものと解される。
してみると、引例1発明における「ポリエチレンイミン」は、補正後発明の「三次元に架橋されたポリアルキレンイミン」に実質的に包含されるものであるといえる。
したがって、相違点(1)は実質的な相違でない。
相違点(2)について
引例1発明の「ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる分散剤」は、摘記事項(ア-2)に「セメント分散剤、さらに詳しくは、セメント組成物であるセメントペースト、モルタル及びコンクリートに使用する減水剤並びにスランプロス防止剤に関する」と記載されるように「減水剤」の用途を目的とすることは明らかである。
そして、「ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸」を減水剤の目的で用いることは、引例2の(イ-2)の「高性能AE減水剤」の主成分として「ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸」を用いる記載から周知であるといえる。
してみると、引例1発明における「ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる分散剤」は、「ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる高性能AE減水剤」を意味するものであるということができる。
よって、引例1発明は、補正後発明における相違点(2)に係る発明の特定事項を実質的に有しているということができる。
相違点(3)について
引例1発明における「ポリエチレンイミンの活性水素」は、その「ポリエチレンイミン」が、「相違点(1)について」で前記したように、構造中に活性水素含有アミノ基を有すると解されるものであるから、ポリエチレンイミンの構造中に含まれる活性水素含有アミノ基の活性水素を示すと解され、ポリエチレンイミンに含まれる活性水素含有アミノ基の活性水素を示すといえる。
また、補正後発明における「ポリアルキレンイミンに含まれる活性水素含有アミノ基に対して当該アミノ基の活性水素」又は「前記活性水素含有アミノ基中の活性水素」は、「ポリアルキレンイミンに含まれる活性水素含有アミノ基の活性水素」を示すものであることが自明である。
そして、「ポリアルキレンイミン」は「ポリエチレンイミン」を包含するものである。
してみると、補正後発明における「ポリアルキレンイミンに含まれる活性水素含有アミノ基に対して当該アミノ基の活性水素」又は「前記活性水素含有アミノ基中の活性水素」は、引例1発明における「ポリエチレンイミンの活性水素」を意味するものであるといえる。
よって、相違点(3)は実質的な相違点でない。
(iv)独立特許要件についてのむすび
以上のとおりであるから、相違点(1)?(3)は実質的な相違点でなく、補正後発明は、引例1に実質的に記載された発明であり、そうでないとしても、引例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号及び第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
[4]本件補正についての結論
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成19年6月7日付けの手続補正は、前記のとおり却下されたので、この出願の請求項1及び2に係る発明は、平成18年8月3日付けで補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項から特定されるとおりのものであり、請求項1に記載された発明(以下、「本願発明1」という。)は、次の事項により特定されるものである。
「【請求項1】 セメント、水、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる高性能AE減水剤、および三次元に架橋されたポリアルキレンイミンに含まれる活性水素含有アミノ基に対して当該アミノ基の活性水素の当量を越えるアルキレンオキサイドを付加重合してなるポリオキシアルキレン系化合物とを含有するセメント組成物。」

4.引用文献
(ウ)原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開平7-232945号公報(以下、「引例3」という。)には、次の事項が記載されている。
(ウ-1)「ポリカルボン酸系化合物100重量部と、下記の一般式[1]
【化1】



