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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1222472
審判番号 不服2007-31221  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-19 
確定日 2010-08-26 
事件の表示 特願2004- 75165「自然言語生成システムの文章実現における順序付けのための構成素構造の言語的な情報に基づく統計モデル」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月21日出願公開、特開2004-295884〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年3月16日の出願(パリ条約による優先権主張2003年3月25日、アメリカ合衆国)であって、平成19年8月15日付けで拒絶査定がなされ、同年11月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年12月19日に手続補正書が提出されたものである。


2.本願特許請求の範囲の請求項1の記載
本願特許請求の範囲の記載は、平成19年12月19日に提出された手続補正書の【手続補正1】の欄に記載されたとおりであり、その請求項1の記載は以下のとおりである。
「コンピュータシステムに構成素構造の統計的モデルおよび順序付け構成要素を実装して構成された文章実現化システムであって、
前記構成素構造の統計的モデルは、素性により条件付けされていて、意味の論理形式構造を有し、統計的評価技術を使用してそのパラメータが推定されていて、当該パラメータは、順序付けされた構文木、順序付けされていない構文木、構文構成素、統語範疇および素性の少なくとも一つを含み、前記構文構成素は、非終端にある親の構文構成素および娘の構文構成素を含み、前記統計的評価技術は、補完言語モデリング技術および確率的決定木の少なくとも一つを含み、
前記順序付け構成要素は、受け取った順序付けられていない構文木について可能性のある順序付けられた代替構文木の採点付けされた組を生成し、前記構成素構造の統計的モデルに従って前記順序付けられた代替構文木のうちから最も高い確率を有している1つであって、それにより文章を生成するときに使用する完全に順序付けされた構文木として提供される1つを識別し、
前記文章実現化システムはさらに、前記コンピュータシステムに文章実現の出力を提供する際に前記完全に順序付けされた構文木を使用するように構成されている
ことを特徴とする文章実現化システム。」


3.原査定の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、「この出願は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」というものであり、そのうちの請求項1に関連する、より具体的な指摘事項は、以下の趣旨のものである。
ア.「統計的生成モデル」に関する記載について、「形式構造」、「統計的評価技術」、「パラメータ」、「素性」、「構成素構造」が何を指すのか具体的でないこともあり、該「統計的生成モデル」に関する記載が如何なるモデルを特定しているのか、不明である。
イ.「木順序検索手段」に関する記載について、「順序付けられていない構文木」及び「可能性のある順序付けられた代替構文木」とは何なのか、如何なる技術的思想で可能な順序付けられた代替構文木の組を「生成」するのか、如何なる技術的思想で確率を計算し識別を行うのか、如何なる技術的思想で「完全に順序付けされた構文木」を識別するのか、といった事項が不明である。


4.当審の判断
原査定を受け、請求項1の記載は、上記「2.」に転記したとおりに補正された。そして、それにより、上記「3.」に要約した原査定の理由でいう「統計的生成モデル」、「木順序検索手段」は、それぞれ、「構成素構造の統計的モデル」、「順序付け構成要素」なる記載に変更され、それらを修飾ないし説明する記載にも変更が施された。
しかしながら、当審は、上記補正によっても、上記「3.」に要約した原査定の理由は解消していないと判断する。
すなわち、当審は、上記変更後の「構成素構造の統計的モデル」に関する記載が如何なるモデルを特定しているのか依然として不明であり、上記変更後の「順序付け構成要素」に関する記載について、「順序付けられていない構文木」及び「可能性のある順序付けられた代替構文木」とは何なのか、如何なる技術的思想で可能な順序付けられた代替構文木の組を「生成」するのか、如何なる技術的思想で確率を計算し識別を行うのか、如何なる技術的思想で「完全に順序付けされた構文木」を識別するのか、といった事項が依然として不明であり、それらに起因し、請求項1に係る発明は依然として不明確であり、また、発明の詳細な説明の記載は、該請求項1に係る発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないと判断する。
理由は以下のとおりである。
(1)「構成素構造の統計的モデル」に関する記載が如何なるモデルを特定しているのか不明であることについて