(ただし、式中、Xは活性水素を2?10個持つ多価アルコールまたは有機アミンの残基、AOは炭素数2?18のオキシアルキレン基の1種または2種以上で、2種以上の場合はブロック状でもランダム状でもよく、オキシアルキレン基の50モル%以上は炭素数3または4であり、R^(1 )は・・・、R^(2 )は・・・、R^(3 )は水素原子、炭素数1?22の炭化水素基またはアシル基、n=5?75、m=5?75、Xが多価アルコールの残基である場合・・・、Xが有機アミンの残基である場合a=0?10、b=0?10、かつ2≦a+b≦10である。)で示され、かつ、数平均分子量が1,000?5,000である含窒素ポリオキシアルキレン化合物0.01?5重量部との混合物からなるセメント用添加剤組成物。」(特許請求の範囲【請求項1】)
(ウ-2)「ポリカルボン酸系化合物が下記のa?fの群より選ばれる1種または2種以上の化合物である請求項1記載のセメント用添加剤組成物。
a;ポリオキシアルキレンモノアリルモノアルキルエーテル-無水マレイン酸共重合物、その加水分解物またはその塩。
b;ポリオキシアルキレンモノアリルエーテル-マレイン酸共重合物またはその塩。
c;ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート-(メタ)アクリル酸共重合物またはその塩。
d;・・・。
e;・・・。
f;・・・。」(特許請求の範囲【請求項2】)
(ウ-3)「一般式[1]のXを残基とする有機アミンとしては・・・ポリエチレンイミン、・・・等がある。」(【0005】)、
(ウ-4)「一般式[1]のAOで示される炭素数2?18のオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、・・・などがある」(【0006】)、
(ウ-5)「Xを残基とする・・・有機アミンの活性水素の数は10個以下であるので、a+bの値が10を超えることはできない。」(【0008】、4頁左欄48行?同頁右欄2行)
(ウ-6)「本発明のセメント用添加剤組成物は、本発明の性能を損なわない範囲において、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物塩、・・・等の他のセメント用添加剤、あるいは他の消泡剤、空気連行剤、防錆剤、凝結促進剤、凝結遅延剤等と併用することができる。」(【0009】)
(ウ-7)「次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1?12
第1表に示したポリカルボン酸系化合物と一般式[1]の含窒素ポリオキシアルキレン化合物を、第1表に示した比率で混合し、水溶液としたところ、すべて均一な液体であり、経時的にも全く変化を生じなかった。これらを用いてモルタルによる試験を実施した。配合組成及び試験条件を次に示す。
配合組成
水 180g
セメント 360g
砂 1080g
添加剤 第2表に固形分で示す。
水/セメント比率 50.0%
上記の各成分をモルタルミキサーにとり、3分間練り混ぜたのち取り出し、フロー値(JIS R 5201による)および空気量(JIS A 1116の単位容積重量法による)を測定した。さらに30分後、60分後のフロー値および空気量を測定した。これらの結果を第2表に示した。」(【0010】)
(ウ-8)一般式[1]の含窒素ポリオキシアルキレン化合物として、「[H(OC_(2)H_(4))_(2)(OC_(3)H_(6))_(15)]_(2)NC_(2)H_(4)N[C_(3)H_(6)O)_(15)(C_(2)H_(4)O)_(2)H]_(2) 」を用いることを示す第1表-2(【0012】)
(ウ-9)「比較例5 ポリエチレンイミン(数平均分子量1,800)のエチレンオキシドとプロピレンオキシドの重量比6対4のランダム付加物(数平均分子量12,000)40重量%とナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩60重量%の混合物。得られた結果を第2表に示す。」(【0014】)
(ウ-10)「本発明のセメント用添加剤組成物はポリカルボン酸系化合物と含窒素ポリオキシアルキレン化合物とを含有することにより、均一な水溶液状態を保ち、モルタル、コンクリート等に使用した場合、空気連行性が少なく、かつ減水性、スランプロス防止性に優れている。」(【0016】)。

5.対比・判断
引例3には、
摘記事項(ウ-1)に「ポリカルボン酸系化合物100重量部と、下記の一般式[1]
【化1】



(ただし、式中、Xは活性水素を2?10個持つ多価アルコールまたは有機アミンの残基、AOは炭素数2?18のオキシアルキレン基の1種または2種以上で、2種以上の場合はブロック状でもランダム状でもよく、オキシアルキレン基の50モル%以上は炭素数3または4であり、R^(1 )は・・・、R^(2 )は・・・、R^(3 )は水素原子、炭素数1?22の炭化水素基またはアシル基、n=5?75、m=5?75、Xが多価アルコールの残基である場合・・・、Xが有機アミンの残基である場合a=0?10、b=0?10、かつ2≦a+b≦10である。)で示され、かつ、数平均分子量が1,000?5,000である含窒素ポリオキシアルキレン化合物0.01?5重量部との混合物からなるセメント用添加剤組成物。」と記載され、
摘記事項(ウ-7)に「実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1?12
第1表に示したポリカルボン酸系化合物と一般式[1]の含窒素ポリオキシアルキレン化合物を、第1表に示した比率で混合し、水溶液とし・・・これらを用いてモルタルによる試験を実施した。・・・
配合組成
水 180g
セメント 360g
砂 1080g
添加剤 第2表に固形分で示す。
水/セメント比率 50.0%」
と記載されているから、引例3には、
セメントと、水と、ポリカルボン酸系化合物と、下記の一般式[1]
【化1】



(ただし、式中、Xは活性水素を2?10個持つ多価アルコールまたは有機アミンの残基、AOは炭素数2?18のオキシアルキレン基の1種または2種以上で、2種以上の場合はブロック状でもランダム状でもよく、オキシアルキレン基の50モル%以上は炭素数3または4であり、R^(1 )は・・・、R^(2 )は・・・、R^(3 )は水素原子、炭素数1?22の炭化水素基またはアシル基、n=5?75、m=5?75、Xが多価アルコールの残基である場合・・・、Xが有機アミンの残基である場合a=0?10、b=0?10、かつ2≦a+b≦10である。)で示され、かつ、数平均分子量が1,000?5,000である含窒素ポリオキシアルキレン化合物とを含有するセメント組成物に係る発明が記載されているといえる。
そして、前記「ポリカルボン酸系化合物」は、
「ポリカルボン酸系化合物が下記のa?fの群より選ばれる・・・化合物である請求項1記載のセメント用添加剤組成物。
a;ポリオキシアルキレンモノアリルモノアルキルエーテル-無水マレイン酸共重合物、その加水分解物またはその塩。
b;ポリオキシアルキレンモノアリルエーテル-マレイン酸共重合物またはその塩。
c;ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート-(メタ)アクリル酸共重合物またはその塩。」と記載され、その「ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート-マレイン酸共重合物」が、アルキレンオキサイドを重合して形成されるポリオキシアルキレングリコールの末端OHにアルキルアルコールと(メタ)アクリル酸とを反応させたものとマレイン酸を共重合させたものであり、ポリアルキレングリコール鎖と多数のカルボン酸基を有するポリカルボン酸化合物が得られることが明らかであり、ポリオキシアルキレンモノアリルモノアルキルエーテル-無水マレイン酸共重合物の加水分解物やポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート-(メタ)アクリル酸共重合物においても同様にポリアルキレングリコール鎖と多数のカルボン酸基を有するポリカルボン酸化合物が得られることが明らかであるから、
ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸を含むポリカルボン酸系化合物であるといえる。
また、前記「含窒素ポリオキシアルキレン化合物」は、
摘記事項(ウ-1)に「下記の一般式[1]
【化1】