上記請求項1には、「構成素構造の統計的モデル」に関し、以下の記載がある。
ア.「前記構成素構造の統計的モデルは、素性により条件付けされていて、意味の論理形式構造を有し、統計的評価技術を使用してそのパラメータが推定されていて、当該パラメータは、順序付けされた構文木、順序付けされていない構文木、構文構成素、統語範疇および素性の少なくとも一つを含み、前記構文構成素は、非終端にある親の構文構成素および娘の構文構成素を含み、前記統計的評価技術は、補完言語モデリング技術および確率的決定木の少なくとも一つを含み、」
イ.「前記順序付け構成要素は、・・・前記構成素構造の統計的モデルに従って前記順序付けられた代替構文木のうちから最も高い確率を有している1つであって、それにより文章を生成するときに使用する完全に順序付けされた構文木として提供される1つを識別し、」

上記ア.、イ.の記載によれば、本願請求項1の「構成素構造の統計的モデル」に関する記載は、以下の事項を規定しているということができる。
(ア)「素性」により条件付けされているものであること。
(イ)「意味の論理形式構造」を有するものであること。
(ウ)「統計的評価技術」を使用してその「パラメータ」が推定されており、上記「パラメータ」は、「順序付けされた構文木、順序付けされていない構文木、構文構成素、統語範疇および素性の少なくとも一つ」を含むものであり、上記「構文構成素」は、「非終端にある親の構文構成素」および「娘の構文構成素」を含むものであり、上記「統計的評価技術」は、「補完言語モデリング技術」および「確率的決定木」の少なくとも一つを含むものであること。
(エ)「順序付け構成要素」が「順序付けられた代替構文木のうちから最も高い確率を有している1つであって、それにより文章を生成するときに使用する完全に順序付けされた構文木として提供される1つを識別」する際に従うものであること。

しかしながら、上記(ア)でいう「素性」、上記(イ)でいう「意味の論理形式構造」、上記(ウ)でいう「順序付けされた構文木」、「順序付けされていない構文木」、「構文構成素」、「統語範疇」、「素性」は、いずれも、請求項1の記載からはもとより、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、その意味するところが不明確であるから、上記(ア)、(イ)、(ウ)がそれぞれどのような事項を規定しているのか不明確である。また、上記(エ)でいう「識別」をする際に上記「構成素構造の統計的モデル」が上記「順序付け構成要素」によってどのように使用されるのかも不明である。
よって、「構成素構造の統計的モデル」に関する記載について、それが如何なるモデルを特定しているのか不明である。

(2)「順序付け構成要素」に関する記載について、「順序付けられていない構文木」及び「可能性のある順序付けられた代替構文木」とは何なのか、如何なる技術的思想で「可能な順序付けられた代替構文木の組」を生成するのか、如何なる技術的思想で確率を計算し識別を行うのか、如何なる技術的思想で「完全に順序付けされた構文木」を識別するのか、といった事項が不明であることについて

上記請求項1には、「順序付け構成要素」に関する記載として、以下の記載がある。
「前記順序付け構成要素は、受け取った順序付けられていない構文木について可能性のある順序付けられた代替構文木の採点付けされた組を生成し、前記構成素構造の統計的モデルに従って前記順序付けられた代替構文木のうちから最も高い確率を有している1つであって、それにより文章を生成するときに使用する完全に順序付けされた構文木として提供される1つを識別し、」

上記記載によれば、本願請求項1の「順序付け構成要素」に関する記載は、以下の事項を規定しているということができる。
(オ)「順序付け構成要素」は、受け取った「順序付けられていない構文木」について「可能性のある順序付けられた代替構文木の採点付けされた組」を生成するものであること。
(カ)「順序付け構成要素」は、「構成素構造の統計的モデル」に従って前記「順序付けられた代替構文木」のうちから最も高い確率を有している1つであって、それにより文章を生成するときに使用する「完全に順序付けされた構文木」として提供される1つを識別するものであること。