(ただし、式中、Xは活性水素を2?10個持つ・・・有機アミンの残基、AOは炭素数2?18のオキシアルキレン基の・・・2種以上で、・・・ブロック状でもランダム状でもよく、・・・R^(3 )は水素原子、炭素数1?22の炭化水素基またはアシル基、・・・m=5?75、・・・a=0?10、b=0?10、かつ2≦a+b≦10である。)で示され・・・る」と記載され、その「Xは活性水素を2?10個持つ・・・有機アミンの残基」と「a=0?10、b=0?10、かつ2≦a+b≦10」の対比から、a=0で、活性水素を2?10個持つ有機アミンの残基に2?10個の「(AO)_(m)R^(3)」が結合した化合物を含むことを示しているといえ、
活性水素と「-(AO)_(m)R^(3)」基との関係は、以下の理由で、有機アミンの活性水素1モルに対して「-(AO)_(m)R^(3)」基1モルであるといえる。
理由:
(1)「(AO)_(m)R^(3)」基は、その表記から、一価の基であり、「[(AO)_(m)R^(3)]_(b)」が「b」個の「(AO)_(m)R^(3)」を直線上に結合した基を表記すると解することはできず、有機アミン残基に対して「(AO)_(m)R^(3)」がそれぞれ独立の形で「b」個結合していると解される。
(2)前記「有機アミン」は、摘記事項(ウ-3)の「一般式[1]のXを残基とする有機アミンとしては・・・ポリエチレンイミン、・・・等がある。」の記載から、ポリエチレンイミンを含むと解されるところ、摘記事項(ウ-8)には「ポリエチレンイミン(数平均分子量1,800)のエチレンオキシドとプロピレンオキシドの重量比6対4のランダム付加物(数平均分子量12,000)」と記載され、前記「有機アミン」への「-(AO)_(m)R^(3)」基の付加がアルキレンオキシドの付加によりなされることが例示されており、アルキレンオキシドが活性水素を介して有機アミンに付加するものである。
(3)摘記事項(ウ-5)に「Xを残基とする・・・有機アミンの活性水素の数は10個以下であるので、a+bの値が10を超えることはできない。」と記載され、活性水素の数がa+bの値と連動するものであることが示されている。
さらに、「m=5?75」は、摘記事項(ウ-8)に「エチレンオキシドとプロピレンオキシドの重量比6対4のランダム付加物」と記載されアルキレンオキシドの付加が示されていることに鑑みれば、「-(AO)_(m)R^(3)」基1モルについて5?75モルのアルキレンオキシドの付加を示しているといえ、
摘記事項(ウ-3)の「一般式[1]のXを残基とする有機アミンとしては・・・ポリエチレンイミン・・・がある。」の記載と合わせ考えると、
前記「含窒素ポリオキシアルキレン化合物」は、一般式[1]のXが活性水素を2?10個持つポリエチレンイミンの残基であり、ポリエチレンイミンの活性水素1モルに対して5?75モルのオキシアルキレン基を付加した含窒素ポリオキシアルキレン化合物を含むものであることを示しているといえる。
したがって、引例3には、セメントと、水と、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸を含むポリカルボン酸系化合物と、ポリエチレンイミンの活性水素1モルに対して5?75モルのオキシアルキレン基を付加した含窒素ポリオキシアルキレン化合物とを含有するセメント組成物に係る発明(以下、「引例3発明」という。)が記載されているといえる。
そこで、本願発明1と引例3発明とを比較すると、
後者の「ポリエチレンイミン」は、その「エチレンイミン」が「アルキレンイミン」の一種であるから、前者の「ポリアルキレンイミン」に包含されるものであり、後者の「含窒素ポリオキシアルキレン化合物」は、ポリエチレンイミンの活性水素1モルに対して5?75モルのオキシアルキレン基を付加した化合物であり、「ポリオキシアルキレン系化合物」であるということができるから、前者の「ポリオキシアルキレン系化合物」に包含されるということができ、
両者は、
「セメント、水、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸、およびポリオキシアルキレン系化合物とを含有するセメント組成物」に係る発明である点で一致し、
次の点で相違する。
(あ)本願発明1は、「ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸」について、「ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる高性能AE減水剤」であるのに対し、引例3発明は「ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸」である点、
(い)本願発明1は、「ポリオキシアルキレン系化合物」について、「三次元に架橋されたポリアルキレンイミンに含まれる活性水素含有アミノ基に対して当該アミノ基の活性水素の当量を越えるアルキレンオキサイドを付加重合してなるポリオキシアルキレン系化合物」であるのに対し、引例3発明は、「ポリエチレンイミンの活性水素1モルに対して5?75モルのオキシアルキレン基を付加したポリオキシアルキレン系化合物」である点。

前記相違点について、さらに検討する。

相違点(あ)について
「ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸」を高性能AE減水剤の形態でセメント組成物に含有させることは本出願前に周知である[必要ならば、引例2(便覧)の摘記事項参照。当該引例2には、高性能AE減水剤として「ポリカルボン酸塩系」や「ポリカルボン酸系」が記載され、その「ポリカルボン酸塩系(ポリエチレンオキシドグラフト共重合体)」の記載から「ポリカルボン酸」がポリエチレンオキシドグラフト共重合体を示すことは明らかであり、ポリカルボン酸系もポリカルボン酸を含むことが自明であるから、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸を高性能AE減水剤とすることが記載されているといえる。]。
そして、本願発明1における「ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる高性能AE減水剤」は、「高性能AE減水剤」という表現を用いるものの、その内容は、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸をセメント組成物に添加することを示すにすぎず、引例3発明に記載された「ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸」と同一の内容を、単に、前記した周知技術用語を用いて表現したにすぎないものといえる。
仮に、「ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる高性能AE減水剤」が、前記ポリカルボン酸以外の成分を含有し、引例3発明に記載された「ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸」と同一の内容であるといえないとしても、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸という成分をセメント組成物に含有させるという点に着眼し、本出願前に周知の「ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸を主成分とする高性能AE減水剤」を引例3発明における「ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸」に代えることは、当該高性能AE減水剤がセメント組成物に汎用されていることをも合わせ考えると、当業者が容易に想起できることであるといえる。
よって、相違点(あ)は実質的な相違点でないということができ、そうでないとしても、相違点(あ)は、前記周知事項を参考にして、引例3から当業者であれば容易に想到し得るというべきである。

相違点(い)について
引例3発明における「ポリエチレンイミン」は、その製造方法について特に限定がないから、市販されているような通常のポリエチレンイミンを示していると解されるところ、市販されている通常のポリエチレンイミンは、本願明細書中の段落【0011】の「ポリアルキレンイミンは、・・・アルキレンイミンを常法により重合して得ることができる。ポリエチレンイミン・・・が好ましい。ポリアルキレンイミンは重合により三次元に架橋され、通常構造中に第三アミノ基のほか、活性水素含有アミノ基である第一アミノ基および第二アミノ基が含まれる」の記載、段落【0045】、【0047】、【0051】のポリエチレンイミンの実施例として市販品が記載されていることからみて、本願発明1における三次元に架橋されたポリアルキレンイミンと同様のものであり、三次元に架橋され、活性水素含有アミノ基を有するものであると解される。
また、引例3発明における「ポリエチレンイミンの活性水素1モルに対して5?75モルのオキシアルキレン基を付加した」は、その「活性水素1モルに対して5?75モルのオキシアルキレン基を付加」が「活性水素の当量を越えるオキシアルキレン基を付加重合させることを示すものといえるから、ポリエチレンイミンの活性水素の当量を越えるオキシアルキレン基を付加重合させることを示すものといえ、「ポリエチレンイミンの活性水素」は、ポリエチレンイミンが、前記したように、構造中に活性水素含有アミノ基を有するものであるから、ポリエチレンイミンに含まれる活性水素含有アミノ基の活性水素を示すものといえる。
したがって、引例3発明における「ポリエチレンイミンの活性水素1モルに対して5?75モルのオキシアルキレン基を付加したポリオキシアルキレン系化合物」は、「三次元に架橋されたポリエチレンイミンに含まれる活性水素含有アミノ基の活性水素の当量を越えるアルキレンオキサイドを付加重合してなるポリオキシアルキレン系化合物」を示しているといえる。
他方、本願発明1における「ポリアルキレンイミンに含まれる活性水素含有アミノ基に対して当該アミノ基の活性水素」は、「ポリアルキレンイミンに含まれる活性水素含有アミノ基の活性水素」を示すものであることが自明であり、「ポリアルキレンイミン」が「ポリエチレンイミン」を包含するものであることも明らかである。
してみれば、引例3発明における「ポリエチレンイミンの活性水素1モルに対して5?75モルのオキシアルキレン基を付加したポリオキシアルキレン系化合物」は、本願発明1における「三次元に架橋されたポリアルキレンイミンに含まれる活性水素含有アミノ基に対して当該アミノ基の活性水素の当量を越えるアルキレンオキサイドを付加重合してなるポリオキシアルキレン系化合物」と重複する内容を示すものであるといえる。
よって、相違点(い)は実質的な相違点でない。
したがって、本願発明1は、引例3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。

なお、ポリエチレンイミンを「一般式[1]のXを残基とする有機アミン」として用いることは、次の理由1、2で、引例3に実質的に記載されているということができる。
理由1:引例3には、摘記事項(ウ-9)に「比較例5 ポリエチレンイミン(数平均分子量1,800)のエチレンオキシドとプロピレンオキシドの重量比6対4のランダム付加物(数平均分子量12,000)40重量%とナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩60重量%の混合物。」と記載され、ポリエチレンイミンとして「ポリエチレンイミン(数平均分子量1,800)」が具体例として記載されているといえ、摘記事項(ウ-6)の「本発明のセメント用添加剤組成物は、本発明の性能を損なわない範囲において、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物塩、・・・と併用することができる。」の記載を参照すると、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩を用いることが「比較例」とされた理由とすることはできず、ポリエチレンイミン(数平均分子量1,800)とエチレンオキシドとプロピレンオキシドの付加物(数平均分子量12,000)の合計の数平均分子量が13,800になり、摘記事項(ウ-1)に記載の「数平均分子量が1,000?5,000」を逸脱していること、特に、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの付加物の数平均分子量が12,000であること、及び、ポリカルボン酸系化合物からなる高性能AE減水剤を使用しないこととが、「比較例」とされた理由であると解され、実施例におけるポリエチレンイミンとして「ポリエチレンイミン(数平均分子量1,800)」を用いることは具体的に記載されているということができる。
仮に、引例3の記載から、ポリエチレンイミンを用いることが明確でないとしても、引例3に記載の「有機アミン」としてポリエチレンイミンを用いることは十分に示唆されているということができ、前記引例3発明の構成は当業者が引例3の記載に基づいて容易に想到することができたものであるといえ、当該引例3発明の構成が本願発明1の構成と実質的に同一であることは前記したとおりであるから、本願発明1の構成は、引例3に記載された発明に基づいて当業者が容易に想起できたものであるということができ、本願発明1の「セメントとの親和性に優れ、優れたセメント減水性を有する」という効果も、以下の理由で、格別のものとすることができないものであるから、本願発明1は、引例3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるといえる。
理由2:本願発明1の効果は、具体的には、本願明細書に記載された表4に示されとされるところ、表4によれば、本願発明1のフロー値の平均は、実施例3及び実施例4において、参考例1よりも低いとされ、特に実施例5の値は、比較例3、比較例4の値よりも低いとされ、本願発明1が、発明全体として、セメントとの親和性及び減水性の点で、格別の効果を奏するとすることはできないうえに、引例3の摘記事項(ウ-10)に「本発明のセメント用添加剤組成物は・・・均一な水溶液状態を保ち、モルタル、コンクリート等に使用した場合、・・・減水性、スランプロス防止性に優れている。」と記載され、本願発明1が減水性に優れるであろうことは、示唆されているといえるから、本願発明1が格別の効果を有するとすることはできない。