しかしながら、上記(オ)でいう「順序付けられていない構文木」、「可能性のある順序付けられた代替構文木」はそれぞれどのようなものなのか、上記(オ)でいう「生成」はいかにして行われるのか、上記(カ)でいう「識別」はいかにして行われるのか、といった事項は、請求項1の記載からはもとより、発明の詳細な説明の記載を参酌しても不明確であるから、上記(オ)、(カ)がそれぞれどのような事項を規定しているのか不明確である。
よって、「順序付け構成要素」に関する記載について、「順序付けられていない構文木」及び「可能性のある順序付けられた代替構文木」とは何なのか、如何なる技術的思想で「可能な順序付けられた代替構文木の組」を生成するのか、如何なる技術的思想で確率を計算し識別を行うのか、如何なる技術的思想で「完全に順序付けされた構文木」を識別するのか、といった事項が不明である。

(3)審判請求人の主張について
上記事項に関し、審判請求人は、平成19年12月19日付けの手続補正書(方式)において下記a.?h.のような主張をし、それらを根拠に、「本願特許請求の範囲及び発明の詳細な説明に記載された用語は、通常用いられる用語または明細書中の対応する記載から当業者がその技術的意味を容易に把握できる用語であり、各請求項に記載された発明を明確に把握することができる。」旨主張しているが、下記(a)?(h)の理由で採用できない。

a.「統計的モデル」とは、例えば形態素解析の過程に用いられるモデルの意味であり、「構成素構造」とは、構成素の配列についての構造の意味である。したがって、「構成素構造の統計的モデル」とは、構成素の配列を解析等する過程に用いられるモデルである。
また、通常、統計的モデルは評価パラメータを有し、本願においてもその意味で用いている。すなわち、「パラメータ」とは、本願明細書段落0020に記載されているように、統計的モデルのパラメータであり、統計的評価技術を使用して推定された順序付けされた構文木、順序付けされていない構文木、構文構成素、構文区分および素性である。
b.「素性」とは、例えば、語、句、統語などの言語的、文脈的性質である。
c.「意味の論理形式構造」とは、本願明細書段落0041,0044,0123,0124,0143の図4に関する説明、図4に記載されているように、意味依存グラフ、すなわち意味に依存したグラフに相当するものである。
d.「順序付けられた代替構文木」とは、「順序付けられていない構文木」について生成される可能性のある代替の構文木であり、このうちの一つが文章を生成するときに使用する完全に順序付けされた構文木として提供されるものである。本願図6に「順序付けられた代替構文木」が例示されている。
e.「順序付けられていない構文木」とは、本願明細書段落0041?0044に記載されているように、例えば、入力された抽象的な言語表現をデグラフ(degraph)処理し、語彙情報、統語情報等を追加し、一部の統語の支配関係を逆転する等した構文木である。本願図5に「順序付けられていない構文木」が例示されている。
f.「構文構成素」とは、本願明細書段落0051、0055に記載されているように、順序付けされる構文中の構成素である。
g.「統語範疇」とは、語や形態素が属する範疇であり、本願明細書段落0063、0139においても、通常用いられる意味で用いている。
h.「順序付け構成要素」は、本願明細書中の木順序付け構成要素あるいは構成素内順序付け構成要素210(図2)に相当し、段落0019,0045,0046に記載されているように順序付けられていない構文木(構造)を入力として受け取り、統計的モデルを使用して、完全に順序付けされた構文木を出力するコンポーネントである。

(a)上記a.の主張について
上記a.の主張は、「構成素構造の統計的モデル」が構成素の配列を解析等する過程に用いられるモデルであることと、その評価パラメータが、統計的評価技術を使用して推定された順序付けされた構文木、順序付けされていない構文木、構文構成素、構文区分および素性であることを述べるに過ぎず、請求項1における「構成素構造の統計的モデル」に関する記載が、如何なるモデルを特定しているのかを具体的に説明するものではない。
(b)上記b.の主張について
上記b.の主張は、「素性」を別の表現で言い換えたものではあるが、言い換えた後の表現は漠然としており、「素性」の語に包含される具体的事物の範囲を何ら明らかにするものではなく、「『構成素構造の統計的モデル』が『素性』により条件付けされている」ことの具体的意味内容を説明するものでもない。
(c)上記c.の主張について
上記c.の主張は、「意味の論理形式構造」なる語に対応する事項の発明の詳細な説明や図面における記載箇所を指摘するものではあるが、そこで指摘される段落0041,0044,0123,0124,0143の図4に関する説明を見ても、それらの箇所には、「意味の論理形式構造」自体や「『構成素構造の統計的モデル』が『意味の論理形式構造』を有する」ことの具体的意味内容を説明した記載は見当たらないし、図4は、その中の各記載事項が何を表しているのかということ自体不明である。
(d)上記d.の主張について
上記d.の主張は、「順序付けられた代替構文木」の外面的性質と、その例示が図6にあることの指摘にとどまり、「順序付けられた構文木」自体や「『構成素構造の統計的モデル』の『パラメータ』が『順序付けられた構文木』を含む」ことの具体的意味内容について説明するものではないし、上記「(2)」の「(オ)」でいう「生成」がいかにして行われるのか、同「(カ)」でいう「識別」がいかにして行われるのか、といった事項を説明するものでもない。また、図6は、その中の各記載事項が何を表しているのかということ自体不明である。
(e)上記e.の主張について
上記e.の主張とそこで引用されている明細書の段落0041?0044の記載は、「順序付けられていない構文木」の外面的性質と、その例示が図5にあることの指摘にとどまり、「順序付けられていない構文木」自体や「『構成素構造の統計的モデル』の『パラメータ』が『順序付けられていない構文木』を含む」ことの具体的意味内容について説明するものではないし、上記「(2)」の「(オ)」でいう「生成」がいかにして行われるのか、同「(カ)」でいう「識別」がいかにして行われるのか、といった事項を説明するものでもない。また、図5は、その中の各記載事項が何を表しているのかということ自体不明である。
(f)上記f.の主張について
上記f.の主張とそこで引用されている明細書の段落0051、0055の記載は、「構文構成素」の外面的性質の指摘にとどまり、「構文構成素」自体や「『構成素構造の統計的モデル』の『パラメータ』が『構文構成素』を含む」ことの具体的意味内容について説明するものではない。
(g)上記g.の主張について
上記g.の主張とそこで引用されている明細書の段落0063、0139の記載は、「統語範疇」の外面的性質の指摘にとどまり、「統語範疇」自体や「『構成素構造の統計的モデル』の『パラメータ』が『統語範疇』を含む」ことの具体的意味内容について説明するものではない。
(h)上記h.の主張について
上記h.の主張とそこで引用されている明細書の段落0019,0045,0046及び図2の記載は、「順序付け構成要素」についての外面的性質の指摘にとどまり、上記「(2)」の「(オ)」でいう「順序付けられていない構文木」、「可能性のある順序付けられた代替構文木」がそれぞれどのようなものなのか、同「(オ)」でいう「生成」がいかにして行われるのか、同「(カ)」でいう「識別」がいかにして行われるのか、といった事項を説明するものではない。


5.むすび
したがって、原査定の、その他の拒絶の理由を検討するまでもなく、本願は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-11 
結審通知日 2010-03-12 
審決日 2010-03-24 
出願番号 特願2004-75165(P2004-75165)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (G06F)
P 1 8・ 537- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 小曳 満昭
特許庁審判官 飯田 清司
池田 聡史
発明の名称 自然言語生成システムの文章実現における順序付けのための構成素構造の言語的な情報に基づく統計モデル  
復代理人 柿沼 健一  
代理人 谷 義一  
代理人 阿部 和夫  

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