以上のとおりであるから、本願発明1は、ポリエチレンイミンが引例3に実質的に記載されているとの前提において、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である引例3に実質的に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し特許を受けることができないものであり、そうでないとしても、前記引例3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

6.請求人の主張について
(6-1)引例3におけるポリエチレンイミンの記載について
請求人は、(1)引例3には、「含窒素ポリオキシアルキレン化合物のXの残基として例示されているポリエチレンイミンの記載は具体的な内容を伴っておらず、単なる一般的な例示にすぎない」、(2)本願発明1は、「セメントとの親和性に優れ、優れたセメント減水性を有する」との効果を有し、当業者であっても「容易には想到しえない優れた効果が得られる」と主張する。
しかし、(1)の主張については、前記において「なお」として記載した理由により、採用できない。
(6-2)さらなる補正案の提出について
請求人は、回答書において、前記補正後発明における「ポリエチレンイミンに対してアルキレンオキサイドを付加させる付加重合において、エチレンオキサイドを先に付加重合させ、得られるエチレンオキサイドの付加重合鎖に対してプロピレンオキサイドを更に導入させる」補正したいと主張する。
しかし、当該主張は、拒絶査定を覆すことができず、補正することができない出願について、再度、補正の機会を要求するものであり、公平性の観点から許されるものでない。
また、補正案に記載の発明は、以下の理由で、特許を受けることができるものであるといえない。
理由:引例1には、摘記事項(ア-4)に「付加反応は、エチレンオキシド、プロピレンオキシドいずれが先でも良く、又、ブロック状でもランダム状でも良好である」と記載され、ポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドのどちらを先に付加しても良いとされ、ポリプロピレンオキシドの付加を後にすることが記載されているということができ、仮に、(6-1)におけると同様に、それが実質的な記載でないとの主張がなされるにしても、ポリプロピレンオキシドの付加を後にすることは示唆されているということができ、補正案に記載の発明の構成は、その示唆に基づいて当業者が容易に想起できる構成であるということができ、その効果も、実施例に係るフロー値192が、添加剤の使用量を比較例や参考例に比して多量に用いた場合の値であり、参考例におけるフロー値189に近似した値であることと合わせ考えて、フロー値の点で格別であるとすることはできない。
したがって、補正案を参考にしても、その発明が特許すべきであるとすることはできない。
よって、さらなる補正案の提出についての主張は採用できない。

7.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である引例3に記載された発明、又は、当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができる発明であるということができ、特許法第29条の規定により特許を受けることができないものである。
そして、本願は、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-25 
結審通知日 2010-06-29 
審決日 2010-07-12 
出願番号 特願平11-18987
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C04B)
P 1 8・ 575- Z (C04B)
P 1 8・ 113- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永田 史泰  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 吉川 潤
斉藤 信人
発明の名称 セメント組成物  
代理人 都祭 正則  
代理人 八田 幹雄  
代理人 長谷川 俊弘  
代理人 奈良 泰男  
代理人 藤田 健  

